ぽん吉「ポロちゃん、台風77号が接近中だよ」
ポロ「よし、持ち場に着くんだ」
ぴゅーわぴゅーわぴゅーわ!
作業開始を告げるサイレンが鳴り響くと、アルゴー船団の指揮艦、第1マグロ丸のブリッジがにわかに慌ただしくなった。と言っても、自動化が進んで、この船団で働いているのはポロとぽん吉だけだけどね。うれしいなあ。ポロは仕事が大好きなんだよ。
ポロたちは、真水を取引する企業の最大手「マグ・ウォーター・コンフィデンシャル」の社員だ。20世紀は石油やウランに価値があったけど、松戸博士の発明でエネルギー問題が解決したいま、もっとも価値があるのは真水だよ。今では石油を買おうなんていう酔狂は誰もいないけど真水は世界中が欲しがってる。だって工業化を急いだ国は、たいてい水源をよごしちゃったし、地球温暖化で雨の降らない土地が増えたしね。
日本は広大な経済水域を持っていて、おまけにそこは台風の通り道ときてる。ポロたちは経済水域に降る雨を集めて、それを売って商売してるんだ。
ポロたちは直径が1000mにもなる大損(ダイソン)社製の真空式集水装置のパラボラ・スクープを展開した。もうすぐ台風77号がこの装置の真上を通過する。台風のエネルギーを利用して駆動電力を得るので、お金がかからないのさ。
3時間後、ポロたちは台風の雨雲を全部集水装置で吸い込み終わった。ようするに台風77号は消えちゃったってわけ。
吸い込んだ台風は全部真水になって海底のパイプラインに送られ、クライアントであるAストラリアやCごくに届くと代金が支払われる仕組み。
ぽん吉「ポロちゃん、台風77号が消えたからまた海面に陽が当たって、その熱で台風78号が発生したよ」
ポロ「よし、充分発達してから通過しそうなポイントに移動だ」
ぽん吉「いま計算中だよ」
ポロ「待て、ぽん吉。業務連絡が入った」
ぽん吉「どうしたの?」
ポロ「台風78号はちょうどいいサイズだから日本に上陸させてダムに水を貯めるそうだ」
ぽん吉「それはいいね。それじゃあ79号の発生位置を予測しようよ」
ポロ「グッドアイディアだ、ぽん吉。よし松戸博士のひみつ兵器“台風シーカーZ型”を起動しよう」
台風シーカーZ型は独立シーケンス実行型、神秘アルゴリズム依存シーケンス併用型、湿布式、寝る前1回だけの錠剤型、婦人用、ちょっと大きめなど例によっていろいろなタイプがあるけど、マグロ丸に積まれているのは「パリッとさわやかニンニクしょうゆ味」というやつさ。
ポロ「むしゃむしゃむしゃ・・」
ぽん吉「ポロちゃん、これおいしいよ。ぼく気に入った」
ふたりの体内に入ったナノマシンがセンサーとなって、水蒸気が立ちのぼる海域を感じられるようになってきた。そしてふたりが同時に叫んだよ、とーぜんね。
「わかったぞ。あそこだ!」
二人が指さした南方向の水平線には「パリッとさわやかニンニクしょうゆ味」の力など借りなくてもはっきりとわかる巨大な積乱雲がうずを巻き始めていたんだ。
その2へつづく |