最近新聞で読んだところによると、今や飛ぶ取り落とす勢いの脚本家三谷幸喜氏は大人になってから猫にはまってしまったらしい。今回は飼い主の個人的趣味で文章を「三谷幸喜調」で書いてみる。似ていようが似ていまいが、私にも彼にも全く責任はない。
さて、本題である。
私は昨日定時の5時15分を過ぎると直ぐ、正確に言うと5時16分ちょうどに会社を出た。この1分は人目を気にする私の微妙な気の使い方の現われである。ではなぜ人目を気にしてまで16分に会社を出たのか。それは私には家で待っている最愛の彼女がいるからだ。16分に会社出て恵比寿駅まで走り、山の手線に飛び乗りひと駅で渋谷に着き、昨日撮影を終えて今朝出したばかりの彼女の写真をピックアップする。急げば5時30分発の幡ヶ谷行きバスにぎりぎり間に合うはずだ。天も我を味方し私はかろうじて切り抜け、バスは雨の日の夕方のラッシュ時にもかかわらず、旧山手通りと開かずの東北沢の踏み切りを順調に通過し、56分に大山町の停留所に停車した。バスを降りた私はそこで日常と違う行動を[つい]とってしまった。小走りに走ってしまったのである。いつもは周りを見ながらのんびり歩くが昨日は別だ。誰か知っている人が見ていた「なんでXXXさんは走っているのだろう、雨の中」なんて、余計なことを言われているかもしれない。にもかかわらず走ってしまったのである。門を抜け入り口の扉を開けて、一旦そこで鳴き声が聞こえたりしないか立ち止まる。静寂。首尾は上々だ。57分だ。階段を上り、静かに鍵穴に鍵を入れる。彼女は声は立てずとも入口の近くで私を待っているに違いない。声を立てないのは彼女が集団住宅では大声はいけないという常識があり気が効く娘(こ)だからだ。私はゆっくりとドアを開けた。またしても静寂。靴を脱いで、入るなり体を反転させてソファの方を覗き込む。彼女だ。するとどうだ、窓の前で頭だけこちらに向けて「あ〜ら、もう戻ったの・・・」といわんばかりに思いっきり睨み付けられた。年甲斐もなく、珍しく小走りしたりした自分が情けない。忘れていたのだ相手は「ふく」だったのだ。 |