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泉木修の「百物語」

 
あなたは鳥のように這い、蛾のようにしたたる。
魚のようにまぐわい、兎のようにひりひりと裏返る。

まぶたを縫ってあげよう。
耳もホチキスでとめよう。
眠れぬ夜のために。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-08-04      「聞き耳頭巾」 その九
2005-08-03      「聞き耳頭巾」 その八
2005-08-02      「聞き耳頭巾」 その七
2005-08-01      「聞き耳頭巾」 その六
2005-07-31      「聞き耳頭巾」 その五
2005-07-30      「聞き耳頭巾」 その四
2005-07-29      「聞き耳頭巾」 その三
2005-07-28      「聞き耳頭巾」 その二
2005-07-27 第八十七夜。 「聞き耳頭巾」 その一
2005-04-26 第八十六夜。 「死出虫」


2005-08-04      「聞き耳頭巾」 その九

 
 
 聞き耳頭巾。
 
 

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2005-08-03      「聞き耳頭巾」 その八

 
 
 ただ、空に、二羽の大鴉が北に向けてゆっくり羽根をうつ姿ばかり。
 
 


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2005-08-02      「聞き耳頭巾」 その七

 
 
 もう少し話を聞きたいと吉次は思ったのだが、二人は茶代を払い、笑って去ってしまう。あわててあとを追おうとするのだが、見失うはずのない峠からのつづらおり、いずこに消えたものか行人の姿は見当たらぬ。
 ただ空に二羽の大鴉が北に向けてゆっくり羽根をうつ音ばかり。
 
 

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2005-08-01      「聞き耳頭巾」 その六

 
 
 ───その頭巾をばかむったならば。
 ───かむったならば、なんとする。
 ───んむ、その頭巾をかむったならば、なんと鳥やらけものやらの話がわかるという。
 ───ほう、ほほう。鳥やらけものやらの話がわかる、とな。
 ───なんでも、かでも、その昔。とある果報者がこの頭巾を手に入れての。鶴の話を聴くなどして長者の病をばたちどころに治し、そのうえ宝をば掘り当てて。
 ───ほう、ほほう。
 ───とびきり別嬪の長者の娘御を嫁にして、一生涯、安楽に暮らしたそうな。
 ───ほっほっ。して、その聴き耳頭巾とやら、近頃どこにあるんかのう。
 ───なんでも、かでも、昔のことだて。今はもう、わからん、わからん。
 
 

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2005-07-31      「聞き耳頭巾」 その五

 
 
 そんなある日のこと。吉次は、不思議な噂を耳にした。

 ───なんでも、聴き耳頭巾ちうもんがあっての……。

 峠の茶屋の縁台で、黒い旅装束の二人の話がつと耳に触れたのだ。
 
 

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2005-07-30      「聞き耳頭巾」 その四

 
 
 ───やあい、やい。唖のさよ、聾のさよやあい。
 ───やあい、やい。くやしかればここまできてみよ。なんでもかでも言うてみよ。

 村の唖娘のさよはいつも餓鬼どものいい餌食になる。髪引っぱられ着物払われて、とうとうその場にしゃがみこんでしまった。

 ───なにしとる。やめんかこいつら。

 山のくだりに通りかかった吉次の拳骨に餓鬼どもは一目散。さよの姿もいつやら見えぬ。
 吉次の背にはぽっこり十三夜の月。
 
 

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2005-07-29      「聞き耳頭巾」 その三

 
 
 鳥狂いの吉次。
 いつもそうからかわれる。
 村に若い娘がいないわけでもないのに、朝に昼に鳥と遊ぶからだ。
 ───げに、吉ャんは鳥っ子と話ができるんかの。
 冷めた茶を土瓶からついで回りながら樵組の老婆はあきれてそう言った。
 ───そないに飯をばやっとっては、んしの食い分までうしちまうに。
 吉次はかまわぬ。からからと笑っては鳥を指に呼び、粟粒を足元に振りまき続ける。
 
 

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2005-07-28      「聞き耳頭巾」 その二

 
 
 吉次には、父も母もいない。
 兄も姉も、弟も妹もいない。
 父は吉次が生まれてくるより先に、倒れてきた木の幹にはらわたひしゃがれて死んだ。
 三つ違いの利発な兄がいた。走るのが速く、手先も器用で、よく切り株の上で独楽を回してくれた。朱塗りに金の縁どりの小さな独楽とともに、その兄の姿はいつしか見えなくなった。
 流行り病で早死にした上の子が気に入っていた母も、何年か前の夏に冷たくなった。
 それきり吉次は一人になった。
 
 

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2005-07-27 第八十七夜。 「聞き耳頭巾」 その一

 
 
 ───むかし、むかし、
 
 
 
 吉次は木を切って暮らしていた。
 
 まっすぐな木を選んでは斧で打ち倒し、枝を払っては谷に押し落とす。
 川はしぶいて流れ、里に流れ着いた丸太は集められ筏に組まれ、さらに大きな川を下ってやがては城の柱に削られる。
 吉次も、樵仲間の誰一人、城の築かれる丘さえ見た者はいない。それほどに山の奥の奥の、そのまた奥にあった話。
 
 

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2005-04-26 第八十六夜。 「死出虫」

 
 なぶられて、男たちは落ーちーたー。こわごわ露台(テラス)より身を乗り出せば、はるか崖下はぬかるむ黄土色の泥土(うひじ)で、あるものは膝を抱え丸まったような、あるものは無駄のあがきに手足をばたつかせたような、男たちの落ちたかたちのままのぬっぷりした穴がいくつもーいくつーも並んでいる。ぺっちゃり、べちゃりと音立てて男たちを迎える泥土のすぐ下は実のところ黒くて硬い岩盤で、昨夕の早い頃の穴からは、はや男たちをついばみすする夏の蒼い虫供が淡く濃く這い出ては光る。
 

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