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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-02-09 ポロの日記 2005年2月11日(電曜日)セドナへの航海 その3
2005-02-08 ポロの日記 2005年2月11日(電曜日)セドナへの航海 その4
2005-02-07 ポロの日記 2005年2月6日(風曜日)ホリテッカン博士 その1
2005-02-06 ポロの日記 2005年2月6日(風曜日)ホリテッカン博士 その2
2005-02-05 ポロの日記 2005年2月6日(風曜日)ホリテッカン博士 その3
2005-02-04 ポロの日記 2005年2月6日(風曜日)ホリテッカン博士 その4
2005-02-03 ポロの日記 2005年2月3日(草曜日)物語救助隊発進! その1
2005-02-03 ポロの日記 2005年2月3日(草曜日)物語救助隊発進! その2
2005-02-02 ポロの日記 2005年2月3日(草曜日)物語救助隊発進! その3
2005-02-01 ポロの日記 2005年1月31日(光曜日)ポロのティータイム 裏神田の世界 その1


2005-02-09 ポロの日記 2005年2月11日(電曜日)セドナへの航海 その3

セドナへの航海 その3

 ・・しかし、まず雪女を助けることが先決だ。001(ゼロゼロ・ワン)によるテレポートという方法はどうでしょう。実際のテレポートは転送システムで行ない、本艦の冷蔵庫で保護、その後すぐに艦外に出してカトスへ行かせます。

 原作改訂担当のゴースト雷太隊員が言いました。

・・001とはなんだ?
・・別の物語に登場するサイボーグ超能力者です。

ラオコーン艦長「よし、雪女がヒートアイランドに突入する3分前に物語世界に実体化するようフォスター副長に伝えてくれ。アイス、君はすぐに原作を書き換えてアマルテア放送局のアンシブル波に乗せるんだ」
アイス「はい」


埼玉県蕨(わらび)市 11:20 (物語時刻午前2時10分)

 ぽんぽん、ぽぽん、ぽんぽぽん・・・

 救助艦ローレライは、物語世界における昭和30年代の終わりごろの静かな夜。埼玉県南部、武蔵野の雑木林に実体化しました。
 すぐ近くの街並みの一角には、怪獣に踏みつぶされる夢に怯える小さなとむりん少年がいましたが、隊員たちには知る由もありませんでした。

フォスター副長「200m先にカトスの街を確認。番所とゼーンジャラの位置座標をロックしました」
ラオコーン艦長「よし、ごくろう。雪女はまだか?」
レーダー手「雪女を捉えました。現在別所沼上空です。ヒートアイランドも確認。突入まで2分30秒。転送は2分20秒後がいいでしょう」
ラオコーン艦長「転送室聞えたか?」
転送室「アイサー! いつでもokです」

 ほどなく、艦内のスピーカーから書き直された朗読が聞えてきました。

******

 雪女はカトスを見つけるために少し低く飛ぶことにした。北風は消え入りそうに弱く、雲一つない本当に静かな夜だった。目を凝らすと、ぼんやりした明かりに囲まれた林が見えた。
 ・・あ、あそこに違いない。

******

転送室長「転送!」
転送手 「転送に成功、雪女は冷蔵庫にいます」
ラオコーン艦長「よし、料理長、冷蔵庫をあけて後部脱出ハッチまでご案内しろ。通路の温度はマイナス3度まで下げてある」
料理長「アイサー!」

 料理長が冷蔵庫のドアを開くと、そこには背筋が凍るほど美しい、人間タイプのお化けがいました。料理長はアルマジロなのに動揺しました。

料理長「手荒な歓迎をお許しください。説明している暇はありません。カトスへはこちらからどうぞ」
雪女 「分かっています。あなたに救われたのですね。あなたのお名前は?」
料理長「ゼロゼロ・ワンと言います」

 料理長は書き直された台本どおりに答えました。

雪女 「ありがとう、ゼロゼロ・ワン」

雪女は、後部脱出ハッチからフワリと出ていきました。

*******

 ゼーンジャラは、その夜も空を見上げていました。星はたくさん瞬いているのに、流れ星ひとつ現れぬ夜でした。

 -ああ、今夜も雪女どのは来てはくださらぬのだろうか・・・・

 しかし、今夜は何か気配を感じました。

 -ゼーンジャラさま・・・

 -あ・・・・、その声は・・・雪女どの・・・・。

 -ええ・・。覚えていてくださいまして?

*******

ノストロモ号コクピット 11:27

 ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!ぴゅーわ!


つづく

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2005-02-08 ポロの日記 2005年2月11日(電曜日)セドナへの航海 その4

セドナへの航海 その4


<接近警報! 接近警報! 本船は木星への落下軌道を進んでいます。 メタンの雲への接触まであと3分10秒です。 直ちに軌道を修正してください。 軌道が修正できない場合は、本船より脱出してください。 接近警報! 接近警報! 本船は木星への落下軌道を進んでいます。 メタンの雲への接触まであと3分ちょうどです。 直ちに軌道を修正してください。 軌道が修正できない場合は、本船より脱出してください>

 是輔さんは、ハッと我にかえりました。目の前のモニターには大赤斑がいっぱいに広がっています。いそいで操縦桿を力のかぎり引き上げ、進路反転のために、宇宙空間では使うことがない着陸用スラスターを全開、軌道修正用の小さなスラスターとバーニアまで、ひとつ残らず噴射しました。

 ごわ〜〜〜〜!

 猛烈な逆Gが是輔さんを襲いました。

 ・・んん、んんんんん〜!

 是輔さんは息ができなくなり、うめき声をあげました。

<接近警報! 接近警報! 高度低下! 高度低下! これより低下すると木星カミナリの直撃を受ける恐れがあります。 雷雲への接触まであと4分です。雷雲への接触まであと4分10秒です。・・・4分20秒です。・・・6分です>

 ようやくノストロモ号の落下速度は遅くなって、ついに反転、上昇を始めました。

 ノストロモ号の主機関であるペガサス・エンジンのリアクターが高温警報を発していましたが、是輔さんはそのまま全力で木星からの離脱を続けました。

 ・・・ふう、あぶないところだった。

 やがてノストロモ号は、放送局のある第5衛星のアマルテアよりも、さらに内側の小さな第15衛星アドラステアのいびつな姿を横に見ながら少しずつ高度を上げ、ついに木星圏から離れました。
 航法コンピュータがセドナまでの大圏軌道を再計算し、ノストロモ号は再び目的地への航海を始めました。


救助艦ローレライ ブリッジ 11:35

 ラオコーン艦長「よし、救難指令発令から1時間。ノストロモ号の無事を確認。ミッションは成功のうちに無事終了した。諸君、ご苦労だった」
クルーたち   「オー!」

 艦内のいたるところで拍手が沸きおこりました。

ラオコーン艦長「副長、帰投だ」
フォスター副長「機関室、エンジン始動」
機関長    「アイサー!」

 ぽんぽんぽん、ぽんぽぽん、ぽんぽんぽぽん・・・・

 静かな冬の夜更けの雑木林にマチルダエンジンの軽快な音が響き渡りました。それを聞いていたのは、怖い夢で目覚めた小さなとむりん少年だけでした。
 救助艦ローレライは雑木林の上空100メートルまで上昇したところで、闇の中ににじんで消えていきました。



おしまい


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

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ミタさん、いつもアリガト〜。物語が書き換えられたのは是輔さんの中だけだったんだけど、読んだ人の物語も書き換えられたことになるのかな? / ポロ ( 2005-02-04 20:36 )
おお・・・ゼーンジャラと雪女さんには暫しの逢瀬を楽しんで欲しいものです・・・ところで怪獣に怯えるとむりんせんせい(子供)も良い味を出しています。 / みた・そうや ( 2005-02-04 18:51 )

2005-02-07 ポロの日記 2005年2月6日(風曜日)ホリテッカン博士 その1

ホリテッカン博士 その1


 ポロは、ちょっとは音楽の勉強をしようと思ってCDを選んでいました。タイトルを見ても、ちっとも分からないのばかりでしたが、ちょっと前にマンガで読んだラフマニノフのピアノ協奏曲第2番というのがあったので、それを選びました。

 これが“のだめ”が弾いた曲か〜♪(ポロ注:音楽マンガ「のだめカンタービレ」の主人公、野田恵の愛称)

 ポロはワクワクしながらリビングのミニコンポにCDをセットしました。
 静かにピアノが鳴り始めました。そのうちオーケストラが入ってきました。低い弦です。3分ガマンしたところで、ポロは冷蔵庫からイモようかんを出してきて、お茶をいれました。

 んんん、んまーい!

 この自然な甘味は弦が奏でる第1主題だな。このイモの風味はホルンの第2主題だ〜!そして、この余韻はテュッティのコーダだ〜♪ 

「ポロちゃん、あたしにもお茶入れてよ」
「わ! びくりした〜!」

 いつの間にかテーブルの向かいの椅子に女神さまが座っていました。
 ポロは、すぐにお茶を入れました。

「ポロちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど」
「なあに?」
「ホリテッカン先生って知ってる?」
「あ、知ってるよ。上総掘り研究の第一人者でしょ」
「さすがポロちゃんね」
「で、その先生がどうかしたの?」
「1年間だけでいいんだけど、先生にセドナ大学で教えて欲しいの。ポロちゃん、知ってるかもしれないけど、ホリテッカン先生は教室ではほとんど授業しない人よ。だから、セドナ大学で教えるって言っても先生流でいいの。とにかく、あの先生が1年間セドナに滞在するだけで、セドナは救われるはずよ」
「で、どうしてそんな話をポロにするの?」
「先生は空前絶後の頑固者なの」
「あはは。知ってるよ」
「それでね、人の依頼や忠告なんて聞かないの」
「うちのせんせいみたいだ〜」
「でもね、ひとつだけ弱みがあるの」
「なあに?」
「ホリテッカンせんせいはね、ゴーヒャ・キージェを心の底から尊敬してるのよ。1日5回、ゴーヒャ・キージェの肖像に向かって手を合わせているっていう話だわ」
「ポロも尊敬してるよ!」
「それでね、これはドーラ宮廷も知らないことなんだけど、ゴーヒャ・キージェのご先祖とドーラ王のご先祖は一緒なの」
「え〜〜〜〜〜〜! じゃあ、ポロってゴーヒャ・キージェの子孫なの?」
「そうなのよ。だからポロちゃんが頼めば言うこと聞いてくれるかも知れないわ」
「でもさ、セドナって寒い星だよ」
「ホリテッカン先生には、そういうことは関係ないの。自分自身が行く価値があるかどうかだけが問題なの」
「ポロ、どうすればいいの?」
「今、先生はアフリカにいるわ。そこまではあたしが連れていくから、あとはポロちゃんが頑張るのよ」
「できるかなあ」
「大丈夫よ、デーモン族の総務部人事課で人事異動の辞令の書き換えだってやれたんだから」※2004年7月「女神さまの逆襲」
「うん、じゃ準備するからちょっと待ってね」

 ポロは、せんせいと奥さんに置き手紙を書きました。

“さがさないでください ポロ”


つづく

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2005-02-06 ポロの日記 2005年2月6日(風曜日)ホリテッカン博士 その2

ホリテッカン博士 その2


 女神さまは、ポロを抱き上げるとタキオン化しました。
 ポロたちは無限の速さになって、宇宙にあまねく存在する状態になりました。自分の身体と精神が宇宙とぴったり重なって、宇宙全体と同時に小さな素粒子もひとつひとつ全部も感じることができました。そこにはバッハの音楽が鳴り響いているように思えます。でも、ホントは宇宙の秩序をバッハが感じとって楽譜に写し取ったのかもしれません。まもなく、女神さまとポロは銀河系の一点、それも太陽系の地球のアフリカの中央部に近い乾燥地帯に収束を始めました。

 アフリカの乾いた谷で、たくさんの男達が上総掘りで井戸を掘っていました。
 腰手ぬぐいの、小さな初老の日本人がホリテッカン先生に間違いありません。

「じゃあ、頼んだわよ。あたし、店の仕込みが残ってるから」

 そういうと、女神さまは“あじさい亭”に戻っていきました。女神さまは、きっと“あじさい亭”が生きがいなのだとポロは思いました。ずいぶん俗っぽい女神さまもいたものです。ポロは、暗くなってホリテッカン先生が宿舎に戻るのを岩の陰で待ちました。

 夕方、ホリテッカン先生が戻っていったのは小さなドームテントでした。
 ポロは、さっそく訪ねて行きました。

「ホリテッカン先生」
「お、誰じゃ」
「ここです。ポロっていいます」
「おう、猫のポロくんというのか。こんなところで、ワシに何の用じゃ?」
「お願いがあってきました」
「なんじゃ」
「あの。セドナ大学で1年間、教えていただけたらとお願いに来ました」
「アフリカの乾燥地帯のテントにいきなり猫が訪ねてきて、あの遠い惑星セドナに行って欲しいと言われても、どう信じろというのだ。からかわれているとしか思えん」
「えっと、ポロはゴーヒャ・キージェの子孫です」
「そうか。ワシはナポレオンの子孫と織田信長の子孫と名乗る連中には100人以上も会っているぞ。それもどうやって信じろというのだ」
「だって、そうなんだもん! ホントだもん!」
「ワシは人の言葉など信じない。たとえ本当にゴーヒャ・キージェ殿の子孫であったとして、それがなんだというんだ。ゴーヒャ・キージェと同じだけすぐれているのか?」

 ポロはホリテッカン先生が本当に一筋縄ではいかない人物だということが、やっと分かりました。ようするに、うちのせんせいと同じです。作戦変更です。ポロは井戸掘りのお手伝いを名乗りでることにしました。

「じゃあ、ポロにも上総掘りを手伝わせてください」
「ならん」
「え〜〜〜! ダメなの」
「ワシは、ここの人たちに上総掘りを伝えたいと思っておる。ワシが残りの人生を全部井戸掘りにかけても、掘れる数はたかが知れておるというものじゃ。だが、その技術を伝承できる者が育てば話は別じゃ。だから、手伝うなどとはもってのほか。全部この土地の人々がやることに意義がある」
「そっか〜。猫の手なんて借りてられないんだね〜」
「子育てもそうじゃ。子どもにできることを親が手伝って肩代わりすることは、子どもの成長にブレーキをかけるようなものじゃ」


つづく

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2005-02-05 ポロの日記 2005年2月6日(風曜日)ホリテッカン博士 その3

ホリテッカン博士 その3


「わ、せんせいと同じこと言ってる!」
「なんだ、猫の学校の担任の先生がそんなことを言ったのか? すると、おぬしはドーラの出身じゃろか」
「そだよ。ドーラからオリンピア65号に乗ってきたの」
「おお、ゴーヒャ殿が基本設計をした傑作宇宙船じゃな。ワシの目標じゃよ」
「いまポロもね、船を作ってるの。悪夢救助隊の次のプロジェクトのね、物語救助隊の船だよ。今度はアルマジロが中心になってる」
「そうか。バクの悪夢救助船はちゃんと完成したのか?」
「うん、マチルダ・エンジンていうのができてね、勇敢なバクの救助隊員たちが活躍してるよ。ポロのところにも来たんだ。第37神田丸っていうのが」
「マチルダ・エンジンとはどういうものじゃ」
「えっと、ホリテッカン先生、マチルダさんの名前覚えてる?」
「う〜ん。ワシの裏しびれ大の最後の講義名簿にあったような気がするな」
「そだよ、その人だよ。先生の講義を聞いて、いろんなことを悟っちゃったんだと思うな。植物触媒を開発して、時代遅れと思われていたグローエンジンを信頼の高い無公害エンジンにしちゃったんだ」
「そうか。ダマスクロースは解決策はスターリング・エンジンにあるという信条でやっておったのだが、女子学生にしてやられたか。どちらのエンジンも部品数の少なさから言って信頼性が高い。真理を前に信条を変えたダマスクロースも信頼できる男じゃ」
「マチルダさん、その後、博士号も取得したんだよ」
「ダマスクロース君も鼻が高いじゃろう」
「それがね、今でもマチルダ博士は自分の指導教官をホリテッカン先生って経歴に書いてるよ」
「なんと!」
「ダマスクロース先生がね、マチルダ君の志の根底にはホリテッカン先生がいらっしゃるって言ったらしいよ」
「そうか。ダマスクロースらしい話じゃ」
「ダマスクロース先生って、ホリテッカン先生の教え子?」
「そうじゃ。飲み込みの悪いやつで、成績はいつも振るわなかったが、最終的には最も優秀な教え子に育った。能力だけではなく、その志の高さと誠実さがいい。最終的には人の勝負どころはそこだ」
「ポロのせんせいもそう言ってるよ。いくら能力があっても、それを使い切るのは志の高さだって」
「話のわかるお人じゃ」
「でも、がんこ者だよ」
「ははは。ワシもそう言われとる。だが、それは誤解じゃ。正しいことを覆したら大変なことになる」
「うん、分かるよ。だって、何の燃料も使わないで、それも昔の技術で井戸掘りしてるんだもん。ぜったい正しいっていう信念がなくちゃできないよね」」
「そうか、分かってくれるのか」
「うん。ポロもね、いま救助船の伝声管作ってるの。もちろん電気なんか使わないよ。金魚の水槽にエアを送るチューブにね漏斗をつけたやつ。故障の確率が猛烈に低いシステムだよ」
「そうか。電気信号による通話がガラス細工のように華奢でヒヨワだということを分かっておるのだね」
「そだよ。ゴーヒャ・キージェの教えだよ」


つづく

先頭 表紙

2005-02-04 ポロの日記 2005年2月6日(風曜日)ホリテッカン博士 その4

ホリテッカン博士 その4


「いかにもそのとおりじゃ。おまけに樹脂のチューブであるところもいい。伝達効率は金属管のほうが高いが、衝撃で断裂することもあるからな。だが、もうひと工夫するなら、ビニールパイプよりも低温に強いシリコンチューブを使ったほうがいいかも知れんな」
「うん。本番はそうするよ」
「ポロくんは、裏しびれ大で勉強したのか?」
「ううん。ポロはね、とむりん先生の弟子で助手なの」
「どんなせんせいじゃ? 専門は機械工学かの?」
「ううん、作曲家だよ」
「ほう、そうか。どんな曲を書くお人じゃ」
「うん。あのね、たこたこ上がれとか」
「そ、そうか」
「ねえ、ポロおなか減った」
「なんと、ワシに夕飯までたかるつもりか。わっはっは。よし、セドナ行きは了解した。ワシに残された人生も残り少ない。この井戸が終わったらすぐに行こう」
「わ、ホリテッカン先生、アリガト〜! 後で詳しいことが届くと思うから」
それからポロたちは、ホリテッカン先生がストックしているバク陸軍のレーション(パックになった野戦食)で楽しいディナータイムを過ごしました。

 真夜中。ホリテッカン先生とポロが寝ていると、女神さまがやってきました。

「ポロちゃん。ありがとう」
「んん〜。あ〜、女神さまか〜」
「これ、セドナ行きの資料よ。先生の枕元に置いて。そうしたらポロちゃん、帰るわよ」
「うん、ちょっと待って。先生にお礼の置き手紙書くから」

 “ホリテッカン先生、セドナ行きを快くしょうだくしてくださったばかりか、おいしい夕食をアリガトございました。さがさないでください。
ポロ”

「これでよし。女神さま、お待たせ」

 女神さまはポロを抱き上げると、あっという間にタキオン化しました。
 ポロたちは宇宙全体に広がりました。ちょうどその時、時間をつかさどる火の鳥もタキオン化していたので、ポロたちは宇宙のはじまりから終わりまでを一度に見ていました。それから女神さまは、作曲工房の書庫に実体化しました。

「ポロちゃん、今日はお疲れさま。本当に助かったわ」
「ううん、いいんだよ。ホリテッカン先生に会えたし」
「セドナもきっとよくなるわ。じゃあ、またね」
「あ、あのさ。ひとつ聞きたいんだけど、ポロとゴーヒャ・キージェはさ、どのあたりで血がつながってるの?」
「そうね。アメーバのあたりよ」
「が〜ん! それじゃ、ドーラの猫は全員血縁関係じゃないか〜」
「でも、間違いはないわ」
「わ〜、がっかりだ〜。ポロには、ゴーヒャ・キージェの血が流れてると思ったのに〜」

 まわりを見回しても、もう女神さまは、どこにもいませんでした。


おしまい


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

ポロの掲示板はここ。
ポロのひみつの部屋

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2005-02-03 ポロの日記 2005年2月3日(草曜日)物語救助隊発進! その1

※このお話は「物語救助隊創設記」からのつづきです。


物語救助隊発進! その1


 ポロが作曲工房の段ボールのベッドで寝ていると、ぽんぽぽんぽんという音とともに、見知らぬ強襲艦があらわれました。
その艦首にはペンキの筆文字で第37神田丸と書いてありました。第37神田丸は、サンタさんの幸せの光の粉をまき散らしながら書庫を数回旋回してから床に着陸しました。
 ハッチが開くと、雪原迷彩の制服を着た数匹のバクが降りてきました。
 隊長らしいバクがポロに向かって敬礼すると言いました。

隊長「第7管区悪夢救助本部、ナイトメア第12救助隊の第37神田丸、隊長のカバニリェスです。悪夢を探知しましたので救助に参りました。怪物はどこですか」
ポロ「今、ポロって夢見てるの?」
隊長「そのはずです」
ポロ「そういえば、書庫がやけに広いかも」

 狭いはずの書庫が体育館のように広くて、おまけに目の前には救助船が着陸しています。

隊長「何にお困りですか?」
ポロ「ああ・・・。それはね、かくかくしかじか」
隊長「う〜ん。それは、我々救助隊のもっとも苦手な敵であります。原因を作ったのがあなたの出まかせでありますから、ごめんなさいをしてしまうのが一番であります。救助隊としては、特効薬としてそれをお薦めいたします」
ポロ「やっぱりそうかな〜。でも、悪夢救助隊がいるんだから物語救助隊だってあってもいいよね〜」
隊長「悪夢そのものは現実ではありませんが、夢を見ているのは現実であります。それに対して物語世界は果たして本当にあるものかどうか解りかねます。ないところには行くことができません」
ポロ「そ、そ〜だよね〜。夢って中身は想像だけど、夢を見てるっていうことだけは間違いなく現実だもんね〜。あ〜、ポロはもうダメだ〜」
隊長「では、我々は役に立てそうもありませんので帰らさせていただきます」
ポロ「あ、待って!」
隊長「何でありますか?」
ポロ「さっき、光の粉をまき散らしてたけど、サンタさんと関係あるの?」
隊長「光の粉? それは本当でありますか」
ポロ「うん、きらきら光ってきれいだったよ」
隊長「大変だ。それはマチルダ・エンジンの生成物であるダイヤモンドダストであります」
ポロ「なあに、それ?」
隊長「この船はマチルダ・エンジンを動力としています。そして排出される二酸化炭素は、すべてマチルダ触媒によって酸素と炭素に還元されます。酸素は気体として空気中に放出されますが、炭素はやはり別のマチルダ触媒によって共有結合し、ダイヤモンドの微粉末となります。それは全量が回収されてラップランド星に輸出されます」
ポロ「そっか。やっぱりサンタさんと関係があるんだね」

 隊長は何人かの隊員にダイヤモンドダスト回収装置を点検するように命じました。

隊長「マチルダエンジンやマチルダ触媒でしたら、裏神田のシュレーディンガー商会でも扱っていますのでご相談なさったらと思います」
ポロ「あのさ、最後にひとつだけ聞いてもいい?」
隊長「どうぞ」
ポロ「マチルダ触媒ってどういうの?」
隊長「マチルダ触媒はローズヒップを原料とする植物触媒です。発明者のマチルダ博士はバラを育てる名人だそうであります」
ポロ「へえ、ポロが知ってる人となんだか似てるなあ」
隊長「では、失礼しました。よし、船に戻るぞ」
隊員「アイサー!」

 ぽんぽんぽぽん、ぽんぽぽん!

 第37神田丸は回収装置の修理がうまくいかなかったらしく、キラキラ輝くダイヤモンドダストの尾をひいて基地へ帰投しました。


つづく

先頭 表紙

2005-02-03 ポロの日記 2005年2月3日(草曜日)物語救助隊発進! その2

物語救助隊発進! その2


 朝になりました。悪夢救助隊のおかげで、ポロの寝覚めは悪くないような気がしました。カッコいいなあ、悪夢救助隊。やっぱり物語救助隊も組織しなくっちゃ。
ポロは朝ご飯を食べると、早速シュデンガンガー商会に行くことにしました。寝坊したので、お店についたのはお昼ごろでした。

 トントン

修「おやおや、そのノックの音はポロさまですね」
ポ「修士さん、お休みのとこゴメンね」
修「いえいえ、今日は風曜日ですからね。早めに店を開けてもバチはあたりませんでしょう」
ポ「わあ、修士さんはいいひとだ〜!」
修「ところで、どのようなせっぱ詰まったご用でしょうか?」
ポ「それはね、かくかくしかじか・・・」
修「ほう、それはお困りですね。たしかにマチルダエンジンは、この店でも扱っておりますが、物語世界を実体化させないことには意味が・・・・、あ、そうだ!」
ポ「どうしたの、何かいいアイディアがあるの、修士さん?」
修「はい、いとこの松戸哲学がやっておりますデカルト商会に、思考や想像を実体化するキットがあったような気がいたします」
ポ「あ、たしか日本橋暴露町(ばくろちょう)だったよね」
修「いえ、馬喰町(ばくろちょう)でございます」
ポ「だから暴露町だよね」
修「まあ、話す分にはそれで大丈夫です」
ポ「アリガト! さっそく行ってみるよ」

 ポロはシュデンガンガー商会を飛びだして、一目散に日本橋をめざしました。たしか今川橋をつっきって行けば近道のはず。
 ところが今川橋のあたりには、またいい匂いが・・・。ポロは吸い寄せられるように元祖今川焼きの屋台に向かって突進していました。

ポ「はあはあはあ・・・。が、巌流さん、久しぶり! 今川焼きちょうだい」
巌「おや、ポロさんじゃないか。あんたのお気に入りのせんせいは元気かい? 連れてくるって言って、ちっとも来ないじゃないか」
ポ「こんどは絶対連れてくるよ〜」
巌「はいお待ちどう。100円です」
ポ「はい100円。ぱくっ! あ〜〜〜〜んまいな〜。ポロは幸せだよ〜」
巌「おまえさんは本当にうまそうに食いなさるね」
ポ「本当においしいもん」
巌「じゃあ、もう一個はおまけ」
ポ「わあ、巌流さんアリガト!」

 ポロは2つ目の今川焼きをくわえると、またデカルト商会を目指して走り始めました。
 デカルト商会は、馬喰町の路地裏の雑居ビルの地下にあります。

 トントン

ポ「ごめんくらさ〜い!」
哲「はい、あいております。どうぞ」
ポ「あ、哲学さん、おひさしぶりです」
哲「ああ、ポロさんでしたね。いつかの技術文書養成キットはお役に立ちましたか?」
ポ「うん。もう、哲学さんにはいくら感謝しても感謝しきれないくらいだよ。養成キットはポロの師匠だよ」
哲「そうでございましょう。長期にわたって教えを受けることも大切ですが、本当に人生を見つめ直すようなきっかけを与えてくれる人も重要です」
ポ「そだね。人生を変えた師の一言っていうやつだね」
哲「まさにそのとおり。ところで、今日はどのようなごようですかな」
ポ「あのね、かくかくしかじか、ごにょごにょごにょ」
哲「ほう、それこそ、わがデカルト商会の得意とするところです」
ポ「ホント!?」
哲「ポロさんは夢の中身は別としても、夢を見ているのは現実と言いましたね。実は物語も同様なのです。創作しているときも、読書しているときも、その人の世界には間違いなく存在します」
ポ「そっか〜。なんだ、夢と一緒じゃないか〜!」


つづく

先頭 表紙

2005-02-02 ポロの日記 2005年2月3日(草曜日)物語救助隊発進! その3

物語救助隊発進! その3



哲「もし、物語救助隊というものが悪夢救助隊と同じ性格のものであるとするならば、原作の書き換えではなく、物語を読んでトラウマを受けてしまった人の救済ということになりますね。悲しみがカタルシスとして作用している読者にとって、物語救助隊は大きなお世話ということになってしまいますから、むしろ、そちらの判断が難しいのではないかと思いますが」
ポ「すごい! ポロの話をちょっと聞いただけで、哲学さんはそんなことまで分かっちゃうのか〜」
哲「デカルト養成キットで学びましたから」
ポ「ポロ、今度、それ買って勉強するよ」
哲「ぜひ、お薦めいたします」
ポ「楽しみだなあ」
哲「物語世界を探るのでしたら、フェッセンデン商会にそういう機械があったはずです」
ポ「次元レーダーみたいなヤツかなあ」
哲「はい、本に書かれた世界を、ヴァーチャルなのか現実なのかよく分からないのですが、とにかく構築してしまう機械です。そのおかげで難解な哲学書の研究が進みはじめたといいます」
ポ「じゃあ、行ってくるよ〜」

 ポロは、信号待ちをしているトラックの荷台を乗り継いで、京成線の“お花茶屋駅”にたどりつきました。冬の陽は、もう傾きかけていて、北風がびゅうびゅうポロの顔に当たりました。
 フェッセンデン商会は、相変わらず普通のアパートで営業していました。

ポ「トントン、ハミルトンさん、いますか〜?」
ハ「はい、少々お待ちを」

 ハミルトン松戸さんは、たぶん部屋を片づけているのでしょう。ポロは寒空で5分も待たなければなりませんでした。

ハ「どうぞ、おはいりください」
ポ「は、は、は、ハクション!」

 ポロが事情を説明すると、ハミルトンさんは物語世界を構築する機械“ストーリー・リアザイザー5000型”を見せてくれました。
 コピー機のようなフラットベッドに本を置いてスキャンさせると、画面に動画としてその世界が現れます。ハミルトンさんは本棚から「モビーディック」を取りだすと、機械に読み取らせました。すると画面いっぱいにエイハブ船長の不敵な笑いが広がりました。

ポ「す、すごい!」

 ポロはアルマジロ王国の第二王子である有馬次郎くんに、その機械のことを伝えました。
 そして、すぐにアルマ王は裏しびれ大学のダマスクロース研究室と共同で、物語救助船の開発を始めたのでした。悪夢救助船を原型としているので、開発はスムーズに進みそうでした。ポロは伝声管の開発を手伝うことになりました。
同時に、アルマジロの精鋭たちがバク王国に派遣されて、救助隊員としての訓練も始まりました。
 救助隊の活動開始は間もなくです。
 悲しい物語を読んで、眠れなくなったりご飯が食べられなくなった時には、心の中で“助けて〜!”と叫んでください。きっと、すぐに救助船が助けに来てくれることでしょう。


おしまい


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

ポロの掲示板はここ。
ポロのひみつの部屋

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ミタさん、読んでくれてアリガト! 物語救助隊の活躍を見ててね。 / ポロ ( 2005-02-03 22:37 )
おお、遂に物語救助船が完成したのですね!これからの活躍が楽しみです♪ / みた・そうや ( 2005-02-03 16:14 )

2005-02-01 ポロの日記 2005年1月31日(光曜日)ポロのティータイム 裏神田の世界 その1

ポロのティータイム 裏神田の世界 その1

春日公園


 裏神田は、神田にばかりあるのではありません。裏神田はどこにでもあります。
 写真は関東地方のあるところにある春日公園です。
 ここの地下では、少し前までアルマジロたちが「ホームページ・アクセスカウンタ早回しサービス」事業を展開していました。その後、アルマジロたちは“あじさい亭”で摩擦式ヒーターのフライホイールを回し、今は、アルマ王の特命を受けたプロジェクトチームが「物語救助隊」を創設するために不眠不休の努力をつづけています。熱い連中だなあ、アルマジロって。
 夕方を過ぎると、この公園の桜の枝に座ってお月さまがもの思いにふけっていることもあります。でも決して声をかけたりしちゃダメです。お月さまはすぐにおいかけてくるし、つかまるとおヘソをとられちゃうからです。裏神田はとてもいいところですが、お月さまだけは別です。でも、もしおヘソをとられちゃっても、東武東上線の“東武練馬”っていう駅のちかくにおヘソを売ってるお店があるから安心です。


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