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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

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2006-11-01 ポロの日記 2006年11月1日(波曜日)ポロ新国王の「戴冠宣言」その3
2006-09-30 ポロの日記 2006年9月30日(岩曜日)忘れられた英雄たち/太陽打ち上げ場編 その1
2006-09-30 ポロの日記 2006年9月30日(岩曜日)忘れられた英雄たち/太陽打ち上げ場編 その2
2006-09-30 ポロの日記 2006年9月30日(岩曜日)忘れられた英雄たち/太陽打ち上げ場編 その3
2006-07-27 ポロの日記 2006年7月27日(草曜日) ポロ・ワールド事典2006年版(データはすべて1月1日のもの)その1
2006-07-16 ポロの絵日記 2006年7月16日 日ようび
2006-07-15 ポロの絵日記 2006年7月15日 土ようび
2006-07-14 ポロの絵日記 2006年7月14日 きんようび
2006-05-14 ポロの日記 2006年5月14日(風曜日)とむりん少年の熱い日々 その1
2006-05-14 ポロの日記 2006年5月14日(風曜日)とむりん少年の熱い日々 その2


2006-11-01 ポロの日記 2006年11月1日(波曜日)ポロ新国王の「戴冠宣言」その3

ポロ新国王の「戴冠宣言」その3

 企業における定年制度も廃止します。働きたい猫は働ける限り働けばいいでしょう。しかし、実際に仕事ができないのにただ働きたいというだけでは、逆にマイナスになってしまいます。そういう猫は過去に積み上げた技術や経験を後進に伝える仕事に就くのはどうでしょうか。教育だけでは伝えきれず、伝承によってのみ存続する技(わざ)や知識もあることでしょう。要するにドーラ社会全体が教育したり啓蒙したり伝承したりする力を持つようになるのです。
 ドーラの基幹産業は農業です。農業こそドーラの国力の源(みなもと)です。だからといってドーラは、どの職業をも優遇したりしません。仕事に対する対価が公平に得られる社会でなければならないからです。でも、ポロたちが豊かに暮らしていくための基幹産業は農業です。そのためにはドーラの自然を守り、大切にしなければなりません。美しい自然を持つ星だけに本当の農業が育ち、根付きます。
 その美しいドーラを守るために、自然界には存在しない化学物質の放出を禁止します。自然界の持つ微妙なバランスを崩すような開発も禁止です。たとえ今は多少不便でも将来子々孫々に遺恨を残すようなことは一切してはなりません。ポロたちの星ドーラは、なん百まん年経っても美しくあらねばならないからです。
また、単に楽ができるという理由で発達したさまざまな道具が人々の健康を妨げたりすることもありました。便利だからという理由で使われるようになった道具が人々から技術を奪ってしまうということもありました。ドーラ国民は生きていくための最低限の知恵と力だけは失ってはなりません。

 最後に付け加えければならないことがアリます。
 それは、みなさんが王室や政府に頼りすぎてはいけないということです。「王室や議会は何をやってるんだ〜!」とか言ってないで、たとえば自転車道に雨の日も快適に走れるように片側に屋根をつけようとか、よくないところを変えていこうとか自分たちで考えて行動してください。
 だから選挙のときにもよく考えて投票しましょう。お金持ちの候補者に投票すれば、お金持ちの考えで政治をおこなうことでしょう。普通の人に投票すれば普通の人としての考えで政治をおこなうことでしょう。ドーラ社会の成熟度は議会がドーラ社会の縮図であるかどうかで決まります。公平に行われた選挙の結果、雄雌(オス・メス)比率、職業比率などが実社会に近くなれば、それこそがドーラ社会の成熟、そして猫民度の高さを表すものとなります。
 きっとドーラをいい星にします。きっとしますから皆さん応援してください。

おしまい



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ポロの道場

先頭 表紙

2006-09-30 ポロの日記 2006年9月30日(岩曜日)忘れられた英雄たち/太陽打ち上げ場編 その1

忘れられた英雄たち/太陽打ち上げ場編 その1

 まだ天動説の時代のことです。
 ポロは東の海の果ての島にあるお日さまを作る工場(こうば)で働いていました。
 まだ春先でしたが、工場では夏至に打ち上げる大きなお日さまづくりが始まっていました。当時、お日さまの寿命は一日しかありませんでした。そのため、毎日新しいお日さまが必要だったのです。

親方「いいか、夏至のお日さまは一番長く燃えていなければならないんだ。なるべく炭をぎゅうぎゅう詰めにするんだ。いいな」
職工たち「へい!」

 お日さまは炭で作られます。夏用と冬用では使う炭がちがいました。夏はウバメガシの炭を使いますが、冬は松やガジュマルのような南洋材の炭も使います。
 お日さまは、ちょうど打ち上げ花火のような球形をしています。でも、大きさがケタ違いです。平均すると1個5メートルくらいあります。だから、とてもたくさんの炭を使います。炭だけでは全部燃えないので、硫黄や硝石の粉も加えます。この配合はとても難しくて、ちょっとでも間違えると爆発してしまいます。

 次の日の明け方、ポロはお日さまの打ち上げ当番のひとりでした。お日さまは井戸のような穴から打ち上げます。穴は全部で183個あって、それぞれ穴の角度が微妙に異なります。ひとつの穴は1年に2回使います。
 ベテラン打ち上げ職人のヴァッザーリが、今日使う穴に打ち上げ用の火薬をセットしました。こちらは爆発しなければならないので爆薬です。ポロたちヒラの職工は丸太を三つ又に組んだ人力クレーンで春用の太陽を穴の底にに静かに降ろしました。
 ほどなく、計時係のダヴィッドが秒読みを始めました。

ダヴィッド「じゅーきゅーはちななろくごおよんさんにいいちぜろ!」

 点火係のカラッチが火打ち石で導火線に火をつけました。

 しゅるるるるるる・・・・・。

 導火線の火は、どんどん太陽に近づいていきます。ポロたちは安全な塹壕に隠れます。打ち上げ用の火薬に火がつくと、大きな音とともにお日さまが空に打ち上げられます。お日さまは打ち上げられてすぐに燃え始め、炎の直径は何十メートルにもなります。これから、西の果てにある結晶谷に落ちるまで、空を飛び続けるのです。

ヴァッザーリ「よし、みんなよくやった。これで今日も地上は明るい光で満ち、作物も育ち、花も咲くことだろう。ご苦労だった」
職工たち「おう!」

 お日さまは打ち上げられた直後に大きな炎の球体となります。炎の直径は数百メートルになります。最初は打ち上げ用の爆薬の炎の影響でお供え餅のような形になります。だから海を超えて日の出を見るとお日さまに台座がついたように見えます。そのうち、太陽は台座の炎から離れて水平線上に浮かびます。
 最初の頃は炎の温度も低くて、ちょっと赤っぽい色ですが、しばらくすると明るいオレンジ色になってきます。空高く上がる頃にはお日さまは地上から遠くなって小さく見えるようになります。お昼ごろには一番よく燃えて地上も暑くなります。日の出や夕方、お日さまが大きく見えたり、お昼ごろになると暑くなるのはそういうわけがあったのです。

つづく

先頭 表紙

2006-09-30 ポロの日記 2006年9月30日(岩曜日)忘れられた英雄たち/太陽打ち上げ場編 その2

忘れられた英雄たち/太陽打ち上げ場編 その2

 さて、打ち上げが終わると夏至の頃に使われる“熱い”お日さま作りの作業が始まります。夏至タイプは6月第2週頃から7月初めまで使われます。作るには冬至タイプの2倍の炭と3倍の工程数が必要です。

 工場の責任者はデューラー親方でした。ヒゲづらのがっしりとした体格で、とても大きな声でした。

親方「誰だ、この夏至前日用の真ん中の炭詰めをやったのは?」
ポロ「はい、ポロです!」
親方「こんなにスカスカじゃ、日当たりが悪くて作物がそだたないぞ!」
ポロ「ハイ! 詰め直します」
親方「おまえの頭と技術の全てを注ぎ込め!」
ポロ「イエッサー!」

 お日さまの中心には直径30センチくらいの芯となる炭玉があります。厚紙でできた2つの半球に炭をぎっしりと詰めて張り合わせるのです。ポロは、それを作っていたのでした。でもポロは体重が軽いので、いくら足で踏み固めても炭はきっちりと固まりません。それで、ポロは杭打ち用の大きな木づちを持ってきて叩いて炭を詰めることにしました。

 ガツン!

 と木づちを振り降ろすと、炭玉が爆発しました。

 どっか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!

 何十人も働く工場は騒然となりました。すぐに親方がやってきて、黒猫になったポロに向かって怒鳴りましたが、ポロは耳がき〜んとなって、しばらく何も聞こえませんでした。

 幸い、ほかの作りかけのお日さまは誘爆しなかったので最悪の事態は避けられましたが、作業用の治具や道具がいくつも壊れてしまいました。それ以来、工場でのポロの立場はとても悪くなりました。
ポロは、それを挽回しようと、毎日残業して壊れた道具の修理や治具の組み立てをしました。そんなとき黙って手伝ってくれたのがデューラー親方でした。そんなわけで、口は悪いし短気だけど親方はみんなから信頼されていました。

 時は過ぎて、いよいよ“芒種”(ぼうしゅ)という夏至の前の季節がやってきました。芒種の頃のお日さまは「芒種玉」と呼ばれます。芒種玉ともなると、お日さまは今までに比べて格段に大きく重くなり、ほとんど夏至玉と同格で、打ち上げ作業もとても難しくなってきます。

 今年初めての芒種玉打ち上げの夜明けがやってきました。
 芒種用の打ち上げ穴は垂直にちかく掘られています。動滑車を使った人力クレーンを使っても、何十人もの力が必要でした。とくに打ち上げ用火薬の量が多いので、どすんと落としてしまったら爆発してしまうかも知れません。

 無事、芒種玉のお日さまは打ち上げ穴の底に収まりました。

 計時係のダヴィッドがカウントダウンして、点火係のカラッチが火打ち石で導火線に火をつけました。

 ・・・・・・・・・。

 しかし、お日さまは空に上がりませんでした。導火線の火が消えてしまったのです。

つづく

先頭 表紙

2006-09-30 ポロの日記 2006年9月30日(岩曜日)忘れられた英雄たち/太陽打ち上げ場編 その3

忘れられた英雄たち/太陽打ち上げ場編 その3


カラッチ「導火線が不良品だ。導火線を作ったのはパンニーニじゃないのか?」
親方「そんなことを言っているヒマはない。お日さまの打ち上げを遅らせるわけにはいかんのだ」

 デューラー親方は自分の身体にロープを結びつけると、みんなに言いました。

親方「今から穴に入って残った導火線に火をつけてくる。合図をしたらすぐに引き上げてくれ」
カラッチ「親方、点火係は俺です。行かせてください」
パンニーニ「導火線の責任は自分にあります。自分が行きます」
親方「一刻を争うんだ。今、ロープを身につけているのはワシだけだ」

 親方はカラッチから火打ち石を受け取って穴に入っていきました。

 みんな、しっかりとロープを握って親方の合図を待ちました。合図があったら力の限り引っ張るためです。
少しして穴の底から声がしました。

親方「よしいいぞ。引いてくれ!」

 誰もが力の限りロープを引きました。

 ぶちっ!

 すると、にぶい音とともにロープが切れました。ロープを引いていた者たち全員がひっくり返ってしまいました。
 すぐに立ち上がったカラッチ別のロープを持って穴に垂らしました。

カラッチ「親方、つかまってください。すぐに引き上げます!」
親方「ダメだ。間に合わない。お前たち、すぐに塹壕に避難するんだ。炎にやられちまうぞ!」

 パンニーニが叫びました。

「みんな、すぐに避難しろ!」

 ポロたちは後ろ髪を引かれる思いでしたが、塹壕に向かって走りました。そのとき、パンニーニはカラッチとともに親方を助けようと穴のふちで最後の力をふりしぼっていました。

 ポロたちが退避用の塹壕に飛び込むと同時に、あたり一帯に爆発音が響き渡りました。

 どぅおおおおおおを〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んんんんんんん!!

 明るく熱い芒種のお日さまは、何ごともなかったかのように空に浮かび上がりました。

 すぐにポロたちは塹壕を出て打ち上げ穴に向かいましたが、熱くて近づくことさえできませんでした。温度が下がってから、みんなで親方やカラッチ、パンニーニを探しましたが、どこにもいないばかりか、骨ひとつ見つかりませんでした。

 それから約千年後、1543年5月24日に太陽打上場が廃止となりました。永久太陽が発明されて「地動説」の時代となったからです。
 今ではお日さまを作る技術も失われ、デューラー親方やカラッチやパンニーニのように命がけで太陽を燃やし続けた人たちのことを覚えている人はだれもいなくなってしまいました。

おしまい



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2006-07-27 ポロの日記 2006年7月27日(草曜日) ポロ・ワールド事典2006年版(データはすべて1月1日のもの)その1

ポロ・ワールド事典2006年版(データはすべて1月1日のもの) その1

 お話の部屋ことや、裏作曲工房のことがなんでもわかるエンサイクロペディアだよ。ABCやアイウエオ順じゃないからね。

 ポロ 猫 ♂ ドーラ歴で3000歳くらい 地球の年齢だとまだ若者
本名「トゥトゥ・アンク・アメン」。「トゥトゥ」は「チュチュ」みたいに短く読んでね。冥王星よりも遠いところを回る小さな星「ドーラ」第17王朝の第1王子。父親は賢王と名高いトトメス152世。わけあって10年前に地球にやってきて作曲工房に居候している。

 せんせい 天才無名人気作曲家 ♂ かれこれ半世紀。
作曲工房主宰。ポロはせんせいから「本当のこととは何か」を学んだ。とゆーか、せんせいはみんなに「本当のこととは何か」を伝えるために存在している。せんせいは過去に奥さんと一緒に英雄ジョーンズを育てるという偉業をなしとげた。

 松戸博士 マッドサイエンティスト ♂ 70歳くらい
せんせいと仲良しの科学者。バック・トゥ・ザ・フューチャーのドクみたいな人。クランベリーヒルの「猿雅荘」で暮らしている。(はず)

 ロケット号 アヒル型のお風呂スポンジ ♂ 製造年は1990頃らしい
クランベリーヒルに住むマーリンという魔法使いによって命を吹き込まれて以来、せんせいファミリーの大事な家族になった。料理名人。でも、地球ではただのスポンジに戻ってしまうので、今はクランベリーヒルで松戸博士と生活。

 ジョーンズ 猫の英雄 ♂ 故猫
猫の星では教科書にも載っている偉大な猫。ジョーンズのあとにせんせいファミリーにやってきたポロは、同じ猫としてつらい立場にある。ジョーンズの冒険物語には悲しすぎる内容のものもあって、すべてが公開されているわけではない。

 銀河連盟
銀河系の知的生命による政府はお互いに協力しあって宇宙のさまざまな危機に対応しているんだけど、地球はまだ文明レベル(地球人が考えるのと少しちがう基準だよ)が低いので加盟が認められていない。銀河連盟の本部は惑星ミネルヴァにある。

 裏神田共和国 世界統一政府 国連未加盟
レベルが高すぎて(?)、現実世界からはみ出してしまった人たちが作った政府。世界中に広がる組織で地球に一つなので銀河連盟に加盟を認められている。作曲工房関係者は望めば誰でも裏神田国民になれます。

 クランベリーヒル クリューガー60第2惑星にある分譲地の名前 10年前までせんせい家族が住んでいた。ポロは、この時代のことを話で聞いているだけで知らない。すっごく楽しそうなのでちょっとくやしい。

 レッドツェッペリン号
ポロの自家用飛行船。松戸博士考案。

 シュレーディンガー商会
裏神田商店街の裏道に面した謎のお店。店主は松戸博士の弟の松戸修士(まつど・しゅうじ)さん。松戸博士が発明した、チョーすごいものを売っている。ポロは、ここで500まん円もする波動エンジンを買って、それが全部借金なので返済に苦労している。


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2006-07-16 ポロの絵日記 2006年7月16日 日ようび






ポロがシティアートと漬け物と五重塔の研究を終えて作曲工房に帰ると、たろちゃんが夕ごはんを作って待っててくれた。





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2006-07-15 ポロの絵日記 2006年7月15日 土ようび






たろちゃんに弟子入りして自信をつけたポロは、さっそく裏神田しびれ大学の路地裏でシティ・アートに挑戦してみた。絵はうまく描けたけど、名前のPとB、LとRをまちがえた。絵だけを勉強してもダメだとわかった。おなかもへった。芸術とはおなかが減るものだ。





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2006-07-14 ポロの絵日記 2006年7月14日 きんようび





ポロは、たろちゃんに弟子いりして絵をはじめた。目標はシティ・アーティスト。裏神田のキース・へリングと呼ばれるまでがんばる覚悟なので、みんな期待するように。




先頭 表紙

2006-05-14 ポロの日記 2006年5月14日(風曜日)とむりん少年の熱い日々 その1

とむりん少年の熱い日々 その1

 その日もいつものように、とむりん少年は目を覚ましました。
 ふとんの中でまぶたを開くと、すぐにピアノのことを思い出しました。そうです。いま目覚めたのもピアノを弾くためです。いま息をしているのもピアノを弾くためです。これからパジャマを脱いで着替えるのも、朝ご飯を食べるのも、すべてピアノを弾くためでした。
 とむりん少年は中学生になったばかりでした。学校に行く前にピアノを弾きます。その日はモーツァルトでした。時間ぎりぎりに家をとびだして走って学校へ行きました。1時間目が始まりました。何の授業なのかはどうでもいいことでした。とむりん少年は、机に向かって。膝ピアノでモーツァルトのソナタをさらい始めました。ゆっくりと主題を弾いていろいろなことを吟味します。途中に現れるトリルは高い音から始めたほうがよいのか、それともトリルの書かれた音符の高さから始めればよいのか慎重に考えました。分からなくなったら心の耳全開で聞き込みました。ひとつひとつ、全ての音の大きさ、長さ、音色が決められていき、2時間目には第1楽章の通し練習をしました。とむりん少年の頭の中では美しいモーツァルトが鳴り響いていました。3時間目には優雅な第2楽章にとりかかりました。なんと美しい曲でしょう。この美しさがどこからくるのか解明しなければなりません。全身全霊を傾けて音楽に集中します。数学の先生がとむりん少年の異変に気づいて具合でもわるいのかと心配し、保健室に行くようにいいました。とむりん少年は言われるままに保健室に行き、ベッドでモーツァルトの続きに没頭しました。
 学校が終わると、とむりん少年は走って家に帰りました。いまならアイディアにあふれたモーツァルトが現実の音になるだろうという確信がありました。

「ただいま〜!」

 とむりん少年は制服の上着を脱ぎ捨てると、そのままピアノに向かいました。一刻も早くピアノを弾かなければなりません。なにしろ、息を吸ったり吐いたりするのだってピアノをひくためなのですから。その日、とむりん少年の指先が奏でたのは美しいモーツァルトではありましたが、実際の音を聞くと想像不足であったところが次々とわかってきました。想像力だけでは足りないこともあるのでした。なんとかしようと何度も弾き方を変えて試してみましたが、どうしても納得できる音楽にはなりませんでした。まだまだアイディアがたらないのです。こういう時はじたばたしても始まりません。音楽のディティールは明日の授業中に深く掘り下げることにしました。
 その日の晩、テレビではオーケストラがブラームスの交響曲を演奏していました。とむりん少年は1音だって聞き逃すまいと、真剣にテレビにかじりついていました。日本中の人が、聞こうと思えば誰もが公平にこの演奏を聞けるのです。だから人より優れるためには、誰よりも多くを聞き取らなければなりません。録音機を持っていなかったとむりん少年は、若き日のバッハやベートーヴェンと同じように、全身を耳にして音楽を受け止めました。

つづく

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2006-05-14 ポロの日記 2006年5月14日(風曜日)とむりん少年の熱い日々 その2

とむりん少年の熱い日々 その2

 次の日、学校に向かう途中、売り物にする花を育てている近所の温室をとおりかかると、作業をしているおばあさんが、ラジオでブラームスの交響曲第1番を聞いていました。とむりん少年は焦りまくりました。こんなところにもライバルがいたと思ったのです。もっともっと真剣に音楽に取り組まないと人よりも秀でることは難しいと思いました。
 1時間目の授業が始まると、とむりん少年はモーツァルトの世界に深く深く入り込んでいきました。モーツァルトが気づいていたことには全部気づかなくてはならないと思い込んでいたとむりん少年は、曲を、考えられるすべての要素に分解して再び組み上げる作業を繰り返しました。レッスン日が迫っています。どこまで完成度を高めることができるでしょうか。

 いよいよレッスン日。とむりん少年は深呼吸をすると、意を決して鍵盤に指を置きました。ほとんど、想像していたとおりのモーツァルトが指先から流れ出ました。

ぽろろろろ〜ん♪

・・・いいぞいいぞ、この調子だ。

 とむりん少年は夢中で弾き終えました。
 しばらく黙っていた先生が言いました。

「よく弾いてきたね。それに、実によく考え抜かれていた。でも、何かが足りない」

 そう言って、先生が同じモーツァルトを弾きはじめました。そこには、とむりん少年が想像していたのとは違うモーツァルトがありました。

「君は2小節くらいにまで曲を分解して弾いている。だがメロディーは、それ自体の持つ長さがある」

 とむりん少年は、このとき自分自身がフレーズに対するセンスをじゅうぶん持っていなかったことに気づいたのでした。

 家に帰ると、とむりん少年はバイエルを持ち出して、最初から順番にフレーズを聞き分ける練習を始めました。バイエルはスラーを使ってフレーズの長さまで指示していたのです。

「うっひょ〜! バイエルって人は、なんて親切なんだ」

 とむりん少年は、バイエルをフレーズごとにまとまりを作って弾いていきました。3日後、106番までを弾き終わりました。そして、いよいよモーツァルトに再挑戦です。

 今度はスイスイ分かりました。モーツァルトのフレーズも、実際は揺るぎない確固たるものだったのです。それが見えなかっただけでした。

 学校の定期テストが近づいていました。でも、とむりん少年にはそんなことは関係ありませんでした。
 定期テストの朝、とむりん少年の同級生たちがテストに答えるために朝食をたべているころ、とむりん少年はピアノを弾くために朝食の席についていました。なにしろテストが終わればいつもよりも早くピアノの前に帰れるからです。

つづく

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