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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-02-04 ポロの日記 2005年2月6日(風曜日)ホリテッカン博士 その4
2005-02-03 ポロの日記 2005年2月3日(草曜日)物語救助隊発進! その1
2005-02-03 ポロの日記 2005年2月3日(草曜日)物語救助隊発進! その2
2005-02-02 ポロの日記 2005年2月3日(草曜日)物語救助隊発進! その3
2005-02-01 ポロの日記 2005年1月31日(光曜日)ポロのティータイム 裏神田の世界 その1
2005-01-31 ポロの日記 2005年1月31日(光曜日)ポロのティータイム 裏神田の世界 その2
2005-01-30 ポロの日記 2005年1月30日(風曜日)マチルダ・エンジン その1
2005-01-29 ポロの日記 2005年1月30日(風曜日)マチルダ・エンジン その2
2005-01-28 ポロの日記 2005年1月30日(風曜日)マチルダ・エンジン その3
2005-01-23 ポロの日記 2005年1月23日(風曜日)物語救助隊創設記 その1


2005-02-04 ポロの日記 2005年2月6日(風曜日)ホリテッカン博士 その4

ホリテッカン博士 その4


「いかにもそのとおりじゃ。おまけに樹脂のチューブであるところもいい。伝達効率は金属管のほうが高いが、衝撃で断裂することもあるからな。だが、もうひと工夫するなら、ビニールパイプよりも低温に強いシリコンチューブを使ったほうがいいかも知れんな」
「うん。本番はそうするよ」
「ポロくんは、裏しびれ大で勉強したのか?」
「ううん。ポロはね、とむりん先生の弟子で助手なの」
「どんなせんせいじゃ? 専門は機械工学かの?」
「ううん、作曲家だよ」
「ほう、そうか。どんな曲を書くお人じゃ」
「うん。あのね、たこたこ上がれとか」
「そ、そうか」
「ねえ、ポロおなか減った」
「なんと、ワシに夕飯までたかるつもりか。わっはっは。よし、セドナ行きは了解した。ワシに残された人生も残り少ない。この井戸が終わったらすぐに行こう」
「わ、ホリテッカン先生、アリガト〜! 後で詳しいことが届くと思うから」
それからポロたちは、ホリテッカン先生がストックしているバク陸軍のレーション(パックになった野戦食)で楽しいディナータイムを過ごしました。

 真夜中。ホリテッカン先生とポロが寝ていると、女神さまがやってきました。

「ポロちゃん。ありがとう」
「んん〜。あ〜、女神さまか〜」
「これ、セドナ行きの資料よ。先生の枕元に置いて。そうしたらポロちゃん、帰るわよ」
「うん、ちょっと待って。先生にお礼の置き手紙書くから」

 “ホリテッカン先生、セドナ行きを快くしょうだくしてくださったばかりか、おいしい夕食をアリガトございました。さがさないでください。
ポロ”

「これでよし。女神さま、お待たせ」

 女神さまはポロを抱き上げると、あっという間にタキオン化しました。
 ポロたちは宇宙全体に広がりました。ちょうどその時、時間をつかさどる火の鳥もタキオン化していたので、ポロたちは宇宙のはじまりから終わりまでを一度に見ていました。それから女神さまは、作曲工房の書庫に実体化しました。

「ポロちゃん、今日はお疲れさま。本当に助かったわ」
「ううん、いいんだよ。ホリテッカン先生に会えたし」
「セドナもきっとよくなるわ。じゃあ、またね」
「あ、あのさ。ひとつ聞きたいんだけど、ポロとゴーヒャ・キージェはさ、どのあたりで血がつながってるの?」
「そうね。アメーバのあたりよ」
「が〜ん! それじゃ、ドーラの猫は全員血縁関係じゃないか〜」
「でも、間違いはないわ」
「わ〜、がっかりだ〜。ポロには、ゴーヒャ・キージェの血が流れてると思ったのに〜」

 まわりを見回しても、もう女神さまは、どこにもいませんでした。


おしまい


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ポロの掲示板はここ。
ポロのひみつの部屋

先頭 表紙

2005-02-03 ポロの日記 2005年2月3日(草曜日)物語救助隊発進! その1

※このお話は「物語救助隊創設記」からのつづきです。


物語救助隊発進! その1


 ポロが作曲工房の段ボールのベッドで寝ていると、ぽんぽぽんぽんという音とともに、見知らぬ強襲艦があらわれました。
その艦首にはペンキの筆文字で第37神田丸と書いてありました。第37神田丸は、サンタさんの幸せの光の粉をまき散らしながら書庫を数回旋回してから床に着陸しました。
 ハッチが開くと、雪原迷彩の制服を着た数匹のバクが降りてきました。
 隊長らしいバクがポロに向かって敬礼すると言いました。

隊長「第7管区悪夢救助本部、ナイトメア第12救助隊の第37神田丸、隊長のカバニリェスです。悪夢を探知しましたので救助に参りました。怪物はどこですか」
ポロ「今、ポロって夢見てるの?」
隊長「そのはずです」
ポロ「そういえば、書庫がやけに広いかも」

 狭いはずの書庫が体育館のように広くて、おまけに目の前には救助船が着陸しています。

隊長「何にお困りですか?」
ポロ「ああ・・・。それはね、かくかくしかじか」
隊長「う〜ん。それは、我々救助隊のもっとも苦手な敵であります。原因を作ったのがあなたの出まかせでありますから、ごめんなさいをしてしまうのが一番であります。救助隊としては、特効薬としてそれをお薦めいたします」
ポロ「やっぱりそうかな〜。でも、悪夢救助隊がいるんだから物語救助隊だってあってもいいよね〜」
隊長「悪夢そのものは現実ではありませんが、夢を見ているのは現実であります。それに対して物語世界は果たして本当にあるものかどうか解りかねます。ないところには行くことができません」
ポロ「そ、そ〜だよね〜。夢って中身は想像だけど、夢を見てるっていうことだけは間違いなく現実だもんね〜。あ〜、ポロはもうダメだ〜」
隊長「では、我々は役に立てそうもありませんので帰らさせていただきます」
ポロ「あ、待って!」
隊長「何でありますか?」
ポロ「さっき、光の粉をまき散らしてたけど、サンタさんと関係あるの?」
隊長「光の粉? それは本当でありますか」
ポロ「うん、きらきら光ってきれいだったよ」
隊長「大変だ。それはマチルダ・エンジンの生成物であるダイヤモンドダストであります」
ポロ「なあに、それ?」
隊長「この船はマチルダ・エンジンを動力としています。そして排出される二酸化炭素は、すべてマチルダ触媒によって酸素と炭素に還元されます。酸素は気体として空気中に放出されますが、炭素はやはり別のマチルダ触媒によって共有結合し、ダイヤモンドの微粉末となります。それは全量が回収されてラップランド星に輸出されます」
ポロ「そっか。やっぱりサンタさんと関係があるんだね」

 隊長は何人かの隊員にダイヤモンドダスト回収装置を点検するように命じました。

隊長「マチルダエンジンやマチルダ触媒でしたら、裏神田のシュレーディンガー商会でも扱っていますのでご相談なさったらと思います」
ポロ「あのさ、最後にひとつだけ聞いてもいい?」
隊長「どうぞ」
ポロ「マチルダ触媒ってどういうの?」
隊長「マチルダ触媒はローズヒップを原料とする植物触媒です。発明者のマチルダ博士はバラを育てる名人だそうであります」
ポロ「へえ、ポロが知ってる人となんだか似てるなあ」
隊長「では、失礼しました。よし、船に戻るぞ」
隊員「アイサー!」

 ぽんぽんぽぽん、ぽんぽぽん!

 第37神田丸は回収装置の修理がうまくいかなかったらしく、キラキラ輝くダイヤモンドダストの尾をひいて基地へ帰投しました。


つづく

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2005-02-03 ポロの日記 2005年2月3日(草曜日)物語救助隊発進! その2

物語救助隊発進! その2


 朝になりました。悪夢救助隊のおかげで、ポロの寝覚めは悪くないような気がしました。カッコいいなあ、悪夢救助隊。やっぱり物語救助隊も組織しなくっちゃ。
ポロは朝ご飯を食べると、早速シュデンガンガー商会に行くことにしました。寝坊したので、お店についたのはお昼ごろでした。

 トントン

修「おやおや、そのノックの音はポロさまですね」
ポ「修士さん、お休みのとこゴメンね」
修「いえいえ、今日は風曜日ですからね。早めに店を開けてもバチはあたりませんでしょう」
ポ「わあ、修士さんはいいひとだ〜!」
修「ところで、どのようなせっぱ詰まったご用でしょうか?」
ポ「それはね、かくかくしかじか・・・」
修「ほう、それはお困りですね。たしかにマチルダエンジンは、この店でも扱っておりますが、物語世界を実体化させないことには意味が・・・・、あ、そうだ!」
ポ「どうしたの、何かいいアイディアがあるの、修士さん?」
修「はい、いとこの松戸哲学がやっておりますデカルト商会に、思考や想像を実体化するキットがあったような気がいたします」
ポ「あ、たしか日本橋暴露町(ばくろちょう)だったよね」
修「いえ、馬喰町(ばくろちょう)でございます」
ポ「だから暴露町だよね」
修「まあ、話す分にはそれで大丈夫です」
ポ「アリガト! さっそく行ってみるよ」

 ポロはシュデンガンガー商会を飛びだして、一目散に日本橋をめざしました。たしか今川橋をつっきって行けば近道のはず。
 ところが今川橋のあたりには、またいい匂いが・・・。ポロは吸い寄せられるように元祖今川焼きの屋台に向かって突進していました。

ポ「はあはあはあ・・・。が、巌流さん、久しぶり! 今川焼きちょうだい」
巌「おや、ポロさんじゃないか。あんたのお気に入りのせんせいは元気かい? 連れてくるって言って、ちっとも来ないじゃないか」
ポ「こんどは絶対連れてくるよ〜」
巌「はいお待ちどう。100円です」
ポ「はい100円。ぱくっ! あ〜〜〜〜んまいな〜。ポロは幸せだよ〜」
巌「おまえさんは本当にうまそうに食いなさるね」
ポ「本当においしいもん」
巌「じゃあ、もう一個はおまけ」
ポ「わあ、巌流さんアリガト!」

 ポロは2つ目の今川焼きをくわえると、またデカルト商会を目指して走り始めました。
 デカルト商会は、馬喰町の路地裏の雑居ビルの地下にあります。

 トントン

ポ「ごめんくらさ〜い!」
哲「はい、あいております。どうぞ」
ポ「あ、哲学さん、おひさしぶりです」
哲「ああ、ポロさんでしたね。いつかの技術文書養成キットはお役に立ちましたか?」
ポ「うん。もう、哲学さんにはいくら感謝しても感謝しきれないくらいだよ。養成キットはポロの師匠だよ」
哲「そうでございましょう。長期にわたって教えを受けることも大切ですが、本当に人生を見つめ直すようなきっかけを与えてくれる人も重要です」
ポ「そだね。人生を変えた師の一言っていうやつだね」
哲「まさにそのとおり。ところで、今日はどのようなごようですかな」
ポ「あのね、かくかくしかじか、ごにょごにょごにょ」
哲「ほう、それこそ、わがデカルト商会の得意とするところです」
ポ「ホント!?」
哲「ポロさんは夢の中身は別としても、夢を見ているのは現実と言いましたね。実は物語も同様なのです。創作しているときも、読書しているときも、その人の世界には間違いなく存在します」
ポ「そっか〜。なんだ、夢と一緒じゃないか〜!」


つづく

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2005-02-02 ポロの日記 2005年2月3日(草曜日)物語救助隊発進! その3

物語救助隊発進! その3



哲「もし、物語救助隊というものが悪夢救助隊と同じ性格のものであるとするならば、原作の書き換えではなく、物語を読んでトラウマを受けてしまった人の救済ということになりますね。悲しみがカタルシスとして作用している読者にとって、物語救助隊は大きなお世話ということになってしまいますから、むしろ、そちらの判断が難しいのではないかと思いますが」
ポ「すごい! ポロの話をちょっと聞いただけで、哲学さんはそんなことまで分かっちゃうのか〜」
哲「デカルト養成キットで学びましたから」
ポ「ポロ、今度、それ買って勉強するよ」
哲「ぜひ、お薦めいたします」
ポ「楽しみだなあ」
哲「物語世界を探るのでしたら、フェッセンデン商会にそういう機械があったはずです」
ポ「次元レーダーみたいなヤツかなあ」
哲「はい、本に書かれた世界を、ヴァーチャルなのか現実なのかよく分からないのですが、とにかく構築してしまう機械です。そのおかげで難解な哲学書の研究が進みはじめたといいます」
ポ「じゃあ、行ってくるよ〜」

 ポロは、信号待ちをしているトラックの荷台を乗り継いで、京成線の“お花茶屋駅”にたどりつきました。冬の陽は、もう傾きかけていて、北風がびゅうびゅうポロの顔に当たりました。
 フェッセンデン商会は、相変わらず普通のアパートで営業していました。

ポ「トントン、ハミルトンさん、いますか〜?」
ハ「はい、少々お待ちを」

 ハミルトン松戸さんは、たぶん部屋を片づけているのでしょう。ポロは寒空で5分も待たなければなりませんでした。

ハ「どうぞ、おはいりください」
ポ「は、は、は、ハクション!」

 ポロが事情を説明すると、ハミルトンさんは物語世界を構築する機械“ストーリー・リアザイザー5000型”を見せてくれました。
 コピー機のようなフラットベッドに本を置いてスキャンさせると、画面に動画としてその世界が現れます。ハミルトンさんは本棚から「モビーディック」を取りだすと、機械に読み取らせました。すると画面いっぱいにエイハブ船長の不敵な笑いが広がりました。

ポ「す、すごい!」

 ポロはアルマジロ王国の第二王子である有馬次郎くんに、その機械のことを伝えました。
 そして、すぐにアルマ王は裏しびれ大学のダマスクロース研究室と共同で、物語救助船の開発を始めたのでした。悪夢救助船を原型としているので、開発はスムーズに進みそうでした。ポロは伝声管の開発を手伝うことになりました。
同時に、アルマジロの精鋭たちがバク王国に派遣されて、救助隊員としての訓練も始まりました。
 救助隊の活動開始は間もなくです。
 悲しい物語を読んで、眠れなくなったりご飯が食べられなくなった時には、心の中で“助けて〜!”と叫んでください。きっと、すぐに救助船が助けに来てくれることでしょう。


おしまい


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ミタさん、読んでくれてアリガト! 物語救助隊の活躍を見ててね。 / ポロ ( 2005-02-03 22:37 )
おお、遂に物語救助船が完成したのですね!これからの活躍が楽しみです♪ / みた・そうや ( 2005-02-03 16:14 )

2005-02-01 ポロの日記 2005年1月31日(光曜日)ポロのティータイム 裏神田の世界 その1

ポロのティータイム 裏神田の世界 その1

春日公園


 裏神田は、神田にばかりあるのではありません。裏神田はどこにでもあります。
 写真は関東地方のあるところにある春日公園です。
 ここの地下では、少し前までアルマジロたちが「ホームページ・アクセスカウンタ早回しサービス」事業を展開していました。その後、アルマジロたちは“あじさい亭”で摩擦式ヒーターのフライホイールを回し、今は、アルマ王の特命を受けたプロジェクトチームが「物語救助隊」を創設するために不眠不休の努力をつづけています。熱い連中だなあ、アルマジロって。
 夕方を過ぎると、この公園の桜の枝に座ってお月さまがもの思いにふけっていることもあります。でも決して声をかけたりしちゃダメです。お月さまはすぐにおいかけてくるし、つかまるとおヘソをとられちゃうからです。裏神田はとてもいいところですが、お月さまだけは別です。でも、もしおヘソをとられちゃっても、東武東上線の“東武練馬”っていう駅のちかくにおヘソを売ってるお店があるから安心です。


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2005-01-31 ポロの日記 2005年1月31日(光曜日)ポロのティータイム 裏神田の世界 その2

ポロのティータイム 裏神田の世界 その2

裏神田デザイン


 裏神田の目印はいろいろなところにあります。
 たとえば、したの写真は裏神田の重要人物が住んでいるのではないかとポロがにらんでいるおうちの塀です。たぶん橘(たちばな)です。せんせいのおうちの家紋も橘だったかも。裏神田に関係している人のお家の庭にはたいてい柑橘類の木があります。
 みかんだけじゃありません。北極星も裏神田の象徴です。一度、裏神田世界に気づけば、あとはもう簡単。裏神田の首都である“神田”の周辺を歩けば、いたるところに裏神田世界を見つけることができることでしょう。



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そっかぁ〜。 んじゃ探してみるね、ジャブジャブ池のあたり。 えへへ・・・何て読むのかはナイショ♪ パリン?ピリン?プリン?ペリン?ポリン?ピーリン?(笑)  / Pりん@ぽん吉くんによろしこ☆  ( 2005-01-31 23:40 )
Pりんさんて、ひょっとして“ぷりん”さんて読むのかなあ? 町田なら 芹ヶ谷公園のジャブジャブ池が怪しいっていう話です。(なまずのぽん吉くんからの情報) / ポロ ( 2005-01-31 23:12 )
裏神田の目印、見つからにゃいっす(T_T) ・・・もしかして町田にもある? 違うか(ガックシ)   / Pりん@近くにもあるかにゃ〜♪  ( 2005-01-31 21:39 )

2005-01-30 ポロの日記 2005年1月30日(風曜日)マチルダ・エンジン その1

マチルダ・エンジン その1


 裏しびれ大学は、ウラ神田共和国の知の中心をなすところです。ウラ神田の一等地、オモテしびれ大学のウラ世界にあります。
 オリンピア工房を構え、ハレー彗星と呼ばれることもある宇宙船オリンピア号を建造した猫の星ドーラの伝説的技術者ゴーヒャ・キージェを建学の理想としています。
 校訓は「事実は間違わない」。ゴーヒャ・キージェの言葉だと伝えられています。
 今はクランベリーヒルに住む松戸博士(えーごで言うと“マツドサイエンティスト”かも)も、ここで学びました。
 裏しびれ大学の教授陣は、頑固一徹の人ばかりでした。どのくらい頑固であったかと言うと、もし彼らがおもて世界の大学に勤務したら3日で懲戒解雇されてしまうだろうと言われているほどです。それは、上意下達をよしとせず、人の決めた法を守る気はさらさらなく、何ものも宇宙の法則には逆らえないと信じて疑わないからでした。
 オモテしびれ大学に在籍していた女子学生マチルダは、ある時、大学の階段下の小さな倉庫の奥に、裏しびれ大学への通路を見つけました。細かい経緯は省きますが、いつのまにか彼女は裏しびれ大学に通い始めていました。
 彼女の指導教官はホリテッカン教授。頑固者ぞろいの大学内でも一、二を争う超ガンコ者でした。専門は上総掘り。今ではありとあらゆる掘削に応用されていますが、昔は井戸掘りの技術でした。始まったのは江戸時代、完成したのは明治時代という古い技術です。
 マチルダは、初めて聴講したホリテッカン教授の講義を忘れることができません。まさか、それが最後の講義になるとは思ってもみませんでした。

「上総掘りは江戸時代の技術であります。ということは発展途上国でも、その器材を調達し、みずから運用することが可能であるということであります。また、燃料を使わない。こういうものを真の技術というのであります。ゴーヒャ・キージェの建造したオリンピア号には一切のエレクトロニクスはおろか蛍光管一本たりとも使われておりません。もちろん、すでにそれらの技術は存在しておりました。しかし、ゴーヒャ・キージェは頑としてそれらの使用を拒み続けました。たとえ時間がかかろうが、彼はオリンピア号を自由落下軌道上を進ませました。これなら、太陽が故障でもしないかぎり大丈夫なのであります」

 マチルダは急に目が覚めたような気がしました。ホリテッカン教授は彼女にあるプロジェクトを紹介すると、大学からいなくなりました。あちらこちらの世界で上総掘りをしているようでした。学生たちに残されたメッセージは「すでに伝えた」の一言でした。あの講義で全て理解せよということなのでしょう。実際、そうでなければ大成できないのかも知れません。
 マチルダが紹介されたプロジェクトを訪ねると、そこには見知らぬ獣たちと人が一緒になって何かを討議していました。


つづく

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2005-01-29 ポロの日記 2005年1月30日(風曜日)マチルダ・エンジン その2

マチルダ・エンジン その2


「失礼します」

 マチルダが入っていくと、みんなの視線が彼女に向けられました。

「あ、マチルダ君だね。私がプロジェクトリーダーのダマスクロースだ。専門はスターリングエンジン。驚かないでくれたまえ、ここにいるのは獏の星からの留学生たちだ。話を聞いていないかも知れないが、私たちは悪夢の中に乗り込んでいくためのマシンを開発している。まあ、どこでも空いている席に座って。もちろん発言は自由だ。ここに先輩後輩はない」

 マチルダは、専門家、学生、バクの熱気を帯びた議論を聞いていました。

「よし、それならスターリングをあきらめて、グローエンジンで行こう」
「今さら焼き玉エンジンか。それは環境に悪すぎる」

 すると、マチルダは自分の意志とは関係なく立ち上がって発言しました。

「あの、植物触媒で二酸化炭素を炭素と酸素に還元できます」
「まさか、そんな触媒があるのか!」

 マチルダの耳元で誰かがささやきました。

<あるわ・・。ローズヒップから抽出したバラ触媒よ>

 それは女神さまでした。

「あ、あります! それはローズヒップから抽出したバラ触媒です」

 それからというもの、数分間にわたってマチルダはローズヒップ触媒に関する理論を整然と語りました。語り終えると、部屋は静まり返りかえっていました。

<・・・よくできたわ・・・>

 そういうと、女神さまはどこかへ行ってしまいました。

 沈黙を破って最初に口を開いたのはプロジェクトリーダーのダマスクロース博士でした。

「なるほど、ホリテッカン先生推薦のことだけはある。マチルダ君、君はグローエンジン開発チームに加わってくれたまえ」

 それからというもの、マチルダはオモテしびれ大学には行かずに、ずっと「グローエンジン開発チーム」のところに通いました。ローズヒップ触媒理論に関する論文も認められ、マチルダは裏神田博士号を取得、晴れてマチルダ博士となりました。

 月日は流れ、ついに全く二酸化炭素を出さないグローエンジンが完成しました。
同じころ、救助船の船体も裏隅田川シップヤードの協力を得て完成にこぎつけていました。
 裏隅田川シップヤード(略してBSS)のドライドックでは、バクと人間たちが共同で最後の艤装作業に取りかかっていました。これがうまくいったら、後続の2号、3号を建造することが決まっていました。悪夢救助船1号、開発コードは「ナイトメア・セーバーX」の頭文字をとってNS-Xでした。後に、オモテ世界の自動車メーカーが自社の最高性能車にこの名を使うことになるほど衝撃的な船でした。しかし救助隊員たちの間では、ひそかに第一神田丸と呼ばれていました。
数週間後の夜、BSSでいよいよ試運転が行われることになりました。


つづく

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2005-01-28 ポロの日記 2005年1月30日(風曜日)マチルダ・エンジン その3

マチルダ・エンジン その3


 小さなダルマ船のようなデザインの神田丸に訓練を積んだバクの精鋭たちが乗り込むと、カベソン救助隊長がハッチ閉鎖を命じました。

隊員A「閉鎖確認!」
ソナー「夢ソナーで悪夢を捕捉、悲鳴が聞えます。急行しましょう」
隊長 「よし、エンジン始動!」

 ぽんぽんぽんぽん、ぽぽんぽんぽん、ぽぽぽんぽんぽん!

 裏神田世界最初の悪夢救助船神田丸は、焼き玉エンジンの音も高らかに夢世界へ消えていきました。

 神田丸がたどりついたのは、巨大生物の世界でした。人も建物の普通の数倍の大きさがありました。それとも神田丸が小さくなったのでしょうか。すぐ近くを馬のように大きな犬がウロウロしています。

夢ソナー係「隊長、ここは捨てられた子猫の夢の中であります。それで周囲のものがすべて大きく見えるのだと思われます。昼間に犬に出くわしたことが恐怖の記憶となっているようです」
カベソン「よし、突撃隊は重武装で船外に出て初仕事だ。現実の犬ではないから容赦するな」
隊員たち「アイアイサー!」

 カベソン隊長と5人の突撃隊員たちが、高エネルギー銃で一斉射撃すると、夢の犬はあとかたもなく消え去りました。

隊長「よし、帰還する。」

 隊員たちが乗り込むと、再びぽんぽんぽぽんというエンジン音とともに神田丸は現実世界に戻っていきました。

 裏隅田川シップヤードに戻った神田丸は、建造に携わった人々から拍手で迎えられました。
 マチルダのとなりで、神田丸の実体化を見ていたダマスクロース博士が言いました。

「マチルダくん。あのエンジンはマチルダエンジンと名づけよう」
「光栄ですわ、ダマスクロース先生」

 この日以来、バクが人々を悪夢から解放するまでの時間が従来の半分以下になったと言われています。
 いつの間にか、皆さんも怖い夢を見る時間が減ったことにお気づきですか。そんなとき、夢の中でマチルダ・エンジンのぽんぽんぽぽん・・という音が聞こえたりしてはいないでしょうか?


おしまい


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マチルダさんアリガト! ポロも、このお話がとっても気に入ってるんだ〜♪ / ポロ ( 2005-01-31 14:34 )
この話は私の宝ものにします。どうもありがとう。 / マチルダ ( 2005-01-31 13:49 )

2005-01-23 ポロの日記 2005年1月23日(風曜日)物語救助隊創設記 その1

物語救助隊創設記 その1


 ポロが“猫だらり”病でダラダラしているのをみかねて、アルマジロの有馬次郎くんが工房を訪ねてきてくれました。

 ピンポ〜ン♪

 奥さんがインターフォンに出ました。

奥「は〜い、どなた?」
次郎「あ、ポロちゃんの知りあいの有馬次郎と言います。ポロちゃんの具合はいかがですか」
奥「まあ、ありがとう。どうぞお入りください」
次郎「失礼します」

 玄関に出迎えた奥さんは、アルマジロを間近に見るのは初めてだったのでびっくりしました。

奥「まあ・・・・・・! 猫だってしゃべるんだからあなたみたいな人がいても不思議はないわよね・・」
次郎「驚かせて申し訳ありません。ここは大丈夫だってポロちゃんに聞いたものですから」
奥「そ、そうよ。驚いたりしてこちらこそゴメンナサイね」

 リビングにやってきた次郎君は、ポロのだらけた様子を見て、すぐに外に出るように忠告してくれました。奥さんも「そうよ、ポロちゃん、少しは外に出てみたら」と言うので、ポロはいやいやながらも次郎くんと外にでました。
 次郎君は作曲工房のバックヤードにポロを連れていきました。
 そこにあったのは、なんと小型ジェットモグラでした。

次「ポロちゃん乗って」
ポ「ど、どこへ行くの?」
次「ぼくんちだ」

 ポロたちが乗り込むとジェットモグラは60度の角度で立ち上がり、ドリルを回して地中深く進み始めました。

 ガリガリガリガリ!

ポ「次郎くんちってどこにあるの?」
次「もうすぐだよ」

急にドリル音が小さくなって空回りしているような音がしました。

次「地底湖だ。この先で浮上する」

 ジェットモグラが水面に浮かび上がると、そのまま前進して陸地に上陸したようでした。
 ポロがハッチを開けて外に出ると、うすぼんやりとした青い光の中に大きな建物が見えます。

次「あれが“アルマ城”(あるまじろ)だよ」
ポ「・・・・・!」

 ポロは、自分の置かれた状況が理解できなくて、なんの言葉も発することができませんでした。

 ポロたちが近づくと、城門の両側の衛兵が剣を捧げて敬礼しました。次郎くんが王族級の地位にあることはこれではっきりしました。ドーラ城の衛兵も相当訓練されていましたが、ここの衛兵はさらに上を行っています。ポロがドアを通るときも、決して礼を失することはありませんでしたが、もし、ポロがここで急に武器をとりだしても彼らが剣でポロを串刺しにするほうが早いでしょう。それほど彼らにはスキがありませんでした。忘れていた緊張感がよみがえると、猫だらりは全快したように思えました。ポロは、早く王に会ってみたいと思いました。


つづく

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