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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2004-02-08 クランベリーヒル便り第7話うしおさんからの手紙 その1
2004-02-07 クランベリーヒル便り第7話うしおさんからの手紙 その2
2004-02-06 クランベリーヒル便り第6話 お客さんがやって来る その1
2004-02-05 クランベリーヒル便り第6話 お客さんがやって来る その2
2004-02-04 クランベリーヒル便り第6話 お客さんがやって来る その3
2004-02-03 クランベリーヒル便り第6話 お客さんがやって来る その4
2004-02-02 クランベリーヒル便り第6話 お客さんがやって来る その5
2004-02-01 ポロの日記 2004年1月29日(木) お味噌の仕込み
2004-01-31 クランベリーヒル便り第5話 楽しいピクニック その1
2004-01-30 クランベリーヒル便り第5話 楽しいピクニック その2


2004-02-08 クランベリーヒル便り第7話うしおさんからの手紙 その1

 静かな春の夜のことでした。せんせいの奥さんは、自分の部屋の化粧ドレッサーのとなりにある端末で、その日の夜食メニューを確認しました。

<今日の夜食: まご茶漬けと香の物 予約は午後8時30分まで 予約した人は9時にダイニングに来てください。 ロケット号>

 猿雅荘の夕食は早いので、ロケット号が気を利かせて、ときどき夜食が用意されることがあります。今日は大好きなまご茶漬けだったので、奥さんはすぐに予約ボタンをクリックしました。
 9時になってダイニングに行ってみると、なんと家族全員が揃っていました。

ぴ「あ、かあちゃんも来た!」
風「夜食に来るなんて珍しいねえ、かあちゃん!」
ぴ「ぴーちゃんねえ、キティちゃんとおままごとしてたの。ぴーちゃんがキティママでね、キティちゃんはキティちゃんのやく」
奥「そう、楽しそうね」
海「きょうの夜食はみいやんも手伝ったんだよ」
奥「それは楽しみだわ」

 せんせいとロケット号がワゴンに乗せたまご茶漬けを運んできました。

ロ「ぴゆぴゆ」
せ「さあ、運んできたぞお。うまそうだろ」

 みんな、ほんの3時間前に夕ご飯をたべたばかりなのに、あっという間にまご茶漬けを食べてしまいました。すると、その時、アンシブル・ネットワーク端末がメールの着信を知らせました。

 ぴこぴこ ぴこぴこ!

せ「キティ、誰からのメールだい?」

 キティが端末にログインして大型モニタに発信者名を表示させました。

風「あ、うしおさんからだ!」

 がっしゃんがらがら!

 それは、キッチンにいたロケット号が食器を落とした音でした。うしおさんと聞いてドキッとしてしまったのです。すぐにビッグジョンとリトルジョンが来て食器の破片を片づけ始めました。

奥「ロケット号、だいじょうぶよ。あなたたちもいらっしゃい!」
ロ「・・・・・」
奥「ロケット号?」
風「かあちゃん、叱られると思ってるんだよ、あいつ」
奥「あたしも怒ってないし、うしおさんだって怒ってないわよ。こっちへいらっしゃい」
ロ「ぴ、ぴゆ〜」

 ロケット号は、しぶしぶダイニングに来て、ロケット号専用の小さな椅子に座ると、せんせいが作ってくれたお気に入りのコックさんの帽子を取りました。

 キティがメールを開くと、ぶうよんが、みんなに聞こえるように、それを大きな声で読み始めました。


つづく

先頭 表紙

2004-02-07 クランベリーヒル便り第7話うしおさんからの手紙 その2

 ・・・野村ファミリーの皆さん、先日は温かいおもてなしをありがとうございました。にぎやかで楽しかった夕食、その後のゲームやおしゃべりを、私は決して忘れないでしょう。翌日に行ったオンディー沼一周ハイキングも楽しい思い出になりました。

海「そうだよ、うしおさんボードゲームのてんさいだよね」
風「とむりん、ビリだったね」
せ「お、お客さんに華を持たせたんだよ」
風「そういうのを強がりっていうんだぞ、とむりん」
奥「いいから、キティ、スクロールして」

 ・・・それから、キティとロケット号、掃除機や冷蔵庫のみなさん。上等の5つ星の干し草をありがとう。リビングの端末をお借りしたときに、デスクトップに出しっぱなしになっていたあなた達のファイルを、いけないとは思いましたが見てしまいました。最初に公共図書館との通信記録。<作法とマナー>や<酪農の理論と実際>などという難しい本を勉強してまでおもてなししてくれたのかと思うと、誤解とは言え、本当に嬉しく思いました。あなたたちのごあいさつ、とても上手でしたよ。三河屋さんとの交信記録にも驚きましたが<作法とマナー>に記されていたタイムコードを見たときには思わず目頭が熱くなりました。あなたたちが毎晩、夜遅くまで作法の練習をしている姿を思い浮かべて、ああ、私もあなたたちの家族の一員だったらどんなにすてきなことだろうと、心の底から思いました。

ロ「ぴゆぴゆ!」

 叱られるどころか、ちょっと褒められた気分のロケット号が急に元気になりました。

奥「ほらね、ロケット号。うしおさんはステキなレディーだから怒ったりしないでしょう?」
ロ「ぴ、ぴゆぴゆ」

 ロケット号は、うれしくてうれしくて、家族ひとりひとりの前に行っては、ぴゆぴゆと自慢げでした。

風「あれ、キティが変なこと考えてるよ」

 みんな一斉にキティのほうを向きました。ぶうよんが胸のディスプレイを読みました。

キティ表示「新情報:オ客様ハ 干し草デ モテナスコト」

海「ありゃりゃ」
奥「いいこと、キティ。うしおさんは干し草でもてなされたことについて褒めているんじゃないの。あなたたちのまごころに対して感謝してくれているの」
キティ表示「情報の訂正。誤データ<オ客様ハ 干し草デ モテナスコト> 修正後データ<オ客様ハ マゴゴロデ モテナスコト> 」
せ「それでいいよ。情報の訂正を実行」
キティ表示「情報ノ訂正ヲ実行。完了」

 ぶうよんがメールの続きを読みました。

・・・今度は、せひ皆さんで私の家に遊びに来てください。もちろん、ロケット号やキティもね。またお会いできる日を楽しみにしています。
                                 うしお


おしまい

先頭 表紙

ポロは、こすもすさんのコメントに、じ〜んときてしまいました。ポロさんなんて言われると、なんだか恥ずかしいので、ポロとかポロちゃんでいいです。ポロ、ホントに猫なんです。こすもすさんや皆さんの言葉を励みに次のお話を書きます。お楽しみに! / ポロ ( 2004-02-02 12:13 )
さっそく、続きをアップして下さってうれしいです。まごころ、じ〜んときますね。内容もよかったけれど、この後日談の手紙という形式にも、ポロさんの才能を感じてしまいました。 / こすもす ( 2004-02-02 10:05 )

2004-02-06 クランベリーヒル便り第6話 お客さんがやって来る その1

 宇宙長距離の長電話が終わると、奥さんが長男のぶうよんに言いました。

奥「来週の風曜日にお客さんがいらっしゃるわよ。お行儀よくしてなきゃダメよ」
風「はーい、みいやんにも教えてこよう」

 ぶうよん(風)は、工作室でバルサ材で何かを作っているみいやん(海)に言いました。

風「おい、みいやん。来週の風曜日にお客さんが来るって。おとなしくしてないと母ちゃんコワいぞー」
海「え、コワいの? そりゃ大変だ。ぴーちゃんにも知らせなくちゃ」

 みいやんは、リビングに急ぎました。リビングの床ではぴーちゃんとキティとロケット号がモンスターカードで遊んでいました。

海「大変だよ、ぴーちゃん。かあちゃんよりコワいお客さんが来るって。お行儀よくしないとぶたれちゃうんだぞ」
ぴ「ぴーちゃんやだ」
キティ音声「ピーチャンヤダ」
キティのディスプレイ表示「危険ニ 備エヨ」
ロケット号「ぴ、ぴゆぴゆ!」

 きゅるきゅるきゅる!
 キティの内部視覚エリアに、アーカイブ映像が映し出されました。奥さん接近。近づくゲンコツ。衝撃のあとのスノーノイズ。リプレイ。奥さん接近。近づくゲンコツ。衝撃のあとのスノーノイズ。リプレイ。奥さん接近。近づくゲンコツ。衝撃のあとのスノーノイズ。リプレイ。奥さん接近。近づくゲンコツ。衝撃のあとのスノーノイズ。リプレイ。

ロ「ぴゆぴゆ、ぴゆぴゆ!」
ロケット号に呼びかけられてキティは我に返りました。
キティ表示「無事、是、名馬」

つづく

先頭 表紙

2004-02-05 クランベリーヒル便り第6話 お客さんがやって来る その2

 ロケット号の招集で、キッチンで緊急会議が開かれました。

 ロケット号、キティ、自走式掃除機のジョン3兄弟、冷蔵庫のトビー。エアコンのAC-920、それからここに集まることのできなかったものの、オンラインで接続している洗濯機のロビーが、迫り来る危機に対して話し合いました。ところが情報が不足していました。分かっているのはお行儀よくしていないと危険であるということだけで、肝心のお客様に関する事が何も分かりません。情報収集の後、深夜に再び集まることになりました。

 夕方、ロケット号は奥さんに呼び止められました。
奥「ロケット号、ちょっといいかしら」
ロ「ぴゆぴゆ」
奥「来週の風曜日にはとっておきのご馳走を頼んだわよ。5つ星よ、い・つ・つ・ぼ・し! お客様がいらっしゃるの。うしおさんよ」
ロ「ぴゆぴゆ」
思わぬところで情報が手に入りました。

 深夜の集会で、ロケット号はみんなにそのことを説明しました。
ロ「ぴゆぴゆ。ぴゆぴゆ、ぴゆぴゆ。ぴゆぴゆぴゆぴゆ」
キティ翻訳「来週風曜日に牛のお客さんが来てお産します。いつつぼし(意味不明)のご馳走を用意すること」
ビッグジョンBJ「がーがー、がーがーがー、がーがー」
キティ翻訳「お産を控えた牛なら、ぶったり蹴ったりしても不思議はない」
タイニージョンTJ「がーがー?」
キティ翻訳「牛ってなあに?」
リトルジョンLJ「がーがー、がーがー、がーがーがー、がーがー」
キティ翻訳「昔、カエルのおとうさんが子どもに、その説明をしようとしただけでお腹が破裂してしまったという教訓が残されている大きな動物だ」
ロ「ぴゆぴゆ!」
キティ翻訳「その絵本なら、ぴーちゃんが読んでくれたよ」
TJ「がー」
キティ翻訳「こ、こわー」
トビー「ぶーん」
キティ翻訳「とにかく、お行儀よくして、いつつぼしのご馳走を用意しよう。キティ、公共図書館で必要な情報を集めて」
キティ表示「了解」

 キティは、すぐに公共図書館にアクセスして、モーニングスター新聞社編の「作法とマナー」とマゼラン畜産大学編による「3訂版/酪農の理論と実際」をダウンロードしました。
 その日の集会はそこで解散しました。

 キティは夜の集会に備えて、翌日の日中をダウンロードしたデータの整理に費やしました。牛のご馳走が干し草であり、同時に牛のベッドにもなることも分かったので、それだけは先にロケット号に伝えました。それを聞いたロケット号は、さっそく三河屋さんに干し草の注文を出すことにしました。

<発信:クランベリーヒル:野村ロケット号/通信先:三河屋デリバリーサービス様/牛用最高級干し草1トン(いつつぼしのもの)/納期来週岩曜日まで>

つづく

先頭 表紙

2004-02-04 クランベリーヒル便り第6話 お客さんがやって来る その3

 折り返し、三河屋さんから返信が届きました。

<発信:三河屋デリバリーサービス:注文センター/通信先:クランベリーヒル/野村ロケット号様/高級干し草1トンのご注文承りました。地球、ニュージーランド産の最高級品を手配いたしました。来週草曜日または岩曜日にお届けいたします>

 これで、ひとまず安心です。
 深夜、また集会が開かれました。今夜からは「作法研究会」です。場所は大型ディスプレイのあるリビングに移されました。作法が問題となるのは自走式のメンバーです。
 「作法とマナー」の映像が始まりました。和服を着た上品な女性が挨拶の模範をしめします。そしてキティが、お辞儀の角度、継続時間、向きなどのパラーメータを解析して皆に伝えると、みんながお辞儀の練習を始めます。ロケット号もジョンたちも何度も何度もくり返しお辞儀の練習をしました。お辞儀のしすぎでメンバーの誰もが、まるで水飲み鳥のようになってしまった明け方、作法研究会はようやく解散しました。

 昼間も猿雅荘には何となく緊張感がただよっていました。いつもは静かな午後の室内も、緊急時に備えてサニタリーを高速で洗濯・乾燥するリハーサルを繰り返す洗濯機のロビーの作動音が響いていたばかりか、掃除を終えたはずのジョンたちもがーがーと動いていました。
 キティとロケット号は子牛を安全に取り上げるための知識を学んでいました。無事に産まれてくれるでしょうか。エアコンのAC-920は、客間の最適温度分布を実現するために試行錯誤を繰り返していました。
 そうしているうちにも、どんどん時間は過ぎていき、連日連夜の作法研究会のおかげで、誰もが挨拶から歩き方までとても上手になりました。
 ある晩、ゲネプロ(ステージで行われる本番同様のリハーサル)が実施されました。

 キティがサンプリングした架空のドアチャイムが鳴ります。お客様の到着です。ロケット号の目配せを合図に、全員が照明の消えたままのフロアに一列に並びます。背筋を伸ばして視線は前。一列に並んだ5つの影が整然と玄関に向かいます。歩行速度の関係で、どうしてもタイニージョンが遅れがちになることが分かりました。それで、タイニージョンを先頭に歩くことになりました。玄関に整列すると、お客様に向かって一糸乱れずにお辞儀をします。何度か繰り返されたリハーサルも終わり頃になると、その角度は1度の狂いもないほどでした。部屋への案内、ダイニングへの誘導、すべて<モーニングスター新聞社編/作法とマナー>のとおりでした。みんな満足でした。東の空が白むころ、作法研究会は解散しました。

 草曜日になっても岩曜日になっても三河屋さんはやって来ませんでした。明日は、いよいよお客様が到着してしまいます。ロケット号がアンシブルで問い合わせると、もう出ました、とソバ屋さんのような返事が返ってきました。
 夕方、アンシブルの緊急通信が入りました。

<発信:三河屋デリバリーサービス:配送センター/通信先:クランベリーヒル/野村ロケット号様/ご心配をおかけいたしました注文品未着の件ですが、宇宙嵐のためデリバリーシップの到着が遅れていることが判明しました。風曜日の午前中には必ずお届けいたしますのでそれまでお待ちください>

 本当に届くでしょうか。もし干し草が届かなかったらお客様をお迎えするどころではありません。ロケット号やキティたちは北極星に祈りながらデリバリーシップの到着を待ちました。

つづく

先頭 表紙

2004-02-03 クランベリーヒル便り第6話 お客さんがやって来る その4

 とうとう、風曜日の朝がやって来ました。ジョンたちの見事な働きで、床はまるで鏡のように輝き、窓のガラスは外してしまったのかと勘違いするくらい透明度が高く、どこにもチリひとつ見当たりませんでした。

奥「キティ、ロケット号。お客様をお迎えに行ってきますからね、留守番を頼んだわよ」
キティ「きてぃ、ろけっと号。オ客様ヲオ迎エニ行ッテキマスカラネ。留守番ヲ頼ンダワヨ」
奥「いちいち、うるさいわねえ」
キティ「イチイチ、ウルサイワネエ」
キティ表示「イッテラッシャイ」
ロケット号「ぴゆぴゆ」
キティ「ピユピユ」

 せんせいも子どもたちもみんなカーリーに乗り込んで、まだ正式な宇宙空港のないクランベリーヒルのスターシップ定期便臨時発着所に向かいました。
 カーリーが出かけてすぐ、ロケットの夏が始まりました。空気が乾燥しているので、まさに春の嵐です。三河屋のデリバリーシップ「ノストロモ号」がもうもうと砂煙を巻き上げてタバコの野原に着陸しようとしていました。干し草は、なんとか間に合ったようです。

 ごわー! どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど〜!

「ぴ、ぴゆぴゆ!」
「がーがー、がーがー!」

 窓ガラスは砂ぼこりで曇り、床はザラザラです。

「ちわーす、三河屋で〜っす! 遅くなりやした〜」
 是輔さんが、フォークリフトで干し草を運んで来ました。
「ぴゆぴゆ!」
「おっ、ロケットの兄さん。間に合いましたか。そりゃ、よかった。いやあ、参りましたよ宇宙嵐」
「ぴゆぴゆ! ぴゆぴゆ!」
「いやあ、いいんですよ、そんなにお礼言っていただかなくても。喜んでもらえるとうれしいなあ」
「ぴゆぴゆ! ぴゆぴゆ!」
「じゃあ、またよろしくおねがいしやーす。ありゃーたーした!」

 ロケット号の猛抗議は全く通じないまま船に戻った是輔さんはノストロモ号のブラッドベリ・エアリサーチ社製離陸用ブースターを容赦なく全開にしました。

 ごわー! どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど〜!

つづく

先頭 表紙

2004-02-02 クランベリーヒル便り第6話 お客さんがやって来る その5

 巻き上げる砂煙で視界は1メートル以下、南極のブリザードなみでした。
 さあ、ジョンたちは掃除のやりなおしです。エアコンのAC-920も吸排気ダクトに吸い込んだ砂を、ブロアーモードで吐き出しました。
 キティとロケット号は、大量の干し草を客間と倉庫に運び入れなければなりません。洗濯機のロビーは、掃除用にたくさんのリネンを供給しました。ジョン3兄弟はモーターの負荷限界まで働き続けました。

 それでもみんなが全力を投じたおかげで、なんとか掃除も終わり、お客様をお迎えする準備が整いました。ロケット号とキティはその具合を確かめるために、客間に敷き詰めた干し草にゴロリと横になってみました。
 思ったよりもクッションの効いた干し草のベッドは、お日さまの匂いがいっぱいに広がってなんだかとてもいい気持ちでした。ロケット号は、いつつぼしの気持ちとはこういうことかなと思いました。これならお客様は満足してくれるに違いありません。イリジウム・チタン合金製のカチカチのキティでさえ気持ちよさそうでした。
 ほどなく、キティのレーダー探索範囲内に帰宅途中のカーリーが入りました。いよいよ本番です。ロケット号の号令で、お迎え部隊が全員、玄関ホール近くのフロアに整列しました。
 お客様をお迎えして、完ぺきな挨拶。そして干し草の敷き詰められた客間にご案内すれば第一のミッションは完了です。緊張するタイニージョンの肩のゴミをリトルジョンが取りました。カーリーのエンジン音が聞こえると、皆かたずを呑んでその時を待ちました。そして、ついにドアチャイムが鳴りました。ロケット号の目くばせを合図に隊列を確認すると、高まる緊張の中、5人は意を決して一糸乱れず玄関に向かって進み始めたのでした。

おしまい

先頭 表紙

お日さまの匂いいっぱいの干し草のベッド、贅沢だなぁ。うらやましいです。なんだか、どんどんどんどん、面白くなってきていますね。この後どうなったのか、ものすごく気になります。 / こすもす ( 2004-01-31 15:06 )

2004-02-01 ポロの日記 2004年1月29日(木) お味噌の仕込み

 今日は平日ですが、せんせいの奥さんは今日は会社がお休みです。ポロは音読の練習をしていました。ゴマのお兄ちゃんが用意してくれた漢字ばかりの本ですが、ふりがながふってあるので読むのなんて簡単。
「ぎゃーてーぎゃーてーはーらーぎゃーてー」
「ポロちゃん!」
「なあに」
「今日、お味噌を仕込むんだけど手伝ってくれる?」
「うん、やるやる」
 ちょうどお味噌を仕込むシーズンなので、ポロがお手伝いをすることになりました。
「お味噌を手作りするなんてステキだなあ」
「これも闘いなの」
「えっ、どうして?」
「ポロちゃんは、どういうお味噌が好き」
「ポロはイモようかんが好きだな」
「ポロ。あんた、刺されたい?」
「ぷ、ぷるぷるぷるぷる!」
 奥さんの手にはちょうど竹串が。くわばらくわばら。
「お味噌の好みはね、子どもの時に決まるの」
「うんうん、それで」
「だからうちも夫婦で違う好みなの」
「こまったもんだ」
「でもね、うちは相手の好みに対する文句は言わないの。お味噌汁作ってもらって文句言うなんて筋違いだから。当然、買い物行ったり料理するほうが勝ちなわけよ」
「うんうん、それで」
「そういう場合、普通のうちなら絶対主婦の勝ちよ。ところがね、あの人も買い物するし、料理が得意なの知ってのとおり」
「そっか」
「そうなると、さらに先手をとらないと勝てないのよ。お味噌作ったほうが勝ちなわけ」
「深謀遠慮っていうやつだね」
「そんなにすごくないけど、自分で作るとおいしいからっていうのもあるわね」
「わあ、手前味噌っていうやつだ」
「そうなの。その諺は自分で作ってみないと分からないものよ」
「作り方は誰から習ったの?」
「本で勉強」
「えっ、お母さんとかに習ったんじゃないの?」
「違うわ、あ、お豆が吹きこぼれないようによく見ててね。石けんの泡みたいなのがぶわーって出てくるからおタマですくってちょうだい」
「はーい。で、その続きは?」
「本当は、うちで最初にお味噌作ったのはあの人なのよ。お味噌作りの講習会に参加して、お味噌仕込んできたの。そしたらおいしくてびっくりしたの」
「ふーん、せんせいって何でもやるんだね」
「だからね、お味噌が作れるからって安心できないの。先に仕込んだほうが勝ちなのよ」
「闘いっていうのは、先陣争いのことなんだ」
「まあ、そうね」
もう、家中お豆を煮るいい匂いでいっぱいです。
「奥さん、梅干しも作るよね」
「あれは趣味」
「ゴマのお兄ちゃんが、すっごく気に入ってるよ」
「クッキーだってパイだって自分で焼くとすごくおいしいでしょ、それと同じね」
「でも、手作りする人のほうが少ないよね」
「みんな時間がないからじゃないかしら」
「でも、テレビ見てると思うな。だから時間はあるよ」
「じゃ、価値観の問題だわ。梅干し作りよりもテレビに価値を感じているのよ。人のことはとやかく言えないわ」
「ふーん。ポロ、きゅうに何でもかんでも手作りしたくなってきた」
「いいわね。猫の星に帰る前に、地球のいろいろな生活技術を身に付けていけばいいわ。向こうで本にすれば売れるかもね」
「よし、それでポロは大金持ちだ! まずは、やっぱりイモようかんからだな。次はおイモの栽培かな。追及してくとおイモの品種改良にまで進むな、きっと」
「そうね、好きなものからやればいいわ。じゃあ、お豆を煮てる間に味噌瓶の消毒よ」
「はーい!」
 それから、豆を挽いたり麹を混ぜ込んだりして、午後遅く、お味噌の仕込みが終わりました。でも食べられるのはずっと先になります。手作りするって楽しみだなあ。

おしまい

先頭 表紙

手作り味噌、今作ってる家庭は殆ど無いですよねぇ。昔の家は台所の床下にそう言うのをおく場所がありましたが、今は完全に収納場所ですものね。 / みた・そうや ( 2004-01-30 10:51 )
mokoさん、こすもすさん、読んでくれてアリガトございます。ポロは、お味噌の仕込みを覚えちゃいました。そんなに難しくありませんでした。みなさんのおうちでも、いろいろ手作りしていらっしゃるようですね。ポロてきにもいろいろ挑戦してみようと思います。 / ポロ ( 2004-01-30 08:27 )
お味噌まで自家製とはすごいですね。うちの義母も、梅干しやお漬け物は自家製で、子供たちはそれが大好きです。梅干し作りはいつかきちんと習っておかなきゃ、と思っていますが、毎年バタバタしている間にいつの間にか終わっています。土用干しで雨の心配をしないといけないのが一番大変そうですね。 / こすもす ( 2004-01-30 07:25 )
実家の母も、農家生まれなので、梅干やらっきょう、漬物はつけてます。お味噌も、母が実家にいる間は作ってたそうです。今は、仕込み味噌を注文して、樽に入れておいて、時間がたってから食べてるようです。他の家に比べて、母は和風料理が多かったので、ちょっとバカにしてた時期もありましたが、今になってみると、その生活技術に感心することが多いです。手作りの良さ、見直したいですね♪ / moko ( 2004-01-30 06:34 )

2004-01-31 クランベリーヒル便り第5話 楽しいピクニック その1

 春らしくなってきた光曜日。今日は楽しいピクニックです。子どもたちが目を覚ましたときには、もうせんせいとロケット号がお弁当を作っていました。

海「とむりん、今日のお弁当なに?」
せ「ロケット号特製スモーガスボードだよ」
ロ「ぴゆぴゆ!」
海「早くお昼にならないかなあ。ジュース忘れないでね、ぜったいだからね」
ロ「ぴゆぴゆ!」

 そこへ猫型作曲支援ロボットのキティが来て、できあがったお弁当や折畳みテーブルをクルマのカーリーのトランクに運び始めました。
 ぴーちゃんやぶうよんも起きてきました。
風「まだ夜明け前なのに、とむりんもロケット号も早いね」
ぴ「ぴーちゃん、ねむい。ふあ〜」
せ「ぴーたろう、かあちゃんを起こしてきて。朝ごはんだ」
ぴ「はーい」

 みんなが朝食を食べ始めた頃、奥さんが起きてきました。ロケット号が用意した朝食は、ガスパチョとポルトガル風のポテトパイでした。
奥「ふあ〜、みんなおはよう」
海「かあちゃん、遅いよ。とむりんとロケット号なんて日の出前からお弁当作ってたんだから」
奥「まあ、ありがとう。でも、みんな覚えておいて。全ての男は女の幸せのためにいるのよ」
せ「そ、そうだったのか〜!」
ロ「ぴゆぴゆ!」
せんせいとロケット号は、思わずお互いの顔を見ました。
みいやんがポテトパイをおかわりするころ、ロケット号が熱い紅茶をついでまわりました。
風「わ、この紅茶いい匂い!」
奥「クランベリーヒル産よ。栽培に成功した人がいるの」
せ「こりゃいい。地球産の高級茶に負けてないぞ」
ロ「ぴゆぴゆ」
 ロケット号はなんだか誇らしげでした。

せ「総員乗り込め。さあ、出発だ!」
 キティは先にトランクに乗り込んでいました。家族5人とロケット号は、小さなカーリーにぎゅうぎゅう詰めになって席に収まりました。
せ「ジョンたち。留守は任せたぞ」
ぴ「行ってくるよ〜!」
BJ「がーがー」
LJ「がーがー」
TJ「がーがー」
 玄関ポーチまで見送りに出てきた自走式掃除機のビッグジョンに後を頼んでカーリーは発進しました。

カーリー「おはようございます、せんせい。今日はメトセラ湖までお連れすればよろしいかしら?」
せ「ああ、頼むよ」
奥「あたし、このクルマきらいよ」
カ「まあ、そうおっしゃらないで」
奥「どうして、こんなに癇にさわる話し方するのかしらね」
せ「松戸博士のプログラムだよ」
奥「男って、ホントにしょうがないわね」
海「ねえ、空飛んで行こうよ。カーリー、今日は飛べる天気でしょ?」
カ「付近に雷雲はありません。飛行可能です」
せ「よし、飛行を許可するぞ」
カ「飛行許可受令。ディーンドライブ起動。シートベルトの着用をお薦めします」
カーリーがそういうと、車体がふわりと宙に浮かびました。高度を100メートルほどにとり、カーリーの航法装置は100キロほど離れたメトセラ湖に進路をとりました。
風「メトセラ湖って初めてだね。大きいの?」
せ「カーリー、メトセラ湖の情報を」
カ「了解。メトセラ湖は面積15平方キロメートル、湖面標高700メートルの周囲を森に囲まれた湖です。一昨年、クランベリーヒル第5次探検隊によって発見されました。今後移民が増えればリゾート開発されることも考えられます」
風「15平方キロか。オンディー沼よりぜんぜん大きいね」

つづく

先頭 表紙

2004-01-30 クランベリーヒル便り第5話 楽しいピクニック その2

 30分ほどでメトセラ湖上空に到着すると、カーリーはぐるりと湖を一周してから湖畔の東側の広々とした草地に着陸しました。周囲の森は、だんだんと緑になってきたという感じで、早春のムードいっぱいでした。
 トランクから降り立ったキティは、ロケット号と一緒に折畳みテーブルや椅子を並べてキャンピング・リビングを設営しました。子どもたちは、水際で裸足になって、まだ冷たい湖水の感触に歓声をあげていました。奥さんは、近くの鱗木の木陰にハンモックをかけて昼寝、せんせいとロケット号は早くも昼食の準備です。
 しかしキティはドップラーレーダーに何かの気配を感じて哨戒行動に出ました。
森の中を進んで行くと、はじめの数百メートルは何事もありませんでしたが大きなブナもどきの木陰で何かを見つけました。それは、冬に雪の森で出会ったのと同型の3体のメカ・モンスターでした。

メカ・モンスター「がちゃがちゃ」

 彼らがこちらにレーザー照準を合わせるよりも早く、キティのCDS(対コンピュータ攻撃デバイス)が火ならぬ電磁波を吐きました。キティの精密照準は、松戸博士のこだわりの成果です。一瞬にしてメカ・モンスターは沈黙、キティは、さらに森の奥へと進みました。1時間ほどの間に、ざっと30体ほどのメカモンスターを沈黙させました。こんなにモンスターがいては、せんせい一家が楽しい休日を過ごすにはメトセラ湖畔は向いていないかも知れません。キティが一度キャンプに戻ってそれを報告しようかと思ったところ、レーダーにさらに大きな反応がありました。レーダーに従って奥に進むと、そこには何かの建築物がありました。

 その頃、湖畔のキャンピング・リビングでは盛大なディナーが始まろうとしていました。ロケット号特製のスモーガスボードは、北欧のオープンサンドイッチで、いろいろと用意されたトッピングを思い思いに乗せて食べます。芝エビのワイン蒸し、スライスされたローストビーフ、トマトのミモザ風、アンディーブのサラダ、杏のシロップ漬け、塩漬け豚バラ肉の唐辛子あえなど、たくさんのお皿が並びましたが、その中でもロケット号お得意のニシンのマリネが絶品でした。
海「うまい!」
風「そりゃ、ロケット号特製だからね」
奥「本当、おいしいわ。一家に一台ロケット号ね」
せ「わ、わしも手伝ったんだぞ」
奥「あらそう。おいしいわよ」
ロ「ぴゆぴゆ」
風「あれ、ジャグは?」
せ「あ、いけない。忘れてきたかも知れないな」
風「ちょっと見てくるよ、もしなかったら、カーリーの燃料電池から水もらってくる」
奥「あれって、純水よね」
せ「大丈夫、今日は濃い紅茶をいれるから」
ロ「ぴゆぴゆ!」
ぴ「キティちゃんは、どこ?」
せ「そのへんにいるんじゃないか?」
奥「役に立たない猫ね」
家族全員、それはそれは大変な食欲で、ロケット号の用意した昼食は、ほとんど全部なくなりました。
海「もう食べられない」
風「食った食った」
奥「あ〜、シアワセ」
ロ「ぴゆぴゆ、ぴゆぴゆ!」
ロケット号は胸を張って自慢げでした。

つづく

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