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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2004-01-17 クランベリーヒルだより第2話 ロケットの夏 その4
2004-01-16 クランベリーヒル便り第1話 冬の始まり その1
2004-01-15 クランベリーヒル便り第1話 冬の始まり その2
2004-01-14 クランベリーヒル便り第1話 冬の始まり その3
2003-12-25 ポロのクリスマス その1
2003-12-24 ポロのクリスマス その2
2003-12-23 ポロのクリスマス その3
2003-12-22 ポロのクリスマス その4
2003-12-21 ポロのクリスマス その5
2003-12-20 ポロのクリスマス その6


2004-01-17 クランベリーヒルだより第2話 ロケットの夏 その4

「ちわーす! 三河屋で〜っす! ご注文の品をお届けにあがりやした〜」
「ぴゆぴゆ!ぴゆぴゆ!」
 玄関先でロケット号が三河屋の是輔(これすけ)さんに何やら文句を言ってるようでした。
「いやあ、ロケットの兄さん、そんなに喜んでもらえると2度も来た甲斐があるってもんです」
「ぴゆぴゆ!ぴゆぴゆ!」
「いやあ、そんなにお礼言われちゃうと照れちゃうなあ。じゃあ、また。ありゃーたーした」
「ぴ、ぴゆぴゆ、ぴゆぴゆ!」
 2度もかまくらを溶かされてしまったことへ対する抗議は全く通じないまま、三河屋の是輔さんは、さっさと帰ってしまいました。

 ごわー! どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど〜!

風「また作るからいいよ、ロケット号」
ロ「ぴゆ〜」
耳をつんざく轟音と強烈な光を残して、全長70メートルを超えるノストロモ号は夜空へと吸い込まれて行きました。猿雅荘の周囲の気温は30度を超え、松戸博士の設計した自動空調システムが冷房モードに運転を切り替えました。テーブルの上で湯気を立てている料理が、一瞬にして季節はずれになりました。
と「ビシ・ソワーズがお似合いかな」
 せんせいは、冷たいスープの名前を言いました。
 とてもよく気の利くロケット号が冷たいクランベリーのジュースを全員分用意しました。
風「こういうのって、けっこう好きだな」
海「みいやんも!」
と「たしかに、日常ではない感じだな」
ぴ「あめがふってるよ」
と「そうか。またそのうち雪に戻るよ」
 キティがヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「冬」の第2楽章を流し始めました。それは雨の降る冬の夜、暖かく平和な室内を描写した音楽なのでした。
 食事が終わると、当番のみいやんとロケット号はキッチンで仲良く食器洗いを始めました。リビングわきの格納庫には、ヴィヴァルディの音楽にうっとりと聴き入る掃除機のジョン3兄弟がいました。
 それからほどなく、雨は雪に変わりました。

おしまい

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shinさん、読んでくれてアリガトございます。ポロもクランベリーヒルに住んでみたいと思います。松戸博士のところに居候させてくれないものでしょか。それから、ロケット号の言葉はキティがほんやくしてくれます。でも、たしかにロケリンガルがあると便利かも。 / ポロ ( 2004-01-21 10:01 )
まだ地球に居て小さかった頃、1度だけ母方の実家で小さなカマクラを作ったことがあります。凧揚げや羽根突きもやったりして、最も正月らしい正月を過ごせた時期でした。今はもう、御節料理も作りません。自分もクランベリーヒルで暮らしたいです〜 う〜ん、ロケット号は松戸博士にロケリンガルを作ってもらうと便利な気がするけど、でも、やっぱり無いほうがロケット号っぽいかな・・・ / shin ( 2004-01-19 00:59 )

2004-01-16 クランベリーヒル便り第1話 冬の始まり その1

 せんせいのおうちのカップボードには、アヒル型スポンジのロケット号が住んでいます。これは、ロケット号からポロが直接聞いた驚きに満ちた物語をまとめたものです。ロケット号が語ってくれたお話は、どれもみんな、どうしてポロがここにいなかったんだろうと思うものばかりでした。説明が足りなくて分かりにくいところもあると思いますが、いくつかのお話を読み進むうちにきっと分かってもらえることでしょう。


クランベリーヒル便り 第1話 冬の始まり その1

 クランベリーヒルにも冬がやって来ました。森から抜けてすぐの見晴らしのよい猿雅荘(せんせいのおうちの名前です)のまわりににも雪がチラつきはじめました。夕方になると、3人の子どもたちは家に入って、リビングの大窓から遠くに見えるタバコ畑がだんだん白く染まっていくのを飽きずに眺めていました。
海「オンディー沼にも降ってるのかなあ」
風「あたり前じゃないか」
海「でも沼には積もらないよねえ」
風「いっぱい降れば積もるよ」
ぴ「あした、みにいこ!」
風「ダメだよ。雪の中じゃ危ないよ」
その時、キッチンからロケット号の呼ぶ声がしました。
ロ「ぴゆぴゆ」
ぴ「あ、ぴーちゃん当番だった!」
 一番小さなぴーちゃんがキッチンへ走っていきました。そうしている間にも、雪はどんどん降り積もりました。食事を終えて、みんながリビングで思い思いに本を読んだり、漢字の練習をしたりしている間にも雪は静かに静かに周りの景色を変えていったのでした。

 次の朝は、前の日の天気がウソのように晴れ上がりました。真っ白に積もった雪に日の光が反射してキラキラ光っています。
 朝食を終えると、とむりんせんせいは一人張り切っていました。
と「さあ、みんな外へ出てこい! スノーボートを出すぞ」
 子どもたちは、みんなソリ遊びが大好きでした。料理用のバットを大きくしただけのようなプラスチック製のソリは、それぞれ名前がつけられていました。一番小さなぴーちゃんの赤いソリは“ケプラー1号”、ぶうよんとみいやんのソリは、それぞれ“ガリレオ1号”“ガリレオ2号”と名づけられて、太いフェルトペンで名前が大きく書かれていました。

つづく

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2004-01-15 クランベリーヒル便り第1話 冬の始まり その2

ぴ「どけっと号、はやく、はやく!」
 ぴーちゃんは、スポンジのアヒルのロケット号の力でソリを走らせることにしました。
ロ「ぴゆぴゆ!」
 ロケット号が念じると、ケプラー1号は雪を蹴散らして走り始めました。
ケプラー1号「しゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅ!」
 ぶうよんも負けじと猫型ロボットのキティを呼びました。
風「キティ、ガリレオ1号を引っ張ってぴーたろうを追うんだ」
キティ「きてぃ、がりれお1ゴウヲ ヒッパッテ ピータロウヲ オウンダ」
 キティの胸のディスプレイには「ラジャー」の文字がありました。
 キティのキャタピラーが雪をかみ、ガリレオ1号も走り始めました。
ガリレオ1号「シャラシャラキュラキュラ」
海「ふたりともずるいよずるいよ。とむりん、なんとかしてよ」
 みいやんは、ロケット号もキティもとられてしまって泣きべそをかきそうでした。
と「あっはっは、先を越されたな。よし、待っていろ」
 そう言うと、とむりんせんせいは猿雅荘の第4格納庫から背中に背負うエンジン式扇風機を持ってきました。松戸博士が作ったスキーの補助動力装置です。せんせいは、それを背中に背負ってハーネスで身体に固定すると、みいやんを膝の間にかかえて小さなガリレオ2号に無理やり座りました。
と「さあ行くぞ、しっかりとつかまってろよ!」
 せんせいはエンジンのスタータのヒモを思いっきり引きました。
ガリレオ2号「どばばばばばばばばばばばばばば!!」
 ガリレオ2号は、耳をつんざく爆音とともに猛烈にダッシュしました。
海「わあ、とむりん、すごい音だね!」
と「マフラーが壊れているらしい。こりゃうるさくてたまらん! あとで松戸博士に修理してもらおう」
ガリレオ2号「ずばばばばばばばばばばばばばば!!」

 やがて先を行くガリレオ1号が視界に入ってきました。
ガリレオ1号「シャラシャラキュラキュラシャラシャラキュラキュラ」
 爆音に驚いたぶうよんが振り返りました。キティがしっぽのところのフックにロープをかけてスノーボートを牽引しています。犬ぞりならぬ猫ぞりです。
ガリレオ2号「だばばばばばばばばばばばばばば!!」
 あっと言う間に、ガリレオ2号は1号を追い抜いてしまいました。追い抜きざまに、ぶうよんが何かを言ったようでしたが、せんせいにもみいやんにも爆音のすさまじさに何も聞こえませんでした。
 オンディー沼の近くで、とうとうぴーちゃんとロケット号の乗ったケプラー1号をとらえました。
ケプラー1号「しゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅ!」
ガリレオ2号「ざばばばばばばばばばばばばばば!!」
海「やったー! とむりん、これで1番だね」
ガリレオ2号「ごばばばば、ごばっ、ごばばば、ごばっ、ごばっ!」
海「あれ、なんだか変だよ」
と「燃料切れかも知れないな」
ガリレオ2号「ぞば、ぞぞば、ぷすぷす、ぞば、ぞぞば、ぷすぷす」
ケプラー1号「しゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅ!」
ぴ「ばいばーい!」
海「あ、ぴーちゃんに抜かれちゃったよ、とむりん!」
と「ああ、残念だけど、もうすぐ燃料がなくなる」
ガリレオ2号「ぶば、ぷす、ぶばぶば、ぷす、ぷす!」
ガリレオ1号「シャラシャラキュラキュラ」
風「おさき〜!」
海「わ、ぶうよんにも抜かれた!」
ガリレオ2号「ぷすん」
と「止まったな」
 結局、せんせいがボートを降りて歩いてひき始めました。積もったばかりの新雪は柔らかく、せんせいは足をとられて何回もころんでしまいました。そのたびに、みいやんの楽しそうな笑い声が響きました。

つづく

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2004-01-14 クランベリーヒル便り第1話 冬の始まり その3

 せんせいの人力そりとなったガリレオ2号がオンディー沼のほとりにつくと、沼は静かな水面をたたえていました。沼の周囲をおおうクランベリーの茂みも全部雪に埋まっています。まるで昔の水墨画を見るような不思議な景色でした。
ぴ「おそいよー!」
風「とむりん、おつかれ!」
と「いい運動になった、ふう」
海「しずかだね」
風「なんだか、すごくいい時間の中にいるような気がする」
ロ「ぴゆぴゆ!」
キティ「ピユピユ!」
 やっとひらがなが読めるようになったぴーちゃんが、すぐにキティの胸のディスプレイのロケット号語訳を読みました。
ぴ「い・い・お・も・い・でって書いてあるよ」
海「うん、思い出になるよ、この景色」

 しばらくして猿雅荘に戻ることになりました。
 帰りは両方のガリレオ号をキティが引いていくことになりました。さすがにスピードが落ちて、身軽なケプラー1号はどんどん先へ行ってしまいました。

 2台のガリレオ号が猿雅荘に到着すると、ぴーちゃんとロケット号が庭先にかまくらを作っていました。ロケット号が念力で屋根の上の雪を上手に積み上げていきます。それをぴーちゃんがぺたぺたと固めていました。それを見たぶうよんとみいやんが、さっそく雪用スコップを持ってきて穴を掘りました。小一時間で、たちまち立派なかまくらができあがりました。
 せんせいは小さなテーブルと、ホワイトガソリンのランタンと小さなストーブを持ってきました。ぶうよんは雪壁を掘って小さな祭壇を作りました。そして、小型のアネロイド気圧計を置きました。
風「ご本尊」
と「それって、ムーミンに出てくるニョロニョロの話だっけ?」
風「そうだよ」
海「じゃ、このかまくらの名前はニョロニョロ荘にしよう!」
風「よし、決まり!」
 そこにロケット号が大きなお鍋と一緒に入ってきました。ぴーちゃんはお椀を持っています。それは、熱々のおしるこでした。もちろんロケット号特製のお新香つき。
 せんせいがお椀によそいわけていると、かあちゃんもやってきました。
ぴ「あ、かあちゃん、やっときた!」
か「まあ、あんたたち好きねえ、こういうの」
風「だって、面白いじゃん」
海「かあちゃん、かあちゃん、オンディー沼とってもきれいだったんだよ」
か「そう。よかったわね」
ぴ「これニョロニョロ荘っていうんだよ」
 かあちゃんは、祭壇の気圧計を見つけて笑いました。
と「さあ、食べよう」
 みんなからおいしい、おいしいという声があがると、ロケット号はひとりひとりの前に行って「ぴゆぴゆ」「ぴゆぴゆ」と言って回りました。

 それからみんな、ホワイトガソリンが全部燃え尽きるまでかまくらでワイワイと過ごしました。クランベリーヒルの冬は始まったばかりです。


おしまい

先頭 表紙

mokoさん、コメントをアリガトございました。今、第2話を書いています。もう少し待ってくださいね〜。クランベリーヒルに行った気になるようなお話にします! / ポロ ( 2004-01-15 18:28 )
今日は台風並みに発達した低気圧の影響で、大雪の所も多いでしょうね!私も、初めて‘大雪’を目にした時は、山の風景を見て‘水墨画’を思い出しました♪雪のある暮らしは大変ですが、楽しみもありますよね。‘かまくら’や‘そり’など、うちの娘も経験したことがないので、一度ぜひ雪を見に連れて行きたいです〜クランベリーヒル、行ってみたいなぁ・・・ / moko ( 2004-01-14 20:55 )

2003-12-25 ポロのクリスマス その1

「ねえ、せんせいのところにはサンタさんが来るんでしょ!」
「来るよ」
「今年も来る?」
「来るかも知れないし、来ないかも知れない」
「来るよね?」
「さあ、盛明(もりあき)おじいちゃんがサンタクロースに恩を売ったのは40年以上も前のことだからなあ。そろそろ恩の著作権も切れるんじゃないか?」
「なに言ってるの、せんせい。恩の著作権はずっと続くんだよ。だって、せんせいの子孫のところにもサンタクロースは来ることになってるんだから」
「ふーん、そうか」
「わ、せんせいってサンタさん、どうでもいいの?」
「うん」
「あ゛〜! つまんないよ〜。そんなのつまんないよ〜!」
「ねえねえ、ぴーちゃんはサンタさん、来て欲しいよね」
「え〜、あたしどうでもいいわ」
「わ〜! ポロはこどくだ〜、ぐれてやるぐれてやる!」
「ポロちゃん、まあ、そう言わないで。はい、イモようかん」
「わ、奥さんはいい人だ〜。ポロのたった一人の理解者だ〜」
「喜んでもらえて嬉しいわ。でもね、ちょっと静かにしてね」
「は、は〜ィ。ゴメなさい」

 すっかり意気消沈したポロは、サンタクロースを生け捕りにしてみんなに会わせることにしました。ポロは、シュデンガンガー商会にサンタクロース生け捕りキットを買いに行くことにしました。
 まず、神田の地図をネットで検索してプリントアウトしました。これで迷わないぞ。夜になるのを待って、ポロは国道で信号待ちしているトラックの荷台に飛び乗りました。さっそく、せんせいから無断で借りてきた迷彩模様の小型マグライトで地図を確認します。神田はどこだ? あ、あったあった。へえ、加賀藩前田家の上屋敷はここか。本妙寺を過ぎて、本郷金助町を通って神田明神だな。で、今走ってる国道17号はどれかな。あれ、中仙道しかないな。変だなあ。あ゛〜〜! これ江戸時代の地図じゃないか〜。どうすりゃいいんだポロ! しょうがない。これでもないよりはマシ。あとはポロの野生の勘でいくしかないな。ポロは一抹の不安を胸に通りすぎる夜の景色を眺めていました。

つづく

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2003-12-24 ポロのクリスマス その2

 1時間くらいで、なんだか見覚えのあるところに出たので、ポロは一度トラックを降りることにしました。湯島聖堂でした。すごいぜ、冴えわたるポロの勘! あ、神田明神もある。たしか、せんせいが子どものころに新聞紙でできた袋に入ったゆで立ての塩エンドウ豆をほおばって「幸せだなあ」って思ったところだったな。塩エンドウで幸せになっちゃうなんてせんせいは安上がりだなあ。その点、ポロはイモようかんだからちょっと高級だな。せんせいに勝ったな。まいったか、せんせい。あ、お茶の水の駅だ。夜遅いのに人がいっぱいいるなあ。お茶の水博士っていう人もいたっけなあ。
 そうこうしているうちに、シュデンガンガー商会に到着しました。真鍮製の金具のついた古びた木のドアから、白熱電球のほのかな明かりがもれています。
「ごめんくださ〜い!」
「あ、これはポロ様。いらっしゃいませ」
「ポ、ポロさまだって! うれしいなあ。ポロさまだもんなあ」
「はい、お客様はみな大切な方でございます。今日はどのようなご用でしょうか」
「あ、あのね、サンタクロース生け捕りキットが欲しいの」
「やや。サンタクロース生け捕りキットは季節モノでございまして、2日前に全て売りきれてしまいました」
「えー、やだよやだよ。欲しいよ〜」
「ここだけの話でございますが、サンタクロースはなかなか賢い方でして、生け捕りキットでは捕まりません。理論的には生け捕り可能なのですが、毎年、その上を行くのがあの方なのでございます」
「ふーん。じゃ、どうすれば捕まえられるの?」
「はあ。私の兄ならば、何かアイディアもあると思うのですが」
「松戸博士のこと?」
「さようでございます。しかし、兄は今、クランベリーヒルにおりまして、なかなか連絡が取れません」
「クランベリーヒルってどこ?。ポロ、トラック乗り継いでどこへでも行っちゃうから」
「それがクリューガー60という恒星系をめぐる惑星上にある町で、トラックでは、ちょっと無理かと」
「どうやれば、行けるの?」
「どうしてもとおっしゃるなら、物質転送機で行けなくはありませんが、宇宙嵐があると転送途中で遭難することがあります」
「嵐がなければいいんでしょ。宇宙天気予報はどう言ってるの?」
「はあ、しばらく快晴かと」
「じゃ、ポロ行くよ。クランベリーヒル」

つづく

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2003-12-23 ポロのクリスマス その3

 物質転送機は、ニュースでやってた昔のだるまストーブの形をしていました。ポロは、中に入るとハエが紛れ込んでいないかどうか確かめました。ハエと一緒に転送されると「恐怖のハエ猫」になってしまうからです。
転送ボタンが押されると、きゅうに気持ちが悪くなってきました。うわあ、吐きそうだ〜! 
 ポロは、大きな葉っぱがいっぱい並ぶ、さんさんと陽の光がそそぐ畑でゲロゲロ吐いていました。2度と転送機になんか入るもんか。ゲロゲロ〜。
「どうしたね、まるで転送されてきたみたいな様子だが」
横には白衣をきたおじいさんがしゃがみこんでポロを見ていました。
「ぽ、ポロと言います」
「お、しゃべれるのか!」
「と、とむりんせいせいの助手をしてます」
「おうおう、とむりん君のところから来たのか! ワシが松戸じゃ。さあさ、家に行こう」
 松戸博士は、ポロを抱き上げるとすぐ近くの丘の上にある家まで連れていってくれました。
「よく来たな。しかし、生き物は転送してはいかんと言っておいたのじゃが」
「うん、ポロもやめたほうがいいと思ったよ。う、まだ気持ちわる・・」
「回復まで2〜3時間はかかるじゃろ。それまでゆっくり休めばよい」
ポロは、暖炉のそばのソファで休ませてもらいました。

 夕方、すっかり元気になったポロは、松戸博士とダイニングテーブルに向かっていました。博士の発明した自動ディナー調理機が用意した夕ご飯はサイコーでした。
「それでね、サンタクロース生け捕りしたくて、シュデンガンガー商会に行ったら売り切れだって」
「それを言うならシュレーディンガー商会じゃ。サンタクロースなら別に生け捕りにする必要はないぞ。明日の晩にここに立ち寄るからの」
「えー、ホント?」
「本当じゃとも。この家も、とむりん君が建てたものじゃ。子どもたちをテレビのないところで育てたいと言って6年間クランベリーヒルで暮らしておったのじゃ。ロケット号は元気にしとるか?」
「え、ロケット号なんていないよ」
「変じゃのう。スポンジのアヒルじゃが。このディナー調理機の調整はロケット号がやったんじゃ」
「あ〜、それならダイニングのカップボードに入ってる。なんでお風呂スポンジをカップボードに入れておくんだろうと思ったんだけど、あれってロケット号って言うんだ」
「おお、そうか。やはりこの星を出ると魔法が解けてしまうのじゃな」
「キティという猫型ロボットもおったのじゃが、あれはとむりん君の細君と折り合いが悪くてのう。そうじゃ、掃除機のジョン3兄弟はどうしておる」
「いるけど、あまり使われてないよ。今はロバートっていう掃除機ががんばってる」
「そうか、だいぶ暮らし向きも変わったようじゃの」
「ねえ、博士。ポロ、そのころのせんせいたちのお話聞きたいな」
「そうか。それなら、日記の過去ログがコンピュータに残っているはずじゃ。それをコピーして渡そう」
「わ〜、アリガト。博士!」
「明日は、この近所を案内しよう」

つづく

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2003-12-22 ポロのクリスマス その4

 次の朝、博士はポロをカーリーという空飛ぶ自動車に乗せてくれました。
「おはようございます、博士。今日はどちらまで」
カーリーはステキな女の人の声で話します。
「おはよう、カーリー。オンディー沼を起点に周辺を回ってくれ」
「了解、まかせてね」
「か、カーリーさん、よろしく」
「まあ、子猫ちゃんはじめまして」
「ポロだよ。ポロ。とむりんせんせいの助手なんだよ」
「まあ、とむりんせんせいはお元気かしら?」
「うん、元気だよ」
「またお会いしたいわ」
「このクルマもとむりん君のものじゃった。これも細君と折り合いが悪くての。地球へ帰るとき置いていった」
「では、ハーネスのチェックをしてください」
そういうとカーリーはゆるやかに上昇して水平飛行を始めました。すぐ下をきのうの畑が通りすぎていきます。
「タバコ畑じゃ。この星にはたくさん自生しておるが、栽培もさかんじゃ」
「へえ、タバコってあんなに大きな葉っぱなのか。時代に逆らう星だね」
「はっはっは、そうかも知れん」
遠くに湖が見えてきました。
「オンディー沼じゃ。とむりん君の子どもたちがよく遊びに来ておった」
「サカナはいるの?」
「さあ、どうじゃろ。ワシもとむりん君も釣りはやらんのじゃ。カーリー、ちょっと降りてくれ」
「ラジャー・ウィルコ!」
「なんて言ったの?」
「うん、そうじゃな。合点でえ!というところかな」
「おもしろいクルマ!」

 ゆるやかなすり鉢の底に鏡のような水面のオンディー沼は静かで不思議な空間でした。
「ここには水の精のオンディーヌがいるそうじゃ。ワシは会ったことがないが、ロケット号の日記にはオンディーヌと出あったという記述が何度もでてくる」
「へえ、ポロも会いたいなあ」
「ところで、アイスクリームは好きかな」
「うん、ポロ大好き。イモようかんの次に好きだよ」
「有名な店があるんじゃ、行こう」
 カーリーでしばらく行くと、にぎやかな町に出ました。オラクルベリーという町だそうです。賑やかなオラクルアベニューに面して、その店はありました。
“ビルの店 マイクロソフト”
「創業者は、ここで一旗あげたあと、その儲けで地球でもビジネスをしているという話じゃ」
「ぽ、ポロ、その会社知ってるかも」
「ほう、地球でもここのアイスクリームは有名かね」
「せんせいはリンゴのアイスのほうが好きみたい」
 でも、すっごくおいしいアイスクリームでした。松戸博士は、ポロをカジノにつれていってくれました。

つづく

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2003-12-21 ポロのクリスマス その5

「ポロ、カジノでの賭け方を伝授しよう」
「絶対、勝つ方法なの?」
「ああ、そうじゃ」
「すっごーい! 教えて教えて。ポロね、借金王なの。500まんえん」
「そりゃ、大変だ。よく聞くんじゃぞ」
「うんうん!」
「まずはルーレットだ。ここでは赤か黒に掛けることにしよう。当たれば2倍になって返ってくるルールだ」
「うん」
「みんな、次は赤なのか黒なのか予想して賭けるが、ワシは違う。赤か黒、どちらかだけに賭け続けるのじゃ」
「どうして? だって、それじゃ半分しか当たらないから儲からないよ」
「まあ、聞きなさい」
「最初、赤に100ベリー賭ける。ベリーというのはここの通貨単位じゃ」
「うん」
「外れたとする。損をしたのは100ベリーじゃ。次に、また赤に200ベリーを賭ける」
「うん」
「また、はずれたとする。損をしたのは300ベリーじゃ。今度は400ベリーを賭ける」
「うん」
「またハズれるかな?」
「うーん、黒がそんなに続くわけないから、そろそろ当たるかも」
「もし勝てば800ベリーが戻ってくる。投資した額が合計700ベリーだから100ベリーの勝ちというわけだ」
「わ、これを繰り返せば絶対損しないね、せんせいに教えてあげようっと」
「ほぼ、損はしないと言ってもよいだろう。だが、非常に低い確率じゃが、一度も当たらないうちに全財産を使い果たすとパーになる。だから、こういう方法を使ってもギャンブルはギャンブルじゃ」
 ポロは、その日、博士から10000ベリー借りてルーレットに挑戦しました。しめて1000ベリーの儲け。すごいなあ博士。でも1ベリーは、だいたい1円なので、ポロの借金を返すのはまだまだ大変です。
 地下のカジノから外へ出ると、もう暗くなっていました。
「大変だ、博士。サンタさんが来ちゃうよ」
「ははは、大丈夫」
 カーリーに乗り込むと博士が訊ねました。
「サンタは今どこじゃ?」
「少々お待ちを、博士」
「サンタさんからメールが届いています。読み上げますか?」
「そうしてくれ」
「松戸博士、今年も一晩お世話になります。そこにいるワシを生け捕りにしようという不届きな猫に成敗するから覚悟せい、とお伝え下され」
「わ、なんで知ってるの? 誰が言ったの?」
「ははは、サンタは何でも知っておるのじゃ。だから生け捕りキットなどでは捕まらん」
「ポロ、懲らしめられちゃうかなあ。やだなあやだなあ」
「ジョークじゃよ、ジョーク。サンタはそういう人なんじゃ」


つづく

先頭 表紙

2003-12-20 ポロのクリスマス その6

 カーリーが博士の家に到着してしばらくすると、降るような星空にホーキ星のようなものが現れました。ポロたちは空を見上げました。
「あれがサンタのドレッドノート号じゃよ。白く曳いた尾は力場の生みだすフィールドじゃ。ピーターパンも同じ理由で飛ぶ」
「ふーん、きれいだねえ」
 ドレッドノート号が接地すると、淡く白い光が消えてその姿がはっきりと見えました。
「わ、安っぽい」
 まるで、むかしの遊園地の乗り物のような作りのトナカイの人形とソリでした。
「お待ちしていましたぞ、サンタ卿」
「お世話になりますぞ、博士」
「ぽ、ポロです。ば、バイエル59番も弾けるようになりました!」
 本物のサンタを前に緊張したポロは、またまたあらぬことを口走ってしまいました。
「おう、ポロどんか」
「ひゃっ、ポロをどんぶりにしてもおいしくないと思います。保証します」
「はっはっは。食べたりせんよ。松戸博士のところに来たということは見事ワシを生け捕りにしたようなもんじゃ。とむりんせんせいや家族のみんなは元気かね」
「あ、みんな元気です」
「それは、よかった」

 ポロは、それから盛明おじいちゃんが修理したというドレッドノート号のグラヴィトン・コンバータの支柱を見せてもらったり、せんせいのこども時代の話を聞かせてもらったりして楽しい夜を過ごしました。

 次の朝、ポロはサンタさんに地球まで送ってもらうことになりました。
「博士、カーリー、お世話になりました」
「おお、そうじゃ、これを持ってくとよい」
博士は小さな箱をくれました。
「これなあに?」
「はっはっは。玉手箱じゃよ。不用意に開けるでないぞ」
「わあ、こわいなあ」

「ドレッディ、ディーンドライブ起動じゃ」
「ディーンドライブ起動します」
一番後ろのトナカイが答えると、ポロのまわりに淡い白い光が広がりました。
 ドレッドノート号はゆっくりと地面を離れて上昇を始めました。博士が手を振っています。ポロもソリから身を乗り出して両手もしっぽも振り続けました。
「さよならー、博士ー、また来るねー!」
 ディーンドライブの駆動音が大きくなってソリに小さな振動も伝わるようになると、ドレッドノート号は一気に高度を上げました。博士の家とタバコ畑がだんだん小さくなっていきます。オンディー沼もよく見えます。まるでおもちゃの家が並んでいるようなオラクルベリーの町並みも見えてきました。
 空は青からウルトラマリン、そして暗くなってきました。
「成層圏飛行中、間もなく熱圏との境界面を通過します。通過」
 トナカイがいろいろな事を報告してくれます。2つの恒星の連星系のクリューガー60AとBがまぶしく輝いています。まだ、太陽は見えません。


つづく

先頭 表紙


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