himajin top
烏丸の「くるくる回転図書館 駅前店」

 
今後、新しい私評は、
  烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」
にてアップすることにしました。

ひまじんネットには大変お世話になりましたし、
楽しませていただきました。
その機能も昨今のブログに劣るとは思わないのですが、
残念なことに新しい書き込みがなされると、
古い書き込みのURLが少しずつずれていってしまいます。
最近も、せっかく見知らぬ方がコミック評にリンクを張っていただいたのに、
しばらくしてそれがずれてしまうということが起こってしまいました。

こちらはこのまま置いておきます。
よろしかったら新しいブログでまたお会いしましょう。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2005-01-02 そこにいるための戦い,そして戦い続けること 『ホーリーランド』(現在8巻まで) 森 恒ニ / 白泉社JETS COMICS
2004-12-31 〔短評〕最近の新刊から 『バルバラ異界(3)』 萩尾望都 / 小学館fsコミックス
2004-12-30 〔短評〕最近の新刊から 『エマージング(2)』 外薗昌也 / 講談社モーニングKC
2004-12-21 最近の新刊から 『女子大生会計士の事件簿(1)(2)』 山田真哉 / 角川文庫
2004-12-15 出版界の謎 「澁澤龍彦とヴェルレーヌの版画集」編
2004-12-05 アニメ界の謎 「銭形警部とM資金」編
2004-11-29 食品界の謎 「片栗粉」編
2004-11-28 出版界の謎 「ねじの回転」における需要と供給編
2004-11-24 出版界の謎 「小川洋子」編
2004-11-15 蒔かれた種子としてのジュブナイル 『ヴァイスの空』 原作 あさりよしとお,まんが カサハラテツロー / 学習研究社 ノーラコミックス


2005-01-02 そこにいるための戦い,そして戦い続けること 『ホーリーランド』(現在8巻まで) 森 恒ニ / 白泉社JETS COMICS


【きっと 僕がこれからする事は 今はもう ない 僕の聖地への 手向けなんだ】

 2005年の年頭にあたり,ヤングアニマルに連載中の格闘マンガ『ホーリーランド』をぜひとも取り上げたい。なにしろ,ここしばらく単行本を読み返して,いっこうに飽きないのだ。

 しかり,古今東西,面白い格闘マンガは少なくなかった。
 最初はおよそ強いとはいえない主人公が(何かに巻き込まれる形で)戦いに目覚め,拳を交わした相手と友情を結び,さらに強い相手とめぐり合うことで当人も成長していく……黄金パターンである。これで競技を選べば連載は決まったようなものだ。

 だが,連載開始当初はともかく,主人公が戦い続ける理由を明確に設定した作品ははたしてどれほどあったろうか。
 たとえば,ボクシングをテーマにして秀逸な『はじめの一歩』。この作品では,いじめられっ子が強さにあこがれてボクシングを始めるという初期の設定は単行本数冊で薄まってしまい,とくに日本チャンピオンとなって以降の一歩が何のために戦っているのか,単行本を読み返しても実はよくわからない(そのため,最近は主人公より脇役達のほうが格段に存在感が鮮明だ)。
 『明日のジョー』も,半歩引いて見ればジョーがなぜリングに上がり続けたのかはよくわからない。だが,彼の深い目に何かありそうに見えたあたりがあの作品独特の魅力だったように思う(逆に,同時期の『巨人の星』は,飛雄馬がマウンドに立つ理由の空疎さこそを描いた,ある意味野球マンガの壮大なパロディだった)。

 さて,『ホーリーランド』に登場する神代ユウは,やせて,デイパックを背負い,およそ格闘マンガの主人公らしからぬ風貌をしている。

 彼は中学生のころ苛烈な「いじめ」にあい,いわゆる「不登校」となる。そして,ただ鈍化し,何も感じなくなることを望み,部屋にこもって毎日何千と数えながらパンチを振るようになった彼がやがて自分の居場所(ホーリーランド)を求めたのは,学校ではなく夜の街だった。
 しかし,自衛のために相手を殴り返し,やがて“不良(ヤンキー)狩り”と呼ばれるようになるユウは,勝てば勝つほど夜の街に居られなくなるというジレンマに陥るのだった。……

 この作品は全編さまざまな若者達のジレンマに満ちている。主人公のユウはもちろん,それ以外の夜の街にたむろする不良(ヤンキー)達も,あるいはレスリングや空手,剣道に励む青年達も,一人一人,行き違い食い違う現実に対してゆがんだり遠回りしつつ,結局は誠実に対処していこうとする。そうしなければ居場所を失うからだ。

 現在,夜の街にたむろする若者の生態がどのようなものか,僕は知らない。今どきのケンカはこうかという疑問もある。さらに,作者の語る格闘技の薀蓄がどの程度正確なのか,門外漢ゆえよくわからない。
 だが,それらの疑問を抱えてなおかつ圧倒されるだけの切実さがこの作品には満ちている。

   僕は拳を固めてきた
   話をしに来たワケじゃない
   無事に済むとも思ってない
   怖くないワケでもない
   それでもボクは
   これからも悪意に対して
   暴力で答える

 これをただ暴走と言ってよいのだろうか。
 僕は言わない。僕は神代ユウの側にある。……四捨五入すればとうに五十歳のオヤジがそう述懐するに足る力が,この作品にはある。

先頭 表紙

ひまじんネットの皆様,今年もよろしくお願いいたします。今年はどんな本と出合えるのでしょうか。それとも,本の中のリアリティなど圧倒してしまうような事件が相次ぐのでしょうか。…… / 烏丸 ( 2005-01-02 20:14 )

2004-12-31 〔短評〕最近の新刊から 『バルバラ異界(3)』 萩尾望都 / 小学館fsコミックス


 飛ぶ子供。
 青羽。
 火星。
 時空を超えてシンクロする夢。

 キーワードを並べてみれば,『バルバラ異界』が『スターレッド』のもう1つのフェノメノンであることは明らかだ。

 ただし……。
 今回萩尾望都は,なんというか,リミッターを外したようなところがあって,読み手にエンターテイメントを提供せんとするサービス精神をさておいて,自身の前頭葉からほとばしるものをあふれて踊るに任せているように思われてならない。
 実のところこの第3巻,購入して数日,すでに何度も読んではいるのだが,最初から通しでは一度も読めていない。通して読もうとするとひどく疲れてしまって,ぱらぱらあちこちつまみ食いのように読むしかなくなるのだ。

 つまるところ,まるで感性のままに書かれた散文詩集のようにこの作品はある。

 にもかかわらず,並みの作家には到底到達し得ない複雑かつ堅牢な構造……。萩尾望都が萩尾望都たるゆえんである。

先頭 表紙

ちなみに,大島弓子や樹村みのりも,コレクターとしては似た領域にあります。 / 烏丸 ( 2005-01-16 00:11 )
そんな彼女の作品で一番わななくのが「ドアの中のわたしのむすこ」,一番愛しているのが「小夜の縫うゆかた」,一番ささっているのが「ポーチで少女が子犬と」,一番大きいのが「グレン・スミスの日記」でしょうか。古いのばかり……。最近20年間の作品は,別に僕などがプッシュしなくても有名なので。 / 烏丸 ( 2005-01-16 00:09 )
萩尾望都については,語りたいことが多すぎて何から書いていいのやら状態です。デビュー作からスターレッドの時代までの大半の作品(2作除く)を“雑誌からの切り抜き”で持っている(ポーはもちろん,心臓や千億の連載含む)というと,思い入れの強さをご理解いただけるでしょうか。 / 烏丸 ( 2005-01-16 00:04 )
萩尾望都だいすき。この作品もおもしろいです。 / YIN ( 2005-01-15 00:10 )

2004-12-30 〔短評〕最近の新刊から 『エマージング(2)』 外薗昌也 / 講談社モーニングKC


 前回「タダではすまない。注目である。」と紹介を締めた『エマージング』だが,存外にあっけなく2巻で終わってしまった。

 話題作人気作をいたずらに引っ張ることの少なくない当節では,いっそ天晴れとその潔さを(前作『犬神』を延々引っ張った外薗昌也だけになおさら)評価したい。ただ,その分結末は安易といえば安易。めでたくもご都合主義的なエマージングウイルスの終息は,本作が今後名作として歴史に刻まれることを阻むように思われてならない。

 ポイントは言うまでもなく,登場人物の多くがエマージングウイルスに「感染」はしても死ななかったことだ。
 それはつまり,この作品が描こうとしたものは「感染」であって,決して死に至る「病」ではなかったということだ。

 「感染」に徹底してフォーカスを当てたことを評価すべきか(少なくともそのような作品にはあまり記憶がない),死をも含む重層的な内容を描き切れなかったことを惜しむべきか……とりあえず結論は先送り,そんな感じだ。

先頭 表紙

2004-12-21 最近の新刊から 『女子大生会計士の事件簿(1)(2)』 山田真哉 / 角川文庫


【今度の仕事は五年分の数値を打ち込んで〈年次推移表〉を作成し,その変動を見るという〈分析的手続〉だ。】

 すでにお気づきのことかと思うが,不肖この烏丸,学習マンガが好きだ。「好き」というより「スキスキッ」とライトでスプライトなフェイバリットである。
 さまざまなジャンルの知識を提供するという建付けの中,たとえば,口の立つ少女に圧倒されてばかりの少年が,挽回せんとことごとにムキになる。そんな微笑ましくも幼い恋愛絵巻が懐かしく,愛しい。

 角川からこの秋に文庫化された『女子大生会計士の事件簿』は,マンガではないが,そんな味わいたっぷりの逸品である。

 今回文庫化されたのはすでに4巻発行されている単行本から
   DX.1 ベンチャーの王子様
   DX.2 騒がしい探偵や怪盗たち
の2冊。それぞれ書き下ろしが加えられていたり,「やさしい会計用語集」「英語で学ぼう会計用語集」,さらには登場人物たちによる各編のまとめや読者からの質問コーナーまで用意されて,まことににぎやか・なごやか・まことしやか。

 おっと,肝心の本編についての紹介が後回しになってしまった。
 『女子大生会計士の事件簿』は,現役女子大生で「公認会計士」の〈萌さん〉こと藤原萌実と新米「会計士補」の〈カッキー〉こと柿本一麻がコンビを組んで訪れる監査の先々で,粉飾会計,会社乗っ取り,クーポン詐欺,領収書偽造,原価率操作,インサイダー取引など会計にかかわる謎や事件を解決し,それによって会計の仕組み,会社の仕組みを教えてくれる,というものだ。
 もちろん,こんな軽い短編やその注釈を読んだだけで会計の仕組みがわかるほどその世界は甘くないだろう。それでも会計,経理にうとい者には「なるほど,そだったのか!」と膝を打つ点も少なくない。
 各編に取り上げられた事件は他愛ないといえば他愛ないが,なにしろ素材がバラエティに富んで飽きることがない。1冊1時間もあれば読み終わるライトノベル感覚だが,そのバラエティ,人物の爽やかさをもって,十分再読に耐える。

 とくに「DX.2 騒がしい探偵や怪盗たち」に掲載された「監査ファイル6 〈十二月の祝祭〉事件 ──数字の話──」は,萌実がなぜ若くして公認会計士の道を目指したかを解き明かすちょっぴりハートフルな物語となっていて泣ける。「ちょっぴり」「ハートフル」などという言葉は性分がら使いたくないのだが,ほかによい言葉が浮かばない。

 難をいえば,萌実が「あれ〜、そうだったかしら〜?」等,セリフの中で「〜」や「…」を連発するのが少し目障りな印象。キュートでおじさん受けがよく,利発で聡明,キャラは十分立っているのだから,仕事の現場での会話はもう少しきりっとしたものでよかったのではないか。

 なお,文庫カバーの久織ちまきのイラストは秀逸。迷ったが,ここではDX.1の表紙を転載することにした。かわゆい……。
 ちなみに某社の監査にたずさわる会計士と言えば……言わぬが花のサンフランシスコ・ザビエル。

先頭 表紙

2004-12-15 出版界の謎 「澁澤龍彦とヴェルレーヌの版画集」編

 
 澁澤龍彦の単行本はたいてい古本屋に売っぱらってしまった。

 学生のころの話だ。夜毎飲んで飲んで飲み明かして,物入りになると少しでも高そうな本を棚の一段分もジーンズのうすらでかいバッグに詰め込み,体をななめにしてなじみの古本屋に持ち込んだものだ。ロートレアモンやランボーのように,何度も同じ本を出し入れしたこともある。ニーチェは入れたまま出す気になれなかった。肌が合わなかったためだ。澁澤龍彦の話だった。黒い本や白い本函入り函なし,どんな本があったかよく覚えていない。古本屋に入れても澁澤龍彦の場合,必要になったらいつでも会えるような気がしたものだ。今思い返せばなぜそのように感じたのかよくわからない。

 1980年代の前半だったろうか,澁澤龍彦の作品が連続して文庫化されるようになった。結局以前読んだ作品,未読の作品の多くを文庫で買いそろえることになった。河出文庫は最近はなんだかヘンな作品ばかり扱っている印象だが,澁澤の文庫化だけでも評価して評価しきれない。

 のちに福武や中公,最近は文春や学研まで澁澤の文庫化に参入,同じタイトルが複数の出版社から出るにいたって,さすがに整理が追いつかなくなってきた。一部(黒魔術や胡桃など)を除けば,翻訳作品まで全作品集めないと気がすまないわけではないが,それでも油断で入手しそこねると愉快とはいいがたい。出版目録でざっと洗って,本棚とつき合わせてみることにした。

 紀伊国屋BookWebで「渋沢竜彦」(しみじみ,無粋だ)で検索してひっかかる本は296冊。テキストをコピーして1つのファイルにまとめ,タイトルでソートしてプリントアウト,ラインマーカー片手に単行本,文庫の棚と順に突き合わせていく。そして,その作業の途中で,こんなものを見つけてしまった。

   おんな・おとこ
   版画集
   ポ−ル・マリ−・ヴェルレ−ヌ;渋沢竜彦
   出版21世紀 1981/09出版
   48cmX66cm 図版34
   [キガイ 判] 販売価:5,712,000(税込) (本体価:5,440,000)
   この商品はご注文いただけません。入手不能です

 残念ながら入手不能とのことだが……もし。もし,在庫ありなら自分はどうしただろう?

 人は崖があれば首を突き出して眼下に砕ける波を除かずにはいられない。500万円を上回る版画集。それがマウスクリック一発で注文できる,なら。

先頭 表紙

ちなみに紀伊国屋BookWebには同じタイトルで「231,000(税込)」となっている項もあり,単なるミスという気もしないではありません。(23万円でも十分いい価格ですが) / 烏丸 ( 2004-12-15 02:31 )

2004-12-05 アニメ界の謎 「銭形警部とM資金」編

 
 問題は,銭形警部の本名なのだ。

 しかし,結論を急ぐのはやめよう。まずは,「ドラえもん」である。

 テレビ朝日系のアニメ「ドラえもん」(← Windows XPでは一発で正しく変換!)の声優が来春をもってそろって交代させられるという報道はすでにお聞きおよびだろう。ドラえもん役の大山のぶ代(68),のび太役の小原乃梨子(69),しずか役の野村道子(66)など,1979年の放送開始当時からの不動のメンバーがいずれも高齢に達したことがその理由とされているようだが,四半世紀にわたって「ドラえもん」の人気を担ってきた声優たちを,「後任は人選中」などといった慌ただしいありさまでの交代劇はいかにも不自然である。
 もともと,ドラえもん役の大山とのび太役の小原は仲が悪く,プライベートには口もきかないし,スタジオでも端と端に座る,という噂は有名である。しかし,長年テレビアニメのみならず劇場版でまで同じ顔ぶれで活躍してきた声優たちを交代させる理由としてはいかにも弱い。

 実は,いまや日本の大きな輸出資源と化したアニメ作品のキャラクターと声優の組み合わせは,ある特殊な情報を発信する,はっきり言えば国際的な暗号の一種なのである。
 今回の「ドラえもん」の声優交代には,ブッシュ政権と自衛隊イラク派遣の動向にかかわるとある謀略が隠されているのだが,その詳細を明らかにすることは私の家族にまで諜報筋の手がおよぶおそれがあるため,ここでこれ以上は触れない。

 その代わり,同じく人気アニメ「ルパン三世」について,エージェントの間ではそれなりに有名なある事実をご紹介しよう。

 「ルパン三世」とはモンキーパンチの生み出した架空の人物とするのが通例だが,もちろんこれは世間を欺くための詐術であり,終戦の前後にアジア各国を股にかけて暗躍し,M資金を取り仕切った伝説的な人物がモデルであることはいうまでもない。そして「ルパン三世」のいくつかの作品の,特定のシーンの,キャラクターの配置と声優の名前の組み合わせには,M資金の秘匿された資産のあり場所を示す暗号が隠されているのである。
(ここにそのことを明らかにしても私ならびに私の家族の安全が脅かされることがないのは,すでにそれらの資産は回収されたあとだからである。)

 そもそも,「ルパン三世」はなぜ「三世」であって,「二世」でも「四世」でもなかったのか。これは「3」という数字に記号的な意味があったためである。

 「ルパン三世」の原作とも言えるモーリス・ルブランの怪盗ルパンシリーズには,『813』『続813』『八点鐘』という作品があるが,この「8」,そして「3」という数字に着目してほしい。つまり,これらの作品に隠されていた秘密(暗号キー)を伝えるためにも,アニメ版のルパンは「三世」でなくてはならず,声優は「山田康雄」(8マダ8スオ)でなくてはならなかったのである。
 そして,脇役たちの名前も,「次元大介」(プラス1を表す),「石川五ヱ門」,「峰不二子」(3ネ225)など,数字を表すことによって,彼らのコミカルなアクションは各国のエージェントに伝えるべくさまざまな情報を隠しているのである。

 「ルパン三世」を愛する貴方は,ここで指摘するだろう。「そんな馬鹿な。もしそれが事実なら,ルパン三世に登場する脇役中の脇役,銭形警部はどうなるのだ」と。

 そんな貴方に,私は怖ろしい事実を伝えなければならない。銭形警部の本名が作品中に描かれた名刺などから「銭形幸一」であることは,ファンの間では有名な事実である。ところが,劇場版の『ルパンVS複製人間』などごく一部の作品では,彼は「銭形平次」,つまり「2」を表すキャラクターとして描かれているのである。
 そして,その銭形警部の声を演じたのは誰だったか。その声優の名は,納谷悟朗。なやごろう。7856,7×8=56 ……。

 さらに,ルパン三世の初代声優の山田康雄が亡くなったあと,選ばれた声優が栗田寛一,つまり「9」と「1」であることを付記して本稿を終えることとしたい。

先頭 表紙

「4」が抜けてるってば。 / 烏丸 ( 2004-12-05 02:36 )

2004-11-29 食品界の謎 「片栗粉」編

 
 厨房でふと白い紙袋を手に取れば,そこには麗々しく

   馬鈴薯澱粉
   品質100%保証
   東京片栗粉組合

と記されている。商品名に大きく「片栗粉」を名乗りながら,馬鈴薯澱粉として品質100%を保証されるとはいったい何事か。

 大辞林によると片栗粉とは,

   かたくりこ【片栗粉】
    カタクリの地下茎から製した白い澱粉。
    市販の多くはジャガイモから製し、葛(クズ)粉の代用として
    菓子・料理に用いる。

であるという。かたやカタクリとは

   かたくり【片栗】
    (1)ユリ科の多年草。林下に生じ、早春、二葉を開く。
    葉は楕円形で厚く、紫斑がある。葉にやや後れて長い花茎の先に
    紫紅色のユリに似た花を一個下向きにつける。
    根茎は白色・多肉の棒状で澱粉(デンプン)を蓄え、片栗粉にする。
    古名、カタカゴ・カタカシ。カタコ。
    (2)「片栗粉」の略。

であり,さらに片栗粉によって代用される葛粉とは

   くずこ【葛粉】
    クズの根を粉にし、布袋に入れて水中でもみ出した沈殿粒を
    脱水乾燥させたもの。
    白色、良質の澱粉で、菓子などに利用される。吉野地方の名産。

 ……つまり片栗粉とは,本来ユリ科のカタクリの根茎から製する澱粉だったにもかかわらず,スーパーで手に入る片栗粉は往々にしてジャガイモの澱粉であり,しかもその使用目的は葛粉の代用。ミネット・ウォルターズの作品世界のように入り組んで解きほぐせない自己同一性。

 かくのごとき商品に品質100%保障せざるを得ない東京片栗粉組合員の横顔は後ろめたさにかげり,カタクリの花のように下を向いているのか。
 否,そもそも馬鈴薯澱粉を片栗粉として認めるは東京片栗粉組合だけであり,澱粉業界にいまなお隠然たる勢力をほこる関西片栗粉協会は組織が決裂して百歳(ももとせ)を経てなお東西の覇権を企み,東京片栗粉組合筆頭書記の村瀬恭一青年と関西片栗粉協会の川合幸子事務員の清い恋は引き裂かれ,吉野からは御所に密偵が走り,迎え撃つは白装束の……。

 ついばまれるあんかけの魚の皿の向こう,晩秋の夜は静かに緊張を深めていくのだった。

先頭 表紙

つまるところ食ってしまえば全て炭水化物で片づけちゃいますから、残念!! / 恵那の高校 ( 2004-11-29 20:10 )
わははははは! / あーおなかいたい ( 2004-11-29 10:01 )

2004-11-28 出版界の謎 「ねじの回転」における需要と供給編


 これまた,他愛ない話である。「謎」というほどのものですらない。

 イギリスの片田舎の古い貴族屋敷を舞台とした亡霊譚,ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』といえば,椎名誠に『ねじのかいてん』,恩田陸に『ねじの回転』があるように,タイトルからしてすでにスタンダードの域である。そこで不肖このカラスマルもひとつ「はじの回転」なる笑編をものしようと(続編「どじの回転」,完結編「まじの回転」も鋭意考案中だ),ロングセラー中のロングセラー,新潮文庫の蕗沢忠枝訳を入手しようとした……ところがこれが,なかなか手に入らない。

 このところ本の買い物はオンラインで済ませているため,あまり大きな本屋に行く機会がないのだが,近場の書店の棚では見かけないのである。これはまぁ当然といえば当然で,中堅どころの書店で古典の類をそろえていたら,売れ筋の新刊を置く場所がなくなってしまうだろう。
 そこで,ブックオフなどの古書店で見かけたら買うことにしたのだが……やはり,見当たらない。

 ここまでは,別に問題ではない。。
 ちなみにカラスマルの通勤路には,途中下車して少し歩けば,ブックオフ,古本市場,ブックマーケットなどの大型古書店が両手の指で足りないほどあるのだが,それらをぐるりと回っても手に入らない本などいくらでもある。『ねじの回転』が古書店で見つからないこと自体はなんら不思議ではない。

 問題は,『ねじの回転』はないのに,同じ新潮文庫の,同じヘンリー・ジェイムズの『デイジー・ミラー』ならいくらでも,いや置いてない古書店のほうが珍しいくらいどこででも見かけられることだ。
 『デイジー・ミラー』,アメリカ娘デイジーを主人公に,旧大陸と新大陸の対立を淡々と扱った恋愛小説。そんなものが今さら古本屋にあふれるほど売れているとは思えない。『ねじの回転』と合わせて購入した読書家が『デイジー・ミラー』だけ手放すという図式はいかにもありそうだが,そもそもそういう読書家が『デイジー・ミラー』を購入するだろうか。

 結局,『ねじの回転』はオンラインで購入したのだが,昨夜立ち寄ったブックオフにも『デイジー・ミラー』は静かに白い背表紙を見せていた。


 そういえば,やはり古書店で見かけたら購入するつもりの岩波文庫『聊斎志異』も,なぜか下巻ばかり見かけて,上巻が見つからない。これも不思議だ。上下巻なら,印刷部数は同じか,上巻のほうが多いのが普通だ。なぜ下巻ばかりある。説明がつかない。……
 手の中の文庫の頁がほつれるようにめくれて,晩秋の夜はただ沈黙するばかりだった。

先頭 表紙

こんなことを書いていたら,よく行くブックオフにいきなり『ねじの回転』の出物がありました。思わず買ってしまう馬鹿。2冊持っていて,どうする。 / 烏丸 ( 2004-12-15 02:20 )
ところで,そもそも『ねじの回転』を読んでなかったことがお恥ずかしい。実は,漱石の猫も,ヘミングウェイの長編も,アシモフのファウンデーションもちゃんとは読んでいません。『魔の山』『白鯨』『失われた時を求めて』などなど,死ぬまで読む機会はあるのでしょうか。 / 烏丸 ( 2004-11-28 03:46 )

2004-11-24 出版界の謎 「小川洋子」編


 先にお断りしておこう,「謎」などと大仰なタイトルを付けてはいるが,たいした内容ではない。

 さて,小川洋子がここしばらく,絶好調だ。

 『博士の愛した数式』が本屋大賞,読売文学賞(小説賞)受賞。続く『ブラフマンの埋葬』が泉鏡花文学賞受賞。『博士の愛した数式』は寺尾聰,深津絵里主演で映画化が決まったし,『薬指の標本』もフランスで映画化が進められているという。
 書評サイトを見れば絶賛の嵐だし,実際作品を手にとれば,適度にエキセントリックで適度に甘美,静かに涙を誘うような淡く透明感あふれる世界が展開する。

 というわけで,女流作家はあまり得手でないカラスも新刊,既刊を購入してはぽつりぽつりと読んでいるのだが……ふと,妙なことに気がついた。

 小川洋子が『妊娠カレンダー』の芥川賞受賞などで華々しく登場したのは1980年代の後半。それから15年あまりで二,三十冊の長編,短編集というのは,決して寡作ではないし,逆に多作というほどでもない。主な作品は(『博士』や『ブラフマン』などの最新刊を除き)おおむね以下のように文庫化されているのだが……。

  『完璧な病室』(中公文庫)
  『余白の愛』(中公文庫)
  『寡黙な死骸みだらな弔い』(中公文庫)
  『シュガータイム』(中公文庫)

  『まぶた』(新潮文庫)
  『薬指の標本』(新潮文庫)

  『やさしい訴え』(文春文庫)
  『妊娠カレンダー』(文春文庫)

  『沈黙博物館』(ちくま文庫)

  『偶然の祝福』(角川文庫)
  『刺繍する少女』(角川文庫)
  『アンネ・フランクの記憶』(角川文庫)
  『妖精が舞い下りる夜』(角川文庫)
  『アンジェリーナ 佐野元春と10の短編』(角川文庫)

  『凍りついた香り』(幻冬舎文庫)
  『ホテル・アイリス』(幻冬舎文庫)

  『密やかな結晶』(講談社文庫)

  『余白の愛』(福武文庫)
  『冷めない紅茶』(福武文庫)
  『完璧な病室』(福武文庫)

 どうだろう。中堅作家の出版物としては,8社というのは版元が多くないだろうか。

 たとえば,あれほどあちらこちらから文庫が出ているように見える吉本ばななでさえ,文庫の版元は6社。福武文庫の5冊のうち4冊は角川文庫から再発行されているので,角川,新潮,幻冬舎の3社で文庫のほとんどがカバーできる。
 山本文緒は文庫が4社,そのうち過半数は集英社からの発行。
 江國香織は5社だが,やはり新潮文庫がおよそ半数を占めている。

 要するに,同時代の女流作家と比較しても,小川洋子の文庫の版元は,数が多いだけでなく,「ホームポジション」がないのである。これは何を表しているのだろうか。

 一つの憶測は,小川洋子が頼まれると断れない性格で,日ごろ付き合いのない出版社からの依頼でもついつい引き受けてしまう,というもの。

 もう一つの憶測は,あまりよいものではない。……要するに,この作者は,特定の出版社,というよりは編集者と,ある程度以上の期間にわたって平穏な付き合いを続けられないのではないか。そのため,自然と出版社を転々とするような形になるのではないか。

 断るまでもないが,これは邪推の領域であり,なんら根拠があるわけではない。

 ついでに,ここまでさまざまな出版社から作品を発行しておきながら,いかにもの集英社からまだ1冊も発行されていないのはなぜか。それを考え出すときりもなく,今夜も静かに晩秋の夜はふけていくのであった。

先頭 表紙

ちなみに,最近発売された中公文庫『完璧な病室』は,第1作品集『完璧な病室』(「完璧な病室」「揚羽蝶が壊れる時」収録)と第2作品集『冷めない紅茶』(「冷めない紅茶」「ダイヴィング・プール」収録)の合本。これで絶版になっていた福武文庫分はすべて入手可能となりました(苦労して福武版手に入れたのだが……)。 / 烏丸@まいっかー ( 2004-11-27 02:28 )

2004-11-15 蒔かれた種子としてのジュブナイル 『ヴァイスの空』 原作 あさりよしとお,まんが カサハラテツロー / 学習研究社 ノーラコミックス


【空なんて ないの。】

 後世畏るべし,子供たちの記憶力はバカにできない。
 ずっと以前のことだが,妹夫婦から小学校低学年の姪,甥を撮ったビデオが届いた。そのビデオの中で,彼らは「今日見てきた映画の歌を歌います」とその日映画館で一度聞いただけのモスラの歌を歌ってみせた。あの,(いにしえのモスラではザ・ピーナッツ演ずる小美人が歌った)何語とも知れぬ雅歌である。

 自分のことでいえば,やはり小学生の頃に,従姉の部屋で読んだ学年誌の連載マンガが忘れられない。
 子供の目にも『サイボーグ009』の真似とすぐわかるそのB級SFマンガでは,悪の組織がサイボーグ戦士を体育館のような大きなフロアいっぱいに集結させ,彼らが一語一語組織の命令に服従することを見せつける。立て。右を向け。座れ。囚われた主人公たちは,縛られたままそのさまを見つめる……(このあたり,記憶があいまい)。
 もう30年以上昔の,雑誌名も月号もわからない作品,それも連載の1回分を読んだだけなので,そのシーンに至る経緯も後の展開もわからない(覚えていないのではない。読んでないのだ)。
 ただ,妙に克明に覚えているのは,その中の一コマで,悪のボスの命令にそろってしゃがむ無表情な下っぱ戦士たちの中に,ただ一人,動きが遅れているのがいたことだ。その下っぱにとくに意味があるわけではなさそうで,荒っぽいマンガ家のペンがなぜかそう描いただけだとは思うのだが……現在に至るも,会社やサークルなど,さまざまな組織の中で(よきにつけあしきにつけ)はみだす者を見るとき,思うとき,前頭葉にあの白っぽいコマが警鐘のようによみがえる。少々大袈裟に言うなら,体育会系の組織などで全員が無条件に上長に従属することに嫌悪を感じる性癖の,一種のイコンとしてそのコマがあるのだ。

 さて,『ヴァイスの空』は学研の「4年の科学」2002年4月〜2003年3月号に連載されたSFジュブナイルファンタジー。
 ロボット警察「ポリツァイ」に管理された穏やかな社会に暮らすはみ出しっ子のヴァイスは,「空が見たい」と友人ネロと日々工夫を重ねる。ある日,黒いポリツァイに守られた少女ノワールと出会ったヴァイスは,思いがけない冒険に巻き込まれる。ヴァイスたちが暮らしてきた世界は。そしてヴァイスが見たがっていた空は。

 小学4年生向けなのだから,あさりよしとおらしいスプラッタな展開は期待(?)しないほうがよい。『空想科学エジソン』を3巻できれいに完結させた(2巻は少しダレたが,最終巻はけっこう泣ける)カサハラテツローも,本作ではあまり背伸びをせず,『未来少年コナン』や『ドラゴンボール』などの人気作品から雰囲気や手法を手軽に借りて,薄味に料理した印象である。
 しかし,すべり気味のギャグもたまに配して軽いタッチで描かれた作品ではあるが,その根底のストーリーはなかなかシリアスで,未来世界の選択肢を苦く問う面もないわけではない。とくに遺伝子操作で記憶を失いながら大人と子供の世代を繰り返す不老不死の「赤」の民,ルージュの設定はかなり重い。

 大人が読めば先の展開も読め,「よくあるパターン」で済んでしまうようなお話ではある。光瀬龍,萩尾望都の『百億の昼と千億の夜』から宗教,哲学的要素をざっくり削ってさらに薄めたようなストーリーといえなくもない。
 だが,小学4年という,心もほっぺたも柔らかい時期にこの作品に出会ったことはきっとその子の記憶に何かを残すだろう。「4年の科学」を毎号買ってもらえるとは限らず,連載を飛び飛びにしか読めなかった子もいるだろう,従兄姉の家でたまたま目にしたもっと小さい子供たちもいたかもしれない。だが,小学生の頃には意外とその作品の全編を通して読むかどうかは問題でない。
 彼らは連載の1回分,1回分から,まるで樹木が水分や養分を吸い上げるように,必要なものだけを読み取り,怖いものだけを心に刻むのである。それは勇気とか元気とか個性とか,綺麗な言葉で語られがちなものかもしれない。ただしそれは,子供たちが大人になって組織の中で生きていくために必ずしもプラスになるとは限らない。

 そういった勇気や個性といった属性を組織が求めるとは限らないし,何より,走って,走って,走って走って走りまくった先で,ヴァイスたちのようにもう一度「空」にめぐり合えるとは限らないのだから。

先頭 表紙

ルージュのお気に入りの場所からの景色、のような絵柄は非常に好きです。(‥ ) / Hikaru ( 2004-12-11 14:02 )
(そういや、「アスガード7」も4年の科学で読んだっけ...) / Hikaru ( 2004-12-11 14:00 )
読みました。(‥ )私的には、ハインラインの「さまよう年宇宙船」なんぞを連想したりしましたが、それはさておき。ポイントはやはり、これが4年の科学で連載されていたということでしょうか。 / Hikaru ( 2004-12-11 13:59 )
むむ,ベタボメに見えますか……。よく見ると,あっちこっちに「パクリだ」「薄味だ」みたいなことが書いてある,つもりなんですが。 / 烏丸 ( 2004-11-19 01:26 )
ううむ。ベタボメですねへ。ヤフオクで見かけたの、買っちゃおうかしらん。(‥ ) / Hikaru ( 2004-11-18 16:24 )
おおおっ 待ってましたっ(‥ ) / Hikaru ( 2004-11-18 16:21 )
モスラの歌が「何語とも知れぬ」というのは間違いですね。インファント語に決まっています。♪モスラヤ モスラ ドウンガン カサクヤン インドウムウ ルスト ウイラードア ハンバ ハンバムヤン ランダバン ウンラダン トウンジュカンラー カサクヤーンム / 烏丸 ( 2004-11-16 01:39 )

[次の10件を表示] (総目次)