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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2003-03-29 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その2
2003-03-28 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その3
2003-03-27 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その1
2003-03-26 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その2
2003-03-25 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その3
2003-03-24 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その4
2003-03-23 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その5
2003-03-22 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その6
2003-03-21 猫の星の歴史教科書第10回「楽しいクリスマス」その1
2003-03-20 猫の星の歴史教科書第10回「楽しいクリスマス」その2


2003-03-29 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その2

 - あの子どもたちのしわざだ!
 「にゃあ」
 ジョーンズが子猫の顔を心配そうにのぞき込むと、弱々しく鳴きました。
 - 何ということだろう。この子は、きっと、ただ遊んでいただけなんだ。何も悪いことなんかしていないよね。どうしてこんな目に遭わなくてはならないんだ。
ジョーンズは、悲しみと怒りと情けなさで涙があふれてきました。それはもう、頭がクラクラするほどでした。
 「にゃあ」
 その声を聞いて、ジョーンズは我に返りました。なんとしても、この子猫を助けなければなりません。
 - そうだ、動物病院の先生にお願いしよう。
 「さあ、子猫ちゃん。ぼくが動物病院に連れていってあげるからね、少し遠いけど頑張るんだよ」
 ジョーンズは、大人の猫がするように子猫の首をくわえて運ぼうとしました。でも、ジョーンズも子猫でしたから、それは無理でした。仕方なく引きずって行くことにしました。
 ずずずず、ずりずり、ずずずず、ずりずり。
 少しづつ、少しづつ、ジョーンズたちはカタツムリの歩みのようにゆっくりと進みました。初夏の太陽は熱い光を情け容赦なく2匹の子猫たちにも浴びせました。
 ずずずず、ずりずり、ずずずず、ずりずり。
 自動車通りに出るころには、子猫は、もう鳴かなくなってしまいました。ただ、弱々しい息づかいが聞こえてくるだけです。
 - 急がなくちゃ、急がなくちゃ。ぼくは急がなくちゃならないんだ。この子が死ぬようなことがあったら、ぼくはどうすればいいんだ。
 そうは思っても、小さなジョーンズは、もうくたくたになってしまっていて、だんだん力が出なくなってきてしまいました。
 そんな時、上から大きな声がしました。
 「見てよ、奥さん。このぶち猫ったら、子猫をいじめてるわよ。 しっしっ、あっち行け!」
 「あら、本当だわ。悪い猫ねえ」
 だしぬけにお尻を蹴とばされ、ジョーンズは近くの電柱にぶつかって止まるまでころころと転がってしまいました。そして、電柱の陰に隠れて様子をうかがいました。
 「あらあ。この猫、頭がつぶれてるじゃない、気持ち悪いわねえ」
 「あのぶち猫がやったんじゃないの」
 二人のおばさんは、そんなことを言いながら行ってしまいました。ジョーンズは、すぐに子猫のところに駆けもどりました。
 「ごめんよ、ぼく恥ずかしいよ。あのくらいのことで電柱の陰に隠れたりして。 それにしても、あのおばさんたち、君がケガをしていることに気がついたのに、どうして病院に連れていってくれなかったんだろう」
 ジョーンズは、再び子猫をくわえて引きずり始めました。力は出ないし、のども乾いてヒリヒリしていましたが、もう辛さも感じなくなっていました。
 -がんばるんだよ。とってもいい先生なんだ。ぼくの命も助けてくれたし、きっと君も助けてくれる。
 ジョーンズは人通りの少ない道に折れました。ほんの少し遠回りになるかもしれませんが、さっきのようなことは、もういやだったからです。


その3につづく


先頭 表紙

2003-03-28 猫の星の歴史教科書第12回「子猫のころの思い出」その3

 静かな住宅街にさしかかったころ、子猫がそっと目を開きました。ジョーンズは引きずるのをやめて子猫の顔をのぞきこみました。子猫は小刻みにふるえながら、何か言いたげに口をあけましたが声にはなりませんでした。そして、ゆっくりと目を閉じると、それきり動かなくなりました。ジョーンズは子猫の息の音を確かめようとしましたが、何も、何も聞こえませんでした。子猫はとうとう死んでしまったのです。
 「わああああああああああああああ!」
 ジョーンズは叫ばずにはいられませんでした。自分でも、叫び声を止めることはできませんでした。涙があとからあとから流れ出して止まりません。動物病院までは、まだ半分以上の道のりを残していました。自分の力のなさに腹が立ち、子猫の短すぎた命を思うとくやしくて悲しくてどうにかなってしまいそうでした。
 -今度、あの子どもたちを見かけたらただじゃおかないぞ、ね、みけ猫くん。ああ、君は土ぼこりでよごれて白いところがなくなっちゃったじゃないか。どうして、こんなにみすばらしくならなきゃならないんだ。それに、きみはこんなにやせてる。おなかがいっぱいになったことなんてないんだろうね。きっと、生まれてすぐに捨てられたんだろうね。つらかったろうね。ぼくのごはん分けてあげたかったよ。ぼくも捨て猫だったんだ。きみはいったい何のために生まれてきたんだろうね。
 ジョーンズは悲しみと憤(いきどお)りと疲れのために気を失うように眠り込んでしまいました。

 気がつくと、太陽はもう西に傾きかけていました。ジョーンズは身体じゅうの力が抜けてしまったように感じましたが、気をとりなおして、また子猫をくわえると、来た道を引き返し始めました。少し進んでは休み、少し進んでは休み、いつもの遊び場である向かいのお屋敷にたどりついた時には日も暮れ、夕方の涼しい風が吹いていました。
 ジョーンズは、とむりんが「ジョーンズのジャングル」と呼んでいる大きな茂みの中の、まだ大きくなっていないひまわりの根元に子猫を埋めました。あたりは、すっかり暗くなっていました。
 「さよなら、子猫くん・・・」
 しばらく立ち尽くしたあと、ジョーンズは家にもどりました。


 玄関先では、しんぱいそうにとむりんが待っていました。
 「あ、やっとこいつ帰ってきたぞ。それも、こんなによごれて! いったいどこで悪さしてきたんだ」
 「にゃあ」
 「さあ、ごはん食べなさい」
 「にゃあ」


 その晩、ジョーンズはごはんを食べませんでした。そして、夜中に子猫の夢を見ました。土ぼこりの汚れもとれてふわふわになった三毛猫が空高く昇っていきます。ジョーンズが力いっぱい手を振ると、子猫はニコニコしながらこちらを見降ろすのでした。ジョーンズはいつまでも見つめていましたが、その姿はだんだん小さくなっていって、とうとう夜空の星と区別がつかなくなりました。


おしまい


 これは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

野村茎一作曲工房


先頭 表紙

2003-03-27 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その1

赤ずきんちゃん気をつけて


 
 「ぶうよん、ジョーンズ、お話の時間よー!」
 ぶうよんのかあちゃんの呼び声がしました。まもなく、絵本を囲んで3人が茶の間の畳の上に揃いました。絵本の題名は「赤ずきんちゃん」です。
ぶうよんもジョーンズも、このお話が大好きでした。だから何回読んでもらっても飽きることなどなく、すみからすみまで全部覚えてしまったほどです。
 「むかしのことです。森の中の一軒家に、お母さんとかわいい女の子が暮らしていました・・・・」
 ぶうよんはゴロリと腹ばいになって、あごを両手で支えるとひざから先を立てて、つま先をぶらぶらさせました。ジョーンズも寝そべってしっぽをぐるりと回しました。

 ・・・森にはオオカミも住んでいました。オオカミは、オオカミなので森じゅうの嫌われものでした。もちろん、誰も友だちになろうとはしませんでした。オオカミは自分がオオカミだという理由だけで嫌われていることが悲しくて仕方ありませんでした。本当に悪いことなど一度もしたことのない、やさしいオオカミだったのです。
 ところが、やっとオオカミにも友達ができました。最近、この森に遊びに来るようになった少年ぶうよんとぶち猫のジョーンズです。2人はオオカミが大好きでした。
 ぶうよん 「やあ、オオカミ君!」
 ジョーンズ「にゃあ!」(やあ、オオカミ君!)
 オオカミ 「あ、ぶうよんとジョーンズ。君たちを待っていたんだ」
 ぶうよん「どうしたの?」
 オオカミ「大変なことが分かったんだ。ぼく、このあいだ、赤ずきんちゃんのおばあちゃんの家のところを通りかかったんだ。そしたら赤ずきんちゃんのお母さんが来ていてね、ぼく、いけないことだとは思ったんだけど、窓の下で2人の話を聞いちゃったんだ」
 _おまえもまだ若いんだから、今ならいくらでも再婚できるよ。
 _でもお母様、私は赤ずきんを連れているのですよ。子連れでは、とても無理ですわ。
 _赤ずきんなんて、血もつながっていない娘じゃないか。町の人買いにでも頼んで連れていってもらっておしまい!
 _それではあの子がかわいそうです。
 _こんなひなびた森の村でお針子の女手ひとつで育てられるよりもずっとましだよ!
 オオカミ「・・というわけなんだ」
 ぶうよん「よく分かんないよ」
 オオカミ「つまりね、こういうことなんだ。赤ずきんちゃんの本当のお母さんは、赤ずきんちゃんを産むとすぐに亡くなってしまったんだ。きこりだったお父さんは、そのあと今のお母さんと再婚して、そのまたお母さんがおばあちゃんさ。お父さんも山の事故で亡くなって、赤ずきんちゃんと血のつながりのない2人が残ったというわけさ。だから赤ずきんが邪魔になっちゃったらしいんだ」
 ぶうよん「それは大変、赤ずきんちゃんに知らせよう」
 オオカミ「ぼくも最初はそう思ったんだ。でもね、赤ずきんちゃんにはどうすることもできないし、信じているお母さんとおばあちゃんが裏切るなんて言えないよ」
 ぶうよん「そうか、そのとおりだね。じゃあ、赤ずきんちゃんを一番邪魔だと思っているおばあちゃんに頼みにいくしかないね」
 そんなとき、3人のすぐ近くの小道をバスケットを下げた赤ずきんちゃんが通りかかりました。オオカミはすぐに赤ずきんちゃんに走りよりました。
 ぶうよん「ジョーンズ、かあちゃんが読んでくれるお話のとおりだ。次の言葉もぼくたち知ってるよね」
 ジョーンズ「にゃあ、にゃにゃにゃ」
 二人は木の陰に隠れて様子を見ていました。


その2へつづく

先頭 表紙

2003-03-26 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その2

 オオカミ「あ。赤ずきんちゃんどこ行くの?」
 赤ずきん「きゃあ、オオカミだわ! そばへこないで。それより一歩でも近づいたら大きな声を出すわよ」
 オオカミ「おばあちゃんのとこかい?」
 赤ずきん「あなたには関係ないでしょ! 早くどこかへ行って」

 ぶうよん「ジョーンズ。ぼくたちの知らない展開だ。オオカミ君て、かなり誤解されてるね」
 ジョーンズ「うにゃあ」
 木陰のふたりは心配になりました。




 オオカミ「聞いたかい、ぶうよん、ジョーンズ。赤ずきんちゃんがおばあちゃんの家に行くと危ない。人買いが待っているかも知れないんだ」
 ぶうよん「それじゃあ、ぼくたちは赤ずきんちゃんより先におばあちゃんの家に行って、おばあちゃんを説得しよう」
 オオカミ「よし、近道だ。ぶうよん、ジョーンズ、ついてきて!」
そう言うと、オオカミは風のように走り始めました。ぶうよんとジョーンズもオオカミの後を追って、それぞれの全速力で走りました。オオカミはとても速く、牧場(まきば)の柵もひとっとびでしたが、ぶうよんは遅れがち、ジョーンズにいたっては、あっと言う間に2人を見失ってしまいました。
 しかたがないので、ジョーンズは森のけもの道をとぼとぼと歩いて行きました。すると、間もなくひなぎくの咲く野原に出ました。なんと、野原の向こうから歩いてくるのは赤ずきんちゃんではありませんか。赤ずきんちゃんはジョーンズを見つけると近づいてきました。
 赤ずきん「まあ、太った猫ちゃんだこと」
 ジョーンズは咽をなでられると、たちまちゴロゴロ言ってしまうのでした。
 赤ずきん「あたしがいま、お花で首輪を作ってあげますからね」
 赤ずきんちゃんはすっかり腰を落ち着けて、歌を歌いながら花を摘みはじめました。ジョーンズは、ここでできるかぎり時間かせぎをすることにしました。


 そのころ、オオカミはおばあちゃんの家に着きました。名乗ったら中に入れてもらえないと思ったオオカミは、ノックもせずにドアを開けました。幸い鍵はかかっていませんでした。
 オオカミ 「赤ずきんちゃんのおばあさん!」
 おばあさん「きゃあ、オオカミだよ、オオカミだよ、誰か来ておくれ!」
 オオカミ 「ぼくは何もしません、話を聞いてください」
 おばあさん「嘘をおつき! オオカミが何もしないわけないじゃないか。何もしなかったらオオカミじゃないよ」
 オオカミ 「それなら、ぼくはオオカミじゃなくてもけっこうです」
 おばあさん「それ、嘘をついた。おまえは誰が見たってオオカミだよ」
 オオカミ 「とにかく話を聞いてください」
 オオカミは勝手に話し始めることにしました。
 オオカミ 「このあいだ、この近くを通りかかったとき、ぼくは、おばあさんと赤ずきんちゃんのお母さんの話を偶然聞いてしまったんです」
 おばあさん「ほら、やっぱりオオカミはいやだよ。早く出ていっておくれ」
 オオカミ 「悪いとは思っています。でも赤ずきんちゃんを町へ売らないでください」
 おばあさん「人の家のことに口をはさむなんて、やっぱりおまえはいやなオオカミだよ」
 オオカミ 「赤ずきんちゃんは、お母さんもおばあさんも、この村もみんな好きなんです」
 おばあさん「でも、おまえのことはきらいだよ」
 オオカミ 「うっ、そんなことはどうでもいい! とにかく赤ずきんちゃんを町へ売ったりしないでください」
 おばあさん「もう、話はついてるんだ。早く出ておゆき!」
 オオカミとおばあさんの話は、いつになってもらちがあきそうにありませんでした。


その3へつづく

先頭 表紙

2003-03-25 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その3

 遅れてしまったぶうよんが、そのころやっとおばあさんの家が見えるところまでたどりつきました。ところがそこで見たのは、今まさに入り口のドアに向かっている2人組でした。きっと人買いに違いありません。一人は小太りで背が低く、もうひとりはノッポで肩から猟銃を下げていました。ぶうよんは、見つからないように近づくと、物陰から様子をうかがうことにしました。
 コンコン!
 おばあさんはノックの音を聞くと、大声で叫びました。
 「オオカミだよ、オオカミがいるんだよ。赤ずきんをさらいに来たんだ。赤ずきんはいないって言ったのに出ていかないんだよ、助けておくれ!」
それを聞いたノッポの人買いは一計を案じました。
 「オオカミ! 赤ずきんならここにいる。おとなしく出てこい。さもないと赤ずきんがどうなっても知らんぞ」
 そう言うと、ノッポは銃口をドアに向けて待ちました。
 オオカミは人買いの言ったことは嘘だろうと思いましたが、万が一ということもあります。赤ずきんちゃんの身を案じてゆっくりをドアノブを回しました。
 ノッポの指が引き金にかかったのを見たぶうよんは大声で叫びました。
 「オオカミ君、来ちゃいけない。ワナだ!」
 そして、物陰から走り出ると、銃をかまえたノッポの人買いに体当たりしました。
 ノッポ 「なんだ、このチビは! 邪魔すんじゃねえ」
 ぶうよん「オオカミ君、早く逃げるんだ!」
 オオカミは、その声を聞くと裏の木戸から全速力で逃げ出しました。ぶうよんも、逆方向に向かって力いっぱい走りました。

 それからしばらくして、オオカミとぶうよんは少し離れた森で落ち合いました。
 「ああ、オオカミ君無事でよかった」
 「ぶうよん、君のおかげさ。君こそ無事なによりだ。ところで、ジョーンズを見たかい?」
 「いや、あいつ太ってるし、足遅いし、迷子にでもなってるんじゃないかな」
 「とりあえず、ぼくたちはもう一度、おばあちゃんの家に戻ろう」

 2人がおばあさんの家の近くまで戻ると、赤ずきんちゃんの泣き叫ぶ声が聞こえてきました。
 「たいへんだ、ぶうよん急ごう」
 「うん」
 おばあさんの家の前では、泣いていやがる赤ずきんちゃんの腕を小太りの人買いがつかみ、人買いの腕にはひなぎくの首輪のジョーンズが噛みついたままぶらさがっていました。ノッポの人買いは、ジョーンズの首根っこをつかむと、ポーンとほうり投げました。ジョーンズは地面にたたきつけられると、そのまま目から火花を出して気を失ってしまいました。
 オオカミ「ジョーンズ!」
 ぶうよん「しっ、静かにオオカミ君。ジョーンズなら大丈夫。あいつはタフなだけがとりえだって、いつもうちのとうちゃん言ってるんだ。チャンスを待とう」
 人買いたちはオオカミの声には気づかなかったらしく、赤ずきんちゃんを連れてそのまま立ち去りました。
 オオカミ「ぶうよん、あいつらの後を追ってくれ。ぼくは、ジョーンズを介抱してから匂いで後を追うから。鼻ならまかせて」
 ぶうよん「うん、先に行くよ」


その4へつづく

先頭 表紙

2003-03-24 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その4

 オオカミとジョーンズが、ぶうよんに追いつくには、ほんの少しの時間しかかかりませんでした。3人は人買いたちに見つからないように後を追いましたが、赤ずきんちゃんを助け出すきっかけをつかめないまま、町のすぐそばまで来てしまいました。
 オオカミ「ぶうよん、ジョーンズ。ぼくは町へは行けないよ。町の人たちはオオカミを見たら、すぐに銃で撃つんだ」
 ぶうよん「だいじょうぶ、ぼくにいい考えがある」
 ぶうよんは、町はずれの納屋の前に落ちていたロープを持ってきて、オオカミをつなぎました。
 ぶうよん「ほうら、こうやってぼくがロープの端を持てば、君は誰が見たって犬さ」
 オオカミ「すごいぞ、ぶうよん。君は天才だ」
 ぶうよん「まあね」
 オオカミは、しっぽを丸めて犬らしく見えるようにしました。
 太ったぶち猫と、オオカミのような犬を連れた小さなぶうよんの奇妙な一行は、一列になって町へ入っていきました。




 定期馬車の停車場の人買いと赤ずきんちゃんを3人はすぐに見つけました。かわいそうな赤ずきんちゃんは、涙も涸れてぼーっとしているようでした。そのうち、ノッポの人買いが、もう一人に何か言うとどこかへ行ってしまいました。
 建物のかげで見ていた3人は、このチャンスに行動を起こすことにしました。
 ぶうよん「オオカミ君、ジョーンズ、よく聞いて。ぼくがあの男に小石を投げるから、そしたらジョーンズが、あの男の気をひくんだ。男はきっと怒ってジョーンズの後を追うから、ジョーンズはどこかの屋根の上に逃げるんだ。そのすきにぼくとオオカミ君は赤ずきんちゃんを助け出す。このロープを拾った町外れの納屋で落ち合おう」
 オオカミ「ぶうよん、やっぱり君は天才だ」
 ぶうよん「そっかなあ、ありがと。さあ、ジョーンズ、位置に着くんだ」

 ぶうよんは豆粒のような小石を拾うと、小太りな人買いに向かって投げました。石は放物線を描いて男の背中に命中しました。
 「だ、誰だ!」
 男が振り向くと、そこにはアカンベーをした太ったぶち猫がいました。
 「あっ、おまえ、おれに噛みついた猫だな」
 頭に血が上った男がジョーンズを追いかけると、すかさずオオカミは赤ずきんちゃんに走りよりました。
 オオカミ「赤ずきんちゃん、助けにきたよ!」
 赤ずきん「まあ、あなたオオカミね。信じてもいいのかしら」
 オオカミ「さあ、急いで!」
 赤ずきん「ええ、あなたを信じるわ。そうしないと、あたし売られてしまうんですもの」
 赤ずきんを助け出したオオカミとぶうよんは大急ぎで町外れの納屋に向かいました。
 男がのろまなでぶ猫をつかまえて停車場に戻ると、赤ずきんがいませんでした。
 「しまった!」
 青くなった男のところに、ノッポの人買いが戻ってきました。ノッポは小太りをひとしきり罵(ののし)ると、手分けして町中を探しはじめました。

 町はずれの納屋では、走り続けた3人が息を切らしていました。息がおさまると、最初に息がおさまったのは、やはりオオカミでした。
 オオカミ「ぶうよん、紹介するよ。赤ずきんちゃんだ」
 オオカミは、赤ずきんちゃんを紹介して、なんだか得意げでした。
 ぶうよん「はじめまして。ぼく、ぶうよんです」
 赤ずきん「まあ、変わったお名前ね。赤ずきんよ、よろしく」
 ぶうよんは、赤ずきんのほうがよほど変わった名前だと思いましたが、有名だからいいのかなと思いました。


その5へつづく

先頭 表紙

2003-03-23 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その5

 オオカミ「ジョーンズは大丈夫かなあ」
 ぶうよん「うん、きっと今ごろ、ここに向かっているよ。それよりオオカミ君、赤ずきんちゃんをどうする?」
 オオカミ「うん、ぼくもそれを考えていたところだよ」
 赤ずきん「信じていたお母さんやおばあちゃんより、あんなに嫌っていたオオカミさんのほうがいい人だったなんて・・・、あたし、オオカミさんになんて謝ればいいのかしら」
 オオカミ「いいんだよ、そんなこと。オオカミはいつだって嫌われ者だし、ぼくはもう慣れっこさ。それに、ぼくにはぶうよんやジョーンズがいてくれるもの」
 赤ずきんの言葉にオオカミは照れていました。オオカミの言葉にぶうよんまで照れていました。
 赤ずきん「あたし、教会の孤児院に行こうと思うの。もう、役に立つ年頃だもの、小さな子どもたちのために何かできるわ。おねがい、連れていって。」
 ぶうよん「わ、自立した言葉! そんなの聞いたら、うちのとうちゃんとかあちゃん、喜んでごちそうつくっちゃうよ!」
 オオカミ「赤ずきんちゃん。きみは、やっぱり思ったとおりステキな人だ。よし、そうしよう。人買いたちは必死になってぼくたちを探しているはずだ。逃げ回っているよりも、教会のほうが安全だしね」
 ぶうよん「賛成」
 赤ずきん「ええ、お願いするわ」
 赤ずきんちゃんは、きっぱりと言いました。
 オオカミとぶうよんは、本当の両親のほかに継母(ままはは)とそのおばあちゃんまでを失ってしまった赤ずきんちゃんを、複雑な気持ちで教会に連れていくことにしました。
 赤ずきん「教会は、停車場の近くよ」
 ぶうよん「オオカミ君、君の鼻で人買いがいないかどうか確かめながら行こう」
 オオカミ「まかせてよ!」
 3人は町へ戻ると、注意深く石畳の道を進んでいきました。途中で、遠くに人買いの姿を見つけましたが、その肩に担がれた銃の先には4本の足をしばられたジョーンズがカチカチ山のタヌキのようにぶらさがっていました。
 ぶうよん「ああ、まったく世話のやける猫だな」
 オオカミ「どうする、ぶうよん」
 赤ずきん「あの」」
 オオカミ「なに?」
 赤ずきん「あたしの姿を見れば、あの人たち猫なんか放って追いかけてくると思うの」
 ぶうよん「君がつかまったりしたら元も子もないよ。ジョーンズは後だ」
 オオカミ「ぶうよんはね、ジョーンズには冷たいんだ」
 ぶうよん「そんなことないよ。あいつはタフがとりえなんだ」
 オオカミの鼻のおかげで3人は無事に教会にたどり着くことができました。孤児院は、その裏手にありました。
 赤ずきんちゃんをドアの前に立たせると、ぶうよんはドアをノックして、オオカミと一緒に物陰に隠れました。しばらくして太ったシスターがドアを開けました。
 シスター「どうしたの?」
 赤ずきん「あの、あの、あたし・・・・」
 そういうと、赤ずきんちゃんは今までがまんしていた涙がいっぺんにあふれ出して、どうにも止まらなくなってしまいました。
 物陰から見ていた2人も、あらためて赤ずきんちゃんの不幸な境遇を思いました。オオカミも、猟銃で撃たれて死んだと聞かされた両親のことを思いだして、ちょっと涙が出てしまいました。部屋に招き入れられた赤ずきんちゃんとシスターの声が聞こえてきました。


その6へつづく

先頭 表紙

2003-03-22 猫の星の歴史教科書第11回「赤ずきんちゃん気をつけて」その6

 シスター「名前はなんて言うの?」
 赤ずきん「ひっく、ひっく、あ、赤ずきん・・・」
 シスター「そう、それじゃあ名前が必要ね」
 シスターは、孤児用の命名名簿を見て言いました。
 シスター「えーっと。今度の順番は何だったかしら。あ、あったわ。ジルーシャよ、あなたはジルーシャ・アボット」
 オオカミ「ぶうよん、これでもう大丈夫。ジョーンズを助けに行こう」
 ぶうよん「うん、ジルーシャか。カーッコいいなあ。有名になりそうな名前だね」
 停車場に向かいながらオオカミがいいました。
 オオカミ「ぶうよん、いいことを思いついたぞ」
 ぶうよん「なんだい、オオカミ君」
 オオカミ「ぼくは、一応犬だからさ、猫を見て騒いだって誰も不思議に思わないよね。それに犬は猟銃で撃つわけにはいかないし」
 ぶうよん「そうか、どうどうと助けに行こう。なるべく、人通りの多いところがいいってわけだ。オオカミ君、君は天才だ!」
 オオカミ「ぶうよんほどじゃないさ! わんわん!」
 ぶうよん「あっはっは、犬そっくり!」

 それから、人通りの多い停車場の前で2人を人買いが見つけるのを待ちました。5分とたたないうちに人買いが血相を変えて近づいてきました。
 「ぶうよん、やるぞ。うー、わんわんわん、わんわんわん!」
 のっぽの人買いは、オオカミのいきなりの反撃に一瞬たじろぎましたが、銃の先からジョーンズを降ろすと、銃口をオオカミに向けました。その光景に最初に反応したのは、通りがかりの若い娘でした。
 娘   「きゃあ、犬を撃とうとしてるわ!」
 人買い 「お嬢さん、馬鹿言っちゃいけない。こいつはオオカミですよ」
 ぶうよん「犬だよ、犬。ぼくんちの犬でケン太って言うんだ!」
 騒ぎを聞きつけて人が集まってきました。
 紳士  「何だ、どうしたんだ。町中で銃などかまえてはいかん」
 人買い 「いやあ、本当にオオカミなんですよ、あいつは」
 紳士  「オオカミがおとなしくつながれるわけがないだろう!」
 集まってきた人たちと人買いが押し問答しているすきに、ぶうよんとオオカミは ジョーンズの縄をといて、さっさと逃げ出しました。




 町を出て森へ向かう道まで来ると、誰ともなく笑い声が漏れました。
 ぶうよん「あっはっは、あっはっはっは!」
 オオカミ「やったぞ、ついにやったぞ。ぼくたちはやったんだ!」
 ぶうよん「オオカミ君、君は最高だ!」
 オオカミ「ぶうよんとジョーンズ。君たちのおかげだよ。本当にありがとう」
 ぶうよん「どうしたしまして! なあジョーンズ」
 ジョーンズ「にゃあ!」


 かあちゃん「なにがどういたしましてよ! 寝ぼけてないで起きなさい。人がせっかくお話を呼んであげているのに、ちょっと目を離したら寝ちゃうんだから」
 ぶうよん「あれえ、オオカミ君は?」
 かあちゃん「オオカミは、もうお腹を切られちゃったわよ。お話はおしまい」
 ぶうよん「ふーん、そうかあ」
 ぶうよんは、ゆっくりと大きなあくびをしました。ジョーンズも、とくいの伸びのポーズをとりました。
 ぶうよん「ジョーンズ、遊びに行こう!」
 勢いよく外に飛びだすと、暖かい春風の中で、太陽が二人をやさしく照らすのでした。


おしまい

先頭 表紙

2003-03-21 猫の星の歴史教科書第10回「楽しいクリスマス」その1

みなさん、ポロでーす! 今日は「猫の星・冬の星」の外伝のひとつを御紹介します。野村家には、本当にサンタクロースがやってきます。ほとんどのおうちには来てくれないので、サンタクロースはいないことになっていますが、それは仕方がありません。だって一人しかいないんだもん。


楽しいクリスマス


 みいやんが生まれて初めてのクリスマスがやってきました。
イブの午後には、おばあちゃんが近所の店へ注文しておいたアイスクリームのケーキも届きました。1ヶ月も前にぶうよんが飾ったツリーにもやっと出番が回ってきました。
「ねえ、かあちゃん、サンタのおじさんて本当にいるのかなあ」
「もちろんよ、昔は私のところにも毎年来てくれたものよ」
「でも、ぼくのくつ下とっても小さいから、プレゼントが入らないんじゃないかなあ」
「それなら、とうちゃんのくつ下を借りればいいわ」
「わ、すごいや」
「さあ、夕ごはんよ。みんなを呼んできて」
「はーい!」
 その日は、とむりんも早く帰ってきたので、久しぶりに家族6人全員が揃いました。
「ぶうよん、それしかごはん食べないの?」
「うん、ケーキの分をとっておくんだ」
「はいはい、今日は特別よ。すぐにケーキにしましょうね」
 家族6人が居間に移動すると、とむりんが保冷ケースからケーキを取りだしました。ぶうよんは目を輝かせて、その作業を見つめています。空になった保冷ケースにドライアイスとお湯をセットしてロウソクに火をつけると、部屋の明かりが消されました。ドライアイスの雲をケーキのロウソクの光が幻想的に照らし出しました。誰からともなく、ため息が漏れました。ぶうよんが拍手をすると、小さなみいやんは目をぱちくりさせるのでした。ぶうよんがロウソクを吹き消す大役を無事に終えると、再び部屋は明るくなり、楽しい時間が始まりました。テーブルからお酒と食べ物がなくなるころには、みいやんはかあちゃんのひざの上ですやすやと眠っていました。

 ぶうよんはスノーマンの歌を歌いながら歯を磨くと、とうちゃんの真新しいくつ下を枕元に置いて布団に入りました。
「サンタのおじさん、きっと来るよね」
「ええ、絶対来るわよ」
「おやすみ、かあちゃん」
「おやすみ、ぶうよん」




 玄関の段ボールのベッドで眠っていたジョーンズは、大きな暖かい手でなでられて目を覚ましました。
「やあ、ジョーンズ」
 ジョーンズは、その優しい手に何度も何度もほおずりしました。

 物音に気づいてとむりんが目を覚ますと、枕元に怪しい人影がありました。
「だ、誰だ!」
「こらこら、そんなに大きな声を出すもんじゃない。子どもたちが起きてしまうじゃないか。おうおう、2人ともあんたの小さいときにそっくりじゃ。プレゼントはここに置いておくからの。あ、そうそう、あんたにもじゃ。では、父上様によろしくな」
 とむりんがあっけにとられていると、サンタクロースはフッと消え、外からは遠ざかるスレイベルのしゃんしゃんという音が聞こえてきました。
 すると、いきなり頭の中に音楽が鳴り始めました。とむりんは、枕元のスタンドのスイッチを探って、すぐにいつも用意してある五線紙に猛スピードで楽譜を書きつけました。
「ちょっと、何時だと思っているのよ!」
「サ、サンタクロースが来たんだ!」
「あんたの妄想癖なんかに付きあわせないでよ! あたし怒るわよ!」
「本当だよ、ホント!」
「バカにしないでよ!」
 かあちゃんは、すごい剣幕でスタンドのプラグを引き抜くと、くるっと反対側を向いて寝てしまいました。


その2へつづく


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2003-03-20 猫の星の歴史教科書第10回「楽しいクリスマス」その2


 次の朝、ぶうよんが目を覚ますと、枕元にはいくつものプレゼントが置いてありました。
「わあ、サンタのおじさんが来てくれたんだね!」
「そうよ、こんなにたくさんのプレゼントを持ってきてくれたのよ」
 それから包みが増えていることにきづいたかあちゃんは、とむりんのほうに向き直ると小さな声で言いました。
「プレゼントは、あたしとおばあちゃんが用意したから、もう買ってこなくてもいいって言ったでしょ。みいやんなんか小さくて何も分からないんだから、無駄使いしないでよ」
「だから、それはサンタが」
「あんた、自分が言ってる事分かってんの!」
「ねえ、かあちゃん。サンタのおじさんは、いつ来たの?」
「え、ああ、夕べ遅くよ。もうぶうよん寝ちゃってから起こさなかったの」
「そ、そうだよ。来年は絶対起こしてやるからな。よし、全員起こす」
「冗談じゃない、今年だけでもう結構よ」
「とうちゃん、きっとだよ」
 それからぶうよんは、おじいちゃんとおばあちゃんにプレゼントを見せに行きました。
 おじいちゃんは、北極星のマークが目印のサンタ・デパートの包み紙を見つけると、ほう来てくだすったか、とつぶやきましたが、ぶうよんは気づきませんでした。

 台所のヒーターの前では、北極星印の新しい首輪をしたジョーンズが気持ち良さそうにうとうとしていました。その首輪に家族が気づくまで、まだ数時間が必要だったのでした。


 おしまい


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