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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2003-12-08 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その1
2003-12-07 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その2
2003-12-06 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その3
2003-12-05 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その4
2003-12-04 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その5
2003-10-29 続・月夜の出来事 その1
2003-10-28 続・月夜の出来事 その2
2003-10-27 続・月夜の出来事 その3
2003-10-19 月夜の出来事 その1
2003-10-18 月夜の出来事 その2


2003-12-08 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その1

〜ポロさん、即席で波動エンジンを作ってください〜

 こんな、緊急の連絡が入ったのでポロはせんせいに相談しました。
「ねえ、せんせい波動エンジンてなあに?」
「なんだ、いきなり。波動エンジンというのは深宇宙に行く宇宙船のエンジンだ。移動距離は?」
「えっと420万光年」
「そりゃ、遠いな。もう少し近ければ身近な材料で自作できるが、それだとシュレーディンガー商会に行かないとダメだな」
「そのシュデンガンガーってお店どこにあるの?」
「神田淡路町の駅から歩いてすぐだ。神田警察のそば」
「けーさつー!」
「あ、ポロ、土浦警察でしぼられたんだっけな。はーっはっは」
「笑わなくたっていいじゃないか〜!」
「大丈夫。警察の前を通らなくても行ける。それより店の営業時間が変わっていて、毎週風曜日だけだ」
「風曜日ってなんだ〜?」
「曜日には火とか水とか土、金属があるのに空気がない。これは、一週間を決めるときに風曜日を日曜日と曜日担当官がミスタイプをしたものだ。ポロ、日曜日という名前を見て変だと思わなかったか?」
「そ、そー言われてみれば、日曜日だけすっごく変だー。わ、変に見えてきた。ヘンだヘンだヘンだヘンだ」
「風には太陽風の意味もあるから、日を太陽と考えれば日曜日もあながち間違いではない。月曜日は月光なので、本当は光曜日だが、こちらもミスタイプで月曜日になってしまった」
「せんせい、すごいねー、なんでこんなこと知っているの?」
「ははは、全部作り話だ」
「ひ、ひどいよー、全部信じちゃったじゃないかー!」

 ポロは夜になると、全財産の1200円を持って、神田淡路町を目指しました。地下鉄は猫を乗せてくれないので、ポロは信号待ちしていたホロ付きトラックに飛び乗りました。目が覚めると朝になっていました。信号で止まったトラックから飛び降りると、近くにあった電柱で場所を確かめました。丸の内1丁目って書いてあります。さっそくせんせいに電話して聞きました。
「あ、せんせい、ポロだよ。今ね、丸の内1丁目っていうところにいるの・・・。うん、そう・・・。えっ、もう近いの? ふっふっふ。ポロの野生の勘てやつさ、まいったか、せんせい・・・。うん、えっと、新丸ビル? どれだろ・・・。えっと近くに大きな建物があるよ。甲府市役所って書いてあるみたい。えっ、住所をもう一度見るの? えっとねえ、甲府市丸の内1丁目。わ、大きい声出さないでよ、びっくりするじゃない。えっ、ここじゃないの? え゛〜!! 山梨県てどこなの。せんせい、迎えに来てよ〜、ポロ迷子になっちゃったよ〜、びえ〜」

つづく

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2003-12-07 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その2

 それから5時間後、せんせいは甲府市役所まで愛車ユードラに乗ってポロを迎えに来てくれました。あたりまえだけど、せんせい機嫌最悪。帰りはものすごい渋滞で、東京についたときには夜になってしまいました。
「夜になっちゃったことだし、せっかくだからシュレーディンガー商会によって行こう」
「えっ、せんせい、ホント! ありがと。もう、ポロと一生口きいてくれないかと思ってたよ」
「作曲してたんだ。1曲できた」
「なーんだ、機嫌悪いのかと思ってた。へ〜、どんなのどんなの?」
「機嫌悪いさ〜、最悪だぞ〜!」
「なんで機嫌悪い人がニコニコしてんのさ〜」
「いい曲書けたからだよ」
 そうこうしているうちに、東京しびれ大学と神田警察署が見えてきました。先生は真っ暗な路地裏のコインパーキングにユードラを停めると盗難防止装置を作動させて、スタスタと歩き始めました。路地から路地を抜けていくと怪しげなお店がありました。ここがシュデンガンガーっていうお店に違いありません。
 薄暗い店内には、太陽系の模型や木星儀、両極に大きな黒点のあるシリウス儀などがありました。カウンターの奥からいかにも商人ぽいおじさんが出てきました。
「これはこれは、とむりん様、お久しゅうございます」
「こちらこそご無沙汰しています。これはポロと言います。猫の星から来ました。ポロ、ご挨拶なさい。シュレーディンガー商会のご主人の松戸さんだ。松戸博士の弟さんだ」
「ポ、ポロです。バイエル58番なら弾けます」
 ポロは、緊張のあまり、あらぬことを口走ってしまいました。
「ほう、猫の星からですか。ところで、今日は何がご入り用でしょうか」
「えっと、えっと、波動エンジンです。420万光年タイプ。往復できるのがいいです」
「あ、それなら、その右の棚にキットがございます」
「わ、すごい!ホントだ。波動エンジンキットD型って書いてある。これでも中距離なんだ。一番遠くまでいけるのはどれですか?」
「その奥の方にZ型という距離無制限、つまり130億光年用がご用意してあるはずですが」
「これって、いくらですか?」
「はい、130億円でございます」
「ひゃあ! たか〜〜〜い!」
「そうでございましょうか。スペースシャトルやH2Aロケットよりもだいぶお買い得ではないかと存じますが」
「D型はいくらですか?」
「500万円でございます」
「やっす〜い! ねえ、せんせい、買おうよ」
「130億円て聞いたから安く感じただけだ。ポロ500万円も持っているのか?」
「ううん、1200えん」
「それじゃあ、ポロさんの出世払いということでいですよ」
「ポロ、買うよ、買う!」
 ポロは契約書にハンコがわりに朱肉をつけた肉球をぺたんと押しました。
「あ、そだ。インスタント波動エンジンが欲しいんだった!」
「それなら、わたくしの弟がやっているディラック商会で、真空乾燥させてやればお湯で戻す即席タイプになります。湯戻し3分です」
「よし、それでばっちり。せんせい、帰ってさっそく組み立てようよ!」
「もう眠いからポロ勝手にやりなさい。では、お世話になりました」
「どうぞ、またいらしてください」
 ポロが、古びたドアを閉じて看板をもう一度見ると、そこには営業日は風曜日のみと書いてありました。
「風曜日って、ホントじゃん」
「そうだ。作り話と言ったが、実は本当のことだ」
「え、どっちなの?」
「それはポロが決めることだ。真実はひとつ。人の言葉の中にあるとは限らない。ポロの真実を探る力だけが答えを知っている」
「まーた、いじわるなんだから」

つづく

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2003-12-06 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その3

 ポロは作曲工房に帰ると、夜行性の性質を生かして朝まで眠らずにキットを組み立てました(ホントはせっかちで待てないだけだけど)。
小麦粉200グラムに、砂糖同量をくわえて・・と・・・・。それから、このLSIを差し込んで、テスターで電流を測って・・・、えっと、ちょっと舐めてみて、ダシが足りなければ昆布を足す。短波長の青色ダイオードで密度を上げて・・、220度のオーブンで20分焼く。それから・・・極性を間違えないように注意して低温発酵させます・・か。
「よし、できだぞ! できた。なんだか不思議なものだなあ。機械みたいで機械じゃないなあ。お菓子みたいだけどお菓子じゃないし、ドロボーが来てもきっと持っていかないなあ。でも500万円だもんな。イモようかん何個分かな。そういえば消費税は別かなあ、そうなら525万円だなあ」
 そこへ、せんせいが起きてきました。
「あ、せんせい、遅く寝ても早起きだね」
「やあ、おはよう。すごいな、徹夜で作ったのか」
「ポロ夜行性だもん」
「おお、こんがり焼けていいできばえだ」
「でしょ、でしょ! やっぱ天才だよね、ポロ」
「なんでも宇宙戦艦ヤマトの関係者が波動エンジンを買いに来たときには、あまりにエンジンがSFっぽくないので、それをおさめる巨大なハウジングを作ってエンジンらしく見えるようにしたっていう話だ。エンジン自体は近距離用の20万円くらいのものだったらしいが、ハウジングは1億円もしたっていう話だよ」
「へえ! 宇宙戦艦ヤマトってヘボいなあ。20万円のエンジンかあ。ポロの勝ちじゃん!」
「大きさもショートケーキ1/6カットくらいだったらしい」
「ポロのエンジンなんて、バースデーケーキ1個分あるもんね!」
「よし、今夜はディラック商会に行こう」
「せんせい行ったことあるの?」
「ああ、以前グランドピアノを真空乾燥してもらって、現地でお湯かけて戻して出前演奏したことがある」
「うっそー!」
「ははは、これはウソ」
「あ、でも分かんないな、ホントかもしれない。真実にはポロがたどり着かなくちゃね」
「お、学習したな」
「だてに弟子やってないよ」

つづく

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2003-12-05 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その4

 たっぷりとお昼寝をしたその日の晩、絶好調のポロはせんせいと一緒に、今度は江東区の門前仲町というところにあるディラック商会を訪ねました。お店は店休日でしたが、せんせいが電話でお願いして開けてもらったのでした。
 “真空専門ディラック商会”という看板のある古いお店に入ると、松戸博士の末の弟というちょっと太ったおじさんが待っていてくれました。
「これはこれはとむりん先生、いつもごひいきにありがとうございます」
「ご無沙汰しています。その節はお世話になりました」
「ああ、あのグランドピアノの真空乾燥は大変でしたね」
「これは、猫の星から来たポロと言います」
「こ、こんばんは。ポロです。ピアノの話、ホントだったんですね」
「ははは、せんせいとわたくしが口裏を合わせているだけかも知れませんよ。真実は、」
「やっぱり、ポロしだい?」
「そうでございます。ところで、波動エンジンの真空乾燥で、即席波動エンジンを作るということでございましたね」
「そ、そうです。これです」
「おお、こんがりとよく焼けていますね」
「おいしそうでしょ」
「はい。食べるわけには参りませんが。では、早速やってしまいましょう」
「ポロも、見ててもいいですか?」
「どうぞどうぞ、よろしゅうございますよ」
 奥の工場へ案内されると、大きなお釜を2つ合わせたようなものがありました。
「これが真空チェンバーでございます。インスタントラーメンのかやくの乾燥野菜ならあっと言う間にできますよ」
「へえ。波動エンジンならどのくらいかかるんですか?」
「5分くらいでしょうか」
 ウィ〜〜〜〜ン! 真空ポンプが動き始めました。ウィーンはオーストリアの首都だなあ、と思いましたが黙っていました。
 少したって機械が静かになると、松戸さんは真空チェンバーを開けて即席化された波動エンジンをとりだして、ポロに渡してくれました。
「わ、かる〜い!」
「はい、さようでございます。ただ今精密計量中ですが、あ、出ました。お湯740ミリリットルで戻せば3分で元に戻ります」
「おいくらですか」
「はい、消費税を入れて1050円になります」
「わあ、やっすーい! せんせい、ポロ持ってないから出しといてね」
「はい、たしかに頂戴いたしました。ありがとうございます」
「世の中には変わった仕事もあるんだねえ、せんせい」
「ディラック商会のホントの仕事は波動エンジンや野菜を即席化することじゃない」
「さようでございます。わたくしどもはディラック真空における対創成を主にやっております」
「なあに、それ?」
「ディラック真空と呼ばれる場では、何もないところから例えば正のイモようかんと負のイモようかんが生まれたりするんだ。それで、負の方のイモようかんだけを同じ質量の正の物質に触れさせるとそれは対消滅という現象を起こしてこの世から消え去る。そして、正のイモようかんだけが残るんだ。この宇宙も対創成によってできたんだが、どうにも説明のできない正負の非対称によって今の宇宙が存在している」
「で、それもウソかもしれないんでしょ。真実はポロがたどりつかなくちゃならないってやつ」
「そのとおりでございますよ」
「で、どんなモノができるの?」
「はい、いろいろなものが出て参りますが、先日は薬のようなカプセルが出て参りました」
 そういってご主人の松戸さんが見せてくれたのは、あのヒケールのマエストロタイプでした。
「わ、ヒケールだ。ポロ知ってるよ、これ。欲しいなあ」
「そうでございますか。それならば差し上げましょう。どうぞ」
「わ! アリガトございます」

つづく

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2003-12-04 ポロ、波動エンジンを作るの巻 その5

 帰りのユードラの中で、ポロは“即席波動エンジン”の完成と同じくらいヒケールも嬉しくて、前から横から上から下から何度も何度も黄色いカプセルを眺めていました。
「ねえ、せんせい」
「ん?」
「ポロ、こんど超絶技巧練習曲聴かせてあげるからね。1回だけだからね。耳そうじしてよっく聴いててよ。今度は販促タイプじゃないからね」
「あはは、楽しみだ」
「せんせいに聴かせるだけじゃもったいないな。せんせい、ポロに芸術劇場借りてよ! そしたらさ、そこでポロみんな呼んで弾くんだ」
「アンコールが来たらどうするんだ?」
「う〜ん、そっか〜。一曲だけで効き目が切れるからなあ。バイエル58番じゃだめかなあ。やっぱ、せんせいだけに聴かせてあげるよ。そしたら、きっとポロのこと見直しちゃうから」
「いやあ、今回の波動エンジンの件でも見直したぞ。ポロはなかなかいいヤツだ。さあ、早く525万円働かなくちゃ」
「わ、そうだった。ポロ、まだ一万円よりたくさんのお金って見たことないけど、宇宙一のイモようかんの和菓子職人になって、あっという間に返しちゃうぞ」
「ま、がんばってくれ」

 次の日、ポロは郵便局に行って宇宙ゆうパックで「即席波動エンジン」を送りだしました。家に帰って送り状をよく見たら、到着は420万年後になっていました。郵便局のロケットには波動エンジンを積んでいないみたいです。ダメだなあ。ポロに頼めば作ってあげるのに。
 というわけでshinさん、ちょっと到着は遅れますが、お湯を用意して楽しみに待っていてください。

おしまい

先頭 表紙

2003-10-29 続・月夜の出来事 その1

 ポロは、毎日一生懸命ピアノを練習していました。うまく弾けそうなのは、単純な音並びのバイエル58番だけでした。来る日も来る日も、ポロはピアノに向かって練習しました。
 そうこうしているうちに、本当に満月の晩が近づいてきました。練習を重ねるうちに、ポロは、だんだん覚悟も決まっておだやかな気持ちになっていました。
満月の晩は、よく晴れた星月夜でした。
 あ、来たな・・・。ポロの足が勝手に動き始めました。明るく幻想的な月の下を、ポロはどんどん歩いていきます。10分も歩くと、もうポロの知らない街へ入ってしまいました。それでもポロの足は迷わずに道を曲がり、橋を渡り、どんどん進んで行きました。あれ、風車があるぞ。こんなところがあったのか、なんて思いながらポロは思わぬ遠いところまで来てしまったことに気づきました。
 ・・・夢では近所だったんだけどな・・・
 そう思っていると、見覚えのある景色。あ、ピアノの音だ。
 その気もないのに、お約束どおりポロはピアノの音が漏れる窓辺で鼻歌を歌ってしまいました。


先頭 表紙

あっこさん、読んでくださってアリガトございます。つぎのお話もがんばりま〜す! / ポロ ( 2003-11-05 22:50 )
この星が流れている時間、ポロちゃんはピアノを弾いていたのかなぁ…素敵な写真ですね〜。 / あっこ ( 2003-11-04 04:54 )

2003-10-28 続・月夜の出来事 その2

「どなたですか?」
 窓が開いて、声をかけたのはあの夢のお姉さんでした。ポロは百回も練習したセリフを言いました。
「ぽ、ポロといいます。グレン・グールドって言いましたけど、そうじゃありません。ぴ、ピアノはバイエル58番なら弾けます!」
緊張のせいか、とても早口の棒読みになってしまいました。
「まあ、おもしろい方ね。それじゃあ、バイエル58番を弾いてくださるかしら?」
「よ、よろこんで」
 ・・・やったー、これでヒケールを飲まなくても済んだぞ。せんせいのことも言わなかったし、問題はバイエル58番だ。がんばれポロ、歴史を変えるんだ!・・・
 ポロは自分で自分をはげましながらピアノに向かいました。

みいどおみいどおみいそおみいどおれえそおふぁあれえみいいいどおおお〜♪

 ・・・ダメじゃないか、いつもせんせいに言われている「子ども弾き」になっちゃってるよ、どしよどしよ・・・

れみれみ、れみ、えっとれみれみえみふぁそみいいいどおおお〜♪

 ・・・わ、おまけに間違えちゃった・・・
 無限のような長い1分が過ぎて、それでもポロはなんとか最後までたどりつきました。
「とってもお上手だったわ」
 ・・・お、お世辞だ〜、これが正真正銘のお世辞だったのか〜! せんせいはお世辞を言わないから、ちっとは言ってほしいなーって思ったけど、お世辞ってこんなにつらいものだったのか〜、せんせいゴメんね〜・・・
「本当よ、あなたは一生懸命だったわ。私もピアノを弾き始めたころはそうだったわ」
「えっ?」
「一生懸命弾いてくれる人なんて、そうはいないものよ」
「ホント?それ、ホント?」
「ええ、本当よ。そんなことあるわけないけれど、なんだかポロさんが私に聴かせるために毎日猛練習してくれたんじゃないかしら、って思ったほどだったわ」
「はは、ははは。いえ、そんなことはありません。ポロはただの通りすがりのピアニスト。実力です、ははは」
 急にポロは態度が大きくなって、目が不自由なのに、お姉さんが用意してくれたお茶とお茶菓子を遠慮しないでパクつきました。それは、イモようかんだったのです。
「お茶の用意くらいできるのよ。でも、きれいに盛りつけたりできているかが気になるの」
「ぽ、ポロ、そんなこと、もぐもぐ、気にしたこと、ありません。もぐもぐ。だって、イモようかん大好きだから。もぐもぐ」
「それは、よかったわ」

 ポロは、すっかり上きげんでお姉さんのお家を後にしました。
 わ、こんなに遠くまで来ちゃって帰り道が分かんないや。でもポロは、せんせいにはない猫の帰巣本能を使って歩き始めました。ふふふ、せんせいに勝った!

先頭 表紙

ポロちゃん(ちゃんでいきます。笑)こんばんわ。こちらにもおじゃましてみました。「一生懸命」弾いている姿って素敵だし、聴いている相手のかたにも必ず伝わるものですよね。そう信じて、毎日の練習も常に「一生懸命」弾こうと考えさせられた私でした。 / あっこ ( 2003-11-04 04:50 )

2003-10-27 続・月夜の出来事 その3

ぷるるるるる! ぷるるるるる!
「はい、野村です」
「あ、こちら土浦警察ですが、お宅の迷い猫を保護しています」
「つ、土浦って、茨城県の土浦ですか?」
「はい、こちらまでおいでいただけるでしょうか」
「は、はい」

    *   *   *

「でさ、でさ、せんせい」
「なんだよ」
「イモようかん、おいしかったんだ」
「それで」
「せんせい、機嫌なおしてよ〜」
「土浦まで迎えに行くのは遠かったんだぞ」
「ポロだって遠かったもん。二週間もかかっちゃった」
「もう、マサユメ・カプセルとかヒケールとか、怪しげなものは飲むんじゃないぞ」
「は〜い、せんせい!」
「おまえ、ぜんぜん懲りてないみたいに見えるぞ」
「ポロは、懲りない猫なのよ〜♪ あ、せんせいそっち行かないで・・」


 それから、ポロは何度かお姉さんのお家を探しましたが、どうしても見つかりませんでした。

先頭 表紙

2003-10-19 月夜の出来事 その1

 それは、ある日の午後のお茶の時間のことでした。
 せんせいは作曲を終えてヘロヘロになってリビングに降りてきました。
「せんせい、おつかれ!」
「ああ、くたびれたよ」
「お茶にしよ! ねねね」
 と言っても、ポロは何もできないのでせんせいが全部自分で紅茶とかいれます。
「おくさんがね、ワッフルがあるから食べてもいいって言ってたよ」
「そうか。じゃ、食べようか」
もちろん、ポロはイモようかんです。
「あのね、あのね、せんせい。きのうポロ、ゆめ見たんだよ」
「どんな夢だい」
「聞きたい?」
「いや別に」
「あ、いじわるいわる、聞きたいって言ってよ」
「じゃ、聞きたい」
「でしょでしょ。じゃあ、ポロがとくべつに聞かせてあげるからね、とくべつだよ」


先頭 表紙

うわ〜っ!なんておいしそうな焼き色!これは奥様のお手製ですか?先生もポロちゃんもしあわせだな〜。 / 甘夏 ( 2003-10-17 20:51 )

2003-10-18 月夜の出来事 その2

 満月の晩にポロがお散歩していると、どこからかピアノの音が聴こえてきました。
〜おや、どこから聴こえてくるのだろう〜
 それは、すぐ近くの家の一階の窓からでした。ポロが立ち止まって目を閉じて聴き入っていると、ついついいつものクセでピアノに合わせて鼻歌が出てしまったのでした。
「どなたですか?」
 窓が開いて、声をかけたのは盲目の少女でした。ポロは、とっさにネコであることを隠すために、口からでまかせを言いました。
「え、えっと、グールドといいます。グレン・グールド」
「まあ、知っています!」
「ひゃっ! えっと、そうじゃなくてグレン・グールドのファンのとむりんと言います」
「まあ、変わったお名前ね。ピアノを弾かれるのですか」
「ええ、ちょっとだけ」
「まあ、お入りになってピアノを聴かせてくださいな」
 〜やば。ポロ、バイエルしか弾けないもんな。それもへたっぴにしか〜
「さあ、どうぞお入りになって」
 ポロは、なりゆきでピアノの前に招き入れられてしまいました。でも、そのとき思いだしました。ポロだって4次元ポケットを持っているのです。確か、それを飲むと少しの間ピアノが弾けるようになる「ヒケール」というカプセルがあったはず。ヒケールは猫の星の「ドーラ・メディコ」という会社の製品で、マエストロタイプ、ビギナータイプ、個人用、団体用、湿布式、ちょっと大きめとかいろいろと作られていて、ポロもどれか持っているはずでした。がさごそがさごそ。あ、あったあった。えっと、販促キャンペーン用って書いてあります。あ、これ、猫の星中央駅のコンコース歩いてたときキャンペーンやってるお姉さんからもらったやつだ。
 ま、これで、とりあえずピアノが弾けるはず。ポロはせんせいの「月の滴」が弾きたかったので、カプセルに「月の滴」って書いてごくりと飲み込んでピアノに向かいました。
「とむりんさん、何を弾いてくださるの」
「私の作曲した月の滴という曲です。では、お聴きください」
 ポロは鍵盤に指を置いてから、カッコつけて心の中で5つ数えました。1、2、3、4,5・・・ドかちゃかドかちゃかドかちゃかドかちゃか、ちゃーんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん、ちゃーんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん・・・・
 わ、なんだ、この曲は! あ、ヒケールのキャンペーンソングだ! 販促用ってこういうことだったのか。
 ドかちゃかドかちゃかドかちゃかドかちゃか、ちゃーんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん、ちゃーんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん・・・・
「あ、あの、とむりんさん、おじょうずなんですけど、こんなに大きな音で弾かれては近所から苦情が来てしまいます」
 ドかちゃかドかちゃかドかちゃかドかちゃか、ちゃーんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん、ちゃーんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん・・・・
 「と、とまらないよ〜!」
 ドかちゃかドかちゃかドかちゃかドかちゃか、ちゃーんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん、ちゃーんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん・・・・
 それから何分かたって、やっとヒケールの効果が切れました。
「ふー、やっと止まった」
「とっても賑やかな曲を作曲なさるんですね」
「あ、いえ、それほどでも・・」(なに言ってんだ、ポロ)
「また、遊びに来てくださいね」(帰るとも言ってないのに。はっきり言ってお世辞)
「では、先を急ぎますので」


先頭 表紙

吸い込まれそうなお月さまと空…。すてき…。 / 甘夏 ( 2003-10-17 20:47 )

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