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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2006-09-30 ポロの日記 2006年9月30日(岩曜日)忘れられた英雄たち/太陽打ち上げ場編 その3
2006-07-27 ポロの日記 2006年7月27日(草曜日) ポロ・ワールド事典2006年版(データはすべて1月1日のもの)その1
2006-07-16 ポロの絵日記 2006年7月16日 日ようび
2006-07-15 ポロの絵日記 2006年7月15日 土ようび
2006-07-14 ポロの絵日記 2006年7月14日 きんようび
2006-05-14 ポロの日記 2006年5月14日(風曜日)とむりん少年の熱い日々 その1
2006-05-14 ポロの日記 2006年5月14日(風曜日)とむりん少年の熱い日々 その2
2006-05-14 ポロの日記 2006年5月14日(風曜日)とむりん少年の熱い日々 その3
2006-05-14 ポロの日記 2006年5月14日(風曜日)とむりん少年の熱い日々 その4
2006-05-13 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第6回 ポロの名人伝 その1


2006-09-30 ポロの日記 2006年9月30日(岩曜日)忘れられた英雄たち/太陽打ち上げ場編 その3

忘れられた英雄たち/太陽打ち上げ場編 その3


カラッチ「導火線が不良品だ。導火線を作ったのはパンニーニじゃないのか?」
親方「そんなことを言っているヒマはない。お日さまの打ち上げを遅らせるわけにはいかんのだ」

 デューラー親方は自分の身体にロープを結びつけると、みんなに言いました。

親方「今から穴に入って残った導火線に火をつけてくる。合図をしたらすぐに引き上げてくれ」
カラッチ「親方、点火係は俺です。行かせてください」
パンニーニ「導火線の責任は自分にあります。自分が行きます」
親方「一刻を争うんだ。今、ロープを身につけているのはワシだけだ」

 親方はカラッチから火打ち石を受け取って穴に入っていきました。

 みんな、しっかりとロープを握って親方の合図を待ちました。合図があったら力の限り引っ張るためです。
少しして穴の底から声がしました。

親方「よしいいぞ。引いてくれ!」

 誰もが力の限りロープを引きました。

 ぶちっ!

 すると、にぶい音とともにロープが切れました。ロープを引いていた者たち全員がひっくり返ってしまいました。
 すぐに立ち上がったカラッチ別のロープを持って穴に垂らしました。

カラッチ「親方、つかまってください。すぐに引き上げます!」
親方「ダメだ。間に合わない。お前たち、すぐに塹壕に避難するんだ。炎にやられちまうぞ!」

 パンニーニが叫びました。

「みんな、すぐに避難しろ!」

 ポロたちは後ろ髪を引かれる思いでしたが、塹壕に向かって走りました。そのとき、パンニーニはカラッチとともに親方を助けようと穴のふちで最後の力をふりしぼっていました。

 ポロたちが退避用の塹壕に飛び込むと同時に、あたり一帯に爆発音が響き渡りました。

 どぅおおおおおおを〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んんんんんんん!!

 明るく熱い芒種のお日さまは、何ごともなかったかのように空に浮かび上がりました。

 すぐにポロたちは塹壕を出て打ち上げ穴に向かいましたが、熱くて近づくことさえできませんでした。温度が下がってから、みんなで親方やカラッチ、パンニーニを探しましたが、どこにもいないばかりか、骨ひとつ見つかりませんでした。

 それから約千年後、1543年5月24日に太陽打上場が廃止となりました。永久太陽が発明されて「地動説」の時代となったからです。
 今ではお日さまを作る技術も失われ、デューラー親方やカラッチやパンニーニのように命がけで太陽を燃やし続けた人たちのことを覚えている人はだれもいなくなってしまいました。

おしまい



 ここは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。

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2006-07-27 ポロの日記 2006年7月27日(草曜日) ポロ・ワールド事典2006年版(データはすべて1月1日のもの)その1

ポロ・ワールド事典2006年版(データはすべて1月1日のもの) その1

 お話の部屋ことや、裏作曲工房のことがなんでもわかるエンサイクロペディアだよ。ABCやアイウエオ順じゃないからね。

 ポロ 猫 ♂ ドーラ歴で3000歳くらい 地球の年齢だとまだ若者
本名「トゥトゥ・アンク・アメン」。「トゥトゥ」は「チュチュ」みたいに短く読んでね。冥王星よりも遠いところを回る小さな星「ドーラ」第17王朝の第1王子。父親は賢王と名高いトトメス152世。わけあって10年前に地球にやってきて作曲工房に居候している。

 せんせい 天才無名人気作曲家 ♂ かれこれ半世紀。
作曲工房主宰。ポロはせんせいから「本当のこととは何か」を学んだ。とゆーか、せんせいはみんなに「本当のこととは何か」を伝えるために存在している。せんせいは過去に奥さんと一緒に英雄ジョーンズを育てるという偉業をなしとげた。

 松戸博士 マッドサイエンティスト ♂ 70歳くらい
せんせいと仲良しの科学者。バック・トゥ・ザ・フューチャーのドクみたいな人。クランベリーヒルの「猿雅荘」で暮らしている。(はず)

 ロケット号 アヒル型のお風呂スポンジ ♂ 製造年は1990頃らしい
クランベリーヒルに住むマーリンという魔法使いによって命を吹き込まれて以来、せんせいファミリーの大事な家族になった。料理名人。でも、地球ではただのスポンジに戻ってしまうので、今はクランベリーヒルで松戸博士と生活。

 ジョーンズ 猫の英雄 ♂ 故猫
猫の星では教科書にも載っている偉大な猫。ジョーンズのあとにせんせいファミリーにやってきたポロは、同じ猫としてつらい立場にある。ジョーンズの冒険物語には悲しすぎる内容のものもあって、すべてが公開されているわけではない。

 銀河連盟
銀河系の知的生命による政府はお互いに協力しあって宇宙のさまざまな危機に対応しているんだけど、地球はまだ文明レベル(地球人が考えるのと少しちがう基準だよ)が低いので加盟が認められていない。銀河連盟の本部は惑星ミネルヴァにある。

 裏神田共和国 世界統一政府 国連未加盟
レベルが高すぎて(?)、現実世界からはみ出してしまった人たちが作った政府。世界中に広がる組織で地球に一つなので銀河連盟に加盟を認められている。作曲工房関係者は望めば誰でも裏神田国民になれます。

 クランベリーヒル クリューガー60第2惑星にある分譲地の名前 10年前までせんせい家族が住んでいた。ポロは、この時代のことを話で聞いているだけで知らない。すっごく楽しそうなのでちょっとくやしい。

 レッドツェッペリン号
ポロの自家用飛行船。松戸博士考案。

 シュレーディンガー商会
裏神田商店街の裏道に面した謎のお店。店主は松戸博士の弟の松戸修士(まつど・しゅうじ)さん。松戸博士が発明した、チョーすごいものを売っている。ポロは、ここで500まん円もする波動エンジンを買って、それが全部借金なので返済に苦労している。


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2006-07-16 ポロの絵日記 2006年7月16日 日ようび






ポロがシティアートと漬け物と五重塔の研究を終えて作曲工房に帰ると、たろちゃんが夕ごはんを作って待っててくれた。





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2006-07-15 ポロの絵日記 2006年7月15日 土ようび






たろちゃんに弟子入りして自信をつけたポロは、さっそく裏神田しびれ大学の路地裏でシティ・アートに挑戦してみた。絵はうまく描けたけど、名前のPとB、LとRをまちがえた。絵だけを勉強してもダメだとわかった。おなかもへった。芸術とはおなかが減るものだ。





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2006-07-14 ポロの絵日記 2006年7月14日 きんようび





ポロは、たろちゃんに弟子いりして絵をはじめた。目標はシティ・アーティスト。裏神田のキース・へリングと呼ばれるまでがんばる覚悟なので、みんな期待するように。




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2006-05-14 ポロの日記 2006年5月14日(風曜日)とむりん少年の熱い日々 その1

とむりん少年の熱い日々 その1

 その日もいつものように、とむりん少年は目を覚ましました。
 ふとんの中でまぶたを開くと、すぐにピアノのことを思い出しました。そうです。いま目覚めたのもピアノを弾くためです。いま息をしているのもピアノを弾くためです。これからパジャマを脱いで着替えるのも、朝ご飯を食べるのも、すべてピアノを弾くためでした。
 とむりん少年は中学生になったばかりでした。学校に行く前にピアノを弾きます。その日はモーツァルトでした。時間ぎりぎりに家をとびだして走って学校へ行きました。1時間目が始まりました。何の授業なのかはどうでもいいことでした。とむりん少年は、机に向かって。膝ピアノでモーツァルトのソナタをさらい始めました。ゆっくりと主題を弾いていろいろなことを吟味します。途中に現れるトリルは高い音から始めたほうがよいのか、それともトリルの書かれた音符の高さから始めればよいのか慎重に考えました。分からなくなったら心の耳全開で聞き込みました。ひとつひとつ、全ての音の大きさ、長さ、音色が決められていき、2時間目には第1楽章の通し練習をしました。とむりん少年の頭の中では美しいモーツァルトが鳴り響いていました。3時間目には優雅な第2楽章にとりかかりました。なんと美しい曲でしょう。この美しさがどこからくるのか解明しなければなりません。全身全霊を傾けて音楽に集中します。数学の先生がとむりん少年の異変に気づいて具合でもわるいのかと心配し、保健室に行くようにいいました。とむりん少年は言われるままに保健室に行き、ベッドでモーツァルトの続きに没頭しました。
 学校が終わると、とむりん少年は走って家に帰りました。いまならアイディアにあふれたモーツァルトが現実の音になるだろうという確信がありました。

「ただいま〜!」

 とむりん少年は制服の上着を脱ぎ捨てると、そのままピアノに向かいました。一刻も早くピアノを弾かなければなりません。なにしろ、息を吸ったり吐いたりするのだってピアノをひくためなのですから。その日、とむりん少年の指先が奏でたのは美しいモーツァルトではありましたが、実際の音を聞くと想像不足であったところが次々とわかってきました。想像力だけでは足りないこともあるのでした。なんとかしようと何度も弾き方を変えて試してみましたが、どうしても納得できる音楽にはなりませんでした。まだまだアイディアがたらないのです。こういう時はじたばたしても始まりません。音楽のディティールは明日の授業中に深く掘り下げることにしました。
 その日の晩、テレビではオーケストラがブラームスの交響曲を演奏していました。とむりん少年は1音だって聞き逃すまいと、真剣にテレビにかじりついていました。日本中の人が、聞こうと思えば誰もが公平にこの演奏を聞けるのです。だから人より優れるためには、誰よりも多くを聞き取らなければなりません。録音機を持っていなかったとむりん少年は、若き日のバッハやベートーヴェンと同じように、全身を耳にして音楽を受け止めました。

つづく

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2006-05-14 ポロの日記 2006年5月14日(風曜日)とむりん少年の熱い日々 その2

とむりん少年の熱い日々 その2

 次の日、学校に向かう途中、売り物にする花を育てている近所の温室をとおりかかると、作業をしているおばあさんが、ラジオでブラームスの交響曲第1番を聞いていました。とむりん少年は焦りまくりました。こんなところにもライバルがいたと思ったのです。もっともっと真剣に音楽に取り組まないと人よりも秀でることは難しいと思いました。
 1時間目の授業が始まると、とむりん少年はモーツァルトの世界に深く深く入り込んでいきました。モーツァルトが気づいていたことには全部気づかなくてはならないと思い込んでいたとむりん少年は、曲を、考えられるすべての要素に分解して再び組み上げる作業を繰り返しました。レッスン日が迫っています。どこまで完成度を高めることができるでしょうか。

 いよいよレッスン日。とむりん少年は深呼吸をすると、意を決して鍵盤に指を置きました。ほとんど、想像していたとおりのモーツァルトが指先から流れ出ました。

ぽろろろろ〜ん♪

・・・いいぞいいぞ、この調子だ。

 とむりん少年は夢中で弾き終えました。
 しばらく黙っていた先生が言いました。

「よく弾いてきたね。それに、実によく考え抜かれていた。でも、何かが足りない」

 そう言って、先生が同じモーツァルトを弾きはじめました。そこには、とむりん少年が想像していたのとは違うモーツァルトがありました。

「君は2小節くらいにまで曲を分解して弾いている。だがメロディーは、それ自体の持つ長さがある」

 とむりん少年は、このとき自分自身がフレーズに対するセンスをじゅうぶん持っていなかったことに気づいたのでした。

 家に帰ると、とむりん少年はバイエルを持ち出して、最初から順番にフレーズを聞き分ける練習を始めました。バイエルはスラーを使ってフレーズの長さまで指示していたのです。

「うっひょ〜! バイエルって人は、なんて親切なんだ」

 とむりん少年は、バイエルをフレーズごとにまとまりを作って弾いていきました。3日後、106番までを弾き終わりました。そして、いよいよモーツァルトに再挑戦です。

 今度はスイスイ分かりました。モーツァルトのフレーズも、実際は揺るぎない確固たるものだったのです。それが見えなかっただけでした。

 学校の定期テストが近づいていました。でも、とむりん少年にはそんなことは関係ありませんでした。
 定期テストの朝、とむりん少年の同級生たちがテストに答えるために朝食をたべているころ、とむりん少年はピアノを弾くために朝食の席についていました。なにしろテストが終わればいつもよりも早くピアノの前に帰れるからです。

つづく

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2006-05-14 ポロの日記 2006年5月14日(風曜日)とむりん少年の熱い日々 その3

とむりん少年の熱い日々 その3

 1時間目 数学

 次の計算をせよ。

 問題1の解答(たくさん)
 問題2の解答(いっぱい)
 問題3の解答(ものすごく大きな数)
 問題4の・・・

 以下似たりよったりの解答

 とむりん少年は、なかなかよい答えだと思いました。テストを5分で終わらせると、すぐにモーツァルトのソナタにとりかかりました。ついに第3楽章の分析と解釈に進んだのです。

 2時間目 国語

 ・・・・このときの主人公の気持ちを45字以上50字以内で答えなさい。

 解答「あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわをん」

 <文字数はバッチリだな>
 とむりん少年は、この答えも気に入りました。

 3時間目 社会

 問題 次の地図記号について答えなさい。

 だんだん大きく
 だんだん小さく
 とくに強いアクセント
 スタッカート

 <な〜んだ、簡単じゃないか>
 とむりん少年は社会のテストもサクサクとかたづけると、残った時間をモーツァルトのために費やしました。

つづく

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2006-05-14 ポロの日記 2006年5月14日(風曜日)とむりん少年の熱い日々 その4

とむりん少年の熱い日々 その4

 ホームルームを終えて帰ろうとすると、担任の先生から呼ばれました。とむりん少年が職員室に行くと、担任の先生が数学のテストの解答用紙を見せて言いました。

「とむりん。この答えはなんだ」
「ぼくは精いっぱい答えました」
「ふざけているのか、それとも本当に何も分かっていないのか、どちらかだ」
「たぶん、何も分かっていません、今のところ」
「ピアノもいいが、勉強も忘れちゃいかん」
「ということはピアノは中途半端にしなさいということですね」
「そういうわけではない」
「そうですか! 先生ありがとう! 全力でピアノに向かいます! じゃあ、さようなら!」
「おい、こら、待て」

 とむりん少年が走って家に帰ると、ピアノがあるじの帰りを今か今かと待っていました。

 とむりん少年がピアノの鍵盤フタを開けると、ピアノはウォーミング・アップが済んでいることを見せようと、最低音から最高音まで一気にグリッサンドして見せました。

 ぽろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろ〜〜〜〜〜〜ん!

「調子よさそうじゃないか!」
「ぽろん!」

 ピアノが答えました。とむりん少年の熱意に、とうとうピアノに魂が宿ったのでした。

「いっくぞ!」

 ぽろろん、ぽろぽろろ〜ん♪

 指先から流れ出てきたのは最高のモーツァルトでした。

 次のレッスンでとむりん少年は、ついに思っていたとおりのモーツァルトを弾くことができました。

「うん、よく弾いてきた。モーツァルトはもう君とともにあるといってよいだろう」
「先生、ありがとうございます」
「いよいよ次はベートーヴェンだ」

 とむりん少年は家に帰ると、先生が指示されたソナタの譜読みを始めました。そこにはさらに高い山がそびえていました。

「大変だ! これじゃ眠る時間もなくなっちゃうぞ」

 ぽろろっろっろっろ! ぽろろっろっろ!

 とむりん少年のピアノが笑いました。

「こいつ〜、笑い事じゃないだろう」

 ぽろっろっろっろ、ぽろろんろん・・・!

「あははははは、あははははは!」

 ピアノがいつまでも楽しそうに笑いつづけるので、とむりん少年も何だか可笑しくなって思わず笑いはじめてしまったのでした。

おしまい



「このお話は、もちろん全部ホントだけど、劇的にするためにポロが脚色したところもあるので割り引いて読んでください」って書こうと思ったら、すっかり逆だっていうことに気づきました。たぶん実際はポロの想像なんか追いつかないほどものすごいことが起こっていたに違いありません。ポロの想像が及ばないところはみなさんの想像力で補って読んでください。でも、もしかしたら皆さんの想像力でも追いつかないくらいのことが起こっていたかも知れません。

ポロ

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わ、わ、mokoさん。もとネタをバラしちゃだめだよ。こ、これはポロのオリジナルだからね。ホントだよ。 / ポロ ( 2006-05-17 22:58 )
小学校の頃、モーツァルトの伝記を読んだことがあるのですが、やはり似たようなエピソードが書いてあったような気がします。 / moko ( 2006-05-17 05:46 )

2006-05-13 Il Gatto Dello Sport提供 お話の森 第6回 ポロの名人伝 その1

ポロの名人伝 その1

 ドーラの都に住むポロという猫が天下第一のピアノ名人になろうと志を立てた。己の師と頼むべき人物を物色するに、当今ピアノにおいては名手とむりんに及ぶ者があろうとは思われぬ。バイエル全曲を暗譜で弾いて、しかも1度もミスタッチしないという。ポロは、はるばるとむりんをたずねてその門に入った。

 とむりんは新入りの門人に、まず瞬き(まばたき)せざることを学べと命じた。一瞬たりとも楽譜から目を離さぬためである。ポロは家に帰り、さっそくまぶたに小さなつっかい棒を作ってはめた。1ヶ月後、つっかい棒をとるとまぶたが閉じた。再びつっかい棒をして瞬きせずに暮らした。1年後、つっかい棒をとってもまぶたは閉じなかった。しめたと思ったのもつかの間、しばらくすると瞬きが始まった。2年の後、ようやくつっかい棒を取り去っても絶えてまばたくことがなくなった。ポロのまぶたはその役割を忘れ果て、もはや、鋭利な錐(きり)の先を以て突かれても瞬きせぬまでになっていた。夜、熟睡している時でもポロの目はクワッと見開かれたままである。ついに、目のまつ毛とまつ毛の間に小さな一匹のクモが巣をかけるに及んで、ポロはようやく自信を得て、師のとむりんにこれを告げた。
 それを聞いてとむりんが言う。瞬かざるのみでは未だレッスンするには足りぬ。次には聴くことを学べ。聴くことに熟して弱音を聴くこと強音のごとく、微音を聴くこと轟音のごとくなったならば来(きた)って我に告げるがよいと。

 ポロは再び家に戻り、わずかにひびの入った甕(かめ)からしたたり落ちる水音に耳を傾けて終日過ごすことにした。はじめ、それはもちろん一滴の水滴のしたたる音にすぎない。2、3日たっても依然として水滴である。ところが十日あまり過ぎると、気のせいかしたたり落ちる水量が多くなったように思われる。三月目のおわりには、明らかに閉めわすれた水道の蛇口から流れ出る水音のように聴こえてきた。しかし、ひびは広がっておらず、水のしたたりは以前と同じであった。窓の外の風物は次第に移り変わる。煕々(きき)として照っていた春の陽は何時(いつ)か烈(はげ)しい夏の光に変わり、住んだ秋空を高く雁が渡っていったかと思うと、早や、寒々とした灰色の空から霙(みぞれ)が落ちかかる。ポロは根気よく甕からしたたり落ちる水滴の音を聴き続けた。その水も何百回となく注ぎ足されていくうちに、早くも三年の月日が流れた。ある日、ふと気づくと部屋の中にナイアガラの滝が流れているような轟音が満ちていた。しめた、とポロは膝を打ち、表へ出る。ポロは我が耳を疑った。道行く人々の心臓の音は漁船のエンジンのようであった。空を行く雲が風を切る音は、まるでジャンボジェットのようであった。月が地球をめぐる音までが地下鉄の走行音のようにはっきりと聴こえてきた。

続く

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