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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-02-20 ポロの日記 2005年2月12日(岩曜日)初めてのセドナ その3
2005-02-19 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その1
2005-02-18 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その2
2005-02-17 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その3
2005-02-16 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その4
2005-02-15 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その1
2005-02-14 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その2
2005-02-13 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その3
2005-02-12 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その4
2005-02-11 ポロの日記 2005年2月11日(電曜日)セドナへの航海 その1


2005-02-20 ポロの日記 2005年2月12日(岩曜日)初めてのセドナ その3

初めてのセドナ その3


 この星の住民は何でも知っておる。すくなくともワシらが知っていることは何でも知っておる。太陽系に関すること、銀河系に関すること、物理学の法則、化学的な知識も生命に関する知識も豊富で、おそらく地球人は彼らの足元にも及ばないだろう。そういう彼らは、惑星というものが巧妙なバランスの上に成り立つひとつのシステムであることも知っている。一度作ってしまった化学物質が元には戻らないことなど常識じゃ。だから、自然というものは、どこかひとつに手をつければ全てに影響が及ぶ。知識があるからこそ人工物を作らんのじゃ。地球でも、野生動物が巣を作ったりするが、それは自然のシステムの一部としてのことじゃ。
 ところが、これを地球の大学で講義したとしても、おそらく知識として伝わるだけじゃろう。真理を知るということは習うことでも学ぶことでもないかも知れん。知識というのは役に立たんことがある。せっぱ詰まれば、すぐに背に腹は代えられんなどということになるのは、単なる知識としてしか捉えていない場合だからじゃ。
 セドナの人々は実に賢い。彼らは野生動物ではない。実に快適に文明的に暮らしておる。環境が違いすぎるから、ここでの例をそのまま地球に持ち込むことはできんが、地球環境に負荷をかけずに今よりもずっと快適に暮らすほうほうがあるはずじゃ。地球は猛烈に文明が遅れておるから、それが未だにできないのじゃ。今のままでは地球人は宿主を死に至らしめて、結果として自分自身も滅んでしまうガン細胞とそっくりじゃ・・・

 ホリテッカン博士は話し終えて大きく息を吸い込みました。
 是輔さんは博士の話に感激していました。

「先生、オイラやっと分かりましたよ」
「何をじゃ?」
「ずっと前から、科学と技術は別のものじゃないかって思ってたんすよ」
「そうか。それはよいことじゃ」
「でも、もう確信しやしたね。オイラ間違っていなかった」
「そうじゃ。科学も技術も悪いことじゃない。何事もそうじゃが、考えが浅いと危険なだけじゃ」
「先生のお話が聞けてホントによかったっす。先生、がんばってください」
「ああ、ありがとう。残りの人生を、この研究と普及にかけるつもりじゃ」

 是輔さんはノストロモ号に戻りました。

「ありゃたーした!」

 博士の宇宙服のインターコムに威勢のよい声が届いた直後に、離陸用ブースタがまばゆい光を発してセドナの氷原にもう一度短い夏をもたらしました。30秒後、上昇するノストロモ号はたちまち輝く星々と区別がつかなくなりました。

・・・もっとやさしいエンジンが必要じゃな。ダマスクロース君、それから、たしかマチルダ君と言ったな、地球に戻ったらさっそく始めるぞ・・・

 その様子を離れて見守るホリテッカン博士の足元には、メタン化合物が結晶して育つセドナの植物が咲き誇っていました。

・・・なんて美しいのじゃ。自然はどこでも実に美しい・・・

 博士は、地球の自然をこれ以上壊すことがないように全力を尽くそうと決意を新たにしたのでした。


おしまい


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先頭 表紙

ミタさん。これが風船の一番役に立つ使い方だよ〜! / ポロ ( 2005-02-24 15:11 )
風船にそんな使い方があったのですね〜。これでホリテッカン博士の研究も進むことでしょうね。(^^) / みた・そうや ( 2005-02-23 20:58 )

2005-02-19 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その1

ポロ、山里に暮らす その1


 ポロは、どこかの里山にいました。
 どうしてこんなところにいるのでしょか。何も思い出せません。
 いつの間にか短い木の枝をひろって耳に当てると意味もなく「オープンチャンネル・ドーラ」などと独り言を言っていました。いったいどういう意味なのでしょか。
 しばらく歩き回って、荒れ果てた一軒家を見つけました。もうしばらく誰も住んでいないみたいなので、ポロは、そこで寝泊まりすることにしました。
 こんな山の一軒家なのにチッペンデールのアップライトピアノが一台ありました。弾いてみると調律がぴったり合っていました。それどころか、美しく整音された、こんなに手入れのいいピアノはめったにないと思いました。ポロは得意のバイエル79番を弾いてみました。
 どうして弾けるんだか分からなかったけど、涙が出るほどきれいな音でした。
 ピアノの上には小さなチェロがありました。置物かと思ったら、なんだか使い込んだような楽器でした。ポロが見よう見まねで弾いてみると「ぎーぎろん」という音が出ました。

-こっちはあとで練習しよう。技術が必要みたいだな。

 ポロは、この家がとても気に入りました。家主が戻ってくるまで勝手に住むことにしました。もし、帰ってきたら「にゃあ」って言うことにしました。

 それからというもの、毎日、近くの山を歩いて食べ物を集めました。山菜やヤマイモ、栗の実や自然の果物を拾ってきては、それを食べて暮らしました。おいしくておいしくてポロは幸せでした。保存がきくものは、納屋にすこしずつためてきました。
 ポロには時間がたくさんありました。
 な〜んだ。テレビやインターネットがなければ、時間なんていくらでもあるんじゃないか。
 だから、ポロはピアノをたくさん弾きました。弾いているうちに音楽のほうがポロにす〜っと入ってきて、音楽がだんだん分かってくる気がしました。な〜んだ。今までは音楽に心がちゃんと向き合っていないだけだったんじゃないか。
 月夜の晩には近所の森のはずれの小高い丘に座って、飽きずに月を眺めました。なんてきれいなんだろう。あんまりしげしげと眺めたので、ポロはソラでお月さまの模様だってくわしく描けるようになりました。月のない夜には星を眺めて過ごしました。1年たつころには、ポロは全部の星の並び方を覚えてしまいました。だから、星空の中を動く惑星がすぐに分かるようになりました。
 昼間は木々の枝ぶりの美しさと見事さに見とれて過ごしました。どの種類の木が、どのように枝を広げるのか、どのように幹を伸ばしていくのかが分かってきました。あるときは草や木の葉の葉脈を飽きずにたどりました。そのうち、ポロは何も見なくても紙の上に葉脈をデザインできるようになりました。ポロは、だんだん自然の造形を理解していったのです。
 ポロには時間がいくらでもありました。空の雲だって、山の稜線のカーブだって、空を飛ぶ鳥たちの軌跡だって、みんなソラで描けるようになりました。ひと舐めすれば、どこの沢の水なのかも言い当てられるようになりました。
 空や空気の湿り具合で、明日の天気も百発百中です。嵐の前触れだって、地震の前触れだって何でも感じられるようになっていました。


つづく

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2005-02-18 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その2

ポロ、山里に暮らす その2


 ポロに分かった事はこうです。自然の造形は宇宙の法則にぴったり当てはまります。山の形だって、誰かが思いつきで勝手にデザインしたものではなくて、もっとも小さなエネルギーでできる形です。だから自然です。動物も植物もデザインが完璧だから生命を宿すことまでできます。そのことを理解していない人が作ったものは、それができません。ポロは自然の法則を身体で覚えたのでした。
 ある時、人里に降りていってみました。そこには見慣れたはずの家やクルマがあふれる街並みがありました。でも、ポロはびっくりです。だって、それはほとんどがデタラメのデザインだったので、どれもガラクタに見えたからです。自然の理にかなうデザインなんて、これっぽっちもありませんでした。
 ポロは山里の家に戻りました。
 ここに住んでいた人は、本当にどうしてしまったのでしょか。
 ポロは雪に閉ざされた冬を家に閉じこもって過ごしました。冬は、もっと時間がたくさんありました。ピアノをたくさん弾いて、絵を描いて、作曲してもまだまだ時間がありました。ポロは家中の柱の木目を覚えてしまいました。木目はなんと美しいのでしょう。
 とうとう長い冬が終わって春になりました。
 散歩をしていたら、今まで気がつかなかった麦畑がありました。ポロは、その麦畑を見て全てを思いだしました。
 ここはせんせいとジョーンズの畑でした。
 
 ポロは間に合わなかったのです。(お話の部屋の「セロ弾きジョーンズ」参照)
 
 ポロが故郷のドーラを出て地球にやってきたのは、この未来を知ったからだということを今さらながら思いだしました。せんせいが山奥の麦畑で死んでしまうという未来を変えるためにやってきたのに、ポロは、いったい何をしていたんだろう。それとも未来は変えられないのでしょか。
 麦畑の一角の、他よりも少し育ちのよい場所。
 あそこにせんせいが倒れているに違いありません。自然がつくった本当のお墓がそこにありました。ポロは自分の不甲斐なさが情けないやら腹が立つやら、後から後から涙が出て止まりませんでした。
 でも、ジョーンズは、とうとう見つかりませんでした。猫は人知れず死んでいくのです。

 それから何回も冬が来て、また春が来ました。
 練習を続けた成果があらわれて、ポロもチェロが上手になりました。月夜の晩には、森のはずれの丘の上のステージで一晩中チェロを弾きました。近くの山々から動物たちが聴きに来てくれました。演奏が進んで無我の境地に入ると、ポロは自然と同化して透明になりました。そんなとき、ポロには宇宙の果てが見えたような気がしましたが、演奏を終えて我にかえると、そんなことは夢の中のことのように忘れてしまうのでした。

 そんなポロにも、とうとう目覚めぬ朝がやってきました。

 眠り続ける自分の身体を見下ろしながら、ポロは夜明けの空をどんどん登っていきます。眼下に広がる里山の木々がザワザワとポロを送ってくれているようでした。それに気づいた、近くの木に住む小さなリスとヤマネが、空を見上げてポロを見送ってくれました。

 ばいば〜い!

 ポロは笑顔で手を振りました。


つづく

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2005-02-17 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その3

ポロ、山里に暮らす その3


 ポロは雲を越えて、もっともっと高く登っていきました。とうとう星がまたたき始めたとき、誰かに呼び止められました。

「ポロちゃん」
「だ、だれ?」
「あたしよ」
「わ、女神さま!」
「お疲れさま。もういいのよ」
「なにが、もういいの?」
「もう真理を探し求めなくてもいいの」
「ふ〜ん。ポロって、そんなの探してたっけ?」
「そうよ。あなたの人生は、ずっとそれだけだったわ」
「それで、ポロは見つけたの?」
「そうね。見つけたわ」
「どうして分かるの?」
「それは、あなたがここにいるからよ」

 気がつくと銀河系が小さくなっていました。

-この景色、見たことあるかも・・・

 銀河系を離れているというよりも、ポロが大きく広がっていくみたいな感覚でした。

「そうよ。もうすぐポロちゃんは宇宙と同化しちゃうのよ」
「コワくない?」
「だいじょうぶよ」
「女神さまが言うなら信じるよ」

 誰かがポロに触れたような気がしました。

「ぴゆぴゆ!」
「わ、ロケット号じゃないか」
「ぴゆぴゆ!」
「ロケット号、死んじゃったのか!」
「ぴゆぴゆ!」

 ロケット号が指さしたほうを見ると、そこではポロよりもずっと大きく広がったせんせいとジョーンズがいました。

「わあ、せんせいゴメンね」
「何を謝っているんだ?」
「ポロさ、せんせいが万が一にも麦畑で死ぬようなことがないようにって誓いを立ててドーラを出てきたのに、何もできなかったよ」
「そうか。しかし、その誓いそのものがポロの思い込みにすぎないんだよ。私は満足しているよ」

 せんせいのそばでジョーンズも満足げでした。ジョーンズのそばには、まっしろいフワフワした子猫がニコニコして寄り添っていました。
 ああ、あれは何の理由もなく乱暴な子どもにたたき殺されてしまった子猫に違いありません。
 ポロは、地上で出会ったいろんな思いが一度に心の奥底から押し寄せてきて涙が止まらなくなってしまいました。

「え〜んえん、え〜んえん、おーいおい、おーいおい」

 ポロの波打つ思いは宇宙を越えて波のように広がっていきました。
 すると、どこからともなく、かすかなマチルダエンジンの音が聞こえてくるのでした。

 ぽんぽんぽぽん、ぽんぽぽん・・・・・・


つづく

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2005-02-16 ポロの日記 2005年2月21日(光曜日)ポロ、山里に暮らす その4

ポロ、山里に暮らす その4


「せんせい、起きて」

 ポロは、寝室にも行かないで仕事部屋でゴロ寝したまま眠ってしまったせんせいのほっぺを肉球でぱしぱし叩きました。

「なんだ、こんな夜明けに」
「せんせい、こんな生活してちゃダメだよ」
「何を言ってるんだ」
「せんせい。麦になりたかったら、ちゃんと山里で自然を観察しなくちゃダメなんだよ」
「だから何を言ってるんだ?」
「葉脈は、あのデザインだから命を宿すことができるんだからね」
「それがどうしたんだ」
「宇宙の真理だよ、せんせいのわからんちん!」
「そういう話はあとだ」

 せんせいはポロの首根っこをつまむと、バルコニー側の窓をあけてポイと外へ追いだしました。

 がちゃ!

「わ、鍵なんか締めないでよ〜。ポロはしんみに忠告してるんだよ〜、せんせい!」

 ポロがいくら叫んでも、せんせいはぐお〜って眠ってしまいました。
 しかたがないので、東の空がだんだん明るくなってくる様子を、ポロは山里を思いだしながらずっと眺めてたのでした。


おしまい


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先頭 表紙

ばっかすさん、アリガトございます。すっごくうれしい! ポロのひみつの部屋(ポロの道場)にも遊びに来てください。 / ポロ ( 2005-02-24 15:07 )
素敵なお話ありがとう.最小仕事と自然の造形についての記述に共感します. / ばっかす ( 2005-02-23 08:53 )
ミタさん。ポロは、せんせいが麦になりたいんだって気がついたんだよ〜。有名になるのなんてせんせいにはどうでもいいことなんだ。 / ポロ ( 2005-02-22 13:46 )
マチルダエンジンの音が、これほど心強く聞こえた事はありません。でも…あの最後は…それもまた… / みた・そうや ( 2005-02-22 13:10 )

2005-02-15 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その1

悪夢救助隊 一日体験入隊 その1


 ミタさんとポロは、裏神田のあじさい亭の近くの路地の板塀にポスターを見つけました。

 君も来ないか!
 ナイトメア(悪夢)救助隊 一日体験入隊 なんと無料!

「ミタさん、行ってみようよ」
「え〜、怖くないかなあ」
「人の夢だからダイじょぶだよ」
「じゃあタダだし、行ってみようか」

 ポロたちは、そのままバク王国大使館内にある悪夢救助隊裏神田支部に行って、体験入隊を申し込みました。

 申し込み用紙に名前を書いて受付に出すと、すぐに研修室に案内されました。研修室には、20人ほどが研修の始まりを待っていました。
 そこにやって来たのは、バクではなくて、人間のそれもとびきり美人のインストラクターでした。

「ポロちゃん、来てよかったね」
「ポロ、ど〜でもいいよ」

 ミタさんは嬉しそうでした。
 研修ビデオは、悪夢の中で戦うナイトメア救助隊の活躍ドキュメンタリーでした。救助隊の持っている武器がとっても強力で、悪夢の怪物は、あっという間に退治されてしまいました。

「す、すごいね〜、ミタさん・・・」
「そうだねえ。でも、プロモーションビデオかも知れないよ」
「そんなことないよ。すごい装備だからだよ」
「そうだといいけどね」

 ビデオが終わると、全員に高分子アラミド繊維でできた救助隊のカッコいい制服とビデオで見た光線銃みたいな武器を渡されました。ポロは、早く現場に出たくて仕方ありませんでした。

「では皆さん。いよいよ皆さんが搭乗する救助船へご案内します」

 ポロたちはインストラクターのお姉さんに連れられて、救助船の格納庫に向かいました。

 格納庫には、たくさんの神田丸がいつでも出動できるように整備、待機していました。
 ミタさんとポロは第19神田丸でした。

アルコン隊長「私が19号の船長で隊長のアルコンだ。体験入隊とはいうもの実戦には変わりないから気を引き締めて頼む。では、搭乗だ」

 ポロたちは自己紹介する間もなく、第19神田丸に乗り込みました。
 ブリッジには、イケロスという夢の神さまの像が飾ってありました。ポロたちは、実際に悪夢と立ち向かう通称“突撃隊員”たちが待機する部屋に案内されました。そして席に座った途端、悪夢ソナーに反応があったと艦内放送が流れました。

ソナー手「悪夢反応です。大物です。間違いなく怪獣だ」
アルコン「よし。機関室、エンジン始動だ」
機関室 「アイサー、エンジン始動!」

 ぽんぽんぽぽん、ぽんぽぽん!

 体験入隊の人たちが乗る船では19号が最初の出動でした。ちょっともわ〜っとした気持ち悪さを通り抜けると、そこは、もう夢空間でした。
 実際に船外で救助活動をする救助班(突撃隊)は、ポロたちを入れて全部で10人。一番エラいタベルコ曹長がポロたちに注意事項を話してくれました。

タベルコ「夢空間とは言っても、ここでは全てが現実だ。決して無理な行動は取らないように。ここで死んだりしたら、もう戻れない」

 それを聞いても、ミタさんもポロも、まだ実感が湧きませんでした。


つづく

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2005-02-14 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その2

悪夢救助隊 一日体験入隊 その2


 間もなく第19神田丸は夢空間の目的の場所の上空に到着しました。深夜でしたが、外部赤外モニタには、田畑や屋敷森が点在する昔の武蔵野の風景が広がっていました。

ポロ「あ、これってさ、是輔さんを助けに行った場所みたいだね」
ミタ「どうして分かるの、ポロちゃん」
ポロ「だってさ、あれが春日幼稚園で、その近くの森の中にあるのがカトスの街だよ。ほら、番所(ばんどころ)があって、あ゛〜〜! ゼーンジャラが空を眺めてる!」
ミタ「ホントだ! あのお侍がゼーンジャラだね。ということは、悪夢にうなされているのは“とむりん少年”か」
ポロ「うん、間違いないよ」
タベルコ「なんだ、ここを知っているのですか」
ポロ「うん、知ってるって言うかね、ポロ、分かるんだ」
タベルコ「それはすごい。すぐにブリッジで隊長に助言してくれませんか」
ポロ「うん、いいよ」

 ポロとミタさんは救助隊の待機室からブリッジに移動しました。
 ポロがモニタを見ながら説明すると、アルコン隊長が作戦ボードに情報を次々と書き込んで行きました。現況はこうでした。
 わずか数キロ南の競艇場近くの荒川から巨大な2足歩行の怪獣が上陸し、ゆっくりと北上、カトスの街のすぐちかくにある小さな家では、その怪獣に踏みつぶされるという悪夢に小さな男の子がうなされているのです。
 現実と異なるところは、まだ開通していないはずのJR最強線が高架軌道ではなく、畑のなかのバラスト軌道を走っていること、怪獣の現れた荒川の水深が30メートル以上ありそうなことでした。

アルコン隊長「よし、手始めに上空からミサイル攻撃だ」
アルゴ操縦士「ラジャー」

 アルゴ操縦士はバク・ロイヤルエアフォース出身なので、空軍用語が抜けません。
 神田丸は、建ち並ぶ倉庫群を踏みつぶしながら北上を続けていました。アルコン隊長は、怪獣が競艇場の広大な駐車場に入ったところで、ナイトメア・ミサイルMk.46の発射を命じました。
 見事に命中しましたが、怪獣の前進を止めることはできませんでした。

ポロ 「まるで自衛隊vsゴジラだね」
ミタ 「うん、やっぱりウルトラ級のヒーローが出てこないとダメな設定になってるね」
ポロ 「あの堅いウロコみたいなところを狙っても効果がないかも」
ミタ 「そうだね。やっぱり下腹とか・・」
アルコン「そうだ。それがいいだろう。上空からでは狙えない。地上作戦に切り換えよう」

 神田丸は怪獣の進路にあたる北側の雑木林に着陸しました。
 ポロたち突撃隊員は武器をもって船を降りました。
 タベルコ曹長は隊員たちに怪獣にできるかぎり接近して、いちばん弱そうな下腹部を狙って一斉射撃すると言いました。
 ミタさんとポロは、ホントの隊員たちより100メートル後ろで待機して撃つように言われました。突撃銃は光線銃なので反動がなく、初めてでも撃ったとたんに後ろにひっくりかえったりすることはありません。
 いよいよ怪獣がドスン・・・・・・、ドスン・・・・・と近づいてきました。


つづく

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2005-02-13 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その3

悪夢救助隊 一日体験入隊 その3


タベルコ「て〜〜〜!!」

 ぴ〜〜〜〜〜、ぴぴぴぴぴ〜〜〜〜〜!

 光線銃が一斉にまばゆいばかりの光を発しました。ポロもミタさんも必至に引き金を引きました。

 がお〜〜〜〜〜〜!

 眩しがった怪獣を怒らせただけで、ダメージを与えることはできなかったみたいでした。
 興奮した怪獣は歩みを早めて北上を始めました。

タベルコ「まずい。これは今まで最強の怪獣だ。全員退却!」

ポロ「さすがせんせいだけのことはあるね。超強力な怪獣を作り上げちゃった」
ミタ「せんせいらしい完璧主義だね」
ポロ「こういうときは困ったもんだ」
ミタ「ああいうヤツに小さな光線銃で攻撃してもダメだ。スペシウム光線かエメリウム光線でもあれば。そうじゃなければ物理攻撃だ」
ポロ「わ、それぜったい効くよ。ポロなんて物理の問題出されたらすぐにギブアップだもん。怪獣も物理は嫌いに決まってるよ」
ミタ「ポロちゃん、そうじゃないよ。物理攻撃っていうのは、質量のある物をぶつけたりする攻撃のことだよ」
ポロ「そうか・・・・。あ、そだ。さっき上空から最強線の操車場が見えたよ。電車ぶつけよう」
ミタ「運転できるかなあ」
ポロ「でんしゃなんてオートマチックじゃないか。電車ゲームも得意だし」
ミタ「よし、行ってみよう」

 ポロたちは1キロも離れた操車場まで走りました。夢の中なのでなんだか不思議な浮遊感がありました。
 操車場には電車ではなくて蒸気機関車が停まっていました。

ポロ「ミタさん、これってC7000型だよ。それも14号機だ。弾丸列車じゃないか」
ミタ「本当だ。これなら運転できるね。でも、どうして知ってるんだろう」
ポロ「そんなこといいよ。早くボイラーに火を入れて圧力を上げよう」
ミタ「よし、やろう」

 ポロたちは大急ぎでC7014を目覚めさせました。水も石炭も間に合いそうです。圧力ゲージの針はぐんぐん上昇し、発車できるほどになりました。さすが夢空間。

ミタ「ポロちゃん、あいつ(怪獣)がこの線路を横切るときにちょうどぶつけるからね。その直前に後ろ向きに思いっきり飛び降りるんだ」
ポロ「チキンレースだね」
ミタ「行くよ」

 ぐおん・・・・しゅるしゅる・・・じゃっ!

 動き始めた3軸の動輪が砂を噛みました。

ポロ「ねえ、ミタさん。どうしてポロたち汽車なんてうごかせるんだろうね」
ミタ「なんだか、身体が覚えてるんだよ」
ポロ「でも、覚えてる線路はここじゃないよ。左側に海が見えてさ」
ミタ「そうだね。ほら、スピードが上がってきた。前方に怪獣も見えてきた。ちょうどイイ感じだ。タベルコ曹長にこちらの状況を伝えてよ」
ポロ「うん」

 ポロはインターコムのスイッチを入れてタベルコ曹長に現在の状況を伝えました。

タベルコ「どこに行ったのかと心配していたんだぞ。インターコムのスイッチは切ってはいかん!」
ポロ  「ご、ゴメなさい。それより、もうすぐ怪獣にこの汽車をぶつけます。怪獣がひるんだところを攻撃してください」
タベルコ「上空からの支援も頼んでおくよ」

 本当に怪獣の姿が近づいてきました。

ミタ 「ポロちゃん、最後の石炭を放り込んだら飛び降りる準備だ」
ポロ 「弾丸列車、もったいないね」
ミタ 「夢世界の蒸気機関車だから、また蘇るに違いないよ」
ポロ 「そだね」

 ちょうどいいタイミングで怪獣が線路にさしかかりました。

ミタ「さあ行くよ、ポロちゃん、3・・・・2・・・・・1・・・・ジャンプ!」
ポロ「ごめんね14号!」


つづく

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2005-02-12 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その4

悪夢救助隊 一日体験入隊 その4


 ポロたちは、線路の砂利の上に飛び降りて、ごろごろごろごろと転がり続けました。間もなく怪獣と汽車がぶつかってボイラが爆発する音が鳴り響きました。

 ぼわ〜〜〜〜ん、ごわ〜〜〜〜ん、どっか〜〜〜〜んんんんん!

 やっと起き上がったポロたちが怪獣をいたところを振り返ると、そこには怪獣も弾丸列車C7014も何もありませんでした。ただ、月の明かりがローカル線の線路と砂利を照らしていました。

 ポロたちが第19神田丸に戻ると、みんなから拍手で迎えられました。

タベルコ「ミタさん、ポロさん、これを機に本入隊しませんか」
ポロ  「うん、アリガト。でもね、ポロたち、いま、物語救助隊の仕事も手伝ってるの」
アルコン「なるほど、そうですか。どおりでただ者ではないと思いました。どちらも人々の心に傷を残さないために重要な仕事です。おたがい頑張りましょう」
ミタ  「皆さんもお元気で。皆さんがいると思うと、安心して眠れます」
タベルコ「そう言っていただくのが、我々は一番嬉しい」
アルコン「機関室、エンジン始動」


 ぽんぽんぽんぽんぽん・・・・!


 第19神田丸は悪夢にうなされていた少年の家の上空を旋回して、モニタでやすらかな寝顔を確認しました。

アルコン「よし、これであの少年にトラウマが残ることもないだろう」

 神田丸は、とむりん少年を起こさないようにそっと夢空間からスリップアウトしました。


 悪夢救助隊裏神田本部の建物から出るとき、ポロたちは受付のお姉さんから粗品をもらいました。明るいところでも眠れるアイマスクでした。

ミタ「出張の時、電車の中で使うよ」
ポロ「ポロも昼寝の時に使おっと。体験入隊、面白かったね」
ミタ「うん。でもさ、いったいわれわれは何者なんだろうね。ときどき分からなくなるよ」
ポロ「ポロたちはポロたちだよ」
ミタ「ポロちゃんに出会ってから、なんだか昔の自分じゃないような気がして」
ポロ「みんな、そう言うよ。あのさ、あじさい亭で“パップラ丼”食べようよ」
ミタ「うん、そうしよう」

 それから、ポロたちは路地を2回曲がってあじさい亭に行きました。


おしまい


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ああ、「良い事」と書いたつもりが「陽子と」になってる〜!そうか〜。バレンタインデーも近いしな〜。(^^; / ミタ・ソウヤ ( 2005-02-07 21:44 )
陽子とをした後のパップラ丼は最高ですね♪ / みた・そうや ( 2005-02-07 21:14 )

2005-02-11 ポロの日記 2005年2月11日(電曜日)セドナへの航海 その1

セドナへの航海 その1


ノストロモ号 10:25(裏神田標準時)

 是輔(これすけ)さんが操縦する三河屋デリバリーサービスの配達宇宙船ノストロモ号は、あじさい亭の“パップラ丼軽め”の出前のために惑星セドナに向かっていました。
 セドナは猫の星ドーラよりもいびつな軌道を回る比較的大きな星です。裏神田世界では古くから知られている星でしたが、地球のオモテ世界が知ったのは、わずか2年前のことでした。勝手に名前がついては分かりにくいので、一部の裏神田関係の天文学者が正式な命名の手順を踏まずに宇宙のどこでも通じるセドナという名を提案して、そのまま命名されたという経緯があります。今は太陽の近くにいますが(といっても地球-太陽間の90倍くらい遠く)、遠く離れる(地球-太陽間の1000倍くらい)と太陽風の届かない恒星空間に出てしまうほどでした。太陽の近くといっても冥王星よりも遠いので、寒いことに変わりありません。
 パップラ丼を注文したのは、裏しびれ大学教授のホリテッカン先生でした。先生は今、セドナ王宮からの招きでセドナに滞在中でしたが、裏しびれ大学の近くにある“あじさい亭”のパップラ丼が大好物なのです。
 ノストロモ号は単調な航海を続けていました。遠く銀河系のさいはて、たとえば銀河鉄道のプリオシン海岸駅に行くのだったらワープ8航法で超高速に飛ぶことができました。また木星くらいまでなら通常航法でもあまり時間はかかりません。しかし、セドナくらいの距離にワープ8航法を使ったら、止まれずに通りすぎてしまうし、通常航法では時間がかかるという中途半端な距離でした。
 是輔さんは、木星のアマルテア放送局にラジオの周波数を合わせました。

・・・こちらは木星アマルテア放送局です。宇宙のトラック野郎のみなさん、朗読の時間がやってまいりました。今日は「どっぷらひょん」の最終回。雪女とゼーンジャラの恋の行方はどうなるのでしょうか。朗読は合間妹子(あいま・いもこ)アナウンサーです。

 朗読が始まりました。

※以下、未読の方は2003年3月17日 猫の星の歴史教科書第8回「どっぷらひょん」全3回をお読みください。

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ゼーンジャラ「雪女どの、帰ってしまうだか。またここへは来なさるか」
雪女    「ええ、冬になったらきっと」
ゼーンジャラ「きっと来てくだされ。きっとですじゃ」
雪女    「ええ、きっと来ますとも」

 そう言うと、雪女は風に乗って空に舞い上がり、あっと言う間に冬の闇にまぎれてしまった。

 ずっと空を眺めていたゼーンジャラは、やっと我に返って大きな溜息をひとつついた。
 まわりを見渡すと、カトスの住民たちがどっぷらひょんと石臼小僧をお医者様のところへ連れていったらしく、もう誰もいなかった。ゼーンジャラは、ほんの少しの間に自分が変わってしまったことに気づかなかった。

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 是輔さんは退屈だったこともあって、たちまち物語に聞き入ってしまいました。

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 次の冬も、そのまた次の冬も雪女はやって来なかった。10回目の冬になっても来なかった。カトスの町のまわりにはだんだんと人間たちの町が出来始め、人間たちに取り付く物の怪も増えていった。とうとう100年目の冬がやってきた。カトスを見限るお化けも増えて、町はすっかり寂れていた。

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 是輔さんは、待ち続けるゼーンジャラに、ついつい昔の自分を重ねてしまい、哀れでしかたがありませんでした。早く雪女との再会シーンにならないものかと、ジリジリしながらスピーカーから流れる物語に耳を澄ませました。


つづく

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