himajin top
ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2003-04-06 猫の星の歴史教科書第15回「危険なクリスマス」その3
2003-04-05 猫の星の歴史教科書第14回「軌道上のクリスマス」その1
2003-04-04 猫の星の歴史教科書第14回「軌道上のクリスマス」その2
2003-04-03 猫の星の歴史教科書第14回「軌道上のクリスマス」その3
2003-04-02 猫の星の歴史教科書第14回「軌道上のクリスマス」その4
2003-04-01 猫の星の歴史教科書第13回「クリスマスの出来事」その1
2003-03-31 猫の星の歴史教科書第13回「クリスマスの出来事」その2
2003-03-30 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その1
2003-03-29 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その2
2003-03-28 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その3


2003-04-06 猫の星の歴史教科書第15回「危険なクリスマス」その3

 パパ 「それはひどい」
 サンタ「地表にたどり着けなかった仲間もいるはずじゃ。これはスペースガードシステムのせいでも仲間のせいでもない。人事担当者の責任じゃ。帰ったらただではおかん!」
 パパ 「救援船はいつ来るのですか?」
 サンタ「今日は世界時で何日の何時かな?」
 パパ 「12月25日の昼過ぎだから、世界時だと午前5時前です」
 サンタ「うん、そうか。脱出時に救援船の手配をしたから、まもなく地球-月ラグランジュポイント1に行かねばならん。救援船は世界時午前6時に来るのじゃ。今ならぎりぎり間に合うじゃろう。本当にお世話になり申した。あのようなところにワシは戻りたくはないが、どうしても戻ってサンタの組織を解体せねばならん。人は、すぐに組織を作りたがるが、どうじゃ。地球の歴史でもうまくいった組織はあるかの? 動物たちは組織などに頼らなくとも継続可能な世界を維持してきたはずじゃ。わしらも学ばねばならん。時代は常に良いほうへ進むとは限らんのだが、そうしなければならん」
 そういうとサンタクロースはふらふらしながらも立ち上がりました。

 サンタのそりはパパがガレージに押し込んでおきました。一部被弾して壊れていましたが、外殻だけのダメージで、内部は無事に見えました。
 「なあに、火星まで行くのはきついが、地球の周回軌道なら大丈夫じゃ。あんたたちのおかげで怪我の手当も万全じゃ。そうそう。貰いもので申し訳ないが、お礼にこれを受け取ってくだされ。ワシには価値が分からん古いものじゃ」
 サンタクロースは錆びた小さなコインをひとつ風太に手渡した。
 反重力エンジンに火が入ると、サンタクロースは深々と頭を下げてからそりを浮かせました。間もなく、ステルスモードに移行するとそりはふわっと消えるように姿を消しました。
 風太 「ススムじいちゃんから聞いたときよりも新型になっているね」
 ママ 「あたし、まだ信じられないわ」
 パパ 「まったくだ」
 風太とパパは、サンタからもらったコインを「コイン名鑑」で検索しました。まもなく見つかったそのコインのデータには次のように記されていました。

 -開元通宝。西暦723年に遣唐使が唐から持ち帰った銅貨。これを元にわが国最古の貨幣のひとつである和銅開珎が鋳造されたとされる。

 「ねえ、パパ」
 「なんだ?」
 「これって、ひょっとしてお宝?」
 「どうだかな、いや、わが家ではすごいお宝だ」
 「そうだよね、そうだよね、とっても昔のお金だもんね」

 よく晴れてまだ午後早い時刻であるにもかかわらず、すでに夕方のような気配の中を、風太と父親は母親のメモを持って、そんな話をしながら夕食の買い物のために歩き始めたのでした。


おしまい

 これは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房

先頭 表紙

2003-04-05 猫の星の歴史教科書第14回「軌道上のクリスマス」その1

ポロでーす! 今日は少し未来のお話です。ポロが乗って帰る予定のオリンピア67号も登場します。では、お楽しみください。



軌道上のクリスマス

 オレンジ色のユニフォームを着ているのは電力・電装要員、グレーは原子力要員、白は医療スタッフ、グリーンは検査、赤は化学燃料、ブルーは整備のエンジニアたちでした。巨大な深宇宙探査船「リンダラハ」が直接着陸していられるのも、火星の小さな重力のおかげでした。まもなく地球に接近するハレー彗星からの知的電波をとらえたという報告は世界中を駆けめぐり、ちょうどカイパーベルトへの探査を控えた「リンダラハ」がハレー彗星を調査することになりました。そのため、出発日時が数日早まって徹夜の準備作業が行なわれているところでした。
 その巨大な乾ドックの隅にススムたちが操るサンドスウィーパ(自走式砂かき機)のプラットフォームがありました。ススムたちも宇宙船技術者達と同じ入り口を使っていましたが、彼らはススム達を空気のように無視しました。ススムは気にもとませんでしたが、相棒のレビーは「けっ、あいつらオレ達を馬鹿にしてやがるんだ」と、ひとり毒づいていました。
 レビー「ススム、今日は4号機だ。カードを入れろ」
 ススムは黙ってスウィーパの4号機に乗り込むとIDカードをコントロールパネルに差し込みました。コイルが発熱してジェネレータに火が入るとスウィーパは目覚め、騒音と振動を伴って巨大なパワーコンデンサがいきり立ちます。ススムは、この瞬間が好きでした。相棒のレビーが乗り込んだのを確かめるとグリップのアクセルレバーを握りしめました。樹脂製の分厚いキャタピラが砂を噛み、スウィーパは悲鳴にも似たきしみ音を上げて簡易エアロックに向かいます。無線機がコントロール室のチーフの言葉を伝えてきました。
 チーフ「リンダラハ発進まであと6時間だ。予報によると12時間以内に砂嵐はない。発射台までの全ての砂を排除しろ。1号機から4号機まではエリアZ、5号機から8号機はエリアT、9号機から12号機まではエリアQだ、以上」
 エアロックを抜けて与圧ドームから外に出ると音の伝わりにくい静かな世界でした。重力が小さいので舞い上がった砂は、ふわふわとなかなか地上に落ちません。だからサンドスウィーパの樹脂製キャタピラも砂を巻き上げない特殊な構造をしていました。
 エリアZは、実際には使われない場所でした。しかし、報道関係者からはよく見えるので一番きれいにすることを求められました。砂かきは宇宙船の安全のために行なわれているのに何とも矛盾した話でした。ススムはスウィーパの操縦を担当し、レビーは砂かきのオペレータとして乗り組んでいました。砂かき用のプローヴを地面近くに器用に近づけると、砂はみるみる吸い込まれ、埃が出ないように水分を与えられてから区域外に飛ばされます。作業が軌道に乗るとレビーが話しかけてきました。
 レビー「ススム、どうしてこんな仕事してるんだ。おまえ、いつも少しもしゃべらないし、なんか気味悪いぞ。今日は自分のことを少しは話せよ」
 ススムは苦笑いのような笑みを浮かべるとゆっくりと口を開いた。
 ススム「ああ。子どもの頃、一緒に住んでた祖母がよくいろいろな話をしてくれたんだ。その中でお気に入りだったのが時計オオカミの話で、その時計オオカミが電気ヒツジ市宇宙空港のサンドスウィーパを動かしていたからさ。だからサンドスウィーパに乗りたかった」

先頭 表紙

2003-04-04 猫の星の歴史教科書第14回「軌道上のクリスマス」その2

 レビーは両手を少し広げて身をすくめると「まるで話にならん」というポーズをしました。実際、ススムも誰かに理解してもらおうなどと思ったことはありませんでした。祖母の話に出てくるオオカミCLOKは、人類滅亡後の太陽系に残ったアンドロイドの動物達のひとりです。次々に野生動物を絶滅させてきた人間達は、罪滅ぼしに動物のアンドロイドを作ったのでした。動物アンドロイド達は人類の僕(しもべ)として働きました。そして、人類が滅亡した後もアンドロイド達は人類がまだ生存していたときと同じように世界の機能を保とうとしていたのです。だから誰も乗客のいない宇宙船を定時に飛ばし、そのためにきちんと砂かきもしたのです。野菜工場や、人工蛋白工場では食べる人間がいなくなったにもかかわらず生産は続き、レストランでは毎日定時に料理が供され、一定時間後にはその全量が食べ残しとして処分され続けました。しかし、時と共にシステムは老朽化し綻(ほころ)びも出てきます。アンドロイド達には再生できない物や部品もあり、世界の機能は次第に低下してきたのです。祖母の物語はその時代について語っていました。時計オオカミの操(あやつ)るサンドスウィーパも、もうほとんど砂かき能力を失っており、砂を平らにならすだけで帰ってきたのでした。
 レビーがまた話しかけてきました。
 レビー「ハレー彗星の電波は通信かもしれないってニュースで言っていたな」
 ススム「ああ、あれはオリンピア67号っていう猫の宇宙船だよ」
 レビー「おまえ、自分の言ってることが分かってんのか。おまえ、絶対に変だぞ」
 祖母がよく話してくれた猫の星の話。寒い寒い氷の星からやってきた決死の宇宙船「オリンピア号」の冒険。今時、決死なんて言葉は流行(はや)りませんが、あの3匹の猫たちの活躍は本当のことのような気がしてなりませんでした。宇宙船「リンダラハ」がその星に接近するというのです。猫たちの邪魔だてをしなければよいのだがとススムは心配でした。祖母は1990年の生まれです。前回のハレー彗星であるオリンピア66号には間に合いませんでした。もし、リンダラハがサンプル採取などをしたら、67号の軌道も1号の時のように狂ってしまうかも知れません。そうなったら地球でハレーすい星の接近を楽しみにしているぴーおばあちゃんをがっかりさせてしまうどころか、猫の星では一大事です。
 レビー「くそう、寒いな。ヒーターが調子悪いぞ。修理代けちりやがって」
 ススム「外気温が下がってる。マイナス81度だ、安全規定値を下回っている。コントロールに連絡して帰投しよう」
 レビー「コントロール、こちら4号機。外気温が規定値を下回った。危険回避のため帰投します」
 管制 「4号機へ。今回は特別措置としてマイナス85度まで規定値を緩和することになった。機器類の安全耐寒温度範囲内だ。つらいとは思うが作業を続行せよ」
 レビー「ふざけるな、機械は大丈夫でも、こっちはヒーターが不調だ。殺す気か!」
 管制 「リンダラハの発進は遅らせられない」
 レビー「おれたちゃリンダラハの発進とは何の関係もないエリアZだぜ!」
しかし、通信はすでに切れ、車内はマイナス30度になっていた。
 レビー「おれはクビになってもいいから帰るぜ」
 ススムも同意し、スウィーパを格納庫へ向けました。

その3へつづく

先頭 表紙

2003-04-03 猫の星の歴史教科書第14回「軌道上のクリスマス」その3

 翌日、職を失ったススムは自分のコンパートメントでリンダラハとハレー彗星のニュースを検索しました。それは、すぐに見つかりました。
 「リンダラハは火星クリュセ基地から発進、ハレー彗星の一部を標本として採取し、火星に送る予定」
 大変だ、そんなことをしたらオリンピア号は使命を果たせくなるかも知れない。オリンピア号にとって質量は操縦桿のようなものなのでした。すぐにススムはインタープラネットで太陽系中にメッセージを発信しました。
 「ハレー彗星の標本採取に反対のメッセージを! 宇宙省のハレーすい星探査方針の見直しの要求を! 宇宙の自然破壊反対!」
 しかし、それはすぐに政府の規制コードに触れて削除されてしまいました。ススムは、自分の無力さをくやしく思いました。

 その晩、目を覚ますと枕元に気配を感じました。強盗か、それとも警察か。ススムは目を閉じて眠ったふりをしたまま近くに武器になりそうな物があったかどうか手でさぐりました。
 侵入者「いやいや、心配せんでいい」
 侵入者は老人のような声で言いました。目を開けるとそこには赤い服を着た老人が立っていました。
 サンタ「探すのに苦労したわい。あんたがインタープラネットでメッセージを発信したおかげじゃ」
 ススム「ぼくにどんな用だ」
 サンタ「用も何も、今日はクリスマスイヴ。そして、おまえさんはワシの恩人の子孫じゃ。だから来た」
 ススムは、ピンときました。祖母の言ったとおりのできごとが今、目の前で起こっているのでした。事情が分かると、緊張がとけてススムは穏やかに言いました。
 ススム「話は聞いています。サンタクロースさんですね。でも、ぼく、あまり欲しい物がない」
 サンタ「それじゃ、ハレー彗星の猫たちを助けに行くというのは、どうじゃ」
 ススム「えっ、どうやって?」
 サンタ「そりゃもちろん、ワシの愛機ドレッドノート号でじゃよ」

 外に出ると、路上にはメリーゴーラウンドのようなトナカイに牽かれる古ぼけた屋根なし橇(そり)がありました。
 サンタ「どうじゃ、ワシの自慢のドレッドノート号は」
 ススム「これって冗談ですか。どうやってこれで宇宙へ?」
 サンタ「まあいい、まず乗るんじゃ」
 ススムは半信半疑ながら助手席に座りました。
 サンタ「よし、ドレッディ。オリンピア67号救出作戦に向かう。我々の標的は宇宙船リンダラハじゃ」
 ドレド「指令を再確認。宇宙船リンダラハからハレー彗星を救い、後に帰投」
 サンタ「その通りじゃ」
 ドレド「指令了解。引き続いて詳細を確認。リンダラハを撃破してよいか」
 サンタ「いや、いかんいかん。どちらも無傷のまま任務を遂行せよ」
 ドレド「さらに詳細を確認。無傷とは人的損害のことか」
 サンタ「そうじゃ」
 ドレド「対コンピュータデバイスは使用してよいか」
 サンタ「そうじゃな、彼らのその後の航海に支障がない程度にな」
 ドレド「了解。与圧フィールド発生。フィールド用コイル温度上昇中。ステルスデバイス起動。ディーンドライブ起動。緯度・経度情報受動。軌道確定。リフトオフ」
 魔法のように木製の橇が音もなく宙に舞い上がりました。
 サンタ「もちろん魔法じゃよ」
 眼下には電気ヒツジ市の夜景が広がっています。上昇角度がきつくなると、夜景は背中になってしまいました。街を被う与圧ドームも航空機用ゲートを使わずにすり抜けると、行く手はきらめく星々でした。

その4につづく

先頭 表紙

2003-04-02 猫の星の歴史教科書第14回「軌道上のクリスマス」その4

 ススム「キャノピもないのに息ができる」
 サンタ「力場(りきば)というらしい」
 ススム「まだ実用化されていないはず」
 サンタ「だから魔法じゃよ。わしはサンタじゃ。うぉっほっほ」
 屋根なし橇は2人を乗せて火星を離れました。覆うもののない周囲は降るような星空でした。
 ドレド「リンダラハが間もなくターゲットとの接触点に到達します。その前にミッションを行なうためにはワープ8が必要です」
 サンタ「よし、ワープ8を許可。ススム、つかまっとれよ」
 猛烈な空間の揺れを感じると、急に、まわりの星の光が前方に集まり始め、それは、最後に虹のリングになりました。
 ススム「これが相対論で予言されているスターボウ(星の虹)ですね。信じられないくらいきれいだ!」
 サンタ「そうじゃそうじゃ。わしとお前さん以外、人類ではまだ誰も見た者はおらん」
 星々の光が虹の輪となって行く手に拡がり、微妙に揺れながら輝いていました。しばらくその幻想的な景色を眺めていましたが、出し抜けに星の光が元に戻り、白く尾を引くハレー彗星が現れました。
 ドレド「通常空間に再実体化完了。対コンピュータ・アタックデバイス、ファインモード。いつでも使用できます」
 サンタ「よし、リンダラハが修理可能な範囲で、やんわりとメインコンピュータをいじめてやってくれ。ハレー彗星の探査どころではない大騒ぎになるようにな」
 ドレド「了解。実行します。完了しました」
 ススム「え、もう終わったんですか?」
 サンタ「ドレッディ、もう少し近づいてくれんか」
 ドレッドノート号はリンダラハが肉眼で確認できるところまで進みました。あんなに巨大なリンダラハもハレー彗星と並ぶと胡麻つぶのようでした。
 サンタ「おうおう、リンダラハがコントロールを失っておるようじゃな。これでは、ハレーすい星への接近は無理じゃろうて」
 航法装置に狂いを生じたリンダラハは迷走しているようでした。
 ドレド「リンダラハがハレー彗星から離れます」
 サンタ「よしよし、ドレッディ、いつもながらよくやった」
 ドレド「おほめいただき、ありがとうございます。オリンピア67号のドルマーズ船長からお礼のメッセージが着信しました。よみあげますか」
 サンタ「おお、読んでくれい」
 ドレド「発信。オリンピア67号船長ゴディー・ドルマーズ。サンタ殿、またお世話になり、感謝の念に堪えません。ドレッドノート号が再実体化したとき、船内に歓声が上がったことをお伝えします。帰路の無事をお祈りいたします」
 サンタ「そうか。メリークリスマス!と返信じゃ」
 ドレド「了解」
 サンタ「これだからサンタクロースはやめられん。さあ、火星へ帰るぞ」
 ドレド「了解。帰還軌道に乗ります。帰路はワープ3。所要時間は2時間ほどです」
 ススム「オリンピア号の船長とは知りあいなんですか?」
 サンタ「ま、ちょっとな。ちょうどいい。ススム、盛明(もりあき)じいさんは知っとるか」
 ススム「いいえ」
 サンタ「おまえさんのご先祖じゃ。ワシの橇の修理を手伝ってくれたんじゃ。その息子がとむりんじいさんで、その娘がぴーばあさんじゃ」
 ススム「ぴーおばあちゃんならよく知ってます」
 サンタ「そうかそうか。よし、火星につくまでお前さんのご先祖のとっておきの話をしてあげよう」

 前方でルビー色に光る火星は、まるでトナカイの赤鼻のようでした。


おしまい


野村茎一作曲工房

先頭 表紙

2003-04-01 猫の星の歴史教科書第13回「クリスマスの出来事」その1

ポロでーす。今日は、どうして野村家にサンタクロースがやってくることになったかというお話です。ときは1961年、ところは東京の板橋区。せんせいは、なでしこ幼稚園にかよっていたと、猫の星の歴史資料集に出ています。


クリスマスの出来事 1

 まだ盛明(もりあき)おじいちゃんが若くて「盛明とうさん」だった頃のお話です。
 おじいちゃんは歯科材料製造会社に勤めていました。その寒い冬の晩も会社で残業を終えて急いで家に帰る途中でした。双葉町の氷川神社の森を通りかかると、サンタクロースの衣装を着た老人が途方に暮れていました。
 「どうしましたか?」
 「あ、いや、これはこれは。橇(そり)が故障してしまってな」
 メリーゴーラウンドの馬によく似たトナカイの人形が、屋根なし橇を牽(ひ)いていました。何度もペンキを塗り直してあり、かなり安っぽい大道具といった感じです。
 「どこかのケーキ屋さんの売り出しですか?」
 「ま、ケーキじゃないが、そんなようなもんだとも言えるかな。つかぬことをお伺いするが、あんた、機械には強いですかな」
  「いや、なんとも言えません」
 そう言うと、老人はトナカイの背中のふたを開けて何かを取り出しました。
 「まあ、ちょっと見てくだされ。この支柱が折れてしまってな」
 それは、見たことのない部品でしたが、こわれているのは機械部品そのものではなく、部品を支えている樹脂製のステー(脚)でした。人形のトナカイが光るか、鳴くかするようなしかけがあるのでしょうか。
 「これなら簡単です。私の会社で作っている印象材で型どりして、樹脂か硬石膏を流し込めばすぐできますよ」
 「それは助かる。お願いしてもいいじゃろうか」
 若かった盛明おじいちゃんは、この哀れなお年寄りのためにひと肌脱ぐことにしました。部品を持ってもう一度会社に戻ると、すぐに同じものを作りました。出来ばえに満足すると、氷川神社に急ぎました。
 「おお、見事じゃ。元のよりもずっといい。これが支えているのはグラヴィトン・コンバータという部品でな、これがないと浮かばんのじゃよ」
 老人は、部品を元の場所へ収めるとパチンとふたを閉め、トナカイに声をかけました。
 「よし、ドレッディ。マシンチェックじゃ」
 「了解。全デバイス起動。作動状況を確認します」
 盛明おじいちゃんはびっくりしました。トナカイ人形がしゃべっています。
 「与圧フィールド発生装置起動、異常なし。ディーンドライヴ起動、反重力デバイス作動確認。全航法装置異常なし。ステルスデバイス異常なし。‥‥‥‥」
 「よし、そのまま待機しておれ」
 老人は盛明おじいちゃんの方を向くと言いました。
 「本当に助かりました。このお礼は必ずさせていただきますじゃ。しかし、今日は、ちと急ぎますでな。これにて失礼」
 そう言って深々と頭をさげると、橇に乗ってスレーベルの音と共に空高く飛んでいってしまいました。それは、あまりにあっと言う間の出来事で、あっけにとられて空を眺めた盛明おじいちゃんは夢を見ていたような気がしてきました。
 翌日はクリスマスイヴでした。おじいちゃんは、その頃まだ小さかった3人の子どもたちにプレゼントを買おうと、早めに会社を出ました。閉店時刻を遅らせてお店を開いているおもちゃ屋さんにはプレゼントを買い求めるおとうさんたちがたくさんやってきていました。

その2につづく

先頭 表紙

2003-03-31 猫の星の歴史教科書第13回「クリスマスの出来事」その2

 少し前にソビエトとアメリカが人工衛星の打ち上げ競争をしていたこともあって、とむりんはロケットと宇宙ステーションがドッキングするおもちゃを欲しがっていました。でも、盛明おじいちゃんは、それを見つけてちょっと哀しくなりました。とても高価で買えそうになかったからでした。2人の娘、えみりんとぽーりんの欲しがっていた小さな家の模型(今はドールハウスと呼ばれています)や樹脂製の着せ替え人形も、とても高価で買えそうにありませんでした。いえ、どれか一つなら買えます。無理をすれば2つだって買えないことはないでしょう。でも、誰か一人を悲しませるわけにはいきません。
 それで、盛明おじいちゃんは別の素敵なプレゼントを3つ見つくろって大きな包みを抱えて家に帰りました。

 家では、庭の小さな樅の木が大きな植木鉢に移されて部屋の中に持ち込まれていました。綿の雪と子どもたちの手作りの折り紙やお菓子のおまけで飾られたツリーは、ただなのになんだか素敵でした。
 ケーキと少しのごちそうを前にみんなが待っていると、盛明おじいちゃんが帰ってきました。盛明おじいちゃんはプレゼントを外の物置に隠してから部屋に入ってきました。
 「とうちゃん、おかえりー!」
 子どもたちは嬉しくて嬉しくて上へ下への大騒ぎです。その頃は、ケーキを食べるなんてクリスマスとお誕生日くらいのものでしたから、その夜の賑わいは大変なものでした。子どもたちの関心事は、サンタクロースが来てくれるかどうかでした。いい子のところにしか来ないと言われて、とむりんは1年間いい子でいられたかどうか考えて、とっても心配になりました。だって、いっぱいいたずらをしてしまったからです。

 騒ぎ疲れた子どもたちが寝てしまうと、盛明おじいちゃんは物置へプレゼントを取りに行きました。しかし、物置には人影がありました。
 「おお。ワシじゃよワシじゃ」
 「あ、サンタさん。こんなところで何を?」
 「いやあ、昨日の礼にと思って子どもたちにプレゼントを持ってきたのじゃ。ささ、これもひとりひとりの枕元に置いてやってくだされ」
 「ど、どうも恐縮です」
 「ふぉっふぉっふぉっ、これがワシの仕事じゃ。だから、これは当たり前。あんたへの礼は別じゃ。そのうち分かるじゃろ。ではさらばじゃ」
 はっと気づくとサンタの姿はなく、空高くスレイベルの音が遠ざかっていきました。

 枕元にプレゼントを置いていると、包みの多さに驚いて芳子かあさんがやってきました。
 「まあ、そんなにたくさんどうしたの?」
 「3つは買った。のこりの3つは、まあ、当たったんだな」
 「どんな抽選だったの?」
 「氷川神社だ」
 「何それ」

 サンタデパートの包み紙のプレゼントが何であるか、盛明とうさんにはピンと来ました。昨日、実物を見てきたばかりだったからです。子どもたちの喜ぶ顔が目に浮かび、幸福を噛みしめる思いでした。しかし戦争で九死に一生を得て戻った盛明とうさんは、すぐに亡くなった戦友たちを思いだしました。生きて帰ったことを申し訳なくも思って、夜も更けたのに暗い部屋にいつまでも座って、もの想いにふけっていたのでした。
 翌年、盛明おじいちゃんは会社で昇進の辞令を受けました。そのとき、なぜか突然サンタクロースのことを思いだしましたが「まさか」と思い直し、同僚たちの拍手の中で直属の上司に一礼してちょっと厚手のその紙を受け取ったのでした。


おしまい


野村茎一作曲工房

先頭 表紙

2003-03-30 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その1

 今日のお話は、ある動物びょういんのせんせいが話してくださった本当にあったお話を元に書かれたと、猫の星教育省は言っています。とっても悲しいお話なので、涙もろい人は読むのを考え直した方がいいと思います。ポロのしんみなちゅうこくです。ポロ、ちゃんと言いましたからね、あとでもんく言ってもだめです。



子猫のころの思い出

 ジョーンズが、まだ子猫だったころのことです。家の前で道端のたんぽぽの綿毛を飛ばして遊んでいると、小学生の男の子たちが2、3人、棒を振り回しながら走ってくるのが見えました。彼らはジョーンズを見つけると、何か大声で叫びながら、手に持った棒を振り上げて真っすぐに走ってきました。
 ジョーンズは、とっさにコンクリートフェンスに跳び上がって難を逃れましたが、ガツンという大きな音とともに、今までジョーンズが遊んでいたアスファルト上には鉄パイプで叩かれた跡がくっきりと残りました。
 - ああ、あぶなかった。どきどきしちゃった。なんという乱暴な子どもたちだろう。
 子どもたちが走り去ったのを確かめると、ジョーンズは、また道端のたんぽぽのところに飛び降りました。けれど、もう、たんぽぽで遊ぶ気はしなくなってしまいました。子どもたちから少しでも離れたい気持ちから、ジョーンズは子どもたちがやって来た方向に向かって歩き始めました。少し歩くと、子猫の鳴き声が聞こえることに気がつきました。ぐるりとまわりを見渡すと、いましたいました。ジョーンズよりも、もっと小さな三毛の子猫がこちらに向かって歩いてきます。でも、様子が少し変でした。フラフラしているし、声もかすれがちです。そのうち、とうとう子猫は倒れ込んでしまいました。ジョーンズは大急ぎで子猫のそばに走りよりました。そして、子猫の不自然にへこんだ頭を見てピンときました。


その2につづく


先頭 表紙

2003-03-29 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その2

 - あの子どもたちのしわざだ!
 「にゃあ」
 ジョーンズが子猫の顔を心配そうにのぞき込むと、弱々しく鳴きました。
 - 何ということだろう。この子は、きっと、ただ遊んでいただけなんだ。何も悪いことなんかしていないよね。どうしてこんな目に遭わなくてはならないんだ。
ジョーンズは、悲しみと怒りと情けなさで涙があふれてきました。それはもう、頭がクラクラするほどでした。
 「にゃあ」
 その声を聞いて、ジョーンズは我に返りました。なんとしても、この子猫を助けなければなりません。
 - そうだ、動物病院の先生にお願いしよう。
 「さあ、子猫ちゃん。ぼくが動物病院に連れていってあげるからね、少し遠いけど頑張るんだよ」
 ジョーンズは、大人の猫がするように子猫の首をくわえて運ぼうとしました。でも、ジョーンズも子猫でしたから、それは無理でした。仕方なく引きずって行くことにしました。
 ずずずず、ずりずり、ずずずず、ずりずり。
 少しづつ、少しづつ、ジョーンズたちはカタツムリの歩みのようにゆっくりと進みました。初夏の太陽は熱い光を情け容赦なく2匹の子猫たちにも浴びせました。
 ずずずず、ずりずり、ずずずず、ずりずり。
 自動車通りに出るころには、子猫は、もう鳴かなくなってしまいました。ただ、弱々しい息づかいが聞こえてくるだけです。
 - 急がなくちゃ、急がなくちゃ。ぼくは急がなくちゃならないんだ。この子が死ぬようなことがあったら、ぼくはどうすればいいんだ。
 そうは思っても、小さなジョーンズは、もうくたくたになってしまっていて、だんだん力が出なくなってきてしまいました。
 そんな時、上から大きな声がしました。
 「見てよ、奥さん。このぶち猫ったら、子猫をいじめてるわよ。 しっしっ、あっち行け!」
 「あら、本当だわ。悪い猫ねえ」
 だしぬけにお尻を蹴とばされ、ジョーンズは近くの電柱にぶつかって止まるまでころころと転がってしまいました。そして、電柱の陰に隠れて様子をうかがいました。
 「あらあ。この猫、頭がつぶれてるじゃない、気持ち悪いわねえ」
 「あのぶち猫がやったんじゃないの」
 二人のおばさんは、そんなことを言いながら行ってしまいました。ジョーンズは、すぐに子猫のところに駆けもどりました。
 「ごめんよ、ぼく恥ずかしいよ。あのくらいのことで電柱の陰に隠れたりして。 それにしても、あのおばさんたち、君がケガをしていることに気がついたのに、どうして病院に連れていってくれなかったんだろう」
 ジョーンズは、再び子猫をくわえて引きずり始めました。力は出ないし、のども乾いてヒリヒリしていましたが、もう辛さも感じなくなっていました。
 -がんばるんだよ。とってもいい先生なんだ。ぼくの命も助けてくれたし、きっと君も助けてくれる。
 ジョーンズは人通りの少ない道に折れました。ほんの少し遠回りになるかもしれませんが、さっきのようなことは、もういやだったからです。


その3につづく


先頭 表紙

2003-03-28 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その3

 静かな住宅街にさしかかったころ、子猫がそっと目を開きました。ジョーンズは引きずるのをやめて子猫の顔をのぞきこみました。子猫は小刻みにふるえながら、何か言いたげに口をあけましたが声にはなりませんでした。そして、ゆっくりと目を閉じると、それきり動かなくなりました。ジョーンズは子猫の息の音を確かめようとしましたが、何も、何も聞こえませんでした。子猫はとうとう死んでしまったのです。
 「わああああああああああああああ!」
 ジョーンズは叫ばずにはいられませんでした。自分でも、叫び声を止めることはできませんでした。涙があとからあとから流れ出して止まりません。動物病院までは、まだ半分以上の道のりを残していました。自分の力のなさに腹が立ち、子猫の短すぎた命を思うとくやしくて悲しくてどうにかなってしまいそうでした。
 -今度、あの子どもたちを見かけたらただじゃおかないぞ、ね、みけ猫くん。ああ、君は土ぼこりでよごれて白いところがなくなっちゃったじゃないか。どうして、こんなにみすばらしくならなきゃならないんだ。それに、きみはこんなにやせてる。おなかがいっぱいになったことなんてないんだろうね。きっと、生まれてすぐに捨てられたんだろうね。つらかったろうね。ぼくのごはん分けてあげたかったよ。ぼくも捨て猫だったんだ。きみはいったい何のために生まれてきたんだろうね。
 ジョーンズは悲しみと憤(いきどお)りと疲れのために気を失うように眠り込んでしまいました。

 気がつくと、太陽はもう西に傾きかけていました。ジョーンズは身体じゅうの力が抜けてしまったように感じましたが、気をとりなおして、また子猫をくわえると、来た道を引き返し始めました。少し進んでは休み、少し進んでは休み、いつもの遊び場である向かいのお屋敷にたどりついた時には日も暮れ、夕方の涼しい風が吹いていました。
 ジョーンズは、とむりんが「ジョーンズのジャングル」と呼んでいる大きな茂みの中の、まだ大きくなっていないひまわりの根元に子猫を埋めました。あたりは、すっかり暗くなっていました。
 「さよなら、子猫くん・・・」
 しばらく立ち尽くしたあと、ジョーンズは家にもどりました。


 玄関先では、しんぱいそうにとむりんが待っていました。
 「あ、やっとこいつ帰ってきたぞ。それも、こんなによごれて! いったいどこで悪さしてきたんだ」
 「にゃあ」
 「さあ、ごはん食べなさい」
 「にゃあ」


 その晩、ジョーンズはごはんを食べませんでした。そして、夜中に子猫の夢を見ました。土ぼこりの汚れもとれてふわふわになった三毛猫が空高く昇っていきます。ジョーンズが力いっぱい手を振ると、子猫はニコニコしながらこちらを見降ろすのでした。ジョーンズはいつまでも見つめていましたが、その姿はだんだん小さくなっていって、とうとう夜空の星と区別がつかなくなりました。


おしまい


 これは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房


先頭 表紙


[次の10件を表示] (総目次)