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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-08-20 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第3回 キャプテン・レンジャーの長い旅 その3
2005-08-19 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第3回 キャプテン・レンジャーの長い旅 その4
2005-08-18 ポロの日記 2005年8月18日(草曜日)ポロ、キャンディ横丁に行く その1
2005-08-17 ポロの日記 2005年8月18日(草曜日)ポロ、キャンディ横丁に行く その2
2005-08-16 ポロの日記 2005年8月18日(草曜日)ポロ、キャンディ横丁に行く その3
2005-08-15 ポロの日記 2005年8月18日(草曜日)ポロ、キャンディ横丁に行く その4
2005-08-08 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第2回 蘇れ、猫の目レンズ塔 その1
2005-08-07 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第2回 蘇れ、猫の目レンズ塔 その2
2005-08-06 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第2回 蘇れ、猫の目レンズ塔 その3
2005-08-05 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第1回 レミングの恩返し その1


2005-08-20 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第3回 キャプテン・レンジャーの長い旅 その3

キャプテン・レンジャーの長い旅 その3


“どんなに遠くからでも、駆けつけるあなたの姿が確認できます。これからはスパンコール付きウェアがスーパーヒーローの標準。・・・G型こそ現代の正義の証”

主「最新の流行ですよ。最近ではスーパー・ヒーロー志願者が増えて、このくらいしないと目立たないらしいですよ」

 そこに、風采の上がらないサラリーマン風の中年男が高価なケイバーリットを束のように抱えて支払いにやってきました。

主「これはこれはミタさま。これだけの量だと大変なものをお作りになるんですね」

 ミタさまと呼ばれた男は、サイフからキャプテン・レンジャーにとっては途方もない大金9万5千円を出すと「ダイソン工房の工作室を予約してあるんですよ」と言って、店を出ていきました。その後ろを猫がついていったような気もしましたが、夜だったのでよく分かりませんでした。
 それからもう一度スーパー・ヒーロー・キット・カタログに目をとおすと、全てが値上がりしていて、キャプテン・レンジャーの所持金ではわずかに足りないことが分かりました。しかし、カタログに載っていた別の製品が目に入りました。

“SOSレシーバーZ型「はやみみ救援くん」 助けを求める人の精神波をキャッチ、スーパーヒーローのあなたは誰よりも早く救援に向かうことができます”

「これだ! これこれ! これを探していたんだ!」

 値段もちょうど所持金で間に合いそうでした。

主「はい、ありがとうございます。006P電池をサービスでおつけしておきます」
レ「あ、ども・・・、どもありがとうございます」

 店を出るとキャプテン・レンジャーは、さっそくz型レシーバーに006P電池をセットしてスイッチを入れました。すると、いきなり大量のSOS信号が嵐のように入ってきました。どれも方向は一緒です。

「方向としては水道橋のほうかな?」

 だいたいの当たりをつけると、キャプテン・レンジャーはファルコン号のペダルを全力でこいで現場に急行することにしました。液晶画面には「きゃー、助けて!」の文字が猛スピードで次々と現れては消えていきます。

「これだけの人数からの信号が来るなんて、テロかもしれないぞ」

 キャプテン・レンジャーは心臓が破れてしまうのではないかと思うくらい我を忘れてペダルに力を込めました。
 信号強度が最大になったので周囲を見渡すと、そこには絶叫マシンがたち並ぶ遊園地がありました。

「ちっくしょう!」

 あらためて取り扱い説明書を読むと「絶叫マシンやお化け屋敷のある遊園地などの近くでは誤信号が入感しますので、そういう時には別売りのアッテネータで感度を調節してください」とありました。
 体力を使い果たしたキャプテン・レンジャーにとって練馬は果てしなく遠く感じられました。

 疲れ果てたキャプテン・レンジャーが目覚めたのは翌日の夕方でした。

「しまった!」

 今日の日中は道路工事現場の交通整理の仕事があったのでした。キャプテン・レンジャーは、すぐに警備会社に連絡をいれましたが、大目玉を喰らったばかりか今後仕事をすっぽかすようなことがあったらもう契約打ちきりと通告されてしまいました。
 正義を行なうのはなんと難しい時代なんだろうと、キャプテン・レンジャーは唇を噛みしめました。
 朝食兼昼食兼夕食を食べ終わると、キャプテン・レンジャーは再びz型レシーバー“はやみみ救援くん”のスイッチを入れました。
 すると電源投入と同時に救援サインが入ってきました。


つづく

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2005-08-19 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第3回 キャプテン・レンジャーの長い旅 その4

キャプテン・レンジャーの長い旅 その4


「ふふふ。やっぱり悪のはびこる時代なんだぜ」

 さっそくファルコン号にまたがると、後輪がパンクしていました。キャプテン・レンジャーは疲れた身体に鞭打って走って現場に向かいました。現場は、なんとキャプテン・レンジャーのアパートからほんの200メートルほどのところでした。キャプテン・レンジャーは物陰で黒のジャージに着替え、黒いフルフェイスのヘルメットをかぶると信号が発信されてくる賃貸マンションの玄関ドアを開けました。
玄関先には消費者金融の取り立てに来たらしいその筋の2人組と、中年夫婦がいました。

レ「悪徳金融め、キャプテンレンジャーが来たからには不当な取り立ては許さんぞ!」

 その場にいた4人が固まったのを見てキャプテン・レンジャーは勝ち誇ったように胸を張りました。
 取り立てにきた金融業者に向かって、太極拳のポーズをとると、業者が説明を始めました。話を聞くとこの夫婦は滞納常習者で、いくつもの消費者金融を手玉にとっては夜逃げを繰り返しているということでした。2人は、すべて法律どおりの営業をしている良心的な金融業の社員でした。
 すると夫婦の妻のほうがキャプテン・レンジャーに、ものすごい剣幕で詰め寄ってきました。

妻「あんた、人の家庭のプライバシーに踏み込むんじゃないよ。だいいち、ノックもしないで入ってきたんだから居住建造物侵入だよ。あんた。警察に電話しておくれ。不審者をつかまえたってね」

 キャプテン・レンジャーは、すぐに外に出ると走って逃げました。

「くそう、なんてこった。正義のキャプテン・レンジャーが法律違反をしちまった。いま警察が来たら、どう考えても逮捕されるのはオレだけだ」

 それから数年後。
 キャプテン・レンジャーは念願のスーパー・ヒーロー・コスチュームを手に入れて、日曜日にはデパートや商店街などでスーパー・ヒーロー・ショーに出演していました。
 結局、子どもたちに正義を教えることが、正義を伝道するもっともよい方法なのではないかと気がついたのです。
 最近ではコビト星人のテレビ番組にもレギュラー枠を持つまでになりました。地球での仕事は多くないものの、遠く小惑星ララトーヤでのネズミ退治や、火星マルエツのスーパー・ヒーローショーにも出演しました。
 でも、平日は相変わらず駐車場の管理人や交通整理をして生活費を稼がなければなりませんでした。そんな苦労も、ショーを見に来た子どもたちの笑顔を見ると忘れてしまうのでした。

 みなさん、もし、正義が危機に瀕するようなことがあったら、ぜひキャプテン・レンジャーに連絡してください。“はやみみ救援くん”の電池は、あの事件以来、ついに交換されることがありませんでした。だからあなたが叫んでも無駄です。でもキャプテン・レンジャーは毎朝、練馬区大泉学園のどこかを太極拳のポーズをとってはジョギングをくりかえしていますから、すぐに見つかることでしょう。





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2005-08-18 ポロの日記 2005年8月18日(草曜日)ポロ、キャンディ横丁に行く その1

ポロ、キャンディ横丁に行く その1


 ポロは、せんせいのおつかいで火星東キャナル市のキャンディ横丁に買いだしに行くことになりました。
 大泉学園宇宙空港は省エネのために、冷房装置が全て非電化エアコンに置き換えられていましたが、それが故障したためにうだるような暑さでした。

「よう、アメンじゃないか」

 ふり返ると、それはキャプテンレンジャーでした。

ポ「わ、キャプテン・レンジャーじゃないか! またこの空港で会ったね」
レ「今年の休暇は火星のシルティスランドで過ごすのさ」
ポ「分かってるよ、休暇じゃなくてキャプテン・レンジャー・ショーでしょ」
レ「ちぇ、バレバレか。お前さんもショーか?」
ポ「ううん、ちあうよ。ポロは、せんせいのおつかいで東キャナル市のキャンディ横丁に買い物に行くんだよ」
レ「そんなとこまで、いったい何を買いにいくんだ?」
ポ「えっと、大根とニンジンと・・・それから寒天だな」
レ「違うだろ、ダイコナとニンジーア、それからカンティナンだろ?」
ポ「あ、ホントだ。ローマ字で書いてあるから間違えちゃったよ。いったい何なんだろう?」
レ「なんだ、そんなことも知らずに買いに行くのか」
ポ「せんせいが説明してくれたんだけど、ポロ、うわの空だったから覚えてないんだよ」

 ポロたちが乗るのはダイモス・エアロ・スペシアル航空の火星行きロケット335便“バカンス号”でした。バカンス号は宇宙ステーション“越後3号”から出発するので、そこまでは練馬航空のシャトルに乗ります。JR最強線に名前がないように、シャトルには機体ナンバーがあるだけで、名前はありませんでした。今年の6月に小惑星“ララトーヤ”に行ったときの宇宙船と同じように機首のローターを回転させながら離陸しました。地球-月の第2ラグランジュポイントにある越後3号は火星や金星へ向かう花形路線のロケットが発着する最新鋭の宇宙ステーションです。キャプテン・レンジャーとポロは、バカンス号のエコノミー席に座りました。ポロのとなりには、肌の浅黒い頑固そうなおじいさんがいましたが、それは例外中の例外で、バカンス号船内は夏休みの休暇を火星で過ごす家族連れでいっぱいでした。

ポ「こないだの大泉学園航空のロケットとは大違いだね。なんだかゴージャスだし、快適だよ」
レ「機内食もカップ麺なんかじゃないぜ。なにしろ火星航路はドル箱だからな」

 機内アナウンス「本日はダイモス・エアロ・スパシアル航空のバカンス号をご利用いただきましてありがとうございます。当機は間もなく宇宙ステーション越後3号を離れ、火星へと向かいます。皆さま、どうぞ席お着きになってください。身体を固定するハーネス装置が作動いたします。最新鋭の短距離ワープエイト航法で飛行しますので、クリュセ空港到着は3時間24分後の午後2時47分の予定です。火星大シルティス地方時間では午前8時31分の到着です」
ポ「わあ、楽しみだなあ。ポロ、一度こういう宇宙船に乗ってみたかったんだよ」
レ「オレもだよ。今回のスポンサーは気前がいいぜ。前なんか三河屋の貨物ロケットに便乗したこともあったんだぜ」
ポ「あ、ポロも三河屋さんのデリバリーシップなら乗ったことあるよ。ノストロモ号っていうんだ。是輔(これすけ)さんていう人が操縦してるの。昆布茶とかイモようかんだしてくれるんだ」
レ「そりゃいいな。オレん時は牛だの豚だの運ぶ大型の貨物船だった。一週間、ずっと段ボール箱から水戻し型のドライタイプの宇宙食をひとりきりの船室で食ってたよ」


つづく

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2005-08-17 ポロの日記 2005年8月18日(草曜日)ポロ、キャンディ横丁に行く その2

ポロ、キャンディ横丁に行く その2

 バカンス号は音もなく越後3号ステーションを離れました。人工重力発生装置や加速度緩和装置が働いて、ポロたちにはバカンス号が加速しているのかどうかさえ、よく分かりませんでした。
 出発してすぐにお昼になったので、キャビン・アテンダント(C.A.)のお姉さんたちがおいしそうな機内食を持ってきてくれました。ポロは搭乗手続きの時に“桜御膳”を頼んでおいたので、桜の葉のいいにおいのするご飯が運ばれてきました。キャプテン・レンジャーはこの航空会社の定番“ダイモス・ランチ”でした。となりのお爺さんは特注ベジタリアン“精進料理”でした。

レ「一度、食ってみたかったんだ」

 お昼が始まると、子ども連れの多い機内は、なんだか大変なことになってきました。スープやジュースをこぼす子どもがいるかと思えば、はやく食べ終わって飽き始めた子どもたちが通路を走り回りはじめました。

レ「まったく、親はちゃんと面倒みなくちゃダメだよな。しつけがなってないよ」
ポ「うん。そだね。しつけがなってないからこうなるのか」
レ「ピーピーキャーキャーうるさくてしょうがねえ」
ポ「そう言われてみればうるさいね」
レ「そういえばよ、今度の選挙どうする?」
ポ「キャプテンは? ポロ、選挙権ないけど」
レ「そうか。そりゃ残念だったな。ポーズだけがあって政策がないような首相じゃ、オレはダメだと思うね。それに支持者も金もうけばっかり考えてるような連中ばっかりじゃねえか」
ポ「ふ〜ん、そうなのか」
レ「まったく不景気だし、上に立つ連中に志ってえもんが足りないからだよな」
ポ「うん、志は大事だと思うな」

 すると、眠っていたように思えたとなりの席のおじいさんが突然言いました。

爺「待たれい」
ポ「な、なあに、おじいさん」
爺「ワシはただの旅の者じゃ。おぬしら、片方は他人の批判ばかり、もう片方は追随ばかりしておるな」
レ「そのとおりのことを言ったまでだぜ」
爺「批判してはいかんと言っておるのではない。批判は重要じゃからの」
レ「じゃあ、なんだってんだ」
爺「おぬしのは批判ではない」
レ「いったい何だってんだ」
爺「ただの悪態じゃ」
レ「じゃあ、批判てえのはどういうんだ」
爺「今、おぬしが公の場にいたとしよう。いま話に出てきた首相と公開討論の場じゃ。ポーズだけがあって政策がないとおぬしは堂々と言えるか。ここが密室で、批判の批判が返ってこないから言えるだけではないのか」
レ「オレはどこでだって言えるぜ」
爺「では、どういう政策をお持ちなのかと相手に切り返されたらどう答えるのじゃ」
レ「そん時にゃあ、なんとか答えるさ」
爺「みんなを納得させられるかの?」
レ「そんなの分かんねえよ」
爺「よほどしっかりした考えを持たないと、おぬしの発言は聞くものにとって負け犬の遠吠えにしか聞こえないのではなかろうか。ダメだというだけなら誰でも言えるからの」
レ「うるさい爺さんだな」
爺「うるさいとは、それはおぬしにとって“都合が悪い”という意味じゃろうか」
レ「そうじゃねえよ」
爺「では、なんじゃ?」
ポ「ねえ、キャプテン、このお爺さんの言ってること、面白いよ。いっそのことレクチャー受けちゃおうよ」
レ「ふん、勝手にしろ」


つづく

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2005-08-16 ポロの日記 2005年8月18日(草曜日)ポロ、キャンディ横丁に行く その3

ポロ、キャンディ横丁に行く その3


 キャプテン・レンジャーはお爺さんにやりこめられて反対側を向いてふて寝してしまいました。
 ポロは、お爺さんから続きを聞くことにしました。

ポ「ねえねえ、もっと話してよ」
爺「では、批評について話そう」
ポ「批評と批判は違うの?」
爺「違うとも。批評は褒めたりもする」
ポ「そっか」
爺「作家が本を書いたとしよう」
ポ「ポロもお話書くんだよ」
爺「そうか、それは読ませてもらいたいものじゃな」
ポ「うん」
爺「では、まずは批評じゃ。批評と感想は大きく異なる。読後感想のような批評を印象批評という。批評は好きか嫌いかではないからじゃ。真の批評は、批評された側をも成長させるものじゃ」
ポ「あ、それで、最初に批評の話を持ってきたんだね。ポロ、さっきの話で批判がちょっと分かった気がするよ」
爺「それは賢いことじゃ。まさにそのとおり、批判とは正論でなければならぬ。では、誰もが陥りやすい分かりやすい例をあげよう。
ポ「うん」
爺「金を儲けている者はたいてい羨望が裏返しとなった嫉妬を受ける。嫉妬するものはたいてい“金儲けのことばかり考えている”というような批判をする。それは本当じゃろうか。なぜわかるのじゃろうか」
ポ「わ、そだね」
爺「金儲けのことを一生懸命考えずに成功するじゃろうか」
ポ「なーるほど」
爺「金持ちを批判する者は、たいてい金儲けを汚いと決めつける。金儲けそのものはぜんぜん悪くない。悪いのはあこぎなことをして稼ぐ連中じゃ。これを勘違いしてはならん」
ポ「そうなのか〜。でも、よく分かんないや」
爺「もし、金儲けが悪ならば、法律を作って罰すればよい。今でも人を騙して儲けたら罰せられるはずじゃ。正当な儲けは、それがたとえ土地や株の売買であろうと、為替差益によるものであろうと、全く悪くないのじゃ。想像力が足りない者たちは、そういう成功者が金をころがして稼いでいると思っているが、多くは財産を失っておることを忘れてはならん。一部の才能と決断力のある経営者だけが実現しているのじゃ。だからと言って、わしとても、それらを手放しで褒めているわけではない。能力差がそのまま貧富の差になるような世界は、人々がおしなべて幸福になれる世界ではないからの」
ポ「ポロも、お金持ちはずるい人たちだって思ってたよ」
爺「そういう人が多いじゃろう。嫉妬する者たちはたいてい“金なんか暮らしていけるだけあればいい”などと言う」
ポ「そだね。よく聞くよ」
爺「たいていウソじゃ。そういう連中は立場が逆になると、突然守銭奴に成り下がるものじゃ。本当に金を前に積まれても“いりません”と言えるとしたら見上げたものじゃ。その証拠に、そういう者に限って宝くじを毎回買っていたりするものじゃ」
ポ「ポロ、いっぱい欲しいな。お金」
爺「何をするんじゃ?」
ポ「シュデンガンガー商会に行って、お店のもの全部買うんだ」
爺「そうか。モノが欲しいのか」
ポ「そう言えば、ポロ、前に一度死んじゃったことがあるんだけど、その時、何にもいらないような心境になったかも」
爺「そうじゃろう。それはよい体験をしたの」
ポ「でさ、お金持ち批判はどうすればいいの?」
爺「金に本当に興味がないものは、決して金持ちであることに関しては批判しないのじゃ。批判すると実にカッコ悪いということに気がついておるからじゃ。他人から見たら負け犬の遠吠えとしか見えんからな。それに気がつかん者は自分の力のなさと未熟さがさらけ出されているとはつゆ知らず、金持ち批判を繰り返す」


つづく

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2005-08-15 ポロの日記 2005年8月18日(草曜日)ポロ、キャンディ横丁に行く その4

ポロ、キャンディ横丁に行く その4


ポ「ふ〜ん。だんだんカッコ悪く思えてきた」
爺「批判すべきは、考えの誤っておる点じゃ。それは結局、金持ちであるかあるかどうかは関係ないのじゃ」
ポ「へえ、そうか。誤った考えってどういうの?」
爺「人にはやりたいことと、やらなければならないことがある。やらなければならないことというのは、食っていくためには仕事をしなければならないとか、義理があるからやらなくちゃならないとか、そういうことではない」
ポ「どういうこと?」
爺「おいおい分かることじゃろう。人の価値は、そのバランスで決まるといっても過言ではない。やりたいことばかりやっておるものは、厳しい言い方をすれば“くだらん人間”じゃ。“やらなければならないこと”を見いだしたとしたら、そうとう真剣に考えて生きてきた証拠じゃ」
ポ「やらなければならないことって、朝起きたら歯を磨くみたいなことじゃないんだね。ちょっと分かったかも。ポロも、やらなくちゃならないことが分かるようになるかなあ」
爺「そういう生き方をせねばならん」
ポ「お爺さんアリガト。ポロ、とっても勉強になったよ」

 すると、ふて寝していたキャプテン・レンジャーが起きだして言いました。

レ「爺さん、あんた何者なんだ。オレもあんたのお陰で目が覚めたぜ。今までエラくカッコ悪かったってわかったぜ。ちぇ。恥ずかしくって外、歩けねえ」
爺「ははは。それは進歩じゃ。ワシは火星のゴーヒャ・キージェ記念館で働いておる」
ポ「え゛〜〜〜〜〜!! すっご〜い! ポロ、ゴーヒャ・キージェのこと、とっても尊敬してるんだ」
爺「そうかそうか。キージェのことをよく知っていたね」
ポ「知ってるもなにもないよ。ポロの目標だよ。でも、どうして火星に記念館があるの?」
爺「火星で一番高い山の名前を知っておるかな?」
ポ「あ、オリンピア山だ!」
爺「名前の由来は、キージェのオリンピア工房じゃ。キージェは隠居後を火星で過ごした。そこで今の火星文明の礎(いしずえ)を築いたのじゃ」
ポ「すごいんだねえ」
爺「お前さんはどこへ行きなさる?」
ポ「ポロはキャンディ横丁に大根やにんじんを買いに行くんだよ」
爺「そうか。暇があったらぜひ記念館に来るとよい」
ポ「うん。でも、今回はトンボ帰りなんだ」
爺「そうか、またいつか会えるといいの」
レ「オレはよ、あんたを師匠にするって決めたぜ。ショーが終わったら、記念館寄らせてもらうぜ」
爺「おう、師匠になるほどの者ではないが、記念館では待っておりますぞ」

 それから間もなく、バカンス号は火星のクリュセ平原に着陸。ポロたち3人は、それぞれの目的地に向かったのでした。


おしまい


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ポロの掲示板はここ。
ポロの道場

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2005-08-08 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第2回 蘇れ、猫の目レンズ塔 その1

蘇れ、猫の目レンズ塔 その1

 偉大な老ゴーヒャ・キージェからオリンピア工房を引き継いだブージー(猫の星の歴史教科書第3回 「ゴーヒャ・キージェ」参照)の初仕事は、魔術師たちが失敗した“猫の目レンズ塔”の復活でした。
 ここには国中のダイヤモンドと水晶が集められて使われています。水晶は溶かしてしまったし、ダイヤモンドは結晶構造面にそってカットされ、まるで隙間がないかのように組み合わされているので、元にもどして持ち主に返すこともできません。国王の側近の不正によって当初の計画とは異なる形で完成してしまった猫の目レンズ塔を本来の形に戻すのです。
 仕事を依頼してきたのはドーラ土木組合のゴジャイという男でした。

ゴジャイ「レンズ塔とオリンピア号の仕事は、言ってみりゃライバル同士の戦いだ。だがよ、いいものを作りたいだけのオレたちにとっちゃ、そんなことは関係ねえと思うんだ。ゴーヒャ・キージェっていう男もそうだと聞いてやってきた。ゴジャイが来たと伝えてくれ」
ブージー「親方はいません」
ゴジャイ「どっか出かけてるのかい。なら、また出直してくるぜ」
ブージー「そうではありません。親方はここを去られました」
ゴジャイ「そうか。隠居した場所はどこだ?」
ブージー「分かりません。親方は私に工房を引き継ぐと人知れず街を出ました」
ゴジャイ「そうか・・・・・・」
ブージー「・・・・・・・・・」
ゴジャイ「お前さんが工房を引き継いだんだな」
ブージー「そうです」
ゴジャイ「正直言って、オレにはおまえさんが頼りなく見える。少なくともオレの下で働いている若い衆のほうが頼りになりそうだ」
ブージー「申し訳ありません」
ゴジャイ「いやあ、謝る必要はないぜ。若いってえのはそういうことだ。もし、お前さんに見込みがあるなら、これからだんだんにそうなっていくってことさ」
ブージー「はい、精進します」
ゴジャイ「だが、もしゴーヒャという男の目に狂いがないのなら、お前さんは実はすごい男なのかもしれんな」
ブージー「すごいかどうかは仕事を見ていただくほかありません」
ゴジャイ「お前さんを試すというわけじゃあないが、もし、お前さんが猫の目塔の太陽追尾装置を設計できるなら、オレは図面を見ただけじゃ分からんから、本当に動く模型を作ってくれ。それを見てから仕事を頼むかどうか決めさせてもらうぜ。もちろん模型代は払う」
ブージー「この仕事の発注先はどこですか? ドーラ王ですか?」
ゴジャイ「いや、違う。オレたちだ。正確に言うと、オレたちの有志だ」
ブージー「えっ?」
ゴジャイ「考えてもみろ。国中の猫たちが家宝まで差しだして作ったレンズ塔がただのゴミになってるんだぜ。おまけに宮廷は、猫の目塔はもともとダメな計画だったと決めつけていやがる。だから、オレたちがやる」


つづく

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2005-08-07 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第2回 蘇れ、猫の目レンズ塔 その2

蘇れ、猫の目レンズ塔 その2


 ブージーは感動すると同時に、どうして自分にそういう発想がなかったのだろうと少し悔しくも思いました。

ブージー「やらせてください。僕も、その仲間に加えてください」

 ブージーは、さっそく太陽追尾装置の設計に入りました。しかし、模型はおろか、実験用の試作品を作るお金もありませんでした。しかし、ゴジャイに資金援助を頼む気にはなりませんでした。ゴジャイだって似たような境遇だろうと思ったからです。
 ブージーは、昼は道路工事、夜は警備員のアルバイトをしながら仕事の合間に設計を続けました。長く長く動き続ける、まるで宇宙の縮図のような機械です。

--モーターなんてダメだ。だいいち、電力を使うなんてもってのほかだ。こちらが制御しなければならないというのもダメだ。何万年かたって、猫たちが滅んだあとでも動き続けるようなものでなくちゃいけないんだ。

 そして、ついに思いついたのが“コリオリの力”でした。これはドーラの自転によって起こる力でした。これなら無限に動き続けるし、ドーラの自転周期が変動しても、それに合わせるように動くはずです。

 ゴジャイ親方から依頼を受けて3年後。ブージーは、ついに模型の完成させました。

 親方が工房にやってきました。妻のワンダも一緒でした。

ゴジャイ「こ、こいつがどうしても来るっていうからよ」
ブージー「どうぞ、ぜひ一緒にご覧になってください」

 なんだか不器用に照れる親方を、道路工事ですっかりたくましくなったブージーが迎えました。

ゴジャイ「さっそく動くところを見せてもらおうか」
ブージー「これですが、動きません」
ゴジャイ「動くっていう約束だ」
ブージー「実物は動きます。しかし、この大きさでは動きません。原理を説明します」

 そういうと、ブージーはコリオリ力が台風を渦巻かせるほどの力であること、電力などが一切必要ないことを説明しました。

ゴジャイ「・・・・ちんぷん・・・かんぷん・・・・ちんぷん・・・・かんぷん・・・」

 ゴジャイ親方には、さっぱり分かりませんでした。

ゴジャイ「悪いが、オレにはちんぷんかんぷんだ。だがよ、お前さんを信じるぜ。お前さんがやった仕事なら、きっと間違いはねえ」
ブージー「どうしてそれが分かるのですか?」


つづく

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2005-08-06 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第2回 蘇れ、猫の目レンズ塔 その3

蘇れ、猫の目レンズ塔 その3


 すると、ワンダが言いました。

ワンダ 「ブージーさん、あたしを覚えていませんか?」
ブージー「・・・・・?」
ワンダ 「ほら、ツンドラデパートの強盗事件の時に・・・」
ブージー「えっ? あの時の?」
ワンダ 「警察が駆けつける前に、警備員のあなたに助けてもらったのは私です。あの時、警備の人たちみんなが警察を頼りにしていたら私はどうなっていたか分かりませんでした。あなたの判断に救われたんです」
ゴジャイ「それだけじゃないぜ。お前さん、道路工事の現場にいただろ?」
ブージー「はい」
ゴジャイ「そういうところで監督してるのは、みんなオレの息のかかった連中ばかりなのさ。そういう連中からおれに“なかなか見上げたヤツがいる”ってオレはいつも聞かされてたんだ。それがお前さんのことだって分かったのは、つい最近のことだ。模型が動かないのは分かった。本物がどうなるのか、オレに分かるように説明してくれねえか」
ブージー「はい」

 ブージーは、自由に回転する巨大な羽根車のような円盤を地下に埋めて、そこに落ちる水の渦の力を合わせてレンズ動かすアイディアを話しました。そのほとんどが土木工事だったので、ゴジャイは、ますます感心しました。なぜなら王立科学アカデミーの設計図は、たくさんの複雑な制御機構を持った機械仕掛けの追尾装置だったからです。

 1年後。それまで1日に1回、ほんの瞬間だけ光を受け入れていた猫の目レンズ塔が太陽の出ている間じゅう、塔の周辺のどこかを照らして春をもたらしました。子どもたちは、移動する春の区域を追いかけるのが楽しみでした。

 ドーラ王はブージーの働きに大変驚いて、それからというもの、オリンピア工房に多くの重要な仕事を発注するようになったとさ。めでたしめでたし。


おしまい


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2005-08-05 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第1回 レミングの恩返し その1

レミングの恩返し その1


 それはずっと昔のこと。太陽系のはずれにある猫の星ドーラは氷に包まれまま年の瀬を迎えようとしていました。

 ドーラは長く続く不景気にあえいでいました。そういう時に真っ先に影響を受けるのがドーラ土木組合でした。収入が減ってにっちもさっちもいかなくなったドーラ土木組合のゴジャイ親方は、寒さに弱い猫に売れるかも知れないと思って、妻のワンダに暖かい綿入れ袢纏を作らせました。器用なワンダは上手に袢纏を作りました。ゴジャイ親方が着てみるとどんなメーカー品よりも軽く暖かく着心地も最高でした。

「これはいい。ワンダ、でかしたぞ。これなら全部売れるに違いない。さっそく宮殿前の酉の市で売ってこよう」
「ええ、あなた。おいしい夕食を用意して待っていますよ」

 雪の降る明け方、ゴジャイ親方はたくさんの綿入れ袢纏をかついで宮殿までの5キロの道のりを歩いて出かけました。
 途中、いつもの猫地蔵のところを通りかかりました。昔はお供え物を欠かさなかったものです。しかし、不景気の今はそれさえままなりません。親方は一列に並ぶ猫地蔵の雪を払って手を合わせると、今日は必ずお供え物を買って帰ろうと思いました。

 早く出かけたゴジャイ親方は、その甲斐あって宮殿前の一番よい場所に店を出すことができました。しかし、ワンダが心を込めて縫った綿入れ袢纏はいつになってもひとつも売れませんでした。誰もがメーカー品のほうが暖かいに決まっていると考えていたからです。
 親方は、袢纏の売り上げの一部をお昼代にしようと思っていたのに、一枚も売れないので、夕方までとうとう何も食べることができませんでした。しかし、本当に辛かったのは空腹ではなく、猫地蔵さまにお供え物が買えないことでした。
 暗くなり始めた道を、親方は売れ残った袢纏を背負って再び戻っていきました。
 猫地蔵たちの前に来ると、ゴジャイ親方は猫地蔵の雪を払って、お供え物の代わりに綿入れ袢纏を着せていきました。しかし、ひとつ足りません。

「おや? 猫地蔵さまはこんなにいなすったかな」

 親方は自分が着ていた綿入れ袢纏を脱ぐと、最後の猫地蔵にかぶせました。そして手を合わせると、寒さに震えながら家路を急ぎました。

 その晩おそく、一番はずれの猫地蔵に異変が起きました。
 はじめ、基台の小さな黄色いLEDが点灯しました。次に温度上昇を知らせる赤いLEDが点灯し、1時間後には全ての警告LEDが点滅を繰り返して、最後には焼け焦げた匂いとともに消灯しました。

 そのとき、はるかドーラ上空では誘導電波を待つ宇宙艦隊がいました。ドーラの征服を企む敵艦隊でしたが、たったいま、着陸誘導ビーコンが意図的に破壊されたことを知りました。奇襲作戦は開始前に失敗してしまったのです。猫地蔵にカムフラージュされた誘導ビーコン発信機は雪を冷却材として使う寒冷地仕様だったのです。


つづく

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