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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2003-04-01 猫の星の歴史教科書第13回「クリスマスの出来事」その1
2003-03-31 猫の星の歴史教科書第13回「クリスマスの出来事」その2
2003-03-30 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その1
2003-03-29 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その2
2003-03-28 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その3
2003-03-27 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その1
2003-03-26 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その2
2003-03-25 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その3
2003-03-24 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その4
2003-03-23 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その5


2003-04-01 猫の星の歴史教科書第13回「クリスマスの出来事」その1

ポロでーす。今日は、どうして野村家にサンタクロースがやってくることになったかというお話です。ときは1961年、ところは東京の板橋区。せんせいは、なでしこ幼稚園にかよっていたと、猫の星の歴史資料集に出ています。


クリスマスの出来事 1

 まだ盛明(もりあき)おじいちゃんが若くて「盛明とうさん」だった頃のお話です。
 おじいちゃんは歯科材料製造会社に勤めていました。その寒い冬の晩も会社で残業を終えて急いで家に帰る途中でした。双葉町の氷川神社の森を通りかかると、サンタクロースの衣装を着た老人が途方に暮れていました。
 「どうしましたか?」
 「あ、いや、これはこれは。橇(そり)が故障してしまってな」
 メリーゴーラウンドの馬によく似たトナカイの人形が、屋根なし橇を牽(ひ)いていました。何度もペンキを塗り直してあり、かなり安っぽい大道具といった感じです。
 「どこかのケーキ屋さんの売り出しですか?」
 「ま、ケーキじゃないが、そんなようなもんだとも言えるかな。つかぬことをお伺いするが、あんた、機械には強いですかな」
  「いや、なんとも言えません」
 そう言うと、老人はトナカイの背中のふたを開けて何かを取り出しました。
 「まあ、ちょっと見てくだされ。この支柱が折れてしまってな」
 それは、見たことのない部品でしたが、こわれているのは機械部品そのものではなく、部品を支えている樹脂製のステー(脚)でした。人形のトナカイが光るか、鳴くかするようなしかけがあるのでしょうか。
 「これなら簡単です。私の会社で作っている印象材で型どりして、樹脂か硬石膏を流し込めばすぐできますよ」
 「それは助かる。お願いしてもいいじゃろうか」
 若かった盛明おじいちゃんは、この哀れなお年寄りのためにひと肌脱ぐことにしました。部品を持ってもう一度会社に戻ると、すぐに同じものを作りました。出来ばえに満足すると、氷川神社に急ぎました。
 「おお、見事じゃ。元のよりもずっといい。これが支えているのはグラヴィトン・コンバータという部品でな、これがないと浮かばんのじゃよ」
 老人は、部品を元の場所へ収めるとパチンとふたを閉め、トナカイに声をかけました。
 「よし、ドレッディ。マシンチェックじゃ」
 「了解。全デバイス起動。作動状況を確認します」
 盛明おじいちゃんはびっくりしました。トナカイ人形がしゃべっています。
 「与圧フィールド発生装置起動、異常なし。ディーンドライヴ起動、反重力デバイス作動確認。全航法装置異常なし。ステルスデバイス異常なし。‥‥‥‥」
 「よし、そのまま待機しておれ」
 老人は盛明おじいちゃんの方を向くと言いました。
 「本当に助かりました。このお礼は必ずさせていただきますじゃ。しかし、今日は、ちと急ぎますでな。これにて失礼」
 そう言って深々と頭をさげると、橇に乗ってスレーベルの音と共に空高く飛んでいってしまいました。それは、あまりにあっと言う間の出来事で、あっけにとられて空を眺めた盛明おじいちゃんは夢を見ていたような気がしてきました。
 翌日はクリスマスイヴでした。おじいちゃんは、その頃まだ小さかった3人の子どもたちにプレゼントを買おうと、早めに会社を出ました。閉店時刻を遅らせてお店を開いているおもちゃ屋さんにはプレゼントを買い求めるおとうさんたちがたくさんやってきていました。

その2につづく

先頭 表紙

2003-03-31 猫の星の歴史教科書第13回「クリスマスの出来事」その2

 少し前にソビエトとアメリカが人工衛星の打ち上げ競争をしていたこともあって、とむりんはロケットと宇宙ステーションがドッキングするおもちゃを欲しがっていました。でも、盛明おじいちゃんは、それを見つけてちょっと哀しくなりました。とても高価で買えそうになかったからでした。2人の娘、えみりんとぽーりんの欲しがっていた小さな家の模型(今はドールハウスと呼ばれています)や樹脂製の着せ替え人形も、とても高価で買えそうにありませんでした。いえ、どれか一つなら買えます。無理をすれば2つだって買えないことはないでしょう。でも、誰か一人を悲しませるわけにはいきません。
 それで、盛明おじいちゃんは別の素敵なプレゼントを3つ見つくろって大きな包みを抱えて家に帰りました。

 家では、庭の小さな樅の木が大きな植木鉢に移されて部屋の中に持ち込まれていました。綿の雪と子どもたちの手作りの折り紙やお菓子のおまけで飾られたツリーは、ただなのになんだか素敵でした。
 ケーキと少しのごちそうを前にみんなが待っていると、盛明おじいちゃんが帰ってきました。盛明おじいちゃんはプレゼントを外の物置に隠してから部屋に入ってきました。
 「とうちゃん、おかえりー!」
 子どもたちは嬉しくて嬉しくて上へ下への大騒ぎです。その頃は、ケーキを食べるなんてクリスマスとお誕生日くらいのものでしたから、その夜の賑わいは大変なものでした。子どもたちの関心事は、サンタクロースが来てくれるかどうかでした。いい子のところにしか来ないと言われて、とむりんは1年間いい子でいられたかどうか考えて、とっても心配になりました。だって、いっぱいいたずらをしてしまったからです。

 騒ぎ疲れた子どもたちが寝てしまうと、盛明おじいちゃんは物置へプレゼントを取りに行きました。しかし、物置には人影がありました。
 「おお。ワシじゃよワシじゃ」
 「あ、サンタさん。こんなところで何を?」
 「いやあ、昨日の礼にと思って子どもたちにプレゼントを持ってきたのじゃ。ささ、これもひとりひとりの枕元に置いてやってくだされ」
 「ど、どうも恐縮です」
 「ふぉっふぉっふぉっ、これがワシの仕事じゃ。だから、これは当たり前。あんたへの礼は別じゃ。そのうち分かるじゃろ。ではさらばじゃ」
 はっと気づくとサンタの姿はなく、空高くスレイベルの音が遠ざかっていきました。

 枕元にプレゼントを置いていると、包みの多さに驚いて芳子かあさんがやってきました。
 「まあ、そんなにたくさんどうしたの?」
 「3つは買った。のこりの3つは、まあ、当たったんだな」
 「どんな抽選だったの?」
 「氷川神社だ」
 「何それ」

 サンタデパートの包み紙のプレゼントが何であるか、盛明とうさんにはピンと来ました。昨日、実物を見てきたばかりだったからです。子どもたちの喜ぶ顔が目に浮かび、幸福を噛みしめる思いでした。しかし戦争で九死に一生を得て戻った盛明とうさんは、すぐに亡くなった戦友たちを思いだしました。生きて帰ったことを申し訳なくも思って、夜も更けたのに暗い部屋にいつまでも座って、もの想いにふけっていたのでした。
 翌年、盛明おじいちゃんは会社で昇進の辞令を受けました。そのとき、なぜか突然サンタクロースのことを思いだしましたが「まさか」と思い直し、同僚たちの拍手の中で直属の上司に一礼してちょっと厚手のその紙を受け取ったのでした。


おしまい


野村茎一作曲工房

先頭 表紙

2003-03-30 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その1

 今日のお話は、ある動物びょういんのせんせいが話してくださった本当にあったお話を元に書かれたと、猫の星教育省は言っています。とっても悲しいお話なので、涙もろい人は読むのを考え直した方がいいと思います。ポロのしんみなちゅうこくです。ポロ、ちゃんと言いましたからね、あとでもんく言ってもだめです。



子猫のころの思い出

 ジョーンズが、まだ子猫だったころのことです。家の前で道端のたんぽぽの綿毛を飛ばして遊んでいると、小学生の男の子たちが2、3人、棒を振り回しながら走ってくるのが見えました。彼らはジョーンズを見つけると、何か大声で叫びながら、手に持った棒を振り上げて真っすぐに走ってきました。
 ジョーンズは、とっさにコンクリートフェンスに跳び上がって難を逃れましたが、ガツンという大きな音とともに、今までジョーンズが遊んでいたアスファルト上には鉄パイプで叩かれた跡がくっきりと残りました。
 - ああ、あぶなかった。どきどきしちゃった。なんという乱暴な子どもたちだろう。
 子どもたちが走り去ったのを確かめると、ジョーンズは、また道端のたんぽぽのところに飛び降りました。けれど、もう、たんぽぽで遊ぶ気はしなくなってしまいました。子どもたちから少しでも離れたい気持ちから、ジョーンズは子どもたちがやって来た方向に向かって歩き始めました。少し歩くと、子猫の鳴き声が聞こえることに気がつきました。ぐるりとまわりを見渡すと、いましたいました。ジョーンズよりも、もっと小さな三毛の子猫がこちらに向かって歩いてきます。でも、様子が少し変でした。フラフラしているし、声もかすれがちです。そのうち、とうとう子猫は倒れ込んでしまいました。ジョーンズは大急ぎで子猫のそばに走りよりました。そして、子猫の不自然にへこんだ頭を見てピンときました。


その2につづく


先頭 表紙

2003-03-29 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その2

 - あの子どもたちのしわざだ!
 「にゃあ」
 ジョーンズが子猫の顔を心配そうにのぞき込むと、弱々しく鳴きました。
 - 何ということだろう。この子は、きっと、ただ遊んでいただけなんだ。何も悪いことなんかしていないよね。どうしてこんな目に遭わなくてはならないんだ。
ジョーンズは、悲しみと怒りと情けなさで涙があふれてきました。それはもう、頭がクラクラするほどでした。
 「にゃあ」
 その声を聞いて、ジョーンズは我に返りました。なんとしても、この子猫を助けなければなりません。
 - そうだ、動物病院の先生にお願いしよう。
 「さあ、子猫ちゃん。ぼくが動物病院に連れていってあげるからね、少し遠いけど頑張るんだよ」
 ジョーンズは、大人の猫がするように子猫の首をくわえて運ぼうとしました。でも、ジョーンズも子猫でしたから、それは無理でした。仕方なく引きずって行くことにしました。
 ずずずず、ずりずり、ずずずず、ずりずり。
 少しづつ、少しづつ、ジョーンズたちはカタツムリの歩みのようにゆっくりと進みました。初夏の太陽は熱い光を情け容赦なく2匹の子猫たちにも浴びせました。
 ずずずず、ずりずり、ずずずず、ずりずり。
 自動車通りに出るころには、子猫は、もう鳴かなくなってしまいました。ただ、弱々しい息づかいが聞こえてくるだけです。
 - 急がなくちゃ、急がなくちゃ。ぼくは急がなくちゃならないんだ。この子が死ぬようなことがあったら、ぼくはどうすればいいんだ。
 そうは思っても、小さなジョーンズは、もうくたくたになってしまっていて、だんだん力が出なくなってきてしまいました。
 そんな時、上から大きな声がしました。
 「見てよ、奥さん。このぶち猫ったら、子猫をいじめてるわよ。 しっしっ、あっち行け!」
 「あら、本当だわ。悪い猫ねえ」
 だしぬけにお尻を蹴とばされ、ジョーンズは近くの電柱にぶつかって止まるまでころころと転がってしまいました。そして、電柱の陰に隠れて様子をうかがいました。
 「あらあ。この猫、頭がつぶれてるじゃない、気持ち悪いわねえ」
 「あのぶち猫がやったんじゃないの」
 二人のおばさんは、そんなことを言いながら行ってしまいました。ジョーンズは、すぐに子猫のところに駆けもどりました。
 「ごめんよ、ぼく恥ずかしいよ。あのくらいのことで電柱の陰に隠れたりして。 それにしても、あのおばさんたち、君がケガをしていることに気がついたのに、どうして病院に連れていってくれなかったんだろう」
 ジョーンズは、再び子猫をくわえて引きずり始めました。力は出ないし、のども乾いてヒリヒリしていましたが、もう辛さも感じなくなっていました。
 -がんばるんだよ。とってもいい先生なんだ。ぼくの命も助けてくれたし、きっと君も助けてくれる。
 ジョーンズは人通りの少ない道に折れました。ほんの少し遠回りになるかもしれませんが、さっきのようなことは、もういやだったからです。


その3につづく


先頭 表紙

2003-03-28 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その3

 静かな住宅街にさしかかったころ、子猫がそっと目を開きました。ジョーンズは引きずるのをやめて子猫の顔をのぞきこみました。子猫は小刻みにふるえながら、何か言いたげに口をあけましたが声にはなりませんでした。そして、ゆっくりと目を閉じると、それきり動かなくなりました。ジョーンズは子猫の息の音を確かめようとしましたが、何も、何も聞こえませんでした。子猫はとうとう死んでしまったのです。
 「わああああああああああああああ!」
 ジョーンズは叫ばずにはいられませんでした。自分でも、叫び声を止めることはできませんでした。涙があとからあとから流れ出して止まりません。動物病院までは、まだ半分以上の道のりを残していました。自分の力のなさに腹が立ち、子猫の短すぎた命を思うとくやしくて悲しくてどうにかなってしまいそうでした。
 -今度、あの子どもたちを見かけたらただじゃおかないぞ、ね、みけ猫くん。ああ、君は土ぼこりでよごれて白いところがなくなっちゃったじゃないか。どうして、こんなにみすばらしくならなきゃならないんだ。それに、きみはこんなにやせてる。おなかがいっぱいになったことなんてないんだろうね。きっと、生まれてすぐに捨てられたんだろうね。つらかったろうね。ぼくのごはん分けてあげたかったよ。ぼくも捨て猫だったんだ。きみはいったい何のために生まれてきたんだろうね。
 ジョーンズは悲しみと憤(いきどお)りと疲れのために気を失うように眠り込んでしまいました。

 気がつくと、太陽はもう西に傾きかけていました。ジョーンズは身体じゅうの力が抜けてしまったように感じましたが、気をとりなおして、また子猫をくわえると、来た道を引き返し始めました。少し進んでは休み、少し進んでは休み、いつもの遊び場である向かいのお屋敷にたどりついた時には日も暮れ、夕方の涼しい風が吹いていました。
 ジョーンズは、とむりんが「ジョーンズのジャングル」と呼んでいる大きな茂みの中の、まだ大きくなっていないひまわりの根元に子猫を埋めました。あたりは、すっかり暗くなっていました。
 「さよなら、子猫くん・・・」
 しばらく立ち尽くしたあと、ジョーンズは家にもどりました。


 玄関先では、しんぱいそうにとむりんが待っていました。
 「あ、やっとこいつ帰ってきたぞ。それも、こんなによごれて! いったいどこで悪さしてきたんだ」
 「にゃあ」
 「さあ、ごはん食べなさい」
 「にゃあ」


 その晩、ジョーンズはごはんを食べませんでした。そして、夜中に子猫の夢を見ました。土ぼこりの汚れもとれてふわふわになった三毛猫が空高く昇っていきます。ジョーンズが力いっぱい手を振ると、子猫はニコニコしながらこちらを見降ろすのでした。ジョーンズはいつまでも見つめていましたが、その姿はだんだん小さくなっていって、とうとう夜空の星と区別がつかなくなりました。


おしまい


 これは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房


先頭 表紙

2003-03-27 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その1

赤ずきんちゃん気をつけて


 
 「ぶうよん、ジョーンズ、お話の時間よー!」
 ぶうよんのかあちゃんの呼び声がしました。まもなく、絵本を囲んで3人が茶の間の畳の上に揃いました。絵本の題名は「赤ずきんちゃん」です。
ぶうよんもジョーンズも、このお話が大好きでした。だから何回読んでもらっても飽きることなどなく、すみからすみまで全部覚えてしまったほどです。
 「むかしのことです。森の中の一軒家に、お母さんとかわいい女の子が暮らしていました・・・・」
 ぶうよんはゴロリと腹ばいになって、あごを両手で支えるとひざから先を立てて、つま先をぶらぶらさせました。ジョーンズも寝そべってしっぽをぐるりと回しました。

 ・・・森にはオオカミも住んでいました。オオカミは、オオカミなので森じゅうの嫌われものでした。もちろん、誰も友だちになろうとはしませんでした。オオカミは自分がオオカミだという理由だけで嫌われていることが悲しくて仕方ありませんでした。本当に悪いことなど一度もしたことのない、やさしいオオカミだったのです。
 ところが、やっとオオカミにも友達ができました。最近、この森に遊びに来るようになった少年ぶうよんとぶち猫のジョーンズです。2人はオオカミが大好きでした。
 ぶうよん 「やあ、オオカミ君!」
 ジョーンズ「にゃあ!」(やあ、オオカミ君!)
 オオカミ 「あ、ぶうよんとジョーンズ。君たちを待っていたんだ」
 ぶうよん「どうしたの?」
 オオカミ「大変なことが分かったんだ。ぼく、このあいだ、赤ずきんちゃんのおばあちゃんの家のところを通りかかったんだ。そしたら赤ずきんちゃんのお母さんが来ていてね、ぼく、いけないことだとは思ったんだけど、窓の下で2人の話を聞いちゃったんだ」
 _おまえもまだ若いんだから、今ならいくらでも再婚できるよ。
 _でもお母様、私は赤ずきんを連れているのですよ。子連れでは、とても無理ですわ。
 _赤ずきんなんて、血もつながっていない娘じゃないか。町の人買いにでも頼んで連れていってもらっておしまい!
 _それではあの子がかわいそうです。
 _こんなひなびた森の村でお針子の女手ひとつで育てられるよりもずっとましだよ!
 オオカミ「・・というわけなんだ」
 ぶうよん「よく分かんないよ」
 オオカミ「つまりね、こういうことなんだ。赤ずきんちゃんの本当のお母さんは、赤ずきんちゃんを産むとすぐに亡くなってしまったんだ。きこりだったお父さんは、そのあと今のお母さんと再婚して、そのまたお母さんがおばあちゃんさ。お父さんも山の事故で亡くなって、赤ずきんちゃんと血のつながりのない2人が残ったというわけさ。だから赤ずきんが邪魔になっちゃったらしいんだ」
 ぶうよん「それは大変、赤ずきんちゃんに知らせよう」
 オオカミ「ぼくも最初はそう思ったんだ。でもね、赤ずきんちゃんにはどうすることもできないし、信じているお母さんとおばあちゃんが裏切るなんて言えないよ」
 ぶうよん「そうか、そのとおりだね。じゃあ、赤ずきんちゃんを一番邪魔だと思っているおばあちゃんに頼みにいくしかないね」
 そんなとき、3人のすぐ近くの小道をバスケットを下げた赤ずきんちゃんが通りかかりました。オオカミはすぐに赤ずきんちゃんに走りよりました。
 ぶうよん「ジョーンズ、かあちゃんが読んでくれるお話のとおりだ。次の言葉もぼくたち知ってるよね」
 ジョーンズ「にゃあ、にゃにゃにゃ」
 二人は木の陰に隠れて様子を見ていました。


その2へつづく

先頭 表紙

2003-03-26 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その2

 オオカミ「あ。赤ずきんちゃんどこ行くの?」
 赤ずきん「きゃあ、オオカミだわ! そばへこないで。それより一歩でも近づいたら大きな声を出すわよ」
 オオカミ「おばあちゃんのとこかい?」
 赤ずきん「あなたには関係ないでしょ! 早くどこかへ行って」

 ぶうよん「ジョーンズ。ぼくたちの知らない展開だ。オオカミ君て、かなり誤解されてるね」
 ジョーンズ「うにゃあ」
 木陰のふたりは心配になりました。




 オオカミ「聞いたかい、ぶうよん、ジョーンズ。赤ずきんちゃんがおばあちゃんの家に行くと危ない。人買いが待っているかも知れないんだ」
 ぶうよん「それじゃあ、ぼくたちは赤ずきんちゃんより先におばあちゃんの家に行って、おばあちゃんを説得しよう」
 オオカミ「よし、近道だ。ぶうよん、ジョーンズ、ついてきて!」
そう言うと、オオカミは風のように走り始めました。ぶうよんとジョーンズもオオカミの後を追って、それぞれの全速力で走りました。オオカミはとても速く、牧場(まきば)の柵もひとっとびでしたが、ぶうよんは遅れがち、ジョーンズにいたっては、あっと言う間に2人を見失ってしまいました。
 しかたがないので、ジョーンズは森のけもの道をとぼとぼと歩いて行きました。すると、間もなくひなぎくの咲く野原に出ました。なんと、野原の向こうから歩いてくるのは赤ずきんちゃんではありませんか。赤ずきんちゃんはジョーンズを見つけると近づいてきました。
 赤ずきん「まあ、太った猫ちゃんだこと」
 ジョーンズは咽をなでられると、たちまちゴロゴロ言ってしまうのでした。
 赤ずきん「あたしがいま、お花で首輪を作ってあげますからね」
 赤ずきんちゃんはすっかり腰を落ち着けて、歌を歌いながら花を摘みはじめました。ジョーンズは、ここでできるかぎり時間かせぎをすることにしました。


 そのころ、オオカミはおばあちゃんの家に着きました。名乗ったら中に入れてもらえないと思ったオオカミは、ノックもせずにドアを開けました。幸い鍵はかかっていませんでした。
 オオカミ 「赤ずきんちゃんのおばあさん!」
 おばあさん「きゃあ、オオカミだよ、オオカミだよ、誰か来ておくれ!」
 オオカミ 「ぼくは何もしません、話を聞いてください」
 おばあさん「嘘をおつき! オオカミが何もしないわけないじゃないか。何もしなかったらオオカミじゃないよ」
 オオカミ 「それなら、ぼくはオオカミじゃなくてもけっこうです」
 おばあさん「それ、嘘をついた。おまえは誰が見たってオオカミだよ」
 オオカミ 「とにかく話を聞いてください」
 オオカミは勝手に話し始めることにしました。
 オオカミ 「このあいだ、この近くを通りかかったとき、ぼくは、おばあさんと赤ずきんちゃんのお母さんの話を偶然聞いてしまったんです」
 おばあさん「ほら、やっぱりオオカミはいやだよ。早く出ていっておくれ」
 オオカミ 「悪いとは思っています。でも赤ずきんちゃんを町へ売らないでください」
 おばあさん「人の家のことに口をはさむなんて、やっぱりおまえはいやなオオカミだよ」
 オオカミ 「赤ずきんちゃんは、お母さんもおばあさんも、この村もみんな好きなんです」
 おばあさん「でも、おまえのことはきらいだよ」
 オオカミ 「うっ、そんなことはどうでもいい! とにかく赤ずきんちゃんを町へ売ったりしないでください」
 おばあさん「もう、話はついてるんだ。早く出ておゆき!」
 オオカミとおばあさんの話は、いつになってもらちがあきそうにありませんでした。


その3へつづく

先頭 表紙

2003-03-25 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その3

 遅れてしまったぶうよんが、そのころやっとおばあさんの家が見えるところまでたどりつきました。ところがそこで見たのは、今まさに入り口のドアに向かっている2人組でした。きっと人買いに違いありません。一人は小太りで背が低く、もうひとりはノッポで肩から猟銃を下げていました。ぶうよんは、見つからないように近づくと、物陰から様子をうかがうことにしました。
 コンコン!
 おばあさんはノックの音を聞くと、大声で叫びました。
 「オオカミだよ、オオカミがいるんだよ。赤ずきんをさらいに来たんだ。赤ずきんはいないって言ったのに出ていかないんだよ、助けておくれ!」
それを聞いたノッポの人買いは一計を案じました。
 「オオカミ! 赤ずきんならここにいる。おとなしく出てこい。さもないと赤ずきんがどうなっても知らんぞ」
 そう言うと、ノッポは銃口をドアに向けて待ちました。
 オオカミは人買いの言ったことは嘘だろうと思いましたが、万が一ということもあります。赤ずきんちゃんの身を案じてゆっくりをドアノブを回しました。
 ノッポの指が引き金にかかったのを見たぶうよんは大声で叫びました。
 「オオカミ君、来ちゃいけない。ワナだ!」
 そして、物陰から走り出ると、銃をかまえたノッポの人買いに体当たりしました。
 ノッポ 「なんだ、このチビは! 邪魔すんじゃねえ」
 ぶうよん「オオカミ君、早く逃げるんだ!」
 オオカミは、その声を聞くと裏の木戸から全速力で逃げ出しました。ぶうよんも、逆方向に向かって力いっぱい走りました。

 それからしばらくして、オオカミとぶうよんは少し離れた森で落ち合いました。
 「ああ、オオカミ君無事でよかった」
 「ぶうよん、君のおかげさ。君こそ無事なによりだ。ところで、ジョーンズを見たかい?」
 「いや、あいつ太ってるし、足遅いし、迷子にでもなってるんじゃないかな」
 「とりあえず、ぼくたちはもう一度、おばあちゃんの家に戻ろう」

 2人がおばあさんの家の近くまで戻ると、赤ずきんちゃんの泣き叫ぶ声が聞こえてきました。
 「たいへんだ、ぶうよん急ごう」
 「うん」
 おばあさんの家の前では、泣いていやがる赤ずきんちゃんの腕を小太りの人買いがつかみ、人買いの腕にはひなぎくの首輪のジョーンズが噛みついたままぶらさがっていました。ノッポの人買いは、ジョーンズの首根っこをつかむと、ポーンとほうり投げました。ジョーンズは地面にたたきつけられると、そのまま目から火花を出して気を失ってしまいました。
 オオカミ「ジョーンズ!」
 ぶうよん「しっ、静かにオオカミ君。ジョーンズなら大丈夫。あいつはタフなだけがとりえだって、いつもうちのとうちゃん言ってるんだ。チャンスを待とう」
 人買いたちはオオカミの声には気づかなかったらしく、赤ずきんちゃんを連れてそのまま立ち去りました。
 オオカミ「ぶうよん、あいつらの後を追ってくれ。ぼくは、ジョーンズを介抱してから匂いで後を追うから。鼻ならまかせて」
 ぶうよん「うん、先に行くよ」


その4へつづく

先頭 表紙

2003-03-24 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その4

 オオカミとジョーンズが、ぶうよんに追いつくには、ほんの少しの時間しかかかりませんでした。3人は人買いたちに見つからないように後を追いましたが、赤ずきんちゃんを助け出すきっかけをつかめないまま、町のすぐそばまで来てしまいました。
 オオカミ「ぶうよん、ジョーンズ。ぼくは町へは行けないよ。町の人たちはオオカミを見たら、すぐに銃で撃つんだ」
 ぶうよん「だいじょうぶ、ぼくにいい考えがある」
 ぶうよんは、町はずれの納屋の前に落ちていたロープを持ってきて、オオカミをつなぎました。
 ぶうよん「ほうら、こうやってぼくがロープの端を持てば、君は誰が見たって犬さ」
 オオカミ「すごいぞ、ぶうよん。君は天才だ」
 ぶうよん「まあね」
 オオカミは、しっぽを丸めて犬らしく見えるようにしました。
 太ったぶち猫と、オオカミのような犬を連れた小さなぶうよんの奇妙な一行は、一列になって町へ入っていきました。




 定期馬車の停車場の人買いと赤ずきんちゃんを3人はすぐに見つけました。かわいそうな赤ずきんちゃんは、涙も涸れてぼーっとしているようでした。そのうち、ノッポの人買いが、もう一人に何か言うとどこかへ行ってしまいました。
 建物のかげで見ていた3人は、このチャンスに行動を起こすことにしました。
 ぶうよん「オオカミ君、ジョーンズ、よく聞いて。ぼくがあの男に小石を投げるから、そしたらジョーンズが、あの男の気をひくんだ。男はきっと怒ってジョーンズの後を追うから、ジョーンズはどこかの屋根の上に逃げるんだ。そのすきにぼくとオオカミ君は赤ずきんちゃんを助け出す。このロープを拾った町外れの納屋で落ち合おう」
 オオカミ「ぶうよん、やっぱり君は天才だ」
 ぶうよん「そっかなあ、ありがと。さあ、ジョーンズ、位置に着くんだ」

 ぶうよんは豆粒のような小石を拾うと、小太りな人買いに向かって投げました。石は放物線を描いて男の背中に命中しました。
 「だ、誰だ!」
 男が振り向くと、そこにはアカンベーをした太ったぶち猫がいました。
 「あっ、おまえ、おれに噛みついた猫だな」
 頭に血が上った男がジョーンズを追いかけると、すかさずオオカミは赤ずきんちゃんに走りよりました。
 オオカミ「赤ずきんちゃん、助けにきたよ!」
 赤ずきん「まあ、あなたオオカミね。信じてもいいのかしら」
 オオカミ「さあ、急いで!」
 赤ずきん「ええ、あなたを信じるわ。そうしないと、あたし売られてしまうんですもの」
 赤ずきんを助け出したオオカミとぶうよんは大急ぎで町外れの納屋に向かいました。
 男がのろまなでぶ猫をつかまえて停車場に戻ると、赤ずきんがいませんでした。
 「しまった!」
 青くなった男のところに、ノッポの人買いが戻ってきました。ノッポは小太りをひとしきり罵(ののし)ると、手分けして町中を探しはじめました。

 町はずれの納屋では、走り続けた3人が息を切らしていました。息がおさまると、最初に息がおさまったのは、やはりオオカミでした。
 オオカミ「ぶうよん、紹介するよ。赤ずきんちゃんだ」
 オオカミは、赤ずきんちゃんを紹介して、なんだか得意げでした。
 ぶうよん「はじめまして。ぼく、ぶうよんです」
 赤ずきん「まあ、変わったお名前ね。赤ずきんよ、よろしく」
 ぶうよんは、赤ずきんのほうがよほど変わった名前だと思いましたが、有名だからいいのかなと思いました。


その5へつづく

先頭 表紙

2003-03-23 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その5

 オオカミ「ジョーンズは大丈夫かなあ」
 ぶうよん「うん、きっと今ごろ、ここに向かっているよ。それよりオオカミ君、赤ずきんちゃんをどうする?」
 オオカミ「うん、ぼくもそれを考えていたところだよ」
 赤ずきん「信じていたお母さんやおばあちゃんより、あんなに嫌っていたオオカミさんのほうがいい人だったなんて・・・、あたし、オオカミさんになんて謝ればいいのかしら」
 オオカミ「いいんだよ、そんなこと。オオカミはいつだって嫌われ者だし、ぼくはもう慣れっこさ。それに、ぼくにはぶうよんやジョーンズがいてくれるもの」
 赤ずきんの言葉にオオカミは照れていました。オオカミの言葉にぶうよんまで照れていました。
 赤ずきん「あたし、教会の孤児院に行こうと思うの。もう、役に立つ年頃だもの、小さな子どもたちのために何かできるわ。おねがい、連れていって。」
 ぶうよん「わ、自立した言葉! そんなの聞いたら、うちのとうちゃんとかあちゃん、喜んでごちそうつくっちゃうよ!」
 オオカミ「赤ずきんちゃん。きみは、やっぱり思ったとおりステキな人だ。よし、そうしよう。人買いたちは必死になってぼくたちを探しているはずだ。逃げ回っているよりも、教会のほうが安全だしね」
 ぶうよん「賛成」
 赤ずきん「ええ、お願いするわ」
 赤ずきんちゃんは、きっぱりと言いました。
 オオカミとぶうよんは、本当の両親のほかに継母(ままはは)とそのおばあちゃんまでを失ってしまった赤ずきんちゃんを、複雑な気持ちで教会に連れていくことにしました。
 赤ずきん「教会は、停車場の近くよ」
 ぶうよん「オオカミ君、君の鼻で人買いがいないかどうか確かめながら行こう」
 オオカミ「まかせてよ!」
 3人は町へ戻ると、注意深く石畳の道を進んでいきました。途中で、遠くに人買いの姿を見つけましたが、その肩に担がれた銃の先には4本の足をしばられたジョーンズがカチカチ山のタヌキのようにぶらさがっていました。
 ぶうよん「ああ、まったく世話のやける猫だな」
 オオカミ「どうする、ぶうよん」
 赤ずきん「あの」」
 オオカミ「なに?」
 赤ずきん「あたしの姿を見れば、あの人たち猫なんか放って追いかけてくると思うの」
 ぶうよん「君がつかまったりしたら元も子もないよ。ジョーンズは後だ」
 オオカミ「ぶうよんはね、ジョーンズには冷たいんだ」
 ぶうよん「そんなことないよ。あいつはタフがとりえなんだ」
 オオカミの鼻のおかげで3人は無事に教会にたどり着くことができました。孤児院は、その裏手にありました。
 赤ずきんちゃんをドアの前に立たせると、ぶうよんはドアをノックして、オオカミと一緒に物陰に隠れました。しばらくして太ったシスターがドアを開けました。
 シスター「どうしたの?」
 赤ずきん「あの、あの、あたし・・・・」
 そういうと、赤ずきんちゃんは今までがまんしていた涙がいっぺんにあふれ出して、どうにも止まらなくなってしまいました。
 物陰から見ていた2人も、あらためて赤ずきんちゃんの不幸な境遇を思いました。オオカミも、猟銃で撃たれて死んだと聞かされた両親のことを思いだして、ちょっと涙が出てしまいました。部屋に招き入れられた赤ずきんちゃんとシスターの声が聞こえてきました。


その6へつづく

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