さらさら鳴る笹風の合間に、おう、おおうと低い声。なんだろうと一足踏み入ってみると、なま白く乾いた髑髏の眼孔に、尖り筍がにょきり細い若緑を放っている。
これは、と手を伸ばし、一息に筍を抜いてやると、髑髏の霊にわかに起き上がり、声も高くああ、ああ、嬉しい、やっと身が軽くなった、さっそくあなたを呪い殺すことにしましょう、と舞い踊り、抱きつかんばかり。
それは余りにも没義道でしょう、私はあなたの目に刺さった筍を抜いて差し上げた、言うなれば恩人なのですよと諭してみるのだが、髑髏の霊、まこと申し訳ありませんけれども、なにしろ今ではこんなありさま、覚えていることも切れぎれで、なにかひどいことのあと締め殺されたような気はするのだけれど、もう相手の顔も姿も思い出せません。ここは不運とあきらめて、私の成仏のためにひとつ呪われてくれませんか、そう小首を傾げてかしかしと顎を鳴らす。
呪う呪うと簡単に仰いますが、いったいどうやってと問えば、今はこのとおりあさましい姿ですが、半年ほど前まではごく普通のOLでしたので、人を呪うお作法なら九時から五時まで毎日詳らかに習ったものです、と胸を張る。
さては若い女だったか、これはたいそうまずいものを起こしてしまったようだと悔やみつつ、人を呪うには草木も眠る丑の刻にわら人形に釘を打つといいますね、そういえばあちらのほうにぴったりの大きな木があったようですよ、と教えてやると、それはとても素敵ね、さっそく今夜試してみましょう、そう言って髑髏の霊は尾骶骨、大腿骨もあでやかに竹林の向こうにゆるゆると消えてゆく。
さて、どうしましょう。まだ多少の肉が骨のあちこちに残っているとはいえ、私もまた野晒しのむくろ。丑の刻参りなど痛くもかゆくもないとはいえ。 |