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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-06-29 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その2
2005-06-28 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その3
2005-06-27 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その4
2005-06-26 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その5
2005-06-25 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その6
2005-06-23 ポロの日記 2005年6月23日(草曜日)昔話 その1
2005-06-22 ポロの日記 2005年6月23日(草曜日)昔話 その2
2005-06-09 ポロの日記 2005年6月6日(光曜日)ポロのホントの望み その1
2005-06-08 ポロの日記 2005年6月6日(光曜日)ポロのホントの望み その2
2005-06-07 ポロの日記 2005年6月6日(光曜日)ポロのホントの望み その3


2005-06-29 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その2

粉屋襲撃 その2


 キャプテン・レンジャーは近ごろ火星で人気の激辛ラーメン“火車”を選びました。

「ポロ、ホームラン軒大好きなんだ」
「いいか。それが称賛てえやつだ。そして、あれがブーイング」

 ポロたちが後ろを振り返ると、ちょっとお金もちそうな女の人が、もっとマシな機内食はないの!と文句を言っていました。

「無理だぜ」
「どうして?」
「航空路線にはいろいろと事情ってもんがあるんだ。ララトーヤ便は太陽系有数の赤字路線だ。落とせるだけコストを落として運賃を下げて、所得水準の低いカイパーベルトの人たちに乗ってもらわなけりゃならない思惑もあるのさ」
「じゃあ、カイパーベルトの人たちには安いから喜ばれてるの?」
「そういうわけだ。もし、大泉学園航空がこの路線から手を引いちまったら孤立する小惑星も多いだろう。もちろん小惑星ララトーヤは一発で未開惑星に逆戻りだ」
「ふ〜ん。いろんな事情があるんだね〜」

 ポロはホームラン軒を食べてお腹がいっぱいになったので、そのまま眠ってしまいました。いつしか“への9”便は化学ロケットエンジンの点火位置に到達し、地球周回軌道を離脱しようとしていました。

 ポロが目をさますと“への9”便は、今度はソーラーセイルを開いて航行していました。月面基地からの推進用レーザーを受けて帆が白く輝いています。

「キャプテン・レンジャー、B-7777って帆船だったのか〜」
「そうだ。時間はかかるが燃料費が安い。どうせ機内食はカップ麺だから食事の回数が増えてもコストはタカが知れてる」

 その時、窓の外で何かが光ったような気がしました。

「キャプテン、あれなあに?」
「どれだ?」
「あれだよ」
「お・・・。まずいな。あれは海賊船だ」

 すると、船内アナウンスがありました。

「乗客の皆様に申し上げます。ただいま本船は海賊船と遭遇し、ランデブー軌道をとるように命じられています。お客様の安全を第一に考え、海賊の命令に従います」

 客席がざわつきました。

「俺たちスーパー・ヒーローが乗りあわせていたってのが奴らの不運だったな」

 キャプテン・レンジャーはストレッチ体操を始めました。

「何してんの?」
「俺は徒手空拳で戦うのが売りなんだ」
「へえ、カッコいいねえ」
「ホントに強いやつは武器がなくても強いんだ。それに環境にもいいしな」
「そ、そだね! いま気がついたよ」

 間もなくドッキングハッチを開けてエアロックから海賊たちが“への9”便に乗り込んできました。すると、ハッチ付近にいたキツネ目の男が海賊たちの前に立ちふさがりました。
 それは月曜日7時のヒーロー、フォックス隊長でした。

海賊1「なんだお前は?」
隊長「お前みたいな悪いヤツが大好きな物好きさ」

 フォックス隊長は電光石火の早わざで海賊をやっつけて縛り上げました。驚いたことに客席からつぎつぎとスーパーヒーローたちが飛びだして、なだれ込んでくる海賊たちをやっつけて、全員縛り上げてしまいました。
 機内食に文句をつけていた金曜日8時台の異色ヒロイン、富豪ウーマンは海賊退治でうっぷんを晴らしたみたいでした。高齢化社会を象徴する老人ヒーロー、オールドマン“スーパー爺メン”は「若いもんには負けんぞい」と繰り返していました。そして得意げに勝利のポーズをとり続ける七色ソルジャーと爆風仮面を合わせた6人のスーパー・ヒーローが同じ宇宙船に乗りあわせていたのです。
 ポロは、思わずあの人たちには近づかずにおこうと思いました。だって、普通じゃないように見えたからです。

つづく

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2005-06-28 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その3

粉屋襲撃 その3


「おっと、おまえさんを入れて7人だぜ」
「ポロはスーパー・ヒーローじゃないよ」
「なに言ってるんだ。お前さんの番組は視聴率が高そうじゃないか」

 5時間ほどでたどりつける一番近い標位星に海賊たちをあずけて“への9便”は航海を続けました。
 海賊たちを降ろすと、スーパー・ヒーローたちは集まって話を始めました。もちろんポロは行きませんでした。少したってキャプテン・レンジャーが席に戻ってきました。

「アメン王子、起きてるか?」
「うん、起きてるよ」
「俺たちがどうしてララトーヤに呼ばれたか分かってきたぜ」
「どうして?」
「南ひらゆき村とかいうところが宇宙レミングに襲撃されたらしい」
「宇宙レミング?」
「よく分からんが、タビネズミの仲間らしい。とにかくそいつらを退治するんだ。それで猫のお前さんも呼ばれたってわけだ。ギャラは安いぞ。覚悟しとけよ」

 ララトーヤ宇宙空港に到着したとき、外はつめたい雨が降っていました。

「練馬国際空港を出発したときと同じだね」
「雪よりはマシだぜ。ここもお前さんの星とおなじように太陽のかけらがまわりを回ってるから凍らずにすんでる」
「そうか。じゃ、オリンピア号みたいな船を持ってるんだね」

 空港ビルは木造で、屋根は植物の葉で葺かれていました。

「こんなに辺鄙な惑星なのに自然の再循環可能な最新式の建物だな。たいしたもんだ」
「そだね。田舎の方に行くと、いまでもコンクリートの建物なんかあるもんね」
「まったくだ。地球が進歩するのはいつのことやら」

 出迎えてくれたのは、南ひらゆき村のドッジスン助役でした。

「遠いところをようこそおいでくださいましただ。いつもあんた方の番組は欠かさず見てますだよ」

 ポロたちは牛に似た動物が引く、再生可能なエネルギーで動く最新式の馬車に乗って、南ひらゆき村に向かいました。
 ドッシスン助役が村について話してくれました。

「南ひらゆき村は未来永劫栄える村という目標を掲げてアンペール村長以下、みんなで頑張ってきただよ。ここでは化石燃料は一切使わないし、化学物質も使わない。100年経っても同じ豊かさと自然を子孫に残せるだよ。
だからといってビンボー暮らしはいやだ。ここはホントに豊かなところなんだよ。だが、豊かだってことは狙われるってこってもある。1年くれえ前から宇宙レミングていうネズミが大群で押し寄せてくるようになって困っとるんじゃ。
最初は村長もネズミだって自然の一部だって言って静観しとったんだが、旅のお方が宇宙全体から見ればくずれた自然の一部としてレミングが現れたのだから戦わなければだめだと。村議会では、それを真実と受け止めてこうして皆さんをお呼びしたわけですだ」

 その話を聞いてもスーパー・ヒーローたちは無言でした。みんな、こんな仕事はチョロいと思っていたのです。

 南ひらゆき村は田園地帯にあり、本当に美しいところでした。木と草だけでできた村役場は、びっくりするようなデザインの建物でした。自然の材料を必要最小限の加工しかしていないのに、本当に未来的で機能的で快適でした。
アンペール村長が出てきて出迎えてくれました。

「ヒーローの皆さん、ようこそ南ひらゆき村へおいでくださいました。村人は皆さんのファンばかりですから、混乱を避けるために極秘にしてあります。皆さんもネズミ退治が終わるまでは昼間に村内を出歩かないようにしてください」

 歓迎式典では南ひらゆき村で収穫されたおいしい食べ物がたくさん振る舞われました。

つづく

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2005-06-27 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その4

粉屋襲撃 その4


「ねえ、キャプテン・レンジャー」
「なんだ?」
「ポロ、こんなにおいしいもの食べたことないよ」
「だからネズミどもが狙うんだ」
「そっか〜。グルメなネズミだなあ」

 ポロは、近くにいたウェイターのお兄さんに建物のことを聞きました。

「ねえ、この建物快適だけど、空調はどうなってるの?」
「はい。建物自体が雨期には吸湿して乾期には放湿します。それに充分耐えうるだけの材料を使って建てられています。また、この植物の断熱性は群を抜いています」
「それからさ、あの照明はなに?」
「あれはこの星が宇宙特許を持っている自然素材だけを使った電球です。エジソンも竹を使うところまではいったんですが、結局アイディア不足でタングステン・フィラメントになってしまいました。自然素材だけという条件で探していけば電球だって作れます。電力も電線もすべて再生可能な自然由来のものです」
「すごいなあ、最新式だね」
「ありがとうございます」

 話を聞いたら、ララトーヤ便が廃止になって進歩が遅れるのは地球のほうだと思いました。
 それから宿舎に案内されたので、ポロは一休みすることにしました。部屋に備え付けられたテレビは、なんと木製フレームのゼリーディスプレイでした。ニミュエさんが出てくるかも知れないと思ってスイッチを入れると、ちょうど“スーパー・ヒーロー・プリンス・アメン”という番組をやっていました。
 ポロが飛行船レッド・ツェッペリン号で出撃するシーン。そういえば、レッド・ツェッペリン号は自然エネルギーだけで動きます。この星や村にぴったりかも。ああ〜、ポロが女神さまと一緒にタキオン化して宇宙と同期するシーンや、ストロマトライトになるシーンも出てきました。でも、イモようかんを食べて神さまの考えたおイモの味を再現するんだとかウンチクも垂れてます。へんなヒーローだなあ。

 ぴゅーわぴゅーわぴゅーわ!

 いきなり部屋に警報が響きました。そしてスピーカー、じゃなくて伝声管から声が聞こえてきました。

「レミング来襲、レミング来襲。これは訓練ではありません。スーパー・ヒーローの皆さん出撃をお願いします」

 ポロがロビーに飛びだすと、もうみんな準備を整えて集まっていました。
 ドッジスン助役が襲われた場所を地図で示していました。

「シメトリ地区の大字(おおあざ)三角(さんかく)字(あざ)帽子(ぼうし)三番地にある粉屋が襲われています。皆さんいそいでください」

 雨の降りしきる夜の街道を、ヒーローたちは飛びだしてきました。襲撃された粉屋までは、わずか1キロほどです。気がつくと、ポロだけが取り残されていました。
 ポロてきには全速力だったのですが、到着したときには全て決着がついていました。ヒーローたちは一人残らずレミングにやられてのびていたのです。粉屋と思われる場所にはレミングの小山ができていて、建物は全く見えませんでした。その数、おそらく100万匹といったところでした。

ちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅー!

 ちゅーちゅーと鳴く鳴き声が辺り一面にカミナリのように響いていました。

つづく

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2005-06-26 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その5

粉屋襲撃 その5


 その時、一匹のレミングがポロを見つけて突進してきました。ポロは、ネズミなんか怖くないのでかみついてやりました。するとガチっという音がして、歯が折れそうになりました。よく見ると、宇宙レミングは精巧に作られたロボットに毛皮がかぶせてあるんじゃないか。
 これは自然現象じゃない。侵略だ〜!

 ポロはアンシブル通信機で近くを航行中のドーラ防衛軍の宇宙船を呼びだしました。

「オープンチャンネル・ドーラ。こちらアメン。近傍を航行中のドーラ・スターフリート艦艇は応答せよ」
「こちら“月光”のフュースリーです。そちらから0.1天文単位のところにいます」
「おお、フュースリー艦長。特殊部隊の船がいてくれてよかった。全忍者部隊をスリングショット装備でここに派遣して欲しい。金属のビュレットはダメだ。すべてケイ素系のものを持たせて欲しい。すべて隠密行動だ」
「それこそ得意であります。敵はどんな連中でありますか?」
「機械のレミング100万匹ほどだ」
「分かりました。“月光”に搭乗している全忍者部隊と、100万匹を相手にしても弾切れしないだけの補給用のビュレットを降下させます」
「頼んだぞ。以上、通信おわり」
「了解」

ちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅー!

 機械ネズミたちはどこから現れるのか、ますます数を増したように思えました。このままだと、粉屋の建物そのものもなくなってしまうかも知れません。

「・・・アメン王子、ドーラ防衛軍特殊部隊到着いたしました。大隊長のラメント少佐です」
その声にポロが振り向くと、いつのまにか数百の黒ずくめの精鋭たちが控えていました。
「ラメント少佐。見てのとおりだ。よろしく頼む」
「はっ、腕がなります」

 ラメント少佐は、てきぱきと命令を下して攻撃を開始しました。特殊部隊はゴム・パチンコでケイ素製のビュレットを打ちだし、つぎつぎとレミングを倒していきました。忍者部隊の攻撃のあまりの勢いに、レミングたちは形勢不利と感じると、次々と逃げ出しました。そのあとには、ボロボロになった粉屋とたくさんの石つぶてが残りました。

「ごくろう。ケガをしているスーパー・ヒーローたちの手当てをしてやってくれないか」
「は。すでに手当てを済ませております。全員命に別状はありません。それより、我々の後方に船籍不明の小型UFOがいますがどうしますか」

 少佐の部下が差しだした暗視装置で見ると、それはコビト星人のテレビ・クルーの乗ったUFOでした。

「いや、放っておこう。君たちはきっと有名になるよ」

 忍者部隊は闇夜にまぎれて夜空に消えていきました。行き届いた訓練を感じさせる動きでした。

「か〜っくイイ〜!!」
 
 一人になると、ポロは思わず威厳のない言い方をしてしまいました。
 それからヒーローたちを起こして、もう終わったよと言ってみんなで宿舎に帰りました。

つづく

先頭 表紙

ばっかすさん。キャプテン・レンジャーは、これからの大事なキャラクターだよ。これも伏線ていうやつ。 / ポロ ( 2005-07-06 22:52 )
ミタさん、伏線ていうやつだよ。この話を書いたおかげで、外伝がいくつでも書けるっていう寸法さ。あ、お話じゃないよ、全部ホントのことだからね。 / ポロ ( 2005-07-06 22:51 )
キャプテンレンジャーいい! / ばっかす ( 2005-07-06 22:26 )
たくさんのヒーロー達もかっちょええですね〜。でも、誰がニセレミング君達を・・・? / みた・そうや ( 2005-07-06 19:10 )
忍者部隊…かっちょええですね〜。 / みた・そうや ( 2005-07-06 18:45 )

2005-06-25 ポロの日記 2005年6月30日(草曜日)粉屋襲撃 その6

粉屋襲撃 その6


「キャプテン・レンジャー」
「なんだ?」
「ダイじょぶだった?」
「大丈夫なわけないだろ。醜態さらしちまったよ」
「そんなことないよ。身体はって戦ったんだもん」
「お前さんこそケガはなかったのか」
「うん。猫はネズミには滅法つよいんだ」
「そうか。いいな」
「あのさ、ウルトラマンがどうして怪獣相手にプロレス技をかけるのかやっとわかったよ」
「そうか」
「ホントに強いからなんだね」
「たりめーよ。今回集められたヒーローも自然破壊しない連中ばかりだぜ」
「最新式だね」
「ははは。でもこのザマじゃしょーがないな」
「いいじゃないか〜、ネズミはいなくなったんだし」
「おおかた、お前さんがドーラ防衛軍を呼んだんだろうよ」
「え゛〜! どうして分かったの?」
「おれは、お前さんの番組欠かさず見てるんだぜ」
「そっか〜。ポロって有名?」
「ああ、コビトテレビと契約してる家では有名だろうよ」
「どのくらいあるの?」
「太陽系全体で500世帯くらいかな」
「な〜んだ。ほんのちょっとなんだね」
「それもこの星が400世帯だ」
「マイナーなテレビ局だねえ」
「だが、その500世帯はみんなお前さんのファンに違いないぜ。お前さんは最新式のヒーローだ」
「わあ、照れちゃうなあ」
「さあ、明日は朝早い便で帰るんだ。早く休もう」
「うん、そうするよ」

 ポロは小惑星ララトーヤでホントの進歩というものを知った気がしました。
来るときにはショボイ会社に思えた大泉学園航空でしたが、帰りには機内食の経木のカップ麺までが、ホントに最新式のピカピカに思えたのでした。


おしまい


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

ポロの掲示板はここ。
ポロの道場

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2005-06-23 ポロの日記 2005年6月23日(草曜日)昔話 その1

昔話 その1


「ねえ、せんせい」
「なんだい?」
「また海が迫ってきたみたいだよ」
「ここも引っ越さなくちゃならないくらいかね」
「今ね、焼米(やきごめ)坂の八合目くらいまでかな」
「もうそんなに来たのか」
「たぶん作曲工房は完全に水没したと思うな」
「そうか・・・」
「せんせい。奥さんもさそって最強線沿いに探検に行こうよ」
「そうだな、久しぶりに行ってみようか」

 午後遅く、少し涼しくなってからせんせいと奥さんとポロの3人は、最強線の中弁慶駅から高架軌道に入るために歩き始めました。ところが、もう中弁慶駅周辺も水没していて近づけませんでした。

せ「そうか。このあたりも、よく考えてみれば低地だったからなあ」
奥「そうね。あたしたち最後に線路を歩いたのはいつごろだったかしら?」
ポ「えっと、ポロが覚えてるのは1年くらい前だよ」

 ポロたちは、南義経駅まで行くことにしました。でも、南義経駅近くの地面にも海が押し寄せていて、ポロたちは水辺にうち捨てられていた小さなボートの水を掻き出してそれで、ようやく南義経駅にたどりつきました。

 ホームまで昇る階段は荒れ果てていました。5階建てビルくらいの高さのところにある高架軌道までたどり着くと、3人は線路に降りて南に向かって歩き始めました。
線路は真っ赤に錆びていました。

奥「最後に電車が走ったのはいつごろだったかしらねえ」
せ「10年くらい前じゃないかな」
ポ「ポロ知ってるよ。正確には12年と3ヶ月前だよ」
奥「もうそんなに経つのね」

 夕方のピンク色の空の下、ポロたちは中弁慶駅をとおり過ぎました。
 空の色を反射して金属板のように光る海面から、ビルやマンションの上層部がニョキニョキと立ち上がっていました。
 もう冬なのに、夕方の風はやっと涼しくなったという感じで、奥さんもせんせいも半そででした。武蔵弁慶駅のあたりから電気羊市のほうをみると、ポロたちはかなり海の沖合に出た感じで、海岸線にいくつかの灯が見えました。
 まだ何百人かの人がこのあたりで暮らしているのです。


つづく

先頭 表紙

2005-06-22 ポロの日記 2005年6月23日(草曜日)昔話 その2

昔話 その2


 武蔵弁慶駅とタドタド駅との間は、ほかの区間より少し長くて、とうとう夜になってしまいましたが、ちょうど満月が昇ってきて周囲を明るく照らしました。今、月の距離は10万キロくらいで、目で見てもクレーターがはっきりと見えます。満月から満月までの期間もとても短くなりました。だから空は明るくて、まるで夕方くらいの感じです。あと何年かでお月さまはロッシュの限界を超えて、ついには粉々に砕けて地球の環となるそうです。

 3人ともくたびれてきたころ、やっとタドタド駅に着きました。ホームに上がると、せんせいと奥さんは作曲工房があったあたりを眺めていました。目印の見なれたマンションはすぐに分かりました。でも、その近くの海面には何もありませんでした。

奥「去年来たときには太陽電池パネルが波間から出ていたのにね」
せ「そうだね。もう完全に水没したみたいだね」
ポ「ボートで真上に行けばきっと見えるよ」
奥「そうね」

 奥さんは用意してきた紅茶とビスケットを出してくれました。

ポ「おいしいなあ」
奥「そうね。でも、そろそろまた食べ物探しに行かないと、パントリーの在庫が少なくなってきたわ」
せ「よし、じゃあ明日は北のほうに行ってみようか」
ポ「あのさ、あのさ。もし音速ビルのほうに行くんだったらさ、イオタさんのお店でコーヒー飲もうよ」
奥「そうね。まだやってるかしら」
ポ「やっててほしいなあ」

 すると、目の前でイルカがジャンプしました。水しぶきが月の光を反射してキラキラ光りました。

ポ「わ、びっくりした!」
奥「地球が全部海になったらイルカたちの天下ね」
せ「そうだね」
ポ「じゃあさ、ポロたちもイルカになろうよ」
奥「じゃ、さっそく明日から泳ぐ練習しなくちゃね」
ポ「あ、やっぱりポロやめとく」

 さっきのイルカが、今度は少し離れたところで連続ジャンプしました。

ポ「いいなあ」

 ポロは思わずつぶやきました。


おしまい


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

ポロの掲示板はここ。
ポロの道場

先頭 表紙

ミタさん。でもさ、ちょっとだけこんなところに行ってみたくない? / ポロ ( 2005-06-24 09:24 )
なんだか、ちょっと悲しくなってしまいました… / みた・そうや ( 2005-06-23 19:57 )

2005-06-09 ポロの日記 2005年6月6日(光曜日)ポロのホントの望み その1

ポロのホントの望み その1


 ポロは、なんだかすっきりしない気分だったので、久しぶりに日本橋馬喰町(ばくろちょう)のデカルト商会を訪ねました。

 とんとん! ごめんくらさーい!

 雑居ビルの地下1階にある、デカルト商会の陰気なドアが開くと、松戸哲学さんのもの静かな声が聞こえてきました。

「いらっしゃいませ。お久しぶりでございます」

 ポロが中に入ると、哲学さんとポロは古い木のテーブルに向かいあって座りました。

「今日は、どのようなご用でしょうか」
「どうして来たか分かんないの」
「私どものもっとも得意な分野のひとつでございます。少々お待ちください」

 哲学さんは部屋の奥から技術文書養成キットのようなものを持ってきました。

「それなに?」
「これは、自分が本当は何をしたいのか教えてくれる願望真贋判定キットでございます」
「どうしてポロにそんなものが必要なの?」
「ポロ様は、1000曲以上も収められる携帯音楽再生装置をお持ちでしょうか?」
「ううん、持ってないよ」
「欲しいとお思いですか?」
「もっちろん! ポロは音楽が大好きなんだ!」
「では、判定してごらんにいれましょう」

 願望真贋判定キットは小さなノートパソコンのような形をしていましたが、木でできていました。ディスプレイは寒天みたいなゼラチンみたいな感じでした。

「ゼリーディスプレイです」
「スイッチがないけど、どうやって電源を入れるの?」
「スイッチはありません。よびかけるのです」

 そう言うと、哲学さんはゼリーディスプレイに向かって呼びかけました。

「ニミュエさん」

 ・・・ふぉん!

 不思議な雰囲気でゼリーディスプレイに光が宿ると、そこにティンカーベルのような妖精が現れました。


つづく

先頭 表紙

2005-06-08 ポロの日記 2005年6月6日(光曜日)ポロのホントの望み その2

ポロのホントの望み その2


ニ「呼んだ? 哲学さん」
哲「はい、あなたを必要とする人、というか猫が現れました」
ポ「わ、かーいいなあ!」
ニ「初めまして。私はニミュエ」
ポ「ポロだよ。ニュミエさん」
ニ「ニミュエよ」
ポ「ご、ゴメなさいニュミエさん」
ニ「・・・・・」
哲「さっそくですが、お答えを・・」
ニ「大容量の携帯型音楽再生機ね。多くの人がそうだけど、この猫ちゃんも霧の中をさまよっているわね」
ポ「わ、せんせいみたいなこと言う!」
ニ「あなた、好きな曲を言ってみて」
ポ「えっと“夕べの祈り”だよ」
ニ「それから?」
ポ「それから、えっと“ウィンドワード”かな・・」
ニ「それから?」
ポ「あ、思いだした。“タコタコあがれ”」
ニ「それから?」
ポ「急に言われても分かんないよ」
ニ「そんなものよ。あと997曲分はどうするの?」
ポ「そのうち埋まるよ」
ニ「その頃は、以前聴いていた曲は聴かなくなるわ」
ポ「でも、持ってると便利かも」
ニ「それが売る側の戦略なの。心の霧に乗じて売り込むのよ。霧が晴れている人は本当に欲しいのかどうか分かるものなの」
ポ「でも、きっと役にたつよ」
ニ「大容量っていうのは確かに人によっては使い道があるのよ。でも、それは聴くためじゃないの。あなたに限らず、多くの人には要らないわ」
ポ「でも、欲しいよ」
ニ「欲しいだけだわ。必要じゃないの」
ポ「必要だから欲しいんじゃないか〜」
ニ「いえ、あなたが自分のことを理解していないだけだわ」
ポ「そんなことないよ」
ニ「あなたは、もう音楽の真実に気づきつつあるわ」
ポ「どういうこと?」
ニ「あなたは人の演奏じゃ満足できないはずよ」
ポ「ポロ、ピアノがちょーヘタだよ」
ニ「うまいに越したことはないけど、うまいヘタじゃないわ。あなたにとっての真実の演奏よ」
ポ「・・・・そうかな」
ニ「あなたは自分では弾けない難しい曲をCDで聴いたり、演奏会に行ったりして本当に満足できるかした?」
ポ「そう言われると、いつもなんかしっくりこないかも」
ニ「それはね、ゲームセンターですごく上手な人の見てるのと似てるのよ。最初は感動しちゃうの。すごいなあって。でも、その驚きがなくなると、興味がなくなってくるはずよ。次の興味はもっと凄い人を見つけたときまでお預け。あなたがそこで得ているのは本当に必要なものじゃなくて、ただの刺激よ」
ポ「・・・!」
ニ「あなたが求めている本当の音楽は決して飽きたりしない、心の底から満たされるものよ」
ポ「そうかも」
ニ「それはアクロバティックな技巧を要求する音楽というわけじゃないの。心休まる、本当に簡単な音並びの中に宿っているのよ。そういう音楽は録音しちゃったら命を失うの」
ポ「そうかも〜・・・・!」
ニ「携帯型音楽再生機の中に、あなたが本当に求めている音楽はないわ。ご自分で演奏なさい。それも真剣に」
ポ「がび〜〜ん! そうだよ、そうに違いない。アリガト、ニュミエさん」
ニ「いい、もう一度だけ言うわ。ニミュエよ」
ポ「わ、ゴメんよ〜、もう間違えないよニュミエさん!」
ニ「哲学さん、あたしの名前も言えないような猫に買われていくのはお断りよ」
ポ「わ、ニュミエさん、お願い。ポロ、ニュミエさんの弟子になりたいよ〜!」
哲「残念ですが、ポロ様。ここの商品は特殊ですから、嫌われてしまうと無理です」
ポ「わ〜〜〜! ニュミエさ〜ん!」


つづく

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2005-06-07 ポロの日記 2005年6月6日(光曜日)ポロのホントの望み その3

ポロのホントの望み その3


 ポロは工房に戻ると、哲学さんに書いてもらった<ニ・ミュ・エ>というメモを前に、発音の特訓を始めました。

「ニ・ミュ・エ」

 言えるじゃないか、ニュミエ! あ・・、続けると言えないかも。
 ポロは、イモようかん断ちをして願をかけると、来る日も来る日も<ニミュエ>の発音練習を続けました。
 そして2週間が過ぎ、とうとうポロは100回つづけて発音しても間違えなくなりました。
 ポロは馬喰町に向かいました。

「ニミュエニミュエニミュエニミュエニミュエニミュエニミュエニミュエ・・・・・」

 ばっちりだぜ!

 デカルト商会につくと、さっそく願望真贋判定キットの妖精に話かけました。

ポ「ニミュエさん! ポロ、言えるようになったでしょ!」
ニ「・・・そうね、嬉しいわ・・・」

 なんだか様子が変でした。憎まれ口をきいていた時の元気がありません。

哲「ポロ様、願望真贋判定キットは寿命が近づいています」
ポ「!」

 ポロは技術文書達人養成キットに宿っていた師匠のことを思いだしました。

ポ「わ〜〜〜〜〜〜! ニミュエさん、死なないで!」
ニ「発音練習、頑張ったわね。その練習のお陰で、あなたが私の教えを必要だと思う心は本物になったわ」
ポ「もちろん本物だよ〜!」
ニ「そうね。全てのものに寿命があるわ。あなたのせんせいは不死身なの?」
ポ「そんなことないよ」
ニ「それでは私と同じことだわ。寿命の長さじゃないの。私はまだもう少しは持つわよ。でも、せんせいを含めて、あなたのまわりにいる誰かだって、大きな事故に遭えば、私より早く死んでしまうかも知れないのよ」
ポ「わ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」

 ポロは、ニミュエさんが言ってることを一気に理解したのでした。考えてみれば命とはそういうものなのでした。自分の馬鹿さと後悔と悲しさに、涙があとからあとからあふれ出してきました。

ニ「花は寿命が短いけど、あなたは枯れない造花のほうが好きかしら?」

 ポロは泣きじゃくっていてしゃべれないので首をよこに振りました。花は、みずから、そのことをポロたちに教えてくれていたのでした。

ニ「あなたは、せんせいが生きている間に全てを学ぼうとしているかしら? 第一、今のせんせいと来年のせんせいは、厳密には違う人よ。あなたは今の先生から学べることも、来年のせんせいから学べることも必要と思っているのではないかしら?」

 ポロは何回も何回も首を縦に振りました。

ニ「だから真剣になれるのよ」

 うんうん・・。

ニ「そう。じゃ、あなたは不死身の私やせんせいじゃなくて、命の限りある私やせんせいを選ぶのね」

 びえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!


つづく

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