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泉木修の「百物語」

 
あなたは鳥のように這い、蛾のようにしたたる。
魚のようにまぐわい、兎のようにひりひりと裏返る。

まぶたを縫ってあげよう。
耳もホチキスでとめよう。
眠れぬ夜のために。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-08-17      「聞き耳頭巾」 その二十二
2005-08-16      「聞き耳頭巾」 その二十一
2005-08-15      「聞き耳頭巾」 その二十
2005-08-14      「聞き耳頭巾」 その十九
2005-08-13      「聞き耳頭巾」 その十八
2005-08-12      「聞き耳頭巾」 その十七
2005-08-11      「聞き耳頭巾」 その十六
2005-08-10      「聞き耳頭巾」 その十五
2005-08-09      「聞き耳頭巾」 その十四
2005-08-08      「聞き耳頭巾」 その十三


2005-08-17      「聞き耳頭巾」 その二十二

 
 
 ───ど、どうした。さよ、泣くな。

 吉次はうろたえたが唖娘は泣き続けた。

 ───さよ、泣くこたあない。なんでもない。こんなこたあ、なんでもない。

 涙はぽろぽろとこぼれ続けるのだった。
 
 

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2005-08-16      「聞き耳頭巾」 その二十一

 
 
 吉次はいつしか大声を上げていた。聴こえるのは鳥やけものの声だけではない。人もまた畜生なのだ。鳥の心も人の心も変わりはしない。なにもかも小汚い。なにもかもが身勝手で、浅ましい。

 さよは吉次の様子に脅えたような、悲しそうな瞳を向けた。その目から再び涙がこぼれ落ちた。
 
 

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2005-08-15      「聞き耳頭巾」 その二十

 
 
 ───じゃ、な、さよ。おれの話を聞いとくれ。

 それから吉次は話し始めた。
 峠の茶店で旅人の話を耳にしたこと。素晴らしい聴き耳頭巾のこと。不思議な夢のこと。目覚めて手に頭巾を握っていたこと。

 唖娘は震えながら目を光らせて吉次を見ていた。いくぶんいぶかしげに。いくぶん聞き入るように。
 
 

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2005-08-14      「聞き耳頭巾」 その十九

 
 
 さよは口を閉じたまま、しんしんと泣きやまぬ。
 
 

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2005-08-13      「聞き耳頭巾」 その十八

 
 
 唖娘は何気なく覗いて在り様に驚いたのだ。目を見開いて吉次に歩み寄り、輪を指して首を横に振る。ぼんやり寝そべっていた吉次は、突然の娘の涙にたじたじとなった。

 ───さよ、どうした。んしが泣くことはない。泣かんで、いい。

 さよはいっそう激しく泣き出した。肩を振り、強い目を伏せながら。

 ───泣くな、な。さよや、泣くな。
 
 

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2005-08-12      「聞き耳頭巾」 その十七

 
 
 
 
 
                                         コト リ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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2005-08-11      「聞き耳頭巾」 その十六

 
 
 薄暗い吉次の小屋の中。
 梁には縄の輪。
 
 

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2005-08-10      「聞き耳頭巾」 その十五

 
 
 ───うんむ、ぜんたい、どしたちうだ。
 ───もう五日も姿を見せぬ。
 ───気でもちごおたか。
 ───ありゃ、さ。鳥に憑かれたにちがいね。
 ───あんまり鳥にばかりかまうから。
 ───でも、な、鳥の声聞くも嫌がると。
 ───そこらがわからん。のう。
 ───ぜんたい、わからん。
 ───どうしたもんだか。
 ───吉次よう。
 ───……。
 
 

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2005-08-09      「聞き耳頭巾」 その十四

 
 
 おれあ頭巾が欲しい。鳥の話がわかるちう、聴き耳頭巾が欲しい。

 自分の大声に目が覚めた。あたりはまっ暗、暗の暗。しんとして人の気配はない。

 ───なんだ、夢か。どうりで……。

 と、吉次はそこで、汗ばんだ手に握りしめているものに気がつく。

 それは、古ぼけた、小さな頭巾。
 
 

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2005-08-08      「聞き耳頭巾」 その十三

 
 
 ───吉次。おぬしはいつも、心からわたくしの鳥たちを大事にしてくれる。たとい、その住み処のある木を切り倒したとしても、それはおぬしのつとめ、仕方のないことであろう。おぬしが雛の鳴く枝をなるべく残してくれることをわたくしは知っている。鳥たちに代わり、礼を言う。わたくしがおぬしの願いを、一つだけ叶えてあげよう。悔やまぬようおっしゃい。吉次、おぬしの、一番の望みは。
 
 

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