飼い主には二人の姉がいる。同じ家で暮らしていたのだから昔懐かしさを感じる猫も共通だ。
家にはその昔、三毛のメスで超美猫「チョコ」がいた。飼い主からの「大人の三毛猫を飼い始めた」の一報で二人の姉は示し合わせてさっそく視察にやってきた。まず、長姉が到着する。輪郭が同じだからか、はたまた発する匂いか何かが同じなのか、それとも「ふく」が一段とふてぶてしくなったのか、逃げない。もう、自分に慣れたと勘違いをして姉はすこぶる機嫌がよろしい。少し遅れて次女が到着。出先から直接やってきたとは言え、こぎれいなオーガンジー風のあしらいのあるワンピースにストッキング、猫の喜びそうなショールを肩からかけ、何処から見ても猫を視察にきたにしては場違いだ。
ふくは、とりあえず自分の欲求を優先し、歓迎もせず、出窓でこの日10数回目の惰眠をむさぼる。ようやく猫に触りたくて触りたくて仕方が無い二人の前に悠々と出てくる。「かわいい!」「太ってる!」「チョコとおんなじ模様!(実際には随分と違う)」と、二人とも久々の猫体験に興奮気味だ。「餌あげてみる?」という飼い主のオファーに大喜びで器に餌を盛りつける長姉、目を細めながらその様子を見守る次女。猫も楽しいが、猫に興奮する大人を見るのももかなり楽しい。餌はどれくらい食べるのか、トイレの砂の形が昔と違う、夜は何処で寝るのかetcと矢継ぎ早の質問のあと、「何かして遊びたい」という。わたしは「全米何十万の猫が狂喜乱舞した」という猫じゃらしを手渡す。カーペットに顔を近づけはうように猫じゃらしの一端を持ちふくと対峙する。針金でできたその猫じゃらしの特製をうまく生かして、近づける、止める、少し引っかけてirregularな動きを起こす、遠ざけるetc、と実に巧みにふくの気を誘う。流石年の功だ、これからの猫遊びに使わせてもらおうと飼い主もその動きを真剣に見るつめる。ふくも真剣だがそれでも時々手を休めて耳を掻いたり手をなめたりと相変わらずマイペースだ。
何をしていたでもないのに、気がつくと夜11時近く「帰れなくなる」と慌てて、二人は帰り支度を始める。玄関を出ながら「ふくちゃ〜〜ん、またね〜!」と飼い主への挨拶もそこそこ、返事すらしないふくを相手に声を「猫なで声」に変えて挨拶、ドアがしまる。静寂。その静寂をうち破るようにトイレから「ザク、ザック」とあの音がする。我慢してたんだねぇ〜、ふく。 |