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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-06-07 ポロの日記 2005年6月6日(光曜日)ポロのホントの望み その3
2005-06-06 ポロの日記 2005年6月6日(光曜日)ポロのホントの望み その4
2005-06-05 ポロの日記 2005年6月5日(風曜日) ポロの携帯“糸”電話
2005-05-27 ポロの日記 2005年5月27日(岩曜日)せんせいを救え! その1
2005-05-26 ポロの日記 2005年5月27日(岩曜日)せんせいを救え! その2
2005-05-22 ポロの日記 2005年5月19日(草曜日)熱き修業の日々 解決編 その1
2005-05-21 ポロの日記 2005年5月19日(草曜日)熱き修業の日々 解決編 その2
2005-05-20 ポロの日記 2005年5月19日(草曜日)熱き修業の日々 解決編 その3
2005-05-19 ポロの日記 2005年5月17日(熱曜日)熱き修業の日々 その1
2005-05-18 ポロの日記 2005年5月17日(熱曜日)熱き修業の日々 その2


2005-06-07 ポロの日記 2005年6月6日(光曜日)ポロのホントの望み その3

ポロのホントの望み その3


 ポロは工房に戻ると、哲学さんに書いてもらった<ニ・ミュ・エ>というメモを前に、発音の特訓を始めました。

「ニ・ミュ・エ」

 言えるじゃないか、ニュミエ! あ・・、続けると言えないかも。
 ポロは、イモようかん断ちをして願をかけると、来る日も来る日も<ニミュエ>の発音練習を続けました。
 そして2週間が過ぎ、とうとうポロは100回つづけて発音しても間違えなくなりました。
 ポロは馬喰町に向かいました。

「ニミュエニミュエニミュエニミュエニミュエニミュエニミュエニミュエ・・・・・」

 ばっちりだぜ!

 デカルト商会につくと、さっそく願望真贋判定キットの妖精に話かけました。

ポ「ニミュエさん! ポロ、言えるようになったでしょ!」
ニ「・・・そうね、嬉しいわ・・・」

 なんだか様子が変でした。憎まれ口をきいていた時の元気がありません。

哲「ポロ様、願望真贋判定キットは寿命が近づいています」
ポ「!」

 ポロは技術文書達人養成キットに宿っていた師匠のことを思いだしました。

ポ「わ〜〜〜〜〜〜! ニミュエさん、死なないで!」
ニ「発音練習、頑張ったわね。その練習のお陰で、あなたが私の教えを必要だと思う心は本物になったわ」
ポ「もちろん本物だよ〜!」
ニ「そうね。全てのものに寿命があるわ。あなたのせんせいは不死身なの?」
ポ「そんなことないよ」
ニ「それでは私と同じことだわ。寿命の長さじゃないの。私はまだもう少しは持つわよ。でも、せんせいを含めて、あなたのまわりにいる誰かだって、大きな事故に遭えば、私より早く死んでしまうかも知れないのよ」
ポ「わ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」

 ポロは、ニミュエさんが言ってることを一気に理解したのでした。考えてみれば命とはそういうものなのでした。自分の馬鹿さと後悔と悲しさに、涙があとからあとからあふれ出してきました。

ニ「花は寿命が短いけど、あなたは枯れない造花のほうが好きかしら?」

 ポロは泣きじゃくっていてしゃべれないので首をよこに振りました。花は、みずから、そのことをポロたちに教えてくれていたのでした。

ニ「あなたは、せんせいが生きている間に全てを学ぼうとしているかしら? 第一、今のせんせいと来年のせんせいは、厳密には違う人よ。あなたは今の先生から学べることも、来年のせんせいから学べることも必要と思っているのではないかしら?」

 ポロは何回も何回も首を縦に振りました。

ニ「だから真剣になれるのよ」

 うんうん・・。

ニ「そう。じゃ、あなたは不死身の私やせんせいじゃなくて、命の限りある私やせんせいを選ぶのね」

 びえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!


つづく

先頭 表紙

2005-06-06 ポロの日記 2005年6月6日(光曜日)ポロのホントの望み その4

ポロのホントの望み その4


 ポロは、ますます悲しくなってしまいました。本当にそうだったからです。ポロは、きっと不死身の人なんかとお友達にはなれません。不死身の人は何回失敗しても次があるからです。どうして今まで生きていること、生きていくことの意味に気づかなかったのでしょか。
 生きていくって、こんなに悲しいことだったのです。

ニ「いいえ、だからすばらしいのよ」

 ぴえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

 そんなこと、もう気がついてるよ。これは後悔の涙なんだってば。技術文書養成キットの師匠の時にも分かったはずなのに、どうしてポロは懲りない猫なんだ〜。

ニ「ああ。思ったよりも早く終わりになりそうよ」

 やだよやだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

 ポロは泣きながら地団駄を踏みました。

ニ「私のために毎日発音練習をしてくれてありがとう。あなたの身体からイモようかん好きの匂いが消えてるわ。イモようかん断ちまでしてくれたのね・・・・」
ポ「ニミュエさんは、ポロの師匠だよ!」

 ポロは、やっとの思いで言葉を口にすることができました。

ニ「そんなにエラくないわ。でも、私もあなたに巡り会えて幸せよ。あなたはもう霧の中にはいないわ・・・・さようならポロちゃん、哲学さん」

 そういうと、ゼリーディスプレイの光が一瞬明るく輝いて、それから徐々に暗くなって、ついにニミュエさんの姿が見えなくなりました。
 哲学さんはディスプレイに向かって深々と一礼しました。

 まもなく、キットそのものが力なく崩れ去りました。それは気高く、神々(こうごう)しい残がいでした。
 ポロは哲学さんにお願いして、残がいをもらって帰りました。

 その日の夕方、ポロは、おばあちゃんの畑の片隅の技術文書達人養成キットの師匠のお墓のとなりに、ニミュエさんのお墓を建てました。

 ぱよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んんん!

 その音のする方向に目を向けると、真っ赤な夕焼けの中、畑の西側の高架軌道を走る上り最強線のシルエットが、ニミュエさんの死を悼むかのように、長い長い警笛を響かせながら夕焼けの中をゆっくりと進んで行くのでした。


おしまい


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ポロの道場

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マチルダさん、じ〜んと来たでしょ。アリガト〜! / ポロ ( 2005-06-08 00:49 )
じ〜ん。私が写真を撮ろうと思った時の気持ちを思い出しました。衝撃から立ち直れるかも、です。 / マチルダ ( 2005-06-07 19:12 )

2005-06-05 ポロの日記 2005年6月5日(風曜日) ポロの携帯“糸”電話

ポロの携帯“糸”電話


「せんせい」
「なんだい?」
「とうとう工房で携帯電話持ってないの、せんせいとポロだけになっちゃったね」
「そうか」
「でも、心配しなくてもいいよ」
「別に心配なんかしてないさ」
「いいの。ポロがさ、携帯“糸”電話作ったから」


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あ、ホントだ!よく見るとうっすらと日付が!(^^) / みた・そうや ( 2005-06-06 10:52 )
マチルダさん、当たり! マチルダさんも超能力があったのか〜。(それとも風にいちゃんのスキャナとマチルダさんのPCが超能力なんだね) これは、たろちゃんのいたずら描きなの。ポロが糸電話で遊んでたらカレンダーを切って作ったメモ用紙にサササって描いてくれたの。 / ポロ ( 2005-06-06 10:35 )
ミタさん、そだよ。ミタさんが糸電話持っていっても、せんせいはちゃんとお話してくれます。せんせいってね、そういう人なの。 / ポロ ( 2005-06-06 10:31 )
私も携帯を持っていないので、糸電話つくりましょ。これはカレンダーの裏ですね。 / マチルダ ( 2005-06-06 09:10 )
ポロちゃんのイラスト、せんせいとお話中なのでしょうか。可愛いですね。 / みた・そうや ( 2005-06-06 07:24 )

2005-05-27 ポロの日記 2005年5月27日(岩曜日)せんせいを救え! その1

せんせいを救え! その1


奥「ポロちゃん」
ポ「なあに、奥さん」
奥「せんせいの健康診断の結果がよくないのよ」
ポ「どうしたの?」
奥「高脂血症だって」
ポ「それってなあに?」
奥「血液中の中性脂肪やコレステロールの値が高くなる病気よ」
ポ「せんせいがビョーキだっていうことは知ってたけど、病気も持ってたのか〜」
奥「もちろん病院にも行かせるけど、ちょっと調べたら食事と生活を変えないとダメらしいのよ」
ポ「そうなのか〜。それじゃ、ポロたちで無理やり変えちゃえばいいよ」
奥「何から始めればいいのかしら?」
ポ「うん、ポロがいろいろと調べてみるよ」


 それからポロは、猫の星ドーラ王立病院の内科部長のステファニー博士に連絡をとりました。ステファニー博士はドーラ医学界きっての凄腕女性内科医です。

ポ「あ、ステファニー博士。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
ス「アメン王子、お久しぶりでございます。どのようなことですか?」
ポ「あのさ、せんせいが高脂血症になっちゃったんだけど、どうすればいいかなと思って」
ス「高脂血症の敵は不摂生です。そのようなだらしない人は放っておいたらいかがですか?」
ポ「そ、それを言われるとつらいんだけど、せんせい、けっこういいとこあるから何とかしてあげたいんだよ。それに、猫の世界と違って、高脂血症の人って多いのさ」
ス「昔は人間世界だって高脂血症の人は少なかったのではないでしょうか、王子」
ポ「そ、そだけど・・・」
ス「人間社会が堕落している証拠です。王子、そんなところにいつまでもいらっしゃらずに、はやくドーラにお戻りになられたほうがよろしいんじゃありませんこと?」
ポ「うん、アリガト。じゃあね」

 ステファニー博士は、ぜんぜん悪い人じゃないんだけど、猫の星には生活習慣病が少ないので地球の様子が理解できないようでした。ポロは、今度はクランベリーヒルの松戸博士に連絡しました。

ポ「あ、松戸博士?」
松「いかにも。その声はポロどんじゃの?」
ポ「そだよ、博士、元気?」
松「ああ、ちょっと中性脂肪値と総コレステロール値が高いがの、なんとかやっておる」
ポ「わ、実はせんせいも高脂血症って診断されちゃったんだ」
松「それはいかん。じゃが、ちょうどよいことに、ワシが生活習慣自動変更装置を開発したから、さっそく1セット届けよう」
ポ「ホント? アリガト〜!」
松「なあに、いいんじゃ」

 次の日の夜、松戸博士はリンゴ丸にいろいろ積み込んでやってきました。

 どどどどどどどど〜!

 ワンボックスカータイプの宇宙船、りんご丸II世号は工房の玄関前に派手に減速スラスターを噴射しながら着陸しました。

ポ「わ〜、博士。これじゃご近所から苦情殺到だよ」
松「ごめんごめん。今日は荷物が多いので、いつものエンジンだけでは着陸できんかったのじゃ」

 ぴゆぴゆ!

ポ「わ、ロケット号! 久しぶりだねえ。地球でもしゃべれるようになったのか〜」
ロ「ぴゆぴゆ」

 せんせい以外の家族みんなも加わって、深夜の突貫工事が始まりました。


つづく

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2005-05-26 ポロの日記 2005年5月27日(岩曜日)せんせいを救え! その2

せんせいを救え! その2


松「最初は、自動逆走階段の取り付けじゃ」
海「博士、ステップは全部今までのを使うんだね?」
松「そうじゃ。さすが海太郎くん、察しがいいのう」

 大工仕事が苦手な風にいちゃんとたろちゃんは材料運びの手伝いをしました。奥さんはお茶を入れて、ポロはイモようかんを食べながらお茶を飲みました。

松「さあ、できた」
奥「これは、どういうふうに役に立つの、博士?」
松「これは、ワシが発明した自動逆走階段というものじゃ。せんせいを識別して、昇ろうとすれば下り、下ろうとすれば昇る階段じゃ。これを使えば3階に行くまでに、知らず知らずのうちに6階に行くだけの運動量になるのじゃ」
奥「でも、エスカレーターのように動いたらすぐに怪しまれるんじゃないんですか?」
松「はーっはっは! よいところに気がつきなすった。今、識別機能を停止して誰にでも作動するようにしたから、さあ、昇ってみてくだされ」

 さっそく、みんなで昇ってみました。

奥「これ壊れていませんか。いつもと全然変わりませんけど」
松「では奥さん、今どこにいるかよくご覧くだされ」
奥「ま〜! もう昇りきったつもりだったのに、半分しか来てないわ!」
松「これは、日本に古来より伝わる“キツネに化かされた”時の“キツネ効果”を応用したものじゃ」
風「すごいね! とむりんなんていつもうわの空で階段昇ってるからきっと気がつかないよ」
松「ははは。きっと効果抜群ですじゃ!」
たろ「あれ、ポロは?」
奥「大変、階段の途中で行き倒れてるわ」
海「こいつ、イモようかん食っちゃ寝てるから、体力ゼロなんだよ」

 松戸博士は識別機能にポロを加えました。

 そして、次にキッチンに行くと、電子レンジやガスレンジに小さな部品を取り付けました。まな板にも取り付けました。

松「これは脂肪分解装置じゃ。これの装置があれば、調理するとサーロインステーキがヒレステーキになり、このまな板に乗せればトロがただの赤身になるのじゃ」
奥「まずくなったりしませんか?」
松「もちろんなる」
奥「まあ!」
松「大丈夫じゃ。とむりん君は味オンチじゃからのう、ははははは!」

 そこにいた誰もが、それって松戸博士のことだろうと思いましたが、黙っていました。松戸博士は、ひどい味オンチだったのです。

 最後に、松戸博士はせんせいのピアノにも部品を取り付けました。

松「これは、ピアノ用体力消耗装置じゃ。鍵盤もペダルも全部が重くなるのじゃ」
ポ「うわ、鍵盤が鉄ゲタみたいに重いよ」
松「ペダルはランボルギーニのクラッチの重さに合わせてある」

 ポロには踏めませんでした。

松「階段は有酸素運動、このピアノは無酸素運動ができる。キッチンでは食餌療法じゃ。これでとむりん君も健康が取り戻せることは間違いないじゃろう」

 明け方、博士とロケット号は帰っていきました。

 さらばじゃ!
 ぴゆぴゆ!

 どどどどどどどど〜〜〜!

ポ「うわ〜、ご近所から苦情が来ちゃうよ!」

 リンゴ丸が空の点になって、それが消えるまでポロは手を振りつづけました。


おしまい



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わ〜、ミタさん。レスが遅くなっちゃった。ゴメなさい! ポロも体脂肪が減ったかも〜! / ポロ ( 2005-06-06 10:36 )
ポロちゃんも鍛えられて、一石二鳥ですね♪ / みた・そうや ( 2005-05-28 12:51 )

2005-05-22 ポロの日記 2005年5月19日(草曜日)熱き修業の日々 解決編 その1

熱き修業の日々 解決編 その1


「せんせい」
「どうした?」
「正直に白状するよ〜。ポロは修業のやりかたが分からない〜」
「なんだ。きのうはずいぶんと自信がありそうだったじゃないか」
「ありそうだっただけなんだよ〜。はい、これ修業日記」
「どれどれ。てんとう虫一匹を発見か。発見してどうしたんだ」
「どうもしないんだよ〜」
「ベートーヴェンのピアノ協奏曲が気持ちよかったと言っていたのは眠ってしまったからなのか」
「うん、気がついたら終わってたんだよ」
「そうだったのか」
「ポロは、どうすればいいんだ〜」
「今までのレッスンは、ほとんど全てそのためにやってきたつもりだったんだが、まるで成果が上がっていなかったということか・・」
「わあ〜、ゴメんよゴメんよ〜! せんせい、今度からちゃんとやるからさ〜」
「いや、ポロのせいではないかも知れないね。私がポロに向かないやり方をしていたのかも知れない」
「そ、そっかなあ? ポロに向いたやり方なんてあるのかなあ?」
「たとえば深みを探ろうとしない人に型を教えても意味がない。その人は型どおりやろうとするだけだからだ」
「うんうん」
「しかし、すぐに自分流でやろうとする人には型をきっちりと伝える必要があるわけだ」
「なんだか音楽コラムみたいになってきたね、せんせい」

 でも、そこからが違いました。

「ポロ、愛用のポータブルMDプレーヤーはフル充電してあるか?」
「いつでもバッチリだよ」
「よし、それではこのMDをセットして出かけるぞ」
「ど、どこに行くの〜?」
「いいからついてくるんだ」

 せんせいは、ポロを笹目川の自然遊歩道に連れてきました。

「さあ、ポロ。MDを再生してごらん」
「うん。あ、この曲なあに?」
「ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番。今から40年以上前のケンプ、ライトナー、ベルリンフィルの、背筋がピンと伸びた演奏だ」
「古くてもいい音だね〜」
「最近は技術が進んで、こういうことができるようになったんだ」
「この曲を聴いてると、いつも見てる景色なのになんだか雄大に見えるなあ。でも、どうして歩きながら聴くの?」
「寝ないようにだ」
「・・・そ、そっか」

 それからポロたちは一言も言葉を交わさずにピアノ協奏曲第4番が終わるまで歩き続けました。そして、とうとう別所沼まで来てしまいました。
 沼のほとりの木陰のベンチにたどり着くと、せんせいは一休みしようといって、どっこしょと腰掛けました。


つづく

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2005-05-21 ポロの日記 2005年5月19日(草曜日)熱き修業の日々 解決編 その2

熱き修業の日々 解決編 その2


「せんせい。ポロは今まで、こんなにいい曲は聴いたことがないよ!」
「そうか。本当はこんなに集中して聴いたことがないということかも知れない」
「なるほど、そうか。じゃあさ、ほかの曲も集中して聴けばいい曲かな?」
「そういうこともあるだろう。いつも言っているように、その人の価値は大事に思っていることがあるかどうかだ。大事に思っていることというのは、その事のためなら真剣になれる、あるいは心を傾けることができるということだ。だから自分にさえウソがつけない」
「今ならそれがスイスイ分かるよ」
「ポロ、ほらそこの植え込みにてんとう虫がいるじゃないか」
「あ゛〜〜! ホントだ。きのう、あんなに探したのに・・」
「どこを探したんだ?」
「え・・、そ、それはナイショだよ」
「おおかた和菓子屋の店先というところだろうな」
「ギクっ! ・・・なんで分かるんだ〜・・」
「それ以外のところは思いつかないだろう、ポロの場合」
「ねえ、ポロって単純?」
「悪いことはしないほうがいいと思うね。すぐに捕まる」
「そうか〜。これからは、もう少し複雑で陰のある猫を目指すことにしよう」
「ところで、ポロはてんとう虫を見つけたら何を見ようとしたんだ?」
「だからてんとう虫だよ」
「同じ音楽を聴いても同じ景色を見ても、人によって見るものが異なる。なぜなら、どんなものでも、あまりに情報量が多いので、我々はそれらから選択して受け取らなければならないからだ」
「そだったね。思いだしたよ」
「何を見なくちゃいけないという決まりはない。だからこれから話す視点は、ほんの一例だよ。ポロは、これを超えていかなくてはならない」
「うん」
「てんとう虫はどこにいる?」
「あの植え込みの葉っぱの上」
「どうしてそこにいるんだ?」
「あの葉っぱがエサなんじゃないかな」
「そういうてんとう虫もいるだろう。そこに住み着いている小さな虫をエサにしているてんとう虫もいるだろう。私はあまりくわしくないからどちらなのかよく分からないが、どちらにせよ、エサに関係しているのは十分考えられることだ」
「うん」
「では、あの植物はなぜあそこに生えているんだ?」
「沼も近いし、水があるし日も当たるからかな」
「そうだ」
「では、どうしてここに沼があるのかな?」
「えっと、そういう地形なんだよ」
「では、この地形はなぜできたのかな?」
「ん〜〜〜と、それは地球のせいだよ」
「まあ、多少乱暴ないい方だが、そういうことだ」
「せんせい、ポロに何を言いたいの?」
「ポロ、この沼のまわりにずっと植えられている大木はメタセコイアだ」
「うん。モリアキおじいちゃんから聞いたよ。どこかの奥地で発見された珍しい木だったのに、人間のせいで日本中に増えたって」
「そうだね。植物は水のポンプと考えることができる。根から吸い上げた水分をてっぺんの葉にまで届かせているからね」
「そうか、何十メートルも汲み上げているんだね」
「そして、葉からは水分がどんどん蒸散している。さあ、想像してごらん。木の中の水の動きを」
「わあ、木は水でいっぱいだよ」


つづく

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2005-05-20 ポロの日記 2005年5月19日(草曜日)熱き修業の日々 解決編 その3

熱き修業の日々 解決編 その3


「今度はその想像力で、てんとう虫の身体の中の水を想像するんだ。てんとう虫には閉鎖されて完全に循環する閉鎖血管系はないはずだけれど、体液は心臓をポンプにして循環している」
「うん、なんとなく分かってきたぞ。これが命のデザインというやつだね」
「そうだ。その水や栄養の流れを、今とまっている植物、あいだにアブラムシのようなエサを介しているかも知れないが、とにかく“てんとう虫-植物”の系としてイメージするんだ」
「うん、水と栄養の流れをイメージしたよ。てんとう虫は植物がないところでは生きていけないんだね」
「そうだ。では次に、この地面の水分もその系に加えて」
「ああ、別所沼がないと、この植物は育たないかもしれないんだね。そして、その植物とアブラムシとてんとう虫はシステム(系)なんだ」
「よし。これはひとつの視点に過ぎないけれども、ポロはてんとう虫が見えたことになるんじゃないかな」
「・・・あ〜。すごいよ、せんせい。すごすぎるな。今まで命は独立しているような気がしてたよ、ポロ」
「そうか」
「生きるって、こういうことなんだね。たんぽぽもてんとう虫もポロたちも地球の一部じゃないか〜」
「これが“ガイア理論”だ」
「そうか〜。“ガイア理論”なんて知ってるつもりだったよ〜、ポロ。レイモンド・ラブロック博士のことを書いてある本、読んだもん」
「でも、想像力がついていかなかった・・」
「そうだよ、今こそ分かったよ。ポロのなかには言葉だけがあったっていうことだな。でも、今日は事実から学んだよ」
「実はガイア理論が真実かどうかは分からないんだ。それに、そんなことはどうでもいい」
「きっかけなんだね。こうやって事実に目と想像力を向けるための」
「そうだよ。生け花をたしなむひと全てが花を理解しているわけではないし、ピアノを弾く人全てが音楽を理解しているわけでもない。しかし、それらは必ず理解のきっかけにはなることだろう」
「しなきゃならないよ。もったいなさすぎるよ〜」

 それからせんせいは近くのコンビニで、おむすびとお茶を買ってきてくれました。ポロたちはちょっと早いお昼を食べてから、また歩き始めました。

「せんせい。ポロさ、このコンチェルト4番が聴けるような気がしてきたよ。帰りも聴きながら帰る」
「そうか」

 ポロは、きのうと全然ちがってしまった今日が、まだ残り何時間もあることを心強く思ったのでした。

 ふふふ、修業なんて分かればチョロいじゃないか〜♪

(うわ、ポロ、それがいけないんだ〜、その軽いノリはなんとかならないものか)


※いつか書かれる真の解決編につづく(かも)


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真の解決編は書けないかも〜! / ポロ ( 2005-05-20 20:22 )
おお、ポロちゃんもついに開眼なのですね〜。真の解決編も楽しみです♪ / みた・そうや ( 2005-05-18 19:26 )

2005-05-19 ポロの日記 2005年5月17日(熱曜日)熱き修業の日々 その1

熱き修業の日々 その1


 46億年の旅から戻ったポロは迷いもふっ切れて、猛然と修業生活に戻ったのでした。

「よし、最初は自然の観察からだ。やっぱり自然を観察しないとポロの中に美的基準が育たないからな。計画によると、今日は、てんとう虫の産卵からだぞ。まずはてんとう虫を探さなくちゃだな」

 ポロはさっそく和菓子屋さんの店頭とかケーキ屋さんの店頭に出かけて、てんとう虫を探しました。でも、いくら歩き回ってもとうとうてんとう虫は見つかりませんでした。
 すると道端で一匹の小さな黒い虫がひっくり返っていました。

「今日は転倒虫一匹を見つけたって修業日記に書いておこう」

 次は音楽の勉強だ。ベートーヴェンのピアノ協奏曲を毎日1曲ずつ聴くって決めたんだっけな。ポロは工房のリビングに戻るとCDをセットして聴き始めました。
はっと目を覚ますと、CDは終わっていました。

「ま、いっか。睡眠学習というやつだな。きっと知らず知らずのうちに身についたに違いない」

 お昼になりました。
 せんせいが、きのうの煮物の残りと漬物と赤だし味噌汁にとろろごはんを用意してくれました。

「わあ、せんせいヘルシーだね。この生姜のぬか漬け、ポロ好きだなあ」
「体脂肪計を買ってから、どうも気になるんだ」
「ポロ、こういうの好きだよ〜、んまいんまい!」
「朝食の時に修業するって息巻いていたが、午前中は何をしたんだい?」
「今日はね、自然観察をしてから、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番を聴いたよ」
「そうか。ベートーヴェンはどうだった?」
「うん、・・・とっても気持ち良かったよ」
「そうか」
「午後は?」
「えっとね、最初は読書だよ。それから音楽コラムを書くよ」
「今日のコラムのテーマは?」
「えっと、せんせいに前に聴いたシェーンベルクの話にしようかと思ってるよ」
「なかなか難しいテーマだね」
「ふふふ。せんせい、ポロの力をみくびってもらっちゃ困るよ」
「そうか」
「ははは!」

 ポロは自信たっぷりに笑いました。

 午後になって食器を洗い終わったせんせいが仕事部屋に戻ると、ポロは読書を始めました。今日はまだ発売されて間もない「のだめカンタービレ」という音楽マンガの12巻です。みなさんは、もう読みましたか?

「そだよ。やっぱ平均律だよな〜! ポロも対位法を勉強しなくちゃだな」

 ああ、面白かった。はやく13巻を読みたいなあ。
 それからポロは音楽コラムの執筆にとりかかりました。せんせいの話を録音したMDを用意してイヤホンで聞きなおします。


つづく

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2005-05-18 ポロの日記 2005年5月17日(熱曜日)熱き修業の日々 その2

熱き修業の日々 その2


 初公開! 音楽コラムの元の会話は、こんなだった。

ポ「せんせい、ポロ、シェーンベルクなんて興味ないよ〜」
せ「ガタガタ言わないで聞くんだ!」

 あ、ちょっと違ったかも。

ポ「せんせい、シェーンベルクのこと話してよ」
せ「どうしてシェーンベルクのことなんか聞きたいんだ?」
ポ「ぜんぜん分からないからだよ〜」
せ「シェーンベルクの音楽を聴きこんで興味が出てきた人に話すことならあるが、そうじゃない場合は話を聞いても単に言葉が音波として耳に流れ込んでくるだけだぞ」
ポ「そんなことないよ。一所懸命聞くからさあ」
せ「シェーンベルクは、○▲××□☆○―△▲☆×・・・・・・・・◇◎×〜・・・▲■☆○×・・・・・◎▽◆☆☆★・・・・というわけだ」
ポ「な〜るほど(音波っていうのは)そういうことか〜」

 MDで聞きなおしたのに、やっぱり肝心なところは音波にしか聞こえませんでした。
 さっそく壁にぶち当たったので、3時も近いことだし、ポロはお茶にすることにしました。
 インターホンでせんせいに連絡します。

ポ「あ、せんせい。お茶にしようよ」

 せんせいがリビングに降りてきました。

せ「ポロ、どうだ、コラム書きは進んでいるかい?」
ポ「ははは、ばっちりだよ。でも、テーマは変えるかも」
せ「そうか」

 せんせいとポロはカルダモンの入ったフレーバーティーで、日曜日にたろちゃんが作ったスィートポテトを食べました。

ポ「せんせい、ポテト残す?」
せ「うん。やっぱり体脂肪が気になるな」
ポ「わ〜い、ポロにちょうだい」

 ポロは、おイモを食べて充電したので、ちょっと眠くなってきました。よし、ストロマトライトの修業だな。ちょっと昼寝をしよう。ポロはぐっすりと眠り込んでしまいました。

 夕方、たろちゃんが学校から帰ってきたのでポロは目を覚ましました。

た「ポロ、まったくあんたていう猫は昼寝ばっかりしてるんだから」
ポ「ん、んんん〜! たろちゃん、お帰り〜。ああ、もう夕方か〜。これも修業なんだよ。睡眠学習っていうやつ」
た「なに言ってんのよ。それより、あたし今日当番なんだ。ポロ、ちょっと手伝いなさいよ」
ポ「ほえ〜」

 たろちゃんとポロはキッチンで夕食の下ごしらえを始めました。

た「ポロ、お米くらい量れるでしょ」
ポ「うん。えっとカップに4杯半だっけ」
た「そう」

 ポロは、お米をカップで量りはじめました。


つづく

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