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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2004-02-01 ポロの日記 2004年1月29日(木) お味噌の仕込み
2004-01-31 クランベリーヒル便り第5話 楽しいピクニック その1
2004-01-30 クランベリーヒル便り第5話 楽しいピクニック その2
2004-01-29 クランベリーヒル便り第5話 楽しいピクニック その3
2004-01-28 クランベリーヒル便り第5話 楽しいピクニック その4
2004-01-27 ポロの日記 2004年1月25日 スリッパを買いに その1
2004-01-26 ポロの日記 2004年1月25日 スリッパを買いに その2
2004-01-25 クランベリーヒル便り第4話 ロケット号の日記
2004-01-24 クランベリーヒルだより第3話 留守のできごと その1
2004-01-23 クランベリーヒルだより第3話 留守のできごと その2


2004-02-01 ポロの日記 2004年1月29日(木) お味噌の仕込み

 今日は平日ですが、せんせいの奥さんは今日は会社がお休みです。ポロは音読の練習をしていました。ゴマのお兄ちゃんが用意してくれた漢字ばかりの本ですが、ふりがながふってあるので読むのなんて簡単。
「ぎゃーてーぎゃーてーはーらーぎゃーてー」
「ポロちゃん!」
「なあに」
「今日、お味噌を仕込むんだけど手伝ってくれる?」
「うん、やるやる」
 ちょうどお味噌を仕込むシーズンなので、ポロがお手伝いをすることになりました。
「お味噌を手作りするなんてステキだなあ」
「これも闘いなの」
「えっ、どうして?」
「ポロちゃんは、どういうお味噌が好き」
「ポロはイモようかんが好きだな」
「ポロ。あんた、刺されたい?」
「ぷ、ぷるぷるぷるぷる!」
 奥さんの手にはちょうど竹串が。くわばらくわばら。
「お味噌の好みはね、子どもの時に決まるの」
「うんうん、それで」
「だからうちも夫婦で違う好みなの」
「こまったもんだ」
「でもね、うちは相手の好みに対する文句は言わないの。お味噌汁作ってもらって文句言うなんて筋違いだから。当然、買い物行ったり料理するほうが勝ちなわけよ」
「うんうん、それで」
「そういう場合、普通のうちなら絶対主婦の勝ちよ。ところがね、あの人も買い物するし、料理が得意なの知ってのとおり」
「そっか」
「そうなると、さらに先手をとらないと勝てないのよ。お味噌作ったほうが勝ちなわけ」
「深謀遠慮っていうやつだね」
「そんなにすごくないけど、自分で作るとおいしいからっていうのもあるわね」
「わあ、手前味噌っていうやつだ」
「そうなの。その諺は自分で作ってみないと分からないものよ」
「作り方は誰から習ったの?」
「本で勉強」
「えっ、お母さんとかに習ったんじゃないの?」
「違うわ、あ、お豆が吹きこぼれないようによく見ててね。石けんの泡みたいなのがぶわーって出てくるからおタマですくってちょうだい」
「はーい。で、その続きは?」
「本当は、うちで最初にお味噌作ったのはあの人なのよ。お味噌作りの講習会に参加して、お味噌仕込んできたの。そしたらおいしくてびっくりしたの」
「ふーん、せんせいって何でもやるんだね」
「だからね、お味噌が作れるからって安心できないの。先に仕込んだほうが勝ちなのよ」
「闘いっていうのは、先陣争いのことなんだ」
「まあ、そうね」
もう、家中お豆を煮るいい匂いでいっぱいです。
「奥さん、梅干しも作るよね」
「あれは趣味」
「ゴマのお兄ちゃんが、すっごく気に入ってるよ」
「クッキーだってパイだって自分で焼くとすごくおいしいでしょ、それと同じね」
「でも、手作りする人のほうが少ないよね」
「みんな時間がないからじゃないかしら」
「でも、テレビ見てると思うな。だから時間はあるよ」
「じゃ、価値観の問題だわ。梅干し作りよりもテレビに価値を感じているのよ。人のことはとやかく言えないわ」
「ふーん。ポロ、きゅうに何でもかんでも手作りしたくなってきた」
「いいわね。猫の星に帰る前に、地球のいろいろな生活技術を身に付けていけばいいわ。向こうで本にすれば売れるかもね」
「よし、それでポロは大金持ちだ! まずは、やっぱりイモようかんからだな。次はおイモの栽培かな。追及してくとおイモの品種改良にまで進むな、きっと」
「そうね、好きなものからやればいいわ。じゃあ、お豆を煮てる間に味噌瓶の消毒よ」
「はーい!」
 それから、豆を挽いたり麹を混ぜ込んだりして、午後遅く、お味噌の仕込みが終わりました。でも食べられるのはずっと先になります。手作りするって楽しみだなあ。

おしまい

先頭 表紙

手作り味噌、今作ってる家庭は殆ど無いですよねぇ。昔の家は台所の床下にそう言うのをおく場所がありましたが、今は完全に収納場所ですものね。 / みた・そうや ( 2004-01-30 10:51 )
mokoさん、こすもすさん、読んでくれてアリガトございます。ポロは、お味噌の仕込みを覚えちゃいました。そんなに難しくありませんでした。みなさんのおうちでも、いろいろ手作りしていらっしゃるようですね。ポロてきにもいろいろ挑戦してみようと思います。 / ポロ ( 2004-01-30 08:27 )
お味噌まで自家製とはすごいですね。うちの義母も、梅干しやお漬け物は自家製で、子供たちはそれが大好きです。梅干し作りはいつかきちんと習っておかなきゃ、と思っていますが、毎年バタバタしている間にいつの間にか終わっています。土用干しで雨の心配をしないといけないのが一番大変そうですね。 / こすもす ( 2004-01-30 07:25 )
実家の母も、農家生まれなので、梅干やらっきょう、漬物はつけてます。お味噌も、母が実家にいる間は作ってたそうです。今は、仕込み味噌を注文して、樽に入れておいて、時間がたってから食べてるようです。他の家に比べて、母は和風料理が多かったので、ちょっとバカにしてた時期もありましたが、今になってみると、その生活技術に感心することが多いです。手作りの良さ、見直したいですね♪ / moko ( 2004-01-30 06:34 )

2004-01-31 クランベリーヒル便り第5話 楽しいピクニック その1

 春らしくなってきた光曜日。今日は楽しいピクニックです。子どもたちが目を覚ましたときには、もうせんせいとロケット号がお弁当を作っていました。

海「とむりん、今日のお弁当なに?」
せ「ロケット号特製スモーガスボードだよ」
ロ「ぴゆぴゆ!」
海「早くお昼にならないかなあ。ジュース忘れないでね、ぜったいだからね」
ロ「ぴゆぴゆ!」

 そこへ猫型作曲支援ロボットのキティが来て、できあがったお弁当や折畳みテーブルをクルマのカーリーのトランクに運び始めました。
 ぴーちゃんやぶうよんも起きてきました。
風「まだ夜明け前なのに、とむりんもロケット号も早いね」
ぴ「ぴーちゃん、ねむい。ふあ〜」
せ「ぴーたろう、かあちゃんを起こしてきて。朝ごはんだ」
ぴ「はーい」

 みんなが朝食を食べ始めた頃、奥さんが起きてきました。ロケット号が用意した朝食は、ガスパチョとポルトガル風のポテトパイでした。
奥「ふあ〜、みんなおはよう」
海「かあちゃん、遅いよ。とむりんとロケット号なんて日の出前からお弁当作ってたんだから」
奥「まあ、ありがとう。でも、みんな覚えておいて。全ての男は女の幸せのためにいるのよ」
せ「そ、そうだったのか〜!」
ロ「ぴゆぴゆ!」
せんせいとロケット号は、思わずお互いの顔を見ました。
みいやんがポテトパイをおかわりするころ、ロケット号が熱い紅茶をついでまわりました。
風「わ、この紅茶いい匂い!」
奥「クランベリーヒル産よ。栽培に成功した人がいるの」
せ「こりゃいい。地球産の高級茶に負けてないぞ」
ロ「ぴゆぴゆ」
 ロケット号はなんだか誇らしげでした。

せ「総員乗り込め。さあ、出発だ!」
 キティは先にトランクに乗り込んでいました。家族5人とロケット号は、小さなカーリーにぎゅうぎゅう詰めになって席に収まりました。
せ「ジョンたち。留守は任せたぞ」
ぴ「行ってくるよ〜!」
BJ「がーがー」
LJ「がーがー」
TJ「がーがー」
 玄関ポーチまで見送りに出てきた自走式掃除機のビッグジョンに後を頼んでカーリーは発進しました。

カーリー「おはようございます、せんせい。今日はメトセラ湖までお連れすればよろしいかしら?」
せ「ああ、頼むよ」
奥「あたし、このクルマきらいよ」
カ「まあ、そうおっしゃらないで」
奥「どうして、こんなに癇にさわる話し方するのかしらね」
せ「松戸博士のプログラムだよ」
奥「男って、ホントにしょうがないわね」
海「ねえ、空飛んで行こうよ。カーリー、今日は飛べる天気でしょ?」
カ「付近に雷雲はありません。飛行可能です」
せ「よし、飛行を許可するぞ」
カ「飛行許可受令。ディーンドライブ起動。シートベルトの着用をお薦めします」
カーリーがそういうと、車体がふわりと宙に浮かびました。高度を100メートルほどにとり、カーリーの航法装置は100キロほど離れたメトセラ湖に進路をとりました。
風「メトセラ湖って初めてだね。大きいの?」
せ「カーリー、メトセラ湖の情報を」
カ「了解。メトセラ湖は面積15平方キロメートル、湖面標高700メートルの周囲を森に囲まれた湖です。一昨年、クランベリーヒル第5次探検隊によって発見されました。今後移民が増えればリゾート開発されることも考えられます」
風「15平方キロか。オンディー沼よりぜんぜん大きいね」

つづく

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2004-01-30 クランベリーヒル便り第5話 楽しいピクニック その2

 30分ほどでメトセラ湖上空に到着すると、カーリーはぐるりと湖を一周してから湖畔の東側の広々とした草地に着陸しました。周囲の森は、だんだんと緑になってきたという感じで、早春のムードいっぱいでした。
 トランクから降り立ったキティは、ロケット号と一緒に折畳みテーブルや椅子を並べてキャンピング・リビングを設営しました。子どもたちは、水際で裸足になって、まだ冷たい湖水の感触に歓声をあげていました。奥さんは、近くの鱗木の木陰にハンモックをかけて昼寝、せんせいとロケット号は早くも昼食の準備です。
 しかしキティはドップラーレーダーに何かの気配を感じて哨戒行動に出ました。
森の中を進んで行くと、はじめの数百メートルは何事もありませんでしたが大きなブナもどきの木陰で何かを見つけました。それは、冬に雪の森で出会ったのと同型の3体のメカ・モンスターでした。

メカ・モンスター「がちゃがちゃ」

 彼らがこちらにレーザー照準を合わせるよりも早く、キティのCDS(対コンピュータ攻撃デバイス)が火ならぬ電磁波を吐きました。キティの精密照準は、松戸博士のこだわりの成果です。一瞬にしてメカ・モンスターは沈黙、キティは、さらに森の奥へと進みました。1時間ほどの間に、ざっと30体ほどのメカモンスターを沈黙させました。こんなにモンスターがいては、せんせい一家が楽しい休日を過ごすにはメトセラ湖畔は向いていないかも知れません。キティが一度キャンプに戻ってそれを報告しようかと思ったところ、レーダーにさらに大きな反応がありました。レーダーに従って奥に進むと、そこには何かの建築物がありました。

 その頃、湖畔のキャンピング・リビングでは盛大なディナーが始まろうとしていました。ロケット号特製のスモーガスボードは、北欧のオープンサンドイッチで、いろいろと用意されたトッピングを思い思いに乗せて食べます。芝エビのワイン蒸し、スライスされたローストビーフ、トマトのミモザ風、アンディーブのサラダ、杏のシロップ漬け、塩漬け豚バラ肉の唐辛子あえなど、たくさんのお皿が並びましたが、その中でもロケット号お得意のニシンのマリネが絶品でした。
海「うまい!」
風「そりゃ、ロケット号特製だからね」
奥「本当、おいしいわ。一家に一台ロケット号ね」
せ「わ、わしも手伝ったんだぞ」
奥「あらそう。おいしいわよ」
ロ「ぴゆぴゆ」
風「あれ、ジャグは?」
せ「あ、いけない。忘れてきたかも知れないな」
風「ちょっと見てくるよ、もしなかったら、カーリーの燃料電池から水もらってくる」
奥「あれって、純水よね」
せ「大丈夫、今日は濃い紅茶をいれるから」
ロ「ぴゆぴゆ!」
ぴ「キティちゃんは、どこ?」
せ「そのへんにいるんじゃないか?」
奥「役に立たない猫ね」
家族全員、それはそれは大変な食欲で、ロケット号の用意した昼食は、ほとんど全部なくなりました。
海「もう食べられない」
風「食った食った」
奥「あ〜、シアワセ」
ロ「ぴゆぴゆ、ぴゆぴゆ!」
ロケット号は胸を張って自慢げでした。

つづく

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2004-01-29 クランベリーヒル便り第5話 楽しいピクニック その3

 キティが見つけた建物は、急ごしらえのプレハブ風で、うす緑色の壁には看板がかけられていました。

 従業員募集 メトセラ製作所
 どなたにもできる簡単な作業です。委細面談。高給優遇。社保完。
 作業内容:機械部品のライン組立

 キティが窓から覗くと、スライムやゴブリンたちがラインで何かの機械を組み立てていました。さらに先の工程へ進むと、それが何であるか分かりました。メカ・モンスターでした。キティは、自分が今、何をすべきなのか分かっていました。メトセラ製作所の組立工場から十分離れると、キティは対コンピュータ攻撃システムであるCDSを粗照準モードに切り替えて、フル出力で照射しました。無音のうちに攻撃は終わりましたが、その成果は明らかでした。制御コンピュータが誤作動してラインがでたらめに動き始めると、危険を感じたスライムやゴブリンたちがパニックを起こして逃げ始めたからです。まさに蜘蛛の子を散らすとはこのことでしょう。彼らは森の奥めざして放射状に逃げていきました。
 もし、キティが満足するということを知っていたならば、その表情はきっと満足げであったことでしょう。
 キティは哨戒行動を終えて、湖畔のキャンピングリビングに戻ることにしました。

 春のクランベリーヒルは天気が変わりやすいのでした。昼過ぎから、雲行きが怪しくなってきました。湖畔ではすでにキャンプの撤収をすませて行方不明のキティを探していました。
「キティ!」
「キティ!」
「キティちゃん、どこ〜!」
 キティの極指向性超高感度集音センサーは、遠くからでも家族の呼び声をとらえました。

 しゅらしゅらきゅらきゅらしゅらしゅらきゅらきゅら

 キティは全速力で湖畔を目指しました。

 キティが湖畔に戻ると、みんなブーブー文句を言っていました。
奥「あんた、どこに行ってたのよ。勝手なことしちゃダメよ」
キティ「アンタ、ドコニ行ッテタノヨ。勝手ナコトシチャだめヨ」
奥「うるさいわね、ふざけないで」
キティ「ウルサイワネ、フザケナイデ」
キティは、サンプリングマシンとしての機能を果たしただけでしたが、それが奥さんの逆鱗に触れて、奥さんはキティをゲンコツで叩きました。

 ボカン!
 きゅるるるるひゅーん

 イリジウム・チタン合金のボディはびくともしませんでしたが、ゲンコツのショックでキティのCPUが停止してしまいました。
ぴ「あ、キティちゃんのことこわしちゃった」

 カーリーに乗り込むと、案の定雨が降り始めました。
風「ぎりぎりセーフだね」
せ「ま、午前中晴れたからいいかな」
奥「もう、あんな役に立たない猫は連れてくるのよしましょ」
せ「何かしていてくれたのかも知れないよ」
奥「なにを?」
せ「分かんないけど」
奥「何もしてないに決まってるわ」

つづく

先頭 表紙

2004-01-28 クランベリーヒル便り第5話 楽しいピクニック その4

 その日の夜、リビングにはジョン3兄弟、再起動して動けるようになったキティ、ロケット号が集まりました。
 キティが光カプラで端末にログインすると、リビングの大型モニタに森の風景が映し出されました。早春の美しい森です。しかし、森を進んで行くとメカ・モンスターたちが現れます。キティのCDSで彼らは次々と沈黙していきました。クライマックスはメトセラ製作所のライン映像でした。スライムやゴブリンたちがせっせと働いています。
「ぴゆぴゆ」
 ロケット号はライン奥にいる人型異星人を見逃しませんでした。初めて見る異星人でしたが、明らかにクランベリーヒルのモンスターたちとは違っていました。
「がーがー」
 リトルジョンも気づきました。どうやら、これは異星人たちが労働力を求めてクランベリーヒルに建設した工場のようでした。
 映像では工場がズームアウトしていきます。キティが工場全体を攻撃するために後退しているようでした。やがてCDSのフル出力攻撃があったことがモニタ右上のキティの内部情報表示で分かりました。ラインは停止し、スライムたちがパニックを起こしていることが工場の窓からうかがえました。モンスターたちが工場から逃げ出すのを見て、2人の異星人も慌てふためいているようでした。
「ぴゆぴゆ!」
「がーがー!」
 ロケット号やジョンたちは、キティを褒めたたえました。
 キティの映像は、やがて湖畔に向かいます。しかし、湖畔に到着してみると、そこに映し出されたのは迫り来る奥さんのゲンコツでした。衝撃の瞬間、映像は揺れ、その後スノーノイズだけになりました。
「ぴ、ぴゆ」
「が、がー」
 その場にいた全員が固まりました。

 やがてキティがログアウトすると深夜の集会は終わり、猿雅荘に本当の夜がやってきました。

おしまい

先頭 表紙

ミタさん、ちゃんと後日談があります。待っててね。 / ポロ ( 2004-01-30 19:34 )
キティちゃん、ご苦労様でした。でも、メトセラ製作所…気になるなぁ。 / みた・そうや ( 2004-01-30 10:46 )

2004-01-27 ポロの日記 2004年1月25日 スリッパを買いに その1

 今日は、せんせいに近所のデパートへ買い物に連れていってもらいました。ポロは、自転車に乗ったせんせいの上着の大きなポケットから顔を出して外を眺めながら行きました。
「せんせい、もっとスピード出してよ!」
「くたびれちゃうじゃないか」
「せんせい、トレーニングだよ」
「じゃ、ちょっとだけだぞ」
「わあ、せんせいはやいはやい!」
「ああ、もう息が切れてきた」
「せんせい、ポロたち地球防衛軍だよ。せんせいのがんばりが地球を守るんだから。これはペダルボート型駆逐艦のスワン153号。今、バレンツ海で迎撃任務にあたってるとこ」
「ペダルボートって、観光地の池なんかにある白鳥型の?」
「そうそう。だって自転車なんだもん」
「で、どんな敵が攻撃してくるんだ」
「クリンゴンの攻撃型巡洋艦だよ。光子魚雷撃ってくる」
「それって、むちゃくちゃな設定じゃないか」
「ダイジョブ。こっちにはロケット号がいるから。ほら」
「あ、ポロ、カップボードからロケット号持ってきちゃったのか」
「だって、かわいいんだもん。ぴゆぴゆ!」
「でも、もう古くなってボロボロだ」
「歴戦の勇士の証拠だよ」
「ところで、どうしてバレンツ海なんだ?」
「豊後水道でもよかったんだけどさ、ポロの言語センスってやつだよ、せんせい」
「ほら、着いたぞ。でも、ペットを連れての入店は禁止って書いてあるからな。ポケットから顔出すんじゃないぞ」
「あのさ、せんせい、ポロを内ポケットに入れてよ。そうすればお話できるよ」
 どっこいしょ。
「うわ、なんだかへんなふくらみだなあ」
「1000万円の札束だと思えば楽しいよ」
「全然思えないけど、とにかく、静かにしてるんだぞ」
「ねえねえ、奥さんが有名な和菓子の老舗が入ってるって言ってたよ」
「ああ、言ってたな」
「行くでしょ?」
「今日は、用事が違う」
「でもさ、でもさ、せっかく来たんだからさ。ちょっとだけ行くでしょ?」
「見ると欲しくなるぞ」
「え゛〜、買わないの〜?」
「ポロ、借金いくらあるんだ」
「500まんえん」
「だから、むだ遣いはするな」
「わー、借金するってそういうことだったのか〜」
「さあ、大急ぎで買い物を済ませるぞ」
「何買うの?」
「紳士用のLサイズのスリッパだ」
「レッスン室の?」
「そうだ」
「最近、男の人のレッスン多いもんね」
「どういうわけだか、売られているスリッパは小振りのものが多い」
「ふーん、そうなのか」
 スリッパを買ったあと、せんせいとポロはティーポットを見ました。ガラスの丸形ティーポットを探していたのですが、小型のものでも5000円もしたので買いませんでした。
「せんせい、ウラノメトリアがヒットしたら買えるよ」
「そうだな、365個買って毎日違うポットで紅茶飲もう」
「そうそう、その意気だよ。ところでさ、イモようかんは?」
「じゃ、1個だけだぞ」
「わーい、せんせいアリガト!」

つづく


先頭 表紙

2004-01-26 ポロの日記 2004年1月25日 スリッパを買いに その2

 帰りの自転車では、ポロは、また上着の外ポケットに戻りました。
「せんせい、今、せんせいは鈴鹿8時間耐久レースに出てるんだよ」
「今度は、レースか」
「そう。ポロが監督」
「じゃ、監督。早速指示を」
「耐久レースは速さよりも大事なことがあるんだよ、せんせい」
「どんなこと?」
「それはね、マシンを消耗させないこと。タイヤや変速ギアはもちろん、ピストンリングひとつすり減らしちゃいけないんだよ」
「ピアノと一緒だな」
「せんせいもコラムに書いてたじゃないか。何かをするにはちょうどよい力があるって。あれだよ、あれ」
「そうか。よし、ペダルをきれいな円運動で回転させるように踏んで、身体のバランスをとって車体の左右への振れをなくすというというのはどうだ」
「うん。それからライン取りだよ、せんせい。段差を避けてなめらかに走るんだ」
「なんだか、自転車に乗るのも難しくなってきたな」
「そうだよ、せんせい。なにしろ大事な老舗のイモようかん運んでるんだから」
「なんだ、そういうことだったのか。ポロはごっこ遊びが好きなのかと思ってたよ」
「もちろん好きだよ、せんせい。文豪するっていうことは、一日中ごっこ遊びするっていうことだよ」
「そうか、ポロはごっこ遊びの達人だったのか」

 それからほどなく、ポロたちは作曲工房へ戻ってきました。
 ロケット号にはかなわないけど、ポロは、きょうはとってもいい日だったと思いました。

おしまい


先頭 表紙

2004-01-25 クランベリーヒル便り第4話 ロケット号の日記

(ロケット語 原文) 

 ぴゆぴゆ。
 ぴゆぴゆ。ぴゆぴゆぴゆぴゆ。ぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆ。ぴゆぴゆぴゆぴゆ。ぴゆぴゆぴゆぴゆ。ぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆ。ぴゆぴゆぴゆぴゆ。ぴゆぴゆぴゆぴゆ。
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 ぴゆぴゆ。ぴゆぴゆぴゆぴゆ。ぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆ。ぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆ。ぴゆぴゆぴゆぴゆ。ぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆ。ぴゆぴゆぴゆぴゆ。ぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆ。




(ロケット号の日記 ポロ訳)

 桜月朔日(風曜日)
 きょうは、とてもいい日でした。葉の出始めたタバコの野原に春風が吹きわたりました。
 きょうは、とてもいい日でした。キティとぴーちゃんが摘んできてくれた菜の花のつぼみをおひたしにして朝ご飯に出したら、せんせいと奥さんがおいしいおいしいと喜んでくれました。それを聞いたキティとぴーちゃんも喜びました。
 きょうは、とてもいい日でした。みいやんの抜けのこっていた乳歯がポロリととれました。みいやんは、みんなに自慢して見せて回りました。家族はもちろん、タイニージョンは「がーがー」とお祝いを言いました。リトルジョンもビッグジョンも「がーがー」と祝福しました。
 きょうは、とてもいい日でした。お風呂から出ると、誰もが「ああ、いい気持ちだった!」と言ってくれたからです。みんな石けんの匂いになって笑顔でした。
 きょうは、とてもいい日でした。せんせいがとてもいい曲を書き上げたからです。夜おそく、キティが聴かせてくれました。さいしょ、心が透明になって、それからあったかくなって、さいごはいっぱいになりました。
 きょうは、とてもいい日でした。それは、きょうが、とてもいい日だったからです。
 あしたも、きっといい日です。


先頭 表紙

菜の花…綺麗ですねぇ… / みた・そうや ( 2004-01-25 19:33 )
こすもすさんは、とても心のやさしい人だと思います。ポロも日記をほん訳しながら「ロケット号はいいヤツだなあ」って思いました。 / ポロ ( 2004-01-23 19:16 )
ロケット号の日記を読んだだけでも胸がいっぱいになったのに、さらに満開の菜の花を見て、思わず目に涙が・・・。ポロさん、どうもありがとう。 / こすもす ( 2004-01-23 15:46 )

2004-01-24 クランベリーヒルだより第3話 留守のできごと その1

ぴゅーわぴゅーわぴゅーわぴゅーわぴゅーわぴゅーわぴゅーわ!

 ある日の夜、猿雅荘じゅうに異常事態を知らせる警報が鳴り響きました。火災警報です。運悪く家族全員が出かけて、キティたちが留守番をしていました。
 家の中の異常を監視しているのは、エアコンのAC920のメインコンピュータです。AC920は、各部屋にある全ての端末に1階の平面図を表示し、キッチンを赤く点滅させました。猫型作曲支援ロボットのキティがもうもうと煙るキッチンに到着すると、もう掃除機のビッグジョンとリトルジョンがオーブンの前にいました。黒く焦げたオーブンは、炭酸ガス消火器の洗礼を受けた後のようで、火は消えていました。AC920がプラスチックが焦げたような黒い煙を急速に排気していき、煙が薄くなると警報音も止まりました。
 よく見るとオーブンのドアに何か松ヤニのようなものが挟まっていました。キティがドアを開けると、松ヤニが何か言いました。

「ぴゆぴゆ」

 松ヤニは溶けたロケット号でした。こんな目にあっても元気にぴんぴんしているようでした。もともとただのお風呂用スポンジですから、焦げようが溶けようが平気なのかも知れません。でも、ひとつ困ったことがあります。この家にはお風呂用スポンジはロケット号ひとつしかないのです。松ヤニのロケット号では身体を洗えません。
 キティは家族の誰かに指示を仰ぎたいと思いましたが、留守番中は自分に最高裁量権が与えられていることを思いだしました。キティは胸のディスプレイでロケット号に話しかけました。

キティ表示「ロケット号。命ヲ クレタ 魔法使イ まーりん ノ イエ ヲ 覚エテイル?」

ロケット号「ぴゆぴゆ」
キティ翻訳「うん」

キティ表示「今カラ ソコヘ 行ク。 案内シテ」
ロケット号「ぴゆぴゆ」

 キティは、ビッグジョンや冷蔵庫のトビーに後のことを頼むと、スライムそっくりになったロケット号をおなかのポケットに入れて、暗く雪深い外に出ました。

 しゅらしゅらきゅらきゅらしゅらしゅらきゅらきゅら

 キティのキャタピラー音が静かなタバコの野原に響きます。真っ暗やみでしたが、キティのドップラーレーダーは怪しいモノたちを見逃しませんでした。前方20メートルに本物のスライム型モンスターが3体、こちらを凝視しています。
彼らは魔法を使って攻撃してくることがあります。キティはサンプリング周波数を最高品位に上げました。

スライムA「∞ゞ∴£〓!」

 思ったとおり、スライムは魔法呪文攻撃をしかけてきました。キティはすぐにサンプリングしたデータを指向性スピーカを使って、スライムたち目がけてオウム返ししました。

キティ「∞ゞ∴£〓!」

 スライムたちは、びっくりして気を失ってしまったようでした。キティはホッとしてまた、雪野原を進み始めました。

 しゅらしゅらきゅらきゅらしゅらしゅらきゅらきゅら

 3本辻に来ました。どちらへ行けばいいのかロケット号に聞こうとすると、なんとロケット号も先ほどの呪文で気絶していました。



つづく

先頭 表紙

2004-01-23 クランベリーヒルだより第3話 留守のできごと その2

キティ表示「!」

 キティは、オンディー沼のお姉さんを頼ることにしました。オンディー沼は、この先まっすぐです。人間たちの間では、クランベリーヒルに出没するモンスターたちのうわさについて誰もが面白半分にしか考えていませんでした。誰も出会ったことがないからです。それは大海原をエンジン付きの立派な船で航海すれば、海の生物に出会う確率が低くなるのと一緒です。ヘイエルダール博士のようにイカダで漂流すれば未知の生き物にだって出会う確率が高くなるというものです。クランベリーヒルにはクルマで移動する人間の大人たちには知られることのないもうひとつの世界が広がっているのです。
 オンディー沼に着くと、キティは雪の中から小石をひとつ探しだして、沼に投げ入れました。

「だあれ?」

 沼の中央に、いつもよりももっと薄着のお姉さんが面倒くさそうに現れました。

キティ「ダアレ?」

 ついついサンプリングして再生しています。

キティ表示「まーりん ノ 家ヲ 探シテイマス」

 オンディーヌは、いやそうな顔をしながらもキティのすぐそばの雪の上に魔法で地図を描いてくれました。

オンディーヌ「それで分かるでしょ」
キティ「ソレデ分カルデショ」
キティ表示「分カリマス。アリガトウゴザイマシタ」

 キティは地図を撮影してメモリに収めると、最短距離で魔法使いマーリンの家を目指しました。
 それからもモンスターたちに出会いましたが、キティは彼らの使う呪文データを獲得しながら白樺もどきの林を進んでいきました。
 すると、またモンスターがいました。未確認の初めて出会うタイプです。呪文ではなく、何かの物理攻撃を仕掛けてきました。キティのイリジウム・チタン合金の外殻が一部白熱しています。過去に集めた全ての呪文を再生してみましたが効果はありませんでした。それで、キティは松戸博士が趣味で装備してくれた対コンピュータ攻撃デバイスであるCDSを作動させました。
 モンスターは沈黙しました。相手はメカ・モンスターだったのです。

 そうこうしているうちに、ようやく魔法使いの家にたどり着きました。ノックすると、小さなのぞき窓をあけて魔法使いのマーリンが言いました。
「いまごろ誰じゃ?」
「イマゴロ誰ジャ?」
「何の用じゃ?」
「何ノ用ジャ?」
「ふざけるんじゃない!」
「フザケルンジャナイ!」
 マーリンは怪しげな猫のモンスターに怒ってのぞき窓をぴしゃっと閉めてしまいました。胸のディスプレイにはキティのメッセージが表示されていましたが、のぞき窓からは見ることができないのでした。キティはじっくりと20ミリ秒ほど考えて、最適な作戦を実行しました。

 バリバリガッシャーン!

 ドアを強行突破すると、薄暗い室内でディスプレイの輝度を上げ、メッセージを指さしました。

キティ表示「失礼ヲ オ許シクダサイ。オ願イガアッテ 来マシタ」
マーリン「くせ者! 乱暴は許さんぞ!」
キティ「クセ者! 乱暴ハ許サンゾ!」

 マーリンが呪文を唱えようとしたので、キティは表示を古代神聖文字であるヒエログリフに変えてみました。

マーリン「ほう、ヒエロフリフを使えるのか。怪しいものではなさそうだな」
キティ「ホウ、ひえろぐりふ ヲ 使エルノカ。怪シイ モノデハ ナサソウダナ」
マーリン「いちいちうるさい奴だ」
キティ「イチイチ ウルサイ 奴ダ」
キティ表示「私ハ 作曲支援さんぷりんぐましん ノ きてぃト言イマス」

つづく

先頭 表紙

イリジウム・チタン合金!?作曲支援サンプリングマシンにしておくのは勿体ない!(笑) / みた・そうや ( 2004-01-22 18:18 )

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