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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2004-03-09 ポロの日記 2004年2月29日(風曜日) 大きなマルエツに行く その1
2004-03-08 ポロの日記 2004年2月29日(風曜日) 大きなマルエツに行く その2
2004-03-07 ポロの日記 2004年2月27日(電曜日) フェッセンデン商会 その1
2004-03-06 ポロの日記 2004年2月27日(電曜日) フェッセンデン商会 その2
2004-03-05 ポロの日記 2004年2月27日(電曜日) フェッセンデン商会 その3
2004-03-04 ポロの日記 2004年2月27日(電曜日) フェッセンデン商会 その4
2004-03-03 ポロの日記 2004年2月27日(電曜日) フェッセンデン商会 その5
2004-03-02 ポロの日記 2004年2月27日(電曜日) フェッセンデン商会 その6
2004-03-01 ポロの日記 2004年2月27日(電曜日) フェッセンデン商会 その7
2004-02-29 ポロの日記 2004年2月27日(電曜日) フェッセンデン商会 その8(最終回)


2004-03-09 ポロの日記 2004年2月29日(風曜日) 大きなマルエツに行く その1

大きなマルエツに行く その1

 今日は、せんせいの末娘のたろちゃん(中1)といっしょに、近所のイトーヨーカドーというとっても大きなマルエツに行きました。今日は、奥さんと海のお兄ちゃんが神田山陽さんの講談の独演会、せんせいはピアノ屋さんに、ゴマのお兄ちゃんはお友達のところに出かけているので、たろちゃんが夕ご飯のしたくをするからです。
 ポロは、たろちゃんが肩から下げたバッグの中に入っていました。

「大きなマルエツだねえ。いつものマルエツだって迷っちゃうのに、ここは10倍くらい大きいかも」
「新しくできたの。それよりポロ、あんた最近重くない? イモようかんの食べ過ぎよ」
「ち、ちがうと思うな。ポロは成長期だから育ったんだと思うな」
「だって、ポロって3000歳でしょ」
「地球の猫で言うと3〜4ヶ月っていうところだよ」
「何わけのわからないこと言ってんのよ。とにかく絶対太ったわ」
「と、ところでさ、今日の夕ご飯、何にするの?」
「今日はね、あたしの特製お好み焼き食べさせてあげるからね」
「わあ、楽しみ!」
「でもさ、ひどいと思わない? うちの炊事当番交代制」
「ポロは、いいと思うな」
「じゃ、来週からポロも炊事当番のシフトに入りなさいよね」
「そうだ、ひどいよね。炊事当番制度なんて!」

 ポロたちは、洋服や靴を売っている専門店の並ぶ広い売り場を抜けて、食料品売り場にたどりつきました。

「えっと、最初は野菜売り場で長いもよ。あ、あった。どれも298円だって。ポロ、どれがいいと思う?」

 ポロは、他の人に見つからないようにヒモで編んだバッグのすき間から長いもを品定めしました。

「ポロの野生の勘では右から2番目だと思うな」
「そう。じゃ、これにするわ」
「うん」
「それから、キャベツはうちにあるから次は長ねぎね。どれもおんなじよね。これでいいわ」
「ちょっと、なげやりっぽいかも」
「うるさいわねえ。洋服買うんだったら迷って迷って選んじゃうけど、今日お好み焼き食べて誰かが、やっぱり隣にあったネギのほうがおいしかったんじゃないか、なんて言うと思う?」
「そりゃ、そだけど」
「次はベニショウガよ。えっとね、ウチじゃ気をつけるように言われてる着色料があるから調べないとね。あ、これ大丈夫」
「ねえ、たろちゃん」
「なに?」
「ほら、今日29日だから肉の日だって、あそこのノボリに書いてあるよ」
「安いのかなあ。ちょっと見に行ってみようか」
「うん、いこいこ! 猫は、ホントは肉食なんだ」

 精肉売り場は、ほかの場所よりも混みあっていました。

つづく

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2004-03-08 ポロの日記 2004年2月29日(風曜日) 大きなマルエツに行く その2

大きなマルエツに行く その2

「うわあ、ポロにはよく分かんないけど、こんなに人がいるってことは、ここに並んでるお肉ってきっといつもより安いんだね」
「ねえポロ。この豚バラブロックを買っていってさ、焼き肉くらいの大きさにカットして、お好み焼きのホットプレートで焼いて食べたらおいしいと思わない?」
「思う思う。生まれたときからずっと思ってたような気がしてきた!」

 たろちゃんは、今日の目玉商品の大きな豚バラブロックをカートのカゴに入れました。

「ポロ、今日はすごくいい日のような気がしてきたな」
「ポロって、いつも幸せそうよね〜。あたしだって猫だったら、な〜んにも心配事なんかなくて楽しくやっていけるだろうになあ」
「そ、それはゴカイだと思うな。ポロは、ポロてきに、いろいろと悩みもあると思うな」
「猫のなやみ?」
「そ、そだよ」
「ふ〜〜ん」
「あ、信じてないでしょ、信じてないでしょ!」
「ううん。きっといろいろあると思うよ」
「そだよ、そだよ!」

 それから、特売の牛乳なんかを買ってからレジに並びました。

「わあ、たろちゃん、見て見て。おいしいそうなお菓子がいっぱい!」
「これってね、お店の作戦なのよ。レジの列に並んでいるときって退屈でしょ。だから、こういうところをよく見ちゃうわけ。そうすると欲しくなっちゃうの。今度お腹いっぱいの時にここに並べばホントの気持ちが分かるわよ」
「すごいねえ、たろちゃんて」
「とむりんの受け売り」
「なあんだ、そうか」

 大きなお店なので、レジを通ってから出口まで、しばらく歩きました。途中でポロは、少し前に読んだメルヴィルの小説の「白鯨」に出てきた名前を見つけました。

「ねえ、たろちゃん。白鯨のスターバック航海士と同じ名前のお店があるよ」
「ああ、スタバでしょ」
「え゛〜! あれがスタバっていうお店なの?」
「そうよ」
「へえ〜、へえ〜、へえ〜!」
「なに、感心してるの?」
「うん、ちょっとね。そういえば、せんせいってスタバ町(ちょう)の生まれじゃなかったっけ?」
「双葉町じゃないの?」
「そっか〜」
「コーヒー飲みたいの?」
「ううん、そうじゃないけど。このお店っていっぱいある?」
「あるよ」
「そっか。じゃ、こことは限らないんだ」
「何の話?」
「ううん、べつに」
「へんなの」

 おうちに帰ると、たろちゃんは「あたしにはキャベツを刻む才能なんてないわよ!」なんて言いながらキッチンでお好み焼きの準備をはじめました。ポロは、だんだんたそがれていく窓の外を眺めながら、たろちゃんてけっこうイケるじゃんて思いました。


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

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えっと、このお話が書かれたころ、作曲工房のおちゃめさんの掲示板が「おちゃめ、スタバで春眠」というタイトルでした。せんせいからつっこまれてしまったので著者注です。それから、マルエツは作曲工房の近所にいくつもあるスーパーのことです。これは、こすもすさんにつっこまれちゃいました。皆さん、わけのわかんないことを書いてゴメなさい。 / ポロ ( 2004-03-05 08:45 )

2004-03-07 ポロの日記 2004年2月27日(電曜日) フェッセンデン商会 その1

フェッセンデン商会 その1

 ややや。いつの間にポロは技術文書達人養成キットのことを書いたんだろう。あれ、それにシロちゃんのコラムの添削もしてるぞ。スランプなのになあ。書いた気もするし、書かなかった気もするなあ。変だなあ。ひょっとすると、こないだユメで見た“ポロ・プロジェクト”のE次郎さんの仕業かも知れないなあ。やっぱり、せんせいの言うとおりフェッセンデン商会に行ったほうがいいかも。
 そんなわけでポロは、きのうの夜に葛飾区のお花茶屋というところに出かけました。トラックを乗り継いで、ポロがたどり着いたのは京成線のお花茶屋という駅前でした。

 -なんだか普通のことろだなあ。下町っぽいっていうのかなあ。シュデンガンガー商会のある神田とは大違いだなあ。

 せんせいに渡された地図をたよりに歩いていくと、住宅街の普通のアパートのドアに「フェッセンデン商会」という小さなプレートが貼りつけてありました。
「とんとん、ごめんくださーい!」
「しーっ! お静かに。近所から苦情が来ます。どのようなご用ですか」
「ポロといいます。あのー、とむりんせんせいから聞いてきたんですけど」
「あ、ちょっと待ってください。今、片づけますから」
それから、ポロは5分近く待たされて、やっと中に入れてもらえました。
「どうぞ。散らかっていますが」
「おじゃましまーす」
「誰にもつけられませんでしたか?」
「えっ、誰かがあとをつけてくるの?」
「はい、近ごろ物騒でして」
「ポロの野生の勘だと、たぶん誰もいなかったと思うよ」
「それならいいのですが」

 部屋の中は、お店じゃなくて普通のアパートでした。それも畳の部屋に小さなキッチンスペースがあるだけの生活感あふれるというか、干物を焼いた匂いのするおじさんの侘びしい独り住まいという感じでした。ポロは変なところに来ちゃったなあと思いました。
 小さなコタツに向かい合って座ると、ちょっと髪の薄くなり始めた貧相なおじさんは名刺を出しました。

 あなたの違和感の原因を究明します
 フェッセンデン商会 ハミルトン松戸

「ははは。芸名ですよ」

・・・芸能人でもないのに芸名かあ・・。

 ポロがあっけにとられていると、ハミルトンさんがいいました。

「で、どのような違和感をお持ちなのでしょうか」
「え、えっと・・・・」

 ポロは、このあいだ見たポロ・プロジェクトのユメのこと、それから、誰かに操られているような気がすることを手短に話しました。

「なるほど。では、ちょっと調べてみましょう」

 ハミルトンさんは、押し入れからいろいろな機械を持ちだしてきて狭いコタツの上に並べました。

「こちらは次元レーダー。これは次元レシーバー。そしてこれは次元トレーサー。最後のこの機械が次元レコーダーです」

 ハミルトンさんは、006P電池をつなぐとスイッチを入れました。

「やっぱり松戸博士の発明ですか?」
「そうです。彼を知っているのですか」
「電池が006Pだったから、そうなかあって思ったの」
「なるほど、そう言えば最近あまり使われない電池ですね。彼は松戸一族きっての変人ですが、頭脳と腕は確かです。では、始めましょう」

 ぶ〜〜〜〜ん!

 機械が一斉に小さな音を立てて動き始めました。


つづく

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2004-03-06 ポロの日記 2004年2月27日(電曜日) フェッセンデン商会 その2

フェッセンデン商会 その2

「今、次元トレーサーのタイムトレース機能が、ポロさんがポロ・プロジェクトの夢を見ていた時間帯を探っています。あ、見つけたみたいです。そうなれば次は次元レーダーが場所を特定します」
「すごいねえ、これがあればどんな犯罪もたちどころに犯人が分かっちゃうね」
「そうなんですが、そういう依頼はほとんどありませんね。おや、場所も分かってきたぞ。東京都内のようですね。それも東のほうだ。いや、意外と近いぞ。これは新小岩あたりかな。今、私が要注意だと思っている地域です。ひょっとすると、これはポロさん、私にとっても当たりかも知れません」
「新小岩ってどこ?」
「後で地図で確認しましょう。それより、場所が特定できたようです。次元レシーバーをピンポイントでそこに合わせます。多分、声が聞えて来るでしょう」

<「・・・・では、お話の部屋担当のE次郎さん、お願いします」「新たなキャラクターである松戸巌流、および松戸哲学が加わりました。これによって、松戸一族はお互いをみな変人呼ばわりするということ、および誰もがその道を極めなければ気が済まない人格の持ち主であるということが明らかになってきました・・・」>

「わっ! この夢だよ。これに間違いないよ」
「これは夢ではありません。やはりあなたを操ろうとしている企みがあるようです」
「えっ! ポロ、どうすればいいの?」
「応援を頼んで、会議の現場に踏み込みましょう」
「応援て誰に頼むの?」
「松戸一族がからんできていますから、シュレーディンガー商会の修士さん、ディラック商会の学士さんあたりが一番頼りになると思います。シュレーディンガー商会には戦隊ものの変身キットや、ヒーロー変身キットもありますからね」
「わあ、ホントのヒーローになれるの?」
「少なくとも、見た目だけはそっくりです」
「ポロはスペース・キャットレンジャーがいいな。腰に光線銃ぶらさげてるんだよ。こんな感じ。<動くな。この光線銃は飾りじゃないぜ!> きゃあ、ポロ、一度やってみたかったんだ」

あれ、ハミルトンさんが、またこたつの上に機械を並べ始めました。変だなあ。

「こちらは次元レーダー。これは次元レシーバー。そしてこれは次元トレーサー。最後のこの機械が次元レコーダーです」
「うん、ポロ知ってるよ、さっき説明してくれたじゃないですか」
「いや、今初めてお見せしたのですから、私は説明していません」
ハミルトンさんは、006P電池をつなぐとスイッチを入れました。

 ぶ〜〜〜〜ん!

 機械が一斉に小さな音を立てて動き始めました。
 しばらくたっても何も起こりませんでした。

「どうやら、ポロ・プロジェクトというのは、あなたの本当の夢に過ぎなかったようですね」

つづく

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2004-03-05 ポロの日記 2004年2月27日(電曜日) フェッセンデン商会 その3

フェッセンデン商会 その3

「そんなことないよ、だってさっきは新小岩でポロ・プロジェクトの会議やってるって、ハミルトンさん言ったじゃないか〜!」
「ポロさん、それはあなたが白昼夢を見ていたからです」
「そんなことないよ〜。ポロ、確かに聞いたもん」
「いえ、私はそんなことを言っていません。第一、今初めて機械を出して並べて計測を始めたところです。ポロさんも見ていたでしょう」
「え〜、そうなのか。そう言われてみれば、なんだかそんな気もしてきたな」
「これで、あなたには白昼夢の癖があることがはっきりしました。あなたの違和感はあなた自身が作り出したものに間違いないでしょう」
「でもね、ポロは“技術文書養成キット”なんていうお話も、シロちゃんのコラムの添削もした覚えがないんだよね〜、なにしろいま、特大級の文豪スランプだからさあ」
「あなたはクランベリーヒルだのサンタクロースだのと、ファンタジーばかり書いていているので現実と夢の区別がつかなくなっているのですよ」
「く、クランベリーヒルもサンタクロースもホントのことだよ!」
「ほーらほら。そんなこと誰が信じますか?」
「みんな信じてくれてるよ!」
「あなたのお話の読者にアンケートをとってみればいい。100人中100人がファンタジーだって答えるはずですよ。私はこの機械を信じています」
「ホントだもん、ホントだもん!」
「さあ、何も見つからなかったのでお代は要りません。お引き取りください」
「ひどいよ、ひどいよ! ハミルトンさんのばかばか!」

 ポロは首根っこをつかまれて、ドアから外にポイっと追いだされてしまいました。
 作曲工房方面に向かうトラックが少なくて、ポロは夜が明けてからやっと帰り着きました。

「ぜんぜー、だだいま゛〜。ぐだびれだー!」
「ああ、おかえり。遅かったね。それで、ハミルトンさんは何て?」
「あのね〜、ポロの白昼夢だって」
「そうか。少し詳しく話してくれないか」
「これこれこうこう、かくかくしかじか・・・・」

 ポロは、思いだせることを全部話しました。

「なるほど分かった。だが、その話には疑問点がいくつもある」
「えっ、どういうこと?」
「ポロは、自分の話のことをどのくらい話した?」
「なんにも話してないよ」
「じゃあ、クランベリーヒルのことは、ポロの白昼夢のなかの会議でしか出てこなかったわけだ。ましてやサンタクロースのことをハミルトンさんがなぜ知っていたかは、全く謎だ。これは何かあるな」
「そーか! どうしてあの時気がつかなかったんだろう。ハミルトンさんは最初の機械探査の時のポロ・プロジェクトの会議の様子を聞いていたという事だね」
「私の考えでは、その時点までは本物のハミルトンさんだ。彼は自分自身が探られていることを知っていた。途中からにせハミルトンに入れ替わった可能性が高いな」
「すっごーい! せんせいってシャーロック・ホームズみたいだ」
「これは、ポロではなくて松戸一族を狙った企みだろう。ポロ、すぐにシュレーディンガー商会へ行くぞ」
「ほえ〜、ポロ、クルマの中で寝ててもいい?」
「いいから急げ」

つづく

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2004-03-04 ポロの日記 2004年2月27日(電曜日) フェッセンデン商会 その4

フェッセンデン商会 その4

 ポロたちはせんせいの愛車ユードラに乗って、混みあう都内の国道を避けて、細い裏道を急ぎました。前もって電話で事情を話しておいたため、松戸博士のすぐ下の弟の修士さんが店を開けて待っていてくれました。

修「これはこれはとむりんせんせい。お忙しいところをありがとうございます」
せ「大事なお話です」
修「実は、少し前から私どもも異変に気づいておりました」
せ「ほら、ポロ、目を覚ませ」
ポ「でやんで〜、もっど寝がぜろ〜!」
せ「すいません、こいつ寝起きが悪くて」
修「いや、私のためにも徹夜で頑張ってくれたんですから。さあ、ポロさん、お願いですから起きてください」

 お店に入ると、修士さんがお茶とイモようかんを用意してくれたので、ポロはしゃっきりと目が覚めました。

修「では、ポロさん、詳しくお話を聞かせてください」

 ポロは、きのうの夜の、名づけて「お花茶屋事件」のてんまつを全部話しました。

修「そうですか。実はハミルトンからシュレーディンガー商会を狙う悪いたくらみがあるかも知れないから気をつけるようにという知らせが2日前にあったばかりなのです」
せ「ここには、世界をひっくり返すような大発明がいくつもありますからねえ」
修「はい、悪用されると大変なことになります」
ポ「あのさ、今までに悪いやつが買いに来たことないの?」
修「はい、ございます。入り口にその判定センサーがありまして、悪意を持った人間がやってくると別の入り口が開いて普通の模型キットを売っている店へと入っていただくしかけになっております」
ポ「どんなもの売ってるの?」
修「はい、手作りラジオとか、模型などでございます。そちらはそちらでなかなか凝ったものを用意してございます」
せ「ところで修士さん。ポロの話から推理すると、どうやら新小岩あたりにその悪企みのアジトがありそうなんですが、こちらにもフェッセンデン商会と同じ計測機はありますか?」
修「あります。さっそく調べてみましょう」

 修士さんは、いくつもの機械を出してきました。

ポ「わ、これだよこれ!」
修「さようでございましょう。こちらは兄の試作機でございます。ちょっと待ってください。電池をつなぎます」

 修士さんは006P電池をぱちんとつないでスイッチを入れました。フェッセンデン商会の時と同じ順序で次元トレーサー、次元レーダー、次元レシーバーが働いて、ポロ・プロジェクトの様子を3人で聞くことができました。

ポ「やっぱりポロの白昼夢じゃなかったね」
修「ちょっと、時間をずらして今の様子を聞いてみましょう」

 ぴゅい〜わ〜〜〜ざざざ〜・・・・

議長の女「E二郎さん、任務ごくろうさまでした。結果について報告してください」
E次郎「はい、昨夜フェッセンデン商会に到着したときには、すでにポロとハミルトンがこちらの動向を探り始めておりました。しかし、変装した私がすぐにハミルトンと入れ替わり、ポロに今見たことは白昼夢であったということに思い込ませることに成功しました」
女「ハミルトンは、どうしましたか?」
E「ここの地下室に閉じこめてあります」
女「逃げ出すことのないように監視を怠らないようにしてください。彼は取引のための大切な人質です」
E「はい、分かりました」

つづく

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2004-03-03 ポロの日記 2004年2月27日(電曜日) フェッセンデン商会 その5

フェッセンデン商会 その5

ポ「わあ、ハミルトンさんを助け出さなくちゃ。けーさつだ、けーさつだ!」
せ「確かにそうなんだが、これは時間が勝負じゃないだろうか」
修「う〜む。そのとおりだと思います。私たちが動き始めたことは彼らはまだ知らないようです。奇襲すれば勝算は大きいでしょう」
せ「すぐにやりましょう。誰か応援は頼めますか」
修「私の方ではディラック商会の弟の学士が頼りになります。あとは変人揃いでアテになりません」
せ「こちらでは、え〜と」
ポ「シロちゃんがいるよ、シロちゃん」
せ「これで5人だ。人数はいいとして、これらの機械の他に何か使えるものはありますか?」
修「はい、ポロさんのお話にあったヒーロー変身キットがあります。5人なので戦隊ものはいかがでしょうか。えーと、たしか<炊き出し戦隊スイハンジャー>とか<神様戦隊ヒカワジンジャー>が売れ残っていましたが」
ポ「ポロはスペース・キャットレンジャーじゃなくちゃやだよ〜」
せ「その冗談のような変身キットは何かの役に立つのですか」
修「はい、コスチュームは高分子アラミド繊維を電波吸収染料で染めたものです。弾も刃物も通さず、レーダーにも映りません。また、ヘルメットには電波を使わないアンシブルという通信規格で話せるトランシーバーが内蔵されています」
せ「それは、すごい。スイハンジャーとヒカワジンジャーの違いは何ですか?」
修「スイハンジャーは長期戦になっても炊き出しには困りません。ヒカワジンジャーは神通力キットが付属しています」
せ「神通力とは何ですか?」
修「実は何だか分からないのです」
せ「松戸博士らしいですね。短期決戦ですからヒカワジンジャーにしましょう」

 そのあと、学士さんと営業の途中で仕事を抜けてきたシロちゃんがシュデンガンガー商会にやってきて、全員で戦隊変身キットに着替えました。神様戦隊なのに赤や青や緑、黄色やピンクで色とりどりでした。偶然、赤いコスチュームを着たせんせいがリーダーにされてしまいました。ポロは、小さいのでブカブカ桃レンジャーでした。

せ「では、ブリーフィングを行ないます。今回の作戦は新小岩周辺に捕らえられているハミルトン松戸氏を救出することを第1の目標とし、あわよくば犯人と思われるポロ・プロジェクトの一団を突き止めることにあります。時間が命の作戦なので、ハミルトン氏救出には警察の手を借りずに行ない、犯人たちの逮捕は、その後警察に任せることにします。では、装備の説明をシュレーディンガー店主の松戸修士さんにお願いします」
修「みなさん、危険な任務にご参加いただき、恐れ入ります。今、皆さんが身に付けていらっしゃる神様戦隊ヒカワジンジャーのコスチュームは弾も通さず、刃物も効かず、レーダーにも映らず、赤外線にも反応しないというスーパーアーマーです」
シロ「おお、そんなにすごいんですか! 急に恥ずかしくなくなった気分です」
修「はい、そのとおりです。しかし、弾が当たれば痛いし、刃物で突かれればそれなりにケガをします。過信しないようにしてください。ヘルメットの通信機は左腕のスイッチで操作します。話したい人の色のボタンを押せば通話できます。白いボタンは一斉通話です。移動には、せんせいのユードラを使います。ユードラには次元トレーサーをはじめとする4台の機械があって、犯人たちの居場所を特定できます。どんな鍵でも開けられるユニバーサル・キー、吹き矢式の麻酔銃、一時的に目くらましに使える閃光弾が全員のベルトに収納されています。以上です」

つづく

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2004-03-02 ポロの日記 2004年2月27日(電曜日) フェッセンデン商会 その6

フェッセンデン商会 その6

せ「質問をどうぞ」
学「実際の行動計画について説明してください」
せ「現地に到着してから状況によって検討することになります」
学「分かりました。とむりんせんせい、ポロさん、シロさん。松戸一族のためにこんな危険なことに巻き込んでしまって申し訳ありません」
せ「いえ、これはポロにもかかわりがありますから。では、出発しましょう」

 午後遅い神田の町をギンギンのコスチュームに身を包んだポロたちを乗せたユードラが新小岩に向けて走り始めました。ポロたちを見つけた学校帰りの子どもたちが手を振りました。

せ「テレビのロケ隊だと思われているみたいですね」
学「怪しまれるといけないから適当に愛嬌をふりまいておきましょう」

 そういうと学士さんは子どもたちに笑顔で手を振り返しました。シロちゃんも手を振りました。危ない目にあうかもしれないのに、ポロは何だかワクワクしていました。でもだまっていました。
 途中、コンビニでおむすびを買うことになりました。青ジンジャーのシロちゃんが率先して買いに行ってくれました。たまたま居合わせた子どもたちからすごい人気で、もみくちゃにされて戻ってきました。

シ「いやあ、参りましたよ。でも、ちょっといい気分です」
修「大変でしたね」

 夕方近く、ユードラは新小岩駅近くのコインパーキングに入りました。

修「次元レーダーによると、ここから100メートル以内です」
せ「暗くなるのを待って、全員で手分けして場所を探すことにします。修士さん、手がかりはありますか」
修「はい。ポロさんは夢にせよ犯人たちの顔を見ていますね。非常に狭い範囲ですから、犯人たちがビルに出入りするようなことがあれば、ポロさんなら分かると思います」
せ「よし、ポロは猫だから、普通に歩いていれば目立たないだろう。その桃ジンジャーのコスチュームを脱いで、通信機だけ持って偵察に行くんだ」
ポ「うん、行ってくるよ」

 ポロは、修士さんが地図上で指し示した範囲を頭に叩き込むと、夕暮れの新小岩の町に出ました。うわ、焼き鳥の匂いだ。新小岩っていいところだなあ。そんなことを考えながら10分もあたりを回っているうちに、知っている顔を見かけました。それはE次郎と呼ばれていた人でした。ハミルトンさんに化けていたのもこの人だなあ。たしかに、ハミルトンさんによく似てる。ポロはせんせいにアンシブル通信機で連絡しました。

ポ<せんせい、E次郎っていう人を見つけたよ>
せ<そうか。ところで場所はどこだ>
ポ<どこって言われても、なんて説明すればいいか分かんないよ>
修<ポロさん、近くに何か目印になるものは見えませんか?>
ポ<えっとねえ、あっ、チンコ・ジャンボって書いてある>
せ<ふざけてるんじゃない!>
ポ<ほ、ホントだよ〜!>
修<あ、分かりました。それはパチンコジャンボですね、ポロさん?>
ポ<あ、そうかも。一文字かくれてた。そこから50メートルくらい離れた古い倉庫みたいなビルに入っていったよ>
せ<よし、でかしたぞポロ。今、みんなでそっちに行く>

つづく

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2004-03-01 ポロの日記 2004年2月27日(電曜日) フェッセンデン商会 その7

フェッセンデン商会 その7

 戦隊コスチュームの男たちが日暮れの商店街を抜けてやってきました。もう、注目度抜群! 誰もが振り返りました。しかし、ヒカワジンジャーたちは緊張のせいか全然気にならない様子で、ポロには近づいてくる4人がカッコよく思えました。とくに、戦隊ものを見て育ったにちがいないシロちゃんは、すっかりその気でした。

ポ「このビルだよ!」
せ「一気に突入しましょう。目指すのはハミルトンさんの閉じこめられている地下室です」
修「では、このコスチュームを信じて突っ込むとしますか」
シ「いやあ、なんだかワクワクしますね。自分が強くなったような気がします」
学「私もですよ」
せ「犯人を確認したら閃光弾で先制攻撃です」
シ「じゃあ、私から突入します。援護お願いします」

 そう言うと、シロちゃんはカッコよくビルの正面入口ドアから突入していきました。ほかの3人は麻酔吹き矢や閃光弾で援護する準備をして後へ続きました。ポロはシロちゃんが持ってきてくれた桃ジンジャーのコスチュームを大急ぎで着て、ちょっと遅れて後を追いました。
 薄暗い階段を降りていくと、地下室の入り口に先に到着していた4人がいました。

せ「ユニバーサルキーを試そう」

 がちゃがちゃ。

 ドアは、あっけないほど簡単に開きました。

せ「さすが松戸博士作だ」

 すると、いきなり地下室の中から聞き覚えのある松戸博士の大きな声が響きました。

「事件発生以来、17時間42分。合格じゃ!」

 みんながあっけにとられていると、松戸博士が言いました。

博「これはワシの新発明、訓練用模擬事件発生装置のテストじゃ。諸君、ご苦労じゃった」

 捕らえられているはずのハミルトンさんがヒカワジンジャーの隊員たちに向かって拍手していました。

ハ「いやあ、ポロさん、きのうは騙して済みませんでした。皆さんも本当にお見事でした」
せ「これは、一体どういうことですか?」

 一体なにが起こったのか分からないせんせいは、ちょっとブチ切れた様子で言いました。

博「大変、申し訳ない。訓練だと言ったら、これほど緊迫した救出活動にはならんかったじゃろう。しかし、これでワシの発明が悪用される心配も少ないことが分かった。ワシは素晴らしい仲間に恵まれておることも分かった」
せ「それでは、ポロ・プロジェクトも全てその機械が作り出したものですか?」
博「そうじゃ。たいしたものじゃろうて」
ポ「へえ、ポロ、本当かと思っちゃったよ」
せ「全く人騒がせな!」
博「そう言わんくれ。21世紀は危機管理の時代なんじゃ。そして、危機管理というのはシステムではなく、結局のところ人なのじゃ」
シ「分かるような気がします」
博「さあ、ワシのおごりじゃ。近所にうまい店がある。祝杯を上げに行こうではないか」
ポ「わあ、博士、太っ腹だなあ!」

つづく

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2004-02-29 ポロの日記 2004年2月27日(電曜日) フェッセンデン商会 その8(最終回)

フェッセンデン商会 その8(最終回)

 ところが、その建物から外に出るときにヒカワジンジャーたちは気がつきました。着替えはシュデンガンガー商会に置いてきてしまったのでした。事件解決前には、みんな平気で新小岩の商店街を歩いていたのに、今は誰もが恥ずかしくて駐車場まで歩くのも困惑ぎみでした。ましてや、この格好で居酒屋に入るのは気が引けました。

せ「博士、せっかくですが、祝杯をあげるのは次の機会にしましょう」
ヒカワジンジャーたちは、皆うなずいて同意しました。
博「そうか。それは残念じゃ。では、さらばじゃ」

 そう言うと、博士は新小岩駅に向かって歩いていってしまいました。

修「さあ、私たちも帰りましょう」

 ユードラは5人乗りなので、ポロはハミルトンさんの膝の上に乗せてもらいました。ユードラが走り始めると、誰からとなく笑い声が上がりました。

学「あっはっは。いやあ、実は楽しかったですね。本当にヒーローになった気分でしたよ」
シ「はい、高揚感がありましたね」
修「突入を志願したときのシロさんは、ヒーローっぽかった。あっはっは」
せ「この戦隊変身キット、おいくらですか? 欲しくなりました」
修「これは差し上げます。その代わり、招集がかかったらヒカワジンジャー全員集合ですよ」
シ「ああ、不謹慎ですけど本物の事件が起きないかと期待したりしますね」
ポ「ところでさ、このコスチュームの神通力って何だったんだろう?」
修「とうとう分からずじまいでしたね。ま、この次には明らかになるでしょう」

 フェッセンデン商会にハミルトンさんを送って、それからシュデンガンガー商会に到着するまで、ユードラの車内は、すっかりおじさんたちの修学旅行と化していたのでした。


 その頃、どこかの会議室。議長席正面の大型プロジェクターを見つめる7人がいました。そこにはリアルタイムでヒカワジンジャーたちがシュレーディンガー商会前で解散するところを映し出されていました。映像が終わると、全員議長のほうに向き直りました。

議長の女「これで、ポロ・プロジェクトは松戸博士が仕組んだものとして一件落着しました。危機管理のキーポイントが人であるのは博士の言うとおりです。しかし、その“人”が、真の危機に気づけないようではおしまいです。彼らの限界はそこにあります。私たちもこの一件から学ぶことはたくさんあるでしょう。では、通常の業務に戻りましょう。解散します」

 居並ぶ出席者たちは静かに一礼すると、音を立てずに椅子から立ち上がって会議室を出ていったのでした。


おしまい

ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

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