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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2004-06-14 ポロの日記 2004年6月8日(熱曜日) 黒船来航 その1
2004-06-13 ポロの日記 2004年6月8日(熱曜日) 黒船来航 その2
2004-06-12 ポロの日記 2004年6月8日(熱曜日) 黒船来航 その3
2004-06-11 ポロの日記 2004年6月6日(風曜日)ロケット号と一緒 その1
2004-06-10 ポロの日記 2004年6月6日(風曜日)ロケット号と一緒 その2
2004-06-09 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その1
2004-06-08 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その2
2004-06-07 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その3
2004-06-06 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 旅立ち編その1
2004-06-05 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 旅立ち編その2


2004-06-14 ポロの日記 2004年6月8日(熱曜日) 黒船来航 その1

黒船来航 その1


 威厳のある、という形容詞がぴったりの4隻からなる大型UFO船団が地球に向かって飛行していました。それらの船は銀河連邦が派遣した調査船団でした。
ところが、途中で宇宙嵐に遭遇して4隻とも推進装置とコントロールの一部に被害を受けてしまいました。
 そこを通りがかったのが是輔さんの乗る三河屋のデリバリーシップ、ノストロモ号でした。

是輔  「こちら地球船籍のノストロモ号、聞こえますか?」
UFO旗艦「こちらは、銀河連邦所属サスケハナ号艦長のカレレン。宇宙嵐に遭遇、被害を受けて航行に支障を来している」
是輔  「私は是輔といいます。すぐ近くにあるクリューガー60までなら飛べますか?」
カレレン「なんとかなりそうだが、クリューガー60には宇宙船の修理ができるよう基地があるのか?」
是輔  「基地はないっすけどね、修理くらいならなんとか」
カレレン「我々の認識では未開惑星だが急を要する事態だ。了解した。そちらへ向かう」
是輔  「第2惑星のP2に向かってください。先導します。先に着陸して誘導ビーコンを発信しますから、それに従ってください」


 猿雅荘でポロたちが朝ご飯を食べていると、アンシブルが着信しました。ロケット号がすぐに応対しました。

ロケット「ぴゆぴゆ?」
是輔  「あ、ロケットの兄さん。是輔です。これからちょっと、お客さんを船ごと連れて行きますんで、松戸博士によろしくお伝えください。大型4隻でさ」

 これだけでしたが、松戸博士には通じました。

松戸博士「地球圏のものではない船の修理じゃな」

 ほどなく、轟音とともにタバコ野原にノストロモ号が舞い降りてきました。誘導ビーコンが発射されると、続いて空に巨大なUFOが現れました。さしわたし数キロメートルに及ぶと思われる黒い宇宙船が4隻。順々に広々としたクランベリーヒルの丘の斜面に降りてきました。あまり大きいので4隻目は、はるかかなたに見えました。

ロケット「ぴゆぴゆ〜!」
松戸博士「黒船来航か。こりゃ、壮観だわい」
ポロ  「こ、コワいよ〜」
松戸博士「なあに、大丈夫じゃ。是輔くんが連れてきた客人だからのう」

 博士を先頭に、ポロたちは外へ出ました。

是輔  「博士、突然すみません。どっかの星の船なんですけど、宇宙嵐にやられちゃったみたいで・・」
松戸博士「修理が必要なのじゃろう?」
是輔  「たぶん、そういうことになると思います」

 すると、惑星表面用バギーに乗った宇宙人が4人、ノストロモ号の近くまでやってきました。ひとりの宇宙人が歩み寄って是輔さんと松戸博士の前に立つと、ていねいに礼をしました。ポロは、高貴な人か高位の人だろうと思いました。

カレレン「初めまして。銀河連邦航空宇宙軍のカレレン提督です。旗艦サスケハナ号に乗艦しています」
是輔  「こりゃ、どうも。あっしがノストロモ号の是輔です」
カレレン「見事な誘導、痛み入ります」
松戸博士「わしは松戸博士じゃ。よろしく、カレレンさん」
カレレン「技術者の方ですね」
松戸博士「まあ、そんなようなもんじゃ」
カレレン「宇宙嵐の被害は思いのほか大きく、自力での修理は不可能という報告を受けています」
松戸博士「修理ならお任せくだされ。さっそく故障箇所を見せてくださらぬか」

 ポロは怖くて宇宙人のそばに近づけませんでした。だってカレレンさんの黒い背中には小さな翼があって、おまけに矢印しっぽが生えていたからです。


つづく

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2004-06-13 ポロの日記 2004年6月8日(熱曜日) 黒船来航 その2

黒船来航 その2


カレレン「失礼ですが博士、このような未開惑星に私たちの宇宙船を修理できる設備と技術があるとは思えないのですが・・」
松戸博士「はははは。森と湖ばかりの星では、そう思われてしまうのも無理はないのう。ノストロモ号の動きを追っておったろう。あんたたちの船の数倍もすぐれておったのが分かったはずじゃ」
カレレン「たしかに、そのような動きはしていました。しかし、私たちの調査では、この星は未開の原始惑星のはず」
松戸「じゃが、10年ほど前から地球の植民星じゃ」
カレレン「地球も未開文明の惑星のはず」
松戸博士「あんたたちが調査したのはいつのことじゃ?」
カレレン「地球の公転周期で100年ほど前」
松戸博士「はっはっは。確かに、その頃は未開じゃった。人類は100年であんたたちを追い抜いた」
カレレン「そんなばかな」
松戸博士「事実じゃ。あんたたちは、母星を出てから100年くらい経っておるということじゃな」
カレレン「まさしく、そのとおり」
松戸博士「地球では、それは、あんたたちの宇宙船がドンガメのように遅いことを意味しておる」
カレレン「まさか。サスケハナ号は宇宙最速の宇宙船だ」
松戸博士「是輔君」
是輔  「はい、なんでしょう博士」
松戸博士「提督をノストロモ号に乗せて地球をちょいと往復してきてくれんかの?」
是輔  「ワープ8ですね」
松戸博士「そうじゃ」
是輔  「おやすいご用です」
松戸博士「カレレンさん、あんたのサスケハナ号だと、地球まで6年かかるんじゃないだろうか」
カレレン「そうです」
松戸博士「じゃあ、ちょっとノストロモ号に乗って、わしらの技術水準を体験してみてはいかがじゃろか。部下の技術将校も連れていくといい」
カレレン「私は船団を離れるわけにはいかない。技術将校3名を行かせよう」

 ノストロモ号は、宇宙人のエンジニア3人を乗せて空に消えました。

松戸博士「さあロケット号。ノストロモ号が帰ってくるまでに波動エンジンを焼き上げるんじゃ」
ロケット「ぴゆぴゆ!」
松戸博士「ポロどんも手伝っておくれ」
ポロ  「うん、いいよ。ポロも波動エンジンキットを組み立てたことあるよ」
松戸博士「そうじゃったな」

 それからポロとロケット号は、小麦粉をこねたりダイオードを揃えたりして波動エンジンを4基作りました。松戸博士はサスケハナ号の故障箇所を調べて、猿雅荘のキッチンに戻ってきました。

松戸博士「どうじゃな、できたか?」
ポロ  「できたよ。とってもおいしそうだよ!」
松戸博士「おう、こんがり焼けていい出来上がりじゃ」
ポロ  「サスケハナ号はどうだった?」
松戸博士「美術的には、なかなか美しい船じゃったが、いかんせん旧式のポンコツだ。冷凍睡眠航法は時間の無駄というものじゃ」
ポロ  「ほかの船は?」
松戸博士「全部フレガット級という銀河連邦では最新最高の船らしい。残りはミシシッピ号、プリマス号、サラトガ号とか言っておった」
ポロ  「でもさ、ちょっとカッコいいよね、大きいし」
松戸博士「さまざまな装置の小型化に失敗した悪い例じゃ。小型化に失敗すると資源も無駄にするものじゃ」

 ほどなくノストロモ号が戻ってきました。技術将校たちは興奮した様子でカレレン提督に報告しました。
 カレレン提督が猿雅荘に来て言いました。


つづく

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2004-06-12 ポロの日記 2004年6月8日(熱曜日) 黒船来航 その3

黒船来航 その3


カレレン「技術将校たちから詳細を聞きました。驚くべきことですが、あなたたちの技術に私たちは到底届かないということです。修理をお願いできるでしょうか」
松戸博士「そう来ると思っとった。すぐかかろう」
カレレン「どのくらいかかりますか?」
松戸博士「そうじゃな。4隻で2時間というところかな」
カレレン「2時間! たったそれだけですか? では、当方の技術者たちを自由にお使いください」
松戸博士「いや、わしらはこの3人で十分じゃ。ま、何かあったらお願いするよ」

 ポロたちは、こんがり焼き上がった波動エンジンを持って、黒船に乗り込みました。数百メートル四方という大きなエンジンルームのひとつの床に、ショートケーキひとつくらいの小さな500光年タイプの波動エンジンを瞬間接着剤で固定します。それをコントロールするラジコン・コントローラを機関室とブリッジに2つ配置しておしまいです。博士は、おまけのディーンドライブ方式のエネルギージェネレータもセットして、艦内のエネルギー供給能力を1万倍に引き上げました。

松戸博士「これで、いいじゃろう」
ロケット「ぴゆぴゆ!」
ポロ  「試運転する?」
松戸博士「もちろんじゃ」

 ポロたちはサスケハナ号のブリッジに招かれました。

カレレン「艦長、ゆっくりと上昇だ」
艦長  「機関室、発進準備は?」
機関長 「いつでもオーケーです」
艦長  「リフトオフ!」

 次の瞬間、サスケハナ号はクリューガー60から1億キロほど離れていました。

カレレン「・・・・・・・!」
松戸博士「いかんいかん、もっとていねいにゆっくり飛ばさんと」
カレレン「恐ろしいほどだ。本当に信じられないような技術水準だ」
松戸博士「どうじゃな、地球は未開惑星かの?」
カレレン「先進惑星です。それも最高水準の。私たちは未開惑星が銀河系の標準文明に達した時に、銀河連邦への加盟を実現するために派遣されます。しかし今回は事情が違う」
松戸博士「そうじゃな。もし、銀河連邦の諸星、諸文明が地球並になったら加盟を考えようではないか」

 4隻の宇宙船は地球へは行かずに、母港に戻ることになりました。修理代として後ほど4億グランが小切手で送られてくるそうです。でも、銀河連邦に加盟していないので、ただの数字になりそうです。4億グランて、いったいいくらぐらいなのでしょか?

松戸博士「いやあ、そうでもないぞ。銀河連邦の加盟惑星に昼飯でも食いに行こう」
ロケット「ぴゆぴゆ」
ポロ  「宇宙イモようかんもあるかなあ」
松戸博士「宇宙紅イモのようかんもあるぞ」
ポロ  「でもさ、博士。地球ってホントは、まだ未開惑星だよね。進んでいるのは裏神田の世界だけかも」
松戸博士「いいんじゃ、いいんじゃ。進んだ技術があるのは確かじゃからのう」
ロケット「ぴゆぴゆ!」

 明日はポロが地球に帰る日です。とってもいい思い出ができました。


おしまい


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

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そうですね〜。裏神田以外の地球の技術力では、銀河連邦への加盟は千年は早すぎます。なにせ、ワープは理論的に不可能なんて間違った証明がされた位ですからネー。(^^) / みた・そうや ( 2004-08-02 18:31 )

2004-06-11 ポロの日記 2004年6月6日(風曜日)ロケット号と一緒 その1

ロケット号と一緒 その1


 クランベリーヒルに到着した次の日は風曜日で休日です。ポロとロケット号は、ロケット号の作ったサンドイッチパーティのセットを持ってレッド・ツェッペリン号でお出かけすることにしました。

「ぴゆぴゆ、ぴゆぴゆ!」

 ヘリウムの充填が終わると、興奮気味のロケット号は早く離陸したくて待ちきれない様子でした。

「よーし、離陸するぞ」
「ぴゆぴゆ!」

 燃料電池に火が入り、Mブチモーターが推進用のプロペラを全力で回しました。ポロが昇降舵を操作すると、レッド・ツェッペリン号は、よく晴れたクランベリーヒルの青空に舞い上がりました。

「ぴゆぴゆ、ぴゆぴゆ!」

 たちまち目の下にはタバコ畑が広がり、遠くにオンディー沼が見えました。夏のクランベリーヒルは美しく輝く緑に覆われていました。オンディー沼の青さは、ずっと昔に画家のフェルメールが使った鉱物の青のようでした。ほとりには緑の葉をいっぱいにつけた立派な木が立っていました。

「あ、あれはおちゃめさんが樹氷の写真をとったときの木だ」
「ぴゆぴゆ、ぴゆぴゆ!」
「工房の50000ヒット通過記念CDのラベルも、あの木の写真なんだよ」
「ぴゆぴゆ、ぴゆぴゆ!」

 ロケット号はポロに返事をしているのかと思いましたが、はしゃいでいてポロの言葉なんて全然きこえていないみたいでした。オンディー沼は別所沼くらいのあまり大きくない水たまりといった感じでした。でも、青さは格別。せんせいにも見せたいなあ。ていうか、せんせいは昔、ここに住んでたんだっけ。
 オンディー沼上空を2周してからとなりの町のビルの店にソフトクリームを食べに行くことにしました。
 クランベリーヒルのとなり町のオラクルベリーは、ずいぶん都会でした。去年のクリスマスにポロは、松戸博士に連れられてここにアイスクリームを食べに来ました。でも、あの時はひとつしか食べなかったので、今日は全種類に挑戦です。ポロは、期待に胸ふくらませて店先にレッド・ツェッペリン号を着陸させました。すると、たちまちすごい人だかりができてしまいました。ポロたちは飛行船から降りることもできませんでした。
 いろいろな人が質問を浴びせてきます。どこから来たの? これは太陽電池パネルだね? あ、燃料電池を積んでるのかい? ポロは、たちまちギブアップです。すると、お店のお姉さんがソフトクリームを持ってやってきました。

「マイクロソフトへそうこそ。たくさんの人を集めてくださってありがとうございます。これは、お店からのお礼です」
「わあ、アリガト!」
「ぴゆぴゆ!」

 ポロたちは、降りることをあきらめてソフトクリームを受け取ると、お礼を言って再び離陸しました。船体がふわりを浮かび上がると、居合わせた人々から大きな拍手が沸き起こりました。

「ばいばーい!」
「ぴゆぴゆ!」

 ポロたちはみんなに手を振って、次の目的地のメトセラ湖に向かいました。ソフトクリームを食べながら下を見下ろしていると、水のきれいな川を見つけました。これをたどっていけばメトセラ湖にたどりつくことでしょう。途中で、荒れ果てた畑を見つけました。近くに町などない、本当に人里離れたところに開かれた畑でした。


つづく

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2004-06-10 ポロの日記 2004年6月6日(風曜日)ロケット号と一緒 その2

ロケット号と一緒 その2


「ぴゆぴゆぴゆぴゆ・・・・・・・・」

 ロケット号が、驚くような話を聞かせてくれました。その畑は巌流という人がマルチェロという猫のぬいぐるみと一緒に切り開いたものだというのです。ポロは、巌流という人もマルチェロも知っています。でも、最初はそれが同じ名前の他人だと思っていました。巌流さんは、銀手亡という豆の品種改良のためにクランベリーヒルに来て、最高の今川焼きを目指していたそうです。マルチェロはサンタさんが再生してクランベリーヒルに持ってきたプレゼントのぬいぐるみだそうです。たろちゃんのところにいたマルチェロにちがいないそうです。なんという巡り合わせでしょう。このお話は、別の機会に紹介します。
 しばらく飛ぶと、大きなメトセラ湖が見えてきました。美しい照葉樹の森に囲まれたメトセラ湖は、クランベリーの世界遺産という感じでした。
 周囲を飛ぶと、森の中にメトセラ製作所の廃虚がありました。湖のほとりに広々とした草原を見つけてポロは、レッド・ツェッペリン号を着陸させました。

 すぐにロケット号がお昼の準備を始めました。得意のスモーガスボードというサンドイッチです。ポロもロケット号も小さいので、テーブルも食器も人間が見たら、きっとおままごとのように思えたことでしょう。ポロたちは、そのおままごとのようなランチパーティーを心の底から楽しみました。木々も草も空も雲も、みんなポロたちを祝福しているかのように輝いていました。高原のそよ風につつまれて空を見上げると、V字編隊で飛んでいく雁のような鳥の群れが通りすぎるところでした。

「ぴゆぴゆ」
「へえ、ガンモドキっていう鳥なのか〜」

 燃料電池の最終生成物である純水でいれた紅茶を飲みながら、ポロはガンモドキの群れを目でずっと追い続けました。

「ぴゆぴゆ!」

 ロケット号の声でポロは目を覚ましました。いつのまにか眠ってしまったようでした。気がつくと、もう午後の陽射しは西に傾いていました。

「ねえ、ロケット号。ポロは今日、最高に幸せだよ」
「ぴゆぴゆ」

 ロケット号もそう言いました。ポロたちは、2人だけのパーティー会場を撤収してレッド・ツェッペリン号に乗り込みました。ゆっくりと離陸すると、すぐ近くにメカモンスターの残がいが、未来アートのオブジェのようにたたずんでいたことに気がつきました。

「ぴゆぴゆ」
「へえ、キティの攻撃で壊れちゃったのか」

 ちょっと感慨深げにその金属のかたまりを眺めてから、ポロは推進モーターの出力を全開にして、レッド・ツェッペリン号の鼻先をクランベリーヒルの猿雅荘に向けました。


おしまい


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2004-06-09 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その1

クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その1


 ポロたちは、ロケット号の用意してくれたおいしい夕食(メインディッシュは、シュニッツェル・クランベリー風)のあと、ロケット号がキッチンの後始末と明日の朝食の準備をしている間に松戸博士とリビングに移動しました。
リビングの大きな窓の前には広大なタバコの野原が広がっていて、あかね色に暮れなずむ美しい景色は息を飲むのどでした。その景色を眺めながら博士が言いました。

「わしがとむりん君と出会ったのは、彼がまだ30代になったばかりの頃じゃ。彼はクランベリーヒルが開発されて、かなり早い時期にここにやってきた。わしは何でも屋をやっておったから、とむりん君は客としてやってきたのじゃ。それも空調の相談じゃった。なかなか面白いことを言うので、わしらはすぐに意気投合した」
「せんせいは何て言ったの?」
「家庭には自動化すべきものとそうでないものがある。たとえば自動炊飯器を使うとご飯を炊くという技術が失われる。しかし、空調を自動化しても失われる技術は少ない。健康面から言っても、地球環境に近づけることはプラスになるはずだから可能な限り空調の自動化を行ないたい、というようなことじゃ」
「それで、どうしたの?」
「知性を持った空調設備を一緒に開発した。AC920、愛称はクニオというんじゃ」
「いまでも作曲工房は全館連続空調だから一年中体感温度が一定だし、花粉も砂ぼこりも入ってこないよ」
「そうじゃろう。おまけにそれを動かすエネルギーも太陽光発電デバイスで自給しとるはずじゃ。元はといえばクニオのアイディアを地球で生かしたものじゃ」
「そ〜だったのか」
「今では、その空調システムはクランベリー標準になっておる。平均気温は地球と似ておっても、変化のカーブが多少急なのでな。やはりここは異星じゃ」
「ふ〜ん。だから、急に雪が降ったりするんだね」
「そうじゃ」
「せんせいの子どもたちが、クランベリーヒルの冬の思い出を楽しそうに話してくれたよ」
「そうじゃろう」
「今度は、冬に来るね」
「それもいいじゃろう。しかし、なんといっても、わしがとむりん君に感服したのは真理の法廷の話じゃ」
「真理の法廷なら知ってるよ」
「わしは、あの話が気に入っておるのじゃ。結局、世の中はごまかしが効かん。自分自身だって納得させられるのは真理だけじゃ」
「あの話は、どうやって出てきたの?」
「とむりん君とわしとの会話の始まりは、まあ、だいたいこんなじゃった」


つづく

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2004-06-08 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その2

クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その2


とむりん--宗教裁判で地動説を放棄するように迫られてもガリレオは「そんなことで真理は変わらない」と思ったわけです。
松戸--そうじゃな。
と--だから、どちらが正しいかなんていう論争は意味がありません。たいてい、どちらも真理は述べていないからです。

「わしは、それを聞いて、とっさにとむりん君の言わんとすることが分かったような気がしたのじゃ。わしは続きが知りたくなった」

松--そのとおりじゃと、今、思った。なぜ気がつかなかったのじゃろう。
と--科学も哲学も宗教も芸術も、すべて最終目的は真理を知ることです。
松--生きることそのものがそうかも知れん。

「言葉で言うとこれだけじゃが、いろいろなことに気づかされて、わしはかなり興奮していた。感動していたと言ってもいいじゃろう」

と--だから、神がいると言ってもいないと言っても、どちらも真理ではないかも知れません。
松--おお、そうじゃ。そうかも知れん。

 それを聞いたポロは、神さまのことを知っているような気がしました。宇宙にあまねく存在して、宇宙全体と全ての素粒子ひとつひとつを同時に見ている神さまの気持ちを知っているような気がしました。でも、どうして知っている気がするのかを思いだすことができませんでした。

と--宇宙のどこかに“真理の法廷”があるとします。そこでは、裁判官は質問するだけです。訊ねられても答える必要はないのです。答えは真理ではないかも知れないからです。
松--そうじゃ。そうなのじゃ。

「以後、わしはとむりん君を信用しておる。信用するということの意味を話さなければならないかな?」
「ううん、ポロも知ってるよ。ロケット号を見てれば分かるよ」
「そうじゃったな。わしはロケット号も信用しておる」
「ロケット号って、いいな」
「あやつを見ていると、生きていることはいいもんだと思う」
「ポロも思うな。ロケット号の日記を見せてもらったことがあるんだけど、全部同じようなことが書いてあるんだよ」
「朝から晩までいいことばかりだけを覚えておるんじゃろう」
「そ、そうなんだ」
「はっはっは。わしもそうすることにしておる」
「ポロもそうする」
「とむりん君が作曲するのも、ロケット号がルッコラ畑の世話をするのも根は同じようなものじゃ」
「どういうこと?」
「何かを大切に思うことじゃよ。人は大切に思えるものがなくなったらおしまいだからじゃ」
「そ、そうだね。なんだか知ってたのに知らなかったような気がする」
「そんなもんじゃ」


つづく

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2004-06-07 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その3

クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その3


「そうか。ということは、せんせいは作曲することが大切だと思ってるからやってるんだね」
「そうじゃ。とむりん君は有名になることなど気にしておらんじゃろう」
「うん、そんな感じ。知られることと理解されることは違うって言ってる」
「わしも同感じゃ。人はお互いをもっと知りあわなくてはならん。よく知りあったら戦争など起こらんものじゃ。その町に住んでいる人の顔を一人も思い出せなければ爆弾だって落とせるが、その町に仲良しの友人が住んでいたり、あるいはその町に尊敬する画家が住んでいたらできないじゃろう」
「そ、そだね。それも知ってたような気がするのに知らなかったな」
「はっはっは。ポロどんは何が大事じゃ?」
「ポロね、せんせいやせんせいの家族や、松戸博士やロケット号やシュデンガンガー商会の修士さんやディラック商会の学士さんや、おちゃめさんやシロちゃんやミタさんやmo・・・」
「分かった分かった。全部言わんでもいい。名前が出てこなかった人も分かってくれるじゃろう。いいことじゃ」
「ポロはね、恵まれてるな〜って思うんだ。こうやって松戸博士とお話しできるなんて、宝くじに当たるよりも確率低いよ。せんせいも、ロケット号もそうだよ。ポロは一生の間に宝くじに何十回も当選したみたいなもんだと思うな」
「本当は、誰もがそうなんじゃ。だが、そのように思うことができない人が多いということじゃ。ま、確かにアヒル型スポンジと話をする機会は宇宙広しと言えども、非常に少ないじゃろうな」
「ぴゆぴゆ!」
「おう、ロケット号。なんじゃ」
「ぴゆぴゆ」

 食器洗いと明日の準備を終えたロケット号がクランベリーヒル産のサクランボを持ってきてくれました。

「わあ、アリガト、ロケット号。きれいなサクランボだねえ」
「ぴゆぴゆ!」
「これは、ロケット号が世話をしている桜の木になったものじゃ」
「いただきまーす。ん、んんんんま〜い! ポロ、幸せすぎて心臓が止まりそうだよ!」
「心臓マッサージなら大丈夫、まかせなさい。安心して食べていい」
「う、う、う・・。び、びえ〜〜〜〜、びえ〜〜〜〜!」
「ぴゆぴゆ〜」

 幸せ症候群の発作で涙が止まらなくなってしまったポロの背中を、ロケット号が心配そうに撫でてくれたので、幸せ症候群の発作はますます激しくなりました。

「びえ、びえ、びえ〜〜〜〜〜〜〜!」

 おまけに、泣きながらもチラっと見えたリビングの大きな窓に映る空が、吸い込まれるような透明で美しい群青色だったので、ポロはしばらく泣きやむことができませんでした。


おしまい


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いつも、つっこみアリガトございます。ミタさん、縁は大事だよね。shinさん、ポロも夜ねないで猫集会に出てます。 / ポロ ( 2004-06-30 13:51 )
音楽家やその他芸術家な方が、音や色や形といった主観的なことに、どうして、普遍的な真理を見出せるのか、考えると夜も眠れません(そして昼間の仕事中に眠いのです)。 / shin ( 2004-06-28 23:02 )
宝くじ…どこかで聞いたような…(笑)。袖擦りあうも他生の縁といいますけど、良い出会いと言うのは本当に大切ですよね。幸せ症候群の発作なら、幾らなってもいいかな? / みた・そうや ( 2004-06-24 16:26 )

2004-06-06 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 旅立ち編その1

クランベリーヒルの休暇 旅立ち編その1


 ポロは、せんせいにお休みをもらってクランベリーヒルに行くことにしました。松戸博士に連絡すると、迎えに来てくれました。
夜遅く、博士の自動車型宇宙船りんご丸は作曲工房の玄関先に降り立ちました。

「やあ、ポロどん。待たせたかな?」
「博士、こんばんは! 全然待たなかったよ」
「後ろの貨物室に飛行船を乗せてハーネスで固定するんじゃ。確かレッド・ツェッペリン号じゃったな」
「そだよ、鉛で飛ばないっていう意味。ヘリウムを抜いてあるからこんなにコンパクトだよ」
「さあ、乗った乗った。シートベルトを忘れんようにな」

 ポロは博士お手製の、ロケット号のための小さな座席に座ってシートベルトをしめました。

「ねえ、博士。お願いがあるんだけど」
「なんじゃな?」
「あのさ、スペースシャトルと同じ軌道と時間で宇宙に出られる?」
「もちろんじゃよ。AKI、聞いたか?」
「もちろん」

 ダッシュボードからりんご丸の航法コンピュータであるAKI9000の応答がありました。もちろんリンゴ社製です。

「では、スペースシャトルの初打ち上げ時のデータを元に、地球周回軌道に入ります。無理な姿勢になる場合もありますから気をつけてください」

 そういうと、りんご丸はディーンドライブで何十メートルかの高さに浮上して上を向いて静止しました。ポロと博士も座席に座ったまま真上を向く格好になりました。作曲工房なんて、ずっと下の方でした。

AKI「現在の高さが、スペースシャトルコロンビアの第1回打ち上げ時のコクピットの位置です」
ポ「へえ、高いんだねえ」
AKI「では、形だけですがマイナス10秒のカウントダウン後に上昇を開始します」
「わあ、ワクワクするなあ!」
AKI「10・・9・・8・・7・・6・・5・・4・・3・・2・・1・・0、リフトオフ」

 ヒューンという音とともに、りんご丸は上昇を始めました。

「音がないとつまらないよ」

 いきなり、スピーカーからごごごごごごごごごご〜!という音が聞えてきました。

「いいぞいいぞ〜!」

 加速度で背中が座席に押し付けられて、上昇していく感じがなんともステキです。

AKI「ロールを開始します」

 わあ、天井が下向きになっていきます。そう言えば、スペースシャトルって逆さまに飛んでたかも。外を見ると、もう地平線が丸く見えます。地平線に沿って大気がうっすらと青く光っているのが見えました。たった数分で加速が終わって無重力になりました。

AKI「高度230キロ、周回軌道に入りました」
「よし、AKI、ご苦労じゃった。ポロどん、どうかな?」
「うん、すごくよかったよ」
「よし、AKI、クランベリーヒルまで直行だ!」
AKI「ラジャー。ワープ8の許可を願います」
「許可する」

 たちまちスターボウが現れて、ポロたちは外を見てもどこを飛んでいるのか分からなくなりました。


つづく

先頭 表紙

2004-06-05 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 旅立ち編その2

クランベリーヒルの休暇 旅立ち編その2


「ポロどん、宇宙にはいろいろと行ったかね?」
「うん、行ったよ。こないだなんて、三河屋さんのノストロモ号で天の川まで行ってきた」
「ほう、銀河系外縁部まで行ったのじゃな。それは大したものだ」

 ポロは、海賊船ブラックパールに追われたことや、宇宙嵐やコスモドラゴンのことは黙っていました。

「天の川はきれいじゃったろう?」
「うん、プリオシン海岸に行って水に手を入れてみた」
「そうか。あそこも最近は観光地化が目立つようになった」
「昔はどうだったの?」
「プリオシン海岸駅なんぞは人の乗り降りがなくて、ほとんど開店休業状態じゃったな」
「へえ、今じゃ名物の最中やおまんじゅうを売ってるよ」
「わしも食べてみた。なかなかうまかったわい」
「ポロも好き!」

 2時間くらいすると、周囲に星空が戻りました。前のほうに明るく輝くクランベリーヒルの太陽クリューガー60が見えていました。オート・ティンテッド・シールドという博士の発明した濃さの変わる窓がその眩しさを防いでいます。

「クランベリーヒルのある惑星をわしらはP2などと呼んでおるが、開発業者が最初の分譲地に売れそうな今風の名前をつけたから、一般にはクランベリーヒルなどという安っぽい呼び名になってしまったのじゃ」
「ポロ、けっこう好きだけど」
「どこがいいのか、わしには分からん」
「でもさ、ロケット号っていうネーミングはすごくいいと思うな。ちょっと聞くと土佐犬の雷電号みたいだよね。そうじゃなければ競走馬か警察犬。なのにさ、呼ぶと“ぴゆぴゆ”とかいって、小さなアヒルのスポンジが出てくるの」
「あれは、ちゃんとした理由があるのじゃ」
「どんなのどんなの?」
「ルッコラという野菜を知っておるか?」
「あ、サラダにするやつ」
「そうじゃ。英語ではロケットというんじゃが、その栽培の名人なんじゃ、ロケット号は」
「そうだったのか〜」

 ポロは、初めてロケット号の名前の由来を知りました。ポロは、ずっと空を飛ぶロケットのことだと思っていました。
そうこうするうちに、りんご丸はP2の周回軌道に入りました。

AKI「降下軌道へ移行します。大気圏再突入に備えてください」
「よし、安全第一じゃ」
AKI「了解」

 高度が下がって大気が濃くなるにつれてりんご丸はガタガタと揺れましたが、数分で眼下にはクランベリーヒルのタバコの野原が広がっていました。りんご丸は静かに猿雅荘の玄関前に接地しました。

「AKI、いつもながら見事じゃ」
AKI「ありがとうございます、博士」
「アキちゃん、アリガト!」
AKI「どういたしまして、ポロちゃん」

 リンゴ丸から降りると、ロケット号が出迎えてくれました。

「ぴゆぴゆ!」
「わあ、動くロケット号だ! 元気そうだね」
「ぴゆぴゆ!」

 ポロの休暇は始まったばかりです。


おしまい


ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

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