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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-07-13 ポロの日記 2005年7月13日(波曜日)知られざる英雄たち その1
2005-07-12 ポロの日記 2005年7月13日(波曜日)知られざる英雄たち その2
2005-07-11 ポロの日記 2005年7月13日(波曜日)知られざる英雄たち その3
2005-07-10 ポロの日記 2005年7月13日(波曜日)知られざる英雄たち その4
2005-07-09 ポロの日記 2005年7月13日(波曜日)知られざる英雄たち その5
2005-07-08 ポロの日記 2005年7月11日(光曜日)ポロ、人里に暮らす その1
2005-07-07 ポロの日記 2005年7月11日(光曜日)ポロ、人里に暮らす その2
2005-06-30 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その1
2005-06-29 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その2
2005-06-28 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その3


2005-07-13 ポロの日記 2005年7月13日(波曜日)知られざる英雄たち その1

知られざる英雄たち その1


-2005年7月11日午前0時35分 作曲工房2Fリビング-

 ポロは夜更かしして、その夜さいごのイモようかんを食べていました。ん、んまいなあ。

「ポロちゃん」
「わ、びくりした。女神さま、久しぶり」
「困ったことになったの」
「どうしたの?」
「どこかの星が放ったインパクター(衝突体)が、地球のすぐ近くまで来てるのよ」
「どういうこと?」
「この間、アメリカがテンペル第1彗星を爆撃して、その様子を観測したでしょ。あれの地球版よ」
「そういうことされちゃ困るじゃないか〜」
「テンペル人たちもそう言っていたことでしょうね」
「そ、そだね。あとどのくらいで衝突するの?」
「3時間ていうところね」
「わ、もうすぐじゃないか。世界中のスペースガードシステムは何をしてるんだ〜」
「スペースガードは衝突小惑星を発見こそできても、まだ衝突を防ぐ手だては何もないの」
「どこにぶつかるの? 被害は?」
「このまま行くと四国から紀伊半島のあたりね。衝突エネルギーは広島型原爆2000個分くらいよ」
「わ゛〜〜〜〜〜!! 日本が滅んじゃうよ」
「日本だけじゃ済まないわ」
「ねえ、女神さまなんとかしてよ」
「そう、なんとかしに来たのよ。でも、あたしは何もできないの。なんとかするのはポロちゃんたちなの。可能なかぎりお手伝いはするわ」
「ポロたちよりNASAの宇宙飛行士とかに頼んだほうがいいよ」
「説得している時間がないのよ。それはポロちゃんにもすぐにわかるでしょ。説得って言うのは人の考えを変えることだからとても時間がかかるの」
「うん、ダイじょぶだよ。ポロ、やるよ。で、どうすればいい?」
「悪夢救助隊の本部に潜入して神田丸を一隻調達するの。そこに重力波ビーム砲を載せるの。それで隕石に重力波を浴びせて軌道を逸らせるのが一番確実ね」
「神田丸を調達って、それってもしかしてドボロー?」
「人聞きが悪いこと言わないでよ、調達よ、調達。潜入は一応合法的よ。方法があるの」
「スペースシャトルとか使わないの?」
「あれは、限られたミッションしかできない上に、発射準備にのべ数万ヒューマンアワー(人に換算した作業時間のこと)かかるのよ。実用的じゃないわ。その点、神田丸は宇宙船としての能力は一歩譲るけど、現時点では、地球上でもっともすぐれた乗り物だわ」
「でも、ポロ、神田丸を動かせるかな」
「大丈夫。マチルダエンジン開発者のマチルダ博士もこの作戦に参加してくれるわ」
「あとは?」
「夕べの作曲のときに、せんせいにちょいちょいって暗示をかけて使命感を植え付けてあるわ」
「わ、せんせい、そんなことされちゃったのか」
「音楽家にしておくのはもったいないくらい適任よ。さあ行きましょう」

 なんと、ポロのうしろにはマチルダ博士とせんせいが準備を終えて待っていました。

マ「ポロちゃん、がんばりましょうね」
ポ「わ、マチルダ博士!」


つづく

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まあ、本物のポロちゃんがレスを怠っちゃダメじゃないの。ミタさん、あたしたちの側についてくださるわよね。 / 謎の女議長 ( 2005-07-28 21:12 )
そう言えば、今日発射予定のスペースシャトル。燃料センサーの故障で打ち上げ延期ですね。神田丸にして正解でしたね。(^^; / みた・そうや ( 2005-07-14 18:36 )

2005-07-12 ポロの日記 2005年7月13日(波曜日)知られざる英雄たち その2

知られざる英雄たち その2


- 午前0時52分 神田錦町 悪夢救助隊本部 -

 ポロたち3人は女神さまのはからいで神田錦町にある裏神田“悪夢救助隊”本部前に到着しました。
 マチルダ博士がIDカードをセキュリティーチェックの機械に通すと、入り口の守衛所の中から、顔見知りのアルマジロのお兄さんがマチルダ博士に敬礼しました。

 ポロたちは、まっすぐ神田丸格納庫へ急ぎました。
 マチルダ博士が待機する神田丸各艦の整備状況を調べました。

マ「ここにある4艦は全て出発準備が済んでいます。おそらく次の出撃には使われない予備機は一番奥の第19神田丸で間違いありません」
ポ「でもさ、悪夢救助隊はこの格納庫から直接、夢空間にスリップインしちゃうから、ポロたちの神田丸は外に出られないよね」
マ「最近は一度外に出てからスリップインすることが多いのよ」
ポ「そうなのか〜」
マ「今夜も必ず外に出る船があるわ。その船の後について外へ出るのよ」

 ポロたちはマチルダ博士のID カードを使ってエアロックに入り、船内を点検しました。すべて異状はありませんでした。
 あとは1時間以内に救助隊が動き出せばいいだけです。時間切れになりそうになったら強行突破するまでです。


-2005年7月11日午前1時27分 第19神田丸艦内-

 コクピットに座って静かに待っていると、ほどなく格納庫内に出動アラートが鳴り響きました。

 ぴゅーわぴゅーわぴゅーわぴゅーわぴゅーわぴゅーわ!

マ「さあ来たわよ。準備はいいかしら?」
ポ「うん」
せ「イエス」

<第3神田丸クルーは、ただちに乗船、救助に向かえ。第3神田丸クルーは、ただちに乗船、救助に向かえ。第3神田丸クルーは・・・・・>

 ぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽん、ぽぽん、ぽんぽん・・・

 第3神田丸がエンジンを始動するのと同時にマチルダ博士も第19神田丸のエンジンをスタートしました。

 ぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽん、ぽぽん、ぽんぽん・・・

マ「格納庫の扉が開いたら、第3神田丸の後を追って外に出ます。扉が開いているのは15秒だけですから遅れないように」
せ「了解」

 副操縦士席で操縦桿を握るせんせいの緊張がポロにも伝わってきました。

 第3神田丸の離昇と同時に、第19神田丸も宙に浮きました。管制室は、すぐに異変に気づきましたが、巨大で重い格納庫の出撃扉は一度開くとすぐには閉じる事ができませんでした。
 第19神田丸コクピットの無線が叫びました。

<マチルダ博士。どうなさったのですか。無許可離昇は規則違反です。お戻りください>
<船をちょっと借りるわ>

 そういうと、マチルダ博士は無線のスイッチを切ってしまいました。

 ぽんぽんぽぽんぽんぽぽん・・・・・


つづく

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2005-07-11 ポロの日記 2005年7月13日(波曜日)知られざる英雄たち その3

知られざる英雄たち その3


- 午前2時10分 神田上空 -

 第19神田丸は、ようやく寝静まった夜の神田上空に舞い上がりました。

マ「まず最初に神田丸を建造した隅田川シップヤードで、重力波ビーム砲を載せます」
ポ「よくシップヤードが協力してくれたね〜」
マ「ええ、ちょっと無理やりだけど」
ポ「でも、重力波ビーム砲なんて、よく手に入ったねえ」
マ「シュレーディンガー商会で扱っているのよ」
ポ「そんなものまで売ってるのか〜。知らなかったなあ」
マ「普通はいらないわよね。だからあまり知られていないかも知れません。ヴェガ製を輸入しています」
ポ「ヴェガって、織姫星?」
マ「そうよ」
ポ「無事に取り付けられるかなあ」
マ「船の設計時にハードポイントをいくつか設定してあります」
ポ「拡張性が高いんだね」
マ「シュレーディンガー商会の修士(しゅうじ)さん、真空専門ディラック商会の学士(がくじ)さん、ダイソン工房の振馬(ふりま)さんと、ミタさんが手伝ってくれます」
ポ「それは頼もしいね〜」
マ「砲手はポロちゃんだから、しっかりと取り付け作業を見ておいてね」
ポ「緊張するなあ」

 ほどなく第19神田丸は隅田川シップヤードの乾ドックに降り立ちました。警備員とおぼしき数人の男の人がロープで縛り上げられていました。

ポ「これが“無理やり協力”っていうことか〜」
マ「大丈夫。終わったらすぐに解放するわ。あの人たちをずっと説得しつづければいつかは私たちのしていることを理解して協力してくれるとは思うの、でも」
ポ「もう時間がないんだね」

 待ちかねていたダイソンさんやミタさんたちに、マチルダさんやせんせいも協力して、神田丸外殻のハードポイントに重力波ビーム砲を装備しました。慣れない作業にみんな汗だくでした。


- 午前3時18分 宇宙へ -

そして、第19神田丸は再び大空に舞い上がりました。
ダイソンさんとミタさんが手を振って出撃するポロたちを見送ってくれました。
このあと2人は、乾ドックへの不法侵入や監禁の容疑で裏神田警察から取り調べを受けるはずです。でも、女神さまが裏から手を回しているので無罪放免になるという話でした。

 第19神田丸には、いいにくいという理由で愛称をつけることにしました。ポロの提案で“ラジェンドラ”になりました。今は亡きドーラ防衛軍のタブタ2等空士の愛機の名前です。

せ「マチルダ博士。この船の宇宙での設計活動継続時間はどのくらいですか?」
マ「厳しい質問が来ましたね」
ポ「なんか、まずいことでもあるの?」
マ「神田丸シリーズは宇宙へ出ることもできますが、宇宙船として設計されたわけではありません。ですから活動継続時間で言うと、サターンV型の何十分の一といったところです。正直言って宇宙空間での滞空テストはやっていませんから分からないことだらけです」
ポ「きゃあ〜、そうだったのか!」
せ「いえ、それだけ分かれば十分。ミッションを遂行する前に行動不能にならないように慎重に行きましょう」
マ「ええ、そうしましょう」


つづく

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2005-07-10 ポロの日記 2005年7月13日(波曜日)知られざる英雄たち その4

知られざる英雄たち その4


- 午前3時20分 とある田舎町のヴェガ星人秘密基地 -

銀「こちら銀河連盟本部。エージェント・グリンダ応答願います」
グ「こちら地球監視基地のグリンダ・ハシモト。銀河連盟本部どうぞ」
銀「アステロイド・アラートです。こちらのアステロイド・シーカーで地球に向かう大きなコンドライト岩塊を捉えました。30分ほどでそちらの近くを直撃、大きな被害が予想されます」
グ「こちらのレーダーでも捉えました。日本西部への直撃軌道を進んでいるようです。これはどこかの星が射出したインパクターではないでしょうか」
銀「その可能性もありますが、今は不明です。予想される被害レベルはIV。衝突地点から半径800キロ以内での地表生物の生存は難しいと思われます」
グ「そんなに大きな被害なら、重力波ビーム砲で軌道を変えてはいけませんか?」
銀「我々が地球へ干渉することは一切禁じられています。6500万年前の小惑星衝突のさいも観測を続けただけです。直撃前にそちらの基地の地下シェルター最深部に避難してください」
グ「わかりました。直前まで観測をつづけ、その後避難します」

 ヴェガから派遣されている銀河連盟エージェントのグリンダ・ハシモトは、照準として高性能の赤外線望遠鏡を備えた重力波ビーム砲を大きな岩塊に向けました。岩塊はまっすぐこちらに迫ってくるように見えました。


- 午前3時42分 ラジェンドラ艦内 -

マ「問題の小惑星を捉えたわ。でもまだ距離が遠すぎるわね」
せ「相対速度はすでにマイナス、ラジェンドラは目標に接近中。数分で射程距離にはいります」
マ「ポロちゃん、待機して」
ポ「うん。ちょっとおしっこしたくなっちゃった」
せ「すぐだ。がまんしなさい」

 ラジェンドラ船内は、緊張した静かな時間で満たされていました。

マ「射程距離内に入るわよ。ポロちゃん、ビーム砲を思いきり浴びせてやって」
ポ「まかせて!」

 ポロは、おしっこをがまんしながら重力波ビーム砲の照準を覗きこんで、人さし指の肉球でトリガーを引きました。

 ぶ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

ポ「やた〜、命中だ!」

 しかし、ビームは命中したもののコンドライト衝突体の軌道は全く変わりませんでした。

マ「距離が足りないんだわ。照射強度は距離の自乗に反比例するの」
せ「よし、もっと距離をつめよう」

 マチルダ博士とせんせいは隕石兵器の表面の模様が肉眼で確認できるくらいところまでラジェンドラを近づけました。

せ「これ以上加速すると、減速できなくなって我々が地球に激突するぞ」
マ「そうですね。ポロちゃん、この距離で何とか頼むわ。もう限界よ」
ポ「まかせて。ポロ、重力波ビーム砲の扱いがわかってきたよ」

 ポロは再び照準を定めて重力波ビーム砲のトリガーを引きました。

 ぶぶぶぶぶぶぶ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!


つづく

先頭 表紙

2005-07-09 ポロの日記 2005年7月13日(波曜日)知られざる英雄たち その5

知られざる英雄たち その5


- 午前3時56分 徳島県上空 -

 今度は大成功。未知の小惑星は軌道を逸れ、徳島県上空で歴史的大火球となって地上を照らした後、対流圏との圏界面でバウンドして再び宇宙へ飛び去りました。その様子は徳島県の海南天文台の火球パトロールカメラが捉えていました。

マ「成功よ。エンジン逆噴射」
せ「了解」

 ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ!

 しかし、ラジェンドラの速度が速すぎて、おもったように速度が落ちませんでした。マチルダ博士とせんせいは、逆向きの、ありとあらゆるスラスターとバーニアを噴射しました。でも、所詮それは焼け石に水でした。

マ「ポロちゃん、ごめんね。間に合わないかも知れないわ」
せ「いや、まだだ。精いっぱいやるだけやってみよう」
ポ「あわわわわわわ」

 ラジェンドラの外殻が赤熱して炎の尾を曳き始めると、パニックを引き起こしたポロは、とうとうおしっこをちびってしまいました。

ポ「あわわわわわわ」


- 午前3時57分 田舎町基地 -

グ「銀河連盟本部。巨大な岩塊は地球人の宇宙船によって軌道を変え、火球となりながらも宇宙へと飛び去りました」
銀「それは本当ですか。地球もそんなに科学技術が進歩したのか」
グ「間違いありません。しかし、その宇宙船自体が制御不能となって、この基地に向かって墜落してきています。重力波ビーム砲の使用許可を」
銀「こちらでも確認できました。干渉は禁止されていますが、自衛のための重力波ビーム砲の使用は認められているので、撃墜しても問題はないでしょう」
グ「了解。ありがとう」

 グリンダは重力波ビーム砲を反重力側にセットすると、ギリギリ弱めに、火の玉となったラジェンドラに向けてトリガーを引きました。もしかしたら、落下速度だけが落ちて乗組員が助かるかもしれないと考えたからです。それでも重力波ビームの身体や脳への影響は避けられないかも知れません。グリンダは、あの決死の英雄たちを助けられるものなら助けたいと思ったのです。

グ「すごいショックだけど、がまんしてね。運がよければ助かるかも知れないわよ、英雄さんたち」

 ぶぶぶぶぶぶ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

 和歌山県上空から山梨県にかけて、その日二つ目の火球が目撃されましたが、どの天文台のパトロールカメラも、その姿を記録してはいませんでした。


おしまい


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

ポロの掲示板はここ。
ポロの道場

先頭 表紙

勇者を助けたいと思う気持ちは、宇宙共通なのですね・・・ / みた・そうや ( 2005-07-14 19:34 )

2005-07-08 ポロの日記 2005年7月11日(光曜日)ポロ、人里に暮らす その1

ポロ、人里に暮らす その1


 ポロは、もうすぐ山が始まる平地のはずれにある小さな町で、納豆を売りながら暮らしていました。どうして納豆を売りながら暮らしているかというと、図書館で納豆売りをしながら考古学者になった相沢忠洋(あいざわ・ただひろ)さんの本を読んだのと、ちょうど都合よく近所に納豆を作っている人がいたからです。それでも答えになっていないので、もう少し詳しく言うと、ポロには身寄りがないので自活しなければならないからです。どうして身寄りがないかというと、それはポロが記憶喪失のピアノマンだからです。

 その日も納豆を売り終わると、納豆を卸してくれる“とむ爺”のところに行って売り上げの報告をしました。

「とむ爺、今日も全部売れたよ」
「おお、それはご苦労じゃった。お前さんは営業成績日本一の納豆マンだ」
「やだなあ、ポロは日本一のピアノマンだよ」
「おお、そうじゃ。今度廃校になる町立小学校のピアノを希望者にくれるそうじゃ。代わりにワシが申し込んでおいた。欲しいじゃろう」
「うん。でも、ポロは修理するお金がないよ」
「そうか。お前さんは金で解決しようと考えたのじゃな」
「ほかに方法があるの?」
「ある。自分でやるんじゃ」
「だって、ポロ、ピアノの修理の方法なんて知らないよ」
「ピアノはお前さんにとって大事なことか?」
「うん、とっても」
「ならば、時間はかかるがピアノから学べばよい。最初にピアノを作ったクリストフォリだって誰からも習えなかったはずじゃ。もしお前さんが本当に大事だと思っておるのなら、人任せにはできんはずじゃ」
「やってみるよ。ポロたち、時間とやる気だけは“御大尽さま”だからね」
「そうじゃ。それは札束よりもずっと役にたつ」

 長年、小学校で酷使されて壊れかけたピアノがポロの家にやってきました。この家だって、町を見限って都会に引っ越した家族が残していったものをポロがとむ爺に手伝ってもらって修理して住んでいるのです。
 ポロは少しずつピアノを分解して、その構造を理解していきました。
 夕方になると、ポロは町役場のリサイクルデーにタダでもらってきた自転車の“ラジェンドラ”の荷台に納豆を積んで商売にでかけます。

 最初に行くのは、とむ爺の納豆工房の近くの橋本さんのおばあちゃんのところです。このおばあちゃんは、ホントはヴェガ星人で、銀河連盟のエージェントとして極秘で地球に駐在しているのです。地球が銀河連盟に加盟する日まで、こうしたエージェントによる地道な監視活動が続くのです。ポロは地球の印象が悪くならないように、いつも笑顔で商売しました。
 常連さんのところを回って、最後に行くのが町役場の近くのバラのお家でした。どうして最後に行くかというと、このお家からはいつもピアノの音が聴こえて来るからです。

「ごめんくらさい。納豆屋です」

 ポロがドア越しに声をかけると、中から小さな女の子の声がきこえてきます。

「あ、ママ。猫のお兄さんだよ」
「あら、もうこんな時間」

 がちゃ

「いつもごくろうさま」

 勝手口のドアが開くと、ステキな奥さんが納豆と引き換えにお金をくれます。このドアの向こうには“家族のだんらん”というものがあるのに違いありません。
 再びドアが閉じるまでの、ほんの10秒間だけがポロが家族のだんらんを感じる時間でした。
 ポロは、とむ爺に家族のだんらんてどういうのかなあって聞いたことがあります。そうしたら、とむ爺も「わからん」と言いました。
 とむ爺も記憶喪失でこの町に流れてきた孤独なピアノマンだったのです。


つづく

先頭 表紙

2005-07-07 ポロの日記 2005年7月11日(光曜日)ポロ、人里に暮らす その2

ポロ、人里に暮らす その2


 それから、ポロは自転車の“ラジェンドラ”にまたがったまま、カーテン越しに柔らかい光の漏れる窓辺の道路で女の子が弾くピアノの音に耳を傾けるのでした。ところが、しばらくするといつもジャマが入ります。窓の外のポロに気づいたサングラスをかけた犬が、部屋の中からワンワンワンワンワン!と吠えるのでした。

 月日は流れて3年、とうとうポロのピアノの修理が終わりました。結局、いくつもの部品を買い替えなくてはならず、少しずつしかお金がたまらなかったので、こんなに長くかかってしまったのです。そのかわりポロは自分のピアノのことならなんでも知っていました。だからピアノはいつでもベストコンディションでした。
 そんなある日、とむ爺がやってきてポロのピアノを弾きました。

 ポロは、その曲を知っていました。

「とむ爺、それは“あじさい”っていう曲だね」
「そうか、そういうのか。ワシは知らん。記憶を失う前から知っておった」
「ポロのピアノ、こんなにいい音が出るんだね。ポロ、涙が出るくらいうれしいよ」

 とむ爺は別の曲を弾きました。

「あ、それは“萩”っていう曲だよ。どうしてポロ知ってるんだろう」

 とむ爺は黙って、次の曲を弾きました。

「それは“やぶがらし”だよ」

 とむ爺はピアノを弾く指を止めると、ポロのほうを向いて言いました。

「ワシは、このピアノの音を知っておる。今、思いだした。これは、ワシがずっと使っておったピアノの音じゃ」
「ポロも、この音しか思いつかないから、こういう風に整音したんだよ」
「そうか。ワシらは似た過去を持っておるのかも知れんな。この音を聴いて、ワシの心はざわついておる。この音を聴いたら、自然にいろいろな曲が指から流れてくるのじゃ」

 外で犬が吠えたのでポロが窓から外を見ると、犬の散歩の途中の、あのバラの家の奥さんが立っていました。

「ご、ごめんなさい、立ち聞きなんかして」
「ううん、いいんだよ別に」
「いつも、猫のお兄さんがうちの窓の外で立ち聞きしてるのを、なんかいやだなあなんて思っていたのに、あたしが同じことしてしまったわ。あんまりきれいな音だから、立ち止まらずにいられなかったの」
「ポロこそ、いつもゴメなさい。どうぞ、中へ入ってください」

 サングラスをかけたバカンスな犬を近くの木に結ぶと、バラの奥さんはポロのピアノの前に座って弾き始めました。

 それは、今までに聴いたことがないような、すばらしいドビュッシーの“月の光”でした。

 とむ爺は木の切株の椅子に座ったまま、じっと目を閉じてピアノの音に耳を傾けていました。
 ポロは、たぶん世界で一番幸せな時間を過ごしているのは、ここにいる3人に違いないと思いながら、この3人が感じている音楽の本当の姿が分かったような気がしてきたのでした。


おしまい

 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

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ポロの道場

先頭 表紙

mokoさんアリガト〜。次のお話も期待して待っててね〜♪ / ポロ ( 2005-07-13 23:24 )
いいお話ですね♪私も‘バカンスな犬’に会ってみたいなぁ〜バラの奥さんのピアノも聴いてみたいです♪ / moko ( 2005-07-13 21:22 )

2005-06-30 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その1

粉屋襲撃 その1


 雨に煙る練馬宇宙空港にポロはたたずんでいました。(大泉学園航空の搭乗窓口が分からなかっただけだけど)
 そこへ見覚えのある男が通りかかった。一部のローカルテレビ局で人気のスーパーヒーロー、キャプテン・レンジャーでした。

「よお、アメン王子。あんたも呼ばれたのか?」
「ど、どうしてポロのこと知ってるの?」
「何言ってんだ。テレビじゃオレの次の時間帯のヒーローはあんたじゃないか」
「・・・・・???」
「どうせ大泉学園航空だろ、搭乗手続きは向こうだぜ」

 ポロはキャプテンレンジャーのあとを追いました。大泉学園航空のカウンターはたこ焼き屋のとなりにありました。大泉学園というのは学校の名前じゃなくて、町の名前です。練馬に住んでる人なら誰でも知ってるけど、大分県の人には分からないかも。ポロたちは手続きを済ませると、搭乗ゲートから小惑星ララトーヤ行きの“への9便”に乗り込みました。
 それはブーイング社の最新鋭機種7777でした。

「ねえ、キャプテン・レンジャー」
「なんだ?」
「なんかさ、最新機種にしちゃショボいんじゃない、この機体?」
「なに言ってるんだ。家電だってなんだって、新しい機種はどんどんコストダウンをはかってチャチになってきてるじゃないか。宇宙船だって同じさ。なんとか用が足せる最低限の性能と装備っていうのが最新式っていう意味だ」
「ふーん、そんなもんか」

 ポロたちは太った弾丸のような図体(ずうたい)のB-7777の座席でシートベルトをしめてリフトオフを待ちました。

「本日は大泉学園航空をご利用いただきましてありがとうございます。当機は小惑星ララトーヤ行き“への9”便です。あと3分ほどでリフトオフとなります」

 3分ほどたつと、ばらっこべれっこべれんこべれんこという音が鳴り始めました。ポロが窓の外、直立する機首のほうを見ると大きなプロペラが回っていました。

「わ、宇宙船なのにプロペラで飛ぶのか!」
「あんた、ホントにアメン王子か? 大気圏内はロケットエンジンで飛ぶよりもずっと経済的だから最近の宇宙船はどれも上昇用のローターがついてるぜ。プロペラなんて言わないでくれよ」

 ぶるんぶるんという音は、そのうちぶい〜〜〜ん!という音に変わり、“への9”便はワイヤーに吊られているかのような動きで宙に浮きました。

「ねえねえ、キャプテン・レンジャー。ぶい〜んて飛ぶからブーイング7777って言うのかなあ」
「そりゃ違うぜ。苦情が多いからブーイング社って言うんだ。ホントだぜ」
「苦情が多いのにどうして倒産したりしないの?」
「お前さんはホントにボンボンだなあ。いいか、よく聞けよ。苦情が多いだけの会社、苦情も多いが称賛も多い会社、称賛ばかりの会社ってえのがあるんだ。ブーイング社は苦情も称賛も多い会社なんだ」
「どうして?」
「もうすぐ分かる」

 そこへキャビン・アテンダントのかなりベテランそうな女の人がカップ麺を配りに来ました。なんと、薄くそいだ木のカップでした。

「経木(きょうぎ)ていうんだぜ。昔はなんでもそれで済ませたもんだ」

 キャプテン・レンジャーが教えてくれました。

「わ。ポロね、ホームラン軒がいいな!」
「はい、かしこまりました」

つづく

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2005-06-29 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その2

粉屋襲撃 その2


 キャプテン・レンジャーは近ごろ火星で人気の激辛ラーメン“火車”を選びました。

「ポロ、ホームラン軒大好きなんだ」
「いいか。それが称賛てえやつだ。そして、あれがブーイング」

 ポロたちが後ろを振り返ると、ちょっとお金もちそうな女の人が、もっとマシな機内食はないの!と文句を言っていました。

「無理だぜ」
「どうして?」
「航空路線にはいろいろと事情ってもんがあるんだ。ララトーヤ便は太陽系有数の赤字路線だ。落とせるだけコストを落として運賃を下げて、所得水準の低いカイパーベルトの人たちに乗ってもらわなけりゃならない思惑もあるのさ」
「じゃあ、カイパーベルトの人たちには安いから喜ばれてるの?」
「そういうわけだ。もし、大泉学園航空がこの路線から手を引いちまったら孤立する小惑星も多いだろう。もちろん小惑星ララトーヤは一発で未開惑星に逆戻りだ」
「ふ〜ん。いろんな事情があるんだね〜」

 ポロはホームラン軒を食べてお腹がいっぱいになったので、そのまま眠ってしまいました。いつしか“への9”便は化学ロケットエンジンの点火位置に到達し、地球周回軌道を離脱しようとしていました。

 ポロが目をさますと“への9”便は、今度はソーラーセイルを開いて航行していました。月面基地からの推進用レーザーを受けて帆が白く輝いています。

「キャプテン・レンジャー、B-7777って帆船だったのか〜」
「そうだ。時間はかかるが燃料費が安い。どうせ機内食はカップ麺だから食事の回数が増えてもコストはタカが知れてる」

 その時、窓の外で何かが光ったような気がしました。

「キャプテン、あれなあに?」
「どれだ?」
「あれだよ」
「お・・・。まずいな。あれは海賊船だ」

 すると、船内アナウンスがありました。

「乗客の皆様に申し上げます。ただいま本船は海賊船と遭遇し、ランデブー軌道をとるように命じられています。お客様の安全を第一に考え、海賊の命令に従います」

 客席がざわつきました。

「俺たちスーパー・ヒーローが乗りあわせていたってのが奴らの不運だったな」

 キャプテン・レンジャーはストレッチ体操を始めました。

「何してんの?」
「俺は徒手空拳で戦うのが売りなんだ」
「へえ、カッコいいねえ」
「ホントに強いやつは武器がなくても強いんだ。それに環境にもいいしな」
「そ、そだね! いま気がついたよ」

 間もなくドッキングハッチを開けてエアロックから海賊たちが“への9”便に乗り込んできました。すると、ハッチ付近にいたキツネ目の男が海賊たちの前に立ちふさがりました。
 それは月曜日7時のヒーロー、フォックス隊長でした。

海賊1「なんだお前は?」
隊長「お前みたいな悪いヤツが大好きな物好きさ」

 フォックス隊長は電光石火の早わざで海賊をやっつけて縛り上げました。驚いたことに客席からつぎつぎとスーパーヒーローたちが飛びだして、なだれ込んでくる海賊たちをやっつけて、全員縛り上げてしまいました。
 機内食に文句をつけていた金曜日8時台の異色ヒロイン、富豪ウーマンは海賊退治でうっぷんを晴らしたみたいでした。高齢化社会を象徴する老人ヒーロー、オールドマン“スーパー爺メン”は「若いもんには負けんぞい」と繰り返していました。そして得意げに勝利のポーズをとり続ける七色ソルジャーと爆風仮面を合わせた6人のスーパー・ヒーローが同じ宇宙船に乗りあわせていたのです。
 ポロは、思わずあの人たちには近づかずにおこうと思いました。だって、普通じゃないように見えたからです。

つづく

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2005-06-28 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その3

粉屋襲撃 その3


「おっと、おまえさんを入れて7人だぜ」
「ポロはスーパー・ヒーローじゃないよ」
「なに言ってるんだ。お前さんの番組は視聴率が高そうじゃないか」

 5時間ほどでたどりつける一番近い標位星に海賊たちをあずけて“への9便”は航海を続けました。
 海賊たちを降ろすと、スーパー・ヒーローたちは集まって話を始めました。もちろんポロは行きませんでした。少したってキャプテン・レンジャーが席に戻ってきました。

「アメン王子、起きてるか?」
「うん、起きてるよ」
「俺たちがどうしてララトーヤに呼ばれたか分かってきたぜ」
「どうして?」
「南ひらゆき村とかいうところが宇宙レミングに襲撃されたらしい」
「宇宙レミング?」
「よく分からんが、タビネズミの仲間らしい。とにかくそいつらを退治するんだ。それで猫のお前さんも呼ばれたってわけだ。ギャラは安いぞ。覚悟しとけよ」

 ララトーヤ宇宙空港に到着したとき、外はつめたい雨が降っていました。

「練馬国際空港を出発したときと同じだね」
「雪よりはマシだぜ。ここもお前さんの星とおなじように太陽のかけらがまわりを回ってるから凍らずにすんでる」
「そうか。じゃ、オリンピア号みたいな船を持ってるんだね」

 空港ビルは木造で、屋根は植物の葉で葺かれていました。

「こんなに辺鄙な惑星なのに自然の再循環可能な最新式の建物だな。たいしたもんだ」
「そだね。田舎の方に行くと、いまでもコンクリートの建物なんかあるもんね」
「まったくだ。地球が進歩するのはいつのことやら」

 出迎えてくれたのは、南ひらゆき村のドッジスン助役でした。

「遠いところをようこそおいでくださいましただ。いつもあんた方の番組は欠かさず見てますだよ」

 ポロたちは牛に似た動物が引く、再生可能なエネルギーで動く最新式の馬車に乗って、南ひらゆき村に向かいました。
 ドッシスン助役が村について話してくれました。

「南ひらゆき村は未来永劫栄える村という目標を掲げてアンペール村長以下、みんなで頑張ってきただよ。ここでは化石燃料は一切使わないし、化学物質も使わない。100年経っても同じ豊かさと自然を子孫に残せるだよ。
だからといってビンボー暮らしはいやだ。ここはホントに豊かなところなんだよ。だが、豊かだってことは狙われるってこってもある。1年くれえ前から宇宙レミングていうネズミが大群で押し寄せてくるようになって困っとるんじゃ。
最初は村長もネズミだって自然の一部だって言って静観しとったんだが、旅のお方が宇宙全体から見ればくずれた自然の一部としてレミングが現れたのだから戦わなければだめだと。村議会では、それを真実と受け止めてこうして皆さんをお呼びしたわけですだ」

 その話を聞いてもスーパー・ヒーローたちは無言でした。みんな、こんな仕事はチョロいと思っていたのです。

 南ひらゆき村は田園地帯にあり、本当に美しいところでした。木と草だけでできた村役場は、びっくりするようなデザインの建物でした。自然の材料を必要最小限の加工しかしていないのに、本当に未来的で機能的で快適でした。
アンペール村長が出てきて出迎えてくれました。

「ヒーローの皆さん、ようこそ南ひらゆき村へおいでくださいました。村人は皆さんのファンばかりですから、混乱を避けるために極秘にしてあります。皆さんもネズミ退治が終わるまでは昼間に村内を出歩かないようにしてください」

 歓迎式典では南ひらゆき村で収穫されたおいしい食べ物がたくさん振る舞われました。

つづく

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