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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2004-06-09 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その1
2004-06-08 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その2
2004-06-07 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その3
2004-06-06 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 旅立ち編その1
2004-06-05 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 旅立ち編その2
2004-05-26 ポロの日記 2004年5月25日(熱曜日)ボンビーと一緒 その1
2004-05-25 ポロの日記 2004年5月25日(熱曜日)ボンビーと一緒 その2
2004-05-24 ポロの日記 2004年5月25日(熱曜日)ボンビーと一緒 その3
2004-05-23 ポロの日記 2004年5月21日(電曜日)ポロ・プロジェクトふたたび その1
2004-05-22 ポロの日記 2004年5月21日(電曜日)ポロ・プロジェクトふたたび その2


2004-06-09 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その1

クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その1


 ポロたちは、ロケット号の用意してくれたおいしい夕食(メインディッシュは、シュニッツェル・クランベリー風)のあと、ロケット号がキッチンの後始末と明日の朝食の準備をしている間に松戸博士とリビングに移動しました。
リビングの大きな窓の前には広大なタバコの野原が広がっていて、あかね色に暮れなずむ美しい景色は息を飲むのどでした。その景色を眺めながら博士が言いました。

「わしがとむりん君と出会ったのは、彼がまだ30代になったばかりの頃じゃ。彼はクランベリーヒルが開発されて、かなり早い時期にここにやってきた。わしは何でも屋をやっておったから、とむりん君は客としてやってきたのじゃ。それも空調の相談じゃった。なかなか面白いことを言うので、わしらはすぐに意気投合した」
「せんせいは何て言ったの?」
「家庭には自動化すべきものとそうでないものがある。たとえば自動炊飯器を使うとご飯を炊くという技術が失われる。しかし、空調を自動化しても失われる技術は少ない。健康面から言っても、地球環境に近づけることはプラスになるはずだから可能な限り空調の自動化を行ないたい、というようなことじゃ」
「それで、どうしたの?」
「知性を持った空調設備を一緒に開発した。AC920、愛称はクニオというんじゃ」
「いまでも作曲工房は全館連続空調だから一年中体感温度が一定だし、花粉も砂ぼこりも入ってこないよ」
「そうじゃろう。おまけにそれを動かすエネルギーも太陽光発電デバイスで自給しとるはずじゃ。元はといえばクニオのアイディアを地球で生かしたものじゃ」
「そ〜だったのか」
「今では、その空調システムはクランベリー標準になっておる。平均気温は地球と似ておっても、変化のカーブが多少急なのでな。やはりここは異星じゃ」
「ふ〜ん。だから、急に雪が降ったりするんだね」
「そうじゃ」
「せんせいの子どもたちが、クランベリーヒルの冬の思い出を楽しそうに話してくれたよ」
「そうじゃろう」
「今度は、冬に来るね」
「それもいいじゃろう。しかし、なんといっても、わしがとむりん君に感服したのは真理の法廷の話じゃ」
「真理の法廷なら知ってるよ」
「わしは、あの話が気に入っておるのじゃ。結局、世の中はごまかしが効かん。自分自身だって納得させられるのは真理だけじゃ」
「あの話は、どうやって出てきたの?」
「とむりん君とわしとの会話の始まりは、まあ、だいたいこんなじゃった」


つづく

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2004-06-08 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その2

クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その2


とむりん--宗教裁判で地動説を放棄するように迫られてもガリレオは「そんなことで真理は変わらない」と思ったわけです。
松戸--そうじゃな。
と--だから、どちらが正しいかなんていう論争は意味がありません。たいてい、どちらも真理は述べていないからです。

「わしは、それを聞いて、とっさにとむりん君の言わんとすることが分かったような気がしたのじゃ。わしは続きが知りたくなった」

松--そのとおりじゃと、今、思った。なぜ気がつかなかったのじゃろう。
と--科学も哲学も宗教も芸術も、すべて最終目的は真理を知ることです。
松--生きることそのものがそうかも知れん。

「言葉で言うとこれだけじゃが、いろいろなことに気づかされて、わしはかなり興奮していた。感動していたと言ってもいいじゃろう」

と--だから、神がいると言ってもいないと言っても、どちらも真理ではないかも知れません。
松--おお、そうじゃ。そうかも知れん。

 それを聞いたポロは、神さまのことを知っているような気がしました。宇宙にあまねく存在して、宇宙全体と全ての素粒子ひとつひとつを同時に見ている神さまの気持ちを知っているような気がしました。でも、どうして知っている気がするのかを思いだすことができませんでした。

と--宇宙のどこかに“真理の法廷”があるとします。そこでは、裁判官は質問するだけです。訊ねられても答える必要はないのです。答えは真理ではないかも知れないからです。
松--そうじゃ。そうなのじゃ。

「以後、わしはとむりん君を信用しておる。信用するということの意味を話さなければならないかな?」
「ううん、ポロも知ってるよ。ロケット号を見てれば分かるよ」
「そうじゃったな。わしはロケット号も信用しておる」
「ロケット号って、いいな」
「あやつを見ていると、生きていることはいいもんだと思う」
「ポロも思うな。ロケット号の日記を見せてもらったことがあるんだけど、全部同じようなことが書いてあるんだよ」
「朝から晩までいいことばかりだけを覚えておるんじゃろう」
「そ、そうなんだ」
「はっはっは。わしもそうすることにしておる」
「ポロもそうする」
「とむりん君が作曲するのも、ロケット号がルッコラ畑の世話をするのも根は同じようなものじゃ」
「どういうこと?」
「何かを大切に思うことじゃよ。人は大切に思えるものがなくなったらおしまいだからじゃ」
「そ、そうだね。なんだか知ってたのに知らなかったような気がする」
「そんなもんじゃ」


つづく

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2004-06-07 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その3

クランベリーヒルの休暇 せんせいのこと その3


「そうか。ということは、せんせいは作曲することが大切だと思ってるからやってるんだね」
「そうじゃ。とむりん君は有名になることなど気にしておらんじゃろう」
「うん、そんな感じ。知られることと理解されることは違うって言ってる」
「わしも同感じゃ。人はお互いをもっと知りあわなくてはならん。よく知りあったら戦争など起こらんものじゃ。その町に住んでいる人の顔を一人も思い出せなければ爆弾だって落とせるが、その町に仲良しの友人が住んでいたり、あるいはその町に尊敬する画家が住んでいたらできないじゃろう」
「そ、そだね。それも知ってたような気がするのに知らなかったな」
「はっはっは。ポロどんは何が大事じゃ?」
「ポロね、せんせいやせんせいの家族や、松戸博士やロケット号やシュデンガンガー商会の修士さんやディラック商会の学士さんや、おちゃめさんやシロちゃんやミタさんやmo・・・」
「分かった分かった。全部言わんでもいい。名前が出てこなかった人も分かってくれるじゃろう。いいことじゃ」
「ポロはね、恵まれてるな〜って思うんだ。こうやって松戸博士とお話しできるなんて、宝くじに当たるよりも確率低いよ。せんせいも、ロケット号もそうだよ。ポロは一生の間に宝くじに何十回も当選したみたいなもんだと思うな」
「本当は、誰もがそうなんじゃ。だが、そのように思うことができない人が多いということじゃ。ま、確かにアヒル型スポンジと話をする機会は宇宙広しと言えども、非常に少ないじゃろうな」
「ぴゆぴゆ!」
「おう、ロケット号。なんじゃ」
「ぴゆぴゆ」

 食器洗いと明日の準備を終えたロケット号がクランベリーヒル産のサクランボを持ってきてくれました。

「わあ、アリガト、ロケット号。きれいなサクランボだねえ」
「ぴゆぴゆ!」
「これは、ロケット号が世話をしている桜の木になったものじゃ」
「いただきまーす。ん、んんんんま〜い! ポロ、幸せすぎて心臓が止まりそうだよ!」
「心臓マッサージなら大丈夫、まかせなさい。安心して食べていい」
「う、う、う・・。び、びえ〜〜〜〜、びえ〜〜〜〜!」
「ぴゆぴゆ〜」

 幸せ症候群の発作で涙が止まらなくなってしまったポロの背中を、ロケット号が心配そうに撫でてくれたので、幸せ症候群の発作はますます激しくなりました。

「びえ、びえ、びえ〜〜〜〜〜〜〜!」

 おまけに、泣きながらもチラっと見えたリビングの大きな窓に映る空が、吸い込まれるような透明で美しい群青色だったので、ポロはしばらく泣きやむことができませんでした。


おしまい


ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

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いつも、つっこみアリガトございます。ミタさん、縁は大事だよね。shinさん、ポロも夜ねないで猫集会に出てます。 / ポロ ( 2004-06-30 13:51 )
音楽家やその他芸術家な方が、音や色や形といった主観的なことに、どうして、普遍的な真理を見出せるのか、考えると夜も眠れません(そして昼間の仕事中に眠いのです)。 / shin ( 2004-06-28 23:02 )
宝くじ…どこかで聞いたような…(笑)。袖擦りあうも他生の縁といいますけど、良い出会いと言うのは本当に大切ですよね。幸せ症候群の発作なら、幾らなってもいいかな? / みた・そうや ( 2004-06-24 16:26 )

2004-06-06 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 旅立ち編その1

クランベリーヒルの休暇 旅立ち編その1


 ポロは、せんせいにお休みをもらってクランベリーヒルに行くことにしました。松戸博士に連絡すると、迎えに来てくれました。
夜遅く、博士の自動車型宇宙船りんご丸は作曲工房の玄関先に降り立ちました。

「やあ、ポロどん。待たせたかな?」
「博士、こんばんは! 全然待たなかったよ」
「後ろの貨物室に飛行船を乗せてハーネスで固定するんじゃ。確かレッド・ツェッペリン号じゃったな」
「そだよ、鉛で飛ばないっていう意味。ヘリウムを抜いてあるからこんなにコンパクトだよ」
「さあ、乗った乗った。シートベルトを忘れんようにな」

 ポロは博士お手製の、ロケット号のための小さな座席に座ってシートベルトをしめました。

「ねえ、博士。お願いがあるんだけど」
「なんじゃな?」
「あのさ、スペースシャトルと同じ軌道と時間で宇宙に出られる?」
「もちろんじゃよ。AKI、聞いたか?」
「もちろん」

 ダッシュボードからりんご丸の航法コンピュータであるAKI9000の応答がありました。もちろんリンゴ社製です。

「では、スペースシャトルの初打ち上げ時のデータを元に、地球周回軌道に入ります。無理な姿勢になる場合もありますから気をつけてください」

 そういうと、りんご丸はディーンドライブで何十メートルかの高さに浮上して上を向いて静止しました。ポロと博士も座席に座ったまま真上を向く格好になりました。作曲工房なんて、ずっと下の方でした。

AKI「現在の高さが、スペースシャトルコロンビアの第1回打ち上げ時のコクピットの位置です」
ポ「へえ、高いんだねえ」
AKI「では、形だけですがマイナス10秒のカウントダウン後に上昇を開始します」
「わあ、ワクワクするなあ!」
AKI「10・・9・・8・・7・・6・・5・・4・・3・・2・・1・・0、リフトオフ」

 ヒューンという音とともに、りんご丸は上昇を始めました。

「音がないとつまらないよ」

 いきなり、スピーカーからごごごごごごごごごご〜!という音が聞えてきました。

「いいぞいいぞ〜!」

 加速度で背中が座席に押し付けられて、上昇していく感じがなんともステキです。

AKI「ロールを開始します」

 わあ、天井が下向きになっていきます。そう言えば、スペースシャトルって逆さまに飛んでたかも。外を見ると、もう地平線が丸く見えます。地平線に沿って大気がうっすらと青く光っているのが見えました。たった数分で加速が終わって無重力になりました。

AKI「高度230キロ、周回軌道に入りました」
「よし、AKI、ご苦労じゃった。ポロどん、どうかな?」
「うん、すごくよかったよ」
「よし、AKI、クランベリーヒルまで直行だ!」
AKI「ラジャー。ワープ8の許可を願います」
「許可する」

 たちまちスターボウが現れて、ポロたちは外を見てもどこを飛んでいるのか分からなくなりました。


つづく

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2004-06-05 ポロの日記 2004年6月5日(岩曜日)クランベリーヒルの休暇 旅立ち編その2

クランベリーヒルの休暇 旅立ち編その2


「ポロどん、宇宙にはいろいろと行ったかね?」
「うん、行ったよ。こないだなんて、三河屋さんのノストロモ号で天の川まで行ってきた」
「ほう、銀河系外縁部まで行ったのじゃな。それは大したものだ」

 ポロは、海賊船ブラックパールに追われたことや、宇宙嵐やコスモドラゴンのことは黙っていました。

「天の川はきれいじゃったろう?」
「うん、プリオシン海岸に行って水に手を入れてみた」
「そうか。あそこも最近は観光地化が目立つようになった」
「昔はどうだったの?」
「プリオシン海岸駅なんぞは人の乗り降りがなくて、ほとんど開店休業状態じゃったな」
「へえ、今じゃ名物の最中やおまんじゅうを売ってるよ」
「わしも食べてみた。なかなかうまかったわい」
「ポロも好き!」

 2時間くらいすると、周囲に星空が戻りました。前のほうに明るく輝くクランベリーヒルの太陽クリューガー60が見えていました。オート・ティンテッド・シールドという博士の発明した濃さの変わる窓がその眩しさを防いでいます。

「クランベリーヒルのある惑星をわしらはP2などと呼んでおるが、開発業者が最初の分譲地に売れそうな今風の名前をつけたから、一般にはクランベリーヒルなどという安っぽい呼び名になってしまったのじゃ」
「ポロ、けっこう好きだけど」
「どこがいいのか、わしには分からん」
「でもさ、ロケット号っていうネーミングはすごくいいと思うな。ちょっと聞くと土佐犬の雷電号みたいだよね。そうじゃなければ競走馬か警察犬。なのにさ、呼ぶと“ぴゆぴゆ”とかいって、小さなアヒルのスポンジが出てくるの」
「あれは、ちゃんとした理由があるのじゃ」
「どんなのどんなの?」
「ルッコラという野菜を知っておるか?」
「あ、サラダにするやつ」
「そうじゃ。英語ではロケットというんじゃが、その栽培の名人なんじゃ、ロケット号は」
「そうだったのか〜」

 ポロは、初めてロケット号の名前の由来を知りました。ポロは、ずっと空を飛ぶロケットのことだと思っていました。
そうこうするうちに、りんご丸はP2の周回軌道に入りました。

AKI「降下軌道へ移行します。大気圏再突入に備えてください」
「よし、安全第一じゃ」
AKI「了解」

 高度が下がって大気が濃くなるにつれてりんご丸はガタガタと揺れましたが、数分で眼下にはクランベリーヒルのタバコの野原が広がっていました。りんご丸は静かに猿雅荘の玄関前に接地しました。

「AKI、いつもながら見事じゃ」
AKI「ありがとうございます、博士」
「アキちゃん、アリガト!」
AKI「どういたしまして、ポロちゃん」

 リンゴ丸から降りると、ロケット号が出迎えてくれました。

「ぴゆぴゆ!」
「わあ、動くロケット号だ! 元気そうだね」
「ぴゆぴゆ!」

 ポロの休暇は始まったばかりです。


おしまい


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2004-05-26 ポロの日記 2004年5月25日(熱曜日)ボンビーと一緒 その1

ボンビーと一緒 その1


「せんせい、家(うち)の中にこんなのがいた」

がさごそわさわさ

「なんだ、それ」
「ただの茶色い毛糸のかたまりに見えるけど、じつは貧乏神」
「本当か?」
「ぼんびーぼんびー!」
「ね、ホントでしょ。せんせいが貧乏だったのはコイツのせいだったんだよ
「そうか。しかし、貴重だな。初めて見たよ」
「ぼんびーぼんび〜♪」
「ねえ、せんせい、ポロ捨ててくるよ。捨て猫ならぬ、捨てボンビー」
「ちょっと待て」
「え、まさか居候させるなんて言わないよね」
「いや、ここで引き受けようじゃないか」
「え゛〜〜!! せんせい、正気?」
「ああ、たぶん」
「ぼんび〜」
「ポロは反対だよ、ぜったい反対! せんせいの酔狂につきあうなんてヤだよ〜!」
「よく考えてみるんだ。もし、ここで貧乏神を捨てたらどうなる?」
「えっと・・・貧乏神は、どこかほかのおうちに住み着いてめでたしめでたし」
「どこかの家に不幸が舞い込んでめでたいか?」
「そう言われてみると、めでたくないかも・・」
「そうだろ?」
「うん、そうかも」
「いま、ここで大地震が起こって我が家は家とわずかしかない蓄えを全て失ったとする。しかし、家族は全員無事だった。どのくらい不幸だ?」
「なんだか全然不幸じゃないような気がするな。家族の命が助かったんなら、信じられないくらい幸運かも」
「よし、仮に貧乏神のせいで破産したとしても家族は残る。いまの大地震と同じ状況だ。信じられないくらい幸運だろ」
「何言ってんだかわかんないけど、なんだかそんな気がしてきた。問題は奥さんと子どもたちだな」
「ぼんびーぼんびー♪」

晩ご飯の席で、せんせいは家族に貧乏神のボンビーのことを話しました。驚いたことに、全員があっさりとボンビーを受け入れました。ポロはボンビーを拒(こば)もうとした自分の修業の足りなさを今さらながら感じました。中でも海のお兄ちゃんはボンビーがとても気に入ってお風呂に入れてあげました。
お風呂から出たボンビーは、真っ白いふわふわの毛に包まれた、かわいらしいオサルのような姿に変身しました。茶色く汚れていたのは、誰もボンビーの世話をする人がいなかったからなのでした。

ぴ「わあ、ボンビーって可愛いじゃん!」
海「だろ?」
風「ポロよりぜんぜん可愛いな」
ポ「ぐさ、グサグサ・・・」

 しかし、野村家は早くも翌日からボンビーの威力を見せつけられることになりました。
 せんせいは“ウチはヨソで思われているほど裕福ではないし、むしろ貧乏だから貧乏神など大した影響はない”と言っていましたが、それでもたちまち経済事情が悪化しました。


つづく

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2004-05-25 ポロの日記 2004年5月25日(熱曜日)ボンビーと一緒 その2

ボンビーと一緒 その2


 風と海のお兄ちゃんは新聞配達のアルバイトを始めました。せんせいは作曲の仕事がぱったりとなくなって、レッスンが終わるとコンビニで働きました。
 中学生のたろちゃんは、まだアルバイトができないので炊事当番を一手に引き受けることになりました。

ポ「ねえ、たろちゃん。最近お米のごはん食べてないね」
ぴ「お米ってね、けっこう高いの。パンも高いよ」
ぼ「ぼんび〜♪」
ポ「なにが安いの?」
ぴ「特売のパスタと乾めんかなあ。めっちゃ安いかもね」
ポ「今日の夕ご飯はなあに?」
ぴ「スパゲティー」
ポ「煮干しとパン粉で何作るの?」
ぼ「ぼんび〜♪」
ぴ「あのさ、アンチョビーも煮干しも似たようなもんじゃない。だからさ、スパゲティー・アッレ・アンチューゲ風っていうやつ」
ポ「すごいかも。でもさ、なんだか生臭い気がするなポロてきに」
ぴ「あれ、そうだね。これじゃみいやん(海のお兄ちゃん)が文句言うな、きっと」
ポ「あのさ、カレーパウダーまぶしたら」
ぴ「いいじゃん。ポロ、いい事言うね」
ポ「だってさ、ポロ、エスコフィエの再来って言われてるんだ」
ぴ「だれに?」
ポ「だ、誰だろ。誰か言ってくれ〜!」
ぼ「ぼんび〜♪」
ぴ「ぼんびーが言ってるよ、ポロ」
ポ「あんまりうれしくないかも・・」


 できあがった“とつぜんインド風スパゲティー・アッレ・アンチューゲ風たろぴ風”は、評価のむずかしい複雑な味でしたが、みんな一生懸命働いてお腹が空いていたので、文句を言わずに食べました。ボンビーは遠慮を知らないので、おかわりしました。

 ポロは、もう何週間もイモようかんを食べていませんでした。それで夜寝ると、必ず夢にイモようかんが出てきました。ポロは夢のイモようかんで我慢しなければなりませんでした。たろちゃんは、そんなポロのためにイモようかんの絵を描いてくれました。それはそれはおいしそうなイモようかんでした。でも、よけい食べたくなってしまうのでした。
 せんせいは、ピアノ以外の売れるものはみんな売ってしまいました。ほかの家族も、みんなアルバイトや勉強が忙しくてテレビを見る時間もゲームをする時間もないので、それらはみんな売ってしまいました。
 せんせいのお家は、すっきりとしたシンプルな生活になりました。家族もだらけたところがなくなって、みんなピンとしたイイ感じでした。
 ある日曜日の朝、朝食の席でせんせいが言いました。

せんせいの演説の要旨:
 みんな、よく頑張ってくれた。最初、ボンビーのせいで経済事情が悪化したとき、や、これは失敗したかなと思った。しかし、今の我が家の状態を見て欲しい。経済状況がぎりぎりであるということを除けば、モノは減り、実に快適だ。減ってみて分かったが、それらは本来不必要なものばかりだった。衣食住に最低限必要なものと勉強のための一群、家族のアルバム、これだけで人は十分やっていけるということだ。
 アルバイトは辛かったと思うが、おまえ達の人間的な成長を見ると、これも必要なことだったのではないかと思う。今回の経験によって将来社会に出るときの心構えが全く違うものになったであろうことは想像に難くない。たろぴも家事全般、実によくやってくれた。
 ここでみんなに感謝したい。こういう家族と暮らせるとは、私は実にしあわせ者だ。そして、誰より感謝しなければならないのはボンビーだ。ボンビーは我々から、澱(おり)のようにたまった怠惰な気持ちや濁りを取り除いてくれた。それから、ボンビーを連れてきたポロも功労者の一人だ。


つづく

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2004-05-24 ポロの日記 2004年5月25日(熱曜日)ボンビーと一緒 その3

ボンビーと一緒 その3


 演説が終わると、奥さんがやりくりしてやっと買ったショートケーキをみんなに配りました。ポロには、なんとイモようかんでした。
 みんな貧乏になる以前はショートケーキなんて目もくれなかったのに、おいしいね〜って言いながら食べました。ポロも、こんなにおいしいイモようかんを食べたのは初めてでした。せんせいの話を聞くまでは、ちょっとボンビーが憎たらしかったけれど、今ではイモようかんをこんなにおいしくしてくれたボンビーに感謝する気持ちが生まれていました。ボンビーもショートケーキをおいしそうに食べていました。

ぼ「ぼんびー!」

 次の日の朝、家の中の様子がなんだかいつもと違いました。

風「なんだか今日、いつもと違わなくない?」
海「やっぱ、そう思う?」
ぴ「え〜、気がついてた? あたしも朝起きたときからなんだか違うなあって思ったんだけど」

 ポロはダイニングテーブルの上のメモ用紙を見つけました。
 そこには、可愛らしい肉球の手形がひとつ、朱肉で押されていました。

ポ「あ゛〜〜! 見て見て、ボンビーの置き手紙かも!」

 せんせいも奥さんもやってきました。

風「ボンビーの手形に間違いないね」
奥「本当にどこかへ行っちゃったのかしら?」
せ「これだけ家の空気が変わっていると、そんな気がするね」

 そのとき、電話が鳴りました。それは、せんせいへの作曲の依頼でした。話し終わると受話器を置いてせんせいが言いました。

せ「ボンビーは去った」
風「なんだか、よかったっていう感じもしないね」
海「そうだな、新聞配達も楽しかったし。なんか緊張感があって生活に張りがあったよな」
ぴ「ぬいぐみみたいで可愛かったよね」
奥「よそのお家に行っちゃったのかしら。心配ね」

 ポロは、ぼんびーが寝ていた段ボールの小さな箱ベッドを、ボンビーがいつ戻ってきてもいいようにポリ袋でつつんで押し入れにしまいました。


おしまい



 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

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mokoさん、貧乏神っていいヤツでしょ。ポロね、このお話が気に入ってます。 / ポロ ( 2004-06-03 21:39 )
今の日本に欠けてる物を教えられたような気がします。物質的には恵まれてるのでしょうけどね〜大切な物は何かを見直したいですね♪ / moko ( 2004-06-03 20:48 )

2004-05-23 ポロの日記 2004年5月21日(電曜日)ポロ・プロジェクトふたたび その1

ポロ・プロジェクトふたたび その1


 ポロとせんせいが作曲工房のリビングで10時のお茶を飲みながら話していたら、そこへ、ポロがやってきました。

ポ「やあ、せんせい」

 そう言ったところで、ポロはポロに気づいて、あわてて部屋を出ていきました。

せ「なんだ、今のは。ポロみたいだったぞ」
ポ「え〜、せんせい何ねぼけてんの〜、ポロはここにいるよ〜」

 ポロはとぼけて見せました。

せ「そうだな。ここのところ作曲で忙しくてあまり眠ってないから、とうとう幻覚を見たのかも知れないな」

 せんせいは、お茶を飲み終わると仕事部屋へ行ってしまいました。ポロは、すぐに先ほどのポロを追いました。次の工房当番になっているお話ポロ2号でした。お話ポロ2号はじ〜んと来る話、例えば「ロケット号の日記」などを担当しています。ポロ2号は、ドアの陰に隠れていました。

「だめじゃないか、出てくるときはちゃんと確認しなくちゃ」
「ごめんよ〜、ポロはおっちょこちょいな猫なんだよ〜」
「じゃ、交代だよ」
「うん、じゃあね」

 ポロはコラムポロと交代しました。ちょっと失敗しちゃったので今度は気をつけなくちゃだな。明日のお昼前にはお話ポロ3号と交代です。お話ポロ3号は、ちょっと理屈っぽいお話を書きます。たとえばシュデンガンガー商会関連のお話です。さっき交代したコラムポロは一番頭がよくて、ほかのポロから一目置かれています。お話ポロ1号は熱を出して有給休暇をとっているということでした。お話ポロ1号は「スリッパを買いに」のような切れのよい短編を書くポロです。ほかにレスポロもいます。「ポロの秘密の部屋」にせんせいとのショートショートを書いたり、レッスン掲示板にレスしたりします。

 その日の夜、ポロのところに女神さまが来ました。

め「あ〜ら、ポロちゃん。昨日とは違うポロちゃんなのね」
ポ「ポ、ポロはポロだよ、やだな女神さま」
め「あ〜ら、あたしをごまかそうったってダメよ、ポロちゃん」
ポ「ポ、ポロはポロだよ」

 ところが女神さまが魔法をかけると、ポロは女神さまのいいなりになってしまうのでした。

め「ポロちゃ〜ん、オリジナルはどこにいるの?」
ポ「えっと、新小岩だと思うな」
め「そう。例のビルの地下室ね」
ポ「そだよ」

 ポロが、はっと我に返ると誰もいませんでした。

つづく

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2004-05-22 ポロの日記 2004年5月21日(電曜日)ポロ・プロジェクトふたたび その2

ポロ・プロジェクトふたたび その2


<新小岩の貸しビル地下>

 ポロは、イモようかんをあげるからおいでと言ったおじさんに誘拐されて、ビルの地下に閉じこめられていました。

ポ「ああ、神さま。もうイモようかんなんかにつられたりしませんから、ポロを助けてください。だいいち、猫に向かってふつうの人が“イモようかんをあげるよ”なんて言うわけがありません。ポロがバカでした〜!」

 すると、誰かの声がしました。

誰か「そ〜よ〜、ポロちゃん。気をつけなくちゃダメよ」

 それは女神さまの声でした。

ポ「わ、女神さま、どこ?」
め「ここよ、ポロちゃん」

 女神さまドアも開けずに、いつのまにか地下室の真ん中に立っていました。

ポ「わ、どうやって入ったの?」
め「あたしは、何でもできるのよ〜、ポロちゃん」
ポ「不思議だなあ」
め「それじゃ、ちょっとだけヒントを教えてあげるわ」
ポ「わあ、教えて教えて」
め「ポロちゃん、タキオンて知ってる?」
ポ「きいたことあるよ、光より速い粒子じゃなかったっけ?」
め「さすがポロちゃんね。本当はタキオンじゃないんだけど、分かりやすくするためにタキオンてことにさせといてね。あたしは自分をタキオン化できるのよ。無限の速さで移動するってどういうことだか分かる?」
ポ「えっと、えっと・・・・どこへでも瞬時に行ける」
め「そう、その“どこへでも”っていうところがミソよ。つまり、同時に宇宙の全てにあまねく存在してしまうの」
ポ「それって、神さま・・・」
め「や〜ね〜、ポロちゃん。あたし、これでも神さまよ〜」
ポ「そ、そだったね」
め「だから、どこか一点に収束すればそこに現れるわけ」
ポ「・・・・・!」
め「分かったでしょ。神さまのシステム」
ポ「す、すごい! どうして今まで気がつかなかったんだろう」
め「神さまのことは分かりにくいのよ」
ポ「でも、どうして教えてくれたの?」
め「それはね、今からポロちゃんを作曲工房へ連れて帰るからよ。ポロちゃんもタキオン化しなければならないの。ちょっとしたショックがあるから、前もって心構えをしておいてもらわなきゃならないのよ」
ポ「どんなショック? ポロ、ノストロモ号の加速に耐えたよ」
め「ポロちゃん、あたしにウソついちゃダメ。気絶しちゃったでしょ」
ポ「そ、そだった!」
め「そういうのとは違うショックよ。たとえば、あたしたちと同時に神さまがタキオン化していたとするとポロちゃんは神さまと完全に重なって、一時的だけど一体化しちゃうの。たいていの人はショックでアウトね」
ポ「神さまを体験しちゃうわけ?」
め「まあ、そんなようなこと。宗教的な修業の最終目標はそれよ」
ポ「ポロ、ちょっと怖いかも」
め「大丈夫よ、少なくとも神さまとは鉢合わせしないようにするから」
ポ「神さまたちも鉢合わせするんでしょ」
め「するわよ、しょっちゅう一体化しちゃうわ。だから一神教も多神教も同時に成立して矛盾しないの」
ポ「ほえ〜!」
め「じゃ、ポロちゃん、いろんなことが一気にポロちゃんの中に流れ込んでくるけど、雑音だと思っていればいいわ」
ポ「ポロ、やっぱりコワイよ〜」
め「男の子はガタガタ言わないの」


つづく

先頭 表紙

ふむぅ…まあ、宗教については「真実はあなたの中に…」と言うことで。でも、私は多神教の方がすき。 / みた・そうや ( 2004-06-01 10:31 )

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