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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-07-09 ポロの日記 2005年7月13日(波曜日)知られざる英雄たち その5
2005-07-08 ポロの日記 2005年7月11日(光曜日)ポロ、人里に暮らす その1
2005-07-07 ポロの日記 2005年7月11日(光曜日)ポロ、人里に暮らす その2
2005-06-30 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その1
2005-06-29 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その2
2005-06-28 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その3
2005-06-27 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その4
2005-06-26 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その5
2005-06-25 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その6
2005-06-23 ポロの日記 2005年6月23日(草曜日)昔話 その1


2005-07-09 ポロの日記 2005年7月13日(波曜日)知られざる英雄たち その5

知られざる英雄たち その5


- 午前3時56分 徳島県上空 -

 今度は大成功。未知の小惑星は軌道を逸れ、徳島県上空で歴史的大火球となって地上を照らした後、対流圏との圏界面でバウンドして再び宇宙へ飛び去りました。その様子は徳島県の海南天文台の火球パトロールカメラが捉えていました。

マ「成功よ。エンジン逆噴射」
せ「了解」

 ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ!

 しかし、ラジェンドラの速度が速すぎて、おもったように速度が落ちませんでした。マチルダ博士とせんせいは、逆向きの、ありとあらゆるスラスターとバーニアを噴射しました。でも、所詮それは焼け石に水でした。

マ「ポロちゃん、ごめんね。間に合わないかも知れないわ」
せ「いや、まだだ。精いっぱいやるだけやってみよう」
ポ「あわわわわわわ」

 ラジェンドラの外殻が赤熱して炎の尾を曳き始めると、パニックを引き起こしたポロは、とうとうおしっこをちびってしまいました。

ポ「あわわわわわわ」


- 午前3時57分 田舎町基地 -

グ「銀河連盟本部。巨大な岩塊は地球人の宇宙船によって軌道を変え、火球となりながらも宇宙へと飛び去りました」
銀「それは本当ですか。地球もそんなに科学技術が進歩したのか」
グ「間違いありません。しかし、その宇宙船自体が制御不能となって、この基地に向かって墜落してきています。重力波ビーム砲の使用許可を」
銀「こちらでも確認できました。干渉は禁止されていますが、自衛のための重力波ビーム砲の使用は認められているので、撃墜しても問題はないでしょう」
グ「了解。ありがとう」

 グリンダは重力波ビーム砲を反重力側にセットすると、ギリギリ弱めに、火の玉となったラジェンドラに向けてトリガーを引きました。もしかしたら、落下速度だけが落ちて乗組員が助かるかもしれないと考えたからです。それでも重力波ビームの身体や脳への影響は避けられないかも知れません。グリンダは、あの決死の英雄たちを助けられるものなら助けたいと思ったのです。

グ「すごいショックだけど、がまんしてね。運がよければ助かるかも知れないわよ、英雄さんたち」

 ぶぶぶぶぶぶ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

 和歌山県上空から山梨県にかけて、その日二つ目の火球が目撃されましたが、どの天文台のパトロールカメラも、その姿を記録してはいませんでした。


おしまい


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

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ポロの掲示板はここ。
ポロの道場

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勇者を助けたいと思う気持ちは、宇宙共通なのですね・・・ / みた・そうや ( 2005-07-14 19:34 )

2005-07-08 ポロの日記 2005年7月11日(光曜日)ポロ、人里に暮らす その1

ポロ、人里に暮らす その1


 ポロは、もうすぐ山が始まる平地のはずれにある小さな町で、納豆を売りながら暮らしていました。どうして納豆を売りながら暮らしているかというと、図書館で納豆売りをしながら考古学者になった相沢忠洋(あいざわ・ただひろ)さんの本を読んだのと、ちょうど都合よく近所に納豆を作っている人がいたからです。それでも答えになっていないので、もう少し詳しく言うと、ポロには身寄りがないので自活しなければならないからです。どうして身寄りがないかというと、それはポロが記憶喪失のピアノマンだからです。

 その日も納豆を売り終わると、納豆を卸してくれる“とむ爺”のところに行って売り上げの報告をしました。

「とむ爺、今日も全部売れたよ」
「おお、それはご苦労じゃった。お前さんは営業成績日本一の納豆マンだ」
「やだなあ、ポロは日本一のピアノマンだよ」
「おお、そうじゃ。今度廃校になる町立小学校のピアノを希望者にくれるそうじゃ。代わりにワシが申し込んでおいた。欲しいじゃろう」
「うん。でも、ポロは修理するお金がないよ」
「そうか。お前さんは金で解決しようと考えたのじゃな」
「ほかに方法があるの?」
「ある。自分でやるんじゃ」
「だって、ポロ、ピアノの修理の方法なんて知らないよ」
「ピアノはお前さんにとって大事なことか?」
「うん、とっても」
「ならば、時間はかかるがピアノから学べばよい。最初にピアノを作ったクリストフォリだって誰からも習えなかったはずじゃ。もしお前さんが本当に大事だと思っておるのなら、人任せにはできんはずじゃ」
「やってみるよ。ポロたち、時間とやる気だけは“御大尽さま”だからね」
「そうじゃ。それは札束よりもずっと役にたつ」

 長年、小学校で酷使されて壊れかけたピアノがポロの家にやってきました。この家だって、町を見限って都会に引っ越した家族が残していったものをポロがとむ爺に手伝ってもらって修理して住んでいるのです。
 ポロは少しずつピアノを分解して、その構造を理解していきました。
 夕方になると、ポロは町役場のリサイクルデーにタダでもらってきた自転車の“ラジェンドラ”の荷台に納豆を積んで商売にでかけます。

 最初に行くのは、とむ爺の納豆工房の近くの橋本さんのおばあちゃんのところです。このおばあちゃんは、ホントはヴェガ星人で、銀河連盟のエージェントとして極秘で地球に駐在しているのです。地球が銀河連盟に加盟する日まで、こうしたエージェントによる地道な監視活動が続くのです。ポロは地球の印象が悪くならないように、いつも笑顔で商売しました。
 常連さんのところを回って、最後に行くのが町役場の近くのバラのお家でした。どうして最後に行くかというと、このお家からはいつもピアノの音が聴こえて来るからです。

「ごめんくらさい。納豆屋です」

 ポロがドア越しに声をかけると、中から小さな女の子の声がきこえてきます。

「あ、ママ。猫のお兄さんだよ」
「あら、もうこんな時間」

 がちゃ

「いつもごくろうさま」

 勝手口のドアが開くと、ステキな奥さんが納豆と引き換えにお金をくれます。このドアの向こうには“家族のだんらん”というものがあるのに違いありません。
 再びドアが閉じるまでの、ほんの10秒間だけがポロが家族のだんらんを感じる時間でした。
 ポロは、とむ爺に家族のだんらんてどういうのかなあって聞いたことがあります。そうしたら、とむ爺も「わからん」と言いました。
 とむ爺も記憶喪失でこの町に流れてきた孤独なピアノマンだったのです。


つづく

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2005-07-07 ポロの日記 2005年7月11日(光曜日)ポロ、人里に暮らす その2

ポロ、人里に暮らす その2


 それから、ポロは自転車の“ラジェンドラ”にまたがったまま、カーテン越しに柔らかい光の漏れる窓辺の道路で女の子が弾くピアノの音に耳を傾けるのでした。ところが、しばらくするといつもジャマが入ります。窓の外のポロに気づいたサングラスをかけた犬が、部屋の中からワンワンワンワンワン!と吠えるのでした。

 月日は流れて3年、とうとうポロのピアノの修理が終わりました。結局、いくつもの部品を買い替えなくてはならず、少しずつしかお金がたまらなかったので、こんなに長くかかってしまったのです。そのかわりポロは自分のピアノのことならなんでも知っていました。だからピアノはいつでもベストコンディションでした。
 そんなある日、とむ爺がやってきてポロのピアノを弾きました。

 ポロは、その曲を知っていました。

「とむ爺、それは“あじさい”っていう曲だね」
「そうか、そういうのか。ワシは知らん。記憶を失う前から知っておった」
「ポロのピアノ、こんなにいい音が出るんだね。ポロ、涙が出るくらいうれしいよ」

 とむ爺は別の曲を弾きました。

「あ、それは“萩”っていう曲だよ。どうしてポロ知ってるんだろう」

 とむ爺は黙って、次の曲を弾きました。

「それは“やぶがらし”だよ」

 とむ爺はピアノを弾く指を止めると、ポロのほうを向いて言いました。

「ワシは、このピアノの音を知っておる。今、思いだした。これは、ワシがずっと使っておったピアノの音じゃ」
「ポロも、この音しか思いつかないから、こういう風に整音したんだよ」
「そうか。ワシらは似た過去を持っておるのかも知れんな。この音を聴いて、ワシの心はざわついておる。この音を聴いたら、自然にいろいろな曲が指から流れてくるのじゃ」

 外で犬が吠えたのでポロが窓から外を見ると、犬の散歩の途中の、あのバラの家の奥さんが立っていました。

「ご、ごめんなさい、立ち聞きなんかして」
「ううん、いいんだよ別に」
「いつも、猫のお兄さんがうちの窓の外で立ち聞きしてるのを、なんかいやだなあなんて思っていたのに、あたしが同じことしてしまったわ。あんまりきれいな音だから、立ち止まらずにいられなかったの」
「ポロこそ、いつもゴメなさい。どうぞ、中へ入ってください」

 サングラスをかけたバカンスな犬を近くの木に結ぶと、バラの奥さんはポロのピアノの前に座って弾き始めました。

 それは、今までに聴いたことがないような、すばらしいドビュッシーの“月の光”でした。

 とむ爺は木の切株の椅子に座ったまま、じっと目を閉じてピアノの音に耳を傾けていました。
 ポロは、たぶん世界で一番幸せな時間を過ごしているのは、ここにいる3人に違いないと思いながら、この3人が感じている音楽の本当の姿が分かったような気がしてきたのでした。


おしまい

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mokoさんアリガト〜。次のお話も期待して待っててね〜♪ / ポロ ( 2005-07-13 23:24 )
いいお話ですね♪私も‘バカンスな犬’に会ってみたいなぁ〜バラの奥さんのピアノも聴いてみたいです♪ / moko ( 2005-07-13 21:22 )

2005-06-30 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その1

粉屋襲撃 その1


 雨に煙る練馬宇宙空港にポロはたたずんでいました。(大泉学園航空の搭乗窓口が分からなかっただけだけど)
 そこへ見覚えのある男が通りかかった。一部のローカルテレビ局で人気のスーパーヒーロー、キャプテン・レンジャーでした。

「よお、アメン王子。あんたも呼ばれたのか?」
「ど、どうしてポロのこと知ってるの?」
「何言ってんだ。テレビじゃオレの次の時間帯のヒーローはあんたじゃないか」
「・・・・・???」
「どうせ大泉学園航空だろ、搭乗手続きは向こうだぜ」

 ポロはキャプテンレンジャーのあとを追いました。大泉学園航空のカウンターはたこ焼き屋のとなりにありました。大泉学園というのは学校の名前じゃなくて、町の名前です。練馬に住んでる人なら誰でも知ってるけど、大分県の人には分からないかも。ポロたちは手続きを済ませると、搭乗ゲートから小惑星ララトーヤ行きの“への9便”に乗り込みました。
 それはブーイング社の最新鋭機種7777でした。

「ねえ、キャプテン・レンジャー」
「なんだ?」
「なんかさ、最新機種にしちゃショボいんじゃない、この機体?」
「なに言ってるんだ。家電だってなんだって、新しい機種はどんどんコストダウンをはかってチャチになってきてるじゃないか。宇宙船だって同じさ。なんとか用が足せる最低限の性能と装備っていうのが最新式っていう意味だ」
「ふーん、そんなもんか」

 ポロたちは太った弾丸のような図体(ずうたい)のB-7777の座席でシートベルトをしめてリフトオフを待ちました。

「本日は大泉学園航空をご利用いただきましてありがとうございます。当機は小惑星ララトーヤ行き“への9”便です。あと3分ほどでリフトオフとなります」

 3分ほどたつと、ばらっこべれっこべれんこべれんこという音が鳴り始めました。ポロが窓の外、直立する機首のほうを見ると大きなプロペラが回っていました。

「わ、宇宙船なのにプロペラで飛ぶのか!」
「あんた、ホントにアメン王子か? 大気圏内はロケットエンジンで飛ぶよりもずっと経済的だから最近の宇宙船はどれも上昇用のローターがついてるぜ。プロペラなんて言わないでくれよ」

 ぶるんぶるんという音は、そのうちぶい〜〜〜ん!という音に変わり、“への9”便はワイヤーに吊られているかのような動きで宙に浮きました。

「ねえねえ、キャプテン・レンジャー。ぶい〜んて飛ぶからブーイング7777って言うのかなあ」
「そりゃ違うぜ。苦情が多いからブーイング社って言うんだ。ホントだぜ」
「苦情が多いのにどうして倒産したりしないの?」
「お前さんはホントにボンボンだなあ。いいか、よく聞けよ。苦情が多いだけの会社、苦情も多いが称賛も多い会社、称賛ばかりの会社ってえのがあるんだ。ブーイング社は苦情も称賛も多い会社なんだ」
「どうして?」
「もうすぐ分かる」

 そこへキャビン・アテンダントのかなりベテランそうな女の人がカップ麺を配りに来ました。なんと、薄くそいだ木のカップでした。

「経木(きょうぎ)ていうんだぜ。昔はなんでもそれで済ませたもんだ」

 キャプテン・レンジャーが教えてくれました。

「わ。ポロね、ホームラン軒がいいな!」
「はい、かしこまりました」

つづく

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2005-06-29 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その2

粉屋襲撃 その2


 キャプテン・レンジャーは近ごろ火星で人気の激辛ラーメン“火車”を選びました。

「ポロ、ホームラン軒大好きなんだ」
「いいか。それが称賛てえやつだ。そして、あれがブーイング」

 ポロたちが後ろを振り返ると、ちょっとお金もちそうな女の人が、もっとマシな機内食はないの!と文句を言っていました。

「無理だぜ」
「どうして?」
「航空路線にはいろいろと事情ってもんがあるんだ。ララトーヤ便は太陽系有数の赤字路線だ。落とせるだけコストを落として運賃を下げて、所得水準の低いカイパーベルトの人たちに乗ってもらわなけりゃならない思惑もあるのさ」
「じゃあ、カイパーベルトの人たちには安いから喜ばれてるの?」
「そういうわけだ。もし、大泉学園航空がこの路線から手を引いちまったら孤立する小惑星も多いだろう。もちろん小惑星ララトーヤは一発で未開惑星に逆戻りだ」
「ふ〜ん。いろんな事情があるんだね〜」

 ポロはホームラン軒を食べてお腹がいっぱいになったので、そのまま眠ってしまいました。いつしか“への9”便は化学ロケットエンジンの点火位置に到達し、地球周回軌道を離脱しようとしていました。

 ポロが目をさますと“への9”便は、今度はソーラーセイルを開いて航行していました。月面基地からの推進用レーザーを受けて帆が白く輝いています。

「キャプテン・レンジャー、B-7777って帆船だったのか〜」
「そうだ。時間はかかるが燃料費が安い。どうせ機内食はカップ麺だから食事の回数が増えてもコストはタカが知れてる」

 その時、窓の外で何かが光ったような気がしました。

「キャプテン、あれなあに?」
「どれだ?」
「あれだよ」
「お・・・。まずいな。あれは海賊船だ」

 すると、船内アナウンスがありました。

「乗客の皆様に申し上げます。ただいま本船は海賊船と遭遇し、ランデブー軌道をとるように命じられています。お客様の安全を第一に考え、海賊の命令に従います」

 客席がざわつきました。

「俺たちスーパー・ヒーローが乗りあわせていたってのが奴らの不運だったな」

 キャプテン・レンジャーはストレッチ体操を始めました。

「何してんの?」
「俺は徒手空拳で戦うのが売りなんだ」
「へえ、カッコいいねえ」
「ホントに強いやつは武器がなくても強いんだ。それに環境にもいいしな」
「そ、そだね! いま気がついたよ」

 間もなくドッキングハッチを開けてエアロックから海賊たちが“への9”便に乗り込んできました。すると、ハッチ付近にいたキツネ目の男が海賊たちの前に立ちふさがりました。
 それは月曜日7時のヒーロー、フォックス隊長でした。

海賊1「なんだお前は?」
隊長「お前みたいな悪いヤツが大好きな物好きさ」

 フォックス隊長は電光石火の早わざで海賊をやっつけて縛り上げました。驚いたことに客席からつぎつぎとスーパーヒーローたちが飛びだして、なだれ込んでくる海賊たちをやっつけて、全員縛り上げてしまいました。
 機内食に文句をつけていた金曜日8時台の異色ヒロイン、富豪ウーマンは海賊退治でうっぷんを晴らしたみたいでした。高齢化社会を象徴する老人ヒーロー、オールドマン“スーパー爺メン”は「若いもんには負けんぞい」と繰り返していました。そして得意げに勝利のポーズをとり続ける七色ソルジャーと爆風仮面を合わせた6人のスーパー・ヒーローが同じ宇宙船に乗りあわせていたのです。
 ポロは、思わずあの人たちには近づかずにおこうと思いました。だって、普通じゃないように見えたからです。

つづく

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2005-06-28 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その3

粉屋襲撃 その3


「おっと、おまえさんを入れて7人だぜ」
「ポロはスーパー・ヒーローじゃないよ」
「なに言ってるんだ。お前さんの番組は視聴率が高そうじゃないか」

 5時間ほどでたどりつける一番近い標位星に海賊たちをあずけて“への9便”は航海を続けました。
 海賊たちを降ろすと、スーパー・ヒーローたちは集まって話を始めました。もちろんポロは行きませんでした。少したってキャプテン・レンジャーが席に戻ってきました。

「アメン王子、起きてるか?」
「うん、起きてるよ」
「俺たちがどうしてララトーヤに呼ばれたか分かってきたぜ」
「どうして?」
「南ひらゆき村とかいうところが宇宙レミングに襲撃されたらしい」
「宇宙レミング?」
「よく分からんが、タビネズミの仲間らしい。とにかくそいつらを退治するんだ。それで猫のお前さんも呼ばれたってわけだ。ギャラは安いぞ。覚悟しとけよ」

 ララトーヤ宇宙空港に到着したとき、外はつめたい雨が降っていました。

「練馬国際空港を出発したときと同じだね」
「雪よりはマシだぜ。ここもお前さんの星とおなじように太陽のかけらがまわりを回ってるから凍らずにすんでる」
「そうか。じゃ、オリンピア号みたいな船を持ってるんだね」

 空港ビルは木造で、屋根は植物の葉で葺かれていました。

「こんなに辺鄙な惑星なのに自然の再循環可能な最新式の建物だな。たいしたもんだ」
「そだね。田舎の方に行くと、いまでもコンクリートの建物なんかあるもんね」
「まったくだ。地球が進歩するのはいつのことやら」

 出迎えてくれたのは、南ひらゆき村のドッジスン助役でした。

「遠いところをようこそおいでくださいましただ。いつもあんた方の番組は欠かさず見てますだよ」

 ポロたちは牛に似た動物が引く、再生可能なエネルギーで動く最新式の馬車に乗って、南ひらゆき村に向かいました。
 ドッシスン助役が村について話してくれました。

「南ひらゆき村は未来永劫栄える村という目標を掲げてアンペール村長以下、みんなで頑張ってきただよ。ここでは化石燃料は一切使わないし、化学物質も使わない。100年経っても同じ豊かさと自然を子孫に残せるだよ。
だからといってビンボー暮らしはいやだ。ここはホントに豊かなところなんだよ。だが、豊かだってことは狙われるってこってもある。1年くれえ前から宇宙レミングていうネズミが大群で押し寄せてくるようになって困っとるんじゃ。
最初は村長もネズミだって自然の一部だって言って静観しとったんだが、旅のお方が宇宙全体から見ればくずれた自然の一部としてレミングが現れたのだから戦わなければだめだと。村議会では、それを真実と受け止めてこうして皆さんをお呼びしたわけですだ」

 その話を聞いてもスーパー・ヒーローたちは無言でした。みんな、こんな仕事はチョロいと思っていたのです。

 南ひらゆき村は田園地帯にあり、本当に美しいところでした。木と草だけでできた村役場は、びっくりするようなデザインの建物でした。自然の材料を必要最小限の加工しかしていないのに、本当に未来的で機能的で快適でした。
アンペール村長が出てきて出迎えてくれました。

「ヒーローの皆さん、ようこそ南ひらゆき村へおいでくださいました。村人は皆さんのファンばかりですから、混乱を避けるために極秘にしてあります。皆さんもネズミ退治が終わるまでは昼間に村内を出歩かないようにしてください」

 歓迎式典では南ひらゆき村で収穫されたおいしい食べ物がたくさん振る舞われました。

つづく

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2005-06-27 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その4

粉屋襲撃 その4


「ねえ、キャプテン・レンジャー」
「なんだ?」
「ポロ、こんなにおいしいもの食べたことないよ」
「だからネズミどもが狙うんだ」
「そっか〜。グルメなネズミだなあ」

 ポロは、近くにいたウェイターのお兄さんに建物のことを聞きました。

「ねえ、この建物快適だけど、空調はどうなってるの?」
「はい。建物自体が雨期には吸湿して乾期には放湿します。それに充分耐えうるだけの材料を使って建てられています。また、この植物の断熱性は群を抜いています」
「それからさ、あの照明はなに?」
「あれはこの星が宇宙特許を持っている自然素材だけを使った電球です。エジソンも竹を使うところまではいったんですが、結局アイディア不足でタングステン・フィラメントになってしまいました。自然素材だけという条件で探していけば電球だって作れます。電力も電線もすべて再生可能な自然由来のものです」
「すごいなあ、最新式だね」
「ありがとうございます」

 話を聞いたら、ララトーヤ便が廃止になって進歩が遅れるのは地球のほうだと思いました。
 それから宿舎に案内されたので、ポロは一休みすることにしました。部屋に備え付けられたテレビは、なんと木製フレームのゼリーディスプレイでした。ニミュエさんが出てくるかも知れないと思ってスイッチを入れると、ちょうど“スーパー・ヒーロー・プリンス・アメン”という番組をやっていました。
 ポロが飛行船レッド・ツェッペリン号で出撃するシーン。そういえば、レッド・ツェッペリン号は自然エネルギーだけで動きます。この星や村にぴったりかも。ああ〜、ポロが女神さまと一緒にタキオン化して宇宙と同期するシーンや、ストロマトライトになるシーンも出てきました。でも、イモようかんを食べて神さまの考えたおイモの味を再現するんだとかウンチクも垂れてます。へんなヒーローだなあ。

 ぴゅーわぴゅーわぴゅーわ!

 いきなり部屋に警報が響きました。そしてスピーカー、じゃなくて伝声管から声が聞こえてきました。

「レミング来襲、レミング来襲。これは訓練ではありません。スーパー・ヒーローの皆さん出撃をお願いします」

 ポロがロビーに飛びだすと、もうみんな準備を整えて集まっていました。
 ドッジスン助役が襲われた場所を地図で示していました。

「シメトリ地区の大字(おおあざ)三角(さんかく)字(あざ)帽子(ぼうし)三番地にある粉屋が襲われています。皆さんいそいでください」

 雨の降りしきる夜の街道を、ヒーローたちは飛びだしてきました。襲撃された粉屋までは、わずか1キロほどです。気がつくと、ポロだけが取り残されていました。
 ポロてきには全速力だったのですが、到着したときには全て決着がついていました。ヒーローたちは一人残らずレミングにやられてのびていたのです。粉屋と思われる場所にはレミングの小山ができていて、建物は全く見えませんでした。その数、おそらく100万匹といったところでした。

ちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅー!

 ちゅーちゅーと鳴く鳴き声が辺り一面にカミナリのように響いていました。

つづく

先頭 表紙

2005-06-26 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その5

粉屋襲撃 その5


 その時、一匹のレミングがポロを見つけて突進してきました。ポロは、ネズミなんか怖くないのでかみついてやりました。するとガチっという音がして、歯が折れそうになりました。よく見ると、宇宙レミングは精巧に作られたロボットに毛皮がかぶせてあるんじゃないか。
 これは自然現象じゃない。侵略だ〜!

 ポロはアンシブル通信機で近くを航行中のドーラ防衛軍の宇宙船を呼びだしました。

「オープンチャンネル・ドーラ。こちらアメン。近傍を航行中のドーラ・スターフリート艦艇は応答せよ」
「こちら“月光”のフュースリーです。そちらから0.1天文単位のところにいます」
「おお、フュースリー艦長。特殊部隊の船がいてくれてよかった。全忍者部隊をスリングショット装備でここに派遣して欲しい。金属のビュレットはダメだ。すべてケイ素系のものを持たせて欲しい。すべて隠密行動だ」
「それこそ得意であります。敵はどんな連中でありますか?」
「機械のレミング100万匹ほどだ」
「分かりました。“月光”に搭乗している全忍者部隊と、100万匹を相手にしても弾切れしないだけの補給用のビュレットを降下させます」
「頼んだぞ。以上、通信おわり」
「了解」

ちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅー!

 機械ネズミたちはどこから現れるのか、ますます数を増したように思えました。このままだと、粉屋の建物そのものもなくなってしまうかも知れません。

「・・・アメン王子、ドーラ防衛軍特殊部隊到着いたしました。大隊長のラメント少佐です」
その声にポロが振り向くと、いつのまにか数百の黒ずくめの精鋭たちが控えていました。
「ラメント少佐。見てのとおりだ。よろしく頼む」
「はっ、腕がなります」

 ラメント少佐は、てきぱきと命令を下して攻撃を開始しました。特殊部隊はゴム・パチンコでケイ素製のビュレットを打ちだし、つぎつぎとレミングを倒していきました。忍者部隊の攻撃のあまりの勢いに、レミングたちは形勢不利と感じると、次々と逃げ出しました。そのあとには、ボロボロになった粉屋とたくさんの石つぶてが残りました。

「ごくろう。ケガをしているスーパー・ヒーローたちの手当てをしてやってくれないか」
「は。すでに手当てを済ませております。全員命に別状はありません。それより、我々の後方に船籍不明の小型UFOがいますがどうしますか」

 少佐の部下が差しだした暗視装置で見ると、それはコビト星人のテレビ・クルーの乗ったUFOでした。

「いや、放っておこう。君たちはきっと有名になるよ」

 忍者部隊は闇夜にまぎれて夜空に消えていきました。行き届いた訓練を感じさせる動きでした。

「か〜っくイイ〜!!」
 
 一人になると、ポロは思わず威厳のない言い方をしてしまいました。
 それからヒーローたちを起こして、もう終わったよと言ってみんなで宿舎に帰りました。

つづく

先頭 表紙

ばっかすさん。キャプテン・レンジャーは、これからの大事なキャラクターだよ。これも伏線ていうやつ。 / ポロ ( 2005-07-06 22:52 )
ミタさん、伏線ていうやつだよ。この話を書いたおかげで、外伝がいくつでも書けるっていう寸法さ。あ、お話じゃないよ、全部ホントのことだからね。 / ポロ ( 2005-07-06 22:51 )
キャプテンレンジャーいい! / ばっかす ( 2005-07-06 22:26 )
たくさんのヒーロー達もかっちょええですね〜。でも、誰がニセレミング君達を・・・? / みた・そうや ( 2005-07-06 19:10 )
忍者部隊…かっちょええですね〜。 / みた・そうや ( 2005-07-06 18:45 )

2005-06-25 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その6

粉屋襲撃 その6


「キャプテン・レンジャー」
「なんだ?」
「ダイじょぶだった?」
「大丈夫なわけないだろ。醜態さらしちまったよ」
「そんなことないよ。身体はって戦ったんだもん」
「お前さんこそケガはなかったのか」
「うん。猫はネズミには滅法つよいんだ」
「そうか。いいな」
「あのさ、ウルトラマンがどうして怪獣相手にプロレス技をかけるのかやっとわかったよ」
「そうか」
「ホントに強いからなんだね」
「たりめーよ。今回集められたヒーローも自然破壊しない連中ばかりだぜ」
「最新式だね」
「ははは。でもこのザマじゃしょーがないな」
「いいじゃないか〜、ネズミはいなくなったんだし」
「おおかた、お前さんがドーラ防衛軍を呼んだんだろうよ」
「え゛〜! どうして分かったの?」
「おれは、お前さんの番組欠かさず見てるんだぜ」
「そっか〜。ポロって有名?」
「ああ、コビトテレビと契約してる家では有名だろうよ」
「どのくらいあるの?」
「太陽系全体で500世帯くらいかな」
「な〜んだ。ほんのちょっとなんだね」
「それもこの星が400世帯だ」
「マイナーなテレビ局だねえ」
「だが、その500世帯はみんなお前さんのファンに違いないぜ。お前さんは最新式のヒーローだ」
「わあ、照れちゃうなあ」
「さあ、明日は朝早い便で帰るんだ。早く休もう」
「うん、そうするよ」

 ポロは小惑星ララトーヤでホントの進歩というものを知った気がしました。
来るときにはショボイ会社に思えた大泉学園航空でしたが、帰りには機内食の経木のカップ麺までが、ホントに最新式のピカピカに思えたのでした。


おしまい


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

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ポロの道場

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2005-06-23 ポロの日記 2005年6月23日(草曜日)昔話 その1

昔話 その1


「ねえ、せんせい」
「なんだい?」
「また海が迫ってきたみたいだよ」
「ここも引っ越さなくちゃならないくらいかね」
「今ね、焼米(やきごめ)坂の八合目くらいまでかな」
「もうそんなに来たのか」
「たぶん作曲工房は完全に水没したと思うな」
「そうか・・・」
「せんせい。奥さんもさそって最強線沿いに探検に行こうよ」
「そうだな、久しぶりに行ってみようか」

 午後遅く、少し涼しくなってからせんせいと奥さんとポロの3人は、最強線の中弁慶駅から高架軌道に入るために歩き始めました。ところが、もう中弁慶駅周辺も水没していて近づけませんでした。

せ「そうか。このあたりも、よく考えてみれば低地だったからなあ」
奥「そうね。あたしたち最後に線路を歩いたのはいつごろだったかしら?」
ポ「えっと、ポロが覚えてるのは1年くらい前だよ」

 ポロたちは、南義経駅まで行くことにしました。でも、南義経駅近くの地面にも海が押し寄せていて、ポロたちは水辺にうち捨てられていた小さなボートの水を掻き出してそれで、ようやく南義経駅にたどりつきました。

 ホームまで昇る階段は荒れ果てていました。5階建てビルくらいの高さのところにある高架軌道までたどり着くと、3人は線路に降りて南に向かって歩き始めました。
線路は真っ赤に錆びていました。

奥「最後に電車が走ったのはいつごろだったかしらねえ」
せ「10年くらい前じゃないかな」
ポ「ポロ知ってるよ。正確には12年と3ヶ月前だよ」
奥「もうそんなに経つのね」

 夕方のピンク色の空の下、ポロたちは中弁慶駅をとおり過ぎました。
 空の色を反射して金属板のように光る海面から、ビルやマンションの上層部がニョキニョキと立ち上がっていました。
 もう冬なのに、夕方の風はやっと涼しくなったという感じで、奥さんもせんせいも半そででした。武蔵弁慶駅のあたりから電気羊市のほうをみると、ポロたちはかなり海の沖合に出た感じで、海岸線にいくつかの灯が見えました。
 まだ何百人かの人がこのあたりで暮らしているのです。


つづく

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