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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

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2007-01-31 ポロの日記 2007年1月31日(波曜日)ポロ、珍念さんに入門する その1
2007-01-31 ポロの日記 2007年1月31日(波曜日)ポロ、珍念さんに入門する その2
2007-01-31 ポロの日記 2007年1月31日(波曜日)ポロ、珍念さんに入門する その3
2007-01-31 ポロの日記 2007年1月31日(波曜日)ポロ、珍念さんに入門する その4
2007-01-28 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第9回 銀婚式のプレゼント A
2007-01-28 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第9回 銀婚式のプレゼント Β
2007-01-28 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第9回 銀婚式のプレゼント Γ
2007-01-28 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第9回 銀婚式のプレゼント Δ
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2007-01-28 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第9回 銀婚式のプレゼント Z


2007-01-31 ポロの日記 2007年1月31日(波曜日)ポロ、珍念さんに入門する その1

 ポロ、珍念さんに入門する その1

 せんせいに弟子入りしてたった1年もたってないけど、珍念さんは何だかスゴそうだと感じていました。そして、ついにポロはおとうと弟子の珍念さんに弟子入りすることにしました。どうしてかっていうと、珍念さんを見ていたら、何かを学ぶというのは時間をかければよいというものではないことが分かったからです。本当に大事なことが何かを見抜く力があれば、真実にたどりつくのはあっという間かも。珍念さんは、そんな力の持ち主に思えたからでした。

ポロ「珍念さん」
珍念「これはポロ兄さま、どのようなご用でございましょうか」
ポ「今日からポロ、珍念さんに弟子入りしちゃうから」
珍「兄弟子さまに、そのように仰(おっしゃ)られても拙僧は戸惑うばかりでございます」
ポ「じゃ、勝手に弟子入りするからいいよ」
珍「勝手とおっしゃいましても・・・」
ポ「迷惑はかけないからさ」
珍「ではどうぞ、お好きなようになさってください。しかし、拙僧、まだまだ弟子などとれるほど悟ってはおりませぬ」
ポ「いいよ、ポロ勝手についてまわって勉強しちゃうから」
珍「いやあ、しかし、拙僧これから買い物に参ります。日用品の買い物ですから何も参考にならないかと・・・・」
ポ「うわあ、勉強になりそうだよ〜!」
珍「そうでございますか」

 珍念さんは背筋をぴんと伸ばしたまま、美しい歩き姿で出かけました。ポロはその袈裟姿にちょっと惚れてしまいました。

ポ「珍念さん、カッコいい〜!」
珍「ひやかさないでください」
ポ「ホントだよ〜! ポロ、猫背なおそっと!」
珍「ポロ兄はせっかく猫なのでございますから、猫らしく自然に振る舞うのが一番かと存じます」
ポ「そうか〜。でも。袈裟が欲しいなあ。どこで売ってるの?」
珍「猫用の袈裟は存じておりません」
ポ「よし、ポロが縫うぞ」
珍「・・・・・・。何ごとも修業でございます」

 珍念さんは近所のマルエツにやってきました。

ポ「へえ、お坊さんもマルエツに行くのか〜」
珍「まさか、お山のタヌキ商店で買い物をするなどと思っておいででは?」
ポ「そ、そのとおり。ホントにそう思ってたよ。ポロ、タヌキ商店の場所教えてもらおうかと思ってたもん」

 猫はマルエツに入れないので、ポロは珍念さんの手提げ袋に隠れました。
 珍念さんは、食料品の賞味期限を調べて一番古いものを選んでは買い進めていきました。

つづく

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2007-01-31 ポロの日記 2007年1月31日(波曜日)ポロ、珍念さんに入門する その2

 ポロ、珍念さんに入門する その2

ポ「どうして、古いのなんか買うの? ポロだったら新しいのから買うけどな」
珍「毎日毎日、日本では300万人分相当に及ぶ食品が賞味期限内に販売しきれずに廃棄処分されているとせんせいから伺いました。なるほど、新しいもののほうがよいような気がしますが、拙僧は今日の食材を求めに参ったのでございます。賞味期限内であれば古くて充分。期限切れであっても、食べられるかどうかくらい判断できるつもりでございます」
ポ「す、すごい! ポロもそうするよ」
珍「はい、そうなさってください。せんせいも、そのようになさっておられます。無益な賞味期限信仰などによって食べ物が無駄にされなければ世界で300万人の人々が餓えから救われる事になります」
ポ「そうだね、日本の食べ物の多くが輸入品だもんね。これは世界に影響する問題だよ。ポロは珍念さんに弟子入りしてよかったなあ」
珍「ワタクシではなく、せんせいの教えでございます」
ポ「うん。ポロも、その話きいたけどさ、実感したのは珍念さんのおかげだよ」
珍「あに弟子なのでございますから、そのようなことはおっしゃらずに・・・」
ポ「こ、これがポロの実力さ」

 珍念さんはマルエツを出ると、近くの春日公園に行ってベンチに座りました。

珍「さあさ、ポロ兄さまもどうぞおかけください」
ポ「でもさ、ここって時々お月さまが出てわるさをするんだよ」
珍「ああ、妖怪“満月もどき”でございますね」
ポ「あれは妖怪だったのか〜。ポロ、もともと雷さまにおへそ取られちゃったから平気だったけど、おへそを狙って襲ってくるんだよ」
珍「大丈夫。もしあやつが出て参りましたら拙僧が退治いたしましょう」
ポ「すごい、珍念さんは法力もあるのか〜」
珍「いえいえそうではございませぬ。あやつは殺虫剤でイチコロでございます」
ポ「なんだ、虫みたいなやつだったのか〜」
珍「虫とは言っても昆虫という意味の虫ではございませぬ。虫を3つ書く蟲でございます」
ポ「わあ、ポロ、それ蟲師っていうアニメで見たよ」
珍「さようでございましたか」
ポ「でも、殺虫剤でイチコロとはびっくりだなあ」
珍「殺虫剤と聞くと“虫専用”という感じがいたしますが、実際には命を根こそぎにしてしまいます。当然のことながら人だって死に至ることがあります」
ポ「そ、そういえばそうだった〜」
珍「それを警告したのがレイチェル・カーソン女史の“沈黙の春”でございます」
ポ「ポロもせんせいにすすめられてちょっとだけ読んだよ」
珍「というわけで、拙僧も化学系殺虫剤は緊急時だけ使い、いつもはホウ酸ダンゴや曼珠沙華の根の抽出液などを使います。今までに何十匹も退治しております」
ポ「わはは。お月さまがホウ酸ダンゴに弱いなんて笑っちゃうなあ。ちっともコワくなくなってきたぞ〜!」
珍「まずは敵を知ることです。事実の確認と把握こそが基本でございます」
ポ「分かってるけど、ポロ、ちっとも分かってないんだよ〜」
珍「・・・・・・・」

つづく

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2007-01-31 ポロの日記 2007年1月31日(波曜日)ポロ、珍念さんに入門する その3

 ポロ、珍念さんに入門する その3

ポ「そういえば、満月もどきはいっぱいいるんだよ。ずっと前だったけど、秋田県に電話しても神奈川県に電話しても、どこにでも満月が出てたもんなあ」
珍「それはおそらく本物でございます。晴れてさえいれば月はどこでも照らします。月は本来清浄で美しいものでございます。その光には不思議な力があって、ベートーヴェンやドビュッシーにすばらしい音楽を書かせたりもしました」
ポ「うん、ポロも月の光でお酒作ったよ」
珍「し〜、そのようなことはもっと小さなお声で。月光密造酒は違法にございます。銀河警察密造酒Gメンは、いつどこで聞き耳を立てているか分かりませぬぞ」
ポ「そうだったのか〜。ポロはアルマジロたちと一緒に宴会やっちゃたよ〜」
珍「捕まらなくてなによりでしたがご法度(はっと)ですぞ、お気をつけくださいますように」
ポ「うん、そうするよ」
珍「ところで、ここに参ったのはほかでもありません」
ポ「なあに?」
珍「ポロ兄さまは、せんせいの教えをどのようにお受け取りでしょうか?」
ポ「ふふふ、そう来たか。まかせてよ。ポロの音楽コラムは分かりやすいって評判なんだ」
珍「そうでございますか。それを聞いて安心いたしました」
ポ「珍念さんはどうなの?」
珍「はい。拙僧は、せんせいの教えを“よく見よ、よく聴け、よく感じよ”と受け取っております」
ポ「ポロもそう思うな」
珍「恐れ入ります。たとえば生きるという事はどういうことでしょうか」
ポ「えっと、ご飯を食べたり息を吸ったり吐いたりすることだよ」
珍「さすが、まさにそのとおりでございます。生きると言うことは命を守ることでございます」
ポ「そ、そだよ。そうに決まってるじゃないか。この世で一番大切なのは命だよ」
珍「言葉では分かりますが、拙僧、仏に仕える実でありながら真に実感いたしますまでには時間がかかりました」
ポ「ポロなんか一瞬で分かっちゃったもんね」
珍「さすがでございます。空飛ぶ鳥、泳ぐ魚、野に咲く花はもちろん、木目ひとつがなぜ美しいのか、それが生命のデザインであることに気づいたのは、せんせいのお話を伺ってからずいぶん経ってのことでした。仏教でいうところの“草木国土悉皆成仏”(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)と、あい通ずる教えでございます」
ポ「すごいなあ、せんせいは仏教の勉強もしてるのか〜」
珍「仏教の勉強もなさっておいでかも知れませんが、今の言葉、といいますかは概念と申しますか、それは拙僧が修業中に覚えた仏の教えにございます。高い山とて、どのような登山道から登っても頂上にたどりつけば、そこからの視界は同じでございます。せんせいはせんせいとして独自に頂上に立っておいでです」
ポ「そうかも。なにしろせんせいは人の言う事なんか聞いてないからなあ」
珍「というわけで、せんせいの教えを簡単にまとめれば、すべて何を見、聴き、感じ、悟ったかにあります」
ポ「メモメモ」

つづく

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2007-01-31 ポロの日記 2007年1月31日(波曜日)ポロ、珍念さんに入門する その4

 ポロ、珍念さんに入門する その4

珍「されど、これでは長編小説のジャンルを答えたようなもので、“海の話”と聞いただけで“海底2万マイル”を全文想像力だけで構成・復元できるわけがないように、意味のないまとめでもあります」
ポ「なるほど、分かってるだけに通じるまとめなんだね。メモメモ」
珍「たとえば、料理と言えば“どこで火を止めるか”が分かるか、まさにピタリの“塩加減”が分かるかということを悟らねばなりません。それなしで100種類の料理を知っていても意味がありません」
ポ「うんうん。せんせいがいつも言ってるやつだね。それはポロもよく理解したつもりだよ」
珍「事業を興すと言えば、それは“人材の選択”つまり入社試験や人事こそが重要です。その合否判断には明確なビジョンが必要です。そのビジョンは事実の厳密な把握が基盤とならなければなりません」
ポ「うん、ポロも習ったけど、いまのほうが分かりやすいな。でもメモメモ」
珍「歴史といえば“人々の考え方の変化、分岐点”を捉えられるかどうかが問題であるわけです」
ポ「歴史の話はポロも感激したよ。年表を全部覚えたって歴史が分かったことにはならないんだよね〜、でもメモメモ」
珍「では、拙僧たちは、なにゆえ修業しているのでございましょうか」
ポ「それは、もちろんせんせいを超えるためだよ〜」

珍「喝〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
ポ「どっひゃ〜〜〜!」

 ごろりんごろりんごろりん

珍「し、失礼いたしました。あまりに意外なお答えでしたので、つい・・・」
ポ「はは、ははは、ジョークだよ、ジョーク・・・・」

 でも、ポロはホントにそう思ってたのでした。

おしまい

 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

ポロの掲示板はここ。
ポロの道場

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2007-01-28 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第9回 銀婚式のプレゼント A

Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第9回

 銀婚式のプレゼント

 この話は最初にΑ章、最後にΚ章をお読みいただければ、ギリシャ文字で示された各章の順序は自由に変更できます。

   -Α(アルファ)-

 太陽系からほど近いバーナード星をめぐる惑星「ツル」にある小さな島国の、そのまた小さな村に中年夫婦が営む「八百松」という小さな青果店がありました。
 夫の松吉は実直一筋、年中無休で25年間店を守り続けてきました。女房の梅も店の立ち上げと同時に嫁入りして、年中無休で店を続ける夫を不思議にも思わず、25年間休まずに働いてきました。休んだのは結婚した翌年、娘の竹子が生まれる時の数週間だけでした。
 竹子はすくすくと育ち、隣町の高校を卒業して、もう何年も前に遠くの町の会社に就職して家を離れていました。
 そんなある日、竹子から封書が届きました。

 前略
 お父さん、お母さん、お元気でいらっしゃいますか?
先日、竹子はお父さんたちが今年銀婚式であることに気がつきました。それで、新婚旅行にも行っていないお父さんとお母さんに旅行をプレゼントしようと思い立ちました。勝手に旅館の予約もいれてしまいました。たった一泊二日ですが、ぜひ楽しんできてください。
 竹子

 同封の旅行パンフレットには、村からクルマで2時間ほどの海辺の温泉宿で過ごす“ゆったり湯けむりプラン”が書かれていました。

松「そうか、俺たちもう25年もたつのか」
梅「うれしいけど、あたしは他所で泊まるなんて、なんだか気が進みませんよ」

 松吉は、梅がほとんど村を出たことがないことに気がつきました。おそらく知らない場所が不安なのでしょう。休みもなく仕事を手伝わせて、女房が旅行を楽しみとも思えなくなってしまったのは自分のせいかも知れないと思い、松吉は竹子の優しさに報いるためにも店を休んで梅を旅に連れていこうと決心しました。

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2007-01-28 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第9回 銀婚式のプレゼント Β

 -Β(ベータ)-

ポロ「キャプテン・レンジャー」
レンジャー「なんだ?」

 ぷあお〜〜ん!

ポ「ちっとも釣れないじゃないか〜!」
レ「当たり前だ。この釣りざおには仕掛けも針もついてないよ。おもりと浮きだけだ」
ポ「か〜〜! あったま来た。そんなの釣りじゃないよ」

 ぷあお〜〜ん!

レ「まあ、そうカッカするな。天気はいいし海はきれいだし、俺たちはあと5時間はここにいなけりゃバイト代は貰えないんだぜ。それが契約だ」
ポ「でもさ、魚くらい釣ったっていいじゃないか〜」
レ「初めての海じゃ様子を見るもんだぜ。たしかマグロンとかいう凶暴なやつがいるんだったよな」
ポ「そういうのは海辺になんか来ないよ」
レ「じゃあ釣れよ。船に仕掛け付きの本格的なサオがあるからよ。でも俺は知らないぜ」

 ぷあお〜〜ん!

 ポロは、500メートルほど離れた岩場の向こう側の砂丘に着陸している三河屋デリバリーサービスの穀物運搬船ペンデレツキ号着陸船に向かいました。

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2007-01-28 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第9回 銀婚式のプレゼント Γ

 -Γ(ガンマ)-

裏しびれ大学宇宙文明研究室。

ホリテッカン博士「今日、皆さんにお集まりいただいたのは危急の問題が持ち上がったからにほかなりません。宇宙文明研のドレイク博士からご説明いただきましょう」
ドレイク博士「ああ、うう・・、マチルダ博士からの報告がお手許のレジュメにあります。ご覧ください。マチルダ博士のご尽力によって太陽系文明が救われたことは大変喜ばしいことではありますが、その代わりバーナード星系の惑星が滅びるということは、断固あってはなりません。今日は、その解決策について皆さんのご意見をお聞きしたいと思っております」
ホリ博「ご質問がありましたらどうぞ」
是輔「はい!」
ホリ博「どうぞ」
是輔「あっしは三河屋デリバリーサービスの是輔(これすけ)でやす。バーナード星系まで配達に行ったことがありやすんで呼ばれました」
ドレ博「ええ、うう・・・。彼はわたくしが招聘いたしました。ああ、ええ・・、是輔さんは、地球ではもちろん、太陽系で唯一バーナード星系に到達した地球人です」
是輔「へい、あっしはバーナード星系の“ツル”ってえ星に配達に行っておりやす。地球そっくりの星で、みんないい人ばかりが住んでおりやす」
ホリ博「なぜ、いい人たちであるとお考えになるのですかな?」
是輔「へい、あっしが行くのは小さな島国なんですがね、ちょうど日本の田舎みたいなところでして、みなさん穏やかに静かに暮らしていらっしゃるんでさあ」
ホリ博「もう少し具体的にお話いただけませんか」
是輔「具体的って言われても、あっしは口下手なもんでうまく言えねえんですが、隠居するならあそこにしようかなって決めてるんでやす」
ドレ博「ああ、うう・・、要するに、うう・・仮に文明衝突が起こったとしても滅びさせてよいというものではない、ということですな」
是輔「そ、そうでやす!」
ホリ博「なるほど。しかし、このままでは惑星“ツル”はいずれ滅びる運命にあるということですな。マチルダ博士もそれを大変心配しておられる。なんとか救う方策を考えていただきたいと願っておられるようじゃ」
ドレ博「裏神田には深宇宙まで行ける宇宙船がない。三河屋デリバリー・サービスにお願いして調査団を派遣するとしよう」
是輔「へい。あっしが行けるように本部に話してみます」

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2007-01-28 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第9回 銀婚式のプレゼント Δ

 -Δ(デルタ)-

梅「あ、いいんですよ。あたしがやりますから」
仲居「いえいえ、お客様はそのままお待ちになってください。私たちの仕事ですから」
松「おい、梅。旅館じゃ客は何にもしなくていいんだ。すいませんねえ、こいつ貧乏性でして」
仲「いいえ、いいんですよ。おやさしい奥様でいらっしゃるじゃないですか」

 熟練した印象の着物姿の仲居が、手際よく次々とお膳を準備すると「どうぞごゆっくり」と言って部屋を出ていきました。

梅「人に何かをやってもらうって、うれしいけど何だか居心地が悪いですねえ」
松「たまにはこういうこともなくちゃいけねえんだ。俺たちは客なんだから、お前もどっしりと構えてりゃいい」
梅「それにしても、このお料理はきれいですね。もったいなくて箸がつけられませんよ」
松「竹子のせっかくの心遣いだ。遠慮なく食わせてもらおうぜ」
梅「こんなに贅沢なんかして罰(ばち)が当たらないといいですねえ」
松「当たるもんか。それより、お前を今までいい目にあわせてやれなかった俺こそバチ当たりだぜ」

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2007-01-28 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第9回 銀婚式のプレゼント E

 -Ε(イプシロン)-

松「おう、早く乗れや」
梅「いまシャッターの鍵を確かめたら行きますよ」

 八百松という屋号の入った軽トラックの運転席から松吉は梅をせかしました。
 季節は秋。澄んだ青空にはすじ雲がたなびき、運転席から顔を出して見上げると、空高く雁のような渡り鳥が飛んで行くのが見えました。

 10分後、八百松号は海辺の町へ向かう村道を南に向かってひた走っていました。梅は結婚以来“ひらゆき村”さえ出た事がなかったので「ゴーヤ村へようこそ」という村境(ざかい)の標識を見た時には「これがゴーヤ村なんだねえ」と感心したように言いました。ゴーヤ村の中心部の商店街を通ると、梅はしきりにそれぞれの店構えの立派さを口にしました。

梅「お父さん。あたしたちももっとがんばってああいう店にしなくちゃね」
松「俺たちは野菜には困らない農村で八百屋やってるんだぜ。今の店で精いっぱいだよ。それに、別に儲からなくたって食っていけてるし、いいじゃないか」
梅「・・・まあそうですけど」

 短い商店街を抜けると大きな丘があり、八百松号がその頂上にたどりつくと、正面にキラキラと輝く海が見えました。

梅「お父さん、海ですよ。きれいですねえ」
松「ああ、こんなにちょっと走るだけで海に来られるんなら、ちょくちょ来りゃあよかったな」
梅「ああ、あたしは海を見ただけで、もうじゅうぶんっていう気持ちですよ」
松「よし、じゃあ海岸に寄り道していくか」

 八百松号は、そのまま海に向けてまっすぐ走っていきました。

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2007-01-28 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第9回 銀婚式のプレゼント Z

 -Ζ(ゼータ)-

 三河屋デリバリーサービスの配達船ノストロモ号は、ラグランジェポイントにある宇宙ステーション「越後5号」に接舷して第23神田丸の到着を待っていました。
 第23神田丸には、彗星衝突事件で失われてしまった第19神田丸のアルコン隊長、タベルコ曹長らをはじめとするクルーが惑星「ツル」調査隊として乗り込んでいました。
 やがて神田丸が到着し、ノストロモ号に調査隊クルーがやってきました。いつも是輔一人で孤独な航海を続けているノストロモ号の操縦室が、まるでスタートレックのエンタープライズ号のようになりました。

アルコン「この船のエンジンはどういうものですか?」
是「ええ、ちょっくら旧式なんでやすが“ペガサス・エンジン”っていう頼もしいやつなんですよ。じゃ、出発しますからGシートのハーネスをしっかり確認してくだせえ」

 是輔はノストロモ号の巨大な船体を繊細、かつ鮮やかな操艦で越後5号から離舷させるとペガサスエンジンの力を全て解き放ちました。

 ぎゅおわわわわおおおおおおお〜〜〜〜〜〜〜ん!

タベルコ「これはすごい! 息が苦しいほどの加速だ」
是「申し訳ねえです。光速の80パーセントまで加速すれば亜空間に入れやすから、それまで我慢してくだせえ」
タ「とんでもない。感動的な体験だよ!」

 加速度緩和装置は全力で働いていましたが、ペガサスエンジンは、その緩和能力を上回る加速度で宇宙を突き進みました。

 3時間後、いきなり加速が止まったかのように身体が楽になりました。

是「亜空間に突入しやした」
タ「超光速飛行だね?」
是「通常空間から見れば、そうなりやす」
タ「そうか。そういうことだったのか」
是「いえね、あっしは詳しいことは・・・」

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