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If -another world-

There are not the people who do not think about a "if".



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2007-09-14 If Ada lives for a long time for ten years more...(1)


2007-09-14 If Ada lives for a long time for ten years more...(1)

「久しぶりに勝ったから酒を飲んで何が悪いのよ? だいたいね、あれを簡単に捨てられちゃうあなたに、旦那でもないクセに何が言えるの」
またやってしまったと思った時にはこの軽々しい口にブレーキをかける事はできなくなっていた。
「私がいなかったらちゃんとしたコーディングだってできないくせに。あぁそっか。私に口を出されるのがいやだからあれを作るのやめちゃったんだよね」

その時の彼の顔を、私は死ぬまで覚えている事になる。
私―エイダ―が子宮ガンで死ぬ、1862年まで。


彼 ―バベッジ― に会ったのは結婚するほんの少し前のことだ。
友人に招待された会の席で紹介された彼は、そこにいるどんな学者や先生や記者達よりも……正直言って変人だと思った。王家から認定される教授職も本当は断りたかったと言う人間なんか、私の知る限りではいなかったし。
『階差機関』という初めて聞く言葉(当たり前だ。彼は10年以上も前にそれを形にすることなく諦めたんだから)について何時間も熱心に説明してきた。数学の知識は自信があったけど、そういう機械については無知の私にはほとんど理解できなかったが、自動的に多次元多項式の数表を作れるという話に私は夢中になった。
そして今は『解析機関』という新しい物を考えているという話にも。

「もしその計算機を作れる日が来たら、君にも協力して欲しい」

その言葉と彼が、それからの私の全てだった。
何か理由をつけては彼の所に通うようになった私に周りは皆「報われない恋をしているわね」とからかったが、私自身はそんな気はひとかけらもなかった。
……正確にはその時には、をつけなければいけないけれど。
彼の奥さんやたくさんの子ども達はいつも幸せそうだったし(後で聞いたら一人は死んでしまったそうだけど誰もそんな事を感じさせなかった)、私も彼と出会って2年後には別の男性と結婚した。
もちろん、彼の事を吹っ切る為というのが無かったかと問われれば嘘になる。
けど、そんな気持ちは永遠に彼に伝える必要なんて無い。それで私は満足だ。

そう思っていた矢先、彼は突然『解析機関』の開発は辞めると言い出した。
私の全てがそれであったように、彼の全てもそれだと思っていたのに。
その理由が階差機関を作っていたときの借金に加え、今回も資金を提供してくれた人達が急にいなくなったからだと私が知るのは、それから7年もかかる事になる。
本来なら私が死ぬはずだった、1852年に彼がそう打ち明けてくれたのだ。

その時の私は、誰が見ても惨めな女だっただろう。

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