会話のきっかけを作ったのは、俺の不注意が起こしたある事故だった。
男女兼用の狭い物置兼更衣室。仕事が終わってぼんやりとしながらその中に足を踏み入れたその時、バキッ!と何かが割れる音がした。あっと、思って足を引いたところで遅かった。視線を下に落とすと無残にわれた一枚のCDがそこにはあった。ブランキージェットシティ、ロメオの心臓。
ぐしゃぐしゃになったCDケースのジャケットと、タイトル。それを見た瞬間、なぜか頭がぼおっとして、心が震えた。ロメオの心臓、ロメオの心臓、ロメオの心臓・・・。
しかし、そのCDの持ち主の声によって、俺はすぐに正気に戻された。
「あ!!ちょっと、それ私のんちゃうん!?」
それはユキのものだった。もちろん、その時俺はまだ彼女の名前がユキだって言う事すらも知らなかった。まだ、顔を知っている他人、でしかなかった。
俺は、ただひたすら謝った。完全に、百%俺が悪かったのだ。そうする事以外に、何ができただろう。
何回ごめんと言ったか数え切れないくらいに謝った。ユキは、悪気がなかったのだからしょうがない、と言ってくれた。それでも罪悪感はぬぐいきれず、俺は弁償する、と言った。すると、ユキはこう言った。
「じゃあ、なんかあんたのお勧めのCD一個貸して〜や。それでええわ。」
俺はそんなことで良いのか、と少々戸惑いながらも、承諾した。
それから家路につきながらも、脳裏にはずっとひとつの単語がよぎっていた。
ロメオの心臓。
帰り道、俺はレンタルショップに寄って、そのCDをレンタルしてから、家に帰った。 |