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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-09-26 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第5回 空飛ぶタブタ その2
2005-09-25 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第5回 空飛ぶタブタ その3
2005-09-24 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第5回 空飛ぶタブタ その4
2005-09-23 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第5回 空飛ぶタブタ その5
2005-09-22 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第5回 空飛ぶタブタ その6
2005-09-03 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第4回 キャプテン・レンジャーの遠い夕日 その1
2005-09-02 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第4回 キャプテン・レンジャーの遠い夕日 その2
2005-09-01 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第4回 キャプテン・レンジャーの遠い夕日 その3
2005-08-31 ポロの日記 2005年9月2日(電曜日)ポロ 賢者に会う その1
2005-08-30 ポロの日記 2005年9月2日(電曜日)ポロ 賢者に会う その2


2005-09-26 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第5回 空飛ぶタブタ その2

空飛ぶタブタ その2


「三河屋デリバリーサービスに頼めばなんとかなるだろうか」
「調べてみよう」

 二人はアンシブルネット端末で三河屋の商品検索を試みた。するとz-80がすぐに見つかった。タブタの給料1ヶ月分で買える値段。タブタはすぐに注文を出した。届け先となるデリバリーシップの着陸地点は、目立たないようにタブタの母親のお墓の裏山を指定した。

 注文品の到着当日。タブタとオビは、雪の積もった、墓地のさびれた裏山に登ってデリバリーシップの到着を待っていた。

「どんな宇宙船が来るのかなあ」
「軽トラの宇宙版ていうところだよ、きっと」

 午前11時、上空に黒い点が現れた。まもなく、それは轟音と爆風をともなってゆっくりと裏山に降下してきた。その熱風は積もった雪を溶かし、裏山に一瞬の夏をもたらした。

どどどどどどどどどどどど〜〜〜〜!

 全長70メートルの三河屋デリバリーシップは、猫の星では重巡洋艦に匹敵する巨艦だった。それが、墓地の裏山にいともたやすく8脚のランディングギアを接地させると、それぞれのギアは伸縮して船体を完全に水平に保ったまま静止させた。タブタとオビは、その制御技術に目を丸くした。

「ちわーす、三河屋でーす。あ、タブタさんでやすね?」
「は、はい、そうです」
「ご注文のゼッパチ、お届けにあがりやした。ここにサインをお願いしやす」

 さらさらっ!

「はい」
「ありがとうございやす」
「ところで、すごい宇宙船ですね」
「ああ、こいつですか。ノストロモっていうんですよ。あっしの相棒でさあ」
「どういうエンジンを積んでるんですか?」
「あっしも詳しいことは分かんねえんですがね、ペガサスエンジンてえんでさあ。ちょっとうるさいんでお客様からは評判悪いんですが、強力なんでたすかりやす」
「ぼくも強力なエンジンが欲しいなあ」
「あれ、お客さんも宇宙船乗りでいらっしゃるんで?」
「うん、思いきり旧式のやつだけどね」
「それなら、いいものがありますよ。ちょっくら待っておくんなさいまし」

 男はノストロモ号のコクピットに戻ると、一冊の紙の本を持ってきました。

「これでやす」

 その表紙には「これでバッチリ! 法規スレスレ宇宙船改造実例集」とあった。

「あっしには宝の持ち腐れなんで、よろしかったら差しあげやしょう」
「あ、ありがとうございます。ところで、お名前は?」
「あ、是輔(これすけ)っていいやす」
「これからどちらへ?」
「えっと、クリューガー60って星はご存知で?」
「ああ、知ってます。別の恒星系ですね」
「その第2惑星のクランベリーヒルっていう新興分譲地に干し草をいっぱい届けるんでさ。なんでも牛のお客さんが来てお産なさるとかで」
「変わった注文ですね」
「ははは、そうなんですよ」
「じゃあ、気をつけていってらっしゃってください」
「ありがとうございやす」

 ノストロモ号からタブタたちが十分に離れたことを確認すると、咆哮するペガサスエンジンは再びノストロモ号を宇宙へと運んでいった。


つづく

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2005-09-25 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第5回 空飛ぶタブタ その3

空飛ぶタブタ その3


 それからというもの、タブタはラジェンドラの改造に没頭した。とくにロビン・エンジンは、燃費をよくするたくさんの補機類を取り去るだけで出力が大幅に向上した。ところが、出力が向上したために、むしろ燃費までが向上したのだった。これは、燃費改善装置の製造会社が統計のマジックと、特殊な飛行モードで燃費がよくなったように見せかけたからくりに、ドーラ防衛軍の担当者がまんまと騙されただけに違いなかった。
 ロビンエンジンは通称“タコ足”と“直管”で“抜け”がぐんとよくなったのだった。

 直後のパトロール任務で、タブタは徹底的にラジェンドラをテストした。機体が軽いために、ほんの20パーセントの出力向上でも加速はケタ違いによくなった。最終的には60パーセントを超える出力向上を果たしたが、その加速度は、すでにタブタの体力の限界に近かった。
 ラジェンドラはカイパーベルトの小惑星帯を、浮遊する氷のかたまりを縫うようにして飛びまわった。しかし、レーダーやセンサー類の性能不足で、あやうく小惑星と衝突しそうになる場面が何回もあった。
 タブタの休暇はドーラ防衛軍いちのロングレンジ・センサーの開発に費やされた。その甲斐あって、どんな速度で飛び回っても危険を回避できるだけの性能のセンサーとレーダーが完成した。長距離レーダーは敵や障害物の補足と正確な位置情報をもたらし、超高感度センサーは、それが何であるかを明らかにした。
 最後に残ったのはMk.125光子魚雷の装備だった。これは、ひょっとするとドーラの法に触れるかも知れなかった。かすかな希望は、試作品が光子魚雷とは別の名前であることで、これがMk.125と同じものであることを証明するのは案外やっかいであることは間違いないように思われた。
 タブタとオビは深夜の試作品保管庫に忍び込んで、Mk.125光子魚雷の試作品を2基手に入れた。光子を発生する特殊な炸薬はラジェンドラに装備されている他の兵器にも使用しているために、申請すれば手に入らないこともなかった。ただし、ラジェンドラが申請できるのは7.74ミリ光子バルカン砲用で、非常に少量だったので、2基の光子魚雷にフル充填するには6ヶ月もかかってしまった。
 タブタは丸2年をかけて、ラジェンドラをドーラ防衛軍最強のパトロール艇に育てたのだった。残すは加速度緩和装置だったが、これはあまりに特殊すぎてタブタには手に負えないという気持ちがあった。

「加速度なんか慣れさ・・・」

 タブタはそう思うことにした。

 タブタは、またパトロール任務に就いた。
 すると、2年間静かだった警報装置に初めて小さな黄色い光が灯った。
 100万キロの探索深度を持つ長距離レーダーを起動して警報を発している宇宙船の位置を確かめると、タブタはIFFトランスポンダからの電波を受信した。それはロイヤル・ドーラ2からの救難信号だった。


つづく

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2005-09-24 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第5回 空飛ぶタブタ その4

空飛ぶタブタ その4


 ・・・第一王子の船に何かがあったらしい。なにもできない王族に指揮権を与えるからこんなことになるんだ。

 そう毒づいたものの、タブタはロビン476E改エンジンを目覚めさせると、ラジェンドラに思いきり鞭を入れた。ラジェンドラは銀の矢となって太陽系辺境星域を突き進んだ。
 猛烈な加速度のためにタブタの身体はGシートに押し付けられ、顔はゆがんだ。
数時間苦痛に耐えると、ラジェンドラは闘いを終えて静まり返った戦闘空域に達した。すでにロイヤル・ドーラ2の船影はなく、精密レーダーには爆発によって広がり続ける破片群が映っていた。その中に脱出ポッドとおぼしき影があった。タブタは、すぐにラジェンドラのノーズをその影に向けた。
 ものの数分でラジェンドラは影との接触に成功した。それは、やはりドーラ2の脱出ポッドだった。脱出ポッドと接舷後、ドッキング。がっちりとつながった共通規格のドッキングポートから出てきたのは、正真正銘のドーラの王位継承権第1位アメン王子だった。

「アメン王子、ご無事で。お怪我はありませんか!」
「ありがとう、かすり傷だ。君の名前は?」
「ドーラ防衛軍宇宙航空隊、第3哨戒機甲師団、第3哨戒部隊所属タブタ2等空士であります!」

 タブタは雲の上の存在である第1王子を目の前に緊張した。

「これはクモヤ18か。いまだに現役で配備されていたとは知らなかった。反撃しようにもこれでは無理だな」
「お言葉ですが王子閣下、このクモヤ18は不肖、自分が多少の改良を加えており、ある程度の追撃と攻撃が可能であるかと思われます」

 そう言われて、アメン王子がよく見るとオリジナルのクモヤ18にはない機器類が操縦席周りを埋め尽くしていた。王子は目ざとく特別な文字列を見つけた。

「火器管制パネルのMk.125の文字は、洒落のつもりか?」
「いえ、Mk.125光子魚雷を2基実装しています」
「まさか。だいいち、管制コンピュータはどうしたんだ?」
「民生用の市販CPUから自作いたしました!」
「本当か!?」
「本船のエンジンも通常のものの162パーセントの出力に上げてあります。それで、いち早くこの空域に到達できました!」
「言われてみればそのとおりだ。他に味方の艦船は影も形もない。君の技術を信頼できそうだ。ならば急ごう。敵はまだ遠くには行っていない」
「アイアイサー!」

 船が撃破されたというのに、王子は全く怖じ気づいた様子がなかった。それに動作や言動に無駄がないばかりか、威厳があった。
 タブタが主操縦席を王子に譲ろうとすると、王子は「この船では君が正パイロットだ」と言って副操縦席についた。

「愛称は?」
「はっ?」
「この船の愛称だよ」
「はい、ラジェンドラといいます」
「いい名前だ。よし、ラジェンドラを発進させたまえ」
「アイアイサー!」


つづく

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2005-09-23 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第5回 空飛ぶタブタ その5

空飛ぶタブタ その5


 ロビン476E型改エンジンがうなりを上げると、王子は加速度緩和装置なしの容赦ない重力に顔をしかめた。

「君は、この加速度に・・耐えてここまで・・来てくれたのか・・」
「はい・・、こんなことは・・慣れであります・・」

 ほどなく、レーダーがロイヤル・ドーラ2を攻撃したと思われる敵の攻撃艦隊を捕捉し、エンジン出力を絞った。ようやく普通に息が出来るようになった。

「王子、敵は複数です」
「そのとおりだ。こちらは一斉攻撃を受けてひとたまりもなかった。やっつけるのは旗艦だけでいい」
「驚きました」
「何にだ?」
「王子の勇敢さにであります。敵の攻撃を受けて乗艦が撃破されたら、恐怖心が先にたって基地に連れ戻すように命じられるかと思っていました」
「もちろん怖いさ。だが、これは王室に生まれた者の宿命だ」
「失礼ですが、そうではない方もいらっしゃいます」
「それを言うな。猫にもいろいろある」
「はっ、失礼いたしました!」
「それより驚いたのはこちらのほうだ。このラジェンドラは、速度といい操艦性能といい、ドーラ防衛軍最新鋭艦に劣らぬどころか、防衛軍最高の船かも知れない」
「ありがとうございます!」
「なぜ、君のような優秀な猫が2等空士なんだ」
「自分は、ただ任務を果たしているだけです!」
「すぐれた人材を評価するシステムが機能していないということだ」
「分かりません! 敵艦隊に接近。そろそろ気をつけないと、こちらがいくら小さくても発見されます」
「よし。敵の旗艦は、そのディスプレイの12番の光点だ。ドーラの誇る、いや、ラジェンドラの誇るMk.125の力を見せてやろうじゃないか」
「アイアイサー!」

 タブタはあらためてアメン王子の勇敢さと使命感に打たれた。王族は誰もいくじなしだと勝手に決め込んでいた自分が恥ずかしかった。今や、タブタは命に代えても王子を守り抜こうと決意していた。

「Mk.125光子魚雷、発射します」
「よし、いまだ!」

 わずかな時間をへだてて、ほぼ直列に2基のMk.125光子魚雷が発射された。すると、すぐにそれを探知した敵の高速駆逐艦がラジェンドラめがけて追撃を開始したらしく、アラートを告げる警告音が船内に鳴り響いた。

「さっそく発見されたようだ。反転、全力で逃げるぞ」
「アイアイサー、反転します」

 ロビンエンジンがうなりをあげると二人を猛烈な加速が襲い、タブタも王子も気を失いかねなかった。

「王子・・、大丈夫で・・ありますか・・?」
「正直言って・・きついな・・」

 間もなくラジェンドラが放ったMk.125の直撃を受けた敵の旗艦がビッグバンのような膨張する光の球になる様子がディスプレイに映し出された。何か高性能の連鎖兵器でも搭載していたのか、十分な距離をおいていたはずの他の艦も誘爆したようだった。しかし、それをくぐり抜けて迫り来る高速駆逐艦の映像も捉えられていた。その高速艦は、みるみる間にラジェンドラとの距離をつめてきた。


つづく

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2005-09-22 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第5回 空飛ぶタブタ その6

空飛ぶタブタ その6


「敵は・・・、加速度緩和装置を・・搭載して・いるようです。こちらも・・エンジンには・余力がありますが・・、これ以上は・身体が・・持ちません」

 返事がないと思って重い首を回すと、王子が意識を失っていた。さすがの王子もドーラ2での戦闘の後とあっては、壮絶な加速度に耐えるだけの体力は残っていなかったのだろう。

 タブタの決断は早かった。エンジン出力を絞って加速度を弱めて身体の自由をとり戻すと、王子をラジェンドラの脱出ポッドに押し込めた。操縦席に戻ると再びぎりぎり限界まで加速して十分な速度を与えてからポッドを射出した。王子を乗せた脱出ポッドは音もなく闇に吸い込まれていった。安全な空域に達してから救難信号を発信するようにセットしたので、王子は無事、味方に救出されるはずだった。
 ラジェンドラは再反転、敵駆逐艦に艦首を向けて敵が追いつくのを待った。

「アメン王子、勇敢さだってあなたに負けません。見ていてください」

 武器を失って丸腰になったラジェンドラに、敵艦が急接近して来た。敵艦の放つ粒子ビーム砲を冷静に避けながらタブタが突入のチャンスをうかがっていると、王子が意識を取り戻したらしく、脱出ポッドから無線連絡が入った。

「タブタ、何をしている戻るんだ!」
「王子。気がつかれましたか? あいつさえやっつければ、もう安全です」
「Mk.125は使い切ったぞ」
「自分とラジェンドラがいます。かならずやっつけてみせます」
「命を粗末にするんじゃない!」
「王子を助けるには、これしか方法がありません」
「私は一度死んだ身だ。なぜ自分が助かろうとしない?」
「それは、あなたが猫の星にはなくてはならない勇敢な王子だからです」
「・・・!」
「王子ご無事で!」

 その直後、脱出ポッドは敵艦の断末魔の悲鳴のような閃光に包まれ、王子は思わず目を閉じた。

「タブタ!」

 アメン第一王子は、いま、ドーラがかけがえのない有能な兵士を失ったことを悟った。その損失のあまりの大きさに、ドーラ防衛軍の改革は、ここに始まったのだった。





 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

Il Gatto Dello Sport(ポロ・プロジェクト)のメールアドレス

il_gatto_dello_sport@hotmail.co.jp

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2005-09-03 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第4回 キャプテン・レンジャーの遠い夕日 その1

キャプテン・レンジャーの遠い夕日 その1


 キャプテン・レンジャーは母ひとり子ひとりの母子家庭で育ったので、昼間はずっと保育園にいました。
 板橋区立中根橋保育園は石神井川のドブの匂いがほのかにただよう場所にありました。小学校に入るまでキャプテン・レンジャーは保育園と幼稚園の違いがわかりませんでした。

「やーい! 保育園保育園!」

 そう言って囃し立てる幼稚園に通っていた級友たちを見て、初めてキャプテン・レンジャーは幼稚園と保育園に格付けがあることを知りました。大人たちも保育園児を気の毒な子供というように見ているらしいことが分かりました。さらに子供社会では母子家庭はもっと格付けが下だということも知りました。

 キャプテン・レンジャーは子供ごころに、決して自分のせいではない理由のためにさげすまれる不条理さを感じて唇をかみしめました。
 そんな時、決まってキャプテン・レンジャーは土管公園の一番高い鉄棒によじ登って灰色の空に沈む夕日を眺めました。

 仕事に出ている母親の帰りは遅く、休日も出勤することが多かったので、キャプテン・レンジャーの友達はテレビでした。
 その日もスーパー・ヒーロー戦隊が悪い毒ガス仮面と戦っていました。キャプテン・レンジャーは本当に毒ガス仮面がいるような気がしていました。そして、大人になったら強くなって毒ガス仮面をやっつけるんだと漠然と考えました。番組が終わると、キャプテン・レンジャーはゴロリと横になって天井を眺めながら毒ガス仮面をやっつける将来の自分を想像して幸せにひたるのでした。
 中学生になったキャプテン・レンジャーはカンフー映画俳優のブルース・リーを知り、あこがれるようになりました。戦隊もののスーパー・ヒーローよりも、生身のブルース・リーは圧倒的な現実感がありました。おまけに、映画の中ではいつでもキャプテン・レンジャーのように優しく気の弱い青年を演じていました。
 なかでも「ドラゴンへの道」という映画が特に気に入っていました。ブルース・リーの恋人役の女優ノラ・ミャオに恋をしたからです。ブルース・リーのように強くなったらノラ・ミャオのような恋人に慕われると思うといてもたってもいられませんでした。
 夕方になると土管公園に行って、土管トンネルの埋められた山に登って沈む夕日を眺めながら、ノラ・ミャオとの楽しい生活を想像しては幸せにひたりました。
 キャプテン・レンジャーは手製のヌンチャクを作って朝に晩に練習に励みました。しかし、ある朝、思いきり振り回したヌンチャクを自分の後頭部に当てて気絶して救急車で運ばれるという事件を起こしてしまいました。母親はキャプテン・レンジャーからヌンチャクをとりあげ、2度とやってはいけないと泣きながら言いました。
 キャプテン・レンジャーは気丈な母親の涙を初めて見て、2度とやらないと誓いました。その時、自分からノラ・ミャオが去っていくのを感じました。


つづく

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2005-09-02 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第4回 キャプテン・レンジャーの遠い夕日 その2

キャプテン・レンジャーの遠い夕日 その2


 高校生の時、夜も明けきらぬ早朝にランニングしていると、近所の家から出てくる怪しい男を見つけました。キャプテン・レンジャーは、後先考えずに男に飛びかかりました。怪しい男は激しく抵抗し、キャプテン・レンジャーはボカスカ殴られましたが、それでも決して男をつかんだ手を放しませんでした。そこへ新聞配達の青年が通りかかり加勢してくれました。2人はついに男をねじ伏せました。やはりその男は泥棒で、被害にあった家から家人が出てきて警察に通報したため警察に引き渡すことができました。
 後日、キャプテン・レンジャーは警察から犯人逮捕に協力したとして、新聞配達の青年とともに感謝状をもらいました。そればかりか、被害にあった家からは金一封の謝礼までもらいました。
感謝状を額に入れ、キャプテン・レンジャーは毎日ながめては幸せにひたりました。
 それから、キャプテン・レンジャーは警察官になろうと志を立てました。交番に出向いて警察官の採用情報を集め、試験勉強を始めました。もともと就職クラスにいたので、担任の先生も賛成してくれました。
 夕方のランニングの途中、いつも土管山で一休みしながら犯人逮捕に活躍する自分の将来を想像しては幸せにひたりました。
 保育園に行っていたからといって、母子家庭だからと自分をさげすんだ連中を見返してやるのです。捕まえた犯人が、そういう連中の一人だったということを想像すると、身体が震えるほど快感でした。

 しかし翌年、キャプテン・レンジャーはフリーターになっていました。警察官の採用条件のひとつに「胸囲が身長の2分の1以上」という項目があったからでした。キャプテン・レンジャーの体格は貧弱だったのです。
 それどころか、長年の苦労がたたったのか母親が倒れ、あっけなく亡くなってしまいました。レンジャー家先祖代々の墓に母親の納骨を済ませると、キャプテン・レンジャーは全身の力が抜けてしまいました。
 夕刊を配り終えると土管公園に登って夕日を眺めて一休みしました。想像できる幸せなことは何もありませんでした。夜にはコンビニのバイトが待っています。

 ある日曜日の朝、警備員の徹夜のバイトを終えて家に帰る途中、とある家の開け放たれた窓から見るともなく部屋の中が目に入りました。そこにはテレビのスーパー・ヒーロー番組に夢中になる子供の姿がありました。
 キャプテン・レンジャーも昔の胸の高鳴りを思いだしました。

「そうだ。オレはスーパーヒーローだったんだ」


つづく

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2005-09-01 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第4回 キャプテン・レンジャーの遠い夕日 その3

キャプテン・レンジャーの遠い夕日 その3


 キャプテン・レンジャーは、求人情報を丹念に探して、ついにデパート屋上や遊園地で行われるスーパー・ヒーロー・ショーのアクション俳優の募集を見つけました。
 さっそく応募して面接会場に行ってみると、やってきたのはほとんどが体育大学の学生でした。彼らに比べて圧倒的に貧弱なキャプテン・レンジャーは半分あきらめかけましたが、その細さが受けて採用されました。筋骨隆々だった学生は悪役に回されていました。

 それから数年後、キャプテン・レンジャーはひょんなことから裏神田世界を知りました。裏神田のスポーツ新聞、イル・ガット・デロ・スポルトを読んで、裏神田には本物のスーパー・ヒーローがいることも知りました。スーパー・ヒーローグッズを扱うシュレーディンガー商会はキャプテン・レンジャーにとって心強い存在でした。
 イル・ガット新聞には信じられないような記事がたくさん出ていました。月や火星の開発のニュース。悪夢救助隊や物語救助隊の創設記。また、それに貢献したマチルダエンジン開発の経緯。他の惑星との国交樹立など、最初は、とても本当とは思えませんでした。
 広告も驚くようなものばかりでした。別の惑星上に分譲地クランベリーヒルの広告。宇宙のどこにでも配達するという三河屋デリバリー・サービス。地球で唯一“パップラ丼軽め”が食べられるという“あじさい亭”など。とくにあじさい亭の女将は女神さまなのではないか、というゴシップまで紙面を飛び交っていました。

 その日も、土管山の上に座って読んでいたイル・ガット新聞紙面から目を上げると、夕日が沈もうとしていました。
 たったいま読んだ、シュレーディンガー商会の“スーパー・ヒーロー・キットS型”に身を包んで悪者と戦う姿を想像すると、キャプテン・レンジャーの胸に希望が溢れてきました。
 そうなると、今夜の倉庫の警備の仕事が待ち遠しくなりました。早くお金をためてシュレーディンガー商会に行かなくては。
 キャプテン・レンジャーは立ち上がると、足取りも軽く土管公園を後にしました。公園でスーパー・ヒーローごっこをして遊んでいた子供たちも、迎えにきた母親に連れられて帰っていきました。




〜お話の森第3回 キャプテン・レンジャーの長い旅につづく〜


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女議長さん面白かったよ。ホントにポロのお話と似てないね。もう、完全に住み分けちゃった感じだね。ポロが作ったキャラクターなのに、へえ、キャプテン・レンジャーってこういう人だったのか〜って勉強になっちゃったよ。 / ポロ ( 2005-09-03 23:45 )

2005-08-31 ポロの日記 2005年9月2日(電曜日)ポロ 賢者に会う その1

ポロ 賢者に会う その1


 目が覚めると、ポロは見知らぬところにいました。
 そこは、木の小屋の寝室の暖かいベッドの中でした。そこへウサギのお姉さん(バニーガールじゃないよ)がやってきて、まあ、今日は猫のお兄さんねと言いました。
 ポロがキョトンとしていると、お姉さんは続けました。

「驚いたでしょ。これはね、共鳴ベッドっていうの。真理に共鳴する精神波の持ち主は共鳴してテレポートしてきちゃうのよ」
「・・・・???」
「いいわ。分からなくて当然だわ。ここはシェファーナグリアよ。朝食がまだならすぐに用意するわ」

 雰囲気としては、あまり危険ではなさそうでした。
 少したって、ポロはダイニングに招かれました。ダイニングには大きな丸テーブルがあって、年寄りのウサギが座っていました。

ポ「お、オハヨございます」
老「やあ、おはよう。君が来るのを待っていたよ」
ポ「え?」
老「誰が来るのかは分からなかったが、君が待たれていたことだけは確かじゃ」
ポ「???」
老「わしはドイユという者じゃ。君のような若者と話をする役目を仰せつかっておる」
ポ「ポロといいます」
ド「ははは。目が覚めたら見知らぬところにいたのじゃ。何も分からなくて当然、急ぐのはよそう。さあ、朝食にしよう」

 テーブルにあったのは、とりたての野菜と果物、それから丸ごとの小さな魚でした。ほとんど手のかかっていないものすごく簡単なメニューなのに、とってもおいしくてポロは自分の分をペロリとたいらげてしまいました。

ポ「ん〜〜〜〜、んまい!」
姉「それはよかったわ。この自然を作り上げた神さまに感謝しなくちゃ」

 ポロも思わずうなずきました。
 それからポロは老ドイユに薦められて、外を散歩してくることにしました。

 外へ出ると、そこは、いたるところに森のある土地でした。ポツリポツリと家がありましたが、どの家も木と石と焼いた土でできていました。文明の度合いとしては地球中世といったところです。老ドイユは、いったいポロにどんな話をしてくれるのでしょか。
 ポロは、ああ今はちょうど10時ころだなあと思うと涙が出てきてしまいました。だって、イモようかんが食べられないからです。空には墨を流したようなきれいな巻雲がたなびき、鳥たちが飛んでいました。ああ、これでイモようかんがあれば天国なのになあ。

 お昼になったので老ドイユの小屋に戻ると、老ドイユとお姉さんがカラス麦とサツマイモの品定めをしていました。

姉「お父さま。今日のおイモはすばらしくてよ」
ド「うむ。たしかに素晴らしい。自然環境が整ってきた証拠じゃ」

 お昼ごはんは、オートミールとスイートポテトのパイでした。

 ポロがオートミールを食べたとたん、ポロの気持ちは屋根を突き破って空の上、高度1000メートルまで飛び上がりました。

ポ「どっひゃ〜〜〜〜!!」
姉「まあ、大丈夫?」

 あまりのおいしさにポロが目を回していると、お姉さんが冷たいお水を持ってきてくれました。ポロがお水を飲むと、ポロの気持ちは今度は高度2000メートルまで飛び上がりました。


つづく

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2005-08-30 ポロの日記 2005年9月2日(電曜日)ポロ 賢者に会う その2

ポロ 賢者に会う その2


ポ「んんんんんままままままま〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いいいいいいい!!!!」

 ポロは、気を失いそうでした。

ド「これは驚いた。ほんの1、2時間散歩してきただけでこれだけ同化共鳴するとは」
姉「そうですね。落ち着くのを待って、さっそくお話を始めたらいかがでしょう?」
ド「そうしようと思っておったところじゃ」

 少したってポロは、ようやく落ち着きを取り戻しました。

ド「オートミールはうまかったか?」
ポ「うん、ポロ、カラス麦がこんなにおいしいなんて知らなかったよ」
ド「そうか。だがカラス麦とは何じゃ?」
ポ「え? カラス麦っていうのはカラス麦だよ」
ド「そうじゃ。カラス麦というのはDNAの発現に過ぎん。いま君が食べたおいしさは、この星の自然の見事さなんだが、その考え方は分かるか?」
ポ「わ〜〜! 分かるよ。すっごくよく分かる」

 ポロは、得意になって自説のイモようかん理論を話しました。

ド「ところが、この星にはイモようかんはないのじゃ。どうしてかというと、畑に実った段階で、イモ自体が君の言う理想のイモようかんの状態なのじゃ」
ポ「わ、それじゃ、このポテトパイは、すんごくおいしいんだね」
ド「そう。だから君は食べてはならん。君はイモに対する感受性が平均値を超えて高いはずじゃ。だから食べたときの反応が想像もつかん。命にかかわるかも知れん」
ポ「わ〜〜、やだよやだよ〜〜。食べないと死ぬ〜〜!」
ド「見苦しい猫だな、君だな」
ポ「食べても食べなくても死ぬんだったら食べて死ぬよ〜!」

 ポロがパイに手を伸ばした瞬間、お姉さんがパイのお皿を取り上げてどこかへ持っていってしまいました。

ポ「え〜んえん、え〜んえん・・・」

 それから、お姉さんが何かを操作するとダイニングの壁に大きなゼリーディスプレイが現れました。

ポ「わ、おっきなゼリーディスプレイだなあ!」
ド「ゼリーディスプレイを知っておるのか?」
ポ「うん、技術文書の師匠もニミュエさんもゼリーディスプレイに現れたよ」
ド「ゼリーディスプレイは、この星でしか作れんはずじゃ。ならば、それらはみなこの星の製品じゃ。聞いていなかったが、ポロ君はどこから来たのじゃ?」
ポ「地球だよ。日本。埼玉県ぜんまい市。でも、生まれは猫の星のドーラだよ」
ド「そうか。地球には輸出しておらんはずじゃが」
ポ「クランベリーヒルには?」
ド「クランベリーヒル?」
ポ「あ、クリューガー60の第2惑星だよ」
ド「おお、松戸博士とは深いつながりがある。開発には彼もかかわっておるのじゃ。博士をご存じかな?」
ポ「知ってるもなにも仲よしだよ。ポロは松戸博士のいとこの人がやってるお店で買ったんだ。門前仲町にあるんだよ」
ド「そうじゃったか。それで君がここにやってきた謎の一部が解けたというものじゃ」


つづく

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