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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-08-23 ポロの日記 2005年8月22日(光曜日)キャプテン・レンジャー火星を行く その4
2005-08-22 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第3回 キャプテン・レンジャーの長い旅 その1
2005-08-21 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第3回 キャプテン・レンジャーの長い旅 その2
2005-08-20 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第3回 キャプテン・レンジャーの長い旅 その3
2005-08-19 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第3回 キャプテン・レンジャーの長い旅 その4
2005-08-18 ポロの日記 2005年8月18日(草曜日)ポロ、キャンディ横丁に行く その1
2005-08-17 ポロの日記 2005年8月18日(草曜日)ポロ、キャンディ横丁に行く その2
2005-08-16 ポロの日記 2005年8月18日(草曜日)ポロ、キャンディ横丁に行く その3
2005-08-15 ポロの日記 2005年8月18日(草曜日)ポロ、キャンディ横丁に行く その4
2005-08-08 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第2回 蘇れ、猫の目レンズ塔 その1


2005-08-23 ポロの日記 2005年8月22日(光曜日)キャプテン・レンジャー火星を行く その4

キャプテン・レンジャー火星を行く その4


 長年の習慣を急に変えるよりは、宇宙船操縦などの当番を終えてコタツで暖まることが長い航海を耐え抜くポイントなのです。ゴーヒャは、それを最初から見抜いていたのです。それも6000年も前に。

 キャプテン・レンジャーは、もう一度最初の展示室に戻りました。すると、先ほどまでは見えなかったゴーヒャ・キージェのメッセージが工房の道具類から、あるいはキージェが開発した機械類から語りかけられてくるのが分かりました。

レ「館長さんよ。オレは今までいろんな博物館に行ったもんだが、単なる物見遊山(ものみゆさん)だったかもしれねえな。オレは今はじめて物が語るのを聞いたぜ」
ト「それはよかった。ここに来てもらった甲斐があるというものです」
レ「今じゃそういう哲学をもった科学者やエンジニアは絶滅しちまったのか?」
ト「そんなことはありませんぞ。ほとんど所在が知れないらしいが、裏しびれ大学のホリテッカン博士はゴーヒャ・キージェと同じくらい尊敬を集めているという話を聞いたことがある」
レ「ホリテッカン博士か、オレも弟子入りできるかな?」
ト「さあ、本当になかなか所在がつかめない方らしいです。噂では、いま、セドナにいらっしゃるとも聞いていますが・・・」
レ「セドナか、そりゃ遠いな。オレも最近ララトーヤまでは行ってきたが、セドナじゃさすがに定期便もないからな」
ト「他にもゴーヒャ・キージェの薫陶を受けた方々が活躍なさっているということですから辛抱強く探し続ければいつかは出会えるのではとも思いますな」
レ「実は、オレはスーパーヒーローに限界を感じてきているんだ。ゴーヒャ・キージェこそ、オレの人生の師なのかも知れねえ。そういえばアメンのヤツもゴーヒャ・キージェのことを知ってるみたいだったな」
ト「バカンス号でご一緒だった猫の星の方ですね。猫の星ではゴーヒャ・キージェは英雄ですから。キージェのおかげで、猫の星ドーラでは今もって公害問題や化学物質による健康被害が出ていません」
レ「そうなのか」
ト「はい。科学がどんなに進歩しても安易に技術として利用しないからです」
レ「やっぱり科学と技術は別だったんだな」
ト「猫の星では、それが常識であると聞いていますな」
レ「んんんん! オレはそこに本物の正義を見たぞ。やっぱりオレは環境ヒーローだ。お邪魔した。地球に戻る。オレの進む道が見えたよ。トンボー館長、ホントに感謝するぜ、いくら感謝しても感謝したりねえ」
ト「喜んでいただければ何よりです。私もここの館長を務めていることを誇りに思いますよ」

 キャプテン・レンジャーは、その日の地球行き最終便を予約しました。それは旧式の宇宙船“轟天号”でしたが、それがどのような宇宙船であるのか、キャプテン・レンジャーは知る由もありませんでした。


おしまい


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先頭 表紙

2005-08-22 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第3回 キャプテン・レンジャーの長い旅 その1

キャプテン・レンジャーの長い旅 その1


 キャプテン・レンジャーは、シュレーディンガー商会で売っている「スーパー・ヒーロー・キットS型」が欲しくて仕方ありませんでした。黒いジャージにリサイクルショップで買ったフルフェイスヘルメットで出動してもカッコ悪いからです。
今朝もキャプテン・レンジャーは練馬の安アパートからアルバイトにでかけました。今日は道路工事の交通整理です。旗を振るとどのクルマも指示に従うので、キャプテン・レンジャーはこの仕事が大好きでした。スーパー・ヒーローとしての仕事は収入がないので、とにかく働かなければなりませんでした。
 子どものころから正義感に燃えていたキャプテン・レンジャーは、大人になったら絶対スーパー・ヒーローになって悪と戦うと心に決めていました。その決心は、ついに変わらず、本当にスーパー・ヒーロー・キャプテン・レンジャーを名乗るようになりました。
 しかし、スーパー・ヒーローは資格や免許が必要なわけではないかわりに実力勝負の世界でした。つまり、救出依頼がこなければプロではないのです。それで、町内の回覧板や練馬区のいくつかのミニコミ紙に宣伝も出してみました。

 困ったときのあなたのたのもしい助っ人キャプテン・レンジャー!
 イザというときに0123-456-789までお電話ください!

 すると、次の日からひっきりなしに電話がかかってきました。

電話「もしもし、キャプテン・レンジャーさん? 配水管がつまっちゃったんだけど」
レ「はい、すぐに救援に向かいます!」

 キャプテン・レンジャーは、自転車のファルコン号に乗って大泉学園町を駆け抜けて現場に急行しました。

レ「大丈夫ですか? で、怪獣が詰まっているという配水管はどこですか?」
主婦「ここなのよ。はやく何とかして」

 キャプテン・レンジャーが配水管を掃除すると、水が流れるようになりました。

レ「終わりました。捜索しましたがゴミ以外見当たりませんでした。怪獣は逃げたようです」
主婦「まあ、助かったわ! おいくら?」
レ「いえ、お金などいただくわけにはいきません。スーパー・ヒーローですから。ジャッ!」

 そういうと、キャプテン・レンジャーはファルコン号にまたがってさっそうと帰っていきました。
 キャプテン・レンジャーはスズメバチの巣と戦い、鍵をなくして家に入れなくなった人のために窓ガラスを割ってガラス代の弁償を求められらたり、子守をしたりして世の中のために無償で働きました。
 しばらく、そのような生活を続けて、ようやくキャプテン・レンジャーは、自分が便利屋と間違えられていることに気づきました。

「あちゃー・・・・・」

 キャプテン・レンジャーは、ひたいに左手を当てると、落胆したように言いました。
 今度は夜間パトロールをすることにしました。
 ところが人通りの少ない暗がりを黒ジャージにフルフェイスヘルメット姿で歩いていたので、すぐに警官から職務質問されました。
 名前を聞かれたので、待ってましたとばかりにおもむろに右腕を斜め上に上げて斜に構え、遠くを眺めるようなポーズをとって、ゆっくりと「・・・・・・キャプテン・・・レンジャー!」と答えました。
 キャプテン・レンジャーはすぐに交番に任意同行されてしまいました。


つづく

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2005-08-21 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第3回 キャプテン・レンジャーの長い旅 その2

キャプテン・レンジャーの長い旅 その2


 キャプテン・レンジャーは方針を変えました。今度はトラブルの起こりそうな繁華街を中心にパトロールすることにしたのでした。どうせ行くなら大きな繁華街をと思って、ファルコン号にまたがると、キャプテン・レンジャーは池袋に向かいました。
 深夜の池袋西口には黒いつなぎにフルフェイスヘルメットの集団がいて、似たような姿のキャプテン・レンジャーを見つけると、その中の何人かがやってきました。やりとりは省略しますが、彼らの神経を逆なでするようなことを言ってしまったキャプテン・レンジャーは、その後、彼らにボコボコにされてしまいました。
 キャプテン・レンジャーは、また学びました。スーパー・ヒーローは強くなくてはならないのです。そして、なぜ、スーパー・ヒーローたちがおしなべて変身するのかも分かりました。スーパー・ヒーローは“その時”がやってくるまで目立ってはならないのです。
 キャプテン・レンジャーは自らを鍛えるために格闘技を習うことにしました。公衆電話の電話帳で極芯空手道場など、いくつかの道場に費用を問いあわせてみましたが、どこも高くてキャプテン・レンジャーには払えそうにありませんでした。
 しかし、とうとう月謝3000円の太極拳道場を見つけました。これなら何とかなります。太極拳という響きが中国4千年の歴史を感じさせて強そうです。
 指導者はステキな中年女性でした。年上が好みのキャプテン・レンジャーは、同門の人たちが高齢者ばかりであることなど、全く気にせずせっせと通いました。
 それから1年。そろそろ基礎課程も終わりだろうと思って、キャプテン・レンジャーは師匠に思いきってたずねました。

「押忍! 格闘の実戦練習はいつからでしょうか!」
「まあ、格闘技を期待していたのね」
「押忍!」
「太極拳にもそういう流派があるけれど、ここは健康を目的とした太極拳道場なのよ。どう、あなた、最近風邪をひいたりしなくなったではないかしら?」
「・・・・・・・」

 そう言われてみると、確かに風邪などひかなくなりました。

「押忍! 師匠、おせわになりました!」

 グズグズしてはいられませんでした。こうしている間にも、世の中に悪がはびこるからです。近所の中華店で皿洗いのアルバイト中も体力強化のためのランニング中も布団に入ってからも、キャプテン・レンジャーは気が気ではありませんでした。
 しかしそんなある日、とうとう“スーパー・ヒーロー・キットS型”が買えるだけの貯金がたまりました。
 次の風曜日、キャプテン・レンジャーは日が沈むのを待ってファルコン号に乗って裏神田にあるシュレーディンガー商会に向かいました。
 古いドアを空けて店内に入ると、かび臭い匂いとともに、陰気な店主、松戸修士の無愛想な「いらっしゃいませ」という声が耳に入りました。

レ「す、す、スーパー・ヒーロー・キットS型、ください・・・」

 キャプテン・レンジャーは緊張してうまく言えませんでした。

主「ああ、あれは製造中止になりました。スーパー・ヒーローものは流行りすたれが激しくて、長くて半年しか製造されないんです」
レ「今は、どんなものがあるんですか?」

 店主は店の奥から薄っぺらい“最新スーパー・ヒーロー・キット・カタログ”を持ってきました。手渡されたカタログを開いてみると、キャプテン・レンジャーは仰天しました。ピンクのつなぎ服にたくさんのスパンコールがキラキラ輝いていました。


つづく

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2005-08-20 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第3回 キャプテン・レンジャーの長い旅 その3

キャプテン・レンジャーの長い旅 その3


“どんなに遠くからでも、駆けつけるあなたの姿が確認できます。これからはスパンコール付きウェアがスーパーヒーローの標準。・・・G型こそ現代の正義の証”

主「最新の流行ですよ。最近ではスーパー・ヒーロー志願者が増えて、このくらいしないと目立たないらしいですよ」

 そこに、風采の上がらないサラリーマン風の中年男が高価なケイバーリットを束のように抱えて支払いにやってきました。

主「これはこれはミタさま。これだけの量だと大変なものをお作りになるんですね」

 ミタさまと呼ばれた男は、サイフからキャプテン・レンジャーにとっては途方もない大金9万5千円を出すと「ダイソン工房の工作室を予約してあるんですよ」と言って、店を出ていきました。その後ろを猫がついていったような気もしましたが、夜だったのでよく分かりませんでした。
 それからもう一度スーパー・ヒーロー・キット・カタログに目をとおすと、全てが値上がりしていて、キャプテン・レンジャーの所持金ではわずかに足りないことが分かりました。しかし、カタログに載っていた別の製品が目に入りました。

“SOSレシーバーZ型「はやみみ救援くん」 助けを求める人の精神波をキャッチ、スーパーヒーローのあなたは誰よりも早く救援に向かうことができます”

「これだ! これこれ! これを探していたんだ!」

 値段もちょうど所持金で間に合いそうでした。

主「はい、ありがとうございます。006P電池をサービスでおつけしておきます」
レ「あ、ども・・・、どもありがとうございます」

 店を出るとキャプテン・レンジャーは、さっそくz型レシーバーに006P電池をセットしてスイッチを入れました。すると、いきなり大量のSOS信号が嵐のように入ってきました。どれも方向は一緒です。

「方向としては水道橋のほうかな?」

 だいたいの当たりをつけると、キャプテン・レンジャーはファルコン号のペダルを全力でこいで現場に急行することにしました。液晶画面には「きゃー、助けて!」の文字が猛スピードで次々と現れては消えていきます。

「これだけの人数からの信号が来るなんて、テロかもしれないぞ」

 キャプテン・レンジャーは心臓が破れてしまうのではないかと思うくらい我を忘れてペダルに力を込めました。
 信号強度が最大になったので周囲を見渡すと、そこには絶叫マシンがたち並ぶ遊園地がありました。

「ちっくしょう!」

 あらためて取り扱い説明書を読むと「絶叫マシンやお化け屋敷のある遊園地などの近くでは誤信号が入感しますので、そういう時には別売りのアッテネータで感度を調節してください」とありました。
 体力を使い果たしたキャプテン・レンジャーにとって練馬は果てしなく遠く感じられました。

 疲れ果てたキャプテン・レンジャーが目覚めたのは翌日の夕方でした。

「しまった!」

 今日の日中は道路工事現場の交通整理の仕事があったのでした。キャプテン・レンジャーは、すぐに警備会社に連絡をいれましたが、大目玉を喰らったばかりか今後仕事をすっぽかすようなことがあったらもう契約打ちきりと通告されてしまいました。
 正義を行なうのはなんと難しい時代なんだろうと、キャプテン・レンジャーは唇を噛みしめました。
 朝食兼昼食兼夕食を食べ終わると、キャプテン・レンジャーは再びz型レシーバー“はやみみ救援くん”のスイッチを入れました。
 すると電源投入と同時に救援サインが入ってきました。


つづく

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2005-08-19 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第3回 キャプテン・レンジャーの長い旅 その4

キャプテン・レンジャーの長い旅 その4


「ふふふ。やっぱり悪のはびこる時代なんだぜ」

 さっそくファルコン号にまたがると、後輪がパンクしていました。キャプテン・レンジャーは疲れた身体に鞭打って走って現場に向かいました。現場は、なんとキャプテン・レンジャーのアパートからほんの200メートルほどのところでした。キャプテン・レンジャーは物陰で黒のジャージに着替え、黒いフルフェイスのヘルメットをかぶると信号が発信されてくる賃貸マンションの玄関ドアを開けました。
玄関先には消費者金融の取り立てに来たらしいその筋の2人組と、中年夫婦がいました。

レ「悪徳金融め、キャプテンレンジャーが来たからには不当な取り立ては許さんぞ!」

 その場にいた4人が固まったのを見てキャプテン・レンジャーは勝ち誇ったように胸を張りました。
 取り立てにきた金融業者に向かって、太極拳のポーズをとると、業者が説明を始めました。話を聞くとこの夫婦は滞納常習者で、いくつもの消費者金融を手玉にとっては夜逃げを繰り返しているということでした。2人は、すべて法律どおりの営業をしている良心的な金融業の社員でした。
 すると夫婦の妻のほうがキャプテン・レンジャーに、ものすごい剣幕で詰め寄ってきました。

妻「あんた、人の家庭のプライバシーに踏み込むんじゃないよ。だいいち、ノックもしないで入ってきたんだから居住建造物侵入だよ。あんた。警察に電話しておくれ。不審者をつかまえたってね」

 キャプテン・レンジャーは、すぐに外に出ると走って逃げました。

「くそう、なんてこった。正義のキャプテン・レンジャーが法律違反をしちまった。いま警察が来たら、どう考えても逮捕されるのはオレだけだ」

 それから数年後。
 キャプテン・レンジャーは念願のスーパー・ヒーロー・コスチュームを手に入れて、日曜日にはデパートや商店街などでスーパー・ヒーロー・ショーに出演していました。
 結局、子どもたちに正義を教えることが、正義を伝道するもっともよい方法なのではないかと気がついたのです。
 最近ではコビト星人のテレビ番組にもレギュラー枠を持つまでになりました。地球での仕事は多くないものの、遠く小惑星ララトーヤでのネズミ退治や、火星マルエツのスーパー・ヒーローショーにも出演しました。
 でも、平日は相変わらず駐車場の管理人や交通整理をして生活費を稼がなければなりませんでした。そんな苦労も、ショーを見に来た子どもたちの笑顔を見ると忘れてしまうのでした。

 みなさん、もし、正義が危機に瀕するようなことがあったら、ぜひキャプテン・レンジャーに連絡してください。“はやみみ救援くん”の電池は、あの事件以来、ついに交換されることがありませんでした。だからあなたが叫んでも無駄です。でもキャプテン・レンジャーは毎朝、練馬区大泉学園のどこかを太極拳のポーズをとってはジョギングをくりかえしていますから、すぐに見つかることでしょう。





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2005-08-18 ポロの日記 2005年8月18日(草曜日)ポロ、キャンディ横丁に行く その1

ポロ、キャンディ横丁に行く その1


 ポロは、せんせいのおつかいで火星東キャナル市のキャンディ横丁に買いだしに行くことになりました。
 大泉学園宇宙空港は省エネのために、冷房装置が全て非電化エアコンに置き換えられていましたが、それが故障したためにうだるような暑さでした。

「よう、アメンじゃないか」

 ふり返ると、それはキャプテンレンジャーでした。

ポ「わ、キャプテン・レンジャーじゃないか! またこの空港で会ったね」
レ「今年の休暇は火星のシルティスランドで過ごすのさ」
ポ「分かってるよ、休暇じゃなくてキャプテン・レンジャー・ショーでしょ」
レ「ちぇ、バレバレか。お前さんもショーか?」
ポ「ううん、ちあうよ。ポロは、せんせいのおつかいで東キャナル市のキャンディ横丁に買い物に行くんだよ」
レ「そんなとこまで、いったい何を買いにいくんだ?」
ポ「えっと、大根とニンジンと・・・それから寒天だな」
レ「違うだろ、ダイコナとニンジーア、それからカンティナンだろ?」
ポ「あ、ホントだ。ローマ字で書いてあるから間違えちゃったよ。いったい何なんだろう?」
レ「なんだ、そんなことも知らずに買いに行くのか」
ポ「せんせいが説明してくれたんだけど、ポロ、うわの空だったから覚えてないんだよ」

 ポロたちが乗るのはダイモス・エアロ・スペシアル航空の火星行きロケット335便“バカンス号”でした。バカンス号は宇宙ステーション“越後3号”から出発するので、そこまでは練馬航空のシャトルに乗ります。JR最強線に名前がないように、シャトルには機体ナンバーがあるだけで、名前はありませんでした。今年の6月に小惑星“ララトーヤ”に行ったときの宇宙船と同じように機首のローターを回転させながら離陸しました。地球-月の第2ラグランジュポイントにある越後3号は火星や金星へ向かう花形路線のロケットが発着する最新鋭の宇宙ステーションです。キャプテン・レンジャーとポロは、バカンス号のエコノミー席に座りました。ポロのとなりには、肌の浅黒い頑固そうなおじいさんがいましたが、それは例外中の例外で、バカンス号船内は夏休みの休暇を火星で過ごす家族連れでいっぱいでした。

ポ「こないだの大泉学園航空のロケットとは大違いだね。なんだかゴージャスだし、快適だよ」
レ「機内食もカップ麺なんかじゃないぜ。なにしろ火星航路はドル箱だからな」

 機内アナウンス「本日はダイモス・エアロ・スパシアル航空のバカンス号をご利用いただきましてありがとうございます。当機は間もなく宇宙ステーション越後3号を離れ、火星へと向かいます。皆さま、どうぞ席お着きになってください。身体を固定するハーネス装置が作動いたします。最新鋭の短距離ワープエイト航法で飛行しますので、クリュセ空港到着は3時間24分後の午後2時47分の予定です。火星大シルティス地方時間では午前8時31分の到着です」
ポ「わあ、楽しみだなあ。ポロ、一度こういう宇宙船に乗ってみたかったんだよ」
レ「オレもだよ。今回のスポンサーは気前がいいぜ。前なんか三河屋の貨物ロケットに便乗したこともあったんだぜ」
ポ「あ、ポロも三河屋さんのデリバリーシップなら乗ったことあるよ。ノストロモ号っていうんだ。是輔(これすけ)さんていう人が操縦してるの。昆布茶とかイモようかんだしてくれるんだ」
レ「そりゃいいな。オレん時は牛だの豚だの運ぶ大型の貨物船だった。一週間、ずっと段ボール箱から水戻し型のドライタイプの宇宙食をひとりきりの船室で食ってたよ」


つづく

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2005-08-17 ポロの日記 2005年8月18日(草曜日)ポロ、キャンディ横丁に行く その2

ポロ、キャンディ横丁に行く その2

 バカンス号は音もなく越後3号ステーションを離れました。人工重力発生装置や加速度緩和装置が働いて、ポロたちにはバカンス号が加速しているのかどうかさえ、よく分かりませんでした。
 出発してすぐにお昼になったので、キャビン・アテンダント(C.A.)のお姉さんたちがおいしそうな機内食を持ってきてくれました。ポロは搭乗手続きの時に“桜御膳”を頼んでおいたので、桜の葉のいいにおいのするご飯が運ばれてきました。キャプテン・レンジャーはこの航空会社の定番“ダイモス・ランチ”でした。となりのお爺さんは特注ベジタリアン“精進料理”でした。

レ「一度、食ってみたかったんだ」

 お昼が始まると、子ども連れの多い機内は、なんだか大変なことになってきました。スープやジュースをこぼす子どもがいるかと思えば、はやく食べ終わって飽き始めた子どもたちが通路を走り回りはじめました。

レ「まったく、親はちゃんと面倒みなくちゃダメだよな。しつけがなってないよ」
ポ「うん。そだね。しつけがなってないからこうなるのか」
レ「ピーピーキャーキャーうるさくてしょうがねえ」
ポ「そう言われてみればうるさいね」
レ「そういえばよ、今度の選挙どうする?」
ポ「キャプテンは? ポロ、選挙権ないけど」
レ「そうか。そりゃ残念だったな。ポーズだけがあって政策がないような首相じゃ、オレはダメだと思うね。それに支持者も金もうけばっかり考えてるような連中ばっかりじゃねえか」
ポ「ふ〜ん、そうなのか」
レ「まったく不景気だし、上に立つ連中に志ってえもんが足りないからだよな」
ポ「うん、志は大事だと思うな」

 すると、眠っていたように思えたとなりの席のおじいさんが突然言いました。

爺「待たれい」
ポ「な、なあに、おじいさん」
爺「ワシはただの旅の者じゃ。おぬしら、片方は他人の批判ばかり、もう片方は追随ばかりしておるな」
レ「そのとおりのことを言ったまでだぜ」
爺「批判してはいかんと言っておるのではない。批判は重要じゃからの」
レ「じゃあ、なんだってんだ」
爺「おぬしのは批判ではない」
レ「いったい何だってんだ」
爺「ただの悪態じゃ」
レ「じゃあ、批判てえのはどういうんだ」
爺「今、おぬしが公の場にいたとしよう。いま話に出てきた首相と公開討論の場じゃ。ポーズだけがあって政策がないとおぬしは堂々と言えるか。ここが密室で、批判の批判が返ってこないから言えるだけではないのか」
レ「オレはどこでだって言えるぜ」
爺「では、どういう政策をお持ちなのかと相手に切り返されたらどう答えるのじゃ」
レ「そん時にゃあ、なんとか答えるさ」
爺「みんなを納得させられるかの?」
レ「そんなの分かんねえよ」
爺「よほどしっかりした考えを持たないと、おぬしの発言は聞くものにとって負け犬の遠吠えにしか聞こえないのではなかろうか。ダメだというだけなら誰でも言えるからの」
レ「うるさい爺さんだな」
爺「うるさいとは、それはおぬしにとって“都合が悪い”という意味じゃろうか」
レ「そうじゃねえよ」
爺「では、なんじゃ?」
ポ「ねえ、キャプテン、このお爺さんの言ってること、面白いよ。いっそのことレクチャー受けちゃおうよ」
レ「ふん、勝手にしろ」


つづく

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2005-08-16 ポロの日記 2005年8月18日(草曜日)ポロ、キャンディ横丁に行く その3

ポロ、キャンディ横丁に行く その3


 キャプテン・レンジャーはお爺さんにやりこめられて反対側を向いてふて寝してしまいました。
 ポロは、お爺さんから続きを聞くことにしました。

ポ「ねえねえ、もっと話してよ」
爺「では、批評について話そう」
ポ「批評と批判は違うの?」
爺「違うとも。批評は褒めたりもする」
ポ「そっか」
爺「作家が本を書いたとしよう」
ポ「ポロもお話書くんだよ」
爺「そうか、それは読ませてもらいたいものじゃな」
ポ「うん」
爺「では、まずは批評じゃ。批評と感想は大きく異なる。読後感想のような批評を印象批評という。批評は好きか嫌いかではないからじゃ。真の批評は、批評された側をも成長させるものじゃ」
ポ「あ、それで、最初に批評の話を持ってきたんだね。ポロ、さっきの話で批判がちょっと分かった気がするよ」
爺「それは賢いことじゃ。まさにそのとおり、批判とは正論でなければならぬ。では、誰もが陥りやすい分かりやすい例をあげよう。
ポ「うん」
爺「金を儲けている者はたいてい羨望が裏返しとなった嫉妬を受ける。嫉妬するものはたいてい“金儲けのことばかり考えている”というような批判をする。それは本当じゃろうか。なぜわかるのじゃろうか」
ポ「わ、そだね」
爺「金儲けのことを一生懸命考えずに成功するじゃろうか」
ポ「なーるほど」
爺「金持ちを批判する者は、たいてい金儲けを汚いと決めつける。金儲けそのものはぜんぜん悪くない。悪いのはあこぎなことをして稼ぐ連中じゃ。これを勘違いしてはならん」
ポ「そうなのか〜。でも、よく分かんないや」
爺「もし、金儲けが悪ならば、法律を作って罰すればよい。今でも人を騙して儲けたら罰せられるはずじゃ。正当な儲けは、それがたとえ土地や株の売買であろうと、為替差益によるものであろうと、全く悪くないのじゃ。想像力が足りない者たちは、そういう成功者が金をころがして稼いでいると思っているが、多くは財産を失っておることを忘れてはならん。一部の才能と決断力のある経営者だけが実現しているのじゃ。だからと言って、わしとても、それらを手放しで褒めているわけではない。能力差がそのまま貧富の差になるような世界は、人々がおしなべて幸福になれる世界ではないからの」
ポ「ポロも、お金持ちはずるい人たちだって思ってたよ」
爺「そういう人が多いじゃろう。嫉妬する者たちはたいてい“金なんか暮らしていけるだけあればいい”などと言う」
ポ「そだね。よく聞くよ」
爺「たいていウソじゃ。そういう連中は立場が逆になると、突然守銭奴に成り下がるものじゃ。本当に金を前に積まれても“いりません”と言えるとしたら見上げたものじゃ。その証拠に、そういう者に限って宝くじを毎回買っていたりするものじゃ」
ポ「ポロ、いっぱい欲しいな。お金」
爺「何をするんじゃ?」
ポ「シュデンガンガー商会に行って、お店のもの全部買うんだ」
爺「そうか。モノが欲しいのか」
ポ「そう言えば、ポロ、前に一度死んじゃったことがあるんだけど、その時、何にもいらないような心境になったかも」
爺「そうじゃろう。それはよい体験をしたの」
ポ「でさ、お金持ち批判はどうすればいいの?」
爺「金に本当に興味がないものは、決して金持ちであることに関しては批判しないのじゃ。批判すると実にカッコ悪いということに気がついておるからじゃ。他人から見たら負け犬の遠吠えとしか見えんからな。それに気がつかん者は自分の力のなさと未熟さがさらけ出されているとはつゆ知らず、金持ち批判を繰り返す」


つづく

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2005-08-15 ポロの日記 2005年8月18日(草曜日)ポロ、キャンディ横丁に行く その4

ポロ、キャンディ横丁に行く その4


ポ「ふ〜ん。だんだんカッコ悪く思えてきた」
爺「批判すべきは、考えの誤っておる点じゃ。それは結局、金持ちであるかあるかどうかは関係ないのじゃ」
ポ「へえ、そうか。誤った考えってどういうの?」
爺「人にはやりたいことと、やらなければならないことがある。やらなければならないことというのは、食っていくためには仕事をしなければならないとか、義理があるからやらなくちゃならないとか、そういうことではない」
ポ「どういうこと?」
爺「おいおい分かることじゃろう。人の価値は、そのバランスで決まるといっても過言ではない。やりたいことばかりやっておるものは、厳しい言い方をすれば“くだらん人間”じゃ。“やらなければならないこと”を見いだしたとしたら、そうとう真剣に考えて生きてきた証拠じゃ」
ポ「やらなければならないことって、朝起きたら歯を磨くみたいなことじゃないんだね。ちょっと分かったかも。ポロも、やらなくちゃならないことが分かるようになるかなあ」
爺「そういう生き方をせねばならん」
ポ「お爺さんアリガト。ポロ、とっても勉強になったよ」

 すると、ふて寝していたキャプテン・レンジャーが起きだして言いました。

レ「爺さん、あんた何者なんだ。オレもあんたのお陰で目が覚めたぜ。今までエラくカッコ悪かったってわかったぜ。ちぇ。恥ずかしくって外、歩けねえ」
爺「ははは。それは進歩じゃ。ワシは火星のゴーヒャ・キージェ記念館で働いておる」
ポ「え゛〜〜〜〜〜!! すっご〜い! ポロ、ゴーヒャ・キージェのこと、とっても尊敬してるんだ」
爺「そうかそうか。キージェのことをよく知っていたね」
ポ「知ってるもなにもないよ。ポロの目標だよ。でも、どうして火星に記念館があるの?」
爺「火星で一番高い山の名前を知っておるかな?」
ポ「あ、オリンピア山だ!」
爺「名前の由来は、キージェのオリンピア工房じゃ。キージェは隠居後を火星で過ごした。そこで今の火星文明の礎(いしずえ)を築いたのじゃ」
ポ「すごいんだねえ」
爺「お前さんはどこへ行きなさる?」
ポ「ポロはキャンディ横丁に大根やにんじんを買いに行くんだよ」
爺「そうか。暇があったらぜひ記念館に来るとよい」
ポ「うん。でも、今回はトンボ帰りなんだ」
爺「そうか、またいつか会えるといいの」
レ「オレはよ、あんたを師匠にするって決めたぜ。ショーが終わったら、記念館寄らせてもらうぜ」
爺「おう、師匠になるほどの者ではないが、記念館では待っておりますぞ」

 それから間もなく、バカンス号は火星のクリュセ平原に着陸。ポロたち3人は、それぞれの目的地に向かったのでした。


おしまい


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2005-08-08 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第2回 蘇れ、猫の目レンズ塔 その1

蘇れ、猫の目レンズ塔 その1

 偉大な老ゴーヒャ・キージェからオリンピア工房を引き継いだブージー(猫の星の歴史教科書第3回 「ゴーヒャ・キージェ」参照)の初仕事は、魔術師たちが失敗した“猫の目レンズ塔”の復活でした。
 ここには国中のダイヤモンドと水晶が集められて使われています。水晶は溶かしてしまったし、ダイヤモンドは結晶構造面にそってカットされ、まるで隙間がないかのように組み合わされているので、元にもどして持ち主に返すこともできません。国王の側近の不正によって当初の計画とは異なる形で完成してしまった猫の目レンズ塔を本来の形に戻すのです。
 仕事を依頼してきたのはドーラ土木組合のゴジャイという男でした。

ゴジャイ「レンズ塔とオリンピア号の仕事は、言ってみりゃライバル同士の戦いだ。だがよ、いいものを作りたいだけのオレたちにとっちゃ、そんなことは関係ねえと思うんだ。ゴーヒャ・キージェっていう男もそうだと聞いてやってきた。ゴジャイが来たと伝えてくれ」
ブージー「親方はいません」
ゴジャイ「どっか出かけてるのかい。なら、また出直してくるぜ」
ブージー「そうではありません。親方はここを去られました」
ゴジャイ「そうか。隠居した場所はどこだ?」
ブージー「分かりません。親方は私に工房を引き継ぐと人知れず街を出ました」
ゴジャイ「そうか・・・・・・」
ブージー「・・・・・・・・・」
ゴジャイ「お前さんが工房を引き継いだんだな」
ブージー「そうです」
ゴジャイ「正直言って、オレにはおまえさんが頼りなく見える。少なくともオレの下で働いている若い衆のほうが頼りになりそうだ」
ブージー「申し訳ありません」
ゴジャイ「いやあ、謝る必要はないぜ。若いってえのはそういうことだ。もし、お前さんに見込みがあるなら、これからだんだんにそうなっていくってことさ」
ブージー「はい、精進します」
ゴジャイ「だが、もしゴーヒャという男の目に狂いがないのなら、お前さんは実はすごい男なのかもしれんな」
ブージー「すごいかどうかは仕事を見ていただくほかありません」
ゴジャイ「お前さんを試すというわけじゃあないが、もし、お前さんが猫の目塔の太陽追尾装置を設計できるなら、オレは図面を見ただけじゃ分からんから、本当に動く模型を作ってくれ。それを見てから仕事を頼むかどうか決めさせてもらうぜ。もちろん模型代は払う」
ブージー「この仕事の発注先はどこですか? ドーラ王ですか?」
ゴジャイ「いや、違う。オレたちだ。正確に言うと、オレたちの有志だ」
ブージー「えっ?」
ゴジャイ「考えてもみろ。国中の猫たちが家宝まで差しだして作ったレンズ塔がただのゴミになってるんだぜ。おまけに宮廷は、猫の目塔はもともとダメな計画だったと決めつけていやがる。だから、オレたちがやる」


つづく

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