その二日後、雪が降った。と言っても、積もるほどの雪ではない。バイトに行くため、家を出た俺は、その降り注ぐ雪を見て、決めた。好きだ、と言おうと。ふられてもかまわない。ただ、気持ちを伝えたかった。
バイト先に行く。しかし、確かにその日、入っているはずのユキは、いつまで経っても来なかった。店長が携帯に電話しても、繋がらないらしい。今までこんな事はなかったようで、困惑していた。病気か何かだろう、とその日は落ち着いたのだが、次の日も、その次の日も、ユキは来なかった。
三度空振りして、しょげ落ちる心を奮い立たせて、今日こそは、とバイト先に向かった。そろそろ来るだろう、と。
バイト先に着くと、嫌な胸騒ぎがした。何かが、決定的におかしかった。その胸騒ぎは、いつになく神妙な顔つきの店長がみんなを呼び集めて話をはじめたときに、最高潮になった。
何かがおかしい。そして、店長は、静かに言った。「実は、ノウエさんが、3日前に亡くなりました。」
それから後の事は、覚えていない。何一つ、完全に覚えていない。何も聞こえなかったし、何も見えなかった。俺は、何も言わず、そのバイト先を後にした。何度も電話がかかってきてたようだが、わからなかった。
どこをどう歩いたのか、何をしていたのか、まるでわからない。終点の奈良駅で、駅員に肩を叩かれ、終電に乗って八尾に帰ったところから、記憶がうっすらと戻りつつある。
ユキが死んだ。信じられなかった。信じたくもなかった。あの雪の日に、ユキはもうこの世にいなかったなんて。信じたくなかった。
家に帰り、CDをかける。ブランキージェットシティ。ロメオの心臓。
彼女の事が好きなのは 赤いタンバリンを上手に打つから
そのCDを聴き終わると、俺は泣いた。一晩中泣いた。このまま体中の水分を全てなくならせて、消えてしまえばいいのに、と思った。しかし、次の日の朝が来た。そして、その次の日、その次の日。朝は延々やってきた。
そして、俺は今日もここで生きている。
時々思い出す。でも、ブランキーは聴かない。こんな雪の降る夜に、俺はブランキーを聴く。
ああ いつの日にかみんな何処かに 消えてしまう気がする
ああ 伝えなくちゃ素直なその気持ちを 今すぐ
ユキに捧ぐ
はい、ドッキリで〜す。
あ、一応言っとくけど、これ全部嘘で〜す。最初はもっとしょぼかったけど、やってるうちにエスカレートして、本格的に嘘つきました〜。こんなしょうもない嘘のために3時間費やした。アホか俺は。 |