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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2004-05-17 ポロの日記 2004年5月17日(光曜日)ポロのすてきな飛行船 その3
2004-04-26 ポロの日記 2004年5月2日(風曜日) チオチモリンを買いに その1
2004-04-25 ポロの日記 2004年5月2日(風曜日) チオチモリンを買いに その2
2004-04-24 ポロの日記 2004年4月30日(電曜日) 禁ヒケール法時代 その1
2004-04-23 ポロの日記 2004年4月30日(電曜日) 禁ヒケール法時代 その2
2004-04-22 ポロの日記 2004年4月30日(電曜日) 禁ヒケール法時代 その3
2004-04-21 ポロの日記 2004年4月28日(光曜日) ポロの一日その1
2004-04-20 ポロの日記 2004年4月28日(光曜日) ポロの一日その2
2004-04-19 ポロの日記 2004年4月25日(風曜日) ペットロボット“ポロ”その1
2004-04-18 ポロの日記 2004年4月25日(風曜日) ペットロボット“ポロ”その2


2004-05-17 ポロの日記 2004年5月17日(光曜日)ポロのすてきな飛行船 その3

ポロのすてきな飛行船 その3


 飛行船は、船首を20度ほども上に向けて力強くどんどん上昇していきます。高圧送電線の南葛線6番鉄塔の上を通過して、進路を北にとりました。
 飛行船の速度は思ったよりも速く快適でした。小型精密モーターのM社製のモーターは静かで力強く、舵の効きも文句なし。松戸博士が上空の気流を捉えれば季節と向きによっては時速100キロ以上も可能ではないかと言っていたのは本当だなと思いました。。
 ポロは高度を目測200メートルくらいに保ちながら北に3キロほどのところにある別所沼の上空を回って、30分ほどで工房に帰ってきました。せんせいと奥さんはお家に入っちゃいましたが、博士は外で待っていてくれました。

「博士、ただいま!」
「どうじゃった?」
「快適かいてき! すごいよ。もう自由自在。鳥になった気分だったよ」
「それはよかった」
「あのね、バッテリーで飛んでるっていう感じじゃなくてね、コンセントに直接プラグをつないでるみたいな力強さだったよ」
「それがこのシステムのすぐれたところじゃ。高空を飛ぶときに備えて電気ヒーターだけは追加しておこう」

 博士は、薄いシートタイプのヒーターを操縦席周りに巡らせてくれました。

「これで、上空の冷たい空気の中を飛んでも平気じゃ」
「わあ、アリガト。猫は寒がりなんだよ」
「ぶおっほっほっほ。そうじゃった。コタツがよかったかな」
「ところでさ、どのくらい高いところまで行けるの?」
「やってみないと正確なところは分からんが、十分な速度の気流の中なら理論的には数千メートルは行けるじゃろう」
「すっごい!」
「最後に、こやつに命名しようではないか。何かアイディアはあるかね」
「あるよ、レッド・ツェッペリン号!」
「おう、それはいい名前だ。それがいい」
「ポロさ、これで日本中行きたいな」
「おう、それがいい。北海道から沖縄まで、どこでも行けるじゃろう。しかし無理は、せんようにな」
「ダイじょぶ。ポロは慎重な猫なんだ」
「そうか。とむりん君はけっこう無謀な猫だと言っておったが、真実は真理の法廷にゆだねよう」
「わ、松戸博士も“真理の法廷”知ってるの?」
「知ってるもなにも、ずっと昔に一緒に飲みながら話し込んでいるうちに2人で思い至ったのじゃよ」
「へえ〜、そうだったのか」
「さあ、そろそろワシはクランベリーヒルに戻らねばならん。ポロどん、くれぐれも気をつけてな」
「アリガト、博士!」
「とむりん君と細君によろしくな」
「あ、待って、今呼んでくるよ」
「いいんじゃ、いいんじゃ。こんな老いぼれのためにわざわざ外に出てくることはない。では、さらばじゃ」
「うん、さよなら博士!」

 博士は空飛ぶ自動車というか走る宇宙船「りんご丸」に乗り込むと、手を振りながら発進しました。ディーンドライブ特有のキーンという金属音を響かせながら、りんご丸は星空に吸い込まれて行きました。



 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

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shinさん、飛行船は最高だよ。この次はドラム缶をつなげて溶接して潜水艦を作っちゃおうと思います。 / ポロ ( 2004-05-31 00:12 )
いーなー、飛行船!自分なら仕事も忘れてずっと飛んでたいです〜 / shin ( 2004-05-30 22:41 )

2004-04-26 ポロの日記 2004年5月2日(風曜日) チオチモリンを買いに その1

チオチモリンを買いに その1


「ねえ、せんせい。何か欲しいものある?」
「別にないよ」
「ねえ、なんかあるでしょ?」
「最近、欲しいものなんてなくなったよ」
「そこをなんとかさ〜」
「そうだなあ・・・。うん、チオチモリンだな」
「なにそれ?」
「とても珍しい物質だ。シュレーディンガー商会で売っているが、ポロは買うのに失敗したらしい」
「どういうこと?」
「今ここにないからさ」
「だって、ポロまだ買いに行ってないよ」
「買いに行かないか、あるいは買うのに失敗したかのどちらかだ」
「なに言ってんのせんせい。ポロ、ちゃんと買ってきてみせるよ。高い?」
「いや、1000円前後だと思うよ」
「な〜んだ。ポロ1200えん持ってるもん。そんなの買えるよ」

 ポロは、さっそくシュデンガンガー商会に出かけました。さいきんは道に迷うこともなくお店に行けるようになりました。
 古い木のドア。そこから漏れる色温度3200度の白熱電球の明かり。真鍮のノブを回すとそこはシュデンガンガー世界です。

「こんばんは〜!」
「おやおやポロ様、いらっしゃいませ。今日はどのようなご用でしょうか」

 店主の修士さんが穏やかな笑顔で出迎えてくれます。

「あのね、チオチモリンを買いに来たの」
「おお、チオチモリンでございますか。珍しいお買い物ですね」
「ある?」
「つい、今しがたまでございました」
「売れちゃったの?」
「まあ、そのようでございます」
「誰が買っていったの?」
「はい、おそらくポロ様ご自身でございましょう」
「何言ってんの、ポロ買ってないよ」
「それがチオチモリンなのでございます」
「修士さん、酔っぱらってない?」
「いえいえ、仕事中には飲みません。チオチモリンは吸時性がありまして、因果関係が逆転しております」
「どういうこと?」
「それではポロ様は、チオチモリンのことがよく分からないのでお買いになってみようと思われたわけですね」
「そ、そうなんだよ」
「チオチモリンは普通は低木のロザセア・カールスバーデンシス・ルフォの樹皮から分離・精製することによってのみ入手することができます。しかし、この木はチオチモリンを手に入れようとする人々の乱伐採によって、すでに半世紀も前に絶滅してしまいました」
「え〜、それじゃ、修士さんはどうやって仕入れたの?」
「ここにあるチオチモリンはディラック商会の学士が対創成したものです」
「なーるほど。じゃ、手に入るのは世界でここだけ?」
「チオチモリンは保存が極めて難しいので、おそらくここだけでしょう」
「それで、どうしてポロは買ってないのに、ポロが買ったの?」
「はい、それがチオチモリンの重要な性質です。たとえば前溶解性という性質は、チオチモリンが溶媒、普通は水ですが、を加える前に溶けてしまうものです。もちろん、誰も溶かそうと思わなければ何も起こりません」
「じゃあ、ポロが買おうと思ったからチオチモリンはさっさと買われちゃったんだね」
「それだけではありません。ポロ様は、代金1050円もお払いになられておられます」
「払ってないよ」
「財布の中身をお確かめください」
「わ、ホントだ150えんしか入ってない!」
「ありがとうございます。たしかに1050円頂戴いたしました」
「それでさ、ポロが買ったっていうチオチモリンはどこにあるの?」
「ポロ様のお財布が入っていたバックパックの中ではないでしょうか。1グラムの立方体の結晶です」
「そっか。ちょっと見て見よう」


つづく

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2004-04-25 ポロの日記 2004年5月2日(風曜日) チオチモリンを買いに その2

チオチモリンを買いに その2


 がさごそがさごそ・・・。ポロは、バックパックの中をさがしました。

「あれ、底のほうが濡れてるけど何もないよ」
「そうでございますか。おそらく、ポロ様はチオチモリンを溶かそうと思われたのでしょう。前溶解性が表れたのに違いありません」
「わあ、ポロってそんなこと思っちゃったのか。失敗したなあ。チオチモリンを買うときは強い意志が必要だね」
「さようでございます」
「次の入荷はいつ?」
「もう、ございます」
「え〜!」
「ポロ様の質問に答えようとわたくしが入荷を考えたからでございます」
「どこに?」
「はい、こちらの取寄せ棚のほうに」
「あれ、それも溶けてるみたい」
「これを買われる方が、溶解実験をなさろうとしていらっしゃるのでしょう」

 そこへ、ドアの開く音とともに女の人の声がしました。

「こんばんは〜!」

 現れたのは、かなりボーイッシュなかんじの娘さんでした。

「これはこれは量子さま」
「こんばんは修士さん。チオチモリンの在庫ありますか?」
「おやおや、一晩に2人もチオチモリンをお求めの方がお見えになるとは。でも、分かっていましたよ。溶解実験をなさるおつもりだったんですね」
「わお、過去形なの?」
「ほんの少し前に未入荷のはずのチオチモリン結晶が現れました。それも溶けた状態で」
「あ、またやっちゃった。それ、きっとあたしだわ。じゃ、代金も払い済かしら?」
「ありがとうございます。おそらくレジに1050円が入金されていると思います」
「ホントだわ、おサイフにレシートも入ってる。あら、可愛い猫ちゃん。修士さん、とうとう猫飼うことにしたの? やっぱりシュレーディンガー商会には猫がいなくちゃね」

 そう言うと量子さんはサッサと店を出ていきました。

「せわしない人だねえ」
「物理学科の学生さんです」
「ふ〜ん」
「そうだ。ポロ様、せっかくおいでいただいのですからこれを差し上げましょう」
「それって帽子?」
「はい、帽子型の隕石衝突警報装置です」
「へえ、すごいね。てっぺんについてるのがアンテナだね」
「さようでございます。隕石が落ちてきてこのアンテナに触れると、帽子をかぶっている人にそれが伝わる仕組みです」
「わ、それじゃとても間に合わないよ」
「はい、それが残念なところです。まあ、だいたい10のマイナス3乗秒くらい前でないと知らせてくれませんが、副次的な効果として紫外線防止も期待できます」
「せんせいがすっごく喜びそうだから、もらっていくね。アリガト」

 ポロがお店から出て歩き始めると、とつぜん強いにわか雨が降り始めました。あっという間にびしょぬれです。

 ・・・ああ、これがチオチモリンが溶ける理由だったのか〜。

 ポロは一人なっとくしながら、神田警察の軒先で雨やどりをすることにしました。たいくつだったので、ポロは隕石衝突警報装置をかぶってご満悦のせんせいを想像したら、そのおマヌケな様子に笑いが止まらなくなってしまいました。
 すぐに深夜の不審な笑い声を聞きつけた警察署のおまわりさんがやってきたので、ポロは慌てて逃げ出しました。

 あーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!

 深夜の雨の神田の町中を大笑いしながら走り去る猫を目撃したおまわりさんが、次の日から3日間休暇をとったと後で修士さんから聞きました。おまわりさん、ゴメなさい。

おしまい

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もしかして「チオチモリン」って「超強力カケール」なのかしら? せんせいにそんなもの必要なさそうな気がするけど。 / みわちゃん ( 2004-05-10 19:54 )
みわちゃん、つっこみアリガト! ポロは、せんせいがチオチモリンが欲しいって言ったから買いに行ったんだけど、せんせいが何にするつもりなのかは聞きそびれました。いったい、どうするんでしょか。 / ポロ ( 2004-05-09 23:31 )
チェシャ猫と違って、ポロちゃんは豪快に笑うんですね。ところでポロちゃんはチオチモリンを買って何をするつもりだったんでしょ? / みわちゃん ( 2004-05-09 15:45 )

2004-04-24 ポロの日記 2004年4月30日(電曜日) 禁ヒケール法時代 その1

禁ヒケール法時代 その1


 これは裏神田(うらかんだ)共和国における禁断のヒケールを巡る物語です。

 ※ポロ注:表日本のみの国籍を有し、ヒケールをご存知ないかたは、ポロのお話の部屋の「月夜のできごと」「続・月夜のできごと」をはじめにお読みください。「せんせい、熱を出す」も参考になると思います。

 2004年3月31日をもって、裏神田共和国ではヒケールが全面的に禁止になりました。裏神田国会では、体内で合成されたヒケール以外は例外なく禁止すべきであるという音楽道徳協会所属議員の正論に反対できず、ヒケール禁止法案(禁ヒケール法)は圧倒的多数で可決されました。裏神田という地域的な名前ですが、区域としては、そのまま日本と重なるのが裏神田共和国です。あまりおおっぴらには知られていませんが、日本には二重の国家が存在しています。たとえばあなたがスピード違反で検挙されたとします。そのとき、警察官に裏神田共和国の国民であることを耳打ちすると、反則金が安くなることがあります。それは、反則金の安い裏神田共和国の法律が適用されるからです。でも、裏神田共和国の国民ではない警察官に耳打ちすると変なヤツだと思われて逆効果ですから気をつけなければなりません。
 表日本(太平洋側という意味ではありません)にはないものが裏神田共和国には、いくつもあります。ヒケールはそのひとつなのでした。

 ポロが夜の神田淡路町を歩いていると、黒いソフト帽をかぶった怪しい人影に呼び止められました。

「ダンナ、黄色いカプセルありますぜ」

 声をかけたのはヒケールの密売人でした。猫に向かってダンナもないものだと思いましたが、それは密売人の符丁(ふちょう)なのかも知れませんでした。

「い、いらないよ。法律違反じゃないか! それに、ポロはピアノ弾けるもん」
「へっへっへ。せいぜいバイエルってとこでしょ」
「ぎくっ! ど、どうしてそれを」
「いいもんですよ。これさえあればダンナの弾くピアノから名曲が次々と流れ出てきやすぜ。ああ、至福の時だ」
「ど、どんなヒケール持ってるの?」
「これですぜ」
「わ、それは販促用じゃないか。ポロは、前にそれでひどい目にあったんだ。いらないよ」
「けっ! 知ってたか」

 男は去っていきました。
 ヒケールが禁止された途端、ピアノは大ブームを巻き起こしました。禁ヒケール法の成立がきっかけとなって、多くの人が初めてピアノを弾くということの素晴らしさに気づいたのに違いありません。自分の指先から美しい音楽が流れ出てくる。こんな素晴らしいことが他にあるでしょか。ところがヒケールなしで、それを実現するためには長い時間と労力と精神力をつぎ込まなければなりません。それを一気に解決するヒケールを人々が求めずにいられるわけがありませんでした。

つづく

先頭 表紙

2004-04-23 ポロの日記 2004年4月30日(電曜日) 禁ヒケール法時代 その2

禁ヒケール法時代 その2


 ヒケールは猫の星の製薬会社「ドーラ・メディコ」が製造しています。猫の星では合法ですが、裏神田共和国では非合法薬物。そのため、猫の星はゴールデン・トライアングルと呼ばれて渡航が禁止されました。そうなると、裏神田で発行される新聞では密輸団の宇宙船と宇宙警察の戦いの記事が毎日のように紙面をにぎわせるようになりました。
 もうけ話をいつも探している一部の怪しい人々は、こんなうまい話を放っておくわけがありません。そんな彼らに目を付けられたのは、世界征服を目指しながらも資金難にあえぐ某秘密結社でした。この秘密結社は古いながらも恒星間旅行が可能なレトロフューチャーな軍用艦“轟天号”を所有していたからです。轟天号はヒケール密輸の主役として活躍することになり、その名を歴史に残すほどになります。
 その頃、第2次世界大戦末期に海底に沈んだ戦艦ヤマトを引き揚げて、宇宙船に改造する試みが始められました。表向きの理由は環境改善のための技術輸入でしたが、本当の目的はヒケールの密輸でした。新大和の波動エンジンはシュデンガンガー商会から調達したものでした。店主の松戸修士さんは、密輸に使われることを見抜けなかったと言って残念がっていました。波動エンジンを買いに来たエンジニアが、本当の目的を知らされていなかったので、悪意を見抜くセンサーが反応しなかったのでした。新大和も轟天号も、ヒケールの密輸でばく大な利益をあげました。

 ポロは恐ろしい夢を見ました。
 ポロが裏神田新聞の朝刊を見ると、一面トップに「今度はイモようかん禁止法成立」の文字が。

「うわ〜〜、大変だ〜〜!」

 記事を読み進むうちに、イモようかん禁止法は地球温暖化防止法の一環として制定されたことが分かってきました。温暖化ガスの排出削減だそうです。ひょっとして温暖化ガスってオ○ラのこと?
 イモようかん禁止法の発効とともに、密造イモようかんが次々と摘発されました。どうやら、人間というのは禁止されると、それが欲しくなる習性があるようでした。一説によると、禁止後のイモようかん製造量は、禁止前の27倍にものぼるということでした。それまでイモようかんを食べたことがなかった人まで、イモようかんを食べてそのおいしさに仰天しました。寒天でがっちりと固めてしまったイモようかんでさえ人気を呼びましたが、おイモの味をそのまま生かした自然なイモようかんは芸術的とまで言われ、目玉の飛び出るような高値がつきました。
 表向き、店先からイモようかんは姿を消しましたが、町中の至るところでイモようかんは手に入りました。ちょっと心得のある人ならば家で作って副業にし始めたからです。そんなある日、ポロがいつものようにリビングで幸せを噛みしめながらイモようかんを食べていると、裏神田警察署の刑事がやってきてポロに向かって言いました。

「イモようかん現行犯で逮捕する!」

 ポロは、そこで目が覚めました。まだ胸がドキドキしています。
 その日の午前中に、ポロは心配で心配で、近くの和菓子屋さんに偵察に行きました。店先にはイモようかんがお行儀よく整列していました。
 ・・・ああ、やっぱりホントにタダの夢だったんだ。
 ポロは3時のお茶に降りてきたせんせいにヒケールが禁止になったことを話しました。


つづく

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2004-04-22 ポロの日記 2004年4月30日(電曜日) 禁ヒケール法時代 その3

禁ヒケール法時代 その3


「ふうん、そうか」
「ふうんそうかなんて、ひとごとみたいに言わないでよ」
「ポロ」
「なあに?」
「モンブランの頂上にヘリコプターで運び上げてもらうのと、自分で登るのとの違いは?」
「え〜、せんせい! そんなに大きなケーキがあるの?」
「あ〜〜〜〜、悪かった。たとえが悪かった。ごめん。チョモランマにするよ」
「なあんだ。山のモンブランか。ポロの辞書じゃ、その意味はマル2だよ」
「で、意味の違いは?」
「えっとねえ。風景を見たいんだったら一緒。登山は自分の力を知ることができるっていうところかな」
「そうだ。ポロはどっちがいい?」
「両方いいな。自分でも登れるけど、お休みの日にはちょっとチョモランマの頂上へ行けちゃうのもいいな」
「でも、よくかんがえてごらん」
「なあに?」
「簡単に登れるようになったらわざわざ自力で登る人は激減するだろうね。それどころかチョモランマはたちまち荒らされてしまうだろう」
「そっか。やっぱりなかなか行けないところっていうのはあったほうがいいかも」
「山に登るためには多くの知識と技術、そして判断力が必要だ。山に行くということはそれらを得るということと同義だ」
「そうだね」
「ピアノも全く同じだ。簡単な曲でさえ、弾けるようになる頃には数えきれないくらい多くのことを学ぶ。山もピアノも人を鍛える」
「そだね」
「鍛えられた人は決して山を傷めない。おまけに山の魅力と怖さを一生忘れない」
「なーるほど。ピアノに鍛えてもらった人は、一生ピアノから離れないっていうことだね」
「カメラも同じだよ。全自動のコンパクトカメラを使っている人は、写真を極めようという気にならないかも知れないよ」
「うわ。分かるよわかる。カメラに鍛えてもらった人が写真の奥義を目指すんだね。世の中ってそういうことだったのか〜」

それからもピアノブームは、ますます白熱して、ヒケールの密輸が後を絶ちませんでした。それどころか、密輸団と警察は戦争状態に突入しました。それほどヒケール密売は儲かったのです。禁ヒケール法成立1年後、とうとう裏神田国会は、ヒケールを合法化することにしました。
ヒケールが裏神田のドラッグストアやコンビニの店頭に並ぶようになると、たちまちピアノブームは去りました。

「せんせい」
「なんだい?」
「せんせいの言ったとおりだったね」
「何が?」
「ピアノって練習することに意味があるんだね。ヒケールで弾けちゃっても、音楽のこともピアノのことも何も分かるようにならないもん」
「そうだね」
「山もそうだよ。自分で登る人だけがホントのすばらしさが分かるんだ」
「ポロ、ちょっと分かるようになったじゃないか」
「そう? うれしいな。お金もさ、拾ったってダメだよね。自分で稼ぎださないとお金のことが分からないもんね」
「たしかにそうだね」
「ポロさ、今度のヒケールの騒ぎで、人生の意味のすみっこを見たような気がするよ」
「そのくらいで人生論じてちゃ、まだまだだな」
「え゛〜、まだあるの?」
「あるぞ。ポロ、星を見にいこう。自分の双眼鏡もっておいで」
「うん、いくいく!」


おしまい


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2004-04-21 ポロの日記 2004年4月28日(光曜日) ポロの一日その1

ポロの一日その1

07:30
 ポロは当番がないので朝ご飯ぎりぎりに目を覚まします。
 ポロがダイニングに行くころには家中の掃除も終わって、キッチンでは当番のたろちゃんが奥さんと一緒に朝ご飯の支度をしています。
 朝ご飯を食べながら出撃前のブリーフィングがあります。みんながそれぞれ今日の予定を報告します。

奥「ポロちゃんはいつもどおりね」
ポ「うん、でも取材に行くかも」
奥「夕ご飯がいらない時は夕方の6時までに電話してね」
ポ「は〜い!」

08:00
ご 飯を食べ終わると、3人の子どもたちと奥さんは出撃です。せんせいは「登録商標 吉井本家」というレトロな火打ち石と火打ち金で奥さんに火切りをします。カチッカチッ! それで「おまいさん、気をつけていってきておくれ」なんて言ったら時代劇です。

火打ち石の伊勢公一商店へ

 せんせいが後片づけと食器洗いをします。食洗機だけど。

08:30
 せんせいとポロの新聞タイム。ポロは今日の情報を新聞からゲットします。せんせいがニュース解説をしてくれることもあります。週刊こどもニュースくらい分かりやすいです。

09:00
 せんせい、お仕事開始。ポロも勉強が始まります。
 1時間目は調べものです。お話を書いていると知らないことだらけです。分からないことはリストにして、それを順番に調べていきます。この作業は時間を決めておかないと、キリなく続いてしまいます。

10:00
 レッスンがないときは、煮詰まったせんせいがお茶のためにリビングに降りてきます。ポロのPCはリビングにあるので、いつもせんせいと一緒にお茶です。

10:15
 2時間目はポロの執筆時間です。アイディアがないときには地図を調べる時間にもなります。執筆時間はあっという間に過ぎていきます。

12:30
 お昼ご飯の時間です。せんせいがいろいろなランチを作ってくれます。最近では、かた焼きそばがヒットでした。食後にピアノの練習をすることもあります。

13:30
 せんせいは、お仕事開始。ポロは3時間目、古典の勉強です。江戸時代にまとめられた「群書類従」の中に収められた古いお話の中から選んだり、中国の漢詩を選んで音読しています。意味はさっぱり分からないけど、漢詩や文語体のリズムを身体で覚えてきました。夏目漱石や森鴎外にも古典のリズムからの影響を感じます。なんてことが書けるくらいにはなってきました。ときどきSFやファンタジーも音読します。そういう本は翻訳なので、リズムがでたらめだったりします。古典の教養って必要かも。

「群書類従」より「いさよひの日記」


つづく

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2004-04-20 ポロの日記 2004年4月28日(光曜日) ポロの一日その2

ポロの一日その2


15:00
 レッスンがなければ、せんせいと3時のお茶です。最近はレッスンが多くなったので、3時のお茶は機会が減りました。

15:15
 お茶が終わると音楽の勉強です。最初の目標はベートーヴェンの交響曲全曲の区別がつくようにすることでした。次は、ピアノソナタ全曲の区別がつくまで聴きこむこと。そして今は、バッハの平均律第1巻をバルトーク校訂版とヘンレ原典版の両方を交代に見ながら聴きこんでいます。そうするとバルトークが原典版から何を読み取っていたのかが分かってきます。すごいぞバルトーク! いつになるか分からないけど、バルトークも気づかなかった拍子とリズム分析を加えたせんせい校訂版の完成も楽しみです。
 音楽の勉強をしないときは取材にでかけることもあります。取材先は午前中の地図の時間に詳しく下調べしておきます。遠くへ行くときは、せんせいと奥さんに置き手紙を書きます。

「せんせい、奥さん、探さないでください。夕ごはんはいりません」

 せんせいも奥さんも「探さないでください」は、いらないよ、って言いますけど、クセでついつい書いてしまいます。

18:30
 せんせいのおうちの夕ご飯は時計のように正確です。この時刻に遅刻したら夕ご飯はないと思わなければなりません。ポロは、この時間帯に出かけているときは取材先から飛んで帰ってきます。「ごはんごはんごはんごはん〜!」

19:30
 せんせいは、たいていレッスンです。ポロはゴマのお兄ちゃんたちとテレビを見たり、ゲームをして遊びます。みんな、ポロをホントの兄弟みたいに可愛がってくれます。ポロは幸せです。

21:30
 ポロは今日の勉強の成果をまとめたり、取材のまとめをしたり、昼間に時間が足りなくてできなかったことをやります。お話を書いたり、本を読んだり、調べものをしたりと時間はいくらあっても足りません。せんせいは、もっと時間が足りないみたいです。読んだ人が「ああ、よかったなあ!」って思えるようなお話を書くには、もっともっと勉強しなければなりません。せんせいは「意味のない知識を増やすのは簡単だが、本当に必要なことが何であるのか見極めのは難しい」といつもポロに言います。それは、いざお話を書こうとしたときによく分かります。

01:00
 この頃になると眠くなるので歯を磨いて寝ます。お休みなさい。また明日。



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shinさん、ツッコミアリガトございます。ホント言うとポロは、こんなにきちんと勉強できません。ど〜してもイモようかんの誘惑に負けてしまうからです。夜の猫集会にはときどき情報収集のために行きます。あいさつは人間語で言うと「よう、ブラザー!」みたいな感じです。 / ポロ ( 2004-05-05 18:36 )
作曲工房のニュース(?)速報ヘッドラインみたいでいいですねぇ、是非、レギュラーコンテンツとしてWebサイトの片隅に表示し続けて下さい(熱望)!っていうか、アレ?ポロさんは「夜の集会」にはお出かけにならないのですか? / shin ( 2004-05-04 20:10 )
おちゃめさん、せんせいのおうちの最大のふまんは猫のたからもののコタツがないことなんだよ! / ポロ ( 2004-05-03 20:04 )
♪ね〜こ〜はこ〜たつ〜でま〜るく〜なってないのか・・。(笑 / おちゃみ ( 2004-05-03 12:42 )

2004-04-19 ポロの日記 2004年4月25日(風曜日) ペットロボット“ポロ”その1

ペットロボット“ポロ”その1


 今日は、遠くから管理人1号さんというレトロなロボットみたいな名前のお客様が来ました。せんせいの古いお友達だそうです。
 せんせいとポロは最寄りのタドタド駅まで出迎えました。

1号「おう、久しぶり」
せ 「あ、また太ったんじゃないか?」
1号「のっけから、そういうことを言うもんじゃない」
ポロ「ポロでーす。管理人1号さん、はじめまして」
1号「あれ、いつの間にこんなもの買える身分になったんだ、ソニ○のア○ボよりよく出来てるな。毛皮もイイ感じだ。個人の識別は何人ぐらいできるんだ?」
せ 「本物だよ」
1号「そりゃ、本物のロボットだろうよ」
ポロ「ちがうよ、ポロは生きてる猫だよ」
1号「おお、リアルにしゃべるなあ。いったいいくらしたんだ」
ポロ「ちがうよちがうよ」
せ <ポロ、否定するな。そういうことにしておこう>
ポロ<で、でも・・>
せ 「これか、これは借金500万円てとこだ」
ポロ<せんせい、それは内緒だよ>
1号「これだけよくできてると、もう家族だな」
せ 「まあ、そんなところだ」

 管理人1号さんのお目当ては、いつでもポチヲ亭です。ポチヲ亭がなければ、せんせいのところなんか来るわけがありません。というわけでもないけど。

ポチ緒「いらっしゃいませ。あら、猫型のペットロボットもできたんですね」
せ 「ええ、まあ」
ポロ<ほ、本物だよ・・>
せ <そういうことにしておかないと、店に入れないんだぞ>
ポロ<そ、そっか。そういえば、ポロ、ポチヲ亭初めてだもんな>

 ポロは、ポチヲ亭をジロジロと眺め回しました。ちょっと照明のおさえられた画廊のような空間に、ホントに絵がいくつもあります。すってきじゃん!

1号「あ。水ね、水」
ポチ「はい、どうぞ」
1号「うまい。レストランは水がうまくなくちゃ」
ポチ「ありがとうございます」
ポロ<水ほめられたって、うれしくないよね、せんせい?>
せ 「いや、そうでもないぞ。基本として大事なことかも知れないよ」
ポロ<ふーん、そんなもんか>
1号「そのロボット猫、なんて呼んでるんだ?」
せ 「ポロっていうんだ」
1号「よし、ポロの性能テストだ。ポロ、質問に答えなさい」
ポロ「な、なあに、いきなり」
1号「お、かなり高度な受け答えができるな。では、平行線は交わらないと定義したのは誰だ?」
ポロ「そ、そんなの知らないよポロ。せんせい分かる?」
せ 「ユークリッド、あるいはエウクレイデスだと思うよ」
1号「こういうことはまだ学習させていないんだな」
せ 「まあ、ぼちぼち教えるよ」

つづく

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2004-04-18 ポロの日記 2004年4月25日(風曜日) ペットロボット“ポロ”その2

ペットロボット“ポロ”その2


1号「では次の質問だ。私は絵が好きだとする。ポロなら私の誕生日には絵や画集を贈るか?」
ポ 「贈らないよ」
1号「おお、正解だ。理由は?」
ポ 「ポロ、1号さんに誕生日プレゼントするほど仲良しじゃないから」
せ 「あっはっは。1号、一本取られたな」
1号「まいったな。プログラミングの限界か」
せ 「しかし、学習するよ。説明してやってくれないか」
1号「絵が好きな人というのは、好みがうるさい可能性が高い。好みの絵をプレゼントするためには綿密なリサーチが必要になるだろう。だから、プレゼントというのは贈る相手が本当に欲しいものが分かっている時を除けば、相手のよく知らない分野で、かつこちらは明るいというモノから選ぶのがいい」
ポ 「なんだ、そっか。よく分かったよ。ポロ、今度1号さんにイモようかんプレゼントする」

 それから、ポロたちは運ばれてきた料理を次々に平らげてポチヲ亭を出ました。
 店の前の駐車場で、ユードラのドアを開けるせんせいからポロを抱き上げた1号さんは「わ、これ本物の猫じゃないか!」と声を上げました。1号さんは、ポロをひざに乗せたままユードラに乗り込みました。

せ 「やっと気づいたか」
1号「どういうことなんだ」
ポ 「言ったじゃない、ポロ本物って」
せ 「猫の星から来たんだ。おぬしには知的地球外生命って言ったほうが分かりやすいな」
1号「信じるよ。なにしろ、目の前にいるからな」
ポ 「びっくりした?」
1号「びっくりしたよ。でも、どうして騒ぎにならない?」
せ 「うちの猫は宇宙人ですって、近所にふれまわってみれば分かるよ。誰も驚かないし気にもとめない」
ポ 「そだよ。ポロ、せんせいのホームページで普通にお話書いたりしてるけど、みんな普通にお返事くれるよ」
1号「あまりに突飛なことは、想像の外にあるから問題にならないということだな」
せ 「さあ、駅まで送るよ」
1号「ああ、ありがとう。それにしても驚いた。これは秘密なのか?」
せ 「別に秘密というわけではない。サイトでは公開している。でも、スーパーやレストランでは秘密にしたほうがいい。入れてくれないから」
1号「そうか。いやあ、この歳になって、こんなに強烈なSF体験をするとは思わなかった」
ポ 「じゃ、今日は楽しかった?」
1号「ああ、また会いに来るよ」

JR京浜とうへんぼく線のハムラビ駅のロータリーに降りた1号さんは、ポロたちにいつまでも手を振っていました。


おしまい


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房


先頭 表紙

mokoさん。もしもmokoさんが作曲工房に来るようなことがあったら、ポロがおこづかいをためてポチヲ亭でごちそうしちゃうからね。 / ポロ ( 2004-05-07 12:34 )
‘ポチヲ亭’の写真ありがとう♪イメージ通りの素敵なお店ですね〜いつかぜひ行ってみたいです♪贈り物のお話も、とても参考になりました! / moko ( 2004-05-03 07:03 )

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