賢明な皆さんは、ふくが「甘えん坊で、かまって欲しくて、私じゃないとだめなの!」と飼い主に思わせるようなネコではないことは既にご存知のことだろう。
飼い主は今までただの一週間でも毎日かかさずに掃除をしたことなんかなった。しかしどうだろう、今では掃除が日課だ、そう、ふくのトイレ掃除だ、こればかりはおろそかにできない。掃除のし忘れで、「スリッパにゴリッパなウンチをされた」なんていうネコの飼い主の悲話は世の中にゴマンとある。ネコは異常にきれい好きなのだ。
今朝も、起きるなりふくの茶碗を洗い(ちなみにこの茶碗は飼い主が自分で手回しロクロでひねった備前焼風の傑作である)、開けたての「フリスキー、たい・白身・ささみ」を見た目よく盛り付ける。飼い主が起きるまで辛抱強く待つことのできるふくには、この時間がたまらなく長いはずだ。茶碗をお盆に載せるなり、ふくは元気に食べ始める。これからがトイレ掃除だ。砂をかき分けて丁寧にウンチを探し、固まったオシッコを掬っては取り除く。減った砂の分、新しい砂を補充して「ざーーっく、ざーっく」と砂を掻きながらふくのためのトイレを整備する。京都は法然院の砂絵描き、または大徳寺龍源院の枯山水に大海原を描く、そんなイージふくらませ自分を盛り立てながら飼い主は朝のおつとめをすすめる。
すると、しゃがんだ状態の飼い主の視界が一瞬狭まる。ふくだ。ふくがこちらに一瞥を加え、思わずひるむ。急に立ち上がるのも何ナノでしゃがんだままでいると、今きれいに均したばかりの砂を両の手で掻き始め、パッと砂に飛びのり小用をすませる。ここで、普通のネコなら匂いをかぎ砂をかけるところ、こちらを見上げて「邪魔したね、続きをどうぞ!」といわんばかりに立ち去るふく。「一体あんたは何者なんだ!」を怒りに燃えようとそのしたその瞬間、「あんたじゃないと、だめなのよ」とでも言うような珍しく甘えた目つきをしながら振り向く。口元が笑ったような気がする。
完全にしてやられた。0.5秒前に怒鳴ればよかったが、しかしもう手後れ、飼い主の負けだ。明日からも修行中の小坊主よろしく、せっせと550mmX350mm程度の「固まる砂の大海原」に波を描きつづけるのだ。 |