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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2004-07-21 ポロの日記 2004年7月22日(草曜日)デーモンセンサー その2
2004-07-20 ポロの日記 2004年7月22日(草曜日)デーモンセンサー その3
2004-07-19 ポロの日記 2004年7月17日(風曜日)ポロのクランベリーヒル・リサイタル その1
2004-07-18 ポロの日記 2004年7月17日(風曜日)ポロのクランベリーヒル・リサイタル その2
2004-07-17 ポロの日記 2004年7月17日(風曜日)ポロのクランベリーヒル・リサイタル その3
2004-07-16 ポロの日記 2004年7月17日(風曜日)ポロのクランベリーヒル・リサイタル その4
2004-07-11 ポロの日記 2004年7月11日(風曜日)つぐみの森で
2004-07-05 ポロの日記 2004年7月4日(風曜日)初演コンサートの夜 その1
2004-07-04 ポロの日記 2004年7月4日(風曜日)初演コンサートの夜 その2
2004-07-02 ポロの日記 2004年6月30日(波曜日)ポロの夢日記 その1


2004-07-21 ポロの日記 2004年7月22日(草曜日)デーモンセンサー その2

デーモンセンサー その2


 あ゛〜、ホントに札束が置いてある。手書きのポップには「一億円(真札)/5000円」と書いてありました。修士さんの言ったとおりだなあ、なんて思っていると「お好み焼きの素/100円」「ホワイトソースの素/100円」なんかもありました。こんなのも人を不幸にするのでしょか。

「おや、おまえさん、背中に何をしょってるんだい?」

 ポロは、それを聞いて、そそくさとその葉を逃げ出しました。
次に向かったのは、小さな公園です。公園と言ってもベンチがあるだけの小さな広場でした。そこにも矢印のしっぽのおじいさんがお店を広げていました。

 ごろごろにゃ〜ん。

 ポロが近づいていくと、たいくつそうなデーモン族のおじいさんはニコニコしながらポロを迎えてくれました。
 売られている商品を見て、ポロはびっくりしました。ポップにはこう書かれていました。

“飲めば誰でもピアノが弾ける、その名も「ヒケール」”

 大変だ〜。ヒケールは人を不幸にするのかも!
よく見ると、絵が描けるようになる“カケール”やお話が書ける“ホラフケール”も売っていました。
 ポロは、もうテストは十分だと思ったのでシュデンガンガー商会に戻りました。

「た、ただいま〜!」
「おお、いかがでしたか?」
「いたよ、いた。デーモン族は矢印しっぽが生えてるからすぐに分かったよ」
「そうでございますか。しっぽが見えるのですね」
「1億円売ってたよ。5000円だった」
「ほ〜、やはり安いですね」
「それから、ヒケールも売ってた。やっぱりあれはデーモン族にそそのかされた研究者が開発したんだね」
「そうですか」
「あとね。よく分からないんだけど、どういうわけか“お好み焼きの素”や“ホワイトソースの素”っていうの売ってた。あれは、だれも不幸にならないと思うけど」
「いえ、それらを使ってお好み焼きやホワイトソースを作った人は、自分で作る技術を失なうからではないでしょうか」
「そっか。そういうことか」
「今のポロさまのお話を伺うと、デーモン族がかなり深く人間社会に浸透してきていることがわかりました。人がさまざまな技術を失う方向に進んでいる分野はデーモン族が進出しているということかも知れません」
「そっか。なんだか分かってきた。せんせいも、前にそんなようなこと言ってた」
「さようでございますか。さすがとむりんせんせいでございますね」
「ポロ、一度帰るよ。このデーモンセンサーはすごいって松戸博士に伝えといてね」

 ポロは、せんせいと話すために作曲工房に向かいました。

 ポロが作曲工房に戻ったのは夜中の3時でした。せんせいの仕事部屋の明かりがついていたので、入っていきました。
 すると、せんせいは女神さまから助言を受けながら作曲しているところでした。

女神「あ〜ら、ポロちゃん、息を切らせてどうしたの?」
とむ「ポロ、こんな夜中に何か大変なことでもあったのか?」
ポロ「せんせい、女神さま、そうなんだよ。お好み焼きの素やヒケールを売ってるんだ」
とむ「それがどうかしたのか?」
ポロ「矢印のしっぽが生えててね。ホワイトソースを作れなくしちゃうんだ」
女神「矢印のしっぽって、デーモン族のことかしら?」
ポロ「そだよそだよ。女神さま知ってるの?」
とむ「なんのことやら、さっぱり分からん」


つづく

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2004-07-20 ポロの日記 2004年7月22日(草曜日)デーモンセンサー その3

デーモンセンサー その3


 ポロは、もう一度順序だてて今日の出来事を話しました。でも、女神さまの反応はポロがびっくりするような内容でした。

女神「ポロちゃん、あたしはずっと昔からデーモン族を知っているわよ。悪いことなんて何もしてないわ」
ポロ「ぎょえ〜〜〜! 女神さま、何言ってんのさ、あいつらに騙されて不幸になる人がいっぱいいるんだよ」
女神「騙してるかしら?」
ポロ「え?」
女神「デーモン族は嘘をついているかしら?」
ポロ「??????」
女神「1億円は本当の1億円だし、お好み焼きの素も本物のはずよ」
ポロ「そういえば、ダマしているわけじゃないかも」
女神「ローマ帝国の滅亡のきっかけを作ったのはデーモン族かも知れないわ。でも、デーモン族がいなくてもローマ帝国の人々は滅びたに違いないの」
とむ「どういうことなんだ?」
ポロ「あのね、修士さんの話によると、5000円で1億円の札束を買った人はお金の使い方だけを覚えて破産しちゃうらしいんだ。ホワイトソースの素を使う人は、自分でホワイトソースが作れなくなっちゃうし。だから、ポロはデーモン族は悪いやつらだと思うんだよ。でも、女神さまは悪くないって」
とむ「そうか。それなら悪くない」
ポロ「え゛〜〜、せんせいまで。あ、女神さまの色香に迷ったな〜」
とむ「もちろん、当然だ。迷いまくりに決まってる。だが、それを差し引いても悪くない」
ポロ「どーしてだ〜?」
とむ「では、無人島に5人の人が流れ着いたとする。そこにヤシの木が一本あって4つのヤシの実がなっていたとする。どうする?」
ポロ「5人で分けるよ」
とむ「では、それがとても大きな無人島で、一人で歩いているときに4つのやしの実を見つけた。ポロはどうする?」
ポロ「ヤシの実ジュースを飲んじゃうかも」
とむ「何億年もかかって蓄積された化石燃料を人類はたった100年で使い切ろうとしているが、どう思う?」
ポロ「そうか。未来の人にも権利があるのに、見てないから使っちゃうんだね」
とむ「人類は英知を持っているかと思えば、デーモン族とやらにそそのかされなくても十分な愚かさも持ちあわせている」
ポロ「そうか、デーモン族は人類の習性を利用しているのか」
女神「お店を出しているのは歳をとったデーモン族よ。若くて力のあるデーモン族は化学企業の研究者にいろいろな化学物質の製法を教えたり、軍事産業により強力な兵器のアイディアを伝えているわ。でも、それらはすべて本物よ。核兵器だって本物。一度も騙したことはないわ」
ポロ「ふーん、結局は人間の問題だという気もしてきな、ポロてきに」
女神「じゃ、そろそろあたし帰るわ。とむりんせんせい、がんばってね〜、傑作期待してるわ〜!」

 そう言って女神さまがふりかったとき、目の前の女神さまのすてきなヒップから伸びる、見えない矢印しっぽの先がポロに当たったような気がしました。

「あ゛〜〜〜〜! 女神さまはデーモ・・・・・」

 でも、ポロはそこで全てを忘れなければなりませんでした。


おしまい(続編あります)


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

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2004-07-19 ポロの日記 2004年7月17日(風曜日)ポロのクランベリーヒル・リサイタル その1

ポロのクランベリーヒル・リサイタル その1


 ポロの“クランベリーヒル・リサイタル”も近づいてきた電曜日、せんせいのグランド・ピアノを真空乾燥するために門前仲町ディラック商会の移動真空チェンバー車が作曲工房にやってきました。

「学士(がくじ)さん、お久しぶり!」
「これはポロ様。お元気そうで何よりです」
「グランドピアノの真空乾燥ってホントだったんだね〜!」
「さようでございます。今回は、あちらで湯もどしではなく、特殊な溶剤を使っていただきます。一定時間後に揮発性を持つようになる溶剤でして、調合しだいでご希望の日時に乾燥状態に逆戻りいたします」
「へえ〜、すっごいねえ。それなら持って帰ってこられるね」

 作曲工房に横付けされた真空チェンバー車から長いダクトが延ばされて、三階のピアノ室の窓へと接続されました。ピアノ室では、せんせいのピアノのうちの一台が樹脂製の大きな袋のようなものに覆われていました。袋とダクトがつながってスイッチが入ると、ピアノはみるみる小さく軽くなっていきました。

「では、リサイタルの成功をお祈りしております」
「アリガト、学士さん!」

 真空専門ディラック商会とペイントされた、焼き立てパンの巡回販売車のようなトラックは外環自動車道に向けて走り去りました。

 その晩、松戸博士がリンゴ丸でポロを迎えに来てくれました。

「ポロどん、準備はいいかの?」
「わ、博士! すぐに出発なの?」
「そうじゃ。さあ、行こう!」

 ポロは、小さくなったグランドピアノとレッド・ツェッペリン号を積み込むとリンゴ丸に乗り込みました。

 クランベリーヒルに到着したのは、明けて岩曜日の深夜でした。朝になって朝食を済ませると、ロケット号がタバコ野原のコンサート会場に案内してくれました。そこには6帖ほどの広さの、フタを取った箱を横倒しにしたような開放型の特設ステージが用意されていました。ポロは、まるで模型のようなグランドピアノをステージに置くと、溶剤を光曜日の朝に揮発するように調合して上からかけました。
しゅわーっと音がして、どんどんピアノが大きくなりました。

「カッコいいなあ〜!」
「ぴゆぴゆ!」

 ポロたちは、元の大きさに戻ってぴかぴか光るグランドピアノをしばらく眺めていました。それから、ポロはヒケールがなくても弾ける「つぐみの森で」を50回しかつっかえすに弾きました。

「ぴゆぴゆ・・」

 ロケット号は、ちょっと心配そうに拍手してくれました。
 それからポロたちは、博士が印刷してくれたコンサート案内パンフレットを空から付近一帯にまくためにレッド・ツェッペリン号にヘリウムを充填しました。パンフレットは一週間で自然に分解して土にかえるエコペーパーに植物色素で印刷してあります。パンフレットは、ぜんぶ図と絵だけで描かれていて誰にでも分かるようになっています。日時はクランベリーヒルの月の位置で示されていました。

つづく

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ピアノって、乾燥すると小さくなるのですね?心配そうに拍手するロケット号が可愛いです。リサイタル…どんな人達が集まるのでしょう?楽しみ♪ / みた・そうや ( 2004-07-18 19:07 )

2004-07-18 ポロの日記 2004年7月17日(風曜日)ポロのクランベリーヒル・リサイタル その2

ポロのクランベリーヒル・リサイタル その2


 ポロとロケット号と3000枚のパンフレットを積んだレッド・ツェッペリン号は、正午近くのクランベリーヒルの空にどっこいしょという感じで浮かび上がりました。重くて高度がとれないので、人口密度は低いものの、近所の森やオンディー沼のまわりにもどんどんパンフレットをまきました。一番の目的地はオラクルベリーです。ところが、町並みが見えてきたころにロケット号がパンフレットの残りがほとんどないことに気づきました。

「ぴゆぴゆ!」
「わ、しまった。景気よくまきすぎた!」

 仕方がないので、ポロたちはビルの店“マイクロソフト”に残った一枚を貼らせてもらって、ソフトクリームを食べてタバコの野原に戻りました。こうして岩曜日は過ぎていきました。
 その晩遅く、レッスンを終えたせんせいを松戸博士がクランベリーヒルに運んできました。

「せんせい!」
「やあ、ポロ。準備はできたかい?」
「ぴゆぴゆ!」
「あ、ロケット号も元気でやってるようだね」
「ぴ〜ゆぴゆ!」

 夜遅いのに、ポロとせんせいはそんなことをぜんぜん気にしないで月明かりのタバコ野原でリハーサルを始めました。ヒケールを使わない曲は、本気で練習しないと心配です。ポロは、とくいの「たこたこ上がれ」をせんせいと何度も連弾しました。もう、ばっちり。これはダイじょぶです。問題は「つぐみの森で」です。ポロは、何度も何度もくりかえし練習しました。
 その時、遠くのタバコの葉の陰で一匹の野ネズミピアノの音に耳を傾けていたことにポロは全然気がつきませんでした。野ネズミは、ネコのポロがこわくてじっと隠れていたのです。

 夜が明けてコンサート当日の風曜日になりました。ポロは、夕べの寝不足がたたってなかなか起きることができませんでした。ロケット号が起こしてくれたとき、もう、陽は傾いて、開演一時間前の午後5時でした。

「わ、たいへんだ! コンサートが始まっちゃう!」

 ポロは、毛並みを整えて蝶ネクタイをするとタバコ野原の特設ステージに向かいました。客席には松戸博士とロケット号とせんせいだけがいました。ま、開演まであと30分あるさ。開演10分前、まだ誰も来ません。ポロはだんだん心配になってきました。やっぱり人の住んでいない森にパンフレットをまいたのが失敗だったかも。
 開演直前、上空にカミナリのような音が響きました。なんと、それは三河屋デリバリーサービスのノストロモ号でした。ノストロモ号は、排気が演奏会場に流れ込まないように遠くの丘の斜面に着陸しました。それでもタバコ野原には強い風が吹き荒れました。大きなタバコの葉がめくれあがるほどでした。すると、どうでしょう。タバコの葉の陰には数えきれないくらいの野ネズミがコンサートを聴きにきていたのです。


つづく

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野ねずみ君達、ポロさんが怖かったのですね?なんだか可愛い子達ですね。(^^) / みた・そうや ( 2004-07-18 19:11 )

2004-07-17 ポロの日記 2004年7月17日(風曜日)ポロのクランベリーヒル・リサイタル その3

ポロのクランベリーヒル・リサイタル その3


 姿を見せてしまった野ネズミたちは大パニックになって、右往左往しているようでした。

「ぴゆぴゆ! ぴゆぴゆ!」

 ロケット号が「大丈夫、あのネコは君たちを食べないよ」(ポロの推測)と言って、野ネズミたちを安心させてくれました。
 ポロは大変な数の聴衆を前に演奏することに感激しました。ほどなくノストロモ号から降りてきた是輔(これすけ)さんが赤いバラの花束を持ってやってきました。

「ポロさん、おめでとうございます」
「わ、是輔さんアリガト!」

 開演時刻になったので、ポロは演奏を始めることにしました。ポロはがステージに立ってモーツァルトのように颯爽(さっそう)と礼をすると、さわさわという野ネズミたちの小さな拍手が聞えてきました。
 最初はリストの超絶技巧練習曲から第4番「マゼッパ」です。ポロは、用意したヒケールをこっそりと飲み込むと5つ数えました。

 1、2、3、4,5・・・ドかちゃかドかちゃかドかちゃかドかちゃか、ちゃーんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん、ちゃーんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん・・・・

 わ! 違うぞ、これはヒケールのキャンペーンソングじゃないか!

 ドかちゃかドかちゃかドかちゃかドかちゃか、ちゃーんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん、ちゃーんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん・・・・

 わあ、止まらないよ〜! ポロが弾きたいのはこの曲じゃないんだ〜!

 3分たって演奏が終わると、会場から野ネズミたちの感動のうねりが聴こえてきました。さわさわという野ネズミの拍手が鳴り止みません。
 ポロは、次のヒケールを用意しました。次はラヴェルの「夜のガスパール」から第3曲“スカルボ”のはずです。今度こそ、と5つ数えました。

 1、2、3、4,5・・・ドかちゃかドかちゃかドかちゃかドかちゃか、ちゃーんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん、ちゃーんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん・・・・

 あ〜、やっぱり販促用ヒケールでした。ところが、野ネズミたちは、アンコールに応えてくれたと思ったらしく、始まった途端に拍手の嵐が起こりました。

「ぴゆぴゆ、ぴゆぴゆ!」

 ロケット号も気に入ったらしく、興奮していました。

 ドかちゃかドかちゃかドかちゃかドかちゃか、ちゃーんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん、ちゃーんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん・・・・

 そう思ってよく聴くと、このキャンペーンソングも楽しくていい曲に思えてきました。

 ・・・わ〜、いい曲じゃないか〜! なんていい曲なんだ〜!・・・

 ポロは、さっきと打って変わってノリまくりの演奏になりました。ちらっと客席を見ると、是輔さんとロケット号が踊っていました。野ネズミたちもタバコの葉の陰から姿を表して熱狂しているようでした。演奏が終わると、1回目よりももっと大きな拍手が沸き起こりました。せんせいも松戸博士もいっぱい拍手してくれました。
 ポロは3曲目の「イスラメイ」をキャンセルして、名曲「たこたこ上がれ」を弾くことにしました。せんせいがステージ上がってきて、ポロと並んでピアノに向かいました。
 それはポロにとって最高の演奏でした。野ネズミたちはしんみりと聴き入っていました。


つづく

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2004-07-16 ポロの日記 2004年7月17日(風曜日)ポロのクランベリーヒル・リサイタル その4

ポロのクランベリーヒル・リサイタル その4


 演奏が終わるとしばらく静かでしたが、間もなく割れんばかりの大拍手がさわさわと沸き起こりました。
 ここでせんせいが、ポロに松戸博士とロケット号の連弾をポロに提案しました。

「え? 2人ともピアノ弾けるの?」
「うん、まあね」

 さっそくポロは2人をステージに招きました。ロケット号がプリモ、松戸博士がセコンドの椅子に座りました。ロケット号は念力で鍵盤を操作します。
 2人は、しんみりとしたとってもステキな曲を弾き始めました。

「せんせい、なんていう曲?」
「ザリガニ池の雨だよ」
「いい曲だね〜。誰が作ったの?」
「詳しいことは分からないが、ツトムというカエルらしい」
「へえ〜、天才だね。ポロ、ネコとしては負けていられないよ」

 それからポロは「つぐみの森で」を、ポロてき大記録のたった10回つっかえただけで弾ききりました。アンコールには大好きなバイエルの75番を弾きました。拍手の中、空を見上げるとクランベリーヒルの2つの月が並んで輝いていました。

「いやあ、ポロさん最高でしたよ」

 是輔さんはポロに握手すると、じゃ、まだ配達が残ってますんで、と言ってノストロモ号で宇宙に戻っていきました。
 森に戻っていく野ネズミたちに、ポロは手を振り続けました。野ネズミたちも何度も振り返りながら遠ざかっていきました。

「ねえ、せんせい」
「なんだい」
「まあ、ポロの予想としては、こういう時は次の日にね、野ネズミたちが木の実だとかさ、水晶だとかをさ、いっぱい持ってきてここに積み上げていくんだよね。感動てきだなあ」
「まあ、おとぎ話だとそういうこともあるけど、現実はどうかな。あまり期待しないで待っていようじゃないか」
「そんな、水をさすようなこといわないでよ」
「おとぎ話では主人公がこういうことを全く期待していないからプレゼントは感動的なんだ」
「そっか。しまった。予想しちゃいけなかったじゃないか〜」

 次の朝、特設ステージに行ってみると、ピアノが乾燥状態に戻って小さくなっていました。どこにも木の実や水晶はありませんでした。

「せんせいの言ったとおりだね、ゲンジツは」
「でも野ネズミたちは、きっと昨日のことは忘れないよ」
「だといいけど」
「ポロが忘れなければいいだけさ」
「さあ、帰ろう」

 せんせいは午後からレッスンなので、松戸博士がポロたちをリンゴ丸で地球まで送り届けてくれました。

 その3日後、松戸博士から連絡がメールが届きました。そこには、毎朝、猿雅荘の玄関前にドングリが何十個も届けられていると書いてありました。

「せんせい、ポロの勝ちだよ」
「ああ、いい話だね。私の負けだ。また、弾きに行かなくちゃ」
「うん、来年も弾くよ。ポロ、今度こそマジメにピアノを練習するぞ。音楽は人生の全てだ!」
「ああ、分かった分かった。今回は3日くらいは続きそうだね」
「あ、せんせい、信じてないでしょ。今度はホントだよ。今こそ確信したね。ポロはピアノを弾くために生まれてきたんだ」
「ああ、期待してるよ」
「あ、やっぱり信じてないでしょ」
「ま、ちょっとは期待してるよ」
「ホントなんだから」
「分かった分かった・・」

 ポロは本気なのに、せんせいはとうとう信じてくれませんでした。みなさんは信じてくれますよね。


おしまい


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先頭 表紙

来年はみんなを招待して下さいね。あ、もちろん野ねずみ君達も一緒に♪ / みた・そうや ( 2004-07-19 18:53 )

2004-07-11 ポロの日記 2004年7月11日(風曜日)つぐみの森で

つぐみの森で


「ねえ、アンジュちゃん」
「なあに、ポロちゃん」
「あのさ、もう一回“つぐみの森で”を弾いてよ」
「いいよ」

 ポ〜ンポロン♪ ポポポポポロ〜ンポロン♪

「んんんんん〜、いっいなあ〜〜〜」

 ポロンポロン〜♪

「そんなにいい?」
「サイコ〜だよ、サイコ〜」
「そう、ありがとう」

 ポロポロポン、ポロポロポン、ポロポロポロポ〜ン♪

「はい、おしまい」
「アリガト。ポロは幸せだよ、今、サイコーに幸せだなあ」
「そうね。いい感じかも」
「アンジュちゃんのおかげだよ」
「あたしも“つぐみの森で”は大好き」
「今度はポロが弾く」
「うん、聴かせて」

 ポ〜ン、えっと、ポン・・・それから、えっとポロ〜ンポン・・♪

「う、うまくいかない・・・」
「だいじょうぶ。“つぐみの森で”に聴こえるよ」
「へたくそに弾いてもいい曲だなあ」
「ポロちゃん、今日は、どうしちゃったの?」

 ポロポロリ〜ン♪

「たまには、ポロだって感傷的になるのさ・・・、あ、また間違えた・・」
「ポロちゃんのピアノ、下手ウマって言うか、なんて言うか、いい味だと思うよ」
「お世辞なんかいらないよ」
「下手ウマなんていう言葉じゃお世辞にならないでしょ。本当に、なんだか物悲しい感じが出てるのよ」
「うらぶれた感じでしょ。どうせポロは裏街道まっしぐらの人生さ」
「ふ〜ん。裏街道なんてカッコいいじゃない」
「そう言われてみると、裏街道を歩くのはもっとコワモテの人たちのような気がしてきた。ポロにはケモノ道がお似合いかも・・ポロポロリ〜ン♪」
「ポロちゃん、今日は本当にどうしちゃったの?」
「なんでもないよ・・・・。あのさ、アンジュちゃん、もう一回だけ“つぐみの森で”を弾いてくれる?」
「いいけど」
「わ、うれしいな」

 ポ〜ンポロン♪ ポポポポポロ〜ンポロン♪

「んんんんん〜、やっぱ、いっいなあ〜〜〜」

 ポロは、用事で出かけたせんせいに頼まれた留守番もしないで、とうとう一日中アンジュちゃんのピアノのそばで過ごしたのでした。


おしまい


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2004-07-05 ポロの日記 2004年7月4日(風曜日)初演コンサートの夜 その1

初演コンサートの夜 その1


 ポロは、奥さんとたろちゃんと3人でせんせいの新作初演コンサートに行きました。帰りに、ちょっと買い物をして帰る奥さんとタドタド駅前で別れて、たろちゃんとふたりで作曲工房に向かいました。

「たろちゃん、タドタド駅は暑いねえ」
「今夜は、どこも蒸し暑いわよ」
「芸術劇場はいい気持ちだったなあ」
「ポロったらクークー寝ちゃうんだもん」
「そ、それはないしょだよ、たろちゃん。せんせいに言っちゃダメだからね」
「ど〜しよ〜かなあ〜♪」
「わ、いじわるだ。たろちゃんは今日誕生日なのにいじわるだ〜」
「誕生日と何の関係があるのよ〜?」
「あ、そういえばアンジュちゃんも今日が誕生日だ。あ、アメリカも誕生日だ」
「何言ってんのよ」
「あ、見て見て、たろちゃん」
「なに?」
「お月さまが、お寺の屋根に腰かけてる」
「そう見えるだけよ」
「それがさ、そうじゃないんだよ。見つかるとコワイから静かにしててね。ダメだよ、お月さま刺激しちゃ」
「変なこと言わないでよ。月なんてすんごい遠いところで地球のまわりを回ってる岩のかたまりなんだから」
「ホントなんだよ。ホント」
「なによ。お月さまのおたんこなす〜!」
「わあ、だめだよ、聞えちゃうよ〜!」

 その声に気がついたらしく、ごろりん!とお月さまはお寺の屋根を転がって道路に降りてくると、こっちを向いてジロリと睨んでからポロたちを追いかけてきました。

「きゃあ〜、ポロ、何よ。あれ! 追いかけてくる!」
「だから言ったじゃないか〜! はやく逃げるんだ〜たろちゃん!」


つづく

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2004-07-04 ポロの日記 2004年7月4日(風曜日)初演コンサートの夜 その2

初演コンサートの夜 その2


 ごろりんごろりん、ごろごろりん。

 お月さまは道幅いっぱいに転がってきます。こんなシーンをインディ=ジョーンズの映画で見たことあるかも。

「たろちゃん、お月さまは犬に弱いんだ」
「じゃ、犬をけしかけてよ、ポロ」
「ぽ、ポロも犬に弱いんだ」
「じゃ、どうすればいいのよ〜! あたしも犬はダメよ」
「つかまると、おへそ盗られちゃうんだよ〜!」
「きゃあ、おへそはあたしのチャームポイントなんだからあ!」

 くたびれてきて、もう走れないかと思ったとき、目の前にポロの天敵のゴロがいました。ゴロは近所のお店のどう猛な番犬(ホントは小さな豆柴)です。 どうして、鎖から離れてるんだ〜! 

「わ、たろちゃん、前門のオオカミ、後門のトラだよ」
「あたしも、犬は苦手だけど、ゴロのほうが、まだ怖くないわ!」

 そう言うと、たろちゃんはゴロに向かって突進しました。その迫力にゴロはびっくりして吠えるのも忘れて立ちすくんでいました。なにしろ、後ろには大きなお月さまが。
すると、いきなり周囲が静かになりました。周りを見渡すと、お月さまの姿がありません。

「はあ、はあ。あ、お月さまが空に戻ってるよ、ポロ」
「はあ、はあ。あのさ、はあ、はあ。ポロが思うには、お月さまにもカラータイマーがあるんだと思うな、はあ、はあ」
「ゴロの威力よ。はあ、はあ」

 わんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわわん!

 今度は正気に戻ったゴロが、ポロたちを追いかけてきました。
 ポロとたろちゃんは、またまた一目散ににげだしました。へろへろになりながらも、なんとか作曲工房の玄関ドアをくぐりぬけ、無事に帰り着きました。

「あら、あなたたち遅かったわね。どこに寄り道してたのよ」

 先に帰っていた奥さんが、不審そうに言いました。

「ちょっとね、月がきれいだったから回り道しちゃったのよ。はあ、はあ」
「ポロは、したくなかったんだけど、はあ、はあ、ゴロまで追いかけてきたから、はあ、はあ」
「まあ、いいわ。早くお風呂入って」
「そ、そうするよ。たろちゃん、ポロ1階で入るから」
「あ、ありがと。じゃ、あたし2階ね」
「せんせいは、ちゃんと帰ってくるかなあ?」
「あたし、とむりんは、お月さまに向かってなんか言っちゃうと思うな」
「追いかけられると余分な脂肪が落ちていいかも」
「そうね」

 それからしばらくして、せんせいも息を切らせて汗びっしょりで帰ってきました。


おしまい


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ははは〜! / ポロ ( 2004-07-08 11:14 )
「道幅いっぱい」で収まってしまうお月さまって一体・・・ / shin ( 2004-07-06 22:49 )
と、tomlinせんせいまで〜!?一体何を言ったのでしょう? / みた・そうや ( 2004-07-06 15:41 )

2004-07-02 ポロの日記 2004年6月30日(波曜日)ポロの夢日記 その1

ポロの夢日記 その1



・水草月1FH日(画架曜日)

 停電したので電気の缶詰を開けたらカミナリさまが出てきて、ポロのおへそをワシづかみにして逃げていきました。あわてて追いかけて外に飛びだすと上空から小型の乗用雲が降りてきて、カミナリさまはそれに乗って積乱雲めがけて飛んでいきました。ポロは大急ぎで飛行船レッド・ツェッペリン号の出発準備をしましたが、ヘリウムの充填を終えるころには積乱雲はどこかへ去って、ぽかぽかとお日さまが照っているばかりでした。



・水草月21H日(竜骨曜日)

 夜中に近所の公園に散歩に出かけたら、お月さまが桜の木の枝に腰かけてもの思いにふけっていました。

「お月さま、どうしたの?」

 ポロが声をかけると、お月さまは凶悪な表情に変わって言いました。

「おまえが来るのを待っていたんだ!」
「きゃあ〜!」

 ポロは一目散に逃げ出しましたが、お月さまの速いこと速いこと、ポロはあっというまに捕まってしまいました。お月さまはポロのお腹のあたりを探っていましたが、おへそがないことが分かるとポロをポイっと放しました。

「おまえには用などない。あっち行け!」

 それからは、公園の桜の枝でもの想いにふけるお月さまを見ても決して声をかけないことにしました。



・霧月12H日(いるか曜日)

 久しぶりにナマズのポン吉くんのところに遊びに行きました。ポロが味見しちゃったシッポの先もちゃんと元に戻っていました。
「やあ、ポン吉くん」
「あ、ポロじゃないか。やっと直ったんだからもうぼくのこと食べないでよ」
「うん。がまんするよ」
「それより見てよ、ほら」
「わ、ポン吉くん、おへそがあるじゃないか」
「空から降ってきたんだ。お腹にくっつけたらぴったりフィットさ。たぶんカミナリさまの落とし物だよ。カッコいいでしょ」
「いいないいな。ポロさ、おへそ盗られちゃったんだ」
「あげないよ!」
「いいだろ、ちょっとくらい」
「何がちょっとさ、ひとつしかないんだよ、ぼくのおへそ」
「ナマズは、おへそなんかいらないよ!」
「わ、何をするの、ポロ〜」

 ポロがポン吉くんのおへそをつかんだ途端、ビリビリと全身が感電してしびれてしまいました。

「だから、カミナリさまの落とし物だって言っただろ」
「わ〜! ポン吉くんが電気ナマズになっちゃった」


つづく

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曜日・・・16進なのですね / みた・そうや ( 2004-06-30 14:39 )

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