私がお付き合いをしたプロのミュージシャンたちが独特の符牒で話すのを聞いて、当初は大変違和感を覚えました。ミュージシャンだけではないかもしれませんが、単語をサカサマふうに言う、たとえばギターがターギ、ベースがスーベといった具合です。そんなものを逆にする必要もないと思うのですが「仲間意識」からきたのかもしれません。コードネームやキーに使うアルファベットをツェー(C)デー(D)ゲー(G)アー(A)とドイツ語的な発音で読むにもかかわらず短調ですとマイナー、長調ですとメジャー(本当はメイジャーのほうが近いと思いますが)と英語になります。たとえばAmはアーマイナーと呼ぶのです。ハワイのオータサンは日本での生活が長かったため、日本のミュージシャンと打ち合わせをするときにはこの「アーマイナー」という言い方をします。あるときオータサンに「貴方までアーマイナーというのはなぜ?」と尋ねたところ「だって日本じゃそういうんでしょ」とニヤッと笑いながら言ってました。郷に入っては郷に従えということでしょうか。(ドイツ語読みを徹底するのであればEはエーと呼ばなければいけないのですが、なぜがこれはイーとよびます。一番の問題はBをベーと呼ぶとドイツ式表記の場合のベーは英語表記でのBフラットのことで、混乱します。ドイツ方式ではBはH「ハー」となりますので)
ところでミュージシャンの思い込みでコードネーム表記で間違った省略をしている場合があります。たとえばオーギュメント(aug)やディミニッシュ(dim)がそれです。オーギュメントの正式な表記はaug,ディミニッシュの正式な表記はdim、dim7、○、等なのですが、オーギュメントがメイジャーコードの5度音を半音高くしたもの、すなわちaugumented fifth (+5)であるために本来、たとえばCaugと表記しなければいけないコードネームを単に(C+)と書いて済ませてしまうのです。この表記でもまったくの間違いではないので、大きな混乱はないでしょうが、ディミニッシュはそうはいきません。オーギュメントに対比させてマイナス記号(-)で済ませるすなわちCdimをC-と表記することがよく行われていますが、これはいささか混乱を招きます。というのはマイナー・コードにつける(m)を(-)と書く向きもありますので、スタジオで突然配られた楽譜についている(-)がはたしてディミニッシュなのかマイナーなのか一瞬混乱してしまいます。やはりオーギュメント(aug)同様ディミニッシュでしたら(dim)と書くべきでしょう。
変調、転調、移調という言葉の混乱もあります。「曲の途中で一時的または最後まで調(キー)が変わる」ことをmodulation(転調)と定義されます。ラジオのFMとかAMの「M」はmodulation(変調)ではありますが、音楽用語では「転調」が正解です。
ところが曲全体のキーを変えることを「変調」とか「転調」と言う場合があるので混乱します。これは「移調(transposition)」であって、この「キーを変える」ことを「転調」と呼ぶのは間違いでしょう。
最後にステージなどでこれから演奏する曲のキーをメンバーに伝える「指信号」としてわが国では指1本がC、2本がDという具合に5本のGまで現します。これに対してすべての外国のミュージシャンがそうかどうかは不明ですが、私が見たミュージシャンは指を上に向けるとシャープの数、下に向けるとフラットの数を示していました。たとえば指2本を上に向けると「DメイジャーまたはBマイナー」下に向けると「Bフラット・メイジャーまたはGマイナー」となります。
・・でも、CメイジャーやAマイナーの場合はどうするか見落としました(汗) |