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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2004-01-24 クランベリーヒルだより第3話 留守のできごと その1
2004-01-23 クランベリーヒルだより第3話 留守のできごと その2
2004-01-22 クランベリーヒルだより第3話 留守のできごと その3
2004-01-21 クランベリーヒルの最新画像
2004-01-20 クランベリーヒルだより第2話 ロケットの夏 その1
2004-01-19 クランベリーヒルだより第2話 ロケットの夏 その2
2004-01-18 クランベリーヒルだより第2話 ロケットの夏 その3
2004-01-17 クランベリーヒルだより第2話 ロケットの夏 その4
2004-01-16 クランベリーヒル便り第1話 冬の始まり その1
2004-01-15 クランベリーヒル便り第1話 冬の始まり その2


2004-01-24 クランベリーヒルだより第3話 留守のできごと その1

ぴゅーわぴゅーわぴゅーわぴゅーわぴゅーわぴゅーわぴゅーわ!

 ある日の夜、猿雅荘じゅうに異常事態を知らせる警報が鳴り響きました。火災警報です。運悪く家族全員が出かけて、キティたちが留守番をしていました。
 家の中の異常を監視しているのは、エアコンのAC920のメインコンピュータです。AC920は、各部屋にある全ての端末に1階の平面図を表示し、キッチンを赤く点滅させました。猫型作曲支援ロボットのキティがもうもうと煙るキッチンに到着すると、もう掃除機のビッグジョンとリトルジョンがオーブンの前にいました。黒く焦げたオーブンは、炭酸ガス消火器の洗礼を受けた後のようで、火は消えていました。AC920がプラスチックが焦げたような黒い煙を急速に排気していき、煙が薄くなると警報音も止まりました。
 よく見るとオーブンのドアに何か松ヤニのようなものが挟まっていました。キティがドアを開けると、松ヤニが何か言いました。

「ぴゆぴゆ」

 松ヤニは溶けたロケット号でした。こんな目にあっても元気にぴんぴんしているようでした。もともとただのお風呂用スポンジですから、焦げようが溶けようが平気なのかも知れません。でも、ひとつ困ったことがあります。この家にはお風呂用スポンジはロケット号ひとつしかないのです。松ヤニのロケット号では身体を洗えません。
 キティは家族の誰かに指示を仰ぎたいと思いましたが、留守番中は自分に最高裁量権が与えられていることを思いだしました。キティは胸のディスプレイでロケット号に話しかけました。

キティ表示「ロケット号。命ヲ クレタ 魔法使イ まーりん ノ イエ ヲ 覚エテイル?」

ロケット号「ぴゆぴゆ」
キティ翻訳「うん」

キティ表示「今カラ ソコヘ 行ク。 案内シテ」
ロケット号「ぴゆぴゆ」

 キティは、ビッグジョンや冷蔵庫のトビーに後のことを頼むと、スライムそっくりになったロケット号をおなかのポケットに入れて、暗く雪深い外に出ました。

 しゅらしゅらきゅらきゅらしゅらしゅらきゅらきゅら

 キティのキャタピラー音が静かなタバコの野原に響きます。真っ暗やみでしたが、キティのドップラーレーダーは怪しいモノたちを見逃しませんでした。前方20メートルに本物のスライム型モンスターが3体、こちらを凝視しています。
彼らは魔法を使って攻撃してくることがあります。キティはサンプリング周波数を最高品位に上げました。

スライムA「∞ゞ∴£〓!」

 思ったとおり、スライムは魔法呪文攻撃をしかけてきました。キティはすぐにサンプリングしたデータを指向性スピーカを使って、スライムたち目がけてオウム返ししました。

キティ「∞ゞ∴£〓!」

 スライムたちは、びっくりして気を失ってしまったようでした。キティはホッとしてまた、雪野原を進み始めました。

 しゅらしゅらきゅらきゅらしゅらしゅらきゅらきゅら

 3本辻に来ました。どちらへ行けばいいのかロケット号に聞こうとすると、なんとロケット号も先ほどの呪文で気絶していました。



つづく

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2004-01-23 クランベリーヒルだより第3話 留守のできごと その2

キティ表示「!」

 キティは、オンディー沼のお姉さんを頼ることにしました。オンディー沼は、この先まっすぐです。人間たちの間では、クランベリーヒルに出没するモンスターたちのうわさについて誰もが面白半分にしか考えていませんでした。誰も出会ったことがないからです。それは大海原をエンジン付きの立派な船で航海すれば、海の生物に出会う確率が低くなるのと一緒です。ヘイエルダール博士のようにイカダで漂流すれば未知の生き物にだって出会う確率が高くなるというものです。クランベリーヒルにはクルマで移動する人間の大人たちには知られることのないもうひとつの世界が広がっているのです。
 オンディー沼に着くと、キティは雪の中から小石をひとつ探しだして、沼に投げ入れました。

「だあれ?」

 沼の中央に、いつもよりももっと薄着のお姉さんが面倒くさそうに現れました。

キティ「ダアレ?」

 ついついサンプリングして再生しています。

キティ表示「まーりん ノ 家ヲ 探シテイマス」

 オンディーヌは、いやそうな顔をしながらもキティのすぐそばの雪の上に魔法で地図を描いてくれました。

オンディーヌ「それで分かるでしょ」
キティ「ソレデ分カルデショ」
キティ表示「分カリマス。アリガトウゴザイマシタ」

 キティは地図を撮影してメモリに収めると、最短距離で魔法使いマーリンの家を目指しました。
 それからもモンスターたちに出会いましたが、キティは彼らの使う呪文データを獲得しながら白樺もどきの林を進んでいきました。
 すると、またモンスターがいました。未確認の初めて出会うタイプです。呪文ではなく、何かの物理攻撃を仕掛けてきました。キティのイリジウム・チタン合金の外殻が一部白熱しています。過去に集めた全ての呪文を再生してみましたが効果はありませんでした。それで、キティは松戸博士が趣味で装備してくれた対コンピュータ攻撃デバイスであるCDSを作動させました。
 モンスターは沈黙しました。相手はメカ・モンスターだったのです。

 そうこうしているうちに、ようやく魔法使いの家にたどり着きました。ノックすると、小さなのぞき窓をあけて魔法使いのマーリンが言いました。
「いまごろ誰じゃ?」
「イマゴロ誰ジャ?」
「何の用じゃ?」
「何ノ用ジャ?」
「ふざけるんじゃない!」
「フザケルンジャナイ!」
 マーリンは怪しげな猫のモンスターに怒ってのぞき窓をぴしゃっと閉めてしまいました。胸のディスプレイにはキティのメッセージが表示されていましたが、のぞき窓からは見ることができないのでした。キティはじっくりと20ミリ秒ほど考えて、最適な作戦を実行しました。

 バリバリガッシャーン!

 ドアを強行突破すると、薄暗い室内でディスプレイの輝度を上げ、メッセージを指さしました。

キティ表示「失礼ヲ オ許シクダサイ。オ願イガアッテ 来マシタ」
マーリン「くせ者! 乱暴は許さんぞ!」
キティ「クセ者! 乱暴ハ許サンゾ!」

 マーリンが呪文を唱えようとしたので、キティは表示を古代神聖文字であるヒエログリフに変えてみました。

マーリン「ほう、ヒエロフリフを使えるのか。怪しいものではなさそうだな」
キティ「ホウ、ひえろぐりふ ヲ 使エルノカ。怪シイ モノデハ ナサソウダナ」
マーリン「いちいちうるさい奴だ」
キティ「イチイチ ウルサイ 奴ダ」
キティ表示「私ハ 作曲支援さんぷりんぐましん ノ きてぃト言イマス」

つづく

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イリジウム・チタン合金!?作曲支援サンプリングマシンにしておくのは勿体ない!(笑) / みた・そうや ( 2004-01-22 18:18 )

2004-01-22 クランベリーヒルだより第3話 留守のできごと その3

 マーリンが何か言うと、壊れていたドアが音もなく直りました。

キティ表示「コレモ直シテ イタダキタイ ノデス」

 キティは、気絶したままのロケット号を差し出しました。
マーリンが何か言うと、ロケット号は新品のスポンジに戻り、目を覚ましました。

ロケット号「ぴゆぴゆ!」
マーリン「おう、いつかのアヒルスポンジではないか」

 キティは、例によってその場の会話を全てサンプリングしては再生していましたが、胸のディスプレイには、マーリンへの感謝の言葉が綴られていました。

 ていねいにお礼を述べて、キティとロケット号はマーリンの家を後にしました。急げば家族の帰宅に間に合うかも知れません。ロケット号の念力(PK)がキティのキャタピラーを加速しました。
 猿雅荘に着くと、キティとロケット号はすぐにキッチンへ向かいました。ジョンたちによってオーブンはきれいに掃除され、火災があったことなど全くわからないほどでした。キティの言いつけどおり冷蔵庫のトビーが猿雅荘日記に警備ログを書き終えていましたが、家族の誰かがログを読まないかぎり何があったのかは誰も知ることがないかも知れません。

 玄関のチャイムが鳴って、最初に子どもたちが、つづいて奥さんとせんせいがリビングに入ってきました。

ぴ「どけっと号、たらいま!」
キティ「ドケット号、タライマ!」
奥「キティ、留守番ごくろうさま。何か変わったことあった?」
キティ「きてぃ、留守番ゴクロウサマ。何か変ワッタコトアッタ?」
キティ表示「火災発生スルモ鎮火。詳細ハ警備ろぐヲ参照シテクダサイ」

 キティは、ディスプレイの輝度を最高に挙げて注意を喚起しましたが、奥さんは気づかずに行ってしまいました。

奥「あんたたち、さっさとお風呂に入ってもう寝なさい!
ぴ「はーい!」
風「行くぞ、ロケット!」

 ぶうよんはロケット号をつかむと、バスルームへ走って行きました。バスルームからは泡だらけのロケット号に身体を洗ってもらう子どもたちの歓声が聞こえてきました。

 夜遅いキッチンの端末モニタの前。キティ、ロケット号、ジョン3兄弟、そして少し離れて冷蔵庫のトビーがモニタに見入っていました。キティが光カプラで端末にログインすると映像が現れました。行く手に立ちふさがるモンスターたち。とくにみんながかたずを呑んで見入ったのはメカ・モンスターでした。キティのCDS攻撃で相手が沈黙すると、みんなホッとした様子でした。やがて現れるマーリンの家。そしてロケット号の回復。映像が終わるとそれぞれ所定の位置に戻り、本当の深夜がやって来ました。
 起動しているのは家中の安全を常時監視しているエアコンのAC-920と冷蔵庫のトビーだけになりました。ちょうどその頃、AC-920の光学天候モニタには、ちょうど猿雅荘の真上を通過しようとしている、まだ星団カタログに登録されていない美しい散開星団が光を落としているのでした。

おしまい

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2004-01-21 クランベリーヒルの最新画像

これは、おちゃめさんが送ってくれたクランベリーヒルの写真です。向こうもちょうど冬だったということです。ポロも行きたかったなあ。

ポロ!
おちゃめは、松戸博士のりんご丸でクランベリーヒルに行ってきました。たった6時間の滞在でしたが、猿雅荘が本当にあったのでびっくりしました。オンディー沼も見てきました。三河屋さんが着陸したタバコの野原は一面の雪で、その景色はカレンダーの写真を見ているようでした。添付した写真は、オンディー沼のちかくの樹氷です。マイクロソフトのアイスクリームも食べてきました。

おちゃめ


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抜けるような青空が綺麗・・・真下からのアングル、う〜ん、さすがはおちゃめさん・・・ / みた・そうや ( 2004-01-22 18:16 )
すごい!すごい!!見入っちゃう! / 甘夏 ( 2004-01-21 12:42 )
すてき!溜息が出ちゃいます。 / こすもす ( 2004-01-21 11:45 )

2004-01-20 クランベリーヒルだより第2話 ロケットの夏 その1

 クリスマスも過ぎたある朝、突風のような風が雪野原に吹きわたりました。真っ白だったクランベリーヒルの丘の緩やかな斜面に、みるみるタバコ畑が現れ、白く雪化粧した常緑樹たちは緑色をとり戻して行きました。雪は溶けてせせらぎとなって流れ、まるで夏のように暖かい季節がやってきたかのようでした。せっかく作ったかまくらの“ニョロニョロ荘”もとけて流れてしまいました。地面のアネロイド気圧計だけが、その痕跡をとどめていました。
 ブラッドベリ・エアリサーチ製の強力なエンジンは、そのうるさいことを除けば、大きなデリバリーシップを一面のタバコの草原に激突させることなく、そっと横たえました。

「ちわーす! 三河屋で〜っす! ご注文の品をお届けにあがりやした〜」

 三河屋さんを出迎えたのはアヒル型スポンジのロケット号でした。
「ぴゆぴゆ!」
「あ、ロケットの兄さん、ご注文の品が揃いました。でもですねえ、丹波の黒豆が手に入らなくて、代わりに白鳥座61番星の第4惑星産なんですよ〜、これで勘弁してください。それから、チョロギもカウスアウストラリス産の別の植物の根っこなんですけどね、その星の別の木の実で赤く染めるとそっくりなんで、この近くでは皆さん、これをお使いです。数の子も北海道産ということだったんですけど、なかなか地球のは手に入りにくくて、牡牛座のサカナがおいしくて有名な星ので、ま、ニシンじゃないんですけど、ホント、そっくりなんですよ。地球だって、シシャモなんて言っておきながらシシャモ売ってないんですから、そんなようなもんです」
「ぴゆぴゆ!」
「あ、はいはい、能書きはいいっすね。じゃ、この冷凍パックとチルドパックに全部入ってますから、もし、不都合がありましたらアンシブルでご連絡ください。ありゃーたした!」

 ごわー! どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど〜!

 地響きとともに突風が、再び猿雅荘と近所の雑木林を襲いました。三河屋のデリバリーシップのノストロモ号は雪をとかし、枯れたタバコの野原を焦がしながら空高く消えていきました。

風「うわー、たまんないなあ。そこらじゅうタバコの煙でいっぱいだよ」
ぴ「たばこくさいよ〜」
海「ニョロニョロ荘もとけちゃったよ!」
風「また作ればいいよ」
雪遊びに出ていた子どもたちが外から帰ってきました。
ロ「ぴゆぴゆ!」
海「あ、おせちの材料が届いたんだね」
ロ「ぴゆぴゆ!」

 ロケット号は、念じるだけで物を動かすことができます。食材が入った配達用保冷パックが、ふわふわと浮かんでロケット号の後からお行儀よくついていきました。

つづく

先頭 表紙

2004-01-19 クランベリーヒルだより第2話 ロケットの夏 その2

 その数日前のことでした。深夜、家族が寝静まると、ロケット号はキティや仲良しのジョン3兄弟や冷蔵庫のトビーと一緒に、アンシブル・ネットワークの端末の前に集まって、公共図書館からお節料理のレシピを取り寄せては勉強会を開いていたのでした。たくさんあるお節料理の本の中からロケット号が選んだのは「伝統のおせち」という格式高そうなレシピ集でした。
 正式なお節料理の基本はお重です。4段重ねが正式でした。さっそく食器庫をさがすと、3段重ねのお重が見つかりました。正式なおせち料理には、どうしても4段目が必要です。すぐにジョン3兄弟の長男であるビッグジョンが、倉庫から草加せんべいの四角いブリキ缶を持ってきました。漆塗りのお重を重ねると、なんとぴったりでした。
「ぴゆぴゆ」
「がーがー」
「ぴゆぴゆ」
「がーがー」
 話し合いの結果、明日、ジョン3兄弟がドワーフの森に出かけて「漆もどき」の木から黒い樹液を集めてくることになりました。

“伝統のおせち”には、いろいろな料理が出てきます。
 壱の重。
 梅花羹、田作り、伊達巻、栗きんとん、黒豆、紅白かまぼこ、初梅、数の子、春霞。
 弐の重は焼きものです。
 サワラの西京焼き、はじかみ、菊花蕪、伊勢エビ、ブリの照焼き、松葉銀杏、鯛の黄金焼き、松笠烏賊。
 参の重は煮ものです。
 松竹さや、タケノコの含め煮、松笠とこぶし、鶴の子芋、手毬麩、エビの炒り煮、梅花人参、昆布巻き、亀甲椎茸、芽クワイの含め煮。
 与の重は酢のものです。
 蓮根の奉書巻き、鯖生鮨、紅白なます、わかさぎの南蛮漬け、菊花タコ、錦紙巻き。

 レシピといっしょに添えられた料理の写真は、とても美しくファンタスティックでした。ロケット号もキティも見たことのない食材や料理に、夜が更けるのも忘れて見入ってしまうのでした。

 翌日、自走式掃除機のビッグジョンがウルシもどきの木から、真っ黒な樹液を集めて来ました。夜になるとジョン3兄弟が集まって、草加せんべいのブリキ缶を塗りました。塗っては乾かし、塗っては乾かし、とうとうブリキ缶は漆器のように美しい艶の黒い器になりました。
「がーがー」
「がーがー」
「がーがー」
 兄弟3台がそろって、同じ感想を漏らしました。

 翌朝、ジョン3兄弟はロケット号にブリキ缶のお重を見せました。
「ぴゆぴゆ?」
 ロケット号は、何か変だと言いました。リトルジョンが気づきました。金の蒔絵が足りないのでした。すぐに本物のお重と比べてみると、そこには確かに金の扇の蒔絵があります。蒔絵の技法など誰も知らないので、キティが呼ばれました。キティは、すぐにお重の蒔絵をスキャンすると、立体プリンタでブリキ缶にプリントしました。
ロケット号「ぴゆぴゆ!」
リトルジョン「がーがー!」
(キティ翻訳)「すごいできばえ!」
 あとは、食材を注文して料理を作るばかりです。その夜、アンシブル・ネットを通じて三河屋デリバリーサービスに食材が発注されたのでした。

つづく

先頭 表紙

さすがミタさん、蘊蓄大まおう! ポロは何にも知らないので、実はテキトーに書いてます。ゴメなさい。 / ポロ ( 2004-01-18 22:07 )
おせち料理、元々年6回の節分に神前に供えた物で、庶民がお重を食べるようになったのは江戸時代からだそうですね。 / みた・そうや ( 2004-01-17 20:57 )

2004-01-18 クランベリーヒルだより第2話 ロケットの夏 その3

 食材が届いたのは12月29日でした。ロケット号が組んだ調理スケジュールが、キッチンの壁に貼りだされました。調理時間のかかるもの、保存のきくものから順に調理が始まります。昼から降り始めた雪が、ロケットの夏を消し去るまでに時間はかかりませんでした。夕方になると、子どもたちが第2ニョロニョロ荘の建設にとりかかったのが窓の外に見えました。
 夕方になると、ロケット号はおせち料理にばかりかまってはいられなくなります。今日の夕食は温かい料理が中心です。今日は子牛のすね肉を柔らかく煮込んだオッソブーコをメインに、お得意の焼き立てグルジアパンとオゼイユのドレッシングで食べるサラダです。きょうの炊事当番は次男坊のみいやん(海)でしたが、第2ニョロニョロ荘の再建に夢中になっていてすっかり忘れていました。
 ロケット号の館内放送が響きわたりました。
「ぴゆぴゆ!」
 雪だらけになった子どもたちが家の中になだれ込んできます。せんせいや奥さんもダイニングに集合します。みいやんは、当番だったことを思いだしてロケット号に平あやまりして、食器や料理を運びました。
と「さあ、みんな食べよう」
みんな「いただきまーす!」
風「わ、おいしいよロケット号!」
ロ「ぴゆぴゆ!」
と「いや、実にうまいぞ」
ロ「ぴゆぴゆ!」
 ロケット号は胸をはって得意げでした。
か「キティ、メールは来てない?」
キティ「きてぃ、めーるハ キテナイ?」
 キティは作曲支援サンプリングマシンなので、自分に向かって発せられた音や言葉は何でも録音して再生してしまいます。キティの言葉は、胸のディスプレイを読むしかありません。
キティ表示「アンシブル・ネットにログインします」
 ダイニングの大型ディスプレイに着信メールが表示されました。
風「あ、三河屋さんからだ!」
か「開いてみて」
キティ表示「ラジャー」

 拝啓 野村ロケット号様
 先日配達いたしました品物に配達もれがありましたので、再度お届けいたします。
 配達内容 ユリ根(地球産)
 三河屋デリバリーサービス配送本部


風「すごい、地球産のユリ根だって!」
か「のっぺ用ね。必要だわ」
 すると、いきなり例の突風が吹き始めました。轟音と光が周囲に満ち、三河屋のノストロモ号は、すでに着陸態勢に入っていました。
海「あ、第2ニョロニョロ荘が!」
 ぴーちゃんは、すぐに窓際に走っていきました。500メートルほど先のタバコの野原にノストロモ号は今、まさに着陸しようとしていました。広い範囲にわたって雪は溶け、また、このあたり一帯にいっときの夏が訪れました。
ぴ「あ〜あ、またニョロニョロ荘が半分なくなっちゃった」

つづく

先頭 表紙

2004-01-17 クランベリーヒルだより第2話 ロケットの夏 その4

「ちわーす! 三河屋で〜っす! ご注文の品をお届けにあがりやした〜」
「ぴゆぴゆ!ぴゆぴゆ!」
 玄関先でロケット号が三河屋の是輔(これすけ)さんに何やら文句を言ってるようでした。
「いやあ、ロケットの兄さん、そんなに喜んでもらえると2度も来た甲斐があるってもんです」
「ぴゆぴゆ!ぴゆぴゆ!」
「いやあ、そんなにお礼言われちゃうと照れちゃうなあ。じゃあ、また。ありゃーたーした」
「ぴ、ぴゆぴゆ、ぴゆぴゆ!」
 2度もかまくらを溶かされてしまったことへ対する抗議は全く通じないまま、三河屋の是輔さんは、さっさと帰ってしまいました。

 ごわー! どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど〜!

風「また作るからいいよ、ロケット号」
ロ「ぴゆ〜」
耳をつんざく轟音と強烈な光を残して、全長70メートルを超えるノストロモ号は夜空へと吸い込まれて行きました。猿雅荘の周囲の気温は30度を超え、松戸博士の設計した自動空調システムが冷房モードに運転を切り替えました。テーブルの上で湯気を立てている料理が、一瞬にして季節はずれになりました。
と「ビシ・ソワーズがお似合いかな」
 せんせいは、冷たいスープの名前を言いました。
 とてもよく気の利くロケット号が冷たいクランベリーのジュースを全員分用意しました。
風「こういうのって、けっこう好きだな」
海「みいやんも!」
と「たしかに、日常ではない感じだな」
ぴ「あめがふってるよ」
と「そうか。またそのうち雪に戻るよ」
 キティがヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「冬」の第2楽章を流し始めました。それは雨の降る冬の夜、暖かく平和な室内を描写した音楽なのでした。
 食事が終わると、当番のみいやんとロケット号はキッチンで仲良く食器洗いを始めました。リビングわきの格納庫には、ヴィヴァルディの音楽にうっとりと聴き入る掃除機のジョン3兄弟がいました。
 それからほどなく、雨は雪に変わりました。

おしまい

先頭 表紙

shinさん、読んでくれてアリガトございます。ポロもクランベリーヒルに住んでみたいと思います。松戸博士のところに居候させてくれないものでしょか。それから、ロケット号の言葉はキティがほんやくしてくれます。でも、たしかにロケリンガルがあると便利かも。 / ポロ ( 2004-01-21 10:01 )
まだ地球に居て小さかった頃、1度だけ母方の実家で小さなカマクラを作ったことがあります。凧揚げや羽根突きもやったりして、最も正月らしい正月を過ごせた時期でした。今はもう、御節料理も作りません。自分もクランベリーヒルで暮らしたいです〜 う〜ん、ロケット号は松戸博士にロケリンガルを作ってもらうと便利な気がするけど、でも、やっぱり無いほうがロケット号っぽいかな・・・ / shin ( 2004-01-19 00:59 )

2004-01-16 クランベリーヒル便り第1話 冬の始まり その1

 せんせいのおうちのカップボードには、アヒル型スポンジのロケット号が住んでいます。これは、ロケット号からポロが直接聞いた驚きに満ちた物語をまとめたものです。ロケット号が語ってくれたお話は、どれもみんな、どうしてポロがここにいなかったんだろうと思うものばかりでした。説明が足りなくて分かりにくいところもあると思いますが、いくつかのお話を読み進むうちにきっと分かってもらえることでしょう。


クランベリーヒル便り 第1話 冬の始まり その1

 クランベリーヒルにも冬がやって来ました。森から抜けてすぐの見晴らしのよい猿雅荘(せんせいのおうちの名前です)のまわりににも雪がチラつきはじめました。夕方になると、3人の子どもたちは家に入って、リビングの大窓から遠くに見えるタバコ畑がだんだん白く染まっていくのを飽きずに眺めていました。
海「オンディー沼にも降ってるのかなあ」
風「あたり前じゃないか」
海「でも沼には積もらないよねえ」
風「いっぱい降れば積もるよ」
ぴ「あした、みにいこ!」
風「ダメだよ。雪の中じゃ危ないよ」
その時、キッチンからロケット号の呼ぶ声がしました。
ロ「ぴゆぴゆ」
ぴ「あ、ぴーちゃん当番だった!」
 一番小さなぴーちゃんがキッチンへ走っていきました。そうしている間にも、雪はどんどん降り積もりました。食事を終えて、みんながリビングで思い思いに本を読んだり、漢字の練習をしたりしている間にも雪は静かに静かに周りの景色を変えていったのでした。

 次の朝は、前の日の天気がウソのように晴れ上がりました。真っ白に積もった雪に日の光が反射してキラキラ光っています。
 朝食を終えると、とむりんせんせいは一人張り切っていました。
と「さあ、みんな外へ出てこい! スノーボートを出すぞ」
 子どもたちは、みんなソリ遊びが大好きでした。料理用のバットを大きくしただけのようなプラスチック製のソリは、それぞれ名前がつけられていました。一番小さなぴーちゃんの赤いソリは“ケプラー1号”、ぶうよんとみいやんのソリは、それぞれ“ガリレオ1号”“ガリレオ2号”と名づけられて、太いフェルトペンで名前が大きく書かれていました。

つづく

先頭 表紙

2004-01-15 クランベリーヒル便り第1話 冬の始まり その2

ぴ「どけっと号、はやく、はやく!」
 ぴーちゃんは、スポンジのアヒルのロケット号の力でソリを走らせることにしました。
ロ「ぴゆぴゆ!」
 ロケット号が念じると、ケプラー1号は雪を蹴散らして走り始めました。
ケプラー1号「しゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅ!」
 ぶうよんも負けじと猫型ロボットのキティを呼びました。
風「キティ、ガリレオ1号を引っ張ってぴーたろうを追うんだ」
キティ「きてぃ、がりれお1ゴウヲ ヒッパッテ ピータロウヲ オウンダ」
 キティの胸のディスプレイには「ラジャー」の文字がありました。
 キティのキャタピラーが雪をかみ、ガリレオ1号も走り始めました。
ガリレオ1号「シャラシャラキュラキュラ」
海「ふたりともずるいよずるいよ。とむりん、なんとかしてよ」
 みいやんは、ロケット号もキティもとられてしまって泣きべそをかきそうでした。
と「あっはっは、先を越されたな。よし、待っていろ」
 そう言うと、とむりんせんせいは猿雅荘の第4格納庫から背中に背負うエンジン式扇風機を持ってきました。松戸博士が作ったスキーの補助動力装置です。せんせいは、それを背中に背負ってハーネスで身体に固定すると、みいやんを膝の間にかかえて小さなガリレオ2号に無理やり座りました。
と「さあ行くぞ、しっかりとつかまってろよ!」
 せんせいはエンジンのスタータのヒモを思いっきり引きました。
ガリレオ2号「どばばばばばばばばばばばばばば!!」
 ガリレオ2号は、耳をつんざく爆音とともに猛烈にダッシュしました。
海「わあ、とむりん、すごい音だね!」
と「マフラーが壊れているらしい。こりゃうるさくてたまらん! あとで松戸博士に修理してもらおう」
ガリレオ2号「ずばばばばばばばばばばばばばば!!」

 やがて先を行くガリレオ1号が視界に入ってきました。
ガリレオ1号「シャラシャラキュラキュラシャラシャラキュラキュラ」
 爆音に驚いたぶうよんが振り返りました。キティがしっぽのところのフックにロープをかけてスノーボートを牽引しています。犬ぞりならぬ猫ぞりです。
ガリレオ2号「だばばばばばばばばばばばばばば!!」
 あっと言う間に、ガリレオ2号は1号を追い抜いてしまいました。追い抜きざまに、ぶうよんが何かを言ったようでしたが、せんせいにもみいやんにも爆音のすさまじさに何も聞こえませんでした。
 オンディー沼の近くで、とうとうぴーちゃんとロケット号の乗ったケプラー1号をとらえました。
ケプラー1号「しゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅ!」
ガリレオ2号「ざばばばばばばばばばばばばばば!!」
海「やったー! とむりん、これで1番だね」
ガリレオ2号「ごばばばば、ごばっ、ごばばば、ごばっ、ごばっ!」
海「あれ、なんだか変だよ」
と「燃料切れかも知れないな」
ガリレオ2号「ぞば、ぞぞば、ぷすぷす、ぞば、ぞぞば、ぷすぷす」
ケプラー1号「しゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅ!」
ぴ「ばいばーい!」
海「あ、ぴーちゃんに抜かれちゃったよ、とむりん!」
と「ああ、残念だけど、もうすぐ燃料がなくなる」
ガリレオ2号「ぶば、ぷす、ぶばぶば、ぷす、ぷす!」
ガリレオ1号「シャラシャラキュラキュラ」
風「おさき〜!」
海「わ、ぶうよんにも抜かれた!」
ガリレオ2号「ぷすん」
と「止まったな」
 結局、せんせいがボートを降りて歩いてひき始めました。積もったばかりの新雪は柔らかく、せんせいは足をとられて何回もころんでしまいました。そのたびに、みいやんの楽しそうな笑い声が響きました。

つづく

先頭 表紙


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