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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-02-27 ポロの日記 2005年2月26日(岩曜日)お話のつくだ煮 その2
2005-02-26 ポロの日記 2005年2月26日(岩曜日)お話のつくだ煮 その3
2005-02-25 ポロの日記 2005年2月26日(岩曜日)お話のつくだ煮 その4
2005-02-24 ポロの日記 2005年2月15日(熱曜日)夕焼け救助隊 その1
2005-02-23 ポロの日記 2005年2月15日(熱曜日)夕焼け救助隊 その2
2005-02-22 ポロの日記 2005年2月12日(岩曜日)初めてのセドナ その1
2005-02-21 ポロの日記 2005年2月12日(岩曜日)初めてのセドナ その2
2005-02-20 ポロの日記 2005年2月12日(岩曜日)初めてのセドナ その3
2005-02-19 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その1
2005-02-18 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その2


2005-02-27 ポロの日記 2005年2月26日(岩曜日)お話のつくだ煮 その2

お話のつくだ煮 その2


 「あじさい亭繁盛記」(2004.12.10-13アップ)は、ちょっと好きな話です。shinさんが掲示板に書き込んでくれた「パップラドンカルメ」(知らない人はググってね)という言葉がきっかけで書こうと思いたちました。だからといって「パップラ丼軽め」を主題にしてしまうとお話の膨らみが足りなくなる気がしたので、もっとほかの視点から書くために、せんせい式のKJ法で発想をまとめる作業からやりました。過去の、一見無関係な情報を並べて、それをずっと眺め続けて関連性を見つけ出していきます。
 「パップラ丼」というメニューから「あじさい亭」。あじさい亭の食材調達は「三河屋」。それを注文する宇宙人1個中隊(新しいアイディア)。調理場には「アルマジロの摩擦式ヒーター」。女神さまがでてくるシーンがみんじん世界の逆襲にあったので、そことつなげること。場所は裏神田を思わせる神田淡路町。パップラの思いがけない正体。小道具の名前、たとば“レギュラス錦”“デネボラ正宗”(どちらも白鳥座の星の名前)。「おまえたちは銀河の猛者か〜!」っていうシーンは映画「エイリアン2」のスラコ号船内でのアポーン軍曹の言葉からアイディアをもらいました。
 そういう準備が整ってから一気にお話としてまとめていきます。ひとつだけのアイディアでお話を書き始めると薄っぺらになってしまうというのは、せんせいの教えです。

 「ライバル店出現」(2004.12.14-15アップ)は、しおさんのサイト「エンターテイメントトークショー」の日記にあった“ラッキー酒場”がヒントです。あじさい亭と関係があるようでいて、ぜんぜん違う話にしなければポロ風ではないので、またまたアイディアを練りました。
 せんせい式KJ法によってひっぱり出した関連事項。「デーモン族の店」「ラーメン屋さんには必ずある“謎のテレビ”」(アイディアノートのメモから)→「そこには何の番組が一番面白いか」→「ずっと前に見たプロレスラーの舞台裏」→「そのタイトルは“ロード・オブ・ザ・リング”のリングにかけて“労働・オブ・ザ・リング”にする」
 書いているうちに、せんせいのピアノ曲「赤いスカートの踊り」(試聴室には入っていません)を思いだしたので、エピソードとして加えることにしました。
ポロは、番組に登場するフロドが“プロ”のレスラーであることを描きたいと思いました。それで、ちょっと好きな話になりました。

 「マグロ救出作戦」(2004.12.16アップ)は、ゲームの攻略本の「魔建ビルディング」という魔剣のだじゃれで作られた武器の説明の近くに「チルド・ツナ」という凍ったマグロで敵を叩くという武器が出ていて、そこに「不治の病にかかったマグロが治療可能な未来を信じて冷凍冬眠している姿」と書いてあったのがきっかけです。ポロは、冷凍マグロを「遠い星へコールドスリープして向かう途中の姿」に見立ててみました。

つづく

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2005-02-26 ポロの日記 2005年2月26日(岩曜日)お話のつくだ煮 その3

お話のつくだ煮 その3


 「作曲工房のひみつ」(2004.12.17-18アップ)は、そろそろ違った視点から物語を書かないとせんせいから指導が入りそうだったので(うそ。指導が入ってしまったので)、ずっと前からアイディアを練っていたお話です。せんせいの指導内容を要約すると「読み手は誰も想像もしていなかったのに、実は、これが読みたかったと思わせる話」ということです。せんせいも、この方針で曲を書くそうです。でも、言うは易しく行なうは難(かた)し。こういうことを心の片隅においてずっと毎日過ごしていると、あるとき急にアイディアのしっぽが見えてきたりします。リンゴなんて昔から何万回も落ちているのに、はじめてニュートンが重力に気づいたのと似ています。電話だって毎日鳴っているのに、ポロは急に面白い電話ばっかりかかってきたらどうだろうと思い立ったわけです。でも面白い電話の内容がなかなか思いつきません。それでも、そんな日がずっと続くうちにひとつずつエピソードを集めていったのが、このお話です。たぶん、成功したと思います。みなさんはどう思われましたか?

 「作曲工房の午後」(2004.12.19-20アップ)は「作曲工房のひみつ」で語りきれなかった部分を補うために書きました。両方あわせて、やっとひとつのお話になりました。こんなことではダメです。

 次は「クリスマスイヴ2004」(2004.12.21-23アップ)です。ポロのお話ではサンタさんは重要人物です。去年(2003年)のクリスマスのお話は、ポロてきにけっ作だったと思います。だから、それに引きずられてアイディアが二番煎じにならないために毎日毎日ウンウンうなってしまいました。
 「よく、いろんなお話が書けますね〜」っていうお便りをもらいますが、それは、ポロが毎日ウンウンうなっているからです。ポロも前は、ものを考え続けることができませんでした。お話を書いている期間中でも、本当に考えるのは書いているときだけでした。でも今は違います。朝起きてから夜寝るまで(夢の中でも)、ずっと頭の片隅にお話のことが常駐している部分ができたので、何を見ても何を聞いても、それがお話と関連するかどうか考えるようになりました。これは、せんせいがピアノや作曲が上達するための基本的な姿勢だと言っていることと同じじゃないかと思います。ピアノの練習をしようと思ってピアノに向かうときには、すでにどのように弾けばよいかというイメージがなくてはならないっていうやつです。言いかえると、ピアノに向かうときには、すでに練習の80パーセントは終わっているということです。だから、ポロがパソコンに向かうときには、もう何を書けばいいのか分かっています(かなりウソかも。分からないことだらけ)。
 で、そのパソコンに向かう前のアイディアに苦しんだのがこのお話です。きっかけは、どうしてサンタさんはタダでプレゼントを配っているのかということでした。普通のアイディアなら、お金持ちの酔狂というところで落ち着くかもしれませんが、ポロの語り部だましいは、もっと違う視点を探し求めていました。そして、とうとう“生命を見守る使命”を持つサンタさん像に思いいたったのでした。
これは、ちょっと好きな話になりました。

つづく

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2005-02-25 ポロの日記 2005年2月26日(岩曜日)お話のつくだ煮 その4

お話のつくだ煮 その4


 「雪の大みそか」は、ポロの大好きなお出かけシリーズです。2004年1月の「スリッパを買いに」から始まったお出かけシリーズは、ホントの日記ふうに書けるので、書いていていい気持ちです。「大きなマルエツに行く」(同2月)「ポロ、銀行へ行く」「おちゃめさんと散歩」「春宵一刻値千金」(3月)「夏のおでかけ」(8月)「商店街へ行こう」「楽譜を買いに」(9月)「ないしょのマルエツ」(10月)「とっても大きなマルエツ」(11月)と、こんなにたくさん書いてしまいました。
ポロが地球にやってきて最初に行ったスーパーがマルエツだったので、スーパーならなんでもマルエツという名前で呼んでいます(ホントに)。首都圏以外の人はマルエツを知らないかも知れないので、なんのことだろうと思うことでしょう。マルエツ発祥の地が埼玉県蕨市(お話では「ぜんまい市」としても出てきます)なので、マルエツは重要なお店です。
 「雪の大みそか」は「アナタワ粉」シリーズの前触れとして書きました。その後、裏神田でも禁制品となっている「アナタワ粉」にまつわるお話をいくつか書きましたが、直すところだけのような気がしてひとつもアップしていないので、エピソードが浮いてしまっています。いつかアップするかも知れないので、種明かしはしないでおきます。

 それから内緒だけど、ホントは12月にアップしようと思って長編の大作も書いていました。宇宙が危機に瀕するというものすごいお話です。でも、危機に立ち向かった松戸博士とロケット号がどうしても助からないのでアップできませんでした。いつか、お話の部屋を閉じるような時が来たらアップするかも知れません。

 これからもポロのお話をよろしくね〜!

おしまい

 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

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そうか〜。だからロケット号も宇宙と一体化して居たんだぁ(「ポロ、山里に暮らす」参照)…その大作を読みたい!でも、その時はお話の部屋が閉じるとき…なんてのはもっと悲しすぎます… / みた・そうや ( 2005-02-27 11:29 )

2005-02-24 ポロの日記 2005年2月15日(熱曜日)夕焼け救助隊 その1

夕焼け救助隊 その1


「ねえ、たろちゃん」
「なあに?」
「夕焼けがきれいだよ。すっごいきれい」
「そう」
「写真にとろうよ」
「写真に撮っても目で見たように写らないよ」
「そうか。でもさ、あの夕焼けもったいないよ〜」
「じゃあ、絵に描けばいい」
「わ〜、たろちゃんが描いてくれるの?」
「違うよ、ポロが描くの」
「ぽ、ポロ描けないよ〜!」
「でも、ポロが夕焼けを残したいんでしょ。だったらポロが描かなくちゃだめなの」
「そんなの無理だよ〜」
「あたしはね、ウダウダ言う猫はきらいなの」

 そういうと、たろちゃんはポロを抱き上げて、さっさと工房の屋上に上がっていきました。
 大きな太陽電池パネルの裏が見える屋上の北西側に座って、たろちゃんはスケッチブックを広げてポロに鉛筆を渡しました。

「さあ、描いてみて」
「だって、この鉛筆オレンジ色じゃないよ」
「色なんて小さなことなの。よく見れば夕焼け空には線だってないはずよ」
「うわ、それを線で描くのか。こんなことやらせるなんてイジメだ〜」

 ゴツン !

「わあ、ゲンコツでぶった! ホントのイジメだ〜!」
「あたしはね、本気で怒ってるの。見て。夕焼けはどんどん消えちゃうの。待ってなんかくれないんだから」
「わ〜、大変だ〜!」
「ポロは、あの夕焼けを残したいんでしょ。ポロは夕焼け救助隊なのよ。夕焼けの命がかかってるんだから」
「描くよ、描くよ〜」

 ポロが線を引くと、たろちゃんがスケッチブックを取り上げて、そこに別の線を描き込みました。

「ポロ、あんた、あの夕焼けを残したんだったら、自分の思い込みじゃなくて、あの夕焼けを描きなさい!」
「わ〜、無理だよ〜」
「無理じゃないわ。心をカラにして、あの夕焼けだけを取り込むの。心に思い込みがあると、それを描いちゃうわよ」
「あ〜、ピアノの子ども弾きみたいなものかなあ」
「そう、それ」

 夕焼けは、どんどん暗くなってきました。

「焦らなくてもいいわ。あの夕焼けの本当の姿を見るのよ」
「うん」

 ポロは夕焼けを描いては本物の空と見比べて、自分がどういうふうに間違って見ていたかを確かめていきました。


つづく

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2005-02-23 ポロの日記 2005年2月15日(熱曜日)夕焼け救助隊 その2

夕焼け救助隊 その2


「そう。そんな感じ」
「うん、だんだん見えてきた。でも、絵がヘタだよ〜」
「そんなことはいいの」
「夕焼けってこんなだったんだね〜、ポロ、何も見てなかったかも」
「そう、それに気づくのが大事なの」

 そうこうしているうちに、とうとう夕焼けは消えてしまいました。

「たろちゃん、間に合わなかったよ」
「そうでもないよ」
「どうして?」
「ポロは、ちゃんと夕焼けを見てあげたじゃない」
「どういうこと?」
「もし、写真に撮ってたら、それでもう安心しちゃって、こんなに一生懸命夕焼けなんか見なかったはずよ。見るのは写真だけ。それもちょこっと」
「そっか〜。絵を描くってそういうことか」
「そう。ピアノ弾くのも一緒でしょ? 聴いてるだけより練習するほうがずっと深くその曲と付きあうんじゃないの?」
「そ、そだ〜!」
「絵を描くっていいでしょ。ポロは今日の夕焼けを一生忘れないはずだよ」
「うん、そうかも。こんなにちゃんと夕焼けを見たのは初めてだよ。もう心に深く刻み込まれたな」
「でしょ?」
「ポロ、絵の練習することにした」
「その決意が変わらないといいけどね。ピアノだって絵だって、続けるのは大変なんだから」
「う・・、そう言われると自信がないかも」
「あのね、それって生き方なの。生き方にしないと続かないの」
「ポロは、そうやって生きるって決めた!」
「決めてもね、それはただの言葉」
「ちがわいちがわい、もう決めた!」
「じゃあ、がんばってね」

 ポロたちは気がつきませんでしたが、空には、とっくに星たちがまたたき始めていたのでした。


おしまい


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ミタさん。たろちゃんはね、ゲンコツでたたいたんだよ。微笑ましくなんかないよ〜! / ポロ ( 2005-02-25 23:52 )
夕日を一生懸命に見つめるポロちゃんとたろちゃん。微笑ましいです。(^^) / みた・そうや ( 2005-02-24 18:03 )

2005-02-22 ポロの日記 2005年2月12日(岩曜日)初めてのセドナ その1

初めてのセドナ その1


「こちら三河屋デリバリーサービスのノストロモ号。セドナ管制局どうぞ」
「ぴゅい〜〜ざ〜〜ぴゅわお〜」
「セドナ管制局、応答願います。こちら三河屋デリバリーサービス所属ノストロモ号の是輔(これすけ)です。軌道進入、および着陸のための誘導ビーコンをお願いします」
「ぴゅい〜〜ざ〜〜ぴゅわお〜」

 パップラ丼の出前のためにセドナに到着した是輔さんが、いくら呼びかけてもセドナ管制局からの応答はありませんでした。

「ぴゅい〜〜ざ〜〜ぴゅわお〜」

 まるで大昔の無線のようにピンクノイズとホワイトノイズが混ざり合って聞こえてくるばかりでした。

「・・・是輔君かね・・」

 それは聞き覚えのあるホリテッカン博士の声でした。

「へい是輔です」
「ああ、そうじゃ。よく来てくれた。ここには誘導ビーコンなどないが、有視界着陸など君なら朝飯前じゃろう」
「へい、もちでさあ」

 御徒町(おかちまち)生まれの是輔さんは威勢よく答えました。

「赤道軌道を飛んで、この無線の発信元をたどって着陸してくれたまえ」
「合点承知!」

 どんな未開の惑星にも配達することが使命の、三河屋デリバリーサービスぴかいちパイロットのプライドにかけて是輔さんはノストロモ号を手動有視界飛行に切り替えました。
 モニターには凍てついた赤い惑星セドナの映像が映し出され、ありとあらゆるセンサーがピコピコと音をたて始めました。そして、ホリテッカン博士からもよく見えるように全ての船外照明をオンにしました。
 満艦飾となったノストロモ号は西回りの赤道周回軌道を徐々に高度を下げていきました。
 あとセドナを3分の1周すれば博士の無線機の近くに着陸できます。弱い電波ですが、ノストロモ号のレーダーは、それをしっかりと捉えていました。

「おお、是輔君。地平線に上がってくる派手な光が君の船じゃな。よく見えるぞ」
「そうでやすか。こっちからも無線の発信位置がよく分かりますよ。他の惑星と違って先生以外、だれも通信してませんから」
「ははは。そうか」
「誰もいないんですか?」
「いや、そんなことはない。文明も進んでおる。ここはそういうところなのじゃ」
「そうすか。もうすぐ着陸しやす」

 それから間もなく、着陸直前のノストロモ号のブラッドベリエアリサーチ社製の離着陸用ブースタが、セドナにひとときの夏をもたらしました。凍りついたメタンがとけ、小さな池ができました。ノストロモ号は、その中央に着水しました。ブースタが停止するとメタンは再び凍り始め、ノストロモ号のランディングギアはすっかりメタンの氷に閉じこめられてしまいました。
 是輔さんは、船外照明を標識灯を残して消灯し、極寒冷地用の宇宙服を来て外に出ました。外ではホリテッカン先生が是輔さんを待っていました。

「ちわ〜す! 三河屋です。お届ものを持ってまいりやした〜」
「いやあ、遠いところごくろうじゃった」
「へい、ご注文のパップラ丼50食セットでやす」
「おお、これを楽しみにしておった。ところで、例のものはもってきてくれたかの?」
「あ、風船ですね。3度ケルビンに耐えるZ型風船を、ちょうど1000個お持ちしやした」
「いやあ、ありがとう。これで助かる」
「この風船をいったい何につかうんでやすか?」
「君のまわりには君を歓迎するためにセドナの人々が集まっているのだが、分かるかね?」
「や、さっぱり」
「じゃろ? ワシにも分からんのじゃ。ちょっと待っとってくれ」


つづく

先頭 表紙

2005-02-21 ポロの日記 2005年2月12日(岩曜日)初めてのセドナ その2

初めてのセドナ その2


 ホリテッカン博士は目を閉じて何かを念じているようでした。すると是輔さんの持ってきた未使用のしぼんだ風船がひとつ、勝手に膨らみ始めました。完全に膨らむとそれは勝手にしっぽを結んで是輔さんの前に浮かびました。

「セドナの王じゃ」

 風船はゆっくりと揺れました。

「ど、どういうことですか?」
「この星の住民はガス状生命なんじゃ。こうでもしないと、誰がどこにいるのかさっぱり分からんかったというわけじゃ」

 状況を把握した是輔さんは、風船に向かってうやうやしく礼をしました。
 王の風船が再び揺れると、いっせいに残りの風船も膨らみ始めました。ホリテッカン博士と是輔さんのまわりには、たちまち1000個の風船の輪ができました。

「うわ、一気に賑やかになりやしたねえ、先生」
「是輔君、極寒用のマーカーペンはあるかね?」
「へい、船外用マーカーならこれです」
「誰が誰だか区別がつかんから、風船にひとつひとつ顔を描いてくれんか。二人でやれば500個で済む」

 2人は風船に“へのへのもへじ”を描き始めました。王の風船には王冠も描き入れました。最初のころは丁寧でしたが、だんだん乱暴になっていって最後のころにはでたらめな顔になってしまいました。

「みんな、へんてこな顔になっちまいましたね」
「むしろ、区別がついてよいじゃろう。さあ、ワシの宿舎で休んでいくといい」

 博士と是輔さんは風船たちと別れて、近くのドーム型の極地惑星用シェルターに入りました。
 博士は緑茶をいれると、届けてもらったパップラ丼のひとつを是輔さんに薦めました。

「ごちになりやす」
「ここの食事は霞(かすみ)なんじゃ。まるで仙人じゃ。それがどういうわけだか栄養満点らしくての。ワシは地球にいたときよりも健康なくらいなんじゃが、やはりパップラ丼は忘れられん」
「そうですよ。あじさい亭のパップラ丼は太陽系一ですからね。ところで、先生はこんなところでどんなお仕事をなさってるんで?」
「セドナ大学での講義を頼まれたのだが、来てみたらワシが学ぶことばかりじゃった。これは、おそらく、むしろワシをここで学ばせて真実を地球に持ち帰るという計画のようじゃな」
「大学なんてあるんでやすか?」
「建物はない。学生が集まったところが大学じゃ」
「ここで先生は、いったい何を学べるってんですか?」
「すべてじゃ。ここには真実がある。地球人は間違っておったかも知れんと思っておる」
「そりゃ、穏やかじゃありやせんね」
「そうなのじゃ」

 ホリテッカン博士は是輔さんに話し始めました。

 ・・・この星にある人工物はワシが持ち込んだ、このシェルターだけじゃ。
ワシらは、その星に文明が発達しているかどうかは人工物の有無で判断する。まず、それが間違っておった。ここには極めて高度な文明が存在しておるのじゃ。しかし、地球人が考える文明の証などどこにもない。是輔君、文明とは何だと思うかね。ワシは、ここに来てやっと理解した。知性がどこまで真理に近づけるかの度合いを言うのじゃよ。この星には人工物がない。それはなぜかというと、人工物はこの星を永続させないからじゃ。ワシが学び終えたら、このシェルターも早いうちに撤収しなければならん。この星の自然に悪影響があるかも知れんからな。


つづく

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2005-02-20 ポロの日記 2005年2月12日(岩曜日)初めてのセドナ その3

初めてのセドナ その3


 この星の住民は何でも知っておる。すくなくともワシらが知っていることは何でも知っておる。太陽系に関すること、銀河系に関すること、物理学の法則、化学的な知識も生命に関する知識も豊富で、おそらく地球人は彼らの足元にも及ばないだろう。そういう彼らは、惑星というものが巧妙なバランスの上に成り立つひとつのシステムであることも知っている。一度作ってしまった化学物質が元には戻らないことなど常識じゃ。だから、自然というものは、どこかひとつに手をつければ全てに影響が及ぶ。知識があるからこそ人工物を作らんのじゃ。地球でも、野生動物が巣を作ったりするが、それは自然のシステムの一部としてのことじゃ。
 ところが、これを地球の大学で講義したとしても、おそらく知識として伝わるだけじゃろう。真理を知るということは習うことでも学ぶことでもないかも知れん。知識というのは役に立たんことがある。せっぱ詰まれば、すぐに背に腹は代えられんなどということになるのは、単なる知識としてしか捉えていない場合だからじゃ。
 セドナの人々は実に賢い。彼らは野生動物ではない。実に快適に文明的に暮らしておる。環境が違いすぎるから、ここでの例をそのまま地球に持ち込むことはできんが、地球環境に負荷をかけずに今よりもずっと快適に暮らすほうほうがあるはずじゃ。地球は猛烈に文明が遅れておるから、それが未だにできないのじゃ。今のままでは地球人は宿主を死に至らしめて、結果として自分自身も滅んでしまうガン細胞とそっくりじゃ・・・

 ホリテッカン博士は話し終えて大きく息を吸い込みました。
 是輔さんは博士の話に感激していました。

「先生、オイラやっと分かりましたよ」
「何をじゃ?」
「ずっと前から、科学と技術は別のものじゃないかって思ってたんすよ」
「そうか。それはよいことじゃ」
「でも、もう確信しやしたね。オイラ間違っていなかった」
「そうじゃ。科学も技術も悪いことじゃない。何事もそうじゃが、考えが浅いと危険なだけじゃ」
「先生のお話が聞けてホントによかったっす。先生、がんばってください」
「ああ、ありがとう。残りの人生を、この研究と普及にかけるつもりじゃ」

 是輔さんはノストロモ号に戻りました。

「ありゃたーした!」

 博士の宇宙服のインターコムに威勢のよい声が届いた直後に、離陸用ブースタがまばゆい光を発してセドナの氷原にもう一度短い夏をもたらしました。30秒後、上昇するノストロモ号はたちまち輝く星々と区別がつかなくなりました。

・・・もっとやさしいエンジンが必要じゃな。ダマスクロース君、それから、たしかマチルダ君と言ったな、地球に戻ったらさっそく始めるぞ・・・

 その様子を離れて見守るホリテッカン博士の足元には、メタン化合物が結晶して育つセドナの植物が咲き誇っていました。

・・・なんて美しいのじゃ。自然はどこでも実に美しい・・・

 博士は、地球の自然をこれ以上壊すことがないように全力を尽くそうと決意を新たにしたのでした。


おしまい


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ミタさん。これが風船の一番役に立つ使い方だよ〜! / ポロ ( 2005-02-24 15:11 )
風船にそんな使い方があったのですね〜。これでホリテッカン博士の研究も進むことでしょうね。(^^) / みた・そうや ( 2005-02-23 20:58 )

2005-02-19 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その1

ポロ、山里に暮らす その1


 ポロは、どこかの里山にいました。
 どうしてこんなところにいるのでしょか。何も思い出せません。
 いつの間にか短い木の枝をひろって耳に当てると意味もなく「オープンチャンネル・ドーラ」などと独り言を言っていました。いったいどういう意味なのでしょか。
 しばらく歩き回って、荒れ果てた一軒家を見つけました。もうしばらく誰も住んでいないみたいなので、ポロは、そこで寝泊まりすることにしました。
 こんな山の一軒家なのにチッペンデールのアップライトピアノが一台ありました。弾いてみると調律がぴったり合っていました。それどころか、美しく整音された、こんなに手入れのいいピアノはめったにないと思いました。ポロは得意のバイエル79番を弾いてみました。
 どうして弾けるんだか分からなかったけど、涙が出るほどきれいな音でした。
 ピアノの上には小さなチェロがありました。置物かと思ったら、なんだか使い込んだような楽器でした。ポロが見よう見まねで弾いてみると「ぎーぎろん」という音が出ました。

-こっちはあとで練習しよう。技術が必要みたいだな。

 ポロは、この家がとても気に入りました。家主が戻ってくるまで勝手に住むことにしました。もし、帰ってきたら「にゃあ」って言うことにしました。

 それからというもの、毎日、近くの山を歩いて食べ物を集めました。山菜やヤマイモ、栗の実や自然の果物を拾ってきては、それを食べて暮らしました。おいしくておいしくてポロは幸せでした。保存がきくものは、納屋にすこしずつためてきました。
 ポロには時間がたくさんありました。
 な〜んだ。テレビやインターネットがなければ、時間なんていくらでもあるんじゃないか。
 だから、ポロはピアノをたくさん弾きました。弾いているうちに音楽のほうがポロにす〜っと入ってきて、音楽がだんだん分かってくる気がしました。な〜んだ。今までは音楽に心がちゃんと向き合っていないだけだったんじゃないか。
 月夜の晩には近所の森のはずれの小高い丘に座って、飽きずに月を眺めました。なんてきれいなんだろう。あんまりしげしげと眺めたので、ポロはソラでお月さまの模様だってくわしく描けるようになりました。月のない夜には星を眺めて過ごしました。1年たつころには、ポロは全部の星の並び方を覚えてしまいました。だから、星空の中を動く惑星がすぐに分かるようになりました。
 昼間は木々の枝ぶりの美しさと見事さに見とれて過ごしました。どの種類の木が、どのように枝を広げるのか、どのように幹を伸ばしていくのかが分かってきました。あるときは草や木の葉の葉脈を飽きずにたどりました。そのうち、ポロは何も見なくても紙の上に葉脈をデザインできるようになりました。ポロは、だんだん自然の造形を理解していったのです。
 ポロには時間がいくらでもありました。空の雲だって、山の稜線のカーブだって、空を飛ぶ鳥たちの軌跡だって、みんなソラで描けるようになりました。ひと舐めすれば、どこの沢の水なのかも言い当てられるようになりました。
 空や空気の湿り具合で、明日の天気も百発百中です。嵐の前触れだって、地震の前触れだって何でも感じられるようになっていました。


つづく

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2005-02-18 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その2

ポロ、山里に暮らす その2


 ポロに分かった事はこうです。自然の造形は宇宙の法則にぴったり当てはまります。山の形だって、誰かが思いつきで勝手にデザインしたものではなくて、もっとも小さなエネルギーでできる形です。だから自然です。動物も植物もデザインが完璧だから生命を宿すことまでできます。そのことを理解していない人が作ったものは、それができません。ポロは自然の法則を身体で覚えたのでした。
 ある時、人里に降りていってみました。そこには見慣れたはずの家やクルマがあふれる街並みがありました。でも、ポロはびっくりです。だって、それはほとんどがデタラメのデザインだったので、どれもガラクタに見えたからです。自然の理にかなうデザインなんて、これっぽっちもありませんでした。
 ポロは山里の家に戻りました。
 ここに住んでいた人は、本当にどうしてしまったのでしょか。
 ポロは雪に閉ざされた冬を家に閉じこもって過ごしました。冬は、もっと時間がたくさんありました。ピアノをたくさん弾いて、絵を描いて、作曲してもまだまだ時間がありました。ポロは家中の柱の木目を覚えてしまいました。木目はなんと美しいのでしょう。
 とうとう長い冬が終わって春になりました。
 散歩をしていたら、今まで気がつかなかった麦畑がありました。ポロは、その麦畑を見て全てを思いだしました。
 ここはせんせいとジョーンズの畑でした。
 
 ポロは間に合わなかったのです。(お話の部屋の「セロ弾きジョーンズ」参照)
 
 ポロが故郷のドーラを出て地球にやってきたのは、この未来を知ったからだということを今さらながら思いだしました。せんせいが山奥の麦畑で死んでしまうという未来を変えるためにやってきたのに、ポロは、いったい何をしていたんだろう。それとも未来は変えられないのでしょか。
 麦畑の一角の、他よりも少し育ちのよい場所。
 あそこにせんせいが倒れているに違いありません。自然がつくった本当のお墓がそこにありました。ポロは自分の不甲斐なさが情けないやら腹が立つやら、後から後から涙が出て止まりませんでした。
 でも、ジョーンズは、とうとう見つかりませんでした。猫は人知れず死んでいくのです。

 それから何回も冬が来て、また春が来ました。
 練習を続けた成果があらわれて、ポロもチェロが上手になりました。月夜の晩には、森のはずれの丘の上のステージで一晩中チェロを弾きました。近くの山々から動物たちが聴きに来てくれました。演奏が進んで無我の境地に入ると、ポロは自然と同化して透明になりました。そんなとき、ポロには宇宙の果てが見えたような気がしましたが、演奏を終えて我にかえると、そんなことは夢の中のことのように忘れてしまうのでした。

 そんなポロにも、とうとう目覚めぬ朝がやってきました。

 眠り続ける自分の身体を見下ろしながら、ポロは夜明けの空をどんどん登っていきます。眼下に広がる里山の木々がザワザワとポロを送ってくれているようでした。それに気づいた、近くの木に住む小さなリスとヤマネが、空を見上げてポロを見送ってくれました。

 ばいば〜い!

 ポロは笑顔で手を振りました。


つづく

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