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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2004-02-24 ポロの日記 2004年2月21日(風曜日) ポロ、シロ論語を迎え撃つ その1
2004-02-23 ポロの日記 2004年2月21日(風曜日) ポロ、シロ論語を迎え撃つ その2
2004-02-22 ポロの日記 2004年2月21日(風曜日) ポロ、シロ論語を迎え撃つ その3
2004-02-14 ポロの日記 2004年2月10日(火)スティクス川のほとりで その1
2004-02-13 ポロの日記 2004年2月10日(火)スティクス川のほとりで その2
2004-02-12 ポロの日記 2004年2月10日(火)スティクス川のほとりで その3
2004-02-11 ポロの日記 2004年2月10日(火)スティクス川のほとりで その4
2004-02-10 ポロの日記 2004年2月10日(火)スティクス川のほとりで その5
2004-02-09 ポロの日記 2004年2月1日(日) 奥さん熱を出す
2004-02-08 クランベリーヒル便り第7話うしおさんからの手紙 その1


2004-02-24 ポロの日記 2004年2月21日(風曜日) ポロ、シロ論語を迎え撃つ その1

ポロ、シロ論語を迎え撃つ その1

 ポロのおとうと弟子のシロ(子路)が、ポロの助手になって修業をすることになりました。最初はコラム書きの修業です。最近、ポロはコラムを書くのがうまくなってきたなあって自画自賛してたんだけど、シロのコラムを読んだら、ポロのより全然すごくてポロは思わず置き手紙を書いてしまいました。

「せんせい、お世話になりました。さがさないでください」

 で、ポロはどうしたかというと、行くところもないのでシュデンガンガー商会に向かいました。
とんとん!
「はい、どうぞ開いております」
「コバワ」
「おや、ポロ様。いかがなさいましたか」
「かくかくしかじか、これこれこういうわけで、シロのコラム迎撃キットが欲しいんですけど・・・」
「それは大変ですね。私のところで扱っているのは道具、装置、一部の化学素材、機械類に限られておりまして、そのようなものは置いておりません。しかし、お役にたちますかどうか、私のイトコがデカルト商会という店をやっておりまして、そこには“文豪養成キット”があったと思います」
「え゛〜〜〜!! そんな便利なものがあったの〜!」
「しかし、なにぶん、変わり者でして」
「ねえねえ、そのお店どこにあるの?」
「日本橋の馬喰町(ばくろちょう)でございます」
「変わった名前だねえ。暴露町ってどこにあるの?」
「はい、ここから東へ向かって神田美土代町、鍛冶町、富山町、岩本町を抜けて東神田のすぐ隣です」
「そんなにいっぱい町を越えていくの〜?」
「はい。ですが、歩いて15分ほどかと」
「うわー、ちっちゃい町ばっかりなんだねえ」
「江戸時代からの名残ですから」
「アリガト!」

 ポロは、松戸さんの描いてくれた手書きの地図をたよりに、夜の神田の町を歩き始めました。しばらく歩くと、ポロの野生の鼻がいい匂いをかぎつけました。ああ、もうたまらない。その匂いのするほうに向かって行くと、今川橋の近くの路地裏に一軒の屋台がありました。

 “元祖 今川焼”

 屋台の中央、アセチレンランプの光に浮かび上がるおじさんの顔は、ちょっとホラーがかっていましたが、あまりいい匂いなのでポロは思わず声をかけました。

つづく

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2004-02-23 ポロの日記 2004年2月21日(風曜日) ポロ、シロ論語を迎え撃つ その2

ポロ、シロ論語を迎え撃つ その2

「おじさん、ひとついくら?」
「お、今夜は猫か。ひとつ100円だ。本物の金じゃないと売らないぞ」
「ポロのお金、本物だよ。せんせいがくれたんだから。はい、ひとつちょうだい!」
「きのう来たのはサラリーマンのふりをしたキツネだった。家に帰って売り上げを数えようとしたら葉っぱが何枚も出てきた」
「ふ〜ん。このへんでもキツネがで出るんだねえ」

 おじさんはお金を光にかざしたり、噛んでみたりしてから、疑ったりして悪かったといって今川焼きをひとつ、新聞紙で作った袋に入れて渡してくれました。

「わあ、おいしい! おいしいよ、もぐもぐ。こんなにおいしいもの食べたことないよ」
「そりゃよかった」
「ねえ、おじさん。もっとちょうだい!」

 ポロは、とうとう全財産の1200円を今川焼きに使い果たしてしまいました。
「ああ、お腹いっぱい食べちゃったよ。またね、おじさん」
「ああ、うちも今日は店じまいだ」
 おじさんは屋台をひく自転車にまたがると、走り始めました。その時です。自転車の前輪の泥よけカバーに書かれていた名前の名字が見えました。そこには白い文字で松戸と書かれているように読めました。

「おじさーん! 待ってよ〜!」

 ポロはすぐに追いかけましたが、角を曲がったところで見失ってしまいました。
しかたなく、ポロはデカルト商会を目指して歩き始めました。
デカルト商会は地図のとおり、事務所や喫茶店がごちゃごちゃとある雑居ビルの地下一階にありました。狭い階段を降りていくと、古びた木のドアに「デカルト商会」という看板がありました。

 とんとん!

「ごめんくださーい」
少したってから、鍵が開く音がしてドアが開きました。
「どんなごようですかな?」
 痩せたおじさんが、ポロをじろりと睨みながら言いました。
「あ、あの。シュデンガンガー商会の松戸修士さんから聞いてきたんですけど」
「おお、それはそれは。お入りなさい」
「お、おじゃましまーす」

 お店は、本屋さんのようでした。あまり広くはありませんが、壁全部が本棚になっていました。

「何をお探しですかな?」
「えっと、文豪養成キットです」
「ほう、それはどのようなわけで?」
「かくかくしかじか、これこれこういうわけです」
「なーるほど。それなら文豪養成キットよりも、技術文書達人養成キットのようがよろしいようですな」
「どうちがうの?」
「これを読んでみてください」
「ポロ、音読、得意なんだよ」
「じゃ、どうぞ、声に出して」
 ・・・5月4日。快晴、気温10度。無風、波はない。調査船シュバルツシルト号は午前8時にポート・チャンドラを出港。1時間ほどで外洋へ到達。進路を南にとる。
「じゃ、次のを読むよ」
「はい、どうぞ」
 ・・・5月4日。私は調査船シュバルツシルト号に便乗して、初めての海の旅に出ることになった。8時頃、誰の見送りもない出港だったが、そんなことも前夜の寝不足も、すがすがしい海の風にあたると全く気にならなかった。

つづく

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文豪と技術文書の違いが見事に…それはそれとして、今川焼き美味しそう・・・ / みた・そうや ( 2004-02-22 11:31 )

2004-02-22 ポロの日記 2004年2月21日(風曜日) ポロ、シロ論語を迎え撃つ その3

ポロ、シロ論語を迎え撃つ その3

「どうです。前者が技術文書キット、後者が文豪キットです」
「ポロ、技術文書キットにするよ。この例文を読んだだけで、いろんなことに気がついた気がする」
「それはすばらしい。あなたには見込みがある」
「わあ、うれしいなあ」
「これ、いくらですか?」
「はい、1200円です」
「安い! でもね。今、ポロ一文無しなの」
「それは困りましたね」
「ポロ、1200円持ってきたんだけど、ここに来る途中で“元祖 今川焼”っていう屋台で全部使っちゃった」
「巌流ですな」
「なにそれ」
「松戸巌流という遠い親戚なんですが、変わり者でして松戸一族の鼻摘み者です」
「でも、おいしかったなあ、あの今川焼き」
「そうですか。何やらよその星にまで出かけて小麦や小豆の品種改良などにかまけていて、全く商売にならないことをしているとかで・・・」
「ふーん、それで謎が解けたよ。あの今川焼きはおいしすぎるもん。ポロ、がんりゅうさんのファンかも」
「では、シュレーディンガー商会の常連さんということですので、後払いで結構です。こちらをお持ちください」
「わーい、アリガト!」
「ところで、これはキットですから未完成品です。お客様に組み上げていただくことになりますが、どうしても出来ないときには“技術文書達人養成キット組立裏技集”というものも用意してございます」
「うん、ダメだったらまた来るよ」

 ポロは、夜も更けた日本橋の町なかを北に向けて歩き始めました。なんだか身体じゅうにやる気が満ちあふれてくるのを感じていました。

「待っててよ、シロ! ポロの実力を見せちゃうからね!」

 小伝馬町、大伝馬町を通って人形町に入りました。甘酒横丁のあたりで、ポロは、もう道に迷ってしまったことに気がつきました。

「わあ、また遭難しちゃったよ〜! 誰か助けて」


<波乱万丈、解決編を待て!> (実は おしまい)



ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

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みなさん、さっそくのつっこみ、アリガトございます。ポロは今、キットと格闘してるとこです。どーしてこんなものまで組立キットにするのでしょか。 / ポロ ( 2004-02-22 22:06 )
やっぱり、「キット」と言うからには、組立説明書なんて読まずに作ってみたり、改造してみたりするところに醍醐味がありそうですねぇ。んでもって、裏技集に書いてあることも先に見つけてしまうと・・・ / shin ( 2004-02-22 21:49 )
私も、ポロさんと同じキットを買うと思います〜でも、ポロさんの文章はポロさんらしくて良いと思いますよ♪ポロさんにしか書けない、ポロさんの文章ですもの〜自信を持って、頑張って下さいね♪ポロさんの一ファンより・・・ / moko ( 2004-02-22 21:30 )
私は文豪養成キットを買った方がいいかも… / みた・そうや ( 2004-02-22 11:29 )

2004-02-14 ポロの日記 2004年2月10日(火)スティクス川のほとりで その1

 誰かが、泣きながら何かを読み上げていました。
「初めて会ったのに、それがこんな姿になってからであることが信じられません・・」
 あ、読んでるのは、おちゃめさんだ。せんせいもいる。みんな、黒い服を着てる。あ、祭壇にポロの写真が。わ、これはポロのお葬式じゃないか。そういえば、ポロは猫インフルエンザにかかって大変だったなあ。やっぱり死んじゃったのかなあ。ポロここだよ、みんな気づいてよ。でも、どうして天井に浮いてるんだろう。うわ、天井突き抜けちゃった。ポロ、風船になっちゃったみたいだよ。ホントに死んじゃったんだ。わあ、ふわふわして気持ちいいなあ。どんどん高くなっていく。雲の高さまで昇るのかなあ。だんだん近づいてくるなあ、あのちぎれ雲。わあ、どんどんスピードが上がってるなあ。空がどんどん青くなってきた。わあ、霧の中だ。これがきっと雲だな。おっと、晴れたぞ。なんだか、空の上の方が紺色になってきたなあ。あれ、星だ。お星さまが光ってる。きれいだなあ・・・。


 それから、はっと気がつくと、ポロは黄色いきれいなお花畑にいました。お花畑をどこまでもずっと進んで行くと、大きな川岸に出ました。ちょっと考えてから
上流に向かって歩いていきました。すると、小さな家があったので訪ねてみました。
「ごめんくださーい!」
 し〜ん。
「ごめんくださーい!」
「誰じゃ?」
 ちょっとヨボヨボな感じのおじいさんが奥の部屋から出てきました。
「ポロと言います。ここはどこですか」
「おお、しゃべれるだか。話す猫に会うのはこれで二匹目じゃ」
「ポロの前にも、しゃべれる猫が来たの?」
「そうじゃな、もう10年以上前のことになるだな」
「どんな猫?」
「白と黒のぶち猫じゃった」
「白と黒のぶち猫?」
「もしかして、ここどこ?」
「スティクス川の渡し場。ワシは渡し守のカロン」
「え゛〜!!! それじゃ、その猫ってジョーンズっていう名前じゃなかった?」
「そうじゃ、そうじゃ、たしかジョーンズとか言っておっただのう」
「わ〜、やっぱりポロ死んじゃったんだ〜、えーん、えん!」
「泣くでない、この川を渡るまでは死んでしまったわけではないだよ」
「え、ホント?」
「本当だとも」
「だって、ジョーンズだって助からなかったよ」
「いや、あの猫は誰かを助けに行くと言って自分からこの川を渡っちまった。勇敢でりりしい猫じゃっただ」
「わあ〜、どうせポロは臆病でめめしい猫だよ〜、えーん、えん!」
「ちょっと待っとれ」
そういうとカロン爺さんは、超薄型の液晶ディスプレイみたいなものを持ってきました。
「さあ、よく見るんじゃ」
 画面の中は、ポロのお葬式がライブ中継されていました。今度はせんせいが何か話しています。
「・・・ポロは、疑うことを知らぬ猫でした。ポロにいやな思いをさせられた人はいなかったに違いありません。ピアノは少しも上達しませんでしたが、いつも前向きで明るくて、周囲の誰をも勇気づけてくれました。ポロの語る不思議なストーリーは多くの人を魅了しました。ポロに会うためにホームページにアクセスしてくる人も数多くいました・・・・」
 せんせい、ピアノが上達しないなんていうのは余計だよ。ポロにはヒケールがあるんだから。

つづく

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2004-02-13 ポロの日記 2004年2月10日(火)スティクス川のほとりで その2

「もう少し前を見てみるだよ」
 カロン爺さんが操作すると、一週間前のポロが映し出されました。ポロはダイニングでおいしそうにイモようかんを食べていました。カロン爺さんは、その前の日の映像を映し出しました。ポロが、おいしそうにイモようかんを食べていました。その前の日に合わせると、やっぱりイモようかんを食べていました。その10日前に合わせても、一ヶ月前に合わせても、やっぱりポロはイモようかんを食べていました。
「おまえさんは、イモようかんを食べる以外にすることはないのか?」
「えっと・・・・。うん、ちょっと思いつかないかも」
「実はだな、ワシの今日の三時のお茶に、たまたまイモようかんを用意しただよ。食べるか?」
「うん。食べる食べる」
「これは、たぶんワシが食べるために用意しようと思ったのではなくて、イモようかん好きな猫が来ることの予定調和っちゅうもんじゃ」
「いただきまーす! わあ、おいしいよ、これ。せんせいの手作りイモようかんみたいだ」
「そりゃ、よかっただ。今日の渡し舟の最終便はもう出てしまったから、お前さんは明日の朝一番の船で向こう岸に渡ってもらうことになるだよ」
「えっ、ポロはスティクス川なんて渡りたくないよ」


 その少し前のことでした。ここは神田淡路町。
「ごめんください!」
 どんどんどん!
「ごめんください!」
 どんどんどん!
「どなたですか? 今日は定休日です」
「分かっています。shinと言います。どうしても欲しいものがあるのです」
「店は明日の夜に開けますから、それまで待ってください」
「ポロさんが、危ないんです」
「えっ、ポロさんがどうかなさったのですか?」
「死んでしまいました」
「本当ですか!? まさかイモようかんをのどに詰まらせたとか」
「死因は違いますが、確かです」
「しかし死んでしまったら、危ないも何もないじゃないですか」
「いや、まだスティクス川を渡っていないはずです。スティクス川救難キットがシュレーディンガー商会にあると聞いてやって来たのです」
「おう、そう言えば、ひとつだけ試作品があったはず」
「ありますか!?」
「確かあったはずです。今鍵をあけます。どうぞお入りください」
「お休みのところ、おそれいります」
「私もポロさんには500万円ほど貸しがありますから、できれば生き返って欲しいものです」
 カウンターの奥から店主の松戸さんが持ってきたのは、埃だらけの古びた箱でした。
「これです。兄の試作品なのでお代は要りません。どうぞお持ちください。ただし、動作保証はありません。最悪の場合、救援に向かったあなたも戻れなくなる可能性があります」
「分かりました。危険だろうとは思います。でも、人生に本当に大事なことは少ししかないような気がするんです。これは命をかけてもいいことなんじゃないかと思えるんです」
 shinの真剣なまなざしに、松戸さんは全てを悟ったようなような気がしました。
「私は、今、あなたから人生を教えられたような気がする。ちょっと待ってください」
 松戸さんは、店の奥から首にさげるペンダントのようなものを持ってきました。
「これは、イシュマルの石と呼ばれるものです。我が家に代々伝わっている家宝です。これがきっと役に立つことでしょう。それが何であるかは聞かないでください。私は知る機会がなかった。しかし多分あなたは、これが何であるかを知ることになる。常に肌身離さず持っていてください」
「ありがとうございます。お守りだと思って持っていきます」


つづく

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2004-02-12 ポロの日記 2004年2月10日(火)スティクス川のほとりで その3

 shinは、宿に戻ると早速キットを組み立てました。
 スティクス川救難キットは3つの部分からできていました。組立は簡単でした。一つ目はたくさんのコイルから成る次元横滑り装置。二つ目はレーダー。三つ目の機能はよく分かりませんでした。動力源は006p乾電池です。予備も買いそろえました。
 shinはポロの葬儀が行われているペット葬儀社の葬祭場に急ぎました。葬儀は進行中のようでした。そのまま葬祭場脇の倉庫に入り込むと、誰にも見つからない物陰で横になり、次元横滑り装置の“アストラルトリップ”という表示のボタンを押しました。
 ぼわーんという気持ちになったと思うと、shinは自分の横たわる姿を上から眺めていました。shinは自分の身体から抜け出したのです。それから、思いだしたように手を伸ばして救難キットを掴みました。救難キットのすごいとところは、幽体になってからも持ち運べるところです。これがないと戻ってこられません。手書きの説明書には開発の苦労が長々と書いてありましたが、急いでいたのでもし戻れたら読もうと思っただけでした。
 倉庫の天井を突き抜けてshinは空高く舞い上がっていきました。ポロの身体が火葬される前に救出作戦を終了しなければなりません。気持ちが焦って、shinは空を泳ぎました。なぜか平泳ぎです。誰かが見ていたら空にカエルがいるかのように思ったことでしょう。shinは高所恐怖症であることも忘れ、両手で空気をかいてひたすら高空を目指しました。

 スティクス川両岸に広がるお花畑に着くと、shinは救出キットのマニュアルに従って、三つ目の機能をオンにしました。shinの幽体がさらに薄くなって、ほとんど見えなくなりました。なるほど、姿を隠すための機能なのでした。shinは、ここでは招かれざる客に違いありません。
 次いで、レーダーを動かしました。北の方に何かあります。shinは小走りにそちらに向かいました。ほどなく建物が見えてきました。それと同時に首から下げたイシュマルの石がぼんやりと赤く光り始めました。

 ・・・何かの警告だろうか?

 shinは注意深く進むことにしました。建物に近づくと話し声が漏れ聞こえてきました。

「ねえ、カロンさん。イモようかん、これでおしまい?」
「そうだよ。おまえさん、全部食っちまっただ」
「えー、このへんにマルエツないの〜?」
「おまえさん、結構たちの悪い猫なんだなあ。ジョーンズとは大違いだ」
「ほえ〜。だって、ジョーンズは英雄だもん。で、ポロは天才!」
「まったく、飼い主の顔が見たいもんだ」
「飼い主か〜。飼い主は大天才だよ」
「それじゃイモようかん、一度に四日分も喰らうにちげえねえだ」
「そんなことないよ〜」

 shinは、とむりんせんせいのことを思いだして、笑いをこらえるのに精いっぱいでした。しかし、のんびりしてはいられません。ポロの身体が火葬されてしまっては全ては水の泡だからです。shinは、ポロの近くの窓をそっと叩きました。
 ポロが振り向きましたが、窓には何も見えなかったので、また元の方向を向いてしまいました。shinは、消え去り機能を解除して姿を見えるようにすると、もう一度窓を叩きました。今度はポロが気づきました。shinは人さし指に唇を当てて、声を出さないようにと伝えるしぐさをすると、唇の動きで話しかけました。

<shinです>

 ポロは、どういうわけだか、すぐにそれがshinであることを直感し外へ出ました。
「おう、どこへ行くだか?」
「うん、ちょっと川岸を散歩してくるよ」


つづく

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2004-02-11 ポロの日記 2004年2月10日(火)スティクス川のほとりで その4

 小屋の裏手で2人は会いました。
「わあ、shinさんだね!」
「そうです。ポロさん初めまして」
「こんなところで会うなんて。shinさんはどうして死んじゃったの?」
「死んでなんかいません。シュレーディンガー商会の<スティクス川救難キット>で助けに来ました」
「え、ホント! ポロ助かるの?」
「はい、戻れればの話ですが。急ぎましょう!」

 その時、イシュマルの石が眩しいほどに輝きました。
「それ、なあに?」
「イシュマルの石と言います。何に役立つのかよく分かりません、教えてもらってないんです」
「ポロ分かったよ、それは危険を知らせるんだ」
 ポロが指さす方向をshinが振り向くと、鎧をまとって剣を持った冥界の警備兵が2人、こちらに向かって来るところでした。
「ポロさん、つかまって。キットの消え去り機能で姿を隠します」

 ぶーん。

「わ、ホントに消えた」
「でも、彼らには見えているようですね。全然動じていない」
 shinは、ポロを背負うと警備兵の反対方向に向かって走り始めました。
「ねえshinさん、どうやって元の世界に戻るの?」
「そう言えば、まだマニュアルの最後のところを読んでいませんでした」
 そう言うと、shinはポケットから松戸博士の手書きのマニュアルを出してポロに渡しました。
「ポロ、音読得意だよ。えっと、帰還方法っていうところだね」
「そこです。読んでください」
「臨死体験を持つ人の多くがスティクス川を渡るのをやめたり、お花畑を引き返した直後に冥界を離れている。これは、現世と冥界をつなぐ通路がスティクス川付近にあることを示している。しかし、その位置、数ともに定まってはおらず、その発見が帰還の鍵を握る。発見方法はいくつかあり、ひとつはレーダーに現れる淡い点をひとつひとつ調べること、次の方法は確率は低いが、誰かがちょうど冥界に現れたときには、そこが通路である。最後の方法は、ほとんど可能性があるとは思えないが、もしあなたがイシュマルの石を持っているならば、それを握って帰還を念じればよい」

 うおおおおおおおおお〜〜〜!!!!!!

 大きな叫び声に二人が振り返ると、いつの間にか背後に迫っていた警備兵の降り降ろす巨大な剣がふたりの頭上に迫っていました。

「きゃあああああああああ〜〜〜〜〜!!!!」
「うわあああああああああ〜〜〜〜〜!!!!」


つづく

先頭 表紙

2004-02-10 ポロの日記 2004年2月10日(火)スティクス川のほとりで その5

 ふたりは、地球を見下ろしながらゆっくりと宇宙を降下してくるところでした。

「ふー、危機一髪だったね、shinさん」
「いやあ、間に合ってよかったです」
「ポロ、音読上手だった?」
「そりゃもう、スラスラと」
「せんせいがね、もし、お話を書きたいんだったら古典を読みなさいって言うから、ポロ、昔のお話を読んでるの」
「どんなの読んでるんですか?」
「ポロね、こんにゃく物語が好きなの」
「それって、今昔物語じゃないですか?」
「そうそう、それ、こんにゃく物語」
「ぷはは!」
「それからね、奥の細道も読んだよ。やきとりイワシの目になみだっていうんだよ」
「ぷはははは! 鳥啼き 魚(うお)の目に涙ですよ、それ」
「えっ、ウオの目が痛いよーって泣く鳥の話だったのか。ポロ、てっきり居酒屋さんで焼き鳥やイワシの目がおいしくて涙がでちゃうほどだったっていうことかと思ってた」
「わっはっはっはっはっは!! さっきまで命が危ない目に遭っていたなんて信じられないなあ。何なんだ、この楽しさは!」
「ところでさ、shinさん、お礼がまだだったね。ポロを助けてくれて、どうもアリガトございました」
「いやあ、いいんですよ。ポロさんもものすごい苦労して波動エンジンを作ってくれたじゃないですか。あれでshinは学んだんです。世の中で本当に大切なことは何かって」
「ふーん。でも、当のポロがさっぱり分かってないかも」
「ポロさんは分かってなくていいんです。普通にしてればね。何しろ、天然ものだから」
「ポロ、褒められてるのかなあ」
「もちろんです。さあ、時間がない。ポロさん、僕の背中にしっかりつかまってください。急速降下します」
「わあ、shinさんスーパーマンみたいだ!」
「さあ、しっかりつかまっててくださいよ。葬儀場へまっしぐらだ」

 背中にポロを乗せたshinは、腕を頭上につきだすと間近に迫った高層雲に向けてダイブしていったのでした。


おしまい


ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

先頭 表紙

shinさん。「みたい」じゃなくて、shinさんは正真正銘のポロのヒーローだよ! / ポロ ( 2004-02-10 21:59 )
わぁ、なんかヒーローみたいじゃないですかぁ〜どうしましょう・・・もぅ〜〜こんな冒険活劇の大作を病み上がりに書いちゃいけません!! f(^-^;; / shin ( 2004-02-10 21:45 )
mokoさん、お話じゃないってば。shinさん、ホントに助けに来てくれたんだよ! ポロのお葬式を悲しく思ってくれてアリガトございます。 / ポロ ( 2004-02-10 19:48 )
お話だとわかっていても、ポロさんのお葬式の様子を読んだら、悲しくなってしまいました・・・shinさんの捨て身の救出作戦が実って良かったです! / moko ( 2004-02-10 17:14 )

2004-02-09 ポロの日記 2004年2月1日(日) 奥さん熱を出す

 せっかくよく晴れた日曜日なのに、去年の暮れのせんせいに続いて、こんどは奥さんが熱を出してしまいました。

「行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて」
「ポロちゃん、何か冷たい飲み物くれる?」

 ポロが、いつものように音読のれんしゅうをしていると、奥さんがダイニングにやってきました。

「あ、冷たいウーロン茶でいい?」
「ええ、ありがとう。悪いわね」
「奥さん、ダイじょぶ?」
「“ダイじょぶ”じゃないけど、こういう時はしかたがないわ。直す努力をするだけよ」
「ど、努力って、どういう努力をするの?」
「ジョーンズがね、具合が悪くなると何も食べないでひたすらじっとしてたのよ」
「じっとしてるの?」
「そう。本当にひどい時は、まるまる3日くらい身動きひとつしないで耐えてるの」
「す、すごい!」
「それで直らないときには死ぬ覚悟だったと思うの。それはもう、聖者のようだったわ」
「・・・!」
「ポロ、あなたも猫なら分かるでしょ」
「ポロは、小人(しょうじん)だあ〜。やっぱり小人だったんだ〜!」
「そんなことないわよ。そう思うっていうことは、あなたはもう野生の気持ちを思いだしているわ」
「そ、そうなんだ、そうなんだ。ポロは忘れかけていた野生を思いだしたぞ」
「うちの人なんて、ちょっと熱を出しただけで“ぐお〜、死ぬ〜”なんて大騒ぎするんだから、ジョーンズの爪の垢でも煎じて飲ませたいわ」
ポロも思わず、ジョーンズの爪の垢を煎じて飲みたくなってしまいました。
「じゃあ、また休むわ。ウーロン茶ありがと」
「どういたしまして」

 奥さんは寝室に戻っていきました。
 それからしばらく、ポロは音読のれんしゅうをしないで、聖者ジョーンズのことを思いながら、よく晴れた窓の外を眺めていました。


 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

先頭 表紙

ミタさん、いつも読んでくださってアリガトございます。ポロも動物園日記を読んでみたいと思いました。 / ポロ ( 2004-02-02 22:00 )
ジョーンズのお話、かつてジャンプに連載されていた飯森広一氏の『ぼくの動物園日記』を思い出してしまいました。 / みた・そうや ( 2004-02-02 15:30 )

2004-02-08 クランベリーヒル便り第7話うしおさんからの手紙 その1

 静かな春の夜のことでした。せんせいの奥さんは、自分の部屋の化粧ドレッサーのとなりにある端末で、その日の夜食メニューを確認しました。

<今日の夜食: まご茶漬けと香の物 予約は午後8時30分まで 予約した人は9時にダイニングに来てください。 ロケット号>

 猿雅荘の夕食は早いので、ロケット号が気を利かせて、ときどき夜食が用意されることがあります。今日は大好きなまご茶漬けだったので、奥さんはすぐに予約ボタンをクリックしました。
 9時になってダイニングに行ってみると、なんと家族全員が揃っていました。

ぴ「あ、かあちゃんも来た!」
風「夜食に来るなんて珍しいねえ、かあちゃん!」
ぴ「ぴーちゃんねえ、キティちゃんとおままごとしてたの。ぴーちゃんがキティママでね、キティちゃんはキティちゃんのやく」
奥「そう、楽しそうね」
海「きょうの夜食はみいやんも手伝ったんだよ」
奥「それは楽しみだわ」

 せんせいとロケット号がワゴンに乗せたまご茶漬けを運んできました。

ロ「ぴゆぴゆ」
せ「さあ、運んできたぞお。うまそうだろ」

 みんな、ほんの3時間前に夕ご飯をたべたばかりなのに、あっという間にまご茶漬けを食べてしまいました。すると、その時、アンシブル・ネットワーク端末がメールの着信を知らせました。

 ぴこぴこ ぴこぴこ!

せ「キティ、誰からのメールだい?」

 キティが端末にログインして大型モニタに発信者名を表示させました。

風「あ、うしおさんからだ!」

 がっしゃんがらがら!

 それは、キッチンにいたロケット号が食器を落とした音でした。うしおさんと聞いてドキッとしてしまったのです。すぐにビッグジョンとリトルジョンが来て食器の破片を片づけ始めました。

奥「ロケット号、だいじょうぶよ。あなたたちもいらっしゃい!」
ロ「・・・・・」
奥「ロケット号?」
風「かあちゃん、叱られると思ってるんだよ、あいつ」
奥「あたしも怒ってないし、うしおさんだって怒ってないわよ。こっちへいらっしゃい」
ロ「ぴ、ぴゆ〜」

 ロケット号は、しぶしぶダイニングに来て、ロケット号専用の小さな椅子に座ると、せんせいが作ってくれたお気に入りのコックさんの帽子を取りました。

 キティがメールを開くと、ぶうよんが、みんなに聞こえるように、それを大きな声で読み始めました。


つづく

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