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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2003-04-03 猫の星の歴史教科書第14回「軌道上のクリスマス」その3
2003-04-02 猫の星の歴史教科書第14回「軌道上のクリスマス」その4
2003-04-01 猫の星の歴史教科書第13回「クリスマスの出来事」その1
2003-03-31 猫の星の歴史教科書第13回「クリスマスの出来事」その2
2003-03-30 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その1
2003-03-29 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その2
2003-03-28 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その3
2003-03-27 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その1
2003-03-26 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その2
2003-03-25 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その3


2003-04-03 猫の星の歴史教科書第14回「軌道上のクリスマス」その3

 翌日、職を失ったススムは自分のコンパートメントでリンダラハとハレー彗星のニュースを検索しました。それは、すぐに見つかりました。
 「リンダラハは火星クリュセ基地から発進、ハレー彗星の一部を標本として採取し、火星に送る予定」
 大変だ、そんなことをしたらオリンピア号は使命を果たせくなるかも知れない。オリンピア号にとって質量は操縦桿のようなものなのでした。すぐにススムはインタープラネットで太陽系中にメッセージを発信しました。
 「ハレー彗星の標本採取に反対のメッセージを! 宇宙省のハレーすい星探査方針の見直しの要求を! 宇宙の自然破壊反対!」
 しかし、それはすぐに政府の規制コードに触れて削除されてしまいました。ススムは、自分の無力さをくやしく思いました。

 その晩、目を覚ますと枕元に気配を感じました。強盗か、それとも警察か。ススムは目を閉じて眠ったふりをしたまま近くに武器になりそうな物があったかどうか手でさぐりました。
 侵入者「いやいや、心配せんでいい」
 侵入者は老人のような声で言いました。目を開けるとそこには赤い服を着た老人が立っていました。
 サンタ「探すのに苦労したわい。あんたがインタープラネットでメッセージを発信したおかげじゃ」
 ススム「ぼくにどんな用だ」
 サンタ「用も何も、今日はクリスマスイヴ。そして、おまえさんはワシの恩人の子孫じゃ。だから来た」
 ススムは、ピンときました。祖母の言ったとおりのできごとが今、目の前で起こっているのでした。事情が分かると、緊張がとけてススムは穏やかに言いました。
 ススム「話は聞いています。サンタクロースさんですね。でも、ぼく、あまり欲しい物がない」
 サンタ「それじゃ、ハレー彗星の猫たちを助けに行くというのは、どうじゃ」
 ススム「えっ、どうやって?」
 サンタ「そりゃもちろん、ワシの愛機ドレッドノート号でじゃよ」

 外に出ると、路上にはメリーゴーラウンドのようなトナカイに牽かれる古ぼけた屋根なし橇(そり)がありました。
 サンタ「どうじゃ、ワシの自慢のドレッドノート号は」
 ススム「これって冗談ですか。どうやってこれで宇宙へ?」
 サンタ「まあいい、まず乗るんじゃ」
 ススムは半信半疑ながら助手席に座りました。
 サンタ「よし、ドレッディ。オリンピア67号救出作戦に向かう。我々の標的は宇宙船リンダラハじゃ」
 ドレド「指令を再確認。宇宙船リンダラハからハレー彗星を救い、後に帰投」
 サンタ「その通りじゃ」
 ドレド「指令了解。引き続いて詳細を確認。リンダラハを撃破してよいか」
 サンタ「いや、いかんいかん。どちらも無傷のまま任務を遂行せよ」
 ドレド「さらに詳細を確認。無傷とは人的損害のことか」
 サンタ「そうじゃ」
 ドレド「対コンピュータデバイスは使用してよいか」
 サンタ「そうじゃな、彼らのその後の航海に支障がない程度にな」
 ドレド「了解。与圧フィールド発生。フィールド用コイル温度上昇中。ステルスデバイス起動。ディーンドライブ起動。緯度・経度情報受動。軌道確定。リフトオフ」
 魔法のように木製の橇が音もなく宙に舞い上がりました。
 サンタ「もちろん魔法じゃよ」
 眼下には電気ヒツジ市の夜景が広がっています。上昇角度がきつくなると、夜景は背中になってしまいました。街を被う与圧ドームも航空機用ゲートを使わずにすり抜けると、行く手はきらめく星々でした。

その4につづく

先頭 表紙

2003-04-02 猫の星の歴史教科書第14回「軌道上のクリスマス」その4

 ススム「キャノピもないのに息ができる」
 サンタ「力場(りきば)というらしい」
 ススム「まだ実用化されていないはず」
 サンタ「だから魔法じゃよ。わしはサンタじゃ。うぉっほっほ」
 屋根なし橇は2人を乗せて火星を離れました。覆うもののない周囲は降るような星空でした。
 ドレド「リンダラハが間もなくターゲットとの接触点に到達します。その前にミッションを行なうためにはワープ8が必要です」
 サンタ「よし、ワープ8を許可。ススム、つかまっとれよ」
 猛烈な空間の揺れを感じると、急に、まわりの星の光が前方に集まり始め、それは、最後に虹のリングになりました。
 ススム「これが相対論で予言されているスターボウ(星の虹)ですね。信じられないくらいきれいだ!」
 サンタ「そうじゃそうじゃ。わしとお前さん以外、人類ではまだ誰も見た者はおらん」
 星々の光が虹の輪となって行く手に拡がり、微妙に揺れながら輝いていました。しばらくその幻想的な景色を眺めていましたが、出し抜けに星の光が元に戻り、白く尾を引くハレー彗星が現れました。
 ドレド「通常空間に再実体化完了。対コンピュータ・アタックデバイス、ファインモード。いつでも使用できます」
 サンタ「よし、リンダラハが修理可能な範囲で、やんわりとメインコンピュータをいじめてやってくれ。ハレー彗星の探査どころではない大騒ぎになるようにな」
 ドレド「了解。実行します。完了しました」
 ススム「え、もう終わったんですか?」
 サンタ「ドレッディ、もう少し近づいてくれんか」
 ドレッドノート号はリンダラハが肉眼で確認できるところまで進みました。あんなに巨大なリンダラハもハレー彗星と並ぶと胡麻つぶのようでした。
 サンタ「おうおう、リンダラハがコントロールを失っておるようじゃな。これでは、ハレーすい星への接近は無理じゃろうて」
 航法装置に狂いを生じたリンダラハは迷走しているようでした。
 ドレド「リンダラハがハレー彗星から離れます」
 サンタ「よしよし、ドレッディ、いつもながらよくやった」
 ドレド「おほめいただき、ありがとうございます。オリンピア67号のドルマーズ船長からお礼のメッセージが着信しました。よみあげますか」
 サンタ「おお、読んでくれい」
 ドレド「発信。オリンピア67号船長ゴディー・ドルマーズ。サンタ殿、またお世話になり、感謝の念に堪えません。ドレッドノート号が再実体化したとき、船内に歓声が上がったことをお伝えします。帰路の無事をお祈りいたします」
 サンタ「そうか。メリークリスマス!と返信じゃ」
 ドレド「了解」
 サンタ「これだからサンタクロースはやめられん。さあ、火星へ帰るぞ」
 ドレド「了解。帰還軌道に乗ります。帰路はワープ3。所要時間は2時間ほどです」
 ススム「オリンピア号の船長とは知りあいなんですか?」
 サンタ「ま、ちょっとな。ちょうどいい。ススム、盛明(もりあき)じいさんは知っとるか」
 ススム「いいえ」
 サンタ「おまえさんのご先祖じゃ。ワシの橇の修理を手伝ってくれたんじゃ。その息子がとむりんじいさんで、その娘がぴーばあさんじゃ」
 ススム「ぴーおばあちゃんならよく知ってます」
 サンタ「そうかそうか。よし、火星につくまでお前さんのご先祖のとっておきの話をしてあげよう」

 前方でルビー色に光る火星は、まるでトナカイの赤鼻のようでした。


おしまい


野村茎一作曲工房

先頭 表紙

2003-04-01 猫の星の歴史教科書第13回「クリスマスの出来事」その1

ポロでーす。今日は、どうして野村家にサンタクロースがやってくることになったかというお話です。ときは1961年、ところは東京の板橋区。せんせいは、なでしこ幼稚園にかよっていたと、猫の星の歴史資料集に出ています。


クリスマスの出来事 1

 まだ盛明(もりあき)おじいちゃんが若くて「盛明とうさん」だった頃のお話です。
 おじいちゃんは歯科材料製造会社に勤めていました。その寒い冬の晩も会社で残業を終えて急いで家に帰る途中でした。双葉町の氷川神社の森を通りかかると、サンタクロースの衣装を着た老人が途方に暮れていました。
 「どうしましたか?」
 「あ、いや、これはこれは。橇(そり)が故障してしまってな」
 メリーゴーラウンドの馬によく似たトナカイの人形が、屋根なし橇を牽(ひ)いていました。何度もペンキを塗り直してあり、かなり安っぽい大道具といった感じです。
 「どこかのケーキ屋さんの売り出しですか?」
 「ま、ケーキじゃないが、そんなようなもんだとも言えるかな。つかぬことをお伺いするが、あんた、機械には強いですかな」
  「いや、なんとも言えません」
 そう言うと、老人はトナカイの背中のふたを開けて何かを取り出しました。
 「まあ、ちょっと見てくだされ。この支柱が折れてしまってな」
 それは、見たことのない部品でしたが、こわれているのは機械部品そのものではなく、部品を支えている樹脂製のステー(脚)でした。人形のトナカイが光るか、鳴くかするようなしかけがあるのでしょうか。
 「これなら簡単です。私の会社で作っている印象材で型どりして、樹脂か硬石膏を流し込めばすぐできますよ」
 「それは助かる。お願いしてもいいじゃろうか」
 若かった盛明おじいちゃんは、この哀れなお年寄りのためにひと肌脱ぐことにしました。部品を持ってもう一度会社に戻ると、すぐに同じものを作りました。出来ばえに満足すると、氷川神社に急ぎました。
 「おお、見事じゃ。元のよりもずっといい。これが支えているのはグラヴィトン・コンバータという部品でな、これがないと浮かばんのじゃよ」
 老人は、部品を元の場所へ収めるとパチンとふたを閉め、トナカイに声をかけました。
 「よし、ドレッディ。マシンチェックじゃ」
 「了解。全デバイス起動。作動状況を確認します」
 盛明おじいちゃんはびっくりしました。トナカイ人形がしゃべっています。
 「与圧フィールド発生装置起動、異常なし。ディーンドライヴ起動、反重力デバイス作動確認。全航法装置異常なし。ステルスデバイス異常なし。‥‥‥‥」
 「よし、そのまま待機しておれ」
 老人は盛明おじいちゃんの方を向くと言いました。
 「本当に助かりました。このお礼は必ずさせていただきますじゃ。しかし、今日は、ちと急ぎますでな。これにて失礼」
 そう言って深々と頭をさげると、橇に乗ってスレーベルの音と共に空高く飛んでいってしまいました。それは、あまりにあっと言う間の出来事で、あっけにとられて空を眺めた盛明おじいちゃんは夢を見ていたような気がしてきました。
 翌日はクリスマスイヴでした。おじいちゃんは、その頃まだ小さかった3人の子どもたちにプレゼントを買おうと、早めに会社を出ました。閉店時刻を遅らせてお店を開いているおもちゃ屋さんにはプレゼントを買い求めるおとうさんたちがたくさんやってきていました。

その2につづく

先頭 表紙

2003-03-31 猫の星の歴史教科書第13回「クリスマスの出来事」その2

 少し前にソビエトとアメリカが人工衛星の打ち上げ競争をしていたこともあって、とむりんはロケットと宇宙ステーションがドッキングするおもちゃを欲しがっていました。でも、盛明おじいちゃんは、それを見つけてちょっと哀しくなりました。とても高価で買えそうになかったからでした。2人の娘、えみりんとぽーりんの欲しがっていた小さな家の模型(今はドールハウスと呼ばれています)や樹脂製の着せ替え人形も、とても高価で買えそうにありませんでした。いえ、どれか一つなら買えます。無理をすれば2つだって買えないことはないでしょう。でも、誰か一人を悲しませるわけにはいきません。
 それで、盛明おじいちゃんは別の素敵なプレゼントを3つ見つくろって大きな包みを抱えて家に帰りました。

 家では、庭の小さな樅の木が大きな植木鉢に移されて部屋の中に持ち込まれていました。綿の雪と子どもたちの手作りの折り紙やお菓子のおまけで飾られたツリーは、ただなのになんだか素敵でした。
 ケーキと少しのごちそうを前にみんなが待っていると、盛明おじいちゃんが帰ってきました。盛明おじいちゃんはプレゼントを外の物置に隠してから部屋に入ってきました。
 「とうちゃん、おかえりー!」
 子どもたちは嬉しくて嬉しくて上へ下への大騒ぎです。その頃は、ケーキを食べるなんてクリスマスとお誕生日くらいのものでしたから、その夜の賑わいは大変なものでした。子どもたちの関心事は、サンタクロースが来てくれるかどうかでした。いい子のところにしか来ないと言われて、とむりんは1年間いい子でいられたかどうか考えて、とっても心配になりました。だって、いっぱいいたずらをしてしまったからです。

 騒ぎ疲れた子どもたちが寝てしまうと、盛明おじいちゃんは物置へプレゼントを取りに行きました。しかし、物置には人影がありました。
 「おお。ワシじゃよワシじゃ」
 「あ、サンタさん。こんなところで何を?」
 「いやあ、昨日の礼にと思って子どもたちにプレゼントを持ってきたのじゃ。ささ、これもひとりひとりの枕元に置いてやってくだされ」
 「ど、どうも恐縮です」
 「ふぉっふぉっふぉっ、これがワシの仕事じゃ。だから、これは当たり前。あんたへの礼は別じゃ。そのうち分かるじゃろ。ではさらばじゃ」
 はっと気づくとサンタの姿はなく、空高くスレイベルの音が遠ざかっていきました。

 枕元にプレゼントを置いていると、包みの多さに驚いて芳子かあさんがやってきました。
 「まあ、そんなにたくさんどうしたの?」
 「3つは買った。のこりの3つは、まあ、当たったんだな」
 「どんな抽選だったの?」
 「氷川神社だ」
 「何それ」

 サンタデパートの包み紙のプレゼントが何であるか、盛明とうさんにはピンと来ました。昨日、実物を見てきたばかりだったからです。子どもたちの喜ぶ顔が目に浮かび、幸福を噛みしめる思いでした。しかし戦争で九死に一生を得て戻った盛明とうさんは、すぐに亡くなった戦友たちを思いだしました。生きて帰ったことを申し訳なくも思って、夜も更けたのに暗い部屋にいつまでも座って、もの想いにふけっていたのでした。
 翌年、盛明おじいちゃんは会社で昇進の辞令を受けました。そのとき、なぜか突然サンタクロースのことを思いだしましたが「まさか」と思い直し、同僚たちの拍手の中で直属の上司に一礼してちょっと厚手のその紙を受け取ったのでした。


おしまい


野村茎一作曲工房

先頭 表紙

2003-03-30 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その1

 今日のお話は、ある動物びょういんのせんせいが話してくださった本当にあったお話を元に書かれたと、猫の星教育省は言っています。とっても悲しいお話なので、涙もろい人は読むのを考え直した方がいいと思います。ポロのしんみなちゅうこくです。ポロ、ちゃんと言いましたからね、あとでもんく言ってもだめです。



子猫のころの思い出

 ジョーンズが、まだ子猫だったころのことです。家の前で道端のたんぽぽの綿毛を飛ばして遊んでいると、小学生の男の子たちが2、3人、棒を振り回しながら走ってくるのが見えました。彼らはジョーンズを見つけると、何か大声で叫びながら、手に持った棒を振り上げて真っすぐに走ってきました。
 ジョーンズは、とっさにコンクリートフェンスに跳び上がって難を逃れましたが、ガツンという大きな音とともに、今までジョーンズが遊んでいたアスファルト上には鉄パイプで叩かれた跡がくっきりと残りました。
 - ああ、あぶなかった。どきどきしちゃった。なんという乱暴な子どもたちだろう。
 子どもたちが走り去ったのを確かめると、ジョーンズは、また道端のたんぽぽのところに飛び降りました。けれど、もう、たんぽぽで遊ぶ気はしなくなってしまいました。子どもたちから少しでも離れたい気持ちから、ジョーンズは子どもたちがやって来た方向に向かって歩き始めました。少し歩くと、子猫の鳴き声が聞こえることに気がつきました。ぐるりとまわりを見渡すと、いましたいました。ジョーンズよりも、もっと小さな三毛の子猫がこちらに向かって歩いてきます。でも、様子が少し変でした。フラフラしているし、声もかすれがちです。そのうち、とうとう子猫は倒れ込んでしまいました。ジョーンズは大急ぎで子猫のそばに走りよりました。そして、子猫の不自然にへこんだ頭を見てピンときました。


その2につづく


先頭 表紙

2003-03-29 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その2

 - あの子どもたちのしわざだ!
 「にゃあ」
 ジョーンズが子猫の顔を心配そうにのぞき込むと、弱々しく鳴きました。
 - 何ということだろう。この子は、きっと、ただ遊んでいただけなんだ。何も悪いことなんかしていないよね。どうしてこんな目に遭わなくてはならないんだ。
ジョーンズは、悲しみと怒りと情けなさで涙があふれてきました。それはもう、頭がクラクラするほどでした。
 「にゃあ」
 その声を聞いて、ジョーンズは我に返りました。なんとしても、この子猫を助けなければなりません。
 - そうだ、動物病院の先生にお願いしよう。
 「さあ、子猫ちゃん。ぼくが動物病院に連れていってあげるからね、少し遠いけど頑張るんだよ」
 ジョーンズは、大人の猫がするように子猫の首をくわえて運ぼうとしました。でも、ジョーンズも子猫でしたから、それは無理でした。仕方なく引きずって行くことにしました。
 ずずずず、ずりずり、ずずずず、ずりずり。
 少しづつ、少しづつ、ジョーンズたちはカタツムリの歩みのようにゆっくりと進みました。初夏の太陽は熱い光を情け容赦なく2匹の子猫たちにも浴びせました。
 ずずずず、ずりずり、ずずずず、ずりずり。
 自動車通りに出るころには、子猫は、もう鳴かなくなってしまいました。ただ、弱々しい息づかいが聞こえてくるだけです。
 - 急がなくちゃ、急がなくちゃ。ぼくは急がなくちゃならないんだ。この子が死ぬようなことがあったら、ぼくはどうすればいいんだ。
 そうは思っても、小さなジョーンズは、もうくたくたになってしまっていて、だんだん力が出なくなってきてしまいました。
 そんな時、上から大きな声がしました。
 「見てよ、奥さん。このぶち猫ったら、子猫をいじめてるわよ。 しっしっ、あっち行け!」
 「あら、本当だわ。悪い猫ねえ」
 だしぬけにお尻を蹴とばされ、ジョーンズは近くの電柱にぶつかって止まるまでころころと転がってしまいました。そして、電柱の陰に隠れて様子をうかがいました。
 「あらあ。この猫、頭がつぶれてるじゃない、気持ち悪いわねえ」
 「あのぶち猫がやったんじゃないの」
 二人のおばさんは、そんなことを言いながら行ってしまいました。ジョーンズは、すぐに子猫のところに駆けもどりました。
 「ごめんよ、ぼく恥ずかしいよ。あのくらいのことで電柱の陰に隠れたりして。 それにしても、あのおばさんたち、君がケガをしていることに気がついたのに、どうして病院に連れていってくれなかったんだろう」
 ジョーンズは、再び子猫をくわえて引きずり始めました。力は出ないし、のども乾いてヒリヒリしていましたが、もう辛さも感じなくなっていました。
 -がんばるんだよ。とってもいい先生なんだ。ぼくの命も助けてくれたし、きっと君も助けてくれる。
 ジョーンズは人通りの少ない道に折れました。ほんの少し遠回りになるかもしれませんが、さっきのようなことは、もういやだったからです。


その3につづく


先頭 表紙

2003-03-28 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その3

 静かな住宅街にさしかかったころ、子猫がそっと目を開きました。ジョーンズは引きずるのをやめて子猫の顔をのぞきこみました。子猫は小刻みにふるえながら、何か言いたげに口をあけましたが声にはなりませんでした。そして、ゆっくりと目を閉じると、それきり動かなくなりました。ジョーンズは子猫の息の音を確かめようとしましたが、何も、何も聞こえませんでした。子猫はとうとう死んでしまったのです。
 「わああああああああああああああ!」
 ジョーンズは叫ばずにはいられませんでした。自分でも、叫び声を止めることはできませんでした。涙があとからあとから流れ出して止まりません。動物病院までは、まだ半分以上の道のりを残していました。自分の力のなさに腹が立ち、子猫の短すぎた命を思うとくやしくて悲しくてどうにかなってしまいそうでした。
 -今度、あの子どもたちを見かけたらただじゃおかないぞ、ね、みけ猫くん。ああ、君は土ぼこりでよごれて白いところがなくなっちゃったじゃないか。どうして、こんなにみすばらしくならなきゃならないんだ。それに、きみはこんなにやせてる。おなかがいっぱいになったことなんてないんだろうね。きっと、生まれてすぐに捨てられたんだろうね。つらかったろうね。ぼくのごはん分けてあげたかったよ。ぼくも捨て猫だったんだ。きみはいったい何のために生まれてきたんだろうね。
 ジョーンズは悲しみと憤(いきどお)りと疲れのために気を失うように眠り込んでしまいました。

 気がつくと、太陽はもう西に傾きかけていました。ジョーンズは身体じゅうの力が抜けてしまったように感じましたが、気をとりなおして、また子猫をくわえると、来た道を引き返し始めました。少し進んでは休み、少し進んでは休み、いつもの遊び場である向かいのお屋敷にたどりついた時には日も暮れ、夕方の涼しい風が吹いていました。
 ジョーンズは、とむりんが「ジョーンズのジャングル」と呼んでいる大きな茂みの中の、まだ大きくなっていないひまわりの根元に子猫を埋めました。あたりは、すっかり暗くなっていました。
 「さよなら、子猫くん・・・」
 しばらく立ち尽くしたあと、ジョーンズは家にもどりました。


 玄関先では、しんぱいそうにとむりんが待っていました。
 「あ、やっとこいつ帰ってきたぞ。それも、こんなによごれて! いったいどこで悪さしてきたんだ」
 「にゃあ」
 「さあ、ごはん食べなさい」
 「にゃあ」


 その晩、ジョーンズはごはんを食べませんでした。そして、夜中に子猫の夢を見ました。土ぼこりの汚れもとれてふわふわになった三毛猫が空高く昇っていきます。ジョーンズが力いっぱい手を振ると、子猫はニコニコしながらこちらを見降ろすのでした。ジョーンズはいつまでも見つめていましたが、その姿はだんだん小さくなっていって、とうとう夜空の星と区別がつかなくなりました。


おしまい


 これは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房


先頭 表紙

2003-03-27 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その1

赤ずきんちゃん気をつけて


 
 「ぶうよん、ジョーンズ、お話の時間よー!」
 ぶうよんのかあちゃんの呼び声がしました。まもなく、絵本を囲んで3人が茶の間の畳の上に揃いました。絵本の題名は「赤ずきんちゃん」です。
ぶうよんもジョーンズも、このお話が大好きでした。だから何回読んでもらっても飽きることなどなく、すみからすみまで全部覚えてしまったほどです。
 「むかしのことです。森の中の一軒家に、お母さんとかわいい女の子が暮らしていました・・・・」
 ぶうよんはゴロリと腹ばいになって、あごを両手で支えるとひざから先を立てて、つま先をぶらぶらさせました。ジョーンズも寝そべってしっぽをぐるりと回しました。

 ・・・森にはオオカミも住んでいました。オオカミは、オオカミなので森じゅうの嫌われものでした。もちろん、誰も友だちになろうとはしませんでした。オオカミは自分がオオカミだという理由だけで嫌われていることが悲しくて仕方ありませんでした。本当に悪いことなど一度もしたことのない、やさしいオオカミだったのです。
 ところが、やっとオオカミにも友達ができました。最近、この森に遊びに来るようになった少年ぶうよんとぶち猫のジョーンズです。2人はオオカミが大好きでした。
 ぶうよん 「やあ、オオカミ君!」
 ジョーンズ「にゃあ!」(やあ、オオカミ君!)
 オオカミ 「あ、ぶうよんとジョーンズ。君たちを待っていたんだ」
 ぶうよん「どうしたの?」
 オオカミ「大変なことが分かったんだ。ぼく、このあいだ、赤ずきんちゃんのおばあちゃんの家のところを通りかかったんだ。そしたら赤ずきんちゃんのお母さんが来ていてね、ぼく、いけないことだとは思ったんだけど、窓の下で2人の話を聞いちゃったんだ」
 _おまえもまだ若いんだから、今ならいくらでも再婚できるよ。
 _でもお母様、私は赤ずきんを連れているのですよ。子連れでは、とても無理ですわ。
 _赤ずきんなんて、血もつながっていない娘じゃないか。町の人買いにでも頼んで連れていってもらっておしまい!
 _それではあの子がかわいそうです。
 _こんなひなびた森の村でお針子の女手ひとつで育てられるよりもずっとましだよ!
 オオカミ「・・というわけなんだ」
 ぶうよん「よく分かんないよ」
 オオカミ「つまりね、こういうことなんだ。赤ずきんちゃんの本当のお母さんは、赤ずきんちゃんを産むとすぐに亡くなってしまったんだ。きこりだったお父さんは、そのあと今のお母さんと再婚して、そのまたお母さんがおばあちゃんさ。お父さんも山の事故で亡くなって、赤ずきんちゃんと血のつながりのない2人が残ったというわけさ。だから赤ずきんが邪魔になっちゃったらしいんだ」
 ぶうよん「それは大変、赤ずきんちゃんに知らせよう」
 オオカミ「ぼくも最初はそう思ったんだ。でもね、赤ずきんちゃんにはどうすることもできないし、信じているお母さんとおばあちゃんが裏切るなんて言えないよ」
 ぶうよん「そうか、そのとおりだね。じゃあ、赤ずきんちゃんを一番邪魔だと思っているおばあちゃんに頼みにいくしかないね」
 そんなとき、3人のすぐ近くの小道をバスケットを下げた赤ずきんちゃんが通りかかりました。オオカミはすぐに赤ずきんちゃんに走りよりました。
 ぶうよん「ジョーンズ、かあちゃんが読んでくれるお話のとおりだ。次の言葉もぼくたち知ってるよね」
 ジョーンズ「にゃあ、にゃにゃにゃ」
 二人は木の陰に隠れて様子を見ていました。


その2へつづく

先頭 表紙

2003-03-26 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その2

 オオカミ「あ。赤ずきんちゃんどこ行くの?」
 赤ずきん「きゃあ、オオカミだわ! そばへこないで。それより一歩でも近づいたら大きな声を出すわよ」
 オオカミ「おばあちゃんのとこかい?」
 赤ずきん「あなたには関係ないでしょ! 早くどこかへ行って」

 ぶうよん「ジョーンズ。ぼくたちの知らない展開だ。オオカミ君て、かなり誤解されてるね」
 ジョーンズ「うにゃあ」
 木陰のふたりは心配になりました。




 オオカミ「聞いたかい、ぶうよん、ジョーンズ。赤ずきんちゃんがおばあちゃんの家に行くと危ない。人買いが待っているかも知れないんだ」
 ぶうよん「それじゃあ、ぼくたちは赤ずきんちゃんより先におばあちゃんの家に行って、おばあちゃんを説得しよう」
 オオカミ「よし、近道だ。ぶうよん、ジョーンズ、ついてきて!」
そう言うと、オオカミは風のように走り始めました。ぶうよんとジョーンズもオオカミの後を追って、それぞれの全速力で走りました。オオカミはとても速く、牧場(まきば)の柵もひとっとびでしたが、ぶうよんは遅れがち、ジョーンズにいたっては、あっと言う間に2人を見失ってしまいました。
 しかたがないので、ジョーンズは森のけもの道をとぼとぼと歩いて行きました。すると、間もなくひなぎくの咲く野原に出ました。なんと、野原の向こうから歩いてくるのは赤ずきんちゃんではありませんか。赤ずきんちゃんはジョーンズを見つけると近づいてきました。
 赤ずきん「まあ、太った猫ちゃんだこと」
 ジョーンズは咽をなでられると、たちまちゴロゴロ言ってしまうのでした。
 赤ずきん「あたしがいま、お花で首輪を作ってあげますからね」
 赤ずきんちゃんはすっかり腰を落ち着けて、歌を歌いながら花を摘みはじめました。ジョーンズは、ここでできるかぎり時間かせぎをすることにしました。


 そのころ、オオカミはおばあちゃんの家に着きました。名乗ったら中に入れてもらえないと思ったオオカミは、ノックもせずにドアを開けました。幸い鍵はかかっていませんでした。
 オオカミ 「赤ずきんちゃんのおばあさん!」
 おばあさん「きゃあ、オオカミだよ、オオカミだよ、誰か来ておくれ!」
 オオカミ 「ぼくは何もしません、話を聞いてください」
 おばあさん「嘘をおつき! オオカミが何もしないわけないじゃないか。何もしなかったらオオカミじゃないよ」
 オオカミ 「それなら、ぼくはオオカミじゃなくてもけっこうです」
 おばあさん「それ、嘘をついた。おまえは誰が見たってオオカミだよ」
 オオカミ 「とにかく話を聞いてください」
 オオカミは勝手に話し始めることにしました。
 オオカミ 「このあいだ、この近くを通りかかったとき、ぼくは、おばあさんと赤ずきんちゃんのお母さんの話を偶然聞いてしまったんです」
 おばあさん「ほら、やっぱりオオカミはいやだよ。早く出ていっておくれ」
 オオカミ 「悪いとは思っています。でも赤ずきんちゃんを町へ売らないでください」
 おばあさん「人の家のことに口をはさむなんて、やっぱりおまえはいやなオオカミだよ」
 オオカミ 「赤ずきんちゃんは、お母さんもおばあさんも、この村もみんな好きなんです」
 おばあさん「でも、おまえのことはきらいだよ」
 オオカミ 「うっ、そんなことはどうでもいい! とにかく赤ずきんちゃんを町へ売ったりしないでください」
 おばあさん「もう、話はついてるんだ。早く出ておゆき!」
 オオカミとおばあさんの話は、いつになってもらちがあきそうにありませんでした。


その3へつづく

先頭 表紙

2003-03-25 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その3

 遅れてしまったぶうよんが、そのころやっとおばあさんの家が見えるところまでたどりつきました。ところがそこで見たのは、今まさに入り口のドアに向かっている2人組でした。きっと人買いに違いありません。一人は小太りで背が低く、もうひとりはノッポで肩から猟銃を下げていました。ぶうよんは、見つからないように近づくと、物陰から様子をうかがうことにしました。
 コンコン!
 おばあさんはノックの音を聞くと、大声で叫びました。
 「オオカミだよ、オオカミがいるんだよ。赤ずきんをさらいに来たんだ。赤ずきんはいないって言ったのに出ていかないんだよ、助けておくれ!」
それを聞いたノッポの人買いは一計を案じました。
 「オオカミ! 赤ずきんならここにいる。おとなしく出てこい。さもないと赤ずきんがどうなっても知らんぞ」
 そう言うと、ノッポは銃口をドアに向けて待ちました。
 オオカミは人買いの言ったことは嘘だろうと思いましたが、万が一ということもあります。赤ずきんちゃんの身を案じてゆっくりをドアノブを回しました。
 ノッポの指が引き金にかかったのを見たぶうよんは大声で叫びました。
 「オオカミ君、来ちゃいけない。ワナだ!」
 そして、物陰から走り出ると、銃をかまえたノッポの人買いに体当たりしました。
 ノッポ 「なんだ、このチビは! 邪魔すんじゃねえ」
 ぶうよん「オオカミ君、早く逃げるんだ!」
 オオカミは、その声を聞くと裏の木戸から全速力で逃げ出しました。ぶうよんも、逆方向に向かって力いっぱい走りました。

 それからしばらくして、オオカミとぶうよんは少し離れた森で落ち合いました。
 「ああ、オオカミ君無事でよかった」
 「ぶうよん、君のおかげさ。君こそ無事なによりだ。ところで、ジョーンズを見たかい?」
 「いや、あいつ太ってるし、足遅いし、迷子にでもなってるんじゃないかな」
 「とりあえず、ぼくたちはもう一度、おばあちゃんの家に戻ろう」

 2人がおばあさんの家の近くまで戻ると、赤ずきんちゃんの泣き叫ぶ声が聞こえてきました。
 「たいへんだ、ぶうよん急ごう」
 「うん」
 おばあさんの家の前では、泣いていやがる赤ずきんちゃんの腕を小太りの人買いがつかみ、人買いの腕にはひなぎくの首輪のジョーンズが噛みついたままぶらさがっていました。ノッポの人買いは、ジョーンズの首根っこをつかむと、ポーンとほうり投げました。ジョーンズは地面にたたきつけられると、そのまま目から火花を出して気を失ってしまいました。
 オオカミ「ジョーンズ!」
 ぶうよん「しっ、静かにオオカミ君。ジョーンズなら大丈夫。あいつはタフなだけがとりえだって、いつもうちのとうちゃん言ってるんだ。チャンスを待とう」
 人買いたちはオオカミの声には気づかなかったらしく、赤ずきんちゃんを連れてそのまま立ち去りました。
 オオカミ「ぶうよん、あいつらの後を追ってくれ。ぼくは、ジョーンズを介抱してから匂いで後を追うから。鼻ならまかせて」
 ぶうよん「うん、先に行くよ」


その4へつづく

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