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2003-09-03 時計の音(5) |
2003-09-03 時計の音(5) | |
「……起きてる?」 |
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2003-09-03 時計の音(4) | |
彼の部屋に客用の敷布団は無かったので、寝る時は、夏用の掛け布団を借りて敷布団の代わりにした。毛布を頭の上まで引き上げて身体を丸めてみたものの、とてもではないが時計の音を無視することはできなかった。古臭い照明器具の、豆電球だけをつけた部屋の中に、いくつもの時計の音が、あらゆる方向から響いてくる。もちろん、すべての音が揃っているわけではない。微妙にタイミングがずれているので、結果的に、それはカチ、カチ、カチ、カチという音ではなく、もっと連続した奇妙な音になり、相当な音量で部屋を満たしている。しかし、よく耳を澄ませてみると、やはりそれはひとつひとつの時計から独立して発せられた音が幾重にも重なり、縒り合わされているのだ。それぞれの音色も時計ごとに違い、チッ、チッ、チッ、チッと聞こえるものもあれば、ジッ、ジッ、ジッ、ジッ、と聞こえるものもある。 |
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2003-06-21 時計の音(3) | |
話しながら、俺はふと、この居心地の悪さは部屋を埋め尽くす時計のせいだけではない、と思った。確かにこの時計の多さは尋常ではないが、それ以上に、ごく自然な彼の態度と、彼の部屋とのギャップこそが遥かに不気味なのだ。以前の彼の部屋は、決して片付いてはいなかった。むしろ散らかっていて汚かった。ところが今のこの部屋は、整然と並んだ時計とテーブルの他には何もない。そういえば、彼の自慢のオーディオデッキや、集めていた大量の本、CD、ビデオの類はどうしたのだろう。それから、テレビ、チェスト、洋服だんすといったような家具も。 |
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2003-06-21 時計の音(2) | |
やかんの湯はすぐに沸いた。 |
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2003-06-21 時計の音(1) | |
彼が部屋におびただしい数の時計を飼っているという噂は、すでに耳にしていた。 |
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2003-05-17 ニビル☆ | |
ニビル星 とかいう 奇妙な名前の星が |
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2003-03-30 カップラーメンの蓋 | |
3分経って出来上がった カップラーメンの蓋は取る勿れ |
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lithiumさん、はじめまして。「太陽がくれた季節」は、やはり名曲ですね。 / M ( 2003-03-30 23:44 ) 今晩は。日記の題名から「太陽がくれた季節」で有名な「青い三角定規」を思い出したので来ました。 / lithium ( 2003-03-30 23:39 ) |
2002-12-18 喫茶店 | |
仕事が終わって、駅前の喫茶店に寄った。席についてメイプルシロップつきのワッフルとコーヒーを注文する。窓の外にはクリスマスの電飾、そして行き交う人々。バッグから取り出した文庫本はなんとなく退屈で、すぐに栞をはさんで閉じてしまった。しばらくして運ばれてきたワッフルは焼きあがってから時間が経っているのか、すこし冷めていた。そういえば、数年前、ベルギーに旅行をしたとき、ワッフルを食べたっけ。これから先、もし長生きができて、90歳、100歳というようなおばあさんになっても、どこかでワッフルを食べるたびに、わたしは一生、あのときのワッフルの味を思い出してしまうのだろうな。そう思うと自分が滑稽でもあり、同時になにか切なくもあった。 |
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2002-11-30 傷(1) | |
家へ向かう道を歩いていると、道路脇の側溝の中に彼がうつ伏せに寝そべっていた。顔見知りだけれど、一度も話したことのない彼が。 海辺には白い砂浜があり、そこには、誰かの手によって桃の花弁が一面にしきつめられていた。その天鵞絨のような感触を足の裏で楽しみながら、私は波打ち際へ歩いてゆく。冷たい海に素足を浸して水平線を見つめていると、波が引く度に、身体がすうっと後ろへ流される錯覚に襲われた。そうして何度も波に意識を攫われていると、だんだんと自分がどこか遠いところへ連れてゆかれるような、首のうしろがじんと痺れるような感じがした。時折、桃の花弁が風に舞い、波に呑まれて遠い沖へと流されて行った。私はずっと立ちすくんで、いつまでもいつまでも軽い眩暈の中で遊んでいた。水の冷たさに痛む足の感覚だけが辛うじて私を地面に繋ぎとめていた。 ふと気付くと、斜め後ろに彼が立っていた。 「いたの、……気が付かなかったよ」 潮騒の中、彼はじっと私の瞳を見つめていた。風が、絶え間なく髪を揺らしていた。私は自分の口唇が赤く染まっているのを感じた。 |
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