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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

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2007-06-04 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第12回 エレクトラ先生さいごの授業 その2
2007-06-04 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第12回 エレクトラ先生さいごの授業 その3
2007-06-04 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第12回 エレクトラ先生さいごの授業 その4
2007-06-04 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第12回 エレクトラ先生さいごの授業 その5
2007-06-04 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第12回 エレクトラ先生さいごの授業 その6
2007-03-01 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第11回 ポロの一族
2007-02-28 ポロの日記 2007年2月28日(波曜日)なんか変だぞ
2007-02-12 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第10回 第3幸栄丸 その1
2007-02-12 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第10回 第3幸栄丸 その2
2007-02-12 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第10回 第3幸栄丸 その3


2007-06-04 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第12回 エレクトラ先生さいごの授業 その2

エレクトラ先生さいごの授業 その2

ポ「どういうことですか〜?」
エ「では、ポロちゃんが、このドーラ小学校に入学する前に、この学校についていろいろと想像してすごく楽しいところだと思っていたとします。ところが、入学してみると思っていたところと違っていて、勉強は難しいし、友達との関係も複雑だったりします」
ポ「ポロは、そんなことなかったよ!」
エ「たとえばの話です。本当のことが分かれば期待との差にがっかりすることもなくなることでしょう。高性能のパソコンがあればすごいCGが作れるのになあ、とか、お金持ちになれば絶対幸せになれるのに、なんていうのも思い込みかも知れません」
児童3「あたし、その意味が分かりました、先生。すごいことだと思います」
ポ「ポ、ポロだって分かったもん」
エ「偉いわ。ドーラでは皆さんもよく知っているゴーヒャ・キージェが“事実は間違えない”という有名な警句を残しています。私たちは他人から学ぶのではなく事実から学ばなければなりません」
ポ「は〜い!」
エ「ところが、それが意外にも難しいのです。先ほどもお話しましたが、地球では地面が平らであることは観察的事実なのです。あるいは太陽が地球のまわりを回っているように見えることも観察的事実なのです」
児童3「どうして地球人は太陽のまわりを回っているって分かったんですか?」
エ「やはり紀元前のサモスという地方にいたアリスタルコスという人は、視点を宇宙に移して太陽系を見直したのです。彼は太陽中心説を唱えました」
ポ「どうしてそんなことができたの?」
エ「地球にはドーラよりもずっと大きな“お月さま”と呼ばれる衛星があります。衛星は満ち欠けを繰り返しますが、太陽-お月さま-地球の作る角度が直角になるときに“半月”になることから、太陽はとても月よりもとても遠いところにあると観察的に気づいたのです。そんなに遠いところにある星(太陽)が地球のまわりを回るのは変だと気づいたのでしょう」
児童2「す、すごい!」
エ「アレクサンドリアというところにいた、アリスタルコスよりも少し歳下のエラトステネスという人は、アレキサンドリアと、それよりずっと南にあるシエネという町では夏至の時に太陽の高さが違って見えることから、地球は球形であり、同時に太陽の高度を測れば地球の大きさも求めることができると考えたの」
ポ「すごすぎる!」
エ「そして、エラトステネスは地球の全周は46250キロメートルであると計算しました。実際は、およそ40000キロメートルですから、正確な計測器のなかった当時としては驚くほど見事な数字でした。このとき、すでに地球には太陽系の姿をおぼろげながらも把握していた人がいたことになります」
児童1「地球人もすごいじゃん」
エ「ところが、これをすごいと思えるのは、これを理解できる人たちだけです。残念ながら、この考えは広まることなく、つぎの時代を迎えます」
ポ「どういう時代?」
エ「誰もが納得しやすい天動説の時代です」
ポ「やっぱり地球人はバカだと思います」

つづく

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2007-06-04 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第12回 エレクトラ先生さいごの授業 その3

エレクトラ先生さいごの授業 その3

エ「そんなことはありません。太陽系の姿を捉えるという点ではドーラは有利な条件が整っていましたが、ドーラでも同じようなことはありました。たとえば音楽です。音楽の真の姿は地球人から教えられました」
ポ「でも、地球人自身はまだ気がついてないって聞いてます。だからやっぱり地球人はバカだと思います」
エ「そうね。どこの星にも賢い人もいればそうでない人もいます。だから地球人はみんなバカだと決めつけることはできません」
ポ「でも、やっぱりバカだと思うな・・・・」
エ「これは、その後のヨーロッパという地域でのお話です。当時はカトリック教会が人々から絶大な信頼を勝ち得ていました。その教典である聖書には天動説そのものが書かれていたわけではありませんが、分かりやすい天動説が信じられていました。最初に述べたように、これに異を唱えると異端とされました。異端というのは仲間ではないものを排除しようとする心理のことです。これを“村の論理”と呼ぶ地球人学者もいます。地球の日本という地方では多数派に従わなかったり、単に気にくわないという理由で仲間はずれにすることを“村八分”と言うからです。これは地球人全般に見られる傾向で、その理由を、人間が野生であった時代に集団で身を守ったことに由来するのではないかなどという説を唱える学者もいます。それに気づかぬ人々も多く、地球では子どもから大人の社会にいたるまで、実に隅々まで“イジメの構造”が支配しています」
ポ「先生、ポロは絶対地球人はバカだと思います」
エ「視点が固定してしまうことこそ馬鹿げたことですよ、ポロちゃん」
ポ「だって、そうなんだもん・・・」
エ「さて、天動説に対抗する考え方を地動説と言いますが、地動説が全て正しいわけではありません。今では地球では誰もが地動説を信じていますが、地動説を理解している人はわずかです」
ポ「やっぱり地球人はバ」
エ「ポロちゃん、少し静かにしていてね」
ポ「だってバカだもん!」
エ「アリスタルコスから地球が1800公転もした後の時代、コペルニクスという人が、初めて地動説を理論化しました。それは地球の暦で1543年に出版された「天体の回転について」という書物に記されています。でも、コペルニクスは惑星軌道を真円であると仮定したために、これは正しい地動説ではありませんでした」
ポ「やっぱり地球人は」
エ「ポロちゃん、お黙りなさい」
ポ「・・・・・」
エ「中立の立場をとっていたティコ・ブラーエという天文学者は、どちらの説が正しいのか観測的に実証しようと思い立ちました。それで助手のケプラーとともに、望遠鏡が発明される前の当時としては最も正確な惑星の位置測定が行いました」
児童3「結果はどうだったのですか?」
エ「そのどちらでもありませんでした。ただし、細かく分けた要素ひとつひとつについて正誤を調べて多数決で考えると、天動説のほうがわずかに合致する数が多かったのです。それで、ティコ・ブラーエは“今のところ、天動説のほうに分がある”という結論に達しています」
ポ「(やっぱりバカだ)」

つづく

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2007-06-04 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第12回 エレクトラ先生さいごの授業 その4

エレクトラ先生さいごの授業 その4

エ「ティコ亡き後、ケプラーは天動説か地動説かではなく、観測結果こそ事実であると考えて、観測結果から太陽系の姿を導き出そうとしました。その結果、惑星は太陽のまわりを楕円軌道を描いて公転しているという結論に達します。まさにゴーヒャ・キージェの言うとおり“事実は間違えない”のでした」
ポ「(ちょ、ちょっと賢いかも・・)」
エ「ケプラーは惑星の運動に関する3つの法則を導き出しましたが、これが実際の惑星の運動を実によく説明したので、天文学者たちはケプラーの地動説を支持するようになります」
ポ「(ふ〜ん)」
エ「ケプラーと近い同時代に生きたガリレオ・ガリレイという人は長く大学で天動説を教えていましたが、後に地動説支持に回って異端と見なされ、宗教裁判にかけられてしまいます。そこで自説を撤回するのですが、それは以前にジョルダーノ・ブルーノという人が異端の罪で火刑になっていたからかも知れません」
ポ「(こわ〜)」
エ「ジョルダーノ・ブルーノという人は地動説を撤回しなかったから火刑に処されたと思われがちですが、ブルーノの宇宙観は地動説などという狭い範囲のものではありませんでした。彼がたどりついたのは現在の地球でもドーラでも信じられている“無限宇宙論”でした。宇宙は均質で一様に無限に広がっているという考え方です。太陽系外惑星の存在はもちろん、地球外の生命についても存在を信じていました。地球の暦で1924年にエドウィン・ハッブルという人が天の川銀河の外にも無数の銀河が存在することを発見するまでは、一般には広まらなかった考え方です」
ポ「先生、地球人も少しはすごいと思います」
エ「よかったわ、ポロちゃん」
ポ「はい!」
エ「それでも、当時の地球人は空気には重さがないと漠然と思い込んでいました。ガリレオの弟子でもあったトリチェリという人は、10メートル以上深い井戸から吸い上げポンプで水を汲み上げられないことから、水の代わりに水銀を使って実験を行い、その現象を確かめました。その結果、吸い上げポンプと見なした上部が閉じたガラス管の中では、水銀面は76センチの高さまでしか上がらないことが分かりました。その上にできる空間を“トリチェリの真空”と言います」
ポ「(・・・・)」
エ「それを知ったブレーズ・パスカルと言う人は、それが気圧計であることに気づき、それを高い山の上まで運ばせました」
ポ「(・・・・)」
エ「果たして水銀柱は低くなりました。山の上では積み重なる空気の層が薄くなるので気圧が低いのです。では、ずっと上空、宇宙ではどうなるのでしょうか?」
ポ「(・・・・ごくり)」
エ「そうです。宇宙は真空であると推論できます」
ポ「せんせい、地球人は頭がいいと思います!」
エ「まあ、すいぶんと考えが変わったのね」
ポ「“ポロの原理”と“宇宙の原理”が一致してきたんだと思います」
エ「そうね。でもまだまだそう思うのは早いかも知れないわ。それほど事実っていうのは分かりにくいのよ」
ポ「はい!」

つづく

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2007-06-04 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第12回 エレクトラ先生さいごの授業 その5

エレクトラ先生さいごの授業 その5

エ「その後、ゲーリケという人が真空ポンプを発明して“マグデブルクの半球”と呼ばれる実験を行って、デカルトという人が存在を否定した真空の存在を証明しました」
ポ「すごい! 宇宙に行かなくてもそんなことが分かっちゃうんだ〜」
エ「そのためには、何が事実で何が事実ではないのかが分かる力が必要がです。論理の組み立てには事実以外は使ってはならないからです。ただし、これは一般論です。数学などでは仮想の要素が仮定として論理の組み立てに用いられることがあります」
ポ「奥が深いなあ」
エ「さらに時代が下って、地球の暦で19世紀末にはツィオルコフスキーという人が、真空中でもロケットエンジンを使えば作用反作用の力で前進できることを理論的に示しました。この人は軌道エレベータ理論にまで言及していますが、周囲が理解できなければ誰も支持しませんから、人々からは気にもとめられていませんでした」
ポ「知られていることと理解されていることは違うっていうことですか?」
エ「そのとおりよ、ポロちゃん。でも、一人だけ、これを重大なことだと感じた人がいました。それがロバート・ゴダードでした。この人はドーラにおけるゴーヒャ・キージェの立場に位置する人でした。ゴダードの月ロケット打ち上げ計画は、世間の嘲(あざけ)りの対象となりました。“真空中でも飛行できる”というゴダードの主張に対して、ニューヨーク・タイムズという一流新聞社でさえ、社説でゴダードは“高校で学ぶべき知識を持っていないようだ”と非難したほどです」
ポ「それは、きっとその時代の地球人の考えを代弁してるんだろうね」
エ「そのとおりです。おそらく人々は真空中ではロケットを推し進める物質、逆に言うとロケット噴射を受け止める空気や水のようなものがないから前には進めないと考えていたのかも知れません。これは人々がニュートンの“作用・反作用の法則”を実は理解していなかったということを示していると言えるでしょう。今でも、地球人の多くは地球が1自転すると一日であると信じている人が少なくありません」
ポ「やっぱり地球人はバカかも」
エ「つまり、地動説は厳密に言うと理解されているわけではないということです。地球は1年間に約366.25自転しています。1自転は23時間56分です。しかし、地球は一日におよそ角度で1度弱、公転軌道上を移動するので、太陽が空の同じ位置に戻るまでは4分余計にかかって24時間かかります。簡単なことですが、理解しようと思わない人にとってはどうでもよいことなので、真実は霧の中のままになってしまいがちです」
ポ「ポロは断言するね、地球人はバカだと思うな」
エ「また考えが変わったのね、ポロちゃん。ポロちゃんにはどこまで本当のことが分かるかしら。もう少し話を進めるわ」
ポ「ポロは、もう考えなんて変わらないよ。地球人はバカだよ」
エ「1969年、人類初めての月面着陸の前日にニューヨークタイムズは49年前のゴダード批判を行った社説について誤りを認めて謝罪し、1992年にはローマ教皇ヨハネ・パウロ2世がガリレオ裁判が誤りであったことを認めてガリレオに謝罪しました。謝りに気づいて謝罪するというのはとても素晴らしいことです」
ポ「遅すぎだと思うよ、ポロは」

つづく

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2007-06-04 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第12回 エレクトラ先生さいごの授業 その6

エレクトラ先生さいごの授業 その6

エ「いいえ、遅すぎることはありませんよ、ポロちゃん。15世紀の地球にはレオナルドという人がいました。レオナルドは“事実から学べ”と言いました。そして、事実を知るために画家という職業を選びました。創造者たる神の行い全てを知る方法は厳密な観察による事実の把握であり、それは絵に描かれて初めて自分自身がどれだけ正確に事実を捉えたかが分かるからです」
ポ「・・・・ちょっとすごいな」
児童3「すごいのはエレクトラ先生だと思います。あたし、いま感動してます」
エ「ありがとう」
児童2「ぼくも! エレクトラ先生は、どうしてエレクトラ先生になれたんですか?」
エ「それはね、とむりんせんせいのおかげです」
ポ「とむりんせんせいって誰ですか?」
エ「地球の音楽家です。私はせんせいのもとで学びました」
ポ「え゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!! エレクトラ先生は地球に留学してたのか!」
エ「そうです。私の師と仰ぐのはとむりんせんせいしかいないと確信したからです」
ポ「ポロは地球人を見直したよ。ホント見直した。ポロはおっきくなったら地球に留学するよ、ぜったい決めた」
エ「ドーラでは当たり前になっている音楽の“ドレドレ感”も、地球では、まだまだ理解されていません」
ポ「意味ないじゃん!」
エ「でも、いままでお話したように、地球人は着実に真実にたどりつこうとしています。未来は決して暗くないと思いますよ」
ポ「そうかなあ」
エ「確かに不安な点はあります。それは、地球人が地球を汚してしまう習性のようなものがあって、その重大さに気づいていないことです。その星の文明度は水のきれいさをどれだけ守れているかで表されます。それで言うと、地球は最低点に近いのです」
ポ「やっぱり・・」
エ「地球のような星では、だれより先に真実にたどりついた人たちは多くが無名です。ずっと後になって人々が真実に追いつくと、誰が正しかったのかを理解します」
ポ「ポロが地球に行って、真実を人々に知らしめるよ、ぜったいやる。やってみせるよ!」
エ「そう思ってくれるのはうれしいわ。でも、それはポロちゃんの思い込みかもしれないわ。大切なのは真実を見極めることよ」
ポ「ふふふ。ポロならダイじょぶさ」

 こうしてエレクトラ先生さいごの授業が終わりました。


※これはとむりんせんせいの実際のレッスンを元に時系列順に並べ直したものです。事実確認のためにはウィキペディアを参考にさせていただきました。内容に誤りが合った場合、その責はすべて、私“エレクトラ”が負うものです。とむりんせんせい、ポロ師範、およびウィキペディア関係者各位に深く感謝いたします。

 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

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 ポロの掲示板はここ。
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Il Gatto Dello Sport(ポロ・プロジェクト)のメールアドレス
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2007-03-01 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第11回 ポロの一族

 
 ポロの一族

むかし、たくさんのポロがいた。
ポロは書物を読み
嘘をつかず
みなりを気にせず
修業のために飯を喰わなかった
うしろ指をさされると修業した
恥ずかしい心が生じると修業した
ポロは銭をためるかわりに修業した
つらいと言うかわりに修業した
恩を感じると胸の中にたたんでおいて
あとでその人のために修業した
いくらでも修業した
やがて歳をとるともともと白かった毛並みが本当に真っ白になって雪と区別がつかなくなった
しわが深く眉毛はながく
そして声がまだ遠くまで聞こえた
ポロは心を鍛えるために自分の心臓をふいごにした
そして種族の重いひき臼をしずかに回した
やがてポロは全てを悟ると次々に死んだ
悟りの境地は誰にも伝えることができず到達したものだけがそれを得た
ポロが次々と死ぬと到達しようとする者が少なくなった
ポロは死んで天の星となったが悟らぬ者には区別がつかなかった
そして最後のポロが地上に残った
悟ろうとする者たちがわずかにその道場に集ったが
悟りの境地は果てしなく遠かった


※ この作品は、タイトルを萩尾望都「ポーの一族」、内容は中野重治作「豪傑」を下敷きにしています。

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2007-02-28 ポロの日記 2007年2月28日(波曜日)なんか変だぞ

 なんか変だぞ


 朝、せんせいの奥さんが起きてきて窓の外を見て言いました。

奥「あら? 水が引いてるわ」

 夕べ、ポロの知らないうちに大雨でも降ったのでしょか?

ポ「きのう、水が出たの?」
奥「きのうじゃないわ。ずっと前からよ。そろそろ高台に避難しないとって話してたじゃないの。ポロちゃん、どうかしたの?」

 そこにせんせいが来て言いました。

せ「いや、きのう雨は降らなかったし、ここしばらくは水浸しになったことはないよ」
奥「そんなことはないわ。昨日の夜、引っ越しのこと相談したばかりじゃないの」

 続いて風にいちゃんが起きてきてバルコニーから空を見上げて深呼吸すると言いました。

風「あれ? リングがないぞ」
ポ「あはは。リングがあるのは土星とか天王星とかだよ」
風「それじゃなくて、静止衛星軌道をリボンみたいな薄い構造体でつないだリングだよ」
ポ「もしかして、軌道エレベータがスポークみたいに何百ぽんもあるやつ?」
風「そうに決まってるだろ。あれがなかったら地上のエネルギー供給はどうなるんだよ」
ポ「あのさ、風にいちゃんは夢を見てるんだと思うな。そんなのの実現は100年さきだよ」
ポ「ポロこそ変だぞ。リングがないのをおかしいと思わないなんて。ちょっとテレビのニュースを見てみよう」

 それから起きてきた海にいちゃんも変なことを言いました。

海「ボンビーがいないけど、出てっちゃったのか?」
ポ「ううん、ずっと前にいなくなったままだけど、きのうあたり、また来たの?」
海「なに言ってんだ。ボンビーはずっとうちにいて、キング・ボンビーにまで育てたじゃないか」
ポ「ぷるぷるぷる。ボンビーなんていないよ。そんなのがいたら作曲工房は破産だよ」
海「もともと破産してるみたいなもんじゃないか」

 奥さんは、家族の言葉を聞いて「みんな変なことを言うわね」と言いました。せんせいは「別に世界が変わってしまったとは思わないよ」と言いました。

 学校に出かけたはずのたろちゃんも、すぐに戻ってきて変なことを言いました。

た「どこでもドアがないのよ」
ポ「あはは、そんなのドラえもんの世界の作り話に決まってるじゃないか〜」
た「なに言ってんのよ。ATS(ラピッド・トランスポーテーション・システム)のことをみんながそう言ってるだけよ。とにかく、入り口がなくなってるの」

 たろちゃんは、ルクセンブルクにある美術学校にATSで瞬間移動して通学してるんだそうです。でも、ポロの記憶では、たろちゃんは近所の高校に通ってるはず。
 ポロは、だんだん事情がのみ込めてきました。みんなで相談してポロをダマそうとしてるのです。
 ふふふ。ポロはいつもみんなにダマされてるので、もう、こんな簡単な手には引っかからないもんねえ。
 
 午後になって、ポロはいつものように3時のお茶のためにイモようかんを買いに生きました。
 ところが、どこにもイモようかん屋さんがありませんでした。

おしまい

 注:ホントにホントの話だよ。


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2007-02-12 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第10回 第3幸栄丸 その1

 第3幸栄丸 外伝 その1

 地球温暖化は今に始まったことではなく、はるか昔から地球は二酸化炭素や温暖化ガスを出し続けてきました。動物の呼気、草食動物のゲップ、山火事、それに恐竜のオナラの成分にも温暖化ガスは含まれていました。
 それで余分な二酸化炭素をドライアイスにして、遠く太陽系の外縁部を公転させるというアイディアが南米コロンビアの古代プレコ人によって実用化されました。今でもコロンビアの首都、ボコタの黄金博物館に当時の二酸化炭素運搬船の模型が「黄金ジェット」という名前で展示されています。
 この二酸化炭素投棄システムは非常によくできていましたが、プレコ文明の崩壊とともに失われてしまいました。
 これは、プレコ文明の遺跡から発掘された粘土板に記された物語の一部を元に加筆復元された物語です。可能な限り原典に忠実に復元作業を行っておりますが、それゆえ、逆に現代の物語ではないかと思われてしまうような記述も出てまいります。それらは全く作為的になされたものではないことをご了承ください。
 この研究が20世紀以降の地球文明の工業化による急激な温暖化の抑制対策のヒントとなれば幸いです。

 プレコ文明研究委員会


 (1)二酸化炭素フィルター付き足踏みポンプ

ポロ「キャプテンレンジャー、早く二酸化炭素を集めちゃおよ。そうしないと日が暮れちゃう」
レンジャー「そうだな。よし、やるか」

 ポロとキャプテンは、鋳物製のお釜のようなポンプのペダルを両足でせっせと踏みました。ペダルを踏むと空気が吸い込まれて、その中から二酸化炭素だけが漉しとられて圧縮されます。100回踏むとだいたい1グラムくらいのドライアイスができます。ポロたちのほかにも何千人もの人や猫やアルマジロが働いていました。
 ここで働いている人たちには太りすぎなんてありえませんでした。それで、何千年かあとに、シェイプアップ・ステッパーなどの健康運動器具が売り出されたりすることになるのですが、ポロたちはそんなことを知るよしもありませんでした。

つづく

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2007-02-12 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第10回 第3幸栄丸 その2

 第3幸栄丸 外伝 その2

 (2)二酸化炭素運搬船第3幸栄丸出航準備

是輔「液体メタンがたりないようですぜ」
司令官「うむ。牛の糞の発酵を急がせよう」
是「酸素の液化も急いでくだせえ」
司「それは、間に合うから安心したまえ」

 是輔がパイロットを務める第3幸栄丸は、100隻以上あるプレコ王国の宇宙船のひとつでした。
 ドライアイス運搬船は、鉄と銅、そして柔らかい性質を利用して金と水銀、気密を保つための天然ゴムでできていました。燃料は家畜の糞から作られるメタンとドライアイスを作る時の副産物である酸素でした。まだメタンハイドレート(海底にある結晶化したメタンと水分子)が発見される前だったのでバイオ燃料だけで飛んでいました。遠い将来、バイオ燃料が脚光を浴びるなどとは、是輔たちには知るよしもありませんでした。
 

 (3)海面冷却技術

ぽん吉「船長、そろそろ高温海面領域に到着です」
船長「よし、漕ぎ方やめ。ドライアイスを浮かべるんだ」
船員たち「へい!」

 プレコ王国の神官たちは太平洋の海面温度の変化が作物の豊作・不作に影響を与えることに気づいていました。そのために、海面温度が上がると作りためたドライアイスの一部を海に浮かべて海面温度を調節していました。プレコ文明が滅びると海面温度が上下したために陸地では嵐が荒れ狂ったり日照りになったりしました。それで海面温度の上下は後にエルニーニョとかラニーニャと呼ばれて恐れられるようになりました。しかし、ぽん吉たちには知るよしもありませんでした。


 (4)第3幸栄丸発進

是「こちら第3幸栄丸。発進を許可願います」

 是輔はテレパシーで管制塔に呼びかけました。

管制官「こちら管制塔。第3幸栄丸、発進を許可します。よい旅を」
是「じゃあ、ちょっくら行ってきやす」

 どどどどどどどどどど〜〜〜〜!

 第3幸栄丸は、自らの生み出す推力に加えて、地球が自転する角速度を利用してプレコの空に舞い上がっていきました。ずっと将来、多くの宇宙基地が赤道近くに作られるようになるとは是輔たちには知るよしもありませんでした。

つづく

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2007-02-12 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第10回 第3幸栄丸 その3

 第3幸栄丸 その3

 (5)木星第5衛星“アマルテア放送局”

アナ「ヘイ、宇宙のトラック野郎たち! 元気でやってるか?」
是「もち!」
アナ「おう、今、なんだか返事があったような気がするぜ。いいか、お前ら絶対に周波数変えるなよ。ライバルのタイタン南銀座放送局なんかに合わせやがったらタダじゃおかねえぞ」

 第3幸栄丸は電波の受信設備を持ちませんでしたが、是輔のテレパシー能力はアマルテア放送局の名物アナウンサーの精神波を捉えるには充分でした。

アナ「よ〜し、今日もお話の時間だ。今回はSF未来活劇だ。楽しみにしてろよ」

 間もなく女性アナウンサーの声で朗読が始まりました。

 * * * * * * *

 ものの数分でラジェンドラは影との接触に成功した。それは、やはりドーラ2の脱出ポッドだった。脱出ポッドと接舷後、ドッキング。がっちりとつながった共通規格のドッキングポートから出てきたのは、正真正銘のドーラの王位継承権第1位アメン王子だった。

「アメン王子、ご無事で。お怪我はありませんか!」
「ありがとう、かすり傷だ。君の名前は?」
「ドーラ防衛軍宇宙航空隊、第3哨戒機甲師団、第3哨戒部隊所属タブタ2等空士であります!」

 タブタは雲の上の存在である第1王子を目の前に緊張した。

 * * * * * * *

是「カックいいなあ〜!」

 * * * * * * *

タブタが主操縦席を王子に譲ろうとすると、王子は「この船では君が正パイロットだ」と言って副操縦席についた。

「愛称は?」
「はっ?」
「この船の愛称だよ」
「はっ、ラジェンドラであります」
「いい名前だ。よし、ラジェンドラ発進を発進させたまえ」
「アイアイサー!」

(2005-09-27 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第5回「空飛ぶタブタ」より)

 * * * * * * *

 是輔には、遠い将来、自分の子孫が宇宙船パイロットになってアマルテア放送局のファンになるなどとは知るよしもありませんでした。

つづく

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