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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2009-12-22 ポロプロジェクト2提供 お話の森 第16回 宇宙のクリスマス その1
2009-12-22 ポロプロジェクト2提供 お話の森 第16回 宇宙のクリスマス その2
2009-11-21 ポロの道場は引っ越し
2009-03-31 ポロ(ハトシェプスト王女)の御触書(おふれがき)第2回 ハトシェプストは、なぜ王女になったか その2 
2009-03-31 ポロ(ハトシェプスト王女)の御触書(おふれがき)第1回 ハトシェプストは、なぜ王女になったか その1 
2008-11-11 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 没原稿シリーズ2 森の惑星 その1
2008-11-11 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 没原稿シリーズ2 森の惑星 その2
2008-07-27 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 没原稿シリーズ1 スーパーヒロイン シオコ その1
2008-07-27 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 没原稿シリーズ1 スーパーヒロイン シオコ その2
2008-07-27 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 没原稿シリーズ1 スーパーヒロイン シオコ その3


2009-12-22 ポロプロジェクト2提供 お話の森 第16回 宇宙のクリスマス その1

 その日も小春日和で、12月だというのにポカポカと暖かかった。
 ひねくれ王女ハトシェプストが屋根の上でグータラと昼寝をしていると、空からサンタクロースのソリが降りてきた。

 しゃんしゃんしゃんしゃん♪

ハト「誰じゃ、わらわの眠りを妨げるのは!」

 サンタのソリはハトシェプストに影を落として上空10メートルほどのところに静止した。すると光の反重力シャフトが伸びてきて、ハトシェプストはサンタのソリに吸い上げられていった。

ハト「わ、よせ、やめろ! わらわはドーラ王朝の第一皇女ハトシェプストであるぞ」

 ハトシェプストは、あっという間もなくソリのキャビンにいた。

サンタ「悪いのう。暇そうだったからちと手伝ってほしい」
ハト「お、おまえアシャドマンだろう?」
サンタ「いや、そんな者は知らん。わしは認定サンタクロースじゃ。規則で本名は言えんが、今年転勤で銀河系を担当することになったのじゃ」
ハト「サンタにも転勤があるのか?」
サンタ「まあ、宇宙も広いからのう。10×10の76乗人の公認サンタがおって、時々持ち場を交代しておるというわけじゃ」
ハト「公認サンタだろうがなんだろうが、わらわにものを頼むとは許せん。成敗してくれれるわ!」
サンタ「やってみるがよい」
ハト「わ、わらわのような口をきくでない!」

 次の瞬間、ハトシェプストは宙に浮いたまま固まってしまった。

ハト「わ、わかったわかった。何でもする。何でもするから降ろしてくれ〜」
サンタ「偉そうなことを言っても性根の座っていないお姫さまじゃな」
ハト「うるさいうるさい、わらわを馬鹿にするとただではおかんぞ!」

 そう言った途端、ハトシェプストの身体はさらに高く上がった。
ハト「わ、うそじゃうそじゃ。はよ降ろせ〜」

 ハトシェプストは、ようやくキャビンのフロアに降ろされた。

ハト「・・・・で、何をすればよいのじゃ?」
サンタ「簡単なことじゃ。ただこの航法コンピュータの中に座っておればよい」
ハト「なぜ、わらわがこんなところに座らなければならないのじゃ?」
サンタ「ドレッディ、説明してやってくれ」

ドレッディと呼ばれた航法コンピュータはハトシェプストの脳に直接情報を送り込んだ。

ハト「うわ、気持ち悪いぞ。一度にあまりたくさんものを申すな!」
ドレッディ「失礼しました。しかし、すべてお分かりになられたことと思います。一切の誤解もないはずです」
ハト「そういえば、まるで見てきたかのように良くわかったぞ。こんなふうに勉強すればわらわもドーラいちの秀才になれるな」

 全てを理解したハトシェプストは航法コンピュータ内の座席に座ると「さあ、行こうではないか」と行った。
 
サンタ「理解するということは重要なことじゃ」
ハト「しかし、この船(ドレッドノート号)の航法コンピュータが生体脳の力を借りて動くことは分かったが、前任者のミーちゃんについての説明がなかったぞ」
ドレッディ「必要ならば送ります」
ハト「うわ! また気持ち悪いぞ!」
ドレッディ「それはあなたの脳の性能が悪いからです」
ハト「ぶ、侮辱したなあ〜」
ドレッディ「追加データです」
ハト「うわ、気持ちわり〜。ゆ、ゆるせんゆるせん! よよ、・・・な、なんとそういうことだったのか・・」
ドレッディ「あなたの現在の脳のスペック(諸元/性能)は、そのとおりです」
ハト「使い方が足りんのだな。よし、わらわの脳を精いっぱい使ってよいぞ。わらわは天才になるのじゃ。か〜っかっかっかっか!」
サンタ「理解するとは、かように大切なことなのじゃ」

つづく

 

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2009-12-22 ポロプロジェクト2提供 お話の森 第16回 宇宙のクリスマス その2

 

 ドレッドノート号はハトシェプストの脳の機能を借りて空高く舞い上がりました。

ハト「どこへ行くのじゃ」
ドレッディ「銀河系の反対側、ンギャロ・ンギャロ星団にある≠星です」
ハト「直接情報を流し込まれるのはすごいのう。目的地の正確な位置までわかったばかりか、地球語では読めない、その星の名前もわかったぞ。言葉とは不便なものじゃ」
ドレッディ「タキオン航法に入ります。気持ち悪いとか言わないでください」
ハト「か〜っかっかっか! なにをたわけたことを。わらわはドーラ王朝の第一皇女であるぞ。そんなこと言うわけがないであろう。お、お、お、おえ〜!気持ちわる〜!」

 しかし、それは一瞬のできごとだった。気がつくとドレッドノート号は≠星の周回軌道に入っていた。

サンタ「この星の大きな火山が噴火して、その噴煙がこの星の太陽の光をさえぎってしまったのじゃ。いま、ようやく生命の萌芽が育ちつつあるというのに、今のままでは絶滅してしまうかも知れん。今年のプレゼントは大気浄化システムじゃ」
ハト「自然の法則にさからって、人為的な工作をしてもよいのか?」
サンタ「神ならよかろう」

 ようやくハトは、全てを悟った。サンタは神の使いだったのだ。おまけに、大気浄化システムというのは植物の進化を少しだけ早めることだった。これで生命は海中のみならず、海底にも地表にも満ちることだろう。

サンタ「これで使命は達成された。ハト姫、ドレッディ、ご苦労であった」
ハト「もうおわりか。つまらんのう。もっと何かやろうではないか」
サンタ「では、地球の子どもたちにプレゼントを配るのを手伝ってくれるか?」
ハト「もちろんじゃ。なんだか頭がよくなった気がするぞ」
サンタ「気のせいではない。ずっと前にレオナルドとかいう男にも手伝ってもらったことがあった。そうじゃ、アルベルトとかいう男にも手伝ってもらったのう。彼らもきっと頭がよくなったことじゃろう」
サンタ「おお、きいたことがあるな。レオナルド・ダ・ヴィンチとアルバート・アインシュタインであろう。たしかに頭のよい連中じゃ。ま、わらわには届かんがな。か〜っかっかっか!」

サンタ「よし。ドレッディ。地球へ戻るぞ」
ドレッディ「ラジャー・ウィルコ」
ハト「おえ〜! 気持ちワル〜!」

 その夜、地球には銀色に光る粉が降り注ぎ、人々は笑顔になって、武器を持っていた兵士も思わず武器を手から放したということだった。


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

 野村茎一作曲工房

<ポロ・プロジェクト2>のメールアドレス

composer2002あっとexcite.co.jp
※あっとを@に変えてください。

 

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2009-11-21 ポロの道場は引っ越し

みなの者。「ポロの道場」の調子が悪くて更新できなくなったので引っ越しをした。
以下のURLにアクセスするがよかろう。

http://hatshepsut.bbs.fc2.com/

では、待っておるぞ。

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2009-03-31 ポロ(ハトシェプスト王女)の御触書(おふれがき)第2回 ハトシェプストは、なぜ王女になったか その2 

告 : ページが開いたらディスプレイに向かって、うやうやしく一礼せよ 


ハトシェプストは、なぜ王女になったか その1

 ドーラ王国の学校教育で最も重視されたのが進路指導でした。そもそも教育とは進路指導のことだったのです。ドーラでは「皆さんは将来どんな仕事に就きたいですか?」などという問いかけはありませんでした。誰もがなるべくして仕事に就くからです。
 ベートーヴェンは「力があるものは、力のないものに代わってその力を役立てるべきだ。故に音楽が得意な者は、その力を人々のために役立てる」と言いました。ドーラ王国における「ベートーヴェン主義」と呼ばれるものです。

ドーラ教育省会議室 進路審議会

教育大臣「う〜。では、進路会議を始めよう。バンショワ次官、報告を」
バンショワ次官「かしこまりました大臣。デュファイ教育長、説明を」
デュファイ教育長「はい、オケゲム次長から説明させます」
オケゲム次長「アグリコラ校長会代表、頼みますぞ」
アグリコラ校長会会長「マショー君、出番だ」
「・・同様に・・」
「・・延々と・・」

 結局、話し始めたのはドーラ王立小学校6年生担任のカラ・デュプレ先生でした。

デュプレ「得意分野のある子どもたちが3割、万能型が3割、能力的には高くなくとも忍耐力や順応性に長けたタイプが3割、この子たちは自ら進路を決めて、望んだ道を進めると思います。問題は残り1割の子どもたちです。審議対象となるのは全部で10人です」
大臣「では、最初の子どもについて話してくれたまえ」
デュプレ「はい、最初はサスケ・ハナコです。今までにないタイプの子どもで、学力も言語・身体能力も全て問題がないのに何もできません。いえ、できないのではなくて、しないのだと思います」
大臣「それは、どういうことかね?」
デュプレ「自分がやるべきことではない、あるいはやってはならないと思っているようです」
大臣「分からんな・・。学校への登校状況は?」
デュプレ「全て遅刻ですが、無欠席の皆勤です」
大臣「全て遅刻か?」
デュプレ「はい、学校には早く来ているらしいのですが、教室に生徒が揃ってからゆっくりと入ってきます」
大臣「そのような子どもにふさわしい仕事はあるのか?」
デュプレ「はい、初めてのケースですがドーラ教育法の付則にありました」
大臣「それはどのような仕事なのだ?」
デュプレ「はい、王女です」
一同「おお・・・・・・・!」

 その日、会議はそれで終わり、教育大臣は国王のもとに向かいました。

大臣「王様、ご機嫌うるわしゅうございます」
国王「で、何ごとじゃ?」
大臣「本日の進路審議会で、少々難しい問題が生じました」
国王「なんじゃ?」
大臣「ある子どもが、法律に則りますと進路は王女ということにございます」
国王「法にあるなら従おう。明日、その者に王宮に参るように申し付けよ」
大臣「はは〜」

つづく
 

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2009-03-31 ポロ(ハトシェプスト王女)の御触書(おふれがき)第1回 ハトシェプストは、なぜ王女になったか その1 

 告 : ページが開いたらディスプレイに向かって、うやうやしく一礼せよ


ハトシェプストは、なぜ王女になったか その2

 デュプレ先生はハナコに言いました。

デュプレ「ハナコちゃん」
ハナコ「なんじゃ。担任といえども気安く話かけるでない」
デュプレ「失礼しましたわ、姫」
ハナコ「・・・・。今、なんと申した?」
デュプレ「ヒ・メ・ですわ」
ハナコ「おう、ようやくわらわを認めたか」
デュプレ「それで、今日、国王に謁見を」
ハナコ「な、なに〜!?」
デュプレ「姫が取り乱しては民に示しがつきません」
ハナコ「そ、そうであった。で、でもドレスがないぞ」
デュプレ「国王からドレスも届いておりますわ、姫」
ハナコ「そ、そうか。話せるな、国王」

 ドーラ宮殿 国王謁見の間

国王「面(おもて)を上げい」
ハナコ「ご機嫌うるわしゅうございます、国王様」

 ハナコの堂々たる態度に、国王は一瞬にして統治者の資質を見いだしました。しかし、資質と実力は全く別物です。国王はハナコを鍛えることにしました。

国王「そちは、進路審議委員会からドーラ王宮の王女として推挙された。そこで、そちに力を試す機会を与えようと思う」
ハナコ「はは〜、ありがたき幸せに存じます」
国王「いま、アメン王子が地球に修業の旅に出ておる。だが、王子は近ごろ政情不安が続いている熊襲(クマソ)の治安部隊の司令官として任務に就かせる予定じゃ。王子は、地球では作曲工房というところでポロという名前で重責を担っておるらしい。というわけで、お前はポロ2世として後継者としての責を果たすがよかろう。しかし、本来の使命は統治者たる資質の獲得じゃ。王であれば誰もが従うというわけではない。王足る者にだけ従うのじゃ。地球の一部でもよい、統治して見せよ。そうなったらドーラに戻り、王女と認めよう」
ハナコ「はは〜、願ってもないことでございます。必ずや地球の民を幸せにしてみせましょう」
国王「今日からハトシェプストと名乗るがよかろう。高貴な名じゃ」
ハナコ「身に余る光栄でございます」

 かくして、その1ヶ月後、ハトシェプストは大泉学園宇宙空港にひとり降り立ったのだった。

ハトシェプスト「なんじゃ、到着初日から雨か。地球とはしけたところじゃのう」

 この時、ハトシェプストは待ち受ける困難をまだ知らなかった。
 
 おしまい



 ここは「野村茎一作曲工房HP」に君臨するハトが治める「ポロのお話の部屋」であるぞ。メインHPへは、下から参るがよかろう。

 野村茎一作曲工房

 わらわへの謁見を希望する者はこちらへ参れ。
 ポロの道場
 

先頭 表紙

2008-11-11 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 没原稿シリーズ2 森の惑星 その1

 
 21世紀のゾンビ諸君、沙汰なく時が過ぎてしまったことを詫びよう。何年か前には没原稿であった本作品も、今では真実味を増してきたような気がするがどうじゃ?
 書きかけなのだが、最後の一行を書き足してむりくり終わりにしてみた。
 ありがたく読むがよかろう。
 
 お話の部屋管理猫 ポロ(ポロは世を忍ぶ仮の姿、本当はハトシェプスト姫であるぞ)。


森の惑星 その1

 西暦2200年、ついにグリーンランドの氷は全て融けてしまい、もう地球上の氷河は南極に痕跡を少し残すだけとなってしまいました。グリーンランドは、名前のとおり、氷が消えて数年で草原地帯となって多くの人々が移住して行ったという噂でした。
 氷が融けただけではなく、海水の熱膨張も加わって加速した海面上昇によって、日本の平野部はとうとうそのほとんどが海底となり、山岳部が島のように点在するだけとなってしまいました。

ポロ「ねえ、キャプテン」
キャプテン・レンジャー「なんだ?」
ポ「グリーンランドは住みやすいらしいよ」
レ「噂だ、うわさ。ウ・ワ・サ」
ポ「なにも、漢字とひらがなとカナカナで3回も言わなくたっていいじゃないか」
レ「オレは、ここも気に入ってるぜ。いいところだ」
ポ「そだけどさ、どんなかなあグリーンランド」
レ「昔なら世界には情報が溢れていて少しは本当のことも分かったかも知れないが、今は何も分からない。噂ばかりだ」
ポ「でもさ、ホントかも知れないよ」
レ「ハワイじゃ海龍や翼竜が復活して暴れまくっているていう噂だが、お前さんは本当だと思うか?」
ポ「お、思うな」
レ「馬鹿たれ、くだらん話をしているヒマはないぞ。さ、仕事に行こうぜ」
ポ「うん」

 ポロとキャプテン・レンジャーは森を育てて暮らしていました。樹を植えて森を育てると、そこにはたくさんの昆虫、鳥、野生動物たちがやってきて豊かな生態系が生まれます。木の実や果実がたわわに実り、森の中を流れる川は魚でいっぱいでした。おまけに、川が海に流れ込む汽水域は生き物の宝庫でした。
 秋は森の実りの季節です。きのこ、果実、木の実、川魚、そして小さな畑での収穫。いくら温暖化が進んだとは言っても高原のこの土地は冬には冷え込む日もあるので、薪として枯れ枝も拾い集めます。

 その日の夕食はキノコと鮭のシチューとホクホクに焼けたジャガイモでした。

ポ「んまいなあ〜。ポロは幸せだよ〜」
レ「お前さんは何を食ってもうまいっていうな」
ポ「この森にまずいものなんかないよ」
レ「ああ、そうだな。昔は死んだ野菜や死んだ動物を食べてたらしいからな」
ポ「うん、とくに20世紀後半から21世紀前半が地球最悪の食事だったんじゃないかな」
レ「そんな時代に生まれなくてよかったぜ」
ポ「ホントだね。こないだ、あの水没図書館から拾ってきた行政ジャーナル2010年度版には、どこかの市長が“都市開発を進めて将来性豊かな町づくりを推進する”ってとんちんかんなことを書いてたよ」

つづく
 

先頭 表紙

2008-11-11 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 没原稿シリーズ2 森の惑星 その2

森の惑星 その2

レ「死んだ食い物を食える連中には本当のことなんか分からないだろうよ」
ポ「21世紀の地球人はゾンビだったんだね」
レ「ああ、そうだ。森をどんどん破壊して住む場所を作ってるつもりなんだから始末に負えないぜ」
ポ「石油を大気中で燃やしてたって聞いたことあるよ」
レ「そうだ。ガソリンで走るクルマが世界に何億台もあったって話だぜ。クルマを走らせてるから気がつかなかったんだろうがよ、もし、みんなが家の玄関前にガソリンエンジンを固定して、毎日何時間もただ排気ガスを出すためだけにガソリンを燃やしてるところを想像してみろよ」
ポ「・・・・想像した。自分が吸う空気を汚してるだけだね」
レ「走ったって、同じだけ汚れるんだ。でも走って役に立ってるような気がするからから汚れても平気なのさ」
ポ「ポロ、21世紀に生まれなくてよかったよ」
レ「だが、やつら気の毒だったぜ」
ポ「ゾンビは素敵な世界には適応できないんだよ」
レ「そういうことだ。やつら、何もできないんだ。鹿が一頭いても、たぶん食い物には見えないだろう。キノコが生えていても食えるか食えないか区別がつかない。植物もそうだ。パックされて店先に並んだものしか食えないから全然ダメだった」
ポ「仮にできたとしても秋に保存食を用意できなかったから冬の間に多くの人間が死んじまった」
ポ「原始人以下だね〜」
レ「馬鹿野郎。原始人は偉大だろう」
ポ「そだ!」
レ「21世紀は塩の作りかたさえ知らない人間ばかりだったんだぞ」
ポ「うそ〜!」
レ「本当だ。海水からにがりを取り除く方法を知らないから、塩の代わりに海水をそのまま使って料理してやっぱり多くの人間が寿命をうんと縮めたんだ」
ポ「そうだったのか〜。どうしてそんな簡単なことも知らなかったんだろう」
レ「計算とか、語学とかは勉強してたらしいが、肝心の生きる方法は誰も教えなかったんだろう」
ポ「そういえば、水は水道から出てくるって思ってたらしいね」
レ「そうだ。山に避難してきた連中も透明できれいだからという理由で、硬水のわき水を飲んでひどい目にあったらしいぜ」
ポ「水清くして魚棲まずっていうのは、結晶片岩とか、そういう地層からしみ出た水だっていうことだよね」
レ「おう、よく知ってるな」
ポ「だって、前にもキャプテンが話してくれたじゃないか」
レ「そうだったか」
ポ「そだよ」
レ「はっはっは。オレも歳をとったぜ」

 ポロたちの丸太小屋の外では、色づいた広葉樹の葉がサラサラと散っていくのでした。
 
おしまい


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

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2008-07-27 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 没原稿シリーズ1 スーパーヒロイン シオコ その1

 
 ポロ「キャプテン、このままじゃスーパー・ヒーローはどんどんすたれていっちゃうよ」
 
 20世紀後半には子どもたちの心をつかんで放さなかったスーパー・ヒーローも、21世紀も終わろうとする今では、かつての輝きを失っていました。子どもたちが好む物語では普通の主人公が勇気や仲間とのチームワークによって迫り来る問題や敵と立ち向かっていたのです。

キャプテン・レンジャー「なに言ってやがる。スーパー・ヒーローは不滅だぜ」
ポ「だって、滅亡寸前じゃないか〜」
レ「よく考えてみろ。お前だってアレキサンダー大王くらい知ってるだろう?」
ポ「うん、マケドニアの王で世界統一した人」
レ「そうだ。あいつこそスーパー・ヒーローだ。奴がいなくなってからマケドニアは小国のままだ」
ポ「ドーラで、王室付きの家庭教師だったアリス先生とテレス先生から習ったよ。大王が急死したあとは後継者たちが分裂して国は没落したんだ」
レ「なんだ、よく知ってるじゃないか」
ポ「知ってるだけだよ。知ってるだけじゃなくてホントに理解してたらポロは世界を統一してる」
レ「そうだな。オレも理解したいよ。アレキサンダーはイスラム圏の言葉で“イスカンダル”って言うんだぜ」
ポ「へえ・・・・。・・えっ、そうなんだ〜」
レ「ま、無駄な知識だがな。それにチンギス・ハーンも知ってるだろう?」
ポ「その人のことも習ったよ。モンゴルを統一したばかりか、広大なモンゴル帝国を築き上げた王だね」
レ「そうだ。ジンギスカン料理の考案者なんかじゃないぜ」
ポ「いまの余計・・」
レ「るせい。奴は人々の信頼を集める偉大な指導者だった。あいつのやることに、いちいちみんなが感心した。そして、みんなが心底従ったんだ。だからモンゴル外の制圧の時にもモンゴル軍はとてつもなく強かった」
ポ「すごいね。チンギス・ハーンを理解したらポロたち本物のスーパー・ヒーローだね」
レ「結局、世界の歴史はスーパーヒーローによって作られていくんだぜ」
ポ「どうしたらポロたち、ホントのスーパーヒーローになれるのかな」

ぴぴぴぴぴぴぴ。

レ「お、英雄興業プロダクションからメールだ」
ポ「新しい仕事?」
レ「いや、どうやら契約解除通知らしいぜ」
ポ「え゛〜〜〜〜! ポロたち何かドジったかな?」
レ「こないだのオレたちのショーの集客数が規定を下回っちまったらしい」
ポ「あれはギブリの新作アニメの公開日と重なったからだよ〜」
レ「そうか・・・。オレたち図られたんだ。つまり、体(てい)よく解雇されたってわけだ。誰か新しいヒーロー・スターでも見つかったかのかもな」
ポ「そう言えば、いままでギブリの新作公開日にショーはなかったね」
レ「くそう。次のショーにどんな奴が出てるのか見に行こうぜ」

 次の週末、ポロとレンジャーはコドモランドで開かれるスーパーヒーローショーに出かけました。

つづく

先頭 表紙

2008-07-27 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 没原稿シリーズ1 スーパーヒロイン シオコ その2

  
 <スーパーヒロイン シオコ・ショー>

レ「くっそう、やられたな。ショーを見に来てるのは子どもじゃないぜ。子どもを理由にしたオヤジたちだ」
ポ「どうして?」
レ「馬鹿野郎。猫だって、そのくらい見れば分かるだろう」

 特設ステージ上では、胸と腰を隠すわずかな布だけでできたコスチュームをまとった仮面のヒロインが敵役のアクション俳優たちと戦っていました。敵に後ろから羽交い締めされると、それを利用して目の前の敵を両足で蹴り上げました。そのたびに豊かな胸がぷるんぷるんと揺れ、歓声と大きな拍手が起こったのです。

ポ「うん、ポロにも分かったよ。ヒーロー興業もお色気路線に切り替えたっていうことだね」
レ「なあに、オレたちには本物の悪党どもと戦う仕事が残ってるさ」
ポ「でも、それって無給だから、なんかバイトさがさないとね」
レ「ああ、下水道清掃の仕事なら、オレたちスペシャリストだぜ」
ポ「夜は納豆工場だね」
レ「納豆菌は友達だぜ」

 ぴゅーわぴゅーわぴゅーわぴゅーわぴゅーわぴゅーわ!

 それから一週間後の深夜、熟睡していたポロたちの枕元で、通称「怪獣警報装置」がけたたましく鳴り響きました。

ポ「キャプテン、仕事だよ」
レ「・・・う、うん・・・」

 昨日まで夜勤続きで、2人は睡眠不足でした。

レ「ふ・・。スーパーヒーローが睡眠不足なんかに負けてちゃ怪獣や宇宙人には勝てないぜ。場所はどこだ?」
ポ「群馬県南部、“蟹の入江”の海岸線沿いを移動してるよ」

 地球温暖化による海面上昇は続き、今では海岸線は群馬県まで後退していました。

レ「よし、行くぞ」

 ポロたちは大きな声で「へんし〜〜〜〜ん!」と叫びながら、買い替えたまま、なかなか使う機会のなかったスーパーヒーローキットに着替えました。

 ポロたちの移動手段は電動スーパーカブの「サイクロン3号」です。ポロを前かごにポンと入れると、キャプテンはボリューム・グリップを回しました。

ひゅううううん。

 サイクロン3号は静かに走り始めました。タイヤもナノカーボン製の静音仕様でした。

ポ「エンジン音がないと迫力ないね」
レ「お前、真似しろ」
ポ「だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ〜!」

 ポロたちの住んでいる長野県から群馬県藤岡市までは曲がりくねった道を約50キロ走らなければなりません。サイクロン号の最高速度は30キロなので、2時間近くかかりました。

つづく
  

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2008-07-27 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 没原稿シリーズ1 スーパーヒロイン シオコ その3

  
 夜明けの藤岡市は半分水没していて、海面にはあちらこちらにビルの高層部分が突き出していました。
 
ポ「このへんのはずだけど」
レ「何もいないみたいだな」
ポ「誤報かな?」

 どばばばばばば〜〜〜ん!

 いきなり目の前の海面が盛り上がり、円盤型の黒い宇宙船が浮かび上がりました。

ポ「あ゛〜〜、ポロ、これ知ってるよ。ショッカー星人の攻撃型哨戒艇だ。弱ってる星ばかり狙って侵略してくるんだよ、ショッカー星人は」
レ「弱い所を突くってえのは、まあ常道だな」
ポ「ドーラ軍が太陽系の外縁部で侵入を防いでいるはずなのに」
レ「手ごわいのか?」
ポ「うん。ポロたちの装備じゃ太刀打ちできないかも」
レ「あいつの攻撃用兵装を覚えてるか?」
ポ「えっと、光子魚雷と粒子ビーム砲、それから近接防衛用のファランクスレーザー機銃だったと思うよ」
レ「くそう。ぜんぜん歯が立たないじゃないかよ」

 ぴーぴぴぴぴぴ!

 ショッカー艇の上部中央のドームから粒子ビーム砲が発射されました。その照準の先には小さな戦闘機がいました。

レ「なんだ、あれは」
ポ「ピンク色の味方らしいね」
レ「最近、ピンクは流行らないよな」

 戦闘機は見たことのないくさび形で、攻撃ビームをよけながらショッカー艇に近づいて行きました。

ポ「あぶない、近づいたらファランクスレーザーにやられちゃうよ」
レ「ファランクスは、ふつう自動で起動して攻撃するよな?」
ポ「うん、近づいてくるものならなんでも勝手に攻撃するよ」
レ「よし、アメン。できるだけたくさんの石をぶつけるんだ」

 ポロたちは海岸にコロがっている小石をゴムのパチンコでぽんぽんと飛ばしました。すると、ファランクスレーザーが自動攻撃を始めて、小石はジュバッ、ジュバッ、ジュバッと蒸発していきました。

 そのおかげでピンクの戦闘機はショッカー艇に充分近づくことができました。ファランクスレーザーは、より近い脅威である小石に対して防御しつづけていました。

レ「最新兵器なんてこんなもんだぜ。小石なんて痛くも痒くもないだろうに必死になって撃っていやがる」
ポ「ほら、ピンクの戦闘機がミサイルを発射したよ」
レ「当たれよ!」
ポ「それは、ポロたちしだいだよ。ショッカー艇のファランクスをビジー(忙しくて手が回らない)状態にしとかなくちゃ」
レ「まかせとけ」

つづく
  

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