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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-09-01 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第4回 キャプテン・レンジャーの遠い夕日 その3
2005-08-31 ポロの日記 2005年9月2日(電曜日)ポロ 賢者に会う その1
2005-08-30 ポロの日記 2005年9月2日(電曜日)ポロ 賢者に会う その2
2005-08-29 ポロの日記 2005年9月2日(電曜日)ポロ 賢者に会う その3
2005-08-28 ポロの日記 2005年9月2日(電曜日)ポロ 賢者に会う その4
2005-08-27 ポロの日記 2005年9月2日(電曜日)ポロ 賢者に会う その5
2005-08-26 ポロの日記 2005年8月22日(光曜日)キャプテン・レンジャー火星を行く その1
2005-08-25 ポロの日記 2005年8月22日(光曜日)キャプテン・レンジャー火星を行く その2
2005-08-24 ポロの日記 2005年8月22日(光曜日)キャプテン・レンジャー火星を行く その3
2005-08-23 ポロの日記 2005年8月22日(光曜日)キャプテン・レンジャー火星を行く その4


2005-09-01 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第4回 キャプテン・レンジャーの遠い夕日 その3

キャプテン・レンジャーの遠い夕日 その3


 キャプテン・レンジャーは、求人情報を丹念に探して、ついにデパート屋上や遊園地で行われるスーパー・ヒーロー・ショーのアクション俳優の募集を見つけました。
 さっそく応募して面接会場に行ってみると、やってきたのはほとんどが体育大学の学生でした。彼らに比べて圧倒的に貧弱なキャプテン・レンジャーは半分あきらめかけましたが、その細さが受けて採用されました。筋骨隆々だった学生は悪役に回されていました。

 それから数年後、キャプテン・レンジャーはひょんなことから裏神田世界を知りました。裏神田のスポーツ新聞、イル・ガット・デロ・スポルトを読んで、裏神田には本物のスーパー・ヒーローがいることも知りました。スーパー・ヒーローグッズを扱うシュレーディンガー商会はキャプテン・レンジャーにとって心強い存在でした。
 イル・ガット新聞には信じられないような記事がたくさん出ていました。月や火星の開発のニュース。悪夢救助隊や物語救助隊の創設記。また、それに貢献したマチルダエンジン開発の経緯。他の惑星との国交樹立など、最初は、とても本当とは思えませんでした。
 広告も驚くようなものばかりでした。別の惑星上に分譲地クランベリーヒルの広告。宇宙のどこにでも配達するという三河屋デリバリー・サービス。地球で唯一“パップラ丼軽め”が食べられるという“あじさい亭”など。とくにあじさい亭の女将は女神さまなのではないか、というゴシップまで紙面を飛び交っていました。

 その日も、土管山の上に座って読んでいたイル・ガット新聞紙面から目を上げると、夕日が沈もうとしていました。
 たったいま読んだ、シュレーディンガー商会の“スーパー・ヒーロー・キットS型”に身を包んで悪者と戦う姿を想像すると、キャプテン・レンジャーの胸に希望が溢れてきました。
 そうなると、今夜の倉庫の警備の仕事が待ち遠しくなりました。早くお金をためてシュレーディンガー商会に行かなくては。
 キャプテン・レンジャーは立ち上がると、足取りも軽く土管公園を後にしました。公園でスーパー・ヒーローごっこをして遊んでいた子供たちも、迎えにきた母親に連れられて帰っていきました。




〜お話の森第3回 キャプテン・レンジャーの長い旅につづく〜


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

Il Gatto Dello Sport(ポロ・プロジェクト)のメールアドレス

il_gatto_dello_sport@hotmail.co.jp

先頭 表紙

女議長さん面白かったよ。ホントにポロのお話と似てないね。もう、完全に住み分けちゃった感じだね。ポロが作ったキャラクターなのに、へえ、キャプテン・レンジャーってこういう人だったのか〜って勉強になっちゃったよ。 / ポロ ( 2005-09-03 23:45 )

2005-08-31 ポロの日記 2005年9月2日(電曜日)ポロ 賢者に会う その1

ポロ 賢者に会う その1


 目が覚めると、ポロは見知らぬところにいました。
 そこは、木の小屋の寝室の暖かいベッドの中でした。そこへウサギのお姉さん(バニーガールじゃないよ)がやってきて、まあ、今日は猫のお兄さんねと言いました。
 ポロがキョトンとしていると、お姉さんは続けました。

「驚いたでしょ。これはね、共鳴ベッドっていうの。真理に共鳴する精神波の持ち主は共鳴してテレポートしてきちゃうのよ」
「・・・・???」
「いいわ。分からなくて当然だわ。ここはシェファーナグリアよ。朝食がまだならすぐに用意するわ」

 雰囲気としては、あまり危険ではなさそうでした。
 少したって、ポロはダイニングに招かれました。ダイニングには大きな丸テーブルがあって、年寄りのウサギが座っていました。

ポ「お、オハヨございます」
老「やあ、おはよう。君が来るのを待っていたよ」
ポ「え?」
老「誰が来るのかは分からなかったが、君が待たれていたことだけは確かじゃ」
ポ「???」
老「わしはドイユという者じゃ。君のような若者と話をする役目を仰せつかっておる」
ポ「ポロといいます」
ド「ははは。目が覚めたら見知らぬところにいたのじゃ。何も分からなくて当然、急ぐのはよそう。さあ、朝食にしよう」

 テーブルにあったのは、とりたての野菜と果物、それから丸ごとの小さな魚でした。ほとんど手のかかっていないものすごく簡単なメニューなのに、とってもおいしくてポロは自分の分をペロリとたいらげてしまいました。

ポ「ん〜〜〜〜、んまい!」
姉「それはよかったわ。この自然を作り上げた神さまに感謝しなくちゃ」

 ポロも思わずうなずきました。
 それからポロは老ドイユに薦められて、外を散歩してくることにしました。

 外へ出ると、そこは、いたるところに森のある土地でした。ポツリポツリと家がありましたが、どの家も木と石と焼いた土でできていました。文明の度合いとしては地球中世といったところです。老ドイユは、いったいポロにどんな話をしてくれるのでしょか。
 ポロは、ああ今はちょうど10時ころだなあと思うと涙が出てきてしまいました。だって、イモようかんが食べられないからです。空には墨を流したようなきれいな巻雲がたなびき、鳥たちが飛んでいました。ああ、これでイモようかんがあれば天国なのになあ。

 お昼になったので老ドイユの小屋に戻ると、老ドイユとお姉さんがカラス麦とサツマイモの品定めをしていました。

姉「お父さま。今日のおイモはすばらしくてよ」
ド「うむ。たしかに素晴らしい。自然環境が整ってきた証拠じゃ」

 お昼ごはんは、オートミールとスイートポテトのパイでした。

 ポロがオートミールを食べたとたん、ポロの気持ちは屋根を突き破って空の上、高度1000メートルまで飛び上がりました。

ポ「どっひゃ〜〜〜〜!!」
姉「まあ、大丈夫?」

 あまりのおいしさにポロが目を回していると、お姉さんが冷たいお水を持ってきてくれました。ポロがお水を飲むと、ポロの気持ちは今度は高度2000メートルまで飛び上がりました。


つづく

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2005-08-30 ポロの日記 2005年9月2日(電曜日)ポロ 賢者に会う その2

ポロ 賢者に会う その2


ポ「んんんんんままままままま〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いいいいいいい!!!!」

 ポロは、気を失いそうでした。

ド「これは驚いた。ほんの1、2時間散歩してきただけでこれだけ同化共鳴するとは」
姉「そうですね。落ち着くのを待って、さっそくお話を始めたらいかがでしょう?」
ド「そうしようと思っておったところじゃ」

 少したってポロは、ようやく落ち着きを取り戻しました。

ド「オートミールはうまかったか?」
ポ「うん、ポロ、カラス麦がこんなにおいしいなんて知らなかったよ」
ド「そうか。だがカラス麦とは何じゃ?」
ポ「え? カラス麦っていうのはカラス麦だよ」
ド「そうじゃ。カラス麦というのはDNAの発現に過ぎん。いま君が食べたおいしさは、この星の自然の見事さなんだが、その考え方は分かるか?」
ポ「わ〜〜! 分かるよ。すっごくよく分かる」

 ポロは、得意になって自説のイモようかん理論を話しました。

ド「ところが、この星にはイモようかんはないのじゃ。どうしてかというと、畑に実った段階で、イモ自体が君の言う理想のイモようかんの状態なのじゃ」
ポ「わ、それじゃ、このポテトパイは、すんごくおいしいんだね」
ド「そう。だから君は食べてはならん。君はイモに対する感受性が平均値を超えて高いはずじゃ。だから食べたときの反応が想像もつかん。命にかかわるかも知れん」
ポ「わ〜〜、やだよやだよ〜〜。食べないと死ぬ〜〜!」
ド「見苦しい猫だな、君だな」
ポ「食べても食べなくても死ぬんだったら食べて死ぬよ〜!」

 ポロがパイに手を伸ばした瞬間、お姉さんがパイのお皿を取り上げてどこかへ持っていってしまいました。

ポ「え〜んえん、え〜んえん・・・」

 それから、お姉さんが何かを操作するとダイニングの壁に大きなゼリーディスプレイが現れました。

ポ「わ、おっきなゼリーディスプレイだなあ!」
ド「ゼリーディスプレイを知っておるのか?」
ポ「うん、技術文書の師匠もニミュエさんもゼリーディスプレイに現れたよ」
ド「ゼリーディスプレイは、この星でしか作れんはずじゃ。ならば、それらはみなこの星の製品じゃ。聞いていなかったが、ポロ君はどこから来たのじゃ?」
ポ「地球だよ。日本。埼玉県ぜんまい市。でも、生まれは猫の星のドーラだよ」
ド「そうか。地球には輸出しておらんはずじゃが」
ポ「クランベリーヒルには?」
ド「クランベリーヒル?」
ポ「あ、クリューガー60の第2惑星だよ」
ド「おお、松戸博士とは深いつながりがある。開発には彼もかかわっておるのじゃ。博士をご存じかな?」
ポ「知ってるもなにも仲よしだよ。ポロは松戸博士のいとこの人がやってるお店で買ったんだ。門前仲町にあるんだよ」
ド「そうじゃったか。それで君がここにやってきた謎の一部が解けたというものじゃ」


つづく

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2005-08-29 ポロの日記 2005年9月2日(電曜日)ポロ 賢者に会う その3

ポロ 賢者に会う その3


 それから、ディスプレイに映像が映し出されました。それは、科学の進歩が究極に達したと思えるような、ものすごい都市でした。
 何もかも自動で人々は便利で楽しい生活を享受していました。ごはんだって、ボタンひとつでできちゃうし、レストランに行けば、もっとおいしいそうなものが食べられます。でもレストランには、もっと高価な自動調理器があるのでした。移動のための交通手段も、遊んだり映画を見たりするための施設も、考えられるかぎりの高度なものに見えました。人々の夢がなんでも実現したような世界でした。

ド「どうじゃった?」
ポ「うん、すごいね。文明の行き着く先はこうなのかな?」
ド「我々には2つの道がある」
ポ「・・・・。ひょっとすると分かったかも」
ド「2つの、どのような道かね?」
ポ「あのさ、ポロは、ホントはピアニストなんだ」
ド「ほう、それはすごい」
ポ「ホントは、まだなんだけどさ。これからなるの。すんごい名ピアニストになる予定なんだ」
ド「ほう。楽しみじゃ」
ポ「でね、地球じゃね、誰もが技術的に難しい曲をありがたがるんだ。だからピアノが上手か下手かっていうのも、技術がどこまで進んだかっていうことで判断されちゃうの。ポロさ、バイエルしか弾けないんだけど、とっても上手なんだよ。バイエルの楽譜はただの音楽DNAだけど、ポロが弾くバイエルは、この星の自然が作り上げたカラス麦と同じなんだ。もし、みんなが自分の心の耳で聴けば、きっと超絶技巧練習曲よりもポロのバイエルを聴きたかったんだって気づくと思うんだ。ポロのせんせいは、とむりんせんせいっていう作曲家なんだ。音が2つしか出てこない曲とか書いちゃうんだ。でもさ、ポロ、その曲を弾いてるとジ〜ンと来ちゃって泣けてきちゃうほどなんだ。だから、さっきの映像にあった文明は“難しい曲を弾ける人ほどうまい”と思ってる人の考える科学技術の姿で、この星の科学技術は、その反対だね」
ド「見事じゃ」
ポ「この星って、ホントはものすごく科学が進歩してるんだと思うな」
ド「考え方しだいなのじゃが、わしらは、この星の科学はとても進歩していると思っている。しかし、先ほどの映像の星、実は、ここシェファーナグリアと太陽を同じくする兄弟星のザイロマグリアなのじゃが、そこの連中は、ここを未開惑星と思っておる」
ポ「どうしたら分かってもらえるんだろうね」
ド「それは、とても難しいのじゃ。あの星からは誰も共鳴ベッドに現れんのを見ても分かる。真に賢い者ならば、たとえ天動説を習っていても地動説に気づくはずじゃ」
ポ「あ、それって分かるな。習うことは丸暗記することじゃないって、いつもせんせいが言ってるよ」
ド「もっともつらい刑罰は穴を掘っては埋め戻させ、また穴を掘らせるということを繰り返すことだと言われておる。ザイロマグリアでは、自然という事実を見ようとしないので、そのようなことを繰り返しておる」
ポ「どんなこと?」


つづく

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2005-08-28 ポロの日記 2005年9月2日(電曜日)ポロ 賢者に会う その4

ポロ 賢者に会う その4


ド「惑星というのは実に不安定なものじゃ。地殻はマントル上に浮遊する薄いプレートじゃ。ここにどのような堅固な都市を作ってもいつかは壊れる。大気は巧妙で微妙な循環モデルとしてバランスを保っておる。タイフーンだの竜巻だの、ダウンバーストなどを避けることはできない。ザイロマグリアでは、しばしばこのような自然現象による都市被害を受けていて、あろうことか“自然災害”と呼んでおる始末じゃ。この星では、それらは災害ではない。惑星が惑星であるためのバランス回復作用だからじゃ。人々の住まいも、自然との共存を考えて作られておる。地震が来れば揺れるのはどちらも同じじゃ。ザイロマグリアの都市では砕け散ったガラスの破片が舞い落ちるかも知れん。それは自然災害とは言えないじゃろう。ここではそんなことは起こらん」
ポ「便利さじゃなくて、ホントに大事なことは何か考えて科学の研究をしてるんだね」
ド「そうじゃ。嵐が来ただけで水が出なくなったり、電気が止まったり、トイレが使えなくなるような社会のほうが未開と言えるのではないかな?」
ポ「わ、そういえば、この星のインフラはどうなってるの? ポロが散歩してたときに電柱1本なかったけど」
ド「それを説明するには時間がかかりすぎるが、水は各家庭ごとに地中の水脈から得たり、水脈から遠い場合は雨水を貯めたりして、使い終わった廃水は微生物処理をして再利用したり自然界に戻している。微生物処理の能力は非常に高い。完全循環じゃ。トイレも生物としての我々を含めて自然との完全循環じゃ。やはり微生物が大活躍しておる。電気などのエネルギーもすべて個別に生産して使用しておる。バイオマスを含めて、すべて自然エネルギーじゃ。それに考えてみれば、わしらが本当に必要とするエネルギーは驚くほど少ないのじゃ」
ポ「すんごい高度だね。ポロ、いつも思うんだ。どうして夜空を照らすほど都市の明かりは強くなくちゃいけないんだろうって」
ド「心の目を持たなければ、自分が本当に必要としているものは見えんものじゃ」
ポ「せんせいもレッスンのときによく言うよ。心の耳で聴きなさいって」
ド「それが大事なことじゃ。忘れてはならんことがある。わしらは科学を否定してはおらんということじゃ。科学というのは芸術や哲学同様、真理こそが最終目標じゃ。真理の探究としての科学は進歩しすぎることはない」
ポ「ポロも、そう思うよ。ザイロマグリアの人たちは、なんでもかんでも自動化する方向に進んでるけど、そうすると最後に人々に残されるのは“ひまつぶし”っていうことにならないのかな」
ド「よいことに気がついたの。こんなに短時間にここまで話が進むとは思ってもみなかった」
ポ「たとえばさ、自分で火加減しながらごはんを炊くと、ごはんのいろんなことが分かるんだ。ポロ、せんせいんちに居候してるんだけど、家族全員が交代で当番しながらごはん炊くんだ。そういう意味で、ごはん炊きって哲学なんだ」
ド「それは素晴らしいことだね。世の中には自動化してもよいものとそうではないものがある。自動化によって失われるものも多いからね」


つづく

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2005-08-27 ポロの日記 2005年9月2日(電曜日)ポロ 賢者に会う その5

ポロ 賢者に会う その5


ポ「ポロさ、ピアノを弾くっていうのもそのひとつだと思うな。CD聴くのも楽しいけど、自分で弾くのはもっといいよ」
ド「音楽か。ワシも前世では音楽に関わっていたような気がすることがあるのじゃ」
ポ「へえ。そうなのか」
ド「音楽・・・。音響として鳴り響く美的内面じゃな」
ポ「わ! せんせいも同じこと言うよ!」
ド「ポロ君の師匠殿はなんとおっしゃるのじゃ?」
ポ「とむりんせんせいだよ」
ド「・・・・聞き覚えのあるお名前じゃ。もしかしたらわしの前世に関わっていたのかも知れんのう・・・」

 ポロたちは、それからもいろいろな話をしました。
 そしてその晩のことです。

 みんなが寝静まってから、ポロは、どうしてもがまんができなくて、キッチンの冷蔵庫にあるはずのポテトパイの捜索にやってきました。

 --ふふふ。こんな時のためにポロの肉球はあるのさ。

 ポロは足音を立てることなく冷蔵庫の前に立ちました。非電化冷蔵庫を開けると、そこにはおいしそうなポテトパイが「ポロさん待ってたよ、早く食べて」って待っていました。
 ポロは、手に取ってしばらく眺めてから、一気に口に入れました。ぱくっ!

 きゃああああああ〜〜〜〜〜〜!

 あまりのおいしさに耐えられず、とうとうポロの精神は大爆発を起こして直径1光年ほどに飛び散ってしまったのでした。


 裏神田 悪夢救助隊本部 午前1時12分

 ぴゅーわぴゅーわぴゅーわ!

「緊急警報緊急警報! 良性の夢が突然悪夢に変わりました。レベル7、繰り返しますレベル7、ただちにローレライを旗艦に神田本部全艦隊出動してください。悪夢遭難者の精神は1光年の範囲に広がっています。くりかえします。ただちにローレライを旗艦とする神田本部全艦隊は出動してください」

 訓練された獏(バク)の精鋭部隊がつぎつぎとそれぞれの船に乗り込み、マチルダエンジンの音も高らかに発進していきました。

 裏神田 悪夢救助隊本部 守衛所 午前1時15分

 ちょうどその夜、守衛所で深夜のアルバイトをしていたのはキャプテン・レンジャーでした。次々と深夜の裏神田の空に吸い込まれていく救助艦隊を見ながらつぶやきました。

「カックいいなあ。悪夢救助隊員はスーパーヒーローだぜ。とんちきなヤツが悪夢なんか見てうなされてやがるんだろうなあ。でもなあ、いくらとんちきでも悪夢でトラウマ背負っちゃ気の毒だもんな。やっぱり救助隊員はヒーローだぜ」

 全ての船が出動してしまうと、守衛所の前のオレンジ色のナトリウムランプに照らされた深夜の裏神田の路地にはネズミ一匹の影さえなく、今夜もキャプテン・レンジャーは(深夜手当込み)時給920円の退屈な夜を過ごさなければなりませんでした。


おしまい


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

ポロの掲示板はここ。
ポロの道場

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2005-08-26 ポロの日記 2005年8月22日(光曜日)キャプテン・レンジャー火星を行く その1

キャプテン・レンジャー火星を行く その1


 バカンス号が着陸したクリュセ宇宙空港はクリュセ平原の北側、アキダリア平原の近くにありました。
 ポロはここから北の東キャナル市に、キャプテン・レンジャーは真東の大シルティス市に向かいます。
 火星の直径はだいたい6800キロ。質量は地球の10分の1、重力は3分の1、大気圧は地球の100分の1しかありません。開発が始まってから、まだ数十年しかたっていないので、テラフォーミング(惑星環境の地球化)も始まったばかりで、火星はいまだに未開拓惑星です。その火星をねらって表世界もNASAなどが探査機を送り込んでくるので、裏神田政府の支援を受けている火星総督府は周回探査機のレーダーにニセの電波を送ったり、着陸機の降下地点に特設スタジオを建設したりして苦労しています。それでも、しばしば情報が漏れたり火星の施設が一部発見されたりして、地球の三流メディアをにぎわせることがあります。とくにNASAの月開発時代には裏神田政府も隠ぺい技術が未熟で、最近になって地球メディアに「月着陸はスタジオ撮影だった!」というゴシップが流れてしまいました。あれは確かに月の特設スタジオに着陸したアポロ宇宙船からの映像でした。
 クリュセ宇宙空港のバスターミナルから、ポロは東キャナル市行きのシャトルバスに乗り込みました。キャプテン・レンジャーは大シルティス市行きです。

レ「じゃあな、また地球で会おうぜ」
ポ「うん。キャプテン、お仕事がんばってね」

 バスといっても重力の小さい火星では宙に浮かんで走ります。だいたい5メートルくらいの高さです。この高さだと、ほとんどの岩を飛びこえて高速で走ることができます。
 空気が薄くて抵抗が小さいのでシャトルバスはとても速く、500キロ離れた東キャナル市まで1時間ちょっとで到着しました。東キャナル市は巨大な半透明の樹脂ドームで覆われています。エアロックを抜けて中へ入ると、地球そっくりの街並みが広がっていました。
 ポロは、さっそくキャンディ横丁に向かいました。キャンディ横丁は上野のアメ屋横丁出身の人たちが故郷を懐かしがって作った安売り問屋街です。ここでは銀河系中のありとあらゆるいろいろな品物が売られています。ポロは、さっそくせんせいのメモを見ながらボルタック商店を探しました。ところが人込みをかきわけながら、いくら横丁を往復してもボルタック商店は見つかりませんでした。
ポロは近くの店でたずねることにしました。

ポ「ごめんくらさ〜い!」
店主「何がご入り用ですか?」

 そういわれて思わず店内を見渡すと、そこには所せましと機械や道具が並べられていました。「真券印刷機」「預金通帳残高増額ソフトウェア“がっぽり君”」「運転免許証作成機、運転免許証登録ソフトウェア・セット」「学業成績書き換えソフトウェア」「前科抹消ソフトウェア」etc.・・・・・・。

ポ「あわわわわわ。これ、ぜんぶ本物?」
主「そうでございます」
ポ「真券印刷機って、にせ札の間違いじゃないの?」
主「滅相もない。そんなチャチなものではございません。札番号も連番で打ちだします。もし、同番号の札が見つかったとしても、すでに流通している真券のほうがニセ札と鑑定されることでしょう」
ポ「ほかの機械もそんなにすごいの?」
主「もちろんでございます」
ポ「警察には捕まらないの?」
主「火星の法律には抵触しておりません。ただし、地球ではどうであるか私にはわかりかねます」


つづく

先頭 表紙

2005-08-25 ポロの日記 2005年8月22日(光曜日)キャプテン・レンジャー火星を行く その2

キャプテン・レンジャー火星を行く その2


ポ「火星だけの法律にしたがえばいいっていうわけじゃないよ」
主「そうですか。ではあなたはトビウオ座τ(タウ)星の“二酸化炭素の大気中への放出を禁じる法律”に抵触していますが、どうなさいますか?」
ポ「わ、そんな法律があるのか〜」
主「やはり、法律はその星ごとに決めなければなりません」
ポ「んんんん・・・・・」
主「ところで、ご用はなんでございましょうか」
ポ「あ、そだ。ボッタクル商店はどこ?」
主「は・・・? ああ、ボルタック商店でございますね。それなら、この2ブロック先の地下街入口から地下へ降りてください。すぐに看板があるはずです。あの店は気をつけてくださいよ。どこの星の法律にも触れてはいませんが、法律が整備されたら全部の商品が禁止になること間違いなしですから」
ポ「ア・・・、アリガト。そ、そなのか・・」

 ポロは、なんだか心配になりました。いったいせんせいは何をするつもりなんだろう。地下街におりてみると、すぐに“ボッタクル商店”あ、違った“ボルタック”商店の看板がありました。

ポ「ごめんくらさーい!」
店主「はい。いらっしゃいませ」
ポ「あの、大根とニンジンと寒天ください」
主「はい、ダイコナとニンジーア、それからカンティナンでございますね。一束ずつでよろしいですか」
ポ「うん」
主「はい、密閉パックされておりますので長時間効果が失われることはありません。どうぞ、お楽しみください。うひうひうひうひ」
ポ「ねえ、これって、何なの?」
主「またまた、お戯れを。どうぞまたお越しください」

 とうとう教えてもらえずにポロは店を出ました。

 お腹が減ったので、近くにあった火星名物“健康・天然酸化鉄うどん”の店に入って2はいもお代わりして食べました。

「ん〜、んまい!

 その頃、キャプテン・レンジャーは火星アミューズメントが経営するシルティス・ランドに到着して、ショーの準備に余念がありませんでした。今回共演するのは七色ソルジャーと、いつもの極悪怪獣プロダクションの怪獣スターたちでした。
火星では重力が小さいので、キャプテン・レンジャーはワイヤーアクションなしで怪獣を投げ飛ばすことができるはずです。キャプテン・レンジャーの売りは環境を汚す武器を一切使わずに太極拳で怪獣を倒すことなので、火星でのショーはうってつけでした。
 翌日から連続3日間、一日3回のショーが続きます。

 ポロは、次の日、朝一番に地球に戻るバカンス号に乗り込みました。火星の重力ならバカンス号のような大きな宇宙船でも直接離陸することが可能でした。バカンス号は火星を一周してから地球へと向かいます。その時、眼下に太陽系で一番高いオリンピア山が見えました。あのふもとにゴーヒャ・キージェ記念館があるのです。ショーが終わったらキャプテン・レンジャーは記念館に立ち寄ると言っていました。いいなあキャプテン・レンジャー。ポロもいつかきっと行こうと心に決めました。
 そのあとすぐにバカンス号は火星離脱軌道に入り、一路地球に向かいました。

 火星の一日は地球とあまり変わらないので、一泊しかしなかったポロは時差を感じることもなく昼過ぎの大泉学園宇宙空港に降り立ちました。

ポ「せんせいただいま。頼まれたもの買ってきたよ」
せ「ああ、ありがとう。助かったよ」
ポ「ねえ、せんせい。これって怪しくない?」
せ「怪しいとも」


つづく

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2005-08-24 ポロの日記 2005年8月22日(光曜日)キャプテン・レンジャー火星を行く その3

キャプテン・レンジャー火星を行く その3


ポ「あ゛〜〜、やっぱり。ポロやだよ、やだからね。ポロはアブない橋は渡りたくないよ」
せ「大丈夫だよ。ぜんぜん怪しくないから」
ポ「ウソだウソだ。だって、せんせい怪しいって言ったじゃないか」
せ「それはただの言葉だ」
ポ「ホントかなあ、心配だなあ」

 それから2日後。ショーを終えたキャプテン・レンジャーは大シルティス市のちょうど裏側にあるオリンピア山に向かう火星バスの車中でした。
オリンピア山は直径600キロ、高さ27キロという太陽系最大の成層火山です。最初に、この火山を観測するための基地が建設され、それがいつのまにか町になりました。オリンピア・シティはクリュセ、東キャナル、大シルティスに続く火星第4のドーム都市であり、最初の観光都市でした。

 キャプテン・レンジャーは、ドームに入るとまっすぐゴーヒャ・キージェ記念館に行きました。

館長「おお、これはキャプテン・レンジャー殿。ようこそおいでくださった」
レ「あんた、館長さんだったのか」
館長「はい。ゴーヒャ・キージェ記念館館長、トンボーといいます」

 トンボー館長はキャプテン・レンジャーを展示室に案内しました。

ト「ここから展示が始まります。ここにある数多くの展示品は何も言いはしないが、多くを語っております。それを読み取るのはあなた次第です」
レ「人を試すようなことは言わないでくれよ」
ト「いえ、これもキージェの教えです」
レ「そうなのか」

 最初の部屋はオリンピア工房を模した展示室で、そこにあるのは何気ないランプや実験器具に見えました。キャプテン・レンジャーは、ひとつひとつをしげしげと眺めましたが6000年近くも昔のものなので、古くてよくわかりませんでした。
次の部屋ではキージェが発明したり改良したさまざまな工作機械や農機具がありました。次の部屋がメイン展示室で、そこには氷の宇宙船オリンピア1号の居住区の実物大模型がありました。トンボー館長から中に入ってもいいですよと言われたので、キャプテン・レンジャーは操縦室や休憩室を見て回りました。驚いたのは休憩室にコタツがあったことです。

レ「驚いたねえ、やっぱり昔はいい暖房器具がなかったのかねえ。コタツで宇宙旅行たあ気の毒なもんだ」
ト「それこそがキージェの偉大さを表しておるのです」
レ「そりゃどういうこったい?」

 トンボー館長は説明を始めました。

 ・・・昔の未来と言いますかな。宇宙船は最先端の人工環境と考えられておったはご存知でしょう。宇宙食といえば定番は栄養豊富なタブレット。銀色に輝く服を着て、さっそうと宇宙を駆け巡るという姿を人々は無批判に受け入れました。ところが、ゴーヒャ・キージェの視点は違っておった。科学や技術がどんなに速く進歩しても、生物としての人はその速さでは進化しないし、ましてや意識の変化には時間がかかるのです。

 キャプテン・レンジャーは思い当たるところがあって、たちまち聞き入ってしまいました。トンボー館長は続けます。

 ・・・食べ物は、栄養補給のためにあるのではありません。確かに錠剤で計算し尽くされた完全栄養をとれば生きていけるでしょう。しかし、精神は正常を保てないかも知れない。人は、食べる喜びが必要なのです。噛みきって咀嚼して、ごっくんと飲み込むという動作が必要なのです。それと同じように、身体に触れる衣服は自然素材か、あるいはそれによく似たものでないと長い間には疲労がたまって、しまいには疲れ切ってしまう。コタツもそのひとつなのです。


つづく

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2005-08-23 ポロの日記 2005年8月22日(光曜日)キャプテン・レンジャー火星を行く その4

キャプテン・レンジャー火星を行く その4


 長年の習慣を急に変えるよりは、宇宙船操縦などの当番を終えてコタツで暖まることが長い航海を耐え抜くポイントなのです。ゴーヒャは、それを最初から見抜いていたのです。それも6000年も前に。

 キャプテン・レンジャーは、もう一度最初の展示室に戻りました。すると、先ほどまでは見えなかったゴーヒャ・キージェのメッセージが工房の道具類から、あるいはキージェが開発した機械類から語りかけられてくるのが分かりました。

レ「館長さんよ。オレは今までいろんな博物館に行ったもんだが、単なる物見遊山(ものみゆさん)だったかもしれねえな。オレは今はじめて物が語るのを聞いたぜ」
ト「それはよかった。ここに来てもらった甲斐があるというものです」
レ「今じゃそういう哲学をもった科学者やエンジニアは絶滅しちまったのか?」
ト「そんなことはありませんぞ。ほとんど所在が知れないらしいが、裏しびれ大学のホリテッカン博士はゴーヒャ・キージェと同じくらい尊敬を集めているという話を聞いたことがある」
レ「ホリテッカン博士か、オレも弟子入りできるかな?」
ト「さあ、本当になかなか所在がつかめない方らしいです。噂では、いま、セドナにいらっしゃるとも聞いていますが・・・」
レ「セドナか、そりゃ遠いな。オレも最近ララトーヤまでは行ってきたが、セドナじゃさすがに定期便もないからな」
ト「他にもゴーヒャ・キージェの薫陶を受けた方々が活躍なさっているということですから辛抱強く探し続ければいつかは出会えるのではとも思いますな」
レ「実は、オレはスーパーヒーローに限界を感じてきているんだ。ゴーヒャ・キージェこそ、オレの人生の師なのかも知れねえ。そういえばアメンのヤツもゴーヒャ・キージェのことを知ってるみたいだったな」
ト「バカンス号でご一緒だった猫の星の方ですね。猫の星ではゴーヒャ・キージェは英雄ですから。キージェのおかげで、猫の星ドーラでは今もって公害問題や化学物質による健康被害が出ていません」
レ「そうなのか」
ト「はい。科学がどんなに進歩しても安易に技術として利用しないからです」
レ「やっぱり科学と技術は別だったんだな」
ト「猫の星では、それが常識であると聞いていますな」
レ「んんんん! オレはそこに本物の正義を見たぞ。やっぱりオレは環境ヒーローだ。お邪魔した。地球に戻る。オレの進む道が見えたよ。トンボー館長、ホントに感謝するぜ、いくら感謝しても感謝したりねえ」
ト「喜んでいただければ何よりです。私もここの館長を務めていることを誇りに思いますよ」

 キャプテン・レンジャーは、その日の地球行き最終便を予約しました。それは旧式の宇宙船“轟天号”でしたが、それがどのような宇宙船であるのか、キャプテン・レンジャーは知る由もありませんでした。


おしまい


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