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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-02-24 ポロの日記 2005年2月15日(熱曜日)夕焼け救助隊 その1
2005-02-23 ポロの日記 2005年2月15日(熱曜日)夕焼け救助隊 その2
2005-02-22 ポロの日記 2005年2月12日(岩曜日)初めてのセドナ その1
2005-02-21 ポロの日記 2005年2月12日(岩曜日)初めてのセドナ その2
2005-02-20 ポロの日記 2005年2月12日(岩曜日)初めてのセドナ その3
2005-02-19 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その1
2005-02-18 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その2
2005-02-17 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その3
2005-02-16 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その4
2005-02-15 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その1


2005-02-24 ポロの日記 2005年2月15日(熱曜日)夕焼け救助隊 その1

夕焼け救助隊 その1


「ねえ、たろちゃん」
「なあに?」
「夕焼けがきれいだよ。すっごいきれい」
「そう」
「写真にとろうよ」
「写真に撮っても目で見たように写らないよ」
「そうか。でもさ、あの夕焼けもったいないよ〜」
「じゃあ、絵に描けばいい」
「わ〜、たろちゃんが描いてくれるの?」
「違うよ、ポロが描くの」
「ぽ、ポロ描けないよ〜!」
「でも、ポロが夕焼けを残したいんでしょ。だったらポロが描かなくちゃだめなの」
「そんなの無理だよ〜」
「あたしはね、ウダウダ言う猫はきらいなの」

 そういうと、たろちゃんはポロを抱き上げて、さっさと工房の屋上に上がっていきました。
 大きな太陽電池パネルの裏が見える屋上の北西側に座って、たろちゃんはスケッチブックを広げてポロに鉛筆を渡しました。

「さあ、描いてみて」
「だって、この鉛筆オレンジ色じゃないよ」
「色なんて小さなことなの。よく見れば夕焼け空には線だってないはずよ」
「うわ、それを線で描くのか。こんなことやらせるなんてイジメだ〜」

 ゴツン !

「わあ、ゲンコツでぶった! ホントのイジメだ〜!」
「あたしはね、本気で怒ってるの。見て。夕焼けはどんどん消えちゃうの。待ってなんかくれないんだから」
「わ〜、大変だ〜!」
「ポロは、あの夕焼けを残したいんでしょ。ポロは夕焼け救助隊なのよ。夕焼けの命がかかってるんだから」
「描くよ、描くよ〜」

 ポロが線を引くと、たろちゃんがスケッチブックを取り上げて、そこに別の線を描き込みました。

「ポロ、あんた、あの夕焼けを残したんだったら、自分の思い込みじゃなくて、あの夕焼けを描きなさい!」
「わ〜、無理だよ〜」
「無理じゃないわ。心をカラにして、あの夕焼けだけを取り込むの。心に思い込みがあると、それを描いちゃうわよ」
「あ〜、ピアノの子ども弾きみたいなものかなあ」
「そう、それ」

 夕焼けは、どんどん暗くなってきました。

「焦らなくてもいいわ。あの夕焼けの本当の姿を見るのよ」
「うん」

 ポロは夕焼けを描いては本物の空と見比べて、自分がどういうふうに間違って見ていたかを確かめていきました。


つづく

先頭 表紙

2005-02-23 ポロの日記 2005年2月15日(熱曜日)夕焼け救助隊 その2

夕焼け救助隊 その2


「そう。そんな感じ」
「うん、だんだん見えてきた。でも、絵がヘタだよ〜」
「そんなことはいいの」
「夕焼けってこんなだったんだね〜、ポロ、何も見てなかったかも」
「そう、それに気づくのが大事なの」

 そうこうしているうちに、とうとう夕焼けは消えてしまいました。

「たろちゃん、間に合わなかったよ」
「そうでもないよ」
「どうして?」
「ポロは、ちゃんと夕焼けを見てあげたじゃない」
「どういうこと?」
「もし、写真に撮ってたら、それでもう安心しちゃって、こんなに一生懸命夕焼けなんか見なかったはずよ。見るのは写真だけ。それもちょこっと」
「そっか〜。絵を描くってそういうことか」
「そう。ピアノ弾くのも一緒でしょ? 聴いてるだけより練習するほうがずっと深くその曲と付きあうんじゃないの?」
「そ、そだ〜!」
「絵を描くっていいでしょ。ポロは今日の夕焼けを一生忘れないはずだよ」
「うん、そうかも。こんなにちゃんと夕焼けを見たのは初めてだよ。もう心に深く刻み込まれたな」
「でしょ?」
「ポロ、絵の練習することにした」
「その決意が変わらないといいけどね。ピアノだって絵だって、続けるのは大変なんだから」
「う・・、そう言われると自信がないかも」
「あのね、それって生き方なの。生き方にしないと続かないの」
「ポロは、そうやって生きるって決めた!」
「決めてもね、それはただの言葉」
「ちがわいちがわい、もう決めた!」
「じゃあ、がんばってね」

 ポロたちは気がつきませんでしたが、空には、とっくに星たちがまたたき始めていたのでした。


おしまい


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

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ポロの掲示板はここ。
ポロのひみつの部屋

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ミタさん。たろちゃんはね、ゲンコツでたたいたんだよ。微笑ましくなんかないよ〜! / ポロ ( 2005-02-25 23:52 )
夕日を一生懸命に見つめるポロちゃんとたろちゃん。微笑ましいです。(^^) / みた・そうや ( 2005-02-24 18:03 )

2005-02-22 ポロの日記 2005年2月12日(岩曜日)初めてのセドナ その1

初めてのセドナ その1


「こちら三河屋デリバリーサービスのノストロモ号。セドナ管制局どうぞ」
「ぴゅい〜〜ざ〜〜ぴゅわお〜」
「セドナ管制局、応答願います。こちら三河屋デリバリーサービス所属ノストロモ号の是輔(これすけ)です。軌道進入、および着陸のための誘導ビーコンをお願いします」
「ぴゅい〜〜ざ〜〜ぴゅわお〜」

 パップラ丼の出前のためにセドナに到着した是輔さんが、いくら呼びかけてもセドナ管制局からの応答はありませんでした。

「ぴゅい〜〜ざ〜〜ぴゅわお〜」

 まるで大昔の無線のようにピンクノイズとホワイトノイズが混ざり合って聞こえてくるばかりでした。

「・・・是輔君かね・・」

 それは聞き覚えのあるホリテッカン博士の声でした。

「へい是輔です」
「ああ、そうじゃ。よく来てくれた。ここには誘導ビーコンなどないが、有視界着陸など君なら朝飯前じゃろう」
「へい、もちでさあ」

 御徒町(おかちまち)生まれの是輔さんは威勢よく答えました。

「赤道軌道を飛んで、この無線の発信元をたどって着陸してくれたまえ」
「合点承知!」

 どんな未開の惑星にも配達することが使命の、三河屋デリバリーサービスぴかいちパイロットのプライドにかけて是輔さんはノストロモ号を手動有視界飛行に切り替えました。
 モニターには凍てついた赤い惑星セドナの映像が映し出され、ありとあらゆるセンサーがピコピコと音をたて始めました。そして、ホリテッカン博士からもよく見えるように全ての船外照明をオンにしました。
 満艦飾となったノストロモ号は西回りの赤道周回軌道を徐々に高度を下げていきました。
 あとセドナを3分の1周すれば博士の無線機の近くに着陸できます。弱い電波ですが、ノストロモ号のレーダーは、それをしっかりと捉えていました。

「おお、是輔君。地平線に上がってくる派手な光が君の船じゃな。よく見えるぞ」
「そうでやすか。こっちからも無線の発信位置がよく分かりますよ。他の惑星と違って先生以外、だれも通信してませんから」
「ははは。そうか」
「誰もいないんですか?」
「いや、そんなことはない。文明も進んでおる。ここはそういうところなのじゃ」
「そうすか。もうすぐ着陸しやす」

 それから間もなく、着陸直前のノストロモ号のブラッドベリエアリサーチ社製の離着陸用ブースタが、セドナにひとときの夏をもたらしました。凍りついたメタンがとけ、小さな池ができました。ノストロモ号は、その中央に着水しました。ブースタが停止するとメタンは再び凍り始め、ノストロモ号のランディングギアはすっかりメタンの氷に閉じこめられてしまいました。
 是輔さんは、船外照明を標識灯を残して消灯し、極寒冷地用の宇宙服を来て外に出ました。外ではホリテッカン先生が是輔さんを待っていました。

「ちわ〜す! 三河屋です。お届ものを持ってまいりやした〜」
「いやあ、遠いところごくろうじゃった」
「へい、ご注文のパップラ丼50食セットでやす」
「おお、これを楽しみにしておった。ところで、例のものはもってきてくれたかの?」
「あ、風船ですね。3度ケルビンに耐えるZ型風船を、ちょうど1000個お持ちしやした」
「いやあ、ありがとう。これで助かる」
「この風船をいったい何につかうんでやすか?」
「君のまわりには君を歓迎するためにセドナの人々が集まっているのだが、分かるかね?」
「や、さっぱり」
「じゃろ? ワシにも分からんのじゃ。ちょっと待っとってくれ」


つづく

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2005-02-21 ポロの日記 2005年2月12日(岩曜日)初めてのセドナ その2

初めてのセドナ その2


 ホリテッカン博士は目を閉じて何かを念じているようでした。すると是輔さんの持ってきた未使用のしぼんだ風船がひとつ、勝手に膨らみ始めました。完全に膨らむとそれは勝手にしっぽを結んで是輔さんの前に浮かびました。

「セドナの王じゃ」

 風船はゆっくりと揺れました。

「ど、どういうことですか?」
「この星の住民はガス状生命なんじゃ。こうでもしないと、誰がどこにいるのかさっぱり分からんかったというわけじゃ」

 状況を把握した是輔さんは、風船に向かってうやうやしく礼をしました。
 王の風船が再び揺れると、いっせいに残りの風船も膨らみ始めました。ホリテッカン博士と是輔さんのまわりには、たちまち1000個の風船の輪ができました。

「うわ、一気に賑やかになりやしたねえ、先生」
「是輔君、極寒用のマーカーペンはあるかね?」
「へい、船外用マーカーならこれです」
「誰が誰だか区別がつかんから、風船にひとつひとつ顔を描いてくれんか。二人でやれば500個で済む」

 2人は風船に“へのへのもへじ”を描き始めました。王の風船には王冠も描き入れました。最初のころは丁寧でしたが、だんだん乱暴になっていって最後のころにはでたらめな顔になってしまいました。

「みんな、へんてこな顔になっちまいましたね」
「むしろ、区別がついてよいじゃろう。さあ、ワシの宿舎で休んでいくといい」

 博士と是輔さんは風船たちと別れて、近くのドーム型の極地惑星用シェルターに入りました。
 博士は緑茶をいれると、届けてもらったパップラ丼のひとつを是輔さんに薦めました。

「ごちになりやす」
「ここの食事は霞(かすみ)なんじゃ。まるで仙人じゃ。それがどういうわけだか栄養満点らしくての。ワシは地球にいたときよりも健康なくらいなんじゃが、やはりパップラ丼は忘れられん」
「そうですよ。あじさい亭のパップラ丼は太陽系一ですからね。ところで、先生はこんなところでどんなお仕事をなさってるんで?」
「セドナ大学での講義を頼まれたのだが、来てみたらワシが学ぶことばかりじゃった。これは、おそらく、むしろワシをここで学ばせて真実を地球に持ち帰るという計画のようじゃな」
「大学なんてあるんでやすか?」
「建物はない。学生が集まったところが大学じゃ」
「ここで先生は、いったい何を学べるってんですか?」
「すべてじゃ。ここには真実がある。地球人は間違っておったかも知れんと思っておる」
「そりゃ、穏やかじゃありやせんね」
「そうなのじゃ」

 ホリテッカン博士は是輔さんに話し始めました。

 ・・・この星にある人工物はワシが持ち込んだ、このシェルターだけじゃ。
ワシらは、その星に文明が発達しているかどうかは人工物の有無で判断する。まず、それが間違っておった。ここには極めて高度な文明が存在しておるのじゃ。しかし、地球人が考える文明の証などどこにもない。是輔君、文明とは何だと思うかね。ワシは、ここに来てやっと理解した。知性がどこまで真理に近づけるかの度合いを言うのじゃよ。この星には人工物がない。それはなぜかというと、人工物はこの星を永続させないからじゃ。ワシが学び終えたら、このシェルターも早いうちに撤収しなければならん。この星の自然に悪影響があるかも知れんからな。


つづく

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2005-02-20 ポロの日記 2005年2月12日(岩曜日)初めてのセドナ その3

初めてのセドナ その3


 この星の住民は何でも知っておる。すくなくともワシらが知っていることは何でも知っておる。太陽系に関すること、銀河系に関すること、物理学の法則、化学的な知識も生命に関する知識も豊富で、おそらく地球人は彼らの足元にも及ばないだろう。そういう彼らは、惑星というものが巧妙なバランスの上に成り立つひとつのシステムであることも知っている。一度作ってしまった化学物質が元には戻らないことなど常識じゃ。だから、自然というものは、どこかひとつに手をつければ全てに影響が及ぶ。知識があるからこそ人工物を作らんのじゃ。地球でも、野生動物が巣を作ったりするが、それは自然のシステムの一部としてのことじゃ。
 ところが、これを地球の大学で講義したとしても、おそらく知識として伝わるだけじゃろう。真理を知るということは習うことでも学ぶことでもないかも知れん。知識というのは役に立たんことがある。せっぱ詰まれば、すぐに背に腹は代えられんなどということになるのは、単なる知識としてしか捉えていない場合だからじゃ。
 セドナの人々は実に賢い。彼らは野生動物ではない。実に快適に文明的に暮らしておる。環境が違いすぎるから、ここでの例をそのまま地球に持ち込むことはできんが、地球環境に負荷をかけずに今よりもずっと快適に暮らすほうほうがあるはずじゃ。地球は猛烈に文明が遅れておるから、それが未だにできないのじゃ。今のままでは地球人は宿主を死に至らしめて、結果として自分自身も滅んでしまうガン細胞とそっくりじゃ・・・

 ホリテッカン博士は話し終えて大きく息を吸い込みました。
 是輔さんは博士の話に感激していました。

「先生、オイラやっと分かりましたよ」
「何をじゃ?」
「ずっと前から、科学と技術は別のものじゃないかって思ってたんすよ」
「そうか。それはよいことじゃ」
「でも、もう確信しやしたね。オイラ間違っていなかった」
「そうじゃ。科学も技術も悪いことじゃない。何事もそうじゃが、考えが浅いと危険なだけじゃ」
「先生のお話が聞けてホントによかったっす。先生、がんばってください」
「ああ、ありがとう。残りの人生を、この研究と普及にかけるつもりじゃ」

 是輔さんはノストロモ号に戻りました。

「ありゃたーした!」

 博士の宇宙服のインターコムに威勢のよい声が届いた直後に、離陸用ブースタがまばゆい光を発してセドナの氷原にもう一度短い夏をもたらしました。30秒後、上昇するノストロモ号はたちまち輝く星々と区別がつかなくなりました。

・・・もっとやさしいエンジンが必要じゃな。ダマスクロース君、それから、たしかマチルダ君と言ったな、地球に戻ったらさっそく始めるぞ・・・

 その様子を離れて見守るホリテッカン博士の足元には、メタン化合物が結晶して育つセドナの植物が咲き誇っていました。

・・・なんて美しいのじゃ。自然はどこでも実に美しい・・・

 博士は、地球の自然をこれ以上壊すことがないように全力を尽くそうと決意を新たにしたのでした。


おしまい


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先頭 表紙

ミタさん。これが風船の一番役に立つ使い方だよ〜! / ポロ ( 2005-02-24 15:11 )
風船にそんな使い方があったのですね〜。これでホリテッカン博士の研究も進むことでしょうね。(^^) / みた・そうや ( 2005-02-23 20:58 )

2005-02-19 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その1

ポロ、山里に暮らす その1


 ポロは、どこかの里山にいました。
 どうしてこんなところにいるのでしょか。何も思い出せません。
 いつの間にか短い木の枝をひろって耳に当てると意味もなく「オープンチャンネル・ドーラ」などと独り言を言っていました。いったいどういう意味なのでしょか。
 しばらく歩き回って、荒れ果てた一軒家を見つけました。もうしばらく誰も住んでいないみたいなので、ポロは、そこで寝泊まりすることにしました。
 こんな山の一軒家なのにチッペンデールのアップライトピアノが一台ありました。弾いてみると調律がぴったり合っていました。それどころか、美しく整音された、こんなに手入れのいいピアノはめったにないと思いました。ポロは得意のバイエル79番を弾いてみました。
 どうして弾けるんだか分からなかったけど、涙が出るほどきれいな音でした。
 ピアノの上には小さなチェロがありました。置物かと思ったら、なんだか使い込んだような楽器でした。ポロが見よう見まねで弾いてみると「ぎーぎろん」という音が出ました。

-こっちはあとで練習しよう。技術が必要みたいだな。

 ポロは、この家がとても気に入りました。家主が戻ってくるまで勝手に住むことにしました。もし、帰ってきたら「にゃあ」って言うことにしました。

 それからというもの、毎日、近くの山を歩いて食べ物を集めました。山菜やヤマイモ、栗の実や自然の果物を拾ってきては、それを食べて暮らしました。おいしくておいしくてポロは幸せでした。保存がきくものは、納屋にすこしずつためてきました。
 ポロには時間がたくさんありました。
 な〜んだ。テレビやインターネットがなければ、時間なんていくらでもあるんじゃないか。
 だから、ポロはピアノをたくさん弾きました。弾いているうちに音楽のほうがポロにす〜っと入ってきて、音楽がだんだん分かってくる気がしました。な〜んだ。今までは音楽に心がちゃんと向き合っていないだけだったんじゃないか。
 月夜の晩には近所の森のはずれの小高い丘に座って、飽きずに月を眺めました。なんてきれいなんだろう。あんまりしげしげと眺めたので、ポロはソラでお月さまの模様だってくわしく描けるようになりました。月のない夜には星を眺めて過ごしました。1年たつころには、ポロは全部の星の並び方を覚えてしまいました。だから、星空の中を動く惑星がすぐに分かるようになりました。
 昼間は木々の枝ぶりの美しさと見事さに見とれて過ごしました。どの種類の木が、どのように枝を広げるのか、どのように幹を伸ばしていくのかが分かってきました。あるときは草や木の葉の葉脈を飽きずにたどりました。そのうち、ポロは何も見なくても紙の上に葉脈をデザインできるようになりました。ポロは、だんだん自然の造形を理解していったのです。
 ポロには時間がいくらでもありました。空の雲だって、山の稜線のカーブだって、空を飛ぶ鳥たちの軌跡だって、みんなソラで描けるようになりました。ひと舐めすれば、どこの沢の水なのかも言い当てられるようになりました。
 空や空気の湿り具合で、明日の天気も百発百中です。嵐の前触れだって、地震の前触れだって何でも感じられるようになっていました。


つづく

先頭 表紙

2005-02-18 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その2

ポロ、山里に暮らす その2


 ポロに分かった事はこうです。自然の造形は宇宙の法則にぴったり当てはまります。山の形だって、誰かが思いつきで勝手にデザインしたものではなくて、もっとも小さなエネルギーでできる形です。だから自然です。動物も植物もデザインが完璧だから生命を宿すことまでできます。そのことを理解していない人が作ったものは、それができません。ポロは自然の法則を身体で覚えたのでした。
 ある時、人里に降りていってみました。そこには見慣れたはずの家やクルマがあふれる街並みがありました。でも、ポロはびっくりです。だって、それはほとんどがデタラメのデザインだったので、どれもガラクタに見えたからです。自然の理にかなうデザインなんて、これっぽっちもありませんでした。
 ポロは山里の家に戻りました。
 ここに住んでいた人は、本当にどうしてしまったのでしょか。
 ポロは雪に閉ざされた冬を家に閉じこもって過ごしました。冬は、もっと時間がたくさんありました。ピアノをたくさん弾いて、絵を描いて、作曲してもまだまだ時間がありました。ポロは家中の柱の木目を覚えてしまいました。木目はなんと美しいのでしょう。
 とうとう長い冬が終わって春になりました。
 散歩をしていたら、今まで気がつかなかった麦畑がありました。ポロは、その麦畑を見て全てを思いだしました。
 ここはせんせいとジョーンズの畑でした。
 
 ポロは間に合わなかったのです。(お話の部屋の「セロ弾きジョーンズ」参照)
 
 ポロが故郷のドーラを出て地球にやってきたのは、この未来を知ったからだということを今さらながら思いだしました。せんせいが山奥の麦畑で死んでしまうという未来を変えるためにやってきたのに、ポロは、いったい何をしていたんだろう。それとも未来は変えられないのでしょか。
 麦畑の一角の、他よりも少し育ちのよい場所。
 あそこにせんせいが倒れているに違いありません。自然がつくった本当のお墓がそこにありました。ポロは自分の不甲斐なさが情けないやら腹が立つやら、後から後から涙が出て止まりませんでした。
 でも、ジョーンズは、とうとう見つかりませんでした。猫は人知れず死んでいくのです。

 それから何回も冬が来て、また春が来ました。
 練習を続けた成果があらわれて、ポロもチェロが上手になりました。月夜の晩には、森のはずれの丘の上のステージで一晩中チェロを弾きました。近くの山々から動物たちが聴きに来てくれました。演奏が進んで無我の境地に入ると、ポロは自然と同化して透明になりました。そんなとき、ポロには宇宙の果てが見えたような気がしましたが、演奏を終えて我にかえると、そんなことは夢の中のことのように忘れてしまうのでした。

 そんなポロにも、とうとう目覚めぬ朝がやってきました。

 眠り続ける自分の身体を見下ろしながら、ポロは夜明けの空をどんどん登っていきます。眼下に広がる里山の木々がザワザワとポロを送ってくれているようでした。それに気づいた、近くの木に住む小さなリスとヤマネが、空を見上げてポロを見送ってくれました。

 ばいば〜い!

 ポロは笑顔で手を振りました。


つづく

先頭 表紙

2005-02-17 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その3

ポロ、山里に暮らす その3


 ポロは雲を越えて、もっともっと高く登っていきました。とうとう星がまたたき始めたとき、誰かに呼び止められました。

「ポロちゃん」
「だ、だれ?」
「あたしよ」
「わ、女神さま!」
「お疲れさま。もういいのよ」
「なにが、もういいの?」
「もう真理を探し求めなくてもいいの」
「ふ〜ん。ポロって、そんなの探してたっけ?」
「そうよ。あなたの人生は、ずっとそれだけだったわ」
「それで、ポロは見つけたの?」
「そうね。見つけたわ」
「どうして分かるの?」
「それは、あなたがここにいるからよ」

 気がつくと銀河系が小さくなっていました。

-この景色、見たことあるかも・・・

 銀河系を離れているというよりも、ポロが大きく広がっていくみたいな感覚でした。

「そうよ。もうすぐポロちゃんは宇宙と同化しちゃうのよ」
「コワくない?」
「だいじょうぶよ」
「女神さまが言うなら信じるよ」

 誰かがポロに触れたような気がしました。

「ぴゆぴゆ!」
「わ、ロケット号じゃないか」
「ぴゆぴゆ!」
「ロケット号、死んじゃったのか!」
「ぴゆぴゆ!」

 ロケット号が指さしたほうを見ると、そこではポロよりもずっと大きく広がったせんせいとジョーンズがいました。

「わあ、せんせいゴメンね」
「何を謝っているんだ?」
「ポロさ、せんせいが万が一にも麦畑で死ぬようなことがないようにって誓いを立ててドーラを出てきたのに、何もできなかったよ」
「そうか。しかし、その誓いそのものがポロの思い込みにすぎないんだよ。私は満足しているよ」

 せんせいのそばでジョーンズも満足げでした。ジョーンズのそばには、まっしろいフワフワした子猫がニコニコして寄り添っていました。
 ああ、あれは何の理由もなく乱暴な子どもにたたき殺されてしまった子猫に違いありません。
 ポロは、地上で出会ったいろんな思いが一度に心の奥底から押し寄せてきて涙が止まらなくなってしまいました。

「え〜んえん、え〜んえん、おーいおい、おーいおい」

 ポロの波打つ思いは宇宙を越えて波のように広がっていきました。
 すると、どこからともなく、かすかなマチルダエンジンの音が聞こえてくるのでした。

 ぽんぽんぽぽん、ぽんぽぽん・・・・・・


つづく

先頭 表紙

2005-02-16 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その4

ポロ、山里に暮らす その4


「せんせい、起きて」

 ポロは、寝室にも行かないで仕事部屋でゴロ寝したまま眠ってしまったせんせいのほっぺを肉球でぱしぱし叩きました。

「なんだ、こんな夜明けに」
「せんせい、こんな生活してちゃダメだよ」
「何を言ってるんだ」
「せんせい。麦になりたかったら、ちゃんと山里で自然を観察しなくちゃダメなんだよ」
「だから何を言ってるんだ?」
「葉脈は、あのデザインだから命を宿すことができるんだからね」
「それがどうしたんだ」
「宇宙の真理だよ、せんせいのわからんちん!」
「そういう話はあとだ」

 せんせいはポロの首根っこをつまむと、バルコニー側の窓をあけてポイと外へ追いだしました。

 がちゃ!

「わ、鍵なんか締めないでよ〜。ポロはしんみに忠告してるんだよ〜、せんせい!」

 ポロがいくら叫んでも、せんせいはぐお〜って眠ってしまいました。
 しかたがないので、東の空がだんだん明るくなってくる様子を、ポロは山里を思いだしながらずっと眺めてたのでした。


おしまい


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ポロのひみつの部屋

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ばっかすさん、アリガトございます。すっごくうれしい! ポロのひみつの部屋(ポロの道場)にも遊びに来てください。 / ポロ ( 2005-02-24 15:07 )
素敵なお話ありがとう.最小仕事と自然の造形についての記述に共感します. / ばっかす ( 2005-02-23 08:53 )
ミタさん。ポロは、せんせいが麦になりたいんだって気がついたんだよ〜。有名になるのなんてせんせいにはどうでもいいことなんだ。 / ポロ ( 2005-02-22 13:46 )
マチルダエンジンの音が、これほど心強く聞こえた事はありません。でも…あの最後は…それもまた… / みた・そうや ( 2005-02-22 13:10 )

2005-02-15 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その1

悪夢救助隊 一日体験入隊 その1


 ミタさんとポロは、裏神田のあじさい亭の近くの路地の板塀にポスターを見つけました。

 君も来ないか!
 ナイトメア(悪夢)救助隊 一日体験入隊 なんと無料!

「ミタさん、行ってみようよ」
「え〜、怖くないかなあ」
「人の夢だからダイじょぶだよ」
「じゃあタダだし、行ってみようか」

 ポロたちは、そのままバク王国大使館内にある悪夢救助隊裏神田支部に行って、体験入隊を申し込みました。

 申し込み用紙に名前を書いて受付に出すと、すぐに研修室に案内されました。研修室には、20人ほどが研修の始まりを待っていました。
 そこにやって来たのは、バクではなくて、人間のそれもとびきり美人のインストラクターでした。

「ポロちゃん、来てよかったね」
「ポロ、ど〜でもいいよ」

 ミタさんは嬉しそうでした。
 研修ビデオは、悪夢の中で戦うナイトメア救助隊の活躍ドキュメンタリーでした。救助隊の持っている武器がとっても強力で、悪夢の怪物は、あっという間に退治されてしまいました。

「す、すごいね〜、ミタさん・・・」
「そうだねえ。でも、プロモーションビデオかも知れないよ」
「そんなことないよ。すごい装備だからだよ」
「そうだといいけどね」

 ビデオが終わると、全員に高分子アラミド繊維でできた救助隊のカッコいい制服とビデオで見た光線銃みたいな武器を渡されました。ポロは、早く現場に出たくて仕方ありませんでした。

「では皆さん。いよいよ皆さんが搭乗する救助船へご案内します」

 ポロたちはインストラクターのお姉さんに連れられて、救助船の格納庫に向かいました。

 格納庫には、たくさんの神田丸がいつでも出動できるように整備、待機していました。
 ミタさんとポロは第19神田丸でした。

アルコン隊長「私が19号の船長で隊長のアルコンだ。体験入隊とはいうもの実戦には変わりないから気を引き締めて頼む。では、搭乗だ」

 ポロたちは自己紹介する間もなく、第19神田丸に乗り込みました。
 ブリッジには、イケロスという夢の神さまの像が飾ってありました。ポロたちは、実際に悪夢と立ち向かう通称“突撃隊員”たちが待機する部屋に案内されました。そして席に座った途端、悪夢ソナーに反応があったと艦内放送が流れました。

ソナー手「悪夢反応です。大物です。間違いなく怪獣だ」
アルコン「よし。機関室、エンジン始動だ」
機関室 「アイサー、エンジン始動!」

 ぽんぽんぽぽん、ぽんぽぽん!

 体験入隊の人たちが乗る船では19号が最初の出動でした。ちょっともわ〜っとした気持ち悪さを通り抜けると、そこは、もう夢空間でした。
 実際に船外で救助活動をする救助班(突撃隊)は、ポロたちを入れて全部で10人。一番エラいタベルコ曹長がポロたちに注意事項を話してくれました。

タベルコ「夢空間とは言っても、ここでは全てが現実だ。決して無理な行動は取らないように。ここで死んだりしたら、もう戻れない」

 それを聞いても、ミタさんもポロも、まだ実感が湧きませんでした。


つづく

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