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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2004-12-01 ポロの日記 2004年11月30日(熱曜日)弾丸列車京都へ その3
2004-11-30 ポロの日記 2004年11月30日(熱曜日)弾丸列車京都へ その4
2004-11-29 ポロの日記 2004年11月30日(熱曜日)弾丸列車京都へ その5
2004-11-28 ポロの日記 2004年11月28日(風曜日)ポロの京都 その1
2004-11-27 ポロの日記 2004年11月28日(風曜日)ポロの京都 その2
2004-11-26 ポロの日記 2004年11月28日(風曜日)ポロの京都 その3
2004-11-18 ポロの日記 2004年11月17日(波曜日)とっても大きなマルエツ その1
2004-11-17 ポロの日記 2004年11月17日(波曜日)とっても大きなマルエツ その2
2004-11-15 ポロの日記 2004年11月14日(風曜日)ポロのどん底“夢”日記 その1
2004-11-14 ポロの日記 2004年11月14日(風曜日)ポロのどん底“夢”日記 その2


2004-12-01 ポロの日記 2004年11月30日(熱曜日)弾丸列車京都へ その3

弾丸列車京都へ その3


 この速度になると、機関車前方80メートルより手前の様子は人の動体視力では見えなくなります。その景色はジェットパイロットだって見たことがない別世界でした。そんなわけで有視界運転から計器運転へと切り替わります。
 この速度では石炭の消費量はハンパではなく、運転士のミタさんもスコップを持って給炭作業にかかります。
窓の外には在来線の東海道線が平行して走っていましたが、在来線はすべて車輪式のリニアモーター化されているもののたかだか160キロ運転なので、速度差で200キロも上回るのぞみ41号から見れば止まっているかのようでした。
 熱海を過ぎるとすぐに新丹那トンネルです。自動的に客室用の吸気ダクトが閉じてトンネル内の煙に備えます。

「新丹那トンネル進入。トンネル内異状なし」

 ミタさんが指さし確認します。

 トンネル内で、対向するひかりC3000型204号とすれ違いました。相対速度660キロ。風圧で一瞬車体がヨーイングしましたが、すぐに安定姿勢に戻りました。
 機関車のキャビン内は、いろいろな騒音が混ざり合って機械工場のようでした。トンネルを抜けるとぱっと明るくなって、静かになりました。

「三島駅を定刻に通過!」
「了解」

 機関車のキャビンは一応開閉できる窓はあるものの、客室と違って密閉させているわけではないので、ポロもミタさんも煤(すす)だらけでした。

「やあ、ポロちゃん灰色ねこになっちゃったよ」
「ミタさんだって、まるで宇宙人だよ」
「ははは、そうか」

 右側には、大きく富士山が見えました。

「何度見てもきれいだねえ」
「ポロちゃんは、登ったことあるかい?」
「ないよ。一度登ってみたいな」

 次の瞬間、キャビンに警報が鳴り響きました。
 ミタさんは、すぐに警告内容を確かめました。

「25キロ先に未確認の障害物だ。ポロちゃん、緊急停止するから塩沢車掌長に伝えて」
「了解」

 ポロはインターフォンで、車掌室の塩沢車掌長に障害物があることと緊急停車をすることを伝えました。

 <乗客の皆さまにお知らせいたします。ただいま、線路上に障害物が確認されましたので、安全のために緊急停車いたします。座席にお座りになって、念のために手すりなどにおつかまりください>

 C7000型が時速360キロから安全に停車するためには約10キロの距離が必要です。今はギリギリでした。

「タービン停止」
「停止確認」
「エアブレーキ展開」
「エアブレーキ展開確認!」
「電磁ブレーキ作動」
「電磁ブレーキ作動確認!」

 速度がガクッと落ち、前にのめりそうになりました。

「時速270キロ・・・、250キロ・・・・、230キロ・・・、目標まであと4キロ」
「間に合うかなあ・・」
「間に合わせるよ。見ててくれ」
「うん」
「時速200キロ・・・・、180キロ・・・・、160キロ、クランク接続」

 がっしゃん!


つづく

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2004-11-30 ポロの日記 2004年11月30日(熱曜日)弾丸列車京都へ その4

弾丸列車京都へ その4


 いくら流体クラッチといっても、つながった途端、大きなショックがありました。せんせいは飲もうとしていたお茶をこぼしてしまいましたが、ポロはもちろんそんなことは知りませんでした。

「時速120キロ」

 クランクロッドが動輪に接続されれば、摩擦を使った物理ブレーキであるディスクブレーキが威力を発揮します。のぞみ41号は新富士駅の手前数キロのところに停車しました。ポロとミタさんが線路に降りてみると、すぐ目の前に牛模様の大きな牛が座り込んでいました。

「参ったな。こいつか」
「牛っぽい牛だね〜」

 そこへ塩沢車掌長もやってきました。

「牛かあ。食っちまおう」
「そうはいきませんよ」

 ミタさんがスコップで牛のお尻をたたくと、牛はのんびりと立ち上がって、線路から出ていきました。ポロたちは近くの作業車両の出入り口まで牛を誘導して、軌道から外へ追いだすと、ふたたび機関車のキャビンに戻りました。

「いったい、どうやって入り込んだんだろう」

 ポロが窓から空を見上げると、牛をつり下げて運んでいる小型UFOが見えました。

「ミタさん、あれかも知れないよ。何かのトラブルで運ぶのに失敗したのかも」
「なるほど、迷惑な話だ」

 運転指令室に報告を済ませて車掌室に発車することを伝えると、ポロは再び燃焼室の温度を上げ始めました。

「ポロちゃん、走りながら圧を上げていこう」
「うん。じゃ、すぐに発車できる圧にするから」

 ポロは緊急発車モードを選択。少量の石炭に酸素噴射を行なって大急ぎで圧力を立ち上げました。

「いいぞポロちゃん、名人級だよ。もうすぐ発車できる」
「ざっと、こんなもんだよ」

 客席では、せんせいたちが列車の遅れに文句を言っているようでしたが、ポロたちはもちろん、そんなこと知りませんでした。

 シリンダーがクランクロッドを押し出すと、動輪が砂を噛んで、きしみ音とともにのぞみ41号は進み始めました。連結器に牽引荷重が伝わるたびにガチャガチャと大きな音がします。
 ポロは、石炭を直接釜に投げ入れ始めました。機関助手の腕の見せどころです。

「ねえ、ミタさん。定時運行に戻しちゃおうよ」
「今からだと相当厳しいんじゃないかなあ」
「ポロたち、最高のチームじゃないか〜」
「よし、ポロちゃん。だいぶくたびれてると思うけど、蒸気圧を規定定格最高値まで上げられるかい?」
「ふっふっふ。そのために日本国有鉄道はポロを雇ったのさ」
「分かった。やろう」

 のぞみ41号は数分でシリンダー運転最高速度の160キロに達し、蒸気タービンを始動しました。

「よーし、巡航最高速度の360キロだ」
「今までで最短の到達時間だね」
「よし、じゃあいよいよ法定最高速度を目指すぞ」
「うん」

 スコップを持つポロの腕は、もう棒のようになっていましたが、なんだか気力が充実していてやれそうな気がしていました。


つづく

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2004-11-29 ポロの日記 2004年11月30日(熱曜日)弾丸列車京都へ その5

弾丸列車京都へ その5


 速度計がジリジリと上がってきます。

「370キロ・・・、380キロ・・・」

 石炭を運ぶ腕がしびれてきました。鉄棒の懸垂の最後の一回のような感じでした。ミタ機関士も汗だくになって石炭を射出装置のコンベアに運びました。

「やっぱりそうか」

 そう言って現れたのは塩沢車掌長でした。

「昔、漁師だったんだぜ。力仕事なら任せてくれ」

 そういうと車掌長は、ポロとミタさんの2人分よりもたくさんの石炭を直接釜に放り込み始めました。

「わあ! 車掌長すごいよ!」
「あはははは〜。爽快だ〜!」
「よし、法定最高速度の400キロだ。このまま頑張ろう」
「400キロって、どのくらい速いんだ?」
「あのね、10分で67キロも走っちゃうんだよ。F1より速いかも」
「残念ながら長時間の巡航はできません。車軸温度が限界点を超えないうちだけです」
「そうなのか。いろいろと難しいんだな〜」
「でもね、ミタさんは上手に速度を調節して車軸温度を上げないようにして速く走られる名人なんだ」
「そうか。それはすごいな」

 ミタ運転士は計器とにらめっこしながら高速運転を維持しました。

「車掌長。このまま行けば京都駅で定時運行に戻れます」
「そうか。よし、ちょっとアナウンスしてこよう」

 車掌長は客車に戻っていきました。

「ミタさん、ポロ、もう腕が動かないよ」
「頑張ってくれたね。もう大丈夫。現在の圧力で京都までたどり着けるよ」
「乗客は何をしてるのかなあ?」
「みんな楽しくやってるさ」

 その頃、14号車のせんせいはミタさんの言葉どおり、2人の美女に囲まれて楽しくやっていましたが、もちろんポロはそんなこと知りませんでした。

 間もなくのぞみ41号は京都駅停車のための減速区間に入りました。蒸気タービンは回転数を下げ、流体クラッチがクランクロッドと動輪を接続しました。蒸気シリンダー運転に戻ったC7014はシュシュッポッポ、シュシュッポッポと昔ながらの蒸気機関車のように走りました。
 京都駅の規定位置にピタリとのぞみ41号を止めると、ホームでは交代の機関士と機関助手が待っていました。
 シリンダーから漏れる蒸気の舞う中、乗務の引き継ぎが行われました。

「途中、障害物によって緊急停車するも現在定時運行中。全て異状なし」
「ご苦労様でした。ここからは乗務を引き継ぎます」

 ポロとミタ機関士は敬礼して交代すると、高らかに汽笛を鳴らして発車するのぞみ41号をその姿が見えなくなるまで見送りました。

 その間、ポロたちの脇をあくびをしながら通りすぎたのがせんせいだったなんて、もちろんポロは知りませんでした。

「ポロちゃん、さあ行こう。次の乗務は東京行きのぞみ72号だ。それまで少し休めるぞ」
「ポロ、腕がぱんぱんだよ。今の乗務、面白かったね〜」
「そうだね。なんたって最高のチームだもんな」
「うん、そうとも。ところでポロさ、生八つ橋食べたいな。mokoさんのキオスクに寄っていこうよ」
「出発進行!」


おしまい


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

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ポロのひみつの部屋

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ポロは「多少のYen」かと思ったよ。何するにもお金かかるからな〜。 / ポロ ( 2004-12-03 23:42 )
何かの縁じゃなくって多生の縁だった・・・ / みた・そうや ( 2004-12-03 07:47 )
やはり機関車には情緒がありますね。大変だけど(笑)。別の世界では、こんな可能性もありますね〜。でも、袖擦り合うも何かの縁と言いますが、別の世界で縁が有る人達と、どこかですれ違っているのかも知れませんね。 / みた・そうや ( 2004-12-02 09:39 )

2004-11-28 ポロの日記 2004年11月28日(風曜日)ポロの京都 その1

ポロの京都 その1


「せんせい、ポロも京都に行きたいよ〜」
「今回は仕事だからダメだ」
「ねえ、連れてってよ〜」
「大きなバッグを持っていかないからダメだ」
「じゃ、おちゃめさんか長堀さんのバッグに入っていくよ〜」
「ダメだって言ったらダメだ」

 せんせいは、ポロをおいて京都の森田ピアノ工房に行ってしまいました。
 ポロは、泣きながら京都の様子を想像しました。

 ポロが知ってる京都は“源氏物語”だけなので、新幹線を降りると、そこには平安時代そのままの京都が広がっています。それしか思いつかないし。京都と言えば牛車(ぎっしゃ)だな。せんせいたちは駅前に並んでいる牛車に乗るのかな。京都は賑わっているなあ。老若男女、物売りからスリ、盗賊までが街中に溢れているな。もちろん大道芸だってやってるに決まってる。ピーター・フランクルさんも出張してるかも知れない。
 とにかく、京都のことでポロが知ってるのは少ししかないないけど、京都といえば何と言っても六条の御息所だな。いったいどこにあるのかな。どういう場所なのかな。その南西側に“夕顔”っていう植物園があって、六条の御息所とは鬼門で接してるって源氏物語の研究家が言ってたな。それに金閣寺だな。マルコ・ポーロが京都に来たときに、たしか三島由紀夫の案内で金閣寺へ行って、それで東方見聞録に「日本の建物は金ぴかです」って書いたんだったかな。ひょっとしたら日本に来たのはガリバーだったかな。それともシュリーマンていう人だったかも。
 そだ。せんせいが平安京にはエイリアンがいたって言ってたな。それを退治するために検非違使が置かれたって。せんせい、検非違使に捕まらなければいいなあ。検非違使は落とし穴をたくさん掘ったらしいからなあ。ダイじょぶかなあ、せんせい。
 いよいよ牛車はかすみたなびく山科へ近づいていきます。京都といえば霞。部屋の中にまでたなびいているからな。京都の人は大変だなあ。新聞を読もうとすると目の前に霞がすすす〜っとやって来て視界をさえぎったりして、いちいちフッと息をかけて霞を吹き飛ばさなくちゃならないもんなあ。それに、ご飯食べてて、おいしいおかずに箸をのばしたら霞がつつつ〜っとたなびいてきて、それがやっと晴れたときには誰かがもうそのおかずを食べた後だったりして。
 あ、そうだ。京都には街灯がないんだったな。たしか月がない夜は出歩くのが大変だって書いてあったのを読んだことがあるもんな。省エネが進んでるなあ。でも暗い夜っていうのは、こっそりと目当ての女の人のところへ向かう男たちにとっては都合がいいのかも。夜更けと明け方前は、そういう男たちで大ラッシュアワーなんだろうな。ポロ、道端でポケットライト売ろうかな。儲かるかも。シュデンガンガー商会で買った波動エンジンの借金、まだぜんぜん返してないもんな。でも京都で“ポケットライト”じゃ売れないな。“携帯月夜”っていうのはどうかな。

つづく

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2004-11-27 ポロの日記 2004年11月28日(風曜日)ポロの京都 その2

ポロの京都 その2


 京都には動物園もあったな。平安時代っていうと、まだマンモスもいたかも知れないな。いないかな。でもいたほうがいいな。がんばればティラノサウルスもいたかも。もっとがんばれば池には三葉虫だな。急に行ってみたくなったな、京都市動物園。
 でも、今日の目的地は森田ピアノ工房だからな、さっそく行ってみよう。せんせい一行を乗せた牛車は山科の大石神社近くの信号のある交差点を曲がって、少し進んだところで停まった。どうしてかっていうと、森田さんが工房の前に小さな塩の山を作っておいたから。牛は、塩を舐めたくて停まっちゃうの。
 ポロの想像だと、森田さんていう人はオリンピア工房のゴーヒャ・キージェ爺さんみたいな頑固職人で、手下にはいっぱいコビト星人がいます。せんせいたちが工房に入ると、コビト星人たちは大慌てで天井裏とかに隠れるんだけど、逃げ遅れた何人かが後ろ姿を見られちゃって、あとで叱られちゃう。
 せんせいたちは応接間みたいなところに通されて、宇治茶とイモようかんで接待されちゃうな、きっと。そうすると、せんせいがこう言います。

「いやあ、おいしいイモようかんですね。助手のポロという猫がイモようかんが大好きなんですよ」
「そうですか、では残りもので申し訳ありませんが、このイモようかんをおみやげにお持ちになってください」
「いやあ、どうも催促してしまったみたいで恐縮です」

 うわあ、やった〜! おみやげはイモようかんだ。これで明日はホームランだ(せんせいが、よく言うフレーズだけど意味不明)。

「では、ピアノの展示室にどうぞ」
「あ、どうも」

 せんせい、あ、どうもじゃないよ。イモようかんもらったんだから、もう用事は終わったじゃないか。それを持ってすぐに作曲工房に帰ってこなくちゃ〜!
 せんせいは、霞たなびく展示室に行きます。茶室のような展示室には金ピカのピアノがたくさん並んでいます。

「これは飛鳥時代のヴィンテージピアノです」
「ほう、そうですか」
「少し前まで弥生時代のピアノもあったのですが、卑弥呼の遣いの者が買っていってしまいました」
「いやあ、見てみたかったですねえ」
「でも、もうすぐ旧石器時代の世界最古と言われるピアノが入庫します。石で出来ているので修復も大変です」
「それは、すごい」
「こちらは縄文ピアノと呼ばれていて、縄目の模様が入っています」
「まだ、ろくろがなかった頃のものです」
「そうですか」
「こちらはカルタゴの遺跡から発掘された水力式のピアノです」
「ほう」

 ポロの想像では、こんな感じでピアノの説明が進んでいきます。
 そして、いよいよ長堀さんが試弾します。最初は縄文ピアノでメフィストワルツの第1番です。

 ぽろろろろ〜ん♪

「おお〜!」

 森田さんが感動して思わず声をあげました。
 次は飛鳥ピアノでガッチャマンのテーマでした。


つづく

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2004-11-26 ポロの日記 2004年11月28日(風曜日)ポロの京都 その3

ポロの京都 その3


「おお〜!」

 今度はせんせいが感激しました。
 ピアノの物陰からコビト星人のテレビクルーがドキュメンタリーを撮影していましたが、誰も気がつきませんでした。
 そうこうしているうちに、帰る時刻になりました。あ・・、おちゃめさんが登場してなかったけど、おちゃめさんは感動しっぱなしだったので一言も言えませんでした。
 せんせい一行は、森田ピアノ工房の皆さんにていねいにお礼を述べると、待っていた牛車に乗り込みました。
 帰りの牛車をコビト星人のテレビ中継用UFOが追跡していましたが、やはり誰も気がつきませんでした。
 夕方の京都駅前は、朝にも増して物売りやら通行人が増えて、それはそれは賑やかでした。西の空には江戸時代の浮世絵のオレンジ色の夕日がかかっていました。
 新幹線の自動改札を抜けると平安時代とはお別れです。
 ホームに500系タイムマシン新幹線がすべりこんで来ました。せんせいは庶民なので2等客車です。2等客車は畳敷きの座席です。せんせいたちは車内販売の伏見のお酒を買って、あぐらをかいて酒盛りを始めました。酔いが回ると、せんせいの口三味線が始まります。曲は十八番(おはこ)のシェーンベルクの管弦楽のための変奏曲op.31と、忍者部隊月光のテーマでした。
 その様子も、全部コビト星人のテレビクルーが撮影していたので、後日、足立区あたりで放送されるかも知れません。

 ぴんぽーん!
 夜9時ころ、せんせいが作曲工房に帰ってきました。ポロは走っていって玄関にせんせいを出迎えました。

「せんせい、おかえり〜!」
「ああ、ただいま」
「ねえ、せんせい。おみやげのイモようかん!」
「なんだ、そんなものはないぞ」
「え〜、ポロ知ってるんだから。森田さんから残りのイモようかんもらったってこと」
「???・・・・」
「ホントだよ。ポロ、知ってるんだから、せんせいがもらったイモようかん」
「おみやげはあるけど、千枚漬けだよ」
「あ、駅前のイモようかんと千枚漬け交換所で取り換えてきちゃったんでしょ」
「なんだそりゃ?」
「分かった! それじゃさ、せんせい、帰りの新幹線でお酒なんか飲むからどっかに置いてきちゃったんでしょ」
「ここしばらく、お酒なんか飲んでないぞ」
「ウソだ〜。せんせい、お酒飲んでシェーンベルクと忍者部隊のテーマ歌ったもん」
「歌ったけど、しらふだったし曲もミヨーとジャングル大帝だったぞ」
「あ〜、せんせいのアルコール性健忘症もここまで来たか・・・!」

 自分がお酒を飲んだことも忘れてしまったせんせいを禁酒させなくちゃ、とポロは心に誓ったのでした。

 ポロ注:作中に登場する人物・団体・場所などのうち、せんせい以外は全部ポロの想像です。京都駅前は平安時代じゃないので信じたりしないでね。


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

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先頭 表紙

せんせい、森田ピアノの素晴らしさとアルコールで記憶が飛んでしまったのですね。でも、小人星人のドキュメンタリー放送を見れば真実が…(笑) / みた・そうや ( 2004-11-30 15:52 )

2004-11-18 ポロの日記 2004年11月17日(波曜日)とっても大きなマルエツ その1

とっても大きなマルエツ その1


「ポロちゃん、お買い物に行くけど一緒にどう?」
「うん、行く行く」

 ポロは、奥さんと一緒に秋晴れの空の下、タドタド駅のほうに向かって歩き始めました。

「あれ、奥さん。いつものマルエツも、大きなマルエツもこっちじゃないよ」
「今日ね、新しいお店が開店するのよ」
「へえ、お店がグルグル回るのか〜」
「違うわよ。オープンするの」
「わあ、新しいお店か。楽しみだなあ」

 タドタド駅を越えて、もう少し歩くと目的のお店がありました。ポロには、まるで火星のオリンポス火山のように大きく見えました。

「うわ〜〜〜〜! とっても大きなマルエツだねえ。大きなマルエツもかなわないかも!」
「そうね、とっても大きなお店ね」
「まるで買い物要塞都市だ〜!」

 ポロは、いつものように奥さんの買い物バッグにするりと入り込みました。入り口では、お姉さんが店内案内の立派なパンフレットを配っていました。

「わあ、奥さん、見て見て見て見て見て見て!」
「まあ、おいしそうなケーキねえ」

 店内に入ってすぐのところに大きなケーキ屋さんがありました。どのケーキもたくさんのフルーツがあしらってあって、芸術品みたいでした。

「ねえ、奥さん」
「なに、ポロちゃん」
「今日からさ、ポロ、洋菓子に宗旨替えすることにしたよ」
「おいしそうね。でも、ここにはまだまだ数えきれないくらいのお店が入ってるのよ」

 奥さんは、どんどん歩いていきました。

「ここはね、専門店とジャスコにエリアが分かれている総合ショッピングセンターなの」
「どっちもマルエツ?」
「そうじゃないわ。ジャスコがスーパーだから、マルエツみたいなものね」
「デパートじゃないよね」
「営業形態で言うと違うわね」
「ふ〜ん。どこにもフクザツな世界があるんだなあ」

 インテリアのお店では、せんせいが欲しがりそうなステキな掛け時計がありました。ファッションのお店は、どこもオープン特価でお客を誘っていました。宝石やアクセサリーのお店は、普通はひとがまばらなのに、今日はたくさんの人がショーウィンドウを眺めていました。全部のお店と売り場が分かる人なんているんでしょか。
 店内は人がたくさん歩いていましたが、売り場と売り場の間の通路がとても広いので混雑しているようには見えませんでした。

「ねえ奥さん、もうずいぶん歩いたね、西に進んできたからもう山梨県くらいかな?」
「いくらなんでもそんなに大きなお店はないわよ」
「でも、日本地図に載っていそうな大きさだねえ。ポロ、もうどこにいるのか分かんなくなっちゃったよ」
「じゃあ、ヨシコおばあちゃんに頼まれた買い物を済ませたら何か食べましょうか」
「わ。うれしいな!」

 奥さんは家電品売り場でいくつかの買い物を済ませると、まわりをハンバーガーショップやカレーショップなどの飲食店に囲まれたカフェテリアのようなところに連れていってくれました。ここなら、仲間同士で食べ物の意見が分かれてもみんな同じところで食べられます。

「大きなレストランだねえ」
「ポロちゃんをバッグから出すわけにはいかないから、テイクアウトして外で食べましょう」
「うん、ポロ、何がいいかな」
「なんでもいいわよ」
「ポロは、やっぱりハンバーガーだな!」
「せっかく、こんなにいろんなお店があるのに」
「コアラなんか、ここに来たってユーカリをたべると思うな」
「そうね」


つづく

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2004-11-17 ポロの日記 2004年11月17日(波曜日)とっても大きなマルエツ その2

とっても大きなマルエツ その2


 結局奥さんもポロと同じものを買いました。ポロたちはお店の外のベンチで一緒にお昼ご飯を食べました。

「おいしいねえ」
「そうね。いい天気だからなおさらよ」
「でもさ、どうしてこんなに大きなお店をつくったのかなあ」
「ポロは、全部のお店を覚える自信がないなあ」
「集客力を高めるためかしらね。買い物って言ったら、あ、あの店に行けば全部済んじゃうみたいな感じ」
「そっか。最初に思いつくのがこのお店ならいいんだね」
「物を売るって、どういうことかな」
「どういうこと? 買い物そのものが楽しい人たちも多いわ」
「ポロさ、モノを作るっていうのは感覚的に分かるんだけど、それを売るっていうセンスがないんだよな〜、たぶん」
「小売業っていうのは、ひょっとしたら経済の中では一番重要な要素のひとつかも知れないわよ。だっていくらモノを作っても、それが欲しい人の手に渡らなくては意味がないんだから」
「そっか。せんせいもそのセンスに欠けてるんだな。曲ばっかり作ってる」
「そうね。あたしも売るセンスがないから手伝えないわ」
「うわあ。おちゃめさんとシロちゃんとか、作曲工房の人たちはみんなセンスないかも」
「作る人たちって、そんなものかも知れないわよ」
「じゃ、すっと後の時代になってせんせいの曲で誰かが儲けたりするのかな〜。モーツァルトの曲みたいに」
「もし、あの人の曲を求める人たちがいるのならね」
「いるよ〜、百おく万人くらいいるよ〜」
「誰が儲けようと、自分の曲が喜んでもらえるんならそれだけで嬉しいと思うわ」
「そんなとこだけドビュッシーのマネなんかしなくてもいいのに〜」
「なんで、儲けることにこだわるの?」
「あのさ、さっきのケーキ屋さんのケーキだけどさ、奥さん、いつかは全部食べてみたくない?」
「まあ、そんな理由?」
「そんなじゃないよ。これは人生の大問題だと思うな」
「分かったわ。今月はちょっと節約しなくちゃならないんだけど、ひとつだけ買って帰りましょう」

 それから、奥さんは生鮮食料品のエリアで夕ご飯の買い物を買い物を済ませると、ケーキ屋さんで、フルーツがたくさん乗ったタルトを買ってくれました。

 作曲工房に帰ってから、せんせいにとっても大きなマルエツの話をしましたが、せんせいには大きさがうまく伝わりません。それで、ポロはカエルのお父さんのように思いっきり息を吸い込んでお腹を膨らませて「こ、このくらい・・いや、もっと・・大きかったんだよ」って身体を張って説明しましたが、せんせいはヤレヤレという表情をしただけでした。


おしまい


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先頭 表紙

あはは。新しいマルエツ、楽しそうですね。私も売るセンスは無いのは分かっているので、中学生の頃、進路から外しました。 / みた・そうや ( 2004-11-17 19:31 )

2004-11-15 ポロの日記 2004年11月14日(風曜日)ポロのどん底“夢”日記 その1

ポロのどん底“夢”日記 その1


1日目 ある日の前の前の日の夢

 どういうわけかポロは作曲工房を追いだされてしまいました。しかたがないので、自分のホームページを立ち上げました。
すると、みるみるうちにカウンタがまわり始め、1000、2000、3000と増えていきます。ポロは小躍りして大喜びしました。

「なんだ〜。ポロはこんなに人気があるんじゃないか〜。疫病神は作曲工房だったんだ〜」

 その日の晩のこと、ポロが春日公園に行くと、古い桜の木のウロ(幹の根元の穴)から淡い光が漏れていました。覗き込むと、その地下ではたくさんのアルマジロたちが何十台ものパソコンに向かってせっせと作業をしていました。どんな仕事をしているのかと思ったら、ポロのサイトにアクセスしては接続を切り、またアクセスしてみんなでカウンタを回していました。


2日目 ある日の前の日の夢

 ビジネス最前線で働く企業ねこ戦士のポロは、今朝もスーツに着替えるとトーストを一枚くわえて、出勤するために外へとびだしました。のんびり食事などしているヒマはないんだ〜。ところがタドタド駅につくと、いつもと様子が違いました。高架駅のはずの駅舎がありません。近くへ行くといつの間にかJR最強線は深い谷底にありました。

「わ、一晩で突貫工事したのかな」

 タドタド駅入り口を見つけました。
 蔦のような植物が生い茂る数百メートルの絶壁を鉄製の非常階段のようなところを降りていく道でした。雨上がりらしく、どこも濡れています。50メートルほど降りたところで錆びついた鉄製階段が一部脱落していました。下に見える残った階段までの距離は5メートルくらい。企業戦士のポロは、こんなところでグズグズしてはいられないので、ぴょーんと飛び降りました。見事に下の階段にたどり着きました。また50メートルほど降りると、今度は10メートルくらい下まで階段が脱落していました。ポロは猫の能力を生かして、わずかに見えている残った階段めがけて飛び移りました。見事、成功。ところが、また50メートル降りると、今度は100メートル下のホームまで階段がありませんでした。もう、飛び降りることはできません。戻ろうにも、今降りてきた階段は10メートルも上でした。
 ポロは出社することができず、とうとうクビになってしまいました。


3日目 ある日の夢

(歴史のおさらい)その昔、猫がクーデターを起こして人間社会を制圧しました。以後、人間たちは猫のしもべとなって、せっせと働いて猫たちのごはんを用意するようになりました。

 朝、ポロが近所の春日公園に行くと、ミニミニUFOが降りてきてブランコのとなりに着陸しました。
中から降りてきた小さな宇宙人がポロに武器を突きつけて言いました。

「我々の得た情報では、おまえはこの星の支配生物だな。指導者のところへ連れていけ」

 ポロは指導者の意味がよく分からなかったので、ピアノ指導者のせんせいのところへ案内しました。

「せんせい、変なの連れてきた」

 せんせいは「今忙しいんだ」と言って、宇宙人をつまんで窓の外へポイっと出してしまいました。

「せんせい、今の宇宙人だよ」
「なんだ、虫じゃなかったのか?」

 すぐに外を探しましたが、どこにも宇宙人はいませんでした。


つづく

先頭 表紙

2004-11-14 ポロの日記 2004年11月14日(風曜日)ポロのどん底“夢”日記 その2

ポロのどん底“夢”日記 その2


4日目 ある日の次の日の夢

 ポロが道を歩いていると、向こうからお月さまがやってくるのが見えました。なんと冥王星のお月さまのカロンでした。お月さまは、おヘソを狙って追いかけてきたりするので、ポロは、すぐに近くの交差点を右に曲がってカロンと鉢合わせしないようにしました。少し歩くと、また見慣れないお月さまが歩いてきました。あ、あれは木星のお月さまのガニメデだ。ポロは、次の交差点を左に折れてガニメデを避けました。ところが正面にはヒペリオンという土星のお月さまがいました。反対側に向かうと、こんどはウンブリエルという天王星のお月さまがやって来ました。ポロは、交差点の中央で安全な道をさがすために4方向をぐるりと見渡しました。後ろにはヒペリオン、前にはウンブリエル、左には火星のお月さまのダイモス、右には海王星のお月さまのネレイドがいて、とうとうどこにも逃げられないことがわかりました。絶望のあまり空を仰ぐと、そこには薄笑いを浮かべた地球のお月さまが、上唇をぺろりと舐めながらポロを眺めて輝いていました。


5日目 ある日の次の次の日

 ポロが散歩していると、いきなり八百屋さんのにんじんが攻めてきました。

「わ、なにをするんだ!」

 するとにんじんが言いました。

「にんじんだもの!」
「そんなの理由になるか〜」

 八百屋のおかみさんも、にんじんに体当たりされてよろけていました。ポロは走って作曲工房に逃げ帰りました。

「た〜いま〜! せんせい、大変だよ!」
「こっちも大変なんだ」

 せんせいは冷蔵庫の前でにんじんと格闘していました。奥さんがキッチンから日本橋木屋の包丁を持ちだして、にんじんに切りかかりました。にんじんは乱切りにされておとなしくなりました。

「はあ、はあ。カレーに入れて食べてやるわ!」

 奥さんは息を切らしながら乱切りにんじんに向かって言いました。
 テレビでは緊急ニュースが流れていました。

「緊急ニュースです。日本各地でにんじんが蜂起しました。どこから現れたのか、無数のにんじんが街を襲っています。すでに壊滅した都市もあるという情報が入ってきています。うわ、うわ〜〜〜!」

 テレビ局のスタジオにもたくさんのにんじんが押し入ってきて、アナウンサーやディレクターを襲い始めました。

「ポロ、窓の外を見てみろ!」

 せんせいの声でポロが外を見ると、無数のにんじんが近所中に溢れて、窓ガラスを割ったり人間を追い回していました。それから間もなく作曲工房の窓という窓のガラスが割れる音がしました。


6日目 その朝のできごと
 

 ポロは、目が覚めるとすぐにキッチンへ行って、冷蔵庫の野菜室からにんじんを取りだすと、ゴミ収集所に出してしまいました。意気揚々と工房へ戻ると、奥さんがコワイ顔で「傷んでもいないにんじんを捨てちゃうなんてどういうつもり?」と言いました。
 ポロはにんじんの危険性を必死に訴えましたが、奥さんのひざに乗せられると、おしりを10回もペンペンされてしまったのでした。
 それからというもの、信用を失ったポロはどん底の毎日を送ることになりました。

 皆さんのおうちのにんじんはダイじょぶですか?


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

ポロの掲示板はここ。
ポロのひみつの部屋

先頭 表紙

う〜ん、なかなかシュールな夢ですね〜。でも、せっかくニンジンから家族を守ったのに、怒られてしまって残念でしたね。(^^) / みた・そうや ( 2004-11-17 10:45 )

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