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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-02-15 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その1
2005-02-14 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その2
2005-02-13 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その3
2005-02-12 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その4
2005-02-11 ポロの日記 2005年2月11日(電曜日)セドナへの航海 その1
2005-02-10 ポロの日記 2005年2月11日(電曜日)セドナへの航海 その2
2005-02-09 ポロの日記 2005年2月11日(電曜日)セドナへの航海 その3
2005-02-08 ポロの日記 2005年2月11日(電曜日)セドナへの航海 その4
2005-02-07 ポロの日記 2005年2月6日(風曜日)ホリテッカン博士 その1
2005-02-06 ポロの日記 2005年2月6日(風曜日)ホリテッカン博士 その2


2005-02-15 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その1

悪夢救助隊 一日体験入隊 その1


 ミタさんとポロは、裏神田のあじさい亭の近くの路地の板塀にポスターを見つけました。

 君も来ないか!
 ナイトメア(悪夢)救助隊 一日体験入隊 なんと無料!

「ミタさん、行ってみようよ」
「え〜、怖くないかなあ」
「人の夢だからダイじょぶだよ」
「じゃあタダだし、行ってみようか」

 ポロたちは、そのままバク王国大使館内にある悪夢救助隊裏神田支部に行って、体験入隊を申し込みました。

 申し込み用紙に名前を書いて受付に出すと、すぐに研修室に案内されました。研修室には、20人ほどが研修の始まりを待っていました。
 そこにやって来たのは、バクではなくて、人間のそれもとびきり美人のインストラクターでした。

「ポロちゃん、来てよかったね」
「ポロ、ど〜でもいいよ」

 ミタさんは嬉しそうでした。
 研修ビデオは、悪夢の中で戦うナイトメア救助隊の活躍ドキュメンタリーでした。救助隊の持っている武器がとっても強力で、悪夢の怪物は、あっという間に退治されてしまいました。

「す、すごいね〜、ミタさん・・・」
「そうだねえ。でも、プロモーションビデオかも知れないよ」
「そんなことないよ。すごい装備だからだよ」
「そうだといいけどね」

 ビデオが終わると、全員に高分子アラミド繊維でできた救助隊のカッコいい制服とビデオで見た光線銃みたいな武器を渡されました。ポロは、早く現場に出たくて仕方ありませんでした。

「では皆さん。いよいよ皆さんが搭乗する救助船へご案内します」

 ポロたちはインストラクターのお姉さんに連れられて、救助船の格納庫に向かいました。

 格納庫には、たくさんの神田丸がいつでも出動できるように整備、待機していました。
 ミタさんとポロは第19神田丸でした。

アルコン隊長「私が19号の船長で隊長のアルコンだ。体験入隊とはいうもの実戦には変わりないから気を引き締めて頼む。では、搭乗だ」

 ポロたちは自己紹介する間もなく、第19神田丸に乗り込みました。
 ブリッジには、イケロスという夢の神さまの像が飾ってありました。ポロたちは、実際に悪夢と立ち向かう通称“突撃隊員”たちが待機する部屋に案内されました。そして席に座った途端、悪夢ソナーに反応があったと艦内放送が流れました。

ソナー手「悪夢反応です。大物です。間違いなく怪獣だ」
アルコン「よし。機関室、エンジン始動だ」
機関室 「アイサー、エンジン始動!」

 ぽんぽんぽぽん、ぽんぽぽん!

 体験入隊の人たちが乗る船では19号が最初の出動でした。ちょっともわ〜っとした気持ち悪さを通り抜けると、そこは、もう夢空間でした。
 実際に船外で救助活動をする救助班(突撃隊)は、ポロたちを入れて全部で10人。一番エラいタベルコ曹長がポロたちに注意事項を話してくれました。

タベルコ「夢空間とは言っても、ここでは全てが現実だ。決して無理な行動は取らないように。ここで死んだりしたら、もう戻れない」

 それを聞いても、ミタさんもポロも、まだ実感が湧きませんでした。


つづく

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2005-02-14 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その2

悪夢救助隊 一日体験入隊 その2


 間もなく第19神田丸は夢空間の目的の場所の上空に到着しました。深夜でしたが、外部赤外モニタには、田畑や屋敷森が点在する昔の武蔵野の風景が広がっていました。

ポロ「あ、これってさ、是輔さんを助けに行った場所みたいだね」
ミタ「どうして分かるの、ポロちゃん」
ポロ「だってさ、あれが春日幼稚園で、その近くの森の中にあるのがカトスの街だよ。ほら、番所(ばんどころ)があって、あ゛〜〜! ゼーンジャラが空を眺めてる!」
ミタ「ホントだ! あのお侍がゼーンジャラだね。ということは、悪夢にうなされているのは“とむりん少年”か」
ポロ「うん、間違いないよ」
タベルコ「なんだ、ここを知っているのですか」
ポロ「うん、知ってるって言うかね、ポロ、分かるんだ」
タベルコ「それはすごい。すぐにブリッジで隊長に助言してくれませんか」
ポロ「うん、いいよ」

 ポロとミタさんは救助隊の待機室からブリッジに移動しました。
 ポロがモニタを見ながら説明すると、アルコン隊長が作戦ボードに情報を次々と書き込んで行きました。現況はこうでした。
 わずか数キロ南の競艇場近くの荒川から巨大な2足歩行の怪獣が上陸し、ゆっくりと北上、カトスの街のすぐちかくにある小さな家では、その怪獣に踏みつぶされるという悪夢に小さな男の子がうなされているのです。
 現実と異なるところは、まだ開通していないはずのJR最強線が高架軌道ではなく、畑のなかのバラスト軌道を走っていること、怪獣の現れた荒川の水深が30メートル以上ありそうなことでした。

アルコン隊長「よし、手始めに上空からミサイル攻撃だ」
アルゴ操縦士「ラジャー」

 アルゴ操縦士はバク・ロイヤルエアフォース出身なので、空軍用語が抜けません。
 神田丸は、建ち並ぶ倉庫群を踏みつぶしながら北上を続けていました。アルコン隊長は、怪獣が競艇場の広大な駐車場に入ったところで、ナイトメア・ミサイルMk.46の発射を命じました。
 見事に命中しましたが、怪獣の前進を止めることはできませんでした。

ポロ 「まるで自衛隊vsゴジラだね」
ミタ 「うん、やっぱりウルトラ級のヒーローが出てこないとダメな設定になってるね」
ポロ 「あの堅いウロコみたいなところを狙っても効果がないかも」
ミタ 「そうだね。やっぱり下腹とか・・」
アルコン「そうだ。それがいいだろう。上空からでは狙えない。地上作戦に切り換えよう」

 神田丸は怪獣の進路にあたる北側の雑木林に着陸しました。
 ポロたち突撃隊員は武器をもって船を降りました。
 タベルコ曹長は隊員たちに怪獣にできるかぎり接近して、いちばん弱そうな下腹部を狙って一斉射撃すると言いました。
 ミタさんとポロは、ホントの隊員たちより100メートル後ろで待機して撃つように言われました。突撃銃は光線銃なので反動がなく、初めてでも撃ったとたんに後ろにひっくりかえったりすることはありません。
 いよいよ怪獣がドスン・・・・・・、ドスン・・・・・と近づいてきました。


つづく

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2005-02-13 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その3

悪夢救助隊 一日体験入隊 その3


タベルコ「て〜〜〜!!」

 ぴ〜〜〜〜〜、ぴぴぴぴぴ〜〜〜〜〜!

 光線銃が一斉にまばゆいばかりの光を発しました。ポロもミタさんも必至に引き金を引きました。

 がお〜〜〜〜〜〜!

 眩しがった怪獣を怒らせただけで、ダメージを与えることはできなかったみたいでした。
 興奮した怪獣は歩みを早めて北上を始めました。

タベルコ「まずい。これは今まで最強の怪獣だ。全員退却!」

ポロ「さすがせんせいだけのことはあるね。超強力な怪獣を作り上げちゃった」
ミタ「せんせいらしい完璧主義だね」
ポロ「こういうときは困ったもんだ」
ミタ「ああいうヤツに小さな光線銃で攻撃してもダメだ。スペシウム光線かエメリウム光線でもあれば。そうじゃなければ物理攻撃だ」
ポロ「わ、それぜったい効くよ。ポロなんて物理の問題出されたらすぐにギブアップだもん。怪獣も物理は嫌いに決まってるよ」
ミタ「ポロちゃん、そうじゃないよ。物理攻撃っていうのは、質量のある物をぶつけたりする攻撃のことだよ」
ポロ「そうか・・・・。あ、そだ。さっき上空から最強線の操車場が見えたよ。電車ぶつけよう」
ミタ「運転できるかなあ」
ポロ「でんしゃなんてオートマチックじゃないか。電車ゲームも得意だし」
ミタ「よし、行ってみよう」

 ポロたちは1キロも離れた操車場まで走りました。夢の中なのでなんだか不思議な浮遊感がありました。
 操車場には電車ではなくて蒸気機関車が停まっていました。

ポロ「ミタさん、これってC7000型だよ。それも14号機だ。弾丸列車じゃないか」
ミタ「本当だ。これなら運転できるね。でも、どうして知ってるんだろう」
ポロ「そんなこといいよ。早くボイラーに火を入れて圧力を上げよう」
ミタ「よし、やろう」

 ポロたちは大急ぎでC7014を目覚めさせました。水も石炭も間に合いそうです。圧力ゲージの針はぐんぐん上昇し、発車できるほどになりました。さすが夢空間。

ミタ「ポロちゃん、あいつ(怪獣)がこの線路を横切るときにちょうどぶつけるからね。その直前に後ろ向きに思いっきり飛び降りるんだ」
ポロ「チキンレースだね」
ミタ「行くよ」

 ぐおん・・・・しゅるしゅる・・・じゃっ!

 動き始めた3軸の動輪が砂を噛みました。

ポロ「ねえ、ミタさん。どうしてポロたち汽車なんてうごかせるんだろうね」
ミタ「なんだか、身体が覚えてるんだよ」
ポロ「でも、覚えてる線路はここじゃないよ。左側に海が見えてさ」
ミタ「そうだね。ほら、スピードが上がってきた。前方に怪獣も見えてきた。ちょうどイイ感じだ。タベルコ曹長にこちらの状況を伝えてよ」
ポロ「うん」

 ポロはインターコムのスイッチを入れてタベルコ曹長に現在の状況を伝えました。

タベルコ「どこに行ったのかと心配していたんだぞ。インターコムのスイッチは切ってはいかん!」
ポロ  「ご、ゴメなさい。それより、もうすぐ怪獣にこの汽車をぶつけます。怪獣がひるんだところを攻撃してください」
タベルコ「上空からの支援も頼んでおくよ」

 本当に怪獣の姿が近づいてきました。

ミタ 「ポロちゃん、最後の石炭を放り込んだら飛び降りる準備だ」
ポロ 「弾丸列車、もったいないね」
ミタ 「夢世界の蒸気機関車だから、また蘇るに違いないよ」
ポロ 「そだね」

 ちょうどいいタイミングで怪獣が線路にさしかかりました。

ミタ「さあ行くよ、ポロちゃん、3・・・・2・・・・・1・・・・ジャンプ!」
ポロ「ごめんね14号!」


つづく

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2005-02-12 ポロの日記 2005年2月13日(風曜日)悪夢救助隊 一日体験入隊 その4

悪夢救助隊 一日体験入隊 その4


 ポロたちは、線路の砂利の上に飛び降りて、ごろごろごろごろと転がり続けました。間もなく怪獣と汽車がぶつかってボイラが爆発する音が鳴り響きました。

 ぼわ〜〜〜〜ん、ごわ〜〜〜〜ん、どっか〜〜〜〜んんんんん!

 やっと起き上がったポロたちが怪獣をいたところを振り返ると、そこには怪獣も弾丸列車C7014も何もありませんでした。ただ、月の明かりがローカル線の線路と砂利を照らしていました。

 ポロたちが第19神田丸に戻ると、みんなから拍手で迎えられました。

タベルコ「ミタさん、ポロさん、これを機に本入隊しませんか」
ポロ  「うん、アリガト。でもね、ポロたち、いま、物語救助隊の仕事も手伝ってるの」
アルコン「なるほど、そうですか。どおりでただ者ではないと思いました。どちらも人々の心に傷を残さないために重要な仕事です。おたがい頑張りましょう」
ミタ  「皆さんもお元気で。皆さんがいると思うと、安心して眠れます」
タベルコ「そう言っていただくのが、我々は一番嬉しい」
アルコン「機関室、エンジン始動」


 ぽんぽんぽんぽんぽん・・・・!


 第19神田丸は悪夢にうなされていた少年の家の上空を旋回して、モニタでやすらかな寝顔を確認しました。

アルコン「よし、これであの少年にトラウマが残ることもないだろう」

 神田丸は、とむりん少年を起こさないようにそっと夢空間からスリップアウトしました。


 悪夢救助隊裏神田本部の建物から出るとき、ポロたちは受付のお姉さんから粗品をもらいました。明るいところでも眠れるアイマスクでした。

ミタ「出張の時、電車の中で使うよ」
ポロ「ポロも昼寝の時に使おっと。体験入隊、面白かったね」
ミタ「うん。でもさ、いったいわれわれは何者なんだろうね。ときどき分からなくなるよ」
ポロ「ポロたちはポロたちだよ」
ミタ「ポロちゃんに出会ってから、なんだか昔の自分じゃないような気がして」
ポロ「みんな、そう言うよ。あのさ、あじさい亭で“パップラ丼”食べようよ」
ミタ「うん、そうしよう」

 それから、ポロたちは路地を2回曲がってあじさい亭に行きました。


おしまい


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

ポロの掲示板はここ。
ポロのひみつの部屋

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ああ、「良い事」と書いたつもりが「陽子と」になってる〜!そうか〜。バレンタインデーも近いしな〜。(^^; / ミタ・ソウヤ ( 2005-02-07 21:44 )
陽子とをした後のパップラ丼は最高ですね♪ / みた・そうや ( 2005-02-07 21:14 )

2005-02-11 ポロの日記 2005年2月11日(電曜日)セドナへの航海 その1

セドナへの航海 その1


ノストロモ号 10:25(裏神田標準時)

 是輔(これすけ)さんが操縦する三河屋デリバリーサービスの配達宇宙船ノストロモ号は、あじさい亭の“パップラ丼軽め”の出前のために惑星セドナに向かっていました。
 セドナは猫の星ドーラよりもいびつな軌道を回る比較的大きな星です。裏神田世界では古くから知られている星でしたが、地球のオモテ世界が知ったのは、わずか2年前のことでした。勝手に名前がついては分かりにくいので、一部の裏神田関係の天文学者が正式な命名の手順を踏まずに宇宙のどこでも通じるセドナという名を提案して、そのまま命名されたという経緯があります。今は太陽の近くにいますが(といっても地球-太陽間の90倍くらい遠く)、遠く離れる(地球-太陽間の1000倍くらい)と太陽風の届かない恒星空間に出てしまうほどでした。太陽の近くといっても冥王星よりも遠いので、寒いことに変わりありません。
 パップラ丼を注文したのは、裏しびれ大学教授のホリテッカン先生でした。先生は今、セドナ王宮からの招きでセドナに滞在中でしたが、裏しびれ大学の近くにある“あじさい亭”のパップラ丼が大好物なのです。
 ノストロモ号は単調な航海を続けていました。遠く銀河系のさいはて、たとえば銀河鉄道のプリオシン海岸駅に行くのだったらワープ8航法で超高速に飛ぶことができました。また木星くらいまでなら通常航法でもあまり時間はかかりません。しかし、セドナくらいの距離にワープ8航法を使ったら、止まれずに通りすぎてしまうし、通常航法では時間がかかるという中途半端な距離でした。
 是輔さんは、木星のアマルテア放送局にラジオの周波数を合わせました。

・・・こちらは木星アマルテア放送局です。宇宙のトラック野郎のみなさん、朗読の時間がやってまいりました。今日は「どっぷらひょん」の最終回。雪女とゼーンジャラの恋の行方はどうなるのでしょうか。朗読は合間妹子(あいま・いもこ)アナウンサーです。

 朗読が始まりました。

※以下、未読の方は2003年3月17日 猫の星の歴史教科書第8回「どっぷらひょん」全3回をお読みください。

***

ゼーンジャラ「雪女どの、帰ってしまうだか。またここへは来なさるか」
雪女    「ええ、冬になったらきっと」
ゼーンジャラ「きっと来てくだされ。きっとですじゃ」
雪女    「ええ、きっと来ますとも」

 そう言うと、雪女は風に乗って空に舞い上がり、あっと言う間に冬の闇にまぎれてしまった。

 ずっと空を眺めていたゼーンジャラは、やっと我に返って大きな溜息をひとつついた。
 まわりを見渡すと、カトスの住民たちがどっぷらひょんと石臼小僧をお医者様のところへ連れていったらしく、もう誰もいなかった。ゼーンジャラは、ほんの少しの間に自分が変わってしまったことに気づかなかった。

***

 是輔さんは退屈だったこともあって、たちまち物語に聞き入ってしまいました。

****

 次の冬も、そのまた次の冬も雪女はやって来なかった。10回目の冬になっても来なかった。カトスの町のまわりにはだんだんと人間たちの町が出来始め、人間たちに取り付く物の怪も増えていった。とうとう100年目の冬がやってきた。カトスを見限るお化けも増えて、町はすっかり寂れていた。

****

 是輔さんは、待ち続けるゼーンジャラに、ついつい昔の自分を重ねてしまい、哀れでしかたがありませんでした。早く雪女との再会シーンにならないものかと、ジリジリしながらスピーカーから流れる物語に耳を澄ませました。


つづく

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2005-02-10 ポロの日記 2005年2月11日(電曜日)セドナへの航海 その2

セドナへの航海 その2


*****

 雪女はカトスを見つけるために少し低く飛ぶことにした。北風は消え入りそうに弱く、雲一つない本当に静かな夜だった。目を凝らすと、ぼんやりした明かりに囲まれた林が見えた。

 ・・あ、あそこに違いない。

 雪女がそう思った瞬間、身体が熱くなった。しまったと思った時は既に遅く、それきり何も分からなくなった。雪女は人間の町が上空に作り出したヒートアイランドに飛び込んで白い煙の尾を引いて夜空に消えてしまったのだった。

 その晩もゼーンジャラは関所の番所で空を見上げていた。もう100年も変わらず夜空を眺めていた。ところが今夜は真上に白く尾を引く美しい流れ星が現われた。

 ・・雪女どのが今夜こそ、やってきますように。

ゼーンジャラは流れ星に祈った。しかし、その晩も雪女は、やってこなかった。

 おしまい

*****

 もうダメでした。是輔さんは悲しみのためにどうにかなってしまいそうでした。嗚咽は止まらず、後から後から涙が出てきて握る操縦桿は震え、ノストロモ号が木星への落下軌道に入り込んでしまったことにも気がつきませんでした。


アルマ王国 物語救助隊本部 10:35

・・・オープンチャンネル・アルマ。こちら標位星ガニメデ12。物語救難要請です。
・・・こちらアルマ物語救助隊本部。ガニメデ12、詳細を教えてください。
・・・物語トラウマ信号を捉えました。位置を特定したところ、それは移動中の宇宙船ノストロモ号でした。現在、ノストロモ号は操縦不能状態にあり、このままでは、あと1時間ほどで木星に落下するものと思われます。詳しい位置データを送信します。
・・・了解、直ちに物語救助隊を発進させます。

 宇宙では、たとえ地球木星間程度でも電波では遅すぎるので、タイムラグのないアンシブル通信が使われます。女性科学者のグイン博士の発明ですが、彼女は未だノーベル賞をもらっていません。それで、裏神田世界がノーヘル賞を授与しています。


物語救助艦ローレライのブリッジ 10:45

ラオコーン艦長 「副長、全員持ち場についたか?」
フォスター副長 「はい。いつでも、発進できます」
ラオコーン艦長 「機関長、エンジン始動」
ウェーバー機関長「アイサー! さあ、初仕事だ。みんな頑張れ!」

 ぽんぽんぽんぽん、ぽぽん、ぽんぽん・・・

 物語救助艦ローレライは、その艦影がにじんでいったかと思うと、薄くなって消えていきました。

フォスター副長「物語空間に突入しました。目標物語時間は、およそ40年前、到達予定時刻は11時20分、物語時刻では真夜中と思われます」
ラオコーン艦長「よし、強襲隊員を作戦室に集めてくれ。操艦を頼む」
フォスター副長 「アイサー!」


ローレライ 作戦室 10:50

ラオコーン艦長「状況を説明する」
 
 集合した救助隊員を前に、ラオコーン艦長は物語の概略とノストロモ号の置かれた状況を手短に説明しました。
 物語救助隊は実際にノストロモ号のところまで行くのではなく、是輔さんの意識の中に入り込むだけなので、ノストロモ号を直接墜落の危機から救うことができません。是輔さんを正気に戻して、是輔さん自身がノストロモ号の軌道を立て直さなければならないのです。

 -問題は是輔というパイロットが、ゼーンジャラと自分を重ね合わせてしまったところにあります。彼には、つらい失恋経験があるようです。

 お話心理学担当のユング・フラウ隊員が、そう説明しました。


つづく

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2005-02-09 ポロの日記 2005年2月11日(電曜日)セドナへの航海 その3

セドナへの航海 その3

 ・・しかし、まず雪女を助けることが先決だ。001(ゼロゼロ・ワン)によるテレポートという方法はどうでしょう。実際のテレポートは転送システムで行ない、本艦の冷蔵庫で保護、その後すぐに艦外に出してカトスへ行かせます。

 原作改訂担当のゴースト雷太隊員が言いました。

・・001とはなんだ?
・・別の物語に登場するサイボーグ超能力者です。

ラオコーン艦長「よし、雪女がヒートアイランドに突入する3分前に物語世界に実体化するようフォスター副長に伝えてくれ。アイス、君はすぐに原作を書き換えてアマルテア放送局のアンシブル波に乗せるんだ」
アイス「はい」


埼玉県蕨(わらび)市 11:20 (物語時刻午前2時10分)

 ぽんぽん、ぽぽん、ぽんぽぽん・・・

 救助艦ローレライは、物語世界における昭和30年代の終わりごろの静かな夜。埼玉県南部、武蔵野の雑木林に実体化しました。
 すぐ近くの街並みの一角には、怪獣に踏みつぶされる夢に怯える小さなとむりん少年がいましたが、隊員たちには知る由もありませんでした。

フォスター副長「200m先にカトスの街を確認。番所とゼーンジャラの位置座標をロックしました」
ラオコーン艦長「よし、ごくろう。雪女はまだか?」
レーダー手「雪女を捉えました。現在別所沼上空です。ヒートアイランドも確認。突入まで2分30秒。転送は2分20秒後がいいでしょう」
ラオコーン艦長「転送室聞えたか?」
転送室「アイサー! いつでもokです」

 ほどなく、艦内のスピーカーから書き直された朗読が聞えてきました。

******

 雪女はカトスを見つけるために少し低く飛ぶことにした。北風は消え入りそうに弱く、雲一つない本当に静かな夜だった。目を凝らすと、ぼんやりした明かりに囲まれた林が見えた。
 ・・あ、あそこに違いない。

******

転送室長「転送!」
転送手 「転送に成功、雪女は冷蔵庫にいます」
ラオコーン艦長「よし、料理長、冷蔵庫をあけて後部脱出ハッチまでご案内しろ。通路の温度はマイナス3度まで下げてある」
料理長「アイサー!」

 料理長が冷蔵庫のドアを開くと、そこには背筋が凍るほど美しい、人間タイプのお化けがいました。料理長はアルマジロなのに動揺しました。

料理長「手荒な歓迎をお許しください。説明している暇はありません。カトスへはこちらからどうぞ」
雪女 「分かっています。あなたに救われたのですね。あなたのお名前は?」
料理長「ゼロゼロ・ワンと言います」

 料理長は書き直された台本どおりに答えました。

雪女 「ありがとう、ゼロゼロ・ワン」

雪女は、後部脱出ハッチからフワリと出ていきました。

*******

 ゼーンジャラは、その夜も空を見上げていました。星はたくさん瞬いているのに、流れ星ひとつ現れぬ夜でした。

 -ああ、今夜も雪女どのは来てはくださらぬのだろうか・・・・

 しかし、今夜は何か気配を感じました。

 -ゼーンジャラさま・・・

 -あ・・・・、その声は・・・雪女どの・・・・。

 -ええ・・。覚えていてくださいまして?

*******

ノストロモ号コクピット 11:27

 ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!


つづく

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2005-02-08 ポロの日記 2005年2月11日(電曜日)セドナへの航海 その4

セドナへの航海 その4


<接近警報! 接近警報! 本船は木星への落下軌道を進んでいます。 メタンの雲への接触まであと3分10秒です。 直ちに軌道を修正してください。 軌道が修正できない場合は、本船より脱出してください。 接近警報! 接近警報! 本船は木星への落下軌道を進んでいます。 メタンの雲への接触まであと3分ちょうどです。 直ちに軌道を修正してください。 軌道が修正できない場合は、本船より脱出してください>

 是輔さんは、ハッと我にかえりました。目の前のモニターには大赤斑がいっぱいに広がっています。いそいで操縦桿を力のかぎり引き上げ、進路反転のために、宇宙空間では使うことがない着陸用スラスターを全開、軌道修正用の小さなスラスターとバーニアまで、ひとつ残らず噴射しました。

 ごわ〜〜〜〜!

 猛烈な逆Gが是輔さんを襲いました。

 ・・んん、んんんんん〜!

 是輔さんは息ができなくなり、うめき声をあげました。

<接近警報! 接近警報! 高度低下! 高度低下! これより低下すると木星カミナリの直撃を受ける恐れがあります。 雷雲への接触まであと4分です。雷雲への接触まであと4分10秒です。・・・4分20秒です。・・・6分です>

 ようやくノストロモ号の落下速度は遅くなって、ついに反転、上昇を始めました。

 ノストロモ号の主機関であるペガサス・エンジンのリアクターが高温警報を発していましたが、是輔さんはそのまま全力で木星からの離脱を続けました。

 ・・・ふう、あぶないところだった。

 やがてノストロモ号は、放送局のある第5衛星のアマルテアよりも、さらに内側の小さな第15衛星アドラステアのいびつな姿を横に見ながら少しずつ高度を上げ、ついに木星圏から離れました。
 航法コンピュータがセドナまでの大圏軌道を再計算し、ノストロモ号は再び目的地への航海を始めました。


救助艦ローレライ ブリッジ 11:35

 ラオコーン艦長「よし、救難指令発令から1時間。ノストロモ号の無事を確認。ミッションは成功のうちに無事終了した。諸君、ご苦労だった」
クルーたち   「オー!」

 艦内のいたるところで拍手が沸きおこりました。

ラオコーン艦長「副長、帰投だ」
フォスター副長「機関室、エンジン始動」
機関長    「アイサー!」

 ぽんぽんぽん、ぽんぽぽん、ぽんぽんぽぽん・・・・

 静かな冬の夜更けの雑木林にマチルダエンジンの軽快な音が響き渡りました。それを聞いていたのは、怖い夢で目覚めた小さなとむりん少年だけでした。
 救助艦ローレライは雑木林の上空100メートルまで上昇したところで、闇の中ににじんで消えていきました。



おしまい


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

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ミタさん、いつもアリガト〜。物語が書き換えられたのは是輔さんの中だけだったんだけど、読んだ人の物語も書き換えられたことになるのかな? / ポロ ( 2005-02-04 20:36 )
おお・・・ゼーンジャラと雪女さんには暫しの逢瀬を楽しんで欲しいものです・・・ところで怪獣に怯えるとむりんせんせい(子供)も良い味を出しています。 / みた・そうや ( 2005-02-04 18:51 )

2005-02-07 ポロの日記 2005年2月6日(風曜日)ホリテッカン博士 その1

ホリテッカン博士 その1


 ポロは、ちょっとは音楽の勉強をしようと思ってCDを選んでいました。タイトルを見ても、ちっとも分からないのばかりでしたが、ちょっと前にマンガで読んだラフマニノフのピアノ協奏曲第2番というのがあったので、それを選びました。

 これが“のだめ”が弾いた曲か〜♪(ポロ注:音楽マンガ「のだめカンタービレ」の主人公、野田恵の愛称)

 ポロはワクワクしながらリビングのミニコンポにCDをセットしました。
 静かにピアノが鳴り始めました。そのうちオーケストラが入ってきました。低い弦です。3分ガマンしたところで、ポロは冷蔵庫からイモようかんを出してきて、お茶をいれました。

 んんん、んまーい!

 この自然な甘味は弦が奏でる第1主題だな。このイモの風味はホルンの第2主題だ〜!そして、この余韻はテュッティのコーダだ〜♪ 

「ポロちゃん、あたしにもお茶入れてよ」
「わ! びくりした〜!」

 いつの間にかテーブルの向かいの椅子に女神さまが座っていました。
 ポロは、すぐにお茶を入れました。

「ポロちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど」
「なあに?」
「ホリテッカン先生って知ってる?」
「あ、知ってるよ。上総掘り研究の第一人者でしょ」
「さすがポロちゃんね」
「で、その先生がどうかしたの?」
「1年間だけでいいんだけど、先生にセドナ大学で教えて欲しいの。ポロちゃん、知ってるかもしれないけど、ホリテッカン先生は教室ではほとんど授業しない人よ。だから、セドナ大学で教えるって言っても先生流でいいの。とにかく、あの先生が1年間セドナに滞在するだけで、セドナは救われるはずよ」
「で、どうしてそんな話をポロにするの?」
「先生は空前絶後の頑固者なの」
「あはは。知ってるよ」
「それでね、人の依頼や忠告なんて聞かないの」
「うちのせんせいみたいだ〜」
「でもね、ひとつだけ弱みがあるの」
「なあに?」
「ホリテッカンせんせいはね、ゴーヒャ・キージェを心の底から尊敬してるのよ。1日5回、ゴーヒャ・キージェの肖像に向かって手を合わせているっていう話だわ」
「ポロも尊敬してるよ!」
「それでね、これはドーラ宮廷も知らないことなんだけど、ゴーヒャ・キージェのご先祖とドーラ王のご先祖は一緒なの」
「え〜〜〜〜〜〜! じゃあ、ポロってゴーヒャ・キージェの子孫なの?」
「そうなのよ。だからポロちゃんが頼めば言うこと聞いてくれるかも知れないわ」
「でもさ、セドナって寒い星だよ」
「ホリテッカン先生には、そういうことは関係ないの。自分自身が行く価値があるかどうかだけが問題なの」
「ポロ、どうすればいいの?」
「今、先生はアフリカにいるわ。そこまではあたしが連れていくから、あとはポロちゃんが頑張るのよ」
「できるかなあ」
「大丈夫よ、デーモン族の総務部人事課で人事異動の辞令の書き換えだってやれたんだから」※2004年7月「女神さまの逆襲」
「うん、じゃ準備するからちょっと待ってね」

 ポロは、せんせいと奥さんに置き手紙を書きました。

“さがさないでください ポロ”


つづく

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2005-02-06 ポロの日記 2005年2月6日(風曜日)ホリテッカン博士 その2

ホリテッカン博士 その2


 女神さまは、ポロを抱き上げるとタキオン化しました。
 ポロたちは無限の速さになって、宇宙にあまねく存在する状態になりました。自分の身体と精神が宇宙とぴったり重なって、宇宙全体と同時に小さな素粒子もひとつひとつ全部も感じることができました。そこにはバッハの音楽が鳴り響いているように思えます。でも、ホントは宇宙の秩序をバッハが感じとって楽譜に写し取ったのかもしれません。まもなく、女神さまとポロは銀河系の一点、それも太陽系の地球のアフリカの中央部に近い乾燥地帯に収束を始めました。

 アフリカの乾いた谷で、たくさんの男達が上総掘りで井戸を掘っていました。
 腰手ぬぐいの、小さな初老の日本人がホリテッカン先生に間違いありません。

「じゃあ、頼んだわよ。あたし、店の仕込みが残ってるから」

 そういうと、女神さまは“あじさい亭”に戻っていきました。女神さまは、きっと“あじさい亭”が生きがいなのだとポロは思いました。ずいぶん俗っぽい女神さまもいたものです。ポロは、暗くなってホリテッカン先生が宿舎に戻るのを岩の陰で待ちました。

 夕方、ホリテッカン先生が戻っていったのは小さなドームテントでした。
 ポロは、さっそく訪ねて行きました。

「ホリテッカン先生」
「お、誰じゃ」
「ここです。ポロっていいます」
「おう、猫のポロくんというのか。こんなところで、ワシに何の用じゃ?」
「お願いがあってきました」
「なんじゃ」
「あの。セドナ大学で1年間、教えていただけたらとお願いに来ました」
「アフリカの乾燥地帯のテントにいきなり猫が訪ねてきて、あの遠い惑星セドナに行って欲しいと言われても、どう信じろというのだ。からかわれているとしか思えん」
「えっと、ポロはゴーヒャ・キージェの子孫です」
「そうか。ワシはナポレオンの子孫と織田信長の子孫と名乗る連中には100人以上も会っているぞ。それもどうやって信じろというのだ」
「だって、そうなんだもん! ホントだもん!」
「ワシは人の言葉など信じない。たとえ本当にゴーヒャ・キージェ殿の子孫であったとして、それがなんだというんだ。ゴーヒャ・キージェと同じだけすぐれているのか?」

 ポロはホリテッカン先生が本当に一筋縄ではいかない人物だということが、やっと分かりました。ようするに、うちのせんせいと同じです。作戦変更です。ポロは井戸掘りのお手伝いを名乗りでることにしました。

「じゃあ、ポロにも上総掘りを手伝わせてください」
「ならん」
「え〜〜〜! ダメなの」
「ワシは、ここの人たちに上総掘りを伝えたいと思っておる。ワシが残りの人生を全部井戸掘りにかけても、掘れる数はたかが知れておるというものじゃ。だが、その技術を伝承できる者が育てば話は別じゃ。だから、手伝うなどとはもってのほか。全部この土地の人々がやることに意義がある」
「そっか〜。猫の手なんて借りてられないんだね〜」
「子育てもそうじゃ。子どもにできることを親が手伝って肩代わりすることは、子どもの成長にブレーキをかけるようなものじゃ」


つづく

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