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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2004-09-09 ポロの日記 2004年9月1日(波曜日)女議長のひみつ その2
2004-09-08 ポロの日記 2004年9月1日(波曜日)女議長のひみつ その3
2004-09-07 ポロの日記 2004年9月06日(光曜日)商店街へ行こう その1
2004-09-06 ポロの日記 2004年9月06日(光曜日)商店街へ行こう その2
2004-09-03 ポロの日記 2004年8月11日(波曜日)メロンプリンセス号の冒険 その1
2004-09-02 ポロの日記 2004年8月11日(波曜日)メロンプリンセス号の冒険 その2
2004-09-01 ポロの日記 2004年8月11日(波曜日)メロンプリンセス号の冒険 その3
2004-08-31 ポロの日記 2004年8月21日(岩曜日)楽しいランチ その1
2004-08-30 ポロの日記 2004年8月21日(岩曜日)楽しいランチ その2
2004-08-29 ポロの日記 2004年8月21日(岩曜日)楽しいランチ その3


2004-09-09 ポロの日記 2004年9月1日(波曜日)女議長のひみつ その2

女議長のひみつ その2


 たろちゃんはレジを通ると大きなマルエツの正面玄関を出て、カード入れの住所にあるマンションに向かいました。そこはローシェンナ色の外壁の、細身でとても背の高いマンションでした。

「たろちゃん、買ったら高そうなマンションだねえ。きっと何千円もするね」
「何言ってんのよ。何千円で買えるわけないでしょ」
「そっか。ポロも最初は一兆円くらいかなって思ってたんだけどさ」
「高過ぎ!」
「ちょうどいいって難しいね〜」

 自動ドアかと思ったエントランスの大きなガラスドアは、前に立っても閉まったまま開きません。たろちゃんは外来者用のインターホンのテンキーで、住所の最後にあった1505という数字を押してみました。

「はい、どちら様でしょうか?」
「あの〜、カード入れを拾ったので届けにきました」
「まあ、さっきのお嬢さんね、すぐに行くわ」

 お姉さんは、すぐにエントランスまで降りてきました。

「まあ、ありがとう。助かったわ。お礼にお茶でもいかが? それとも急ぐのかしら?」
「いえ。じゃ、ちょっとだけ」

 たろちゃんは、ずうずうしくもお姉さんのお部屋にお呼ばれしていくことになりました。
 1505号室の表札には「佐藤和子」と書いてありました。ポロは、ステキなお姉さんにしては、あまりに当たりまえな名字と名前の組み合わせを見て、ちょっと不思議に思いました。

「散らかっているけどどうぞ」

 エアコンのよく効いた部屋に入ると、メタリックな素材がところどころに使われたウルトラモダンなインテリアがたろちゃんとポロを迎えました。部屋はホントに散らかっていました。でも、それは掃除をしないからではなくて、散らばる書類によるものでした。
お姉さんは、書類をさっさとまとめてデスクに重ねました。

「ちょっと待っててね。嫌いなものある?」
「セロリ」
「じゃ、セロリ抜きにするわね」

 おねえさんは、奥のキッチンに行ってしまいました。
たろちゃんが、何気なく床を見ると、お姉さんが拾い忘れた書類が落ちていました。それはポロ・プロジェクトの会議録でした。

「(小声で)ねえ、ポロ。さっきさ、ポロプロジェクトって言った?」
「(小声で)言ったよ」
「ポロって、被害妄想じゃないかも」
「どうして?」
「ここにね、ポロプロジェクトの書類があるの」
「じゃ、やっぱり女議長だよ、あのお姉さん」
「あのさ、あのお姉さんて悪い人?」
「それが、よく分かんないの。でも、一応警戒したほうがいいと思うな」
「うん、分かった」

 間もなく、お姉さんはアイスクリームケーキと紅茶を持ってきてくれました。

「セロリ抜きよ」
「ありがとう」
「そう言えば、まだお名前を聞いてなかったわね」
「えっと、村野しおりって言います」

 たろちゃんは一応警戒して、とっさに思いついた名前を言いました。ほとんど本名というぎりぎりの偽名でした。ポロはバッグの中でハラハラしながら息をひそめていました。
 すると、たろちゃんは思いきって落ちていた書類を手渡しました。

「これが落ちてました。ポロって書いてあるけど、なんですか?」

・・・わ、たろちゃん。大胆すぎるよ、アブナすぎ!

「まあ、ありがとう。ところで、しおりちゃんはポロっていう猫を知ってる?」
「お友達がピアノを習ってる教室の猫がポロっていう名前だったと思うけど」
「まあ、その猫よ。何か知ってることあるかしら?」


つづく

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2004-09-08 ポロの日記 2004年9月1日(波曜日)女議長のひみつ その3

女議長のひみつ その3

 
 意外な展開になってきました。ポロは、目の前のアイスクリームケーキがどんな味なのかっていう問題と同じくらい、事の成り行きが気になりました。

「さあ、よく知りません」
「そう。ポロって言うのは特別な猫なの。あなたは信じないかも知れないけれど人と話ができるのよ」
「わあ、猫とお話できるなんて楽しいそうですね」
「そう思うでしょ。でもね、お話ができるだけじゃないのよ。普通の人よりもずっとすぐれているかも知れないの。私はね、ポロの背後関係を調べてるのよ。でも、情報が混乱していてどれが本当のことだか分からないの。まあ、あなたにこんなこと言っても仕方がないわね。何でもいいわ。分かったことがあったら教えてね」
「はい」

 たろちゃんは、おねえさんにアイスクリームケーキのお礼を言うとマンションを後にしました。

「ポロ。あのお姉さん怪しいわ。うちのこと調べてるみたい」
「うん、ところでさ、あのケーキおいしかった?」
「おいしかったよ。ポロ、あのお姉さんのことで何を知ってるの?」
「いろいろ知ってるけどさ、あのケーキ、どんなふうにおいしかったの?」
「お姉さんのこと、なんでもいいから教えて」
「えっとねえ、にせポロを使ってお話の部屋に勝手に書き込んだりするよ。でさでさ、あのケーキどんな味だったの?」
「セロリ抜きの味」
「セロリ味のケーキなんてないよ〜」
「ポロは、あのお姉さんとどこで会ったの?」
「えっとねえ。分かんないけど、たぶん新小岩の会議室。いいなあアイスクリームケーキ」
「しつこいなあ、ポロは。ケーキの話は後で」
「ポロは熱心な猫なんだよ」
「じゃあ、ケーキ買ってあげるから今は忘れて、質問に答えるの!」
「はーい! なんでも聞いていいよ」
「ポロプロジェクトっていったい何なの?」
「よく分かんない。でもね、にせポロの6号と一緒にタコ焼き作った」
「何なの、それ? 全然分からないんだけど」
「にせポロの7号ともお友達になったけど、すっごく難しいメールを最後にいなくなっちゃった」
「そう。よく分からないけどさ、議長さんはポロの価値を調べて、高そうだったらたとえばサーカスとかに売ったり、闇の研究機関に情報を提供したりしてるんじゃないかなあ」
「わ〜、ポロは捕まって売られちゃうのか。曲馬団(サーカスの古い言い方)の猫だ〜」
「ひとりで出かけるときは気をつけるのよ」
「はーい!」

 それからたろちゃんはケーキのオオハシさんのお店に寄ってザッハトルテを買ってくれました。


おしまい


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ポロの掲示板はここ。
ポロのひみつの部屋

先頭 表紙

う〜ん、女議長さんをこれからどうするかが問題だ〜。 / ポロ ( 2004-09-11 00:17 )
んん!ついに接触ですね?これでプロジェクトのなぞに迫れそうですね〜。でも、女議長さんステキ。 / みた・そうや ( 2004-09-08 13:00 )

2004-09-07 ポロの日記 2004年9月06日(光曜日)商店街へ行こう その1

商店街へ行こう その1


「せんせい、どこに行くの?」
「本の注文だ」
「ネットで頼まないの?」
「頼まない」
「ポロも行ってもいい?」
「猫らしくしてるんだぞ」
「まっかせてよ」

 せんせいとポロは、ちょっと秋めいてきたお寺の脇の道を歩いて古いさびれた商店街へ向かいました。遠く南西の海上には台風がいて、晴れているのに風雲急を告げるような空でした。

「せんせい、どんな本を注文するの?」
「偉大な武道家について書かれた本だ」
「へえ。せんせい、今度は格闘技でも始めるの?」
「そうだ。技を磨いてポロを投げ飛ばす!」
「やだよ〜」
「そんなことするわけないじゃないか」
「あ〜、心配しちゃったよ。武道か」

 途中で小学校の脇を通りました。子どもの声で校内の連絡放送が聞えてきました。とても大きなボリュームです。

「せんせい、こんなに大きな音の必要ないよね」
「そのとおりだ。ちょうどよいということに気づかなければ、聞えないかもしれないという不安が先に立つ」
「世界は音に無頓着だな」
「小さなスピーカーを数多く用意すれば、運動会だってよく聞こえて、しかもうるさくないという環境を作れるものだ。街路灯も同じだ。眩しくて電力を食う水銀灯を高い所にところどころ付けるんだったら、人の背より少し高い所に下向きの弱い光を数多く設置したほうが明るくて眩しくない」
「ふーん。どっちが安上がりなんだろうね」
「それは分からない。やり方によってコストはいくらでも変わるものだ」

 目指す本屋さんに到着すると、ちょっと理知的な感じの初老の店主が店番をしていました。せんせいが、調べてきた書名、著者、出版社、出版年度、ISBNコードをメモした紙を渡すと、かしこまりましたと言って、なるべく早く取り寄せる手続きをしますと約束してくれました。
 ポロたちは暗い店内から外へ出ました。

「ねえ、せんせい。あのおじさん、背筋をピンと延ばして“かしこまりました”だって。カッコいいねえ。コンビニじゃ聞けないね、あんな言葉」
「誇りを持って書店経営している姿だ」
「ポロ、本屋さんになりたくなった」
「多くの人は、ポロの気づいたカッコよさに気づかない時代が来たんだ」
「どうしてだろうね」

 少し歩くと八百屋さんがありました。

「せんせい、こんなところに八百屋さんだよ」
「昔からのお店だよ」
「ポロさ、マルエツしか知らないから八百屋さんで買い物できないかも」
「そうか。スーパーでばかり買い物している人は個人商店での買い物が敷居が高くなっている可能性があるな」
「どうやって買ったらいいか分かんないよ」
「スーパーにも、もちろんあるが、個人商店には仕入れのこだわりがあるんだ」
「あ、せんせい。ブドウだよ。武道と同じ」
「おいしそうだな。買って帰ろうか。よし、個人商店買い物実習だ」

 せんせいが八百屋さんに入ると、ポロもうしろからついていきました。


つづく

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2004-09-06 ポロの日記 2004年9月06日(光曜日)商店街へ行こう その2

商店街へ行こう その2


「はいらっしゃい!」
「ぶどうをください」
「はい、どれにしましょう。これは今朝市場から仕入れたばかりで新鮮な種無し巨峰ですよ。今日のいち押しです」
「おいくらですか」
「はい、勉強して一房200円」
<・・・せんせい! 安いね!>
<しーっ、静かに>
「じゃあ、それをください」
「ありゃあたーした」


せんせいは、ぶどうを一房入れた袋を下げて歩き始めました。

「せんせい、おいしそうだねえ」
「ああ、冷蔵庫で冷やして食べよう」
「ポロのほっぺが落っこちたらせんせいのせいだよ」
「じゃ、食べさせない」
「じょーだんだよ〜。ポロさ、みかんの酸っぱさは苦手なんだけど、ぶどうはちょうどいいな〜」
「柑橘類の酸味はクエン酸が主だが、ブドウには酒石酸が入っていたような気がするな」
「へえ〜、そんな違いがあるのか」
「もう35年ものの知識だからあやふやだ。間違っているかも知れない。興味があったら調べて、ついでに教えてくれるとありがたい」
「先生って理科少年だったの?」
「ちょっとだけ」
「だからシュデンガンガー商会を知ってるんだね」
「よく行ったものだ」

 その時、ポロたちの頭上高く、雲間を何機ものUFOが音もなく通りすぎていくところでした。

「せんせい、見て。UFOの編隊だよ」
「おお、これだけ揃うと見ごたえがあるな。昨日の地震の調査に来たんだな」
「え〜っ! 宇宙人て地球の地震なんかに興味あるの?」
「地球人だって月震計を月に設置して月の地震を調べているよ」
「そうなのか〜、それは知らなかったな〜。あれ、今度はコビト星人のテレビ中継用UFOが、さっきのUFO船団をビデオに撮ってる」
「おお、あの小さい円盤か」
「そだよ。でも、どうして町の人は誰も空のUFOに気がつかないんだろう」
「普通、人は地平線近くの空しか見ないんだよ。首を上に向ける習慣は意外なことにないんだ。気がつかない理由はもう一つありそうだ」
「なあに?」
「それは、人々が書店主の誇りやカッコよさに気づかないのと同じだ」
「そっか〜。ポロたちお得だねえ」
「我々だって、気づいていないことだらけだという事を忘れてはいけないよ」
「そっか。何でも気づいてるのは神さまだけかも」
「さあ、早く帰ってブドウを冷やそう」
「うん、そうしよそうしよ」

 盛りを過ぎたオシロイ花の群れの脇を、ポロたちは工房へ急いだのでした。


おしまい


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ポロのひみつの部屋

先頭 表紙

そっか、猫らしくしなきゃいけないってことは、ポロさんってやっぱり猫らしくないんだね…(しみじみ) / shin ( 2004-09-07 23:40 )
ミタさん。いつもコメント、ホントにアリガトございます。ポロたち、カッコよくなろうね。 / ポロ ( 2004-09-07 09:46 )
本当の格好良さを持つ人は少なくなしましたね。空かぁ…余り見ていないなぁ。東京も、昔はもっと空が高かったような気がします… / みた・そうや ( 2004-09-07 09:33 )

2004-09-03 ポロの日記 2004年8月11日(波曜日)メロンプリンセス号の冒険 その1

メロンプリンセス号の冒険 その1


 今年も旧盆が近づいてきました。
 ポロは師匠の技術文書キットのお墓のそうじをしてから、京浜唐変木線のゼンマイ駅前通り商店街まででかけました。この季節だけ走馬灯を売るお店があるのです。
 ありました。今年もお店の中で走馬灯(まわり灯籠)がぐるぐる回っています。その中にポロは猫の走馬灯を見つけました。ポロのからだに電気がビビビッと流れたみたいに、ポロはそれが気に入ってしまいました。欲しくて欲しくてたまらなくなりました。値段を見ると4000円。よんせんえん・・・。ああ、ポロにはとても買えません。
 ポロは、すぐに作曲工房にとんで帰りました。

「ねねねねねねねねね、せんせせんせせんせせんせせんせせんせせんせ!」
「なにをそんなに慌ててるんだ」
「あのさあのさあのさあのさあのさあのさあのさあのさあのさ」
「だから何だって言うんだ」
「えっとさえっとさえっとさえっとさえっとさえっとさ」
「はやく言ったらどうだ?」
「そそそそそそーまとーが、ほっし〜|」
「なんだ、たったそれだけのことを言うのに、こんなに時間がかかったのか」
「ほっし〜、ほっし〜、ほっし〜、ほっし〜、すっごくほっし〜の!」
「どうせ買ってもすぐ飽きるよ」
「ち、ちがうのちがうの!」
「なんだか様子が変だな。そんなに欲しいのか?」
「うんうんうんうんうんうんうんうんうん!」

 せんせいは手が離せない仕事をしていたので、たろちゃんがお金を渡されて一緒に買いに行ってくれることになりました。ポロは、たろちゃんの自転車の前カゴに乗って、もういちどゼンマイ駅前商店街に向かいました。

「ポロが欲しい走馬灯ってどういうの?」
「見ただけでビビビッてポロの身体に電気が流れた!」
「へえ〜。ときどきすっごく欲しいものってあるよね。ポロはそれが走馬灯だったんだ」
「そ」
「どんな模様なの?」
「猫だよ」
「珍しいね、猫なんて」
「でしょ。それよりさ、売れちゃうと困るからもっと急いでよ」
「こんな暑い日に急いだら汗かいちゃうから、ヤよ」
「ねえ急いでよ〜。売れちゃったら困るよ」
「猫の走馬灯なんて売れないから大丈夫」
「じゃさ、もし売れちゃったら買った人追いかけてくれる?」
「うん、地の果てまで追いかけちゃうから安心して」

 お店につくと、猫の走馬灯がありませんでした。たろちゃんがお店の人に聞いてくれました。

「あ、たったいま売れちゃったのよ」

 ポロとたろちゃんは、大急ぎでお店の外に飛びだしました。ポロたちと入れ違いでおおきな包みを持った男の人が店から出ていったのを思いだしたからです。

「いたよ! たろちゃん、あのおじさんだ!」

 300メートルくらい離れたところを走馬灯を買っていったおじさんがゼンマイ駅に向かって歩いていました。ポロとたろちゃんは自転車で追いかけました。ところが駅前ロータリーに近づくと、おじさんは走り始めました。発車時刻の迫ったバスにぎりぎり間に合ったのです。

「待ってよ〜!」

 ポロたちが到着するまえに、バスは出発してしまいました。


つづく

先頭 表紙

2004-09-02 ポロの日記 2004年8月11日(波曜日)メロンプリンセス号の冒険 その2

メロンプリンセス号の冒険 その2


「たろちゃん約束だよ。バスを追いかけて!」
「追いつかないよ、きっと」
「たろちゃんならダイじょぶ」

 たろちゃんは、しぶしぶ走り始めました。
バスは、いきなりJRをまたぐ大きな陸橋を登り始めました。たろちゃんも必死に後を追います。

「たろちゃん、この自転車の名前は何て言うの?」
「名前なんかないよ」
「じゃ、ポロがつけてあげるよ。これは地球防衛軍の強襲揚陸艦スワン154号だよ」
「やだよ〜、そんな変な名前!」
「じゃ、どんなのがいいの?」
「リンゴ丸みたいにフルーツの名前がいいな」
「じゃさ、ピーチ号みたいな?」
「そうそう。あ、メロンプリンセス号にしよう」
「た、たろちゃん。それってネーミングセンスがなさすぎるよ」
「あたしの自転車よ、文句ある?」

 たろちゃんの迫力に負けて、とうとうポロは“メロンプリンセス号”の前カゴに乗っていることになってしまいました。

「前途に暗雲が立ちこめてるっていう感じだな〜」

 ポロはひとりつぶやきました。

 バスが停留所にとまるたびにメロプリ号は距離を詰めますが、追いつく前に発車してしまいます。おじさんは、まだ降りません。
道路がちょうど具合よく混んでいて、もう20分もつかず離れずバスを追いかけていました。

「ポロ、あの橋を渡ったら東京だよ」
「そだね。おじさん、まだ降りないね」
「北区だよ。来たくなかった。帰宅しよう、なんちゃって」
「たろちゃん、真夏なのにさむいよ」
「ポロ、何か言った? このまま帰ってもいいんだから」
「な、何も言ってないよ、ホント、な〜んにも言ってない」

 ゼンマイ駅から10キロくらい走ったでしょか。真夏のお日さまはポロとたろちゃんを容赦なく焦がしました。バスとは、相変わらず近づいたり遠ざかったりを繰り返していました。

「ポロちゃん、のどが乾いてきたね」
「でもさ、飲み物買ってるとバスを見失っちゃうよ」

 電柱に地名表示がありました。

「たろちゃん。ここは、あしたちくしゃじんていうところだよ」
「あだちく とねり(足立区舎人)って読むのよ」
「あ、あのおじさんがバスを降りた!」

 メロプリ号は、おじさんを追って住宅街に入りました。すると、向こうから見覚えのある人が歩いて来ました。

「わ! たろちゃん、ミタさんだ」
「誰だっけ?」
「ほら、ポロと一緒に流星号で工房の前に墜落した人」
「ああ思いだした。一緒に朝ご飯食べた人か〜!」
「こんなところで会うなんて」

 ポロはミタさんに叫びました。

「ミタさ〜ん、そのおじさんを止めて!」

 ミタさんは、おじさんに声をかけてくれました。
 そして、ポロたちがおいつきました。走馬灯おじさんは、ポロたちが猫の走馬灯が欲しくて、ゼンマイ駅からずっと追いかけてきたことを知ると、とても驚きました。

おじさん「そんなに欲しいのなら、差し上げますよ」
たろちゃん「ちゃんとお金もらってきたから払います」
お「実は、とても不思議なことがあるんですよ。私は、別に走馬灯が欲しいわけじゃなかった。でも、これを見た途端にどうしても欲しくなって買ってしまったのです。でも、今考えると、どうしてこんなものが欲しかったのか分からない」
ミ「そんな不思議な走馬灯なら、ぜひ見せてください」

 おじさんが包みから走馬灯を出すと、それを見たミタさんは絶句してしまいました。


つづく

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2004-09-01 ポロの日記 2004年8月11日(波曜日)メロンプリンセス号の冒険 その3

メロンプリンセス号の冒険 その3


ポ「ミタさん、どうしたの?」
ミ「・・・・・・・・」

 ミタさんは、何も言わずに涙を流し始めました。
 おじさんも絶句していました。たろちゃんも異変に気がつきました。遅れて、ポロもやっと気がつきました。
 プラグをコンセントに差し込んでもいないのに、電球式の走馬灯は光りながら回っていたのです。可愛らしい猫がニコニコしながらクルクルと走ります。

ミ「チビ太・・・」

 ミタさんがやっと声を出しました。
ポロは、やっと事態がのみこめました。猫のチビ太が走馬灯に姿を変えてミタさんのところに帰ってきたのでした。

お「はて、ここはどこですか?」

 急に我に返ったかのようにおじさんが言いました。

ポ「ここはね、あだち区とねりだよ」

 ポロは難しい漢字が読めるんだぞというように誇らしげに言いました。

お「わ、今度は猫がしゃべってるじゃないか。私は夢を見てるのか」
ポ「ポロって言うんだよ」
お「こんなところに来るつもりはなかったのに。私は鳩ケ谷に住んでいるんですよ」
た「あたしだって、こんなところに来るなんて夢にも思ってなかったもん」

 ポロは、たろちゃんに状況を説明しました。でも、たろちゃんは、すでに理解していました。

た「ミタさん、あたしたちそれいらないから、持って帰って」

 おじさんは、またバス停に向かって歩き始めました。ミタさんが追いかけて往復のバス代とお礼を手渡して、何度も何度もお礼を言っていました。

ポ「ミタさん、よかったね」
ミ「不思議なことがあるもんだね。こいつ、チビ太って言うんだよポロちゃん。もう20年くらい前になるんだけど、急にいなくなってそれきりだった」
ポ「がんばって帰ってきたんだね。エラいなあ」
た「あたし、びっくりしちゃった」
ミ「うんうん」

 ミタさんは、さっきたろちゃんがおじさんに渡した4000円よりもずっと多いお金をたろちゃんに握らせて、帰りにおいしいものでも食べて帰ってねと言ってくれました。
 それから、ポロとたろちゃんはミタさんと別れてメロプリ号で走り始めました。

た「意外な展開だったね、ポロ」
ポ「世界は不思議に満ちてるんだよ」
た「そうだね〜! とむりん、信じてくれるかなあ」
ポ「どうかな〜」
た「いいよ別に信じてくれなくても。だって信じてくれたってくれなくたって、チビ太が帰ってきた事実は変わらないもん」
ポ「わ〜、たろちゃんてせんせいの娘だなあ〜」
た「どうして?」
ポ「いいの。それより、メロンプリンセス号の最初の寄港地はハンバーガーショップだよ!」
た「うん、さっきのバス通りにあったよね」
ポ「たろちゃん、今日はビッグセットが食べられるよね」
た「もっちろんよ。ミタさんにかんぱーい!」

 バス通りを走るメロンプリンセス号の前カゴを、少し涼しくなった風が気持ちよく吹き抜けていきました。


おしまい

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ミタさん、ハンバーガーごちそうさま! / ポロ ( 2004-08-25 22:47 )
でも、あとニャンコが7〜8匹、ワンコが2匹。…あ、他にも心当たりのあるワンコが5〜6匹にニワトリ…の走馬燈も有るのかも? / みた・そうや ( 2004-08-25 22:39 )
ポロちゃん、たろちゃん、遠い所追いかけてくれてありがとうね。無事に帰れたかな?知らないオジサンもありがとう! / みた・そうや ( 2004-08-25 22:37 )

2004-08-31 ポロの日記 2004年8月21日(岩曜日)楽しいランチ その1

楽しいランチ その1


 岩曜日の朝早く、作曲工房の玄関前にディーンドライブ特有の高周波を響かせて松戸博士のりんご丸がやってきました。
 りんご丸には、ロケット号のほかにマネキン人形が乗っていました。

ポ「わ〜い。博士、ロケット号、オハヨ! あのさ、あのマネキン人形はなあに?」
ロ「ぴゆぴゆ!」
松「おお、ポロどん。あれはコピーロボットじゃよ」

 ちょうど、おちゃめさんが愛媛ナンバーのダーリン号でやってきました。

お「お早うございます」
松「おお、おちゃめさん、お久しぶりじゃのう」

 そこへ、迎えに行くと言ったのに待ちきれないからと最強線で来てしまったミタさんが現れました。

ミ「みなさん、おはようございます」
松「おお、ミタさんじゃの? ワシが松戸じゃ。ポロどんから話は聞いておる」
ミ「初めまして。今日は大人の遠足ですね」
松「そうじゃ。ワシも楽しみでならんわい!」

 みんな、りんご丸に乗り込みました。目的地は射手座の方向で銀河系の中心部です。途中、いわき市にmokoさんを迎えに行きます。

 リンゴ丸の航法コンピュータのAKIが、シートベルトをしめてだとか、揺れることがあるだとか、いくつかの決まりきった注意事項を言いましたが、みんな話に夢中だったので誰も聞いていませんでした。
 仕方なくAKIは上昇を始めました。10分ほどでいわき市のmokoさんの家に到着しました。松戸博士が玄関のチャイムを押すと、mokoさんが出てきました。

松「初めまして。松戸ですじゃ。銀河ランチにお誘いに参りました」
mo「まあ、はじめまして。でも、あたし、今日仕事なんです」
松「そんなことじゃろうと思っていいものを用意してきたのじゃ。ささ、ちょっとこの鼻のところを押してくだされ」

 mokoさんがコピーロボットの鼻のボタンを押すと、ロボットはmokoさんと瓜二つになりました。

mo「まあ、なんなのこれ!」
松「これ、あなたの代役を果たすアンドロイドです。仕事も家事も全部あなたと同じようにやります。大丈夫、誰も気がつきませんて」
mo「そんなこと言われても・・・」

 不安がるmokoさんを松戸博士が半ば強引に押し切って、りんご丸に乗せてしまいました。でも、りんご丸にはおちゃめさんもいたので、mokoさんは安心したようでした。
 コピーmokoさんが、こちらを向いてウィンクすると、博士は「よろしくな」と言って負けずにウィンクしました。

 りんご丸の航法コンピュータのAKIがディーンドライブに喝を入れると、リンゴ丸は一瞬にしていわき市の上空10000キロに上昇しました。
 メインディスプレイの現在位置表示「いわき市上空」の文字と、小さくなった日本を見比べて、ポロは、これはいわき市上空とは言わないよなあと思いました。

松「mokoさん、心配はいらん。ポロからいろいろ話を聞いておったんで用意してきたんじゃ。あれはピアノのレっスンにも対応しておる。ちょっといい腕前のやつじゃ」
mo「本当に大丈夫ですか?」
ポ「ダイじょぶだよ、mokoさん!」
mo「まあ、ポロちゃん」
ポ「そだよ!」

 それから、そこにおちゃめさんとミタさんが加わって、リンゴ丸の中では賑やかなおしゃべりが始まりました。


つづく

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2004-08-30 ポロの日記 2004年8月21日(岩曜日)楽しいランチ その2

楽しいランチ その2


 数分後、AKIが「ただ今よりディープスペース・ワープ、亜空間に突入します」とアナウンスしましたが、みんな話に夢中で誰も聞いていませんでした。
ここで、ロケット号から朝ご飯が配られました。ロケット号特製サンドイッチと新鮮なクランベリーのジュースでした。一口食べたポロが「んまい!」というと、ミタさんもおちゃめさんも「んまい!」とマネをしました。それを聞いてmokoさんが笑いころげました。
 1時間後、りんご丸は銀河系の中心にほど近い、射手座Aから5000光年ほど離れた宇宙空間に実体化しました。
 あいかわらず賑やかなおしゃべりが続く車内(りんご丸はワゴン車を改造した型宇宙船)で、松戸博士が呼びかけました。

松「あ〜、諸君。宴たけなわのところ申し訳ないが、ここでロケット号から今日のランチについてレクチャーがあるから聞いてくだされ」

 ロケット号はリンゴ丸のダッシュボードに立つと元気に言いました。

ロ「ぴゆぴゆ!」

 以下、ポロの翻訳です。

ロ「みなさん大事なお話です」

 ピューピュー!(ノリノリのミタさんの口笛、ポロ注)

ロ「これから宇宙ランチの注意事項をお話します。宇宙には大きくわけて2種類の炭素系生物がいます。それはL型アミノ酸でできている生物と、D型アミノ酸でできている生物です。地球人はL型です。自分とは違う型のアミノ酸を食べることはできません。だから銀河連邦に加盟している星星では、この両方の料理を用意することが義務づけられています。最低限、L型アミノ酸のメニューを選ぶことだけは守ってください。L型アミノ酸を表す宇宙共通の表示は△です。D型は◆です。そのほかにも、星ごとの文明度、習慣、宗教、アレルギーなどとてもたくさんの要素があって、複雑ですが詳しいことは分かりません。まずいと思ったら食べないでください。以上です」

 ロケット号の話が終わると、またおしゃべりが始まりました。

ミ「まるでロシアン・ルーレットだね」
松「全くじゃ。何が起こるか楽しみじゃの」
お「ちょっと心配かも。ポロ、先に味見してね」
ポ「わ、おちゃめさん、ずるいよ!」

 そうこうしているうちにりんご丸は目的の星、ミネルヴァ星の極軌道に入りました。ほかにもいくつもの人工的なプラットフォームが軌道上にありました。その数は100万個くらい。リンゴ丸は、それにうまくまぎれて飛行を続けました。
AKIが詳細な表面地図を作成すると、ディスプレイに銀河連邦本部が置かれていると思われる都市の市街図を表示しました。

松「よし、AKI。ここでは我々はUFOじゃ。ステルスモードでこっそり、銀河連邦本部の近くに着陸じゃ」

 AKIは都市なのに生命反応のない小さな森を選んで着陸しました。

ミ「UFOは鎮守の森に着陸するって決まってるのさ。ね、ポロちゃん」
ポ「だから、こないだのUFOも神社にいたんだね〜」

 AKIが大気組成を調べて呼吸可能であることが分かったので、ドアが開いて全員が初めての異星に降り立ちました。

松「AKI」
A「はい、博士」
松「木陰に隠れておれ。誰にも見つからんようにな」
A「心得ております、博士」

 リンゴ丸は、お利口さんで留守番ができそうでした。

 猫とアヒル型のスポンジと4人の地球人という奇妙な一行はミネルヴァの首都と思われる街に繰り出しましたが、あまりにいろいろなエイリアンが歩いているので、ぜんぜん目立つことはありませんでした。


つづく

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2004-08-29 ポロの日記 2004年8月21日(岩曜日)楽しいランチ その3

楽しいランチ その3


ポ「ねえ博士。エイリアンだらけだね」
松「わしらもエイリアンじゃ」
ミ「ちょっと怖いですね」
お「向こうもそう思ってるかもね」
ロ「ぴゆぴゆ!」
mo「もう帰りましょうよ」
ポ「ダイじょぶ、ポロがついてるから」

 ポロが言ってもmokoさんは、ぜんぜん信じてくれていないようでした。
 ポロたちはレストランを探して歩きました。するとミタさんが何かを見つけて指さしました。その指の先にはケイバーリットを張り付けた、見覚えのあるUFOがいました。

ポ「あ゛〜〜〜〜〜!」
ミ「ポロちゃん、あれって、あの時のだよね」
松「どうしたのじゃ」

 松戸博士もケイバーリットを見つけました。

松「おお、なぜこの星にケイバーリットがあるのじゃ」
ポ「あれはね、ミタさんがシュデンガンガー商会で買ったやつだよ、博士。それでね、それを故障したUFOの修理に使ったの」
ミ「そうなんですよ。文京区の白山通りの近くの小さな神社の境内で」
松「???・・・。何を言っておるんじゃ、おぬしらは」
ミ「とにかく、あそこへ行ってみましょう。レストランみたいだし」

 ポロたちがお店に入っていくとカウンターの奥から一人のリトルグレイ型エイリアンが走り出てきました。

エ「£≠∴!」

 博士が全言語翻訳機のスイッチを入れました。

エ「おお、地球総督閣下! その節は大変お世話になりました。おかげさまで無事ここに戻ることができました」
ミ「またお会いできるとは、奇遇ですね」
エ「ご一行は、地球連邦政府の要人の方々でしょうか」
ミ「そう、よろしくね」
エ「誠心誠意、務めさせていただきます」

 エイリアンはミタさんの前でそう言いました。松戸博士は、やっと事情を察してエイリアンに話しかけました。

松「今日は地球を代表して、この星に視察にきたのじゃ。お昼を食べたいのじゃが、用意してくださらんか」
エ「ようこそ、当店をお選びいただき光栄です」
松「ところで、このカードは使えるかの?」
エ「もちろんでございます。お、これはプラチナカードの上のイリジウムカードではないですか! 見るのは初めてです。さすが、高位の方は違いますね」
松「足りるといいのだが」
エ「ご心配でしたらすぐに残高を確認いたします」

 エイリアンはレジでカードを照会すると、すぐに戻ってきました。

エ「驚きました。私どもの機械では表示できないのでクレジット会社に照会したところ、このカードには4億グランの残高があります。私どもの店でしたら何万年もお食事していただけます」
ポ「そういえば、カレレンさんが4億グランて言ってたっけ」

 席に案内されてメニューを見ると、本日のランチが12ピコグランでした。

ミ「ここの単位はピコグランなのか〜。そりゃ使い切れないや」
ポ「どのくらいなの? 高いの?」
松「その逆じゃ。今日、わしらがいくら食べてもカードの残高は全く減らないに等しい」
ミ「そういうことだよポロちゃん。松戸博士ご一行様は地球で一番の金持ちかも知れないよ」

 そんなわけで、ポロたちはL型アミノ酸のメニューを片っ端から注文して飲めや歌えやの大宴会を始めてしまいました。

松「さあさ遠慮はいりませんぞ、みなさん!」
ポ「材料は何だか分かんないけど、すっごくおいしい!」
お「本当。地球の5つ星レストランみたい」
mo「本当ね〜」
ロ「ぴゆぴゆ!」
ミ「う〜ん、最高だ〜!」

 一行はテーブルにお皿を積み重ねていきました。


つづく

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