himajin top
ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2003-12-18 ポロのクリスマス その8
2003-12-17 せんせい熱をだす その1
2003-12-16 せんせい熱をだす その2
2003-12-15 12月14日第1回作曲工房ポチヲ亭オフ会報告
2003-12-09 ポロの肖像
2003-12-08 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その1
2003-12-07 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その2
2003-12-06 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その3
2003-12-05 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その4
2003-12-04 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その5


2003-12-18 ポロのクリスマス その8

「サンタさん、プレゼントってどんなもの?」
「モノをプレゼントするのは、特別な場合だけじゃ。ワシ以外には誰もプレゼントできないものじゃ」
「え〜、なんだろう?」
「さあ、ポロどん、手伝ってくれるかな」
「うん、いいよ」
 ポロが渡されたのは、例のたっぷり膨らんだしろい布の袋でした。
「中身を手ですくって空に撒くんじゃ」
 ポロが袋に手を入れると、銀色の光の粉がふわふわと舞い始めました。
「わあ、きれい!」
「どんどん撒いていいぞ」
 粉は光りながら地上に向けて降っていきます。粉といっても、触っても何もありません。あるのは光だけでした。
「ねえ、サンタさん、これなあに?」
「ははは、ポロどん、今どんな感じじゃ?」
「うん、なんだか、とっても幸せな感じだよ〜!」
「それじゃよ、それ」
「え〜、幸せのもとなの?」
「そんなようなもんじゃ。効果は1回、期限は1年じゃ」
「それって、どういうこと?」
「この光を浴びたものは、何かのきっかけで幸福感にひたることができるのじゃ。ただし一回、そのきっかけも1年以内にないと効果がなくなる」
「じゃあさ、たとえば、秋に神田明神の境内でゆで立ての塩エンドウ食べて、おいしいなあって思ったことがきっかけで幸せになることある?」
「複雑な状況設定じゃが、もちろん、あり得るじゃろう」
「ふーん、ポロ納得しちゃったよ〜。いいなあ、北極星印、幸せのもと!」
「さあ、北海道は終わった。次は東北じゃ」
「東北って、福島県があるとこ?」
「そうじゃ。福島県にはいっぱい撒きたいのかの? たくさん撒いたからといって余計幸せになるというものでもないのじゃ」
「いいの」
 ポロは、福島県に光の粉をじゃんじゃん撒きました。埼玉県にもじゃんじゃん撒きました。東京なんて、もう力の限り撒きました。静岡県も同じくらい撒きました。岐阜県には、袋を逆さまにしちゃうほど撒きました。京都にもいっぱいいっぱい撒きました。広島県では袋の中に入り込んで、後ろ足で砂をかける要領でじゃんじゃんまきました。
「何をむきになって撒いとるんじゃ?」
「掲示板にね、書き込んでくれる人の住んでるとこにはいっぱい撒いたの」
「ひとつまみ撒けば、効果は公平なんじゃが、まあ、ポロどんの思いが伝わるということもあるじゃろう」
「そうだよ。いまね、岐阜県でね、お茶漬け食べて幸せだなあって思った人がいるに違いないんだから」
 最後に光の粉を撒いたのは波照間島でした。その頃には、ポロはすっかり光の粉にやられて、笑いが止まらなくなっていました。
「わははは。サンタさん、終わったよ、わはははは」
「おお、ポロどん、よかったのう。わはは」
 サンタさんも光にやられちゃったみたいです。わはは。わははは。
 それから、ドレッドノート号は作曲工房の近くの小学校にふわりと降りました。
「わはは。じゃあね、サンタさん。ドレッディ、乗せてくれてアリガト」
「うおっほっほっほ、ポロどん、また来年。あっはっは!」
「わはは。ごきげんよう、ポロさん。わはは。わはは」
 ドレッディまでが笑っていました。ポロたちは大笑いしながら別れました。スレーベルの音と笑い声が一緒になって空に消えていきました。

 作曲工房に帰ると、せんせいたちが笑っていました。
「わはは、せんせい、ただいま!」
「わはは、ポロ、どこ行ってたんだ!」
「そうよ、ポロ、どこいってのよ、あっはっは!」

 その頃、ポロが光の粉を撒きすぎてしまった地方では、みんなが笑い転げていたのでした。ゴメなさい、みんなポロのせいでした。

おしまい

先頭 表紙

ポロさん、ありがとう!お陰で幸せな気分になりました♪サンタさんからのプレゼントも来たし♪ / ミタ・ソウヤ ( 2003-12-26 12:56 )
みなさん、読んでくれてアリガトございます! / ポロ ( 2003-12-26 12:46 )
広島にも勢い良くまいてくれてありがとう。ポロちゃんのかっこうを想像するとクスッて笑ってしまいました。お陰でとっても心穏やかに過ごすことが出来たクリスマスでした。私はイブより25日の方が奥ゆかしくて好きです。 / のりちゃん ( 2003-12-26 11:07 )
東京にも横浜にもたくさんまいてくれてありがとう♪ 星を見ながら「なんかしあわせだなぁ〜」と思って帰宅したら本当に嬉しいプレゼントがあったの。いいお話をありがとう☆ / とねちゃん ( 2003-12-26 01:19 )
京都にもいっぱいいっぱい撒いてくれて、ありがとう。今日はとってもうれしい日でした。笑うと幸せになれるね。きっと森田さんも笑ってたと思います。 / こすもす ( 2003-12-25 22:38 )
福島県にも、粉をたくさんまいてくれてありがとう♪読んだら、やっぱり一人で笑い転げちゃいました(*^_^*) / moko ( 2003-12-25 20:44 )

2003-12-17 せんせい熱をだす その1

 その日の午後は演奏活動もしている美人のS先生のレッスンでした。せんせいはS先生の前では、いつもカッコつけてます。
「せんせいは、お風邪をひいたりなさいませんか?」
「はっはっは。この5年間風邪知らずですよ。気合いでがんばっています。風邪なんかひきません」
 せんせいは絶大な自信で答えました。
 その少しあと、たろちゃん(長女/中1/省略形は「ぴ」)の担任のせんせいから電話がかかってきました。
「たろちゃんが具合悪くて保健室で寝ています。迎えに来ていただけるでしょうか」
 ちょうど、試験中で早く家に帰ってきていたゴマのお兄ちゃん(長男/高3/省略形は「ふ」)が、迎えに行きました。
 たろちゃんは、熱とともに吐き気があって、ゴマのお兄ちゃんが看病に当たりました。
 たろちゃんの熱を測ってから、なんとなく足元のふらつくせんせいも熱をはかってみました。38.4度。
「がび〜ん!」
 じぶんの体温を知ったとたん、せんせいは立っていることもできなくなってしまいました。日頃から体温の低いせんせいですから、ふつうの人だったら39度くらいの感じです。ああ、天井がぐるぐる回っています。そういえば、食欲がなくて朝から何も食べていなかったっけなあ。そんなことを考えながら、ほんの1,2時間前のせんせいの健康に対する自信がガラガラと音を立てて崩れていったのでした。

 それから奥さんが仕事から帰ってきて、なぜか居間で仲良く寝ている2人を見て言いました。
奥「あら、2人ともどうしたの?」
せ「○△○※、〒◇〜!」
せんせいは、言葉にならない言葉を発しましたが、奥さんの目は、たろちゃんにだけ向けられていました。
奥「まあ、たろちゃん大丈夫? 水分とった?」
ぴ「うん、気持ち悪い」
奥「まあ、かわいそうに」
せ「■×▼★〜!」
せんせいも、必死に不調をうったえました。
奥「あなたはね、不摂生しているんだから当然の報いです。少しは反省しなさい」

つづく

先頭 表紙

2003-12-16 せんせい熱をだす その2

 夕食の準備の時間、せんせいは水分補給のためにダイニングに来てテーブルにつきました。ゴマのお兄ちゃんがキッチンを手伝っています。夕方の戦場です。そんな中でも猫のポロは、まだ地球語がとくいではないので、ダイニングテーブルに向かって大きな声で音読の練習をしていました。
ポ「キグチコヘイハ シンデモ クチカラ ラッパヲ ハナシマセンデシタ!」
奥「誰! そんなへんな本をポロに渡したのは?」
ふ「すぴ〜♪」
 ゴマのお兄ちゃんは知らん顔をして口笛を吹きながら炒め物をしています。
奥「ポロ、せんせいに風邪薬わたしてあげて」
ポ「はーい!」
 ポロは、第1格納庫(せんせいのおうちは収納にそれぞれ名前がついています)の薬箱から風邪薬をさがしましたが、見当たらなかったのでポロの風邪薬のカプセルを渡しました。ドーラ・メディコ製のヴォツェックというおクスリです。猫用だけど、ま、いいや。
ポ「せんせい、はい、かぜぐすり」
せ「あ、ありがとう。ポロ、おまえは親切だなあ」
ポ「気弱なときって、人のしんせつが身にしみるんだよ、せんせい」
 せんせいは、黄色いカプセルを麦茶でごくりと飲み込みました。黄色いカプセル。ポロはハッとしました。黄色いカプセルはヒケールじゃないか〜。
ポ「せんせい、たいへん。それヒケールだった! それもマエストロタイプ」
せ「うわっ、なんてこった」
ポ「5秒たつと効果が」
 と言っているうちにせんせいは鍵盤に見立てたテーブルをすごい勢いで叩き始めました。
せ「わあ、目まいがしてるのに指が動く」
ポ「せんせい、スタッカートばっかりの曲だね。曲を指定しなかったから、それって初期設定の曲だよ。何の曲だか分かる?」
せ「バラキレフのイスラメイだ! 一生弾くことはないと思っていた」
ポ「せんせい、なんだかカッコいいよ!」
ぴ「ねえ、とむりんがへんなことやってるよ」
その言葉で奥さんが気づきました。
奥「あなた、熱があるのに何ふざけてるのよ!」
せ「ち、違うんだ。止まらない!」
ポ「奥さん、ゴメなさい! ポロがおくすり間違えちゃったの」

 せんせいは、まるで世界的な大ピアニストのように演奏を続けました。ピアノの音が出ていないのに、ポロにはすてきな音楽が鳴りひびいているように聴こえたのでした。
 さわぎを聞きつけて、イチマルのお兄ちゃん(次男/中3/「海」)もやってきました。
 家族全員とポロが見守る中、音のない演奏会は続きました。だれもが、なんだか素晴らしいコンサートホールにいるような気がしていました。
 演奏が終わると、みんなから拍手が起こりました。でも、せんせいは立ち上がってその拍手にこたえることができませんでした。
 体力を使いきったせんせいはベッドに倒れ込んで、朝まで起きてきませんでした。

おしまい

先頭 表紙

2003-12-15 12月14日第1回作曲工房ポチヲ亭オフ会報告

 ポロでーす。ポロはオフ会に行けませんでしたが(shinさんは、音楽コラムをふかく研究しているので、真実はどこに、と、それをうたがっているとききました。さすがshinさん!)聞きかじった様子を詳しく(?)ご報告します。

 まず、皆さんがポチヲ亭にそろいました。たぶんせんせいは、お気に入りのシェフのポチ緒さん(せんせいがきのう命名)のお姿をしげしげと眺めて、幸せだなあっていう表情で席に着いたと思います(ポロてきに確信)。
 席順は、壁側が奥から甘夏さん♀、ミタ・ソウヤさん♂、せんせい♂、TackMさん♂、たまりんさん♀。通路側が奥からしおさん♂、shinさん♂、みわちゃんさん♀、o2kさん♂、おちゃめさん♀でした。せんせいは、両側とも男性だったのできっとがっかりだっとポロてきに思います。ミタ・ソウヤさんとTackMさんがそれぞれ隣と場所を交換すれば♂♀♂♀♂と並んで、せんせいにっこりです(ホント言うと、たぶん、せんせいはそういうことどうでもいい人です。というかセンスありません)。
 最初はせんせいの提案で他者紹介です。自分のことは言ってはいけません。適当にあることないこと何を言ってもOKです。shinさんなんて全員初めて会う人ばかりなので、きっと困ると思ったら、今日、ポロが人の姿で来てるかも知れないからとポロのことを話してくれたそうです。shinさんはポロのことなんて言ったのかなあ。せんせいの言ってる事って信用できないからポロしりたいなあ。ちなみにせんせいは「ポロさんは何も知らないふりをして、実は深いことを言っている。本当はすごい猫なんじゃないかと思います」と教えてくれました。ホントかなあ。ホントならうれしいなあ。shinさんていい人だなあ。誰かレスして教えてください。ポロってほめられるの大好き!
 それから、せんせいが徹夜で作った(うそ)記念曲集をみなさんに配って、きっと「バラードが入ってるから貴重品である、おのおのがた、くれぐれも大事にするのだぞ」と偉そうなことを言ったに違いありません。それから、せんせいが撮影した絵葉書3枚セットも配って、またきっと自慢したと思います。「はっはっは、篠山紀信かとむりんか、というくらいですよ。はっはっは!」 こんなところだと思います。
 ひとりひとりの発言内容もポロは聞きましたけど、ゴメなさい。長くなりすぎるのでほかの人のオフ会報告をお読みください。
 ポロがくやしいのは、shinさんの住んでる場所が当たらなかったことです。ポロはshinさんはきっと名古屋の近くの熱田神宮の近くの人だと思っていました。理由はポロの野生の勘です。でも岐阜県の人だそうです。ちょっと近かったかな。
 帰りにポチ緒さんが手作りのクッキーをおみやげにくれました。いい人だなあ。


先頭 表紙

そういえば、shinはイモようかんを食べたことがありませぬ〜 普通のようかんならモノリスちっくでしょうか(薄っ…)。 / shin ( 2003-12-16 22:47 )
shinさん。「ぽろ」ってニュートリノほとばしるイモようかんみたいなものでしょか? / ポロ ( 2003-12-16 10:54 )
岐阜県では、「韜晦」と書いて「ポロ」と呼びます。ホントです。ニュートリノもホトバシるくらいホントです。 / shin ( 2003-12-15 23:01 )

2003-12-09 ポロの肖像

文豪を終えて、疲れて眠るポロ。


先頭 表紙

いや〜、私も甘夏さんに「席を替わろうか?」って聞いたんですけどねぇ…甘夏さんが「惚れちゃいそうだからダ・メ・」って…後半はウソですけど(笑) / ミタ・ソウヤ ( 2003-12-15 12:44 )
おはなが…お口が…かわいい…(笑) / ミタ・ソウヤ ( 2003-12-15 12:39 )
ステキ!惚れた! / おちゃみ ( 2003-12-09 00:41 )

2003-12-08 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その1

〜ポロさん、即席で波動エンジンを作ってください〜

 こんな、緊急の連絡が入ったのでポロはせんせいに相談しました。
「ねえ、せんせい波動エンジンてなあに?」
「なんだ、いきなり。波動エンジンというのは深宇宙に行く宇宙船のエンジンだ。移動距離は?」
「えっと420万光年」
「そりゃ、遠いな。もう少し近ければ身近な材料で自作できるが、それだとシュレーディンガー商会に行かないとダメだな」
「そのシュデンガンガーってお店どこにあるの?」
「神田淡路町の駅から歩いてすぐだ。神田警察のそば」
「けーさつー!」
「あ、ポロ、土浦警察でしぼられたんだっけな。はーっはっは」
「笑わなくたっていいじゃないか〜!」
「大丈夫。警察の前を通らなくても行ける。それより店の営業時間が変わっていて、毎週風曜日だけだ」
「風曜日ってなんだ〜?」
「曜日には火とか水とか土、金属があるのに空気がない。これは、一週間を決めるときに風曜日を日曜日と曜日担当官がミスタイプをしたものだ。ポロ、日曜日という名前を見て変だと思わなかったか?」
「そ、そー言われてみれば、日曜日だけすっごく変だー。わ、変に見えてきた。ヘンだヘンだヘンだヘンだ」
「風には太陽風の意味もあるから、日を太陽と考えれば日曜日もあながち間違いではない。月曜日は月光なので、本当は光曜日だが、こちらもミスタイプで月曜日になってしまった」
「せんせい、すごいねー、なんでこんなこと知っているの?」
「ははは、全部作り話だ」
「ひ、ひどいよー、全部信じちゃったじゃないかー!」

 ポロは夜になると、全財産の1200円を持って、神田淡路町を目指しました。地下鉄は猫を乗せてくれないので、ポロは信号待ちしていたホロ付きトラックに飛び乗りました。目が覚めると朝になっていました。信号で止まったトラックから飛び降りると、近くにあった電柱で場所を確かめました。丸の内1丁目って書いてあります。さっそくせんせいに電話して聞きました。
「あ、せんせい、ポロだよ。今ね、丸の内1丁目っていうところにいるの・・・。うん、そう・・・。えっ、もう近いの? ふっふっふ。ポロの野生の勘てやつさ、まいったか、せんせい・・・。うん、えっと、新丸ビル? どれだろ・・・。えっと近くに大きな建物があるよ。甲府市役所って書いてあるみたい。えっ、住所をもう一度見るの? えっとねえ、甲府市丸の内1丁目。わ、大きい声出さないでよ、びっくりするじゃない。えっ、ここじゃないの? え゛〜!! 山梨県てどこなの。せんせい、迎えに来てよ〜、ポロ迷子になっちゃったよ〜、びえ〜」

つづく

先頭 表紙

2003-12-07 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その2

 それから5時間後、せんせいは甲府市役所まで愛車ユードラに乗ってポロを迎えに来てくれました。あたりまえだけど、せんせい機嫌最悪。帰りはものすごい渋滞で、東京についたときには夜になってしまいました。
「夜になっちゃったことだし、せっかくだからシュレーディンガー商会によって行こう」
「えっ、せんせい、ホント! ありがと。もう、ポロと一生口きいてくれないかと思ってたよ」
「作曲してたんだ。1曲できた」
「なーんだ、機嫌悪いのかと思ってた。へ〜、どんなのどんなの?」
「機嫌悪いさ〜、最悪だぞ〜!」
「なんで機嫌悪い人がニコニコしてんのさ〜」
「いい曲書けたからだよ」
 そうこうしているうちに、東京しびれ大学と神田警察署が見えてきました。先生は真っ暗な路地裏のコインパーキングにユードラを停めると盗難防止装置を作動させて、スタスタと歩き始めました。路地から路地を抜けていくと怪しげなお店がありました。ここがシュデンガンガーっていうお店に違いありません。
 薄暗い店内には、太陽系の模型や木星儀、両極に大きな黒点のあるシリウス儀などがありました。カウンターの奥からいかにも商人ぽいおじさんが出てきました。
「これはこれは、とむりん様、お久しゅうございます」
「こちらこそご無沙汰しています。これはポロと言います。猫の星から来ました。ポロ、ご挨拶なさい。シュレーディンガー商会のご主人の松戸さんだ。松戸博士の弟さんだ」
「ポ、ポロです。バイエル58番なら弾けます」
 ポロは、緊張のあまり、あらぬことを口走ってしまいました。
「ほう、猫の星からですか。ところで、今日は何がご入り用でしょうか」
「えっと、えっと、波動エンジンです。420万光年タイプ。往復できるのがいいです」
「あ、それなら、その右の棚にキットがございます」
「わ、すごい!ホントだ。波動エンジンキットD型って書いてある。これでも中距離なんだ。一番遠くまでいけるのはどれですか?」
「その奥の方にZ型という距離無制限、つまり130億光年用がご用意してあるはずですが」
「これって、いくらですか?」
「はい、130億円でございます」
「ひゃあ! たか〜〜〜い!」
「そうでございましょうか。スペースシャトルやH2Aロケットよりもだいぶお買い得ではないかと存じますが」
「D型はいくらですか?」
「500万円でございます」
「やっす〜い! ねえ、せんせい、買おうよ」
「130億円て聞いたから安く感じただけだ。ポロ500万円も持っているのか?」
「ううん、1200えん」
「それじゃあ、ポロさんの出世払いということでいですよ」
「ポロ、買うよ、買う!」
 ポロは契約書にハンコがわりに朱肉をつけた肉球をぺたんと押しました。
「あ、そだ。インスタント波動エンジンが欲しいんだった!」
「それなら、わたくしの弟がやっているディラック商会で、真空乾燥させてやればお湯で戻す即席タイプになります。湯戻し3分です」
「よし、それでばっちり。せんせい、帰ってさっそく組み立てようよ!」
「もう眠いからポロ勝手にやりなさい。では、お世話になりました」
「どうぞ、またいらしてください」
 ポロが、古びたドアを閉じて看板をもう一度見ると、そこには営業日は風曜日のみと書いてありました。
「風曜日って、ホントじゃん」
「そうだ。作り話と言ったが、実は本当のことだ」
「え、どっちなの?」
「それはポロが決めることだ。真実はひとつ。人の言葉の中にあるとは限らない。ポロの真実を探る力だけが答えを知っている」
「まーた、いじわるなんだから」

つづく

先頭 表紙

2003-12-06 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その3

 ポロは作曲工房に帰ると、夜行性の性質を生かして朝まで眠らずにキットを組み立てました(ホントはせっかちで待てないだけだけど)。
小麦粉200グラムに、砂糖同量をくわえて・・と・・・・。それから、このLSIを差し込んで、テスターで電流を測って・・・、えっと、ちょっと舐めてみて、ダシが足りなければ昆布を足す。短波長の青色ダイオードで密度を上げて・・、220度のオーブンで20分焼く。それから・・・極性を間違えないように注意して低温発酵させます・・か。
「よし、できだぞ! できた。なんだか不思議なものだなあ。機械みたいで機械じゃないなあ。お菓子みたいだけどお菓子じゃないし、ドロボーが来てもきっと持っていかないなあ。でも500万円だもんな。イモようかん何個分かな。そういえば消費税は別かなあ、そうなら525万円だなあ」
 そこへ、せんせいが起きてきました。
「あ、せんせい、遅く寝ても早起きだね」
「やあ、おはよう。すごいな、徹夜で作ったのか」
「ポロ夜行性だもん」
「おお、こんがり焼けていいできばえだ」
「でしょ、でしょ! やっぱ天才だよね、ポロ」
「なんでも宇宙戦艦ヤマトの関係者が波動エンジンを買いに来たときには、あまりにエンジンがSFっぽくないので、それをおさめる巨大なハウジングを作ってエンジンらしく見えるようにしたっていう話だ。エンジン自体は近距離用の20万円くらいのものだったらしいが、ハウジングは1億円もしたっていう話だよ」
「へえ! 宇宙戦艦ヤマトってヘボいなあ。20万円のエンジンかあ。ポロの勝ちじゃん!」
「大きさもショートケーキ1/6カットくらいだったらしい」
「ポロのエンジンなんて、バースデーケーキ1個分あるもんね!」
「よし、今夜はディラック商会に行こう」
「せんせい行ったことあるの?」
「ああ、以前グランドピアノを真空乾燥してもらって、現地でお湯かけて戻して出前演奏したことがある」
「うっそー!」
「ははは、これはウソ」
「あ、でも分かんないな、ホントかもしれない。真実にはポロがたどり着かなくちゃね」
「お、学習したな」
「だてに弟子やってないよ」

つづく

先頭 表紙

2003-12-05 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その4

 たっぷりとお昼寝をしたその日の晩、絶好調のポロはせんせいと一緒に、今度は江東区の門前仲町というところにあるディラック商会を訪ねました。お店は店休日でしたが、せんせいが電話でお願いして開けてもらったのでした。
 “真空専門ディラック商会”という看板のある古いお店に入ると、松戸博士の末の弟というちょっと太ったおじさんが待っていてくれました。
「これはこれはとむりん先生、いつもごひいきにありがとうございます」
「ご無沙汰しています。その節はお世話になりました」
「ああ、あのグランドピアノの真空乾燥は大変でしたね」
「これは、猫の星から来たポロと言います」
「こ、こんばんは。ポロです。ピアノの話、ホントだったんですね」
「ははは、せんせいとわたくしが口裏を合わせているだけかも知れませんよ。真実は、」
「やっぱり、ポロしだい?」
「そうでございます。ところで、波動エンジンの真空乾燥で、即席波動エンジンを作るということでございましたね」
「そ、そうです。これです」
「おお、こんがりとよく焼けていますね」
「おいしそうでしょ」
「はい。食べるわけには参りませんが。では、早速やってしまいましょう」
「ポロも、見ててもいいですか?」
「どうぞどうぞ、よろしゅうございますよ」
 奥の工場へ案内されると、大きなお釜を2つ合わせたようなものがありました。
「これが真空チェンバーでございます。インスタントラーメンのかやくの乾燥野菜ならあっと言う間にできますよ」
「へえ。波動エンジンならどのくらいかかるんですか?」
「5分くらいでしょうか」
 ウィ〜〜〜〜ン! 真空ポンプが動き始めました。ウィーンはオーストリアの首都だなあ、と思いましたが黙っていました。
 少したって機械が静かになると、松戸さんは真空チェンバーを開けて即席化された波動エンジンをとりだして、ポロに渡してくれました。
「わ、かる〜い!」
「はい、さようでございます。ただ今精密計量中ですが、あ、出ました。お湯740ミリリットルで戻せば3分で元に戻ります」
「おいくらですか」
「はい、消費税を入れて1050円になります」
「わあ、やっすーい! せんせい、ポロ持ってないから出しといてね」
「はい、たしかに頂戴いたしました。ありがとうございます」
「世の中には変わった仕事もあるんだねえ、せんせい」
「ディラック商会のホントの仕事は波動エンジンや野菜を即席化することじゃない」
「さようでございます。わたくしどもはディラック真空における対創成を主にやっております」
「なあに、それ?」
「ディラック真空と呼ばれる場では、何もないところから例えば正のイモようかんと負のイモようかんが生まれたりするんだ。それで、負の方のイモようかんだけを同じ質量の正の物質に触れさせるとそれは対消滅という現象を起こしてこの世から消え去る。そして、正のイモようかんだけが残るんだ。この宇宙も対創成によってできたんだが、どうにも説明のできない正負の非対称によって今の宇宙が存在している」
「で、それもウソかもしれないんでしょ。真実はポロがたどりつかなくちゃならないってやつ」
「そのとおりでございますよ」
「で、どんなモノができるの?」
「はい、いろいろなものが出て参りますが、先日は薬のようなカプセルが出て参りました」
 そういってご主人の松戸さんが見せてくれたのは、あのヒケールのマエストロタイプでした。
「わ、ヒケールだ。ポロ知ってるよ、これ。欲しいなあ」
「そうでございますか。それならば差し上げましょう。どうぞ」
「わ! アリガトございます」

つづく

先頭 表紙

2003-12-04 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その5

 帰りのユードラの中で、ポロは“即席波動エンジン”の完成と同じくらいヒケールも嬉しくて、前から横から上から下から何度も何度も黄色いカプセルを眺めていました。
「ねえ、せんせい」
「ん?」
「ポロ、こんど超絶技巧練習曲聴かせてあげるからね。1回だけだからね。耳そうじしてよっく聴いててよ。今度は販促タイプじゃないからね」
「あはは、楽しみだ」
「せんせいに聴かせるだけじゃもったいないな。せんせい、ポロに芸術劇場借りてよ! そしたらさ、そこでポロみんな呼んで弾くんだ」
「アンコールが来たらどうするんだ?」
「う〜ん、そっか〜。一曲だけで効き目が切れるからなあ。バイエル58番じゃだめかなあ。やっぱ、せんせいだけに聴かせてあげるよ。そしたら、きっとポロのこと見直しちゃうから」
「いやあ、今回の波動エンジンの件でも見直したぞ。ポロはなかなかいいヤツだ。さあ、早く525万円働かなくちゃ」
「わ、そうだった。ポロ、まだ一万円よりたくさんのお金って見たことないけど、宇宙一のイモようかんの和菓子職人になって、あっという間に返しちゃうぞ」
「ま、がんばってくれ」

 次の日、ポロは郵便局に行って宇宙ゆうパックで「即席波動エンジン」を送りだしました。家に帰って送り状をよく見たら、到着は420万年後になっていました。郵便局のロケットには波動エンジンを積んでいないみたいです。ダメだなあ。ポロに頼めば作ってあげるのに。
 というわけでshinさん、ちょっと到着は遅れますが、お湯を用意して楽しみに待っていてください。

おしまい

先頭 表紙


[次の10件を表示] (総目次)